2022/08/21

🇲🇻早期再分極症候群

致死性不整脈へと直接つながる可能性がある不整脈疾患

早期再分極症候群とは、心臓の器質的な病変がない場合でも、心室細動や心室頻拍などの致死性不整脈へと直接つながる可能性がある不整脈疾患。J波症候群、ERS(Early Repolarization Syndrome)とも呼ばれます。

再分極は、心電図の波形において心臓の電気的刺激が収束していく過程のことを指す言葉であり、早期再分極症候群は、心臓の拍動を生み出す電気的刺激の伝達において、通常の場合よりも心筋の電気的刺激が早く収束する不整脈の形態を意味することになります。

これに対して、早期再分極症候群の別名として使われることも多いJ波症候群のJ波は、心室の収縮を表すQRS波と、心室の弛緩(しかん)すなわち再分極を表すT波の間に出現することがある心電図の小さな波のことを指す言葉であり、心電図のQRS波の終わりにJ波が割り込むように出現することによって、心筋の電気的刺激を収束させる本来の波であるT波がくる前に早期に心筋の弛緩が始まることになります。

従って、心電図においJ波が出現すると、心臓の電気的刺激の収束である再分極が通常よりも早期に始まることになるので、心電図にJ波が現れるJ波症候群は、早期再分極症候群へとつながる一連の不整脈の形態としてもとらえられることになります。

早期再分極症候群ないしJ波症候群においては、心筋の電気的刺激の伝達において、本来よりも早く心臓の電気的刺激が収束する再分極が始まることによって、心臓の電気的状態が不安定となり、特発性の心室頻拍や心室細動といったより重篤で命にかかわる不整脈の状態へと移行する可能性がある程度高まる可能性があると考えられます。

しかし、こうした潜在的な危険性の一方で、早期再分極や心電図におけるJ波の出現は、自覚症状がないものや、心電図におけるJ波の所見が極めて軽微であるものも含めると、全人口の5~10%程度の人に見られるほど非常に多く認められる心電図の特徴でもあります。

つまり、早期再分極症候群という不整脈の形態自体は、発症率の極めて高い、極めて一般的な不整脈の形態であり、早期再分極症候群を有する人の多くが、実際には、失神などの危険な兆候はおろか、何の自覚症状も感じずに、心室細動のような致死的な不整脈とは無縁のまま健康な生活を送っているということにもなります。

早期再分極症候群と診断された場合、その不整脈の形態が実際にどの程度命にかかわる危険性が高いかは、心電図に見られるJ波の波形の大きさや、頻脈発作の有無、失神やめまい、立ちくらみといった危険な兆候の有無などから総合的に判断されていくことになります。

特に、ブルガダ症候群やQT延長症候群といったほかの致死性不整脈と合併して、この早期再分極症候群が現れている場合は、心室細動や心室頻拍を引き起こす危険性が高まる要因として重視されることになります。

早期再分極症候群を発症する70〜80%は男性であり、発症年齢は40歳前後。突然死の家族歴を10〜20%に認め、これは早期再分極症候群の発症に遺伝的背景が関与していることを示唆しており、実際に現在までに5種類のイオンチャネル遺伝子が原因遺伝子として報告されています。

心室細動や心室頻拍を引き起こす状況は一様でなく、夜間や睡眠中に発作を来す場合が多いものの、労作時や運動時に発作を来す場合も少なからず存在します。

主に左室下壁誘導ないしは左室側壁誘導の早期再分極が心室細動に関連しますが、右側胸部誘導に早期再分極を認めることもあります。J波の高さはさまざまな状況において変動し、時に消失するものの、徐脈が生じたり,長いポーズ(心停止)が生じた時に増強し、心室細動の発作の直前に通常は最もJ波は高くなります。

早期再分極症候群の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、失神の既往歴、突然死の家族歴があり、心臓に流れる電流を異なる12方向から記録する12誘導心電図による検査で、左室下壁誘導(心電図検査のⅡ、Ⅲ、aVFと呼ばれる項目)と左室側壁誘導(心電図検査のⅠ、aVL、V4-V6と呼ばれる項目)の中の2誘導以上で1ミリ以上のJ波を認めた場合、早期再分極症候群の可能性を疑います。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による治療では、心室細動が出現した場合は、植え込み型除細動器(ICD)の埋め込み手術を行います。植え込み型除細動器は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置。

心室細動が頻回にわたって出現する場合には、発作予防の抗不整脈薬の投与が必要となり、β(ベータ)刺激薬であるイソプロテレノールや心拍を早くするためのベーシングが有効です。再発予防には、キニジンが有効です。

抗不整脈薬の効果がない場合は、心室細動の引き金になる心室性期外収縮を発生させている左室下壁あるいは左室側壁の異常興奮部位を探し出し、足の付け根などからカテーテルと呼ばれる電極を心臓内に挿入し、高周波電流で焼灼(しょうしゃく)するカテーテルアブレーション(カテーテル焼灼法)という手術を行うことがあります。

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