脳の神経細胞の一時的な機能異常で、発作が起こる疾患
てんかんとは、脳の神経細胞の伝達システムに一時的な機能異常が発生して、反復性の発作が起こる疾患。発作時には意識障害がみられるのが普通ですが、動作の異常、けいれんなどだけの場合もあります。こうした異常な症状が長期間に渡って何度も繰り返し現れるのが、この疾患の特徴です。
そのため、1回だけの発作だけでは、普通はてんかんと診断することは困難。場合によっては、脳波にどのような波が出ているかによって、1回の発作でてんかんの診断をつけることもあります。
脳の神経細胞(ニューロン)は、規則正しいリズムでお互いに調和を保ちながら電気的に活動しています。この穏やかなリズムを持った活動が突然崩れて、激しい電気的な乱れ(ニューロンの過剰発射)が生じることによって、てんかん発作が起きます。てんかん発作はよく、脳の電気的嵐(あらし)に例えられます。
日本全国の発症者は、推定100万人。乳幼児期から高齢期まで幅広く発症しますが、脳が発達途上にある3歳以下が最も多く、80パーセントは18歳以前に発症するといわれています。しかし、近年は人口の高齢化に伴い、高齢者の脳血管障害などによる発症が増えてきています。現在の医療では、適切な治療により70~80パーセントの人で発作のコントロールが可能であり、多くの人たちが普通に社会生活を営んでいます。20パーセントの人は、薬を飲んでも発作をコントロールできない状態で、難治性てんかんと呼ばれるものもあります。
てんかんの発作には、いくつかのタイプがあります。典型的な症状は、上下肢を突っ張って硬直させ、直後にガクガクと全身のけいれんを起こし、何分間か続いた後、完全に意識がなくなります。その後、短時間で意識が自然に戻ります。これを大発作といいます。大発作のようなはっきりしたけいれんはなく、数秒から数十秒ほどのごく短時間、ふっと意識が途切れる程度の発作が1日に何回も起こることがあり、これを小発作といいます。
大発作のような大きな手足のけいれんは起こらず、体の一部の筋肉がピクンと収縮を繰り返すのは、ミオクロニーてんかん(ミオクロニー発作)と呼ばれます。幻覚などが起きたり、もうろう状態になって口をモグモグさせたり、目的なく歩き回ったりして、それが数分で消失する型もあります。これは精神運動発作と呼ばれます。
てんかん発作を起こしやすい遺伝的な素因が関係している場合と、脳に障害や傷があるために起こる場合とがあります。一部のてんかんには発病に遺伝子が関係していたり、発作の起こりやすさを受け継ぐことが明らかになっていますが、そうしたてんかんの多くは良性であり、治癒しやすいようです。
原因がはっきりしている場合は、症候性てんかん、原因不明の場合には特発性てんかんと呼びます。症候性てんかんの原因には、出産時の仮死状態や低酸素による脳の障害や傷のほか、先天性の代謝異常や内分泌異常による脳の障害、脳炎、髄膜(ずいまく)炎、脳出血、脳梗塞(こうそく)といった疾患や、交通事故といった脳外傷による障害や傷があります。
また、発作は大きく分けると、全般発作と部分発作に分けられます。全般発作は発作の初めから脳全体に起因しているもの、部分発作は脳のある限られた場所から発作が始まるものです。全般発作では、初めから脳全体が電気の嵐に巻き込まれるので、最初から意識がなくなるという特徴があります。部分発作には、意識は保たれている単純部分発作、意識が消失する複雑部分発作、部分発作から始まって全身のけいれんが起こる二次性全般化発作があります。
てんかんの検査と診断と治療
てんかんの診断は、発作の様子を詳しく説明してもらうことから始まります。しかし、多くの発症者は発作が始まると意識が障害されることが多く、自分で発作の状態や状況を話すことができません。発作の状態、状況を知る家族や学校の先生、職場の人などの介助者、目撃者は、診察に同行し、医師に発作の状況を正確に伝えます。
てんかんの診断のために最も重要な検査は、脳波検査です。てんかんは脳の神経細胞の電気的発射によって起きますので、この過剰な発射を脳波検査で記録することができます。診断のみでなく、てんかんの発作型の判定にも役立ちます。何回検査しても安全ですし、痛みもありません。
脳波検査のほかにも、CT検査やMRI検査などは、脳腫瘍(しゅよう)や脳外傷などを画像で確認できるため有効です。PET/SPECT(脳機能画像)、MGE(脳磁図)なども、てんかんの検査に使われます。
血液検査、尿検査も、てんかんの診断に欠かせない検査。てんかんの発作はさまざまな原因で起こりますので、原因検索のために血液や尿の検査をします。また、慢性の疾患であるてんかんの薬物治療は、長期間に渡り薬を飲み続ける必要があるので、服用する前に体の状態を調べる必要があります。
てんかんであることがはっきりすれば、発作が繰り返されると脳の障害も進んでくるので、抗てんかん剤を服用して発作をコントロールします。抗てんかん剤は、脳の神経細胞の電気的な興奮を抑えたり、興奮が他の神経細胞に伝っていかないようにすることで、発作の症状を抑える薬のことをいいます。小児のてんかんの7~8割は、抗てんかん剤で正しく治療すれば発作を止めることができます。
抗てんかん剤は、てんかん発作型、年齢、性別などを考慮して選択します。選択の目安となる基準はありますが、どの薬をまず選択するかなどの細かな治療法は、医師の臨床経験、考え方によって、多少の違いがあります。選択された薬が適薬かどうかは、発作に対する効果と副作用の有無によって決まります。1種類の薬で発作を抑制する単薬療法が好ましい形ですが、1種類のみでは発作が抑制されない時には、2種類以上の薬を用いる多薬療法が行われます。
服薬した薬の量と吸収されて脳に届く薬の量は個人差があり、同じ割合ではありません。脳内の薬の濃度は直接測ることができないので、血液中の薬の濃度から間接的に脳内の濃度を推定します。血中濃度の測定は、適量の決定、副作用の予測や副作用が出た場合の対応、薬物の相互作用を知る上で大変有効です。
てんかんの治療では、長期間に渡る服薬が必要ですので、薬の副作用は特に重要な問題です。薬には発作の抑制に有効性がある反面、好ましくない効果があることも否めません。皮膚に発疹(はっしん)などのアレルギー反応が出る際には、速やかに服薬を中止する必要があります。 眠気、ふらつきなどが出る際には、薬の量を減らすことで和らげますし、1週間くらいで慣れる場合もあります。長く服薬し続けることで、肝臓機能低下、血液中の白血球減少、歯肉増殖、多毛、脱毛など体に気になる影響が出る際には、早めに医師に相談します。
薬物治療のほかにも、外科治療、食事療法などがあり、十分な服薬治療を行っても発作が抑制されない時に行います。例えば、難治性てんかんに対して、外科手術による治療を検討します。ただし、すべてのてんかんに外科治療が可能であるわけではなく、発作の始まる部分がはっきりしている部分発作で、その部分を切除しても障害が残らない場合に可能です。
てんかんの発作の原因や重症度、脳の障害の程度にもよりますが、適切な薬物療法によって、発作の消失、発作の回数を減少させることができます。また、発作が消失している期間が小児で2~3年、成人で5年以上続き、医師が服薬中止が可能だと判断すれば、3カ月~6カ月かけてゆっくりと薬の量を減らしてゆきます。
服薬を中止した後も発作の再発がなければ、てんかんが治癒したといえます。しかし、薬の中止後も発作が再発する場合もありますので、半年から1年の1回程度、脳波検査を含む診断を定期的に受けます。
一般的にはてんかんがあっても、生活リズムを整えることが大切で、発作の誘引である睡眠不足、疲労、暴飲暴食、薬の飲み忘れには注意が必要です。勝手に薬をやめると発作を起こし、外傷などの危険もあるので、本人も家族も十分に注意する必要があります。
発作が起きた場合、吐いた物を誤嚥(ごえん)しないようにするため顔を横に向け、どんな発作か、発作時間を観察します。大抵の場合は、自然に止まりますが、5分以上続く場合は受診したほうがよいでしょう。
なお、発作が頻発している場合や、抗てんかん薬を多種類、多量に服用している時期に妊娠すると、胎児に影響を与えます。いつなら妊娠してよいか、どんな職業に就くかなど、いずれも家族で十分話し合ったり、医師に相談して決めなくてはなりません。
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