明らかな理由もなく肺に穴が開き、肺がつぶれてしまう疾患
原発性自然気胸とは、肺の病気を経験したことのない人の肺に突然、穴が開き、空気が胸腔(きょうくう)内に漏れて、肺の一部または全体がつぶれる疾患。
女性の7倍と男性に多く、中でも、やせ形で胸の薄い長身男性に多くみられ、発生のピークは20歳代。
交通事故やナイフで刺されたというような明らかな理由もなく、普通は、肺の表面のややもろくなった部分で、ブラやブレブと呼ばれる肺胞内嚢胞(のうほう)が破裂するために起こります。破裂した部位から肺内の空気が胸腔に漏れと、胸腔内の圧力が肺の内部よりも高くなり、肺が空気に押されてつぶれて小さくなるために、気胸を発症します。
そのブラやブレブが破裂するのには、細気管支炎が関係しているといわれています。細気管支炎になると細気管支が狭くなるため、細気管支の先にあって小さな袋の集まりである肺胞内の空気の排出が少なくなり、肺胞内圧が上昇し、ブラやブレブを破裂させます。また、ダイビング中や高い高度を飛行中に起こることがあり、肺の内部の圧力が変化するのが原因となります。
症状としては、肺が縮む時に、胸痛が起こります。ただし、その胸痛は短いと1、2分程度、長くても30分程度の一過性であり、狭心症の発作と間違える人もいます。状態が軽いと自然に治ってしまい、発症に気付かないこともありますが、再発しやすいので適切な治療を行うのが基本です。
問題なのは、穴がふさがらず、肺内の空気が漏れ続ける時。胸腔に漏れる空気の量が多くなると、緊張性気胸となります。緊張性気胸では、突然発症し、進行性の胸痛と呼吸困難が生じ、血圧が低下します。疾患のある側の肺は空気で置き換えられて完全につぶれており、気胸の起こっていない肺も次第につぶされていきます。大量の空気が心臓を圧迫して、心停止させてしまうこともあり、非常に危険です。
一方、ゆっくり進行する気胸では、急激に進行する気胸よりも症状が軽い傾向にあります。まれに、症状がないのに胸部X線検査で発見されることがあります。
緊張性気胸や非常に広範囲の気胸を除き、症状は体が肺のつぶれた状態に順応するにつれて大抵治まり、胸腔から空気が再吸収されるのに伴って、肺はゆっくりと再び膨らみます。
原発性自然気胸の検査と診断と治療
内科、ないし外科の医師による診断では、胸部X線写真で肺の紋様がない領域が胸腔内に確認されれば、気胸と診断されます。健康な長身、やせ形の青年男子で急に胸痛や息切れを訴える時は、原発性自然気胸を疑います。ほとんどの症例では、胸部レントゲン写真で診断がつきます。判断に迷う時は、息を吐いた時と吸った時の写真を比較します。
軽度の気胸の場合は、特別な治療をしなくても安静にしていれば、破裂した部位が閉鎖し自然に治癒します。軽い原発性自然気胸では、重い呼吸障害は起こらず、たまった空気は数日間で吸収されます。外来で時々、胸部X線検査を行って経過観察をします。
より広範囲の気胸では、空気が完全に吸収されるのに2〜4週間かかりますが、入院して胸腔ドレナージを行えば、より早く空気を除去できます。胸腔ドレナージでは、胸壁を切開して挿入したチューブで、たまっている空気や新たに漏れた空気を外に排出します。チューブからの空気漏れがなくなったら、チューブを抜去し、肺の膨らみが良好なら退院です。
自然治癒を見込めないほど気胸の範囲が大きい場合、胸腔ドレナージを行って空気の漏れが止まらない場合、気胸が再発した場合、左右両側の肺が気胸の場合などでは、全身麻酔による胸腔鏡下手術で、ブラやブレブと呼ばれる肺胞内嚢胞の切除を行います。従来の開胸手術においては、初回の気胸について手術をすることはありませんでしたが、胸腔鏡下手術は入院期間も1週間程度ですむため、初回から手術して今後起こり得る病変まで切除してしまうこともあります。
しかし、胸腔鏡下手術には、切除した周囲の組織が気胸を起こしやすくなるというデメリットがあります。そのため、セルロース製のメッシュシートを被せるカバーリング法が、新たに注目を浴びています。セルロース製のメッシュシートは、肺組織に吸収されて厚みを増すため、気胸の再発防止に効果を発揮します。
再発率は内科的に治療した場合、初回の気胸が起こってまた再発するのが約50パーセント、2回起こるとまた再発するのが80パーセント以上と考えられています。内科的治療と比べると外科治療の成績は格段によく、再発率は数パーセント以下です。
緊張性気胸の場合は、迅速な治療が求められます。緊張性気胸では、血圧が低下しショックを起こすので、直ちに治療をしないと数分間で死に至ります。大きな注射器をつけた針を胸部内に挿入し、すぐに空気を抜き取ります。その後、継続的に空気を抜くために別のチューブを挿入します。
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