骨が弱い成長期に発生しやすいスポーツ障害で、骨盤の骨端線の部分が裂離骨折する障害
骨盤裂離骨折とは、骨盤の骨端線という、骨の端にある軟骨が骨に変わってゆく境目の部分が裂離骨折する障害。骨が弱い成長期に発生しやすいスポーツ障害です。
骨盤の中でも、腰ベルトのかかる出っ張り部分にある腸骨の上前腸骨棘(こっきょく)には大腿(だいたい)筋膜張筋と縫工筋が付着し、股(こ)関節の前方部分にある下前腸骨棘には大腿四頭筋の1つである大腿直筋が付着し、臀部(でんぶ)の下にある坐骨(ざこつ)結節にはハムストリングスが付着し、骨盤の最も上の部分にある腸骨稜(りょう)には腹筋が付着しています。
これらの付着している筋肉が、スポーツで生ずる疾走動作やキック動作などで収縮することによって、骨盤付着部を急激に牽引(けんいん)するために、成長期の骨盤に残っていて、力学的に弱い骨端線の部分が裂離骨折します。
骨盤裂離骨折は、上前腸骨棘、下前腸骨棘に発生することが多く、まれに坐骨結節、腸骨稜(りょう)に発生しています。
上前腸骨棘の裂離骨折は、スポーツの種目では陸上、サッカー、野球の順で多く、疾走する動作で縫工筋が急激に収縮するために発生することが多いのが特徴的です。発生すると、多くは股関節に突然の激痛が出現し、走行不能、歩行困難になり、股関節周囲の圧痛が認められます。
下前腸骨棘の裂離骨折は、スポーツの種目では圧倒的にサッカーが多く、次いで陸上、野球の順です。股関節伸展位から急激な屈曲動作が加わるキック動作により、大腿直筋が急激に収縮するために発生することが多いのが特徴的です。
坐骨結節の裂離骨折は、疾走による発生が最も多く、ジャンプ、スケートなどでハムストリングスが急激に収縮するために発生することもあります。発生すると殿部に痛みを生じますが、痛みの軽度が軽く、肉離れと自己診断し診断が遅れることがあります。
腸骨稜の裂離骨折は、非常にまれで、バスケットボールや野球のスイング、柔道や相撲の投げ技などで無理に体をひねった時に生じます。
骨盤裂離骨折は、中学生、高校生である12~18歳に好発し、14~16歳がピーク。女子より強い筋力を持つ男子に圧倒的に多く、ほとんどは右側の骨盤部分に発生しています。
骨盤裂離骨折の検査と診断と治療
整形外科、形成外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行うと、受傷時はわかりにくいものの、腸骨部などに剥離(はくり)した骨折片を認めます。必要に応じてCT(コンピュータ断層撮影)検査を行うと、こちらでも骨折片を確認できます。
整形外科、形成外科の医師による治療では、上前腸骨棘と下前腸骨棘の裂離骨折の場合、基本的に、骨盤付着部が筋肉に引っ張られないように、股関節を軽度に曲げた肢位での安静による保存的治療を行います。1週間のアイシングを徹底し、1~2週間の安静後に松葉杖(づえ)歩行を行い、歩行時痛がなくなってから可動域訓練と筋力訓練を行います。少しずつ負荷を増やし、8~12週でのスポーツ活動への復帰を目指します。
成長期の障害であるため、骨の癒合は良好で、多少の骨変形が残存しても、骨の癒合が完了して十分な時間が経過すれば、スポーツ活動に支障は少なく、比較的予後は良好です。
骨折片が大きい時、骨折部のずれの大きい時、早期のスポーツ活動への復帰を望む時は、骨折片をスクリューなどで整復固定する手術を行うこともあります。
坐骨結節の裂離骨折の場合、骨折部のずれが少なければ、安静による保存的治療を行います。4週間程度の松葉杖(づえ)歩行を行い、X線検査で骨の癒合を確認しながら、12~16週でのスポーツ活動への復帰を目指します。
骨折部のずれが大きく、保存的治療で骨の癒合が図れない時は、そのほかの裂離骨折に比べて治癒まで長期間を要するため、手術を行うこともあります。
腸骨稜の裂離骨折の場合、ほとんどは安静による保存的治療を行います。安静後2~3週間の比較的短期間で歩行可能となり、6~8週間でのスポーツ活動への復帰を目指します。
再発予防のためには、骨盤周囲の筋肉や股関節のストレッチを十分に行うことが重要です。
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