●「だるい」「疲れる」と訴える子供
成人の六割が疲労を感じ、三割は半年以上続けて疲労を感じているといった調査結果もある今日の日本では、体や精神に感じる慢性的な疲労は、子供を含む誰もが経験することとなっています。
「小児型慢性疲労症候群」とは、睡眠障害を伴う病気であり、「学校に行くことができない」という不登校の子供の多くがかかっているものです。主な症状は、集中力の障害、睡眠異常、疲労感、頭痛・頭重(とうじゅう)感などです。
一九九九年の厚生労働省の調査によると、全国の主な小児科を受診した五歳以上の子供の5・6パーセントが、心身症に伴う頭痛、腹痛、吐き気、めまいなどの不定愁訴を訴えていて、そのほとんどが睡眠障害を同時に起こしている、と報告されています。そして、健康に見える子供でも、30~40パーセントに睡眠障害がある、とされています。
従来、不登校に対する社会の認識は「怠け」だととらえることが多く、不登校の子供は周囲から理解されず、苦しい思いを抱いてきました。「なぜ自分が学校に行けないのか」、その理由を答えられる不登校児はいない、といってよいのです。「何となく行けない」からであり、誰も「自分が小児型慢性疲労症候群である」ということを知らないのです。
彼や彼女は怠けているのではなく、十分な睡眠時間をとり、十分な休養をとらなければならないのです。
今、「だるい」「疲れる」と訴える子供は、よく見られること。2004年に、東京都の公立小中学生2万2000人を対象に実施された調査では、「学校が楽しいか?」との質問に、「楽しくない」と答えたのは、小学生の10パーセント、中学生の11パーセントでした。その理由として挙げられたのは、「体が疲れる」が49パーセント、「友達付き合いが疲れる」が27パーセントでした。
そうした「だるい」「疲れる」と訴える疲労の極致にあるのが、子供が「学校に登校することができない」、成人が「会社に出勤することができない」といった状態です。
●浅い睡眠と脳の疲労
現代人は、昔より活動の時間が長く、活動自体の負荷も大きくなっています。長時間の活動を支えるためには、睡眠という休養をしっかりとらなければいけません。
ところが、先進国では、成人のみならず子供の睡眠時間も、急速に減少してきています。日本では、乳幼児の時期からかなり睡眠時間が削られており、三歳までの子供で、入眠時間が夜十時を過ぎている子が50パーセントを超え、十二時を過ぎる子も20パーセント近くいます。
睡眠という休養が削られているため、子供を含めた現代人は、休養と活動のバランスが悪くなり、脳の働きも落ちています。これが疲労の原因です。
一方、健康な人は、睡眠という休養によってエネルギーが補充されているため、疲労はすぐに回復します。
もともと、サーカディアン・リズムと呼ばれる、人間の体内の生活時間は二十五時間に近いため、入眠時間が後にずれる傾向があります。それを助長する原因の一つに、深夜まで放送しているテレビ、ラジオ、パソコンや携帯電話で接するインターネットなどのメディアの影響があります。また、ゲーム、受験勉強や部活動、人間関係のストレスも影響しています。
日常生活の中で、特に疲れるのは、人とのコミュニケーションです。相手の表情、言葉などいろいろなことを瞬時に読み取り、それに対して自分の考えをまとめていわなければなりません。これは、脳の全体を使うため、非常に疲れます。慢性疲労の状態になれば、脳の前頭葉の血流が下がり、前頭葉の機能が低下しますから、「意欲」や「生命力」も落ちるのです。
さらに、慢性疲労状態の人で大きな問題となるのは、睡眠中も脳が活動したり、心臓の心拍数が落ちなかったりと、寝ている間にエネルギーの消費が起き、脳の温度が上がったまま浅い睡眠状態が続く、という睡眠異常を起こしていることです。人間の脳の温度は、起きている時には高く、寝ている時には低いのが通常です。
脳の温度が上がった浅い睡眠では、エネルギーの蓄積が非常に遅いため、長時間の睡眠を必要とします。しかも、疲労がなかなか改善しません。この悪循環の中で、不登校は長期化してしまうのです。
不登校のきっかけが、いじめだったと仮定します。いじめられた子供の脳は、不安と緊張のため、すごい勢いで活性化しています。その状態で眠りに入っていくわけですから、寝付きを悪くし、入眠時間が遅くなり、眠りが浅くなります。
不安や緊張がなくても、子供が夜遅くまで起きている時代ですから、朝七時に起きても、体や精神の活動の準備は整っていません。そのため食欲もわかず、朝食を食べない子供が多いのです。睡眠の質が悪いと、生命力の低下、学習意欲の低下を招くのです。
●小児型慢性疲労の予防と治療
例えば、夜中の二時に寝て、頑張って朝七時に起きていた子供が、慢性疲労の状態になってくると、突然、昼十二時まで寝るようになってしまうケースがあります。こうなってしまうと、なかなか抜け出せません。
エネルギーの余力がない子供が、ウイルス性疾患にかかって発熱し、それを機に、昼まで起きられなくなってしまうケースも、しばしば見られます。ウイルス性疾患がそのまま続いているという見解もありますが、疲労の蓄積という下地に問題があるのです。
小児型慢性疲労には、早寝が有効な対策となります。朝起きが難しくて時々、遅刻するという子供であれば、一時間早く寝てもらう。質のよい睡眠を二週間続ければ、軽症の慢性疲労は解決します。
重症の慢性疲労症候群に対しては、医師による治療が求められます。医師側では、不登校に陥った子供の体の異常として、自律神経のうち睡眠中、交感神経より優位になる副交感神経が休養を十分にとっても優位にならない、睡眠と活動を促すホルモンの分泌のピークがそれぞれの実態とずれる、脳の温度を反映する深部体温が夜間に下がらない、などと見なしています。
人工的に明るい光を当てる「高照度光治療」や、ホルモン剤「メラトニン」の投与で、ずれた生体リズムを元に戻したり、睡眠中にもエネルギーを多く使うため、ビタミンB1などサプリメントを投与したりして、治療は行われます。
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