中毒が原因となって、体中に分布する末梢神経に障害が起こった状態
中毒性ニューロパチーとは、重金属、薬剤、有機溶媒、アルコールなどによる中毒が原因となって、体中に分布する末梢(まっしょう)神経に障害が起こった状態。
末梢神経には、筋肉を動かす運動神経のほか、感覚神経(知覚神経)、自律神経の3種類があります。感覚神経は、熱さ、冷たさ、痛さといった温痛覚や触覚を伝え、また、手足の位置、運動変化、振動などを認識する深部感覚も伝えます。自律神経は、体のさまざまな組織や器官の働きを調節します。
その末梢神経に中毒性ニューロパチーによって障害が起こる症状は、原因となる物質によって異なり、また多彩で、複雑です。
腕や足のしびれ、痛み、脱力感、貧血、嘔吐(おうと)、垂れ手、けいれん、胃腸障害、視力障害、難聴、言語障害、歩行障害、意識障害、頻脈、高血圧、下痢、発汗、縮瞳(しゅくどう)、運動まひ、呼吸筋まひ、頭痛、めまい、認知症、昏睡(こんすい)、心不全などがあり、命にかかわるものがあります。
重金属では、鉛、有機水銀、砒素(ひそ)、タリウムなどが原因となります。鉛中毒は、日本では職業に関連して発症することが多く、腕を持ち上げても手首から先が垂れ下がる垂れ手が現れます。また、ニューロパチーのほかに、貧血やけいれんを起こすことがあります。
有機水銀中毒は水俣(みなまた)病に代表されるように、視野が狭くなり、難聴、言語障害、歩行障害のほか、ニューロパチーとして、障害部が一見して手袋をはめたり、靴下を履いたように分布する手袋靴下型の感覚障害が現れます。
砒素は殺虫剤に含まれ、慢性中毒になると感覚優位の多発性神経炎が現れます。タリウムも殺鼠(さっそ)剤に含まれ、中毒になると脱毛が起こり、特に感覚神経と自律神経が障害されます。
職業柄、重金属や化学物質などとの接触が日常的に多い人は、危険性が高くなります。
薬剤では、イソニアジド、ビンクリスチン、シスプラチンなどが原因となります。イソニアジドは核治療薬として広く用いられており、ビタミンB6欠乏をもたらすので、ビタミンB6を補充しながら用いないと、多発性神経炎を起こします。ビンクリスチン、シスプラチンは抗がん剤として用いられており、感覚優位の多発性神経炎を起こします。
有機溶媒では、シンナー、接着剤(ボンド)などが原因となります。その吸入遊びは、それらに含まれるn‐ヘキサンによって末梢神経障害を起こします。
また、アルコール依存症の人では、低栄養やビタミン不足とあいまって、運動および感覚障害が現れます。
内科、神経内科などの医師にによる中毒性ニューロパチーの治療では、いずれの場合も原因除去が最優先です。
救急の場合は、症状に応じて経鼻的気管内挿管や人工呼吸器の装着などを行います。その後、胃洗浄、下剤の使用、胃や腸から未吸収の重金属や薬剤などを取り除きます。痛みやしびれに対する治療、薬物治療、神経線維の回復に対する治療を行います。
末梢神経は再生する能力が高いので、症状の改善や回復をあきらめないことが大切です。
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