眼球内部の網膜にある黄斑に、進行性の変性がみられる遺伝性の疾患群
先天性黄斑(おうはん)変性症とは、眼球内部の網膜にある黄斑に進行性の変性がみられる目の疾患の総称。黄斑ジストロフィーとも呼ばれ、ジストロフィーとは遺伝子の異常により組織や臓器が徐々に変性することを指します。
先天性黄斑変性症と一口にいっても疾患の種類は多数あり、先天網膜分離症(若年網膜分離症)、錐体(すいたい)ジストロフィー、卵黄状黄斑変性(卵黄状黄斑ジストロフィー)、スタルガルト病(黄色斑眼底)、網膜色素変性症、オカルト黄斑ジストロフィー、家族性ドルーゼン(網膜ジストロフィー)、家族性滲出(しんしゅつ)性硝子体(しょうしたい)網膜症などがあり、症状もそれぞれ異なります。先天性黄斑変性症のいくつかでは、どの遺伝子に異常があるのかがわかっています。
眼球内部にある黄斑は、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。
この黄斑に変性がみられると、視力に低下を来します。また、黄斑の中心部には中心窩(か)という部分があり、ここに変性がみられると、視力の低下がさらに深刻になります。
先天性黄斑変性症には、網膜よりさらに外側に位置している脈絡膜から、異常な血管である新生血管(脈絡膜新生血管)が生えてくることが原因で起こる滲出型と、新生血管は関与せずに黄斑そのものが変性してくる非滲出型(委縮型)の二つのタイプがあります。二つのタイプとも、両目の黄斑に変性がみられます。
新生血管とは、網膜に栄養を送っている脈絡膜から、ブルッフ膜を通り、網膜色素上皮細胞の下や上に伸びる新しい血管です。正常な血管ではないため、血液の成分が漏れやすく、破れて出血を起こしてしまいます。
滲出型の初期では、物がゆがんで見える変視症や、左右の目で物の大きさが違って見えるなどの症状を自覚するケースが多くみられます。新生血管が破れて黄斑に出血を起こすと、見たい物がはっきり見えない急激な視力低下や、見ようとする物の中心部分が丸く黒い影になって見えなくなる中心暗点という症状が出現します。病巣が黄斑に限られていれば、見えない部分は中心部だけですが、大きな出血が起これば、さらに見えにくい範囲が広がります。病状が進行すると、視力が失われる可能性があります。
非滲出型(委縮型)の場合は、黄斑の変性が強く現れた状態で、網膜色素上皮細胞が委縮したり、脈絡膜の血管に委縮性の変化が生じて、徐々に視力が低下します。疾患の種類によって違いますが、視力低下のほか、見ようとする物の中心部分がぼやけたり、中心部分が丸く黒い影になって見えなくなる中心暗点、物がゆがんで見える変視症、明るい光をまぶしく感じる羞明(しゅうめい)、色覚異常などの症状が現れます。症状が進んでくると、視力が0・1~0・2まで下がるなど顕著な視力低下が起こります。最終的には、中心部が全く見えなくなってしまいます。
先天性黄斑変性症は疾患の種類によって、ある程度年齢が高くなってから症状が現れることも、幼少時にすでに発症していて気付いた時にはかなり進行していることもあります。
先天性黄斑変性症の検査と診断と治療
眼科の医師による診断では、両眼対称性であること、進行性であること、家族にかかった人がいること、薬物や感染症など外因がないことなどが重要な手掛かりになります。フルオレセイン蛍光眼底検査、網膜電図などの電気生理学的検査も、診断を確実にするには必須です。異常を起こす遺伝子が突き止められている先天性黄斑変性症のいくつかでは、遺伝子の検索も決め手になります。
残念ながら、先天性黄斑変性症の多くでは有効な治療法は見いだされていませんので、視力の大幅な低下を避けることはできません。
新生血管が生えてくることが原因で起こる滲出型の場合、治療の方法は新生血管の位置によって変わってきます。新生血管が中心窩から離れているケースでは、新生血管をレーザーで焼く光凝固が治療の方法となります。新生血管が中心窩に近いケースでは、治療が困難な例が多くなります。新生血管のレーザー光凝固を行うと中心窩も損傷を受けて、さらに視力が低下する危険性が高いからです。そこで、新生血管の栄養血管の光凝固、抗血管新生薬などの治療法が行われます。
先天性黄斑変性症の多くでは、症状に応じて遮光眼鏡、弱視眼鏡、拡大読書器、望遠鏡などの補助具を使用することが有用で、周辺視野と残った中心視を活用できます。その他のリハビリテーションも重要です。
いつの日か、先端的医療の進歩が根本的な治療法を可能にすることも期待されていますが、弱視学級や盲学校での勉学、職業訓練など、将来を見通して現実的に対応することが有益でしょう。
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