前腕の2つ骨の間をつなぐ骨間膜を走る後骨間神経が圧迫され、引き起こされる神経まひ
後骨間(こうこつかん)神経まひとは、前腕の親指側にある橈骨(とうこつ)と小指側にある尺骨(しゃくこつ)、この2つの細長い骨の間をつなぐ骨間膜の前後を走る後骨間神経が圧迫され、引き起こされる神経まひ。回外筋症候群とも呼ばれます。
運動神経である後骨間神経は、鎖骨の下から手首、手指まで走る知覚神経である橈骨神経から、肘(ひじ)の辺りで分岐して、手の甲を顔に向ける回外筋の浅層と深層の間に潜り込み、指を伸ばすいくつかの筋肉を支配しています。
後骨間神経が肘の下で、回外筋の浅層で形成されたフローゼのアーケードと呼ばれる骨間膜の部位を通る際に、何らかの原因で圧迫(絞扼〔こうやく〕)されると、後骨間神経まひが引き起こされます。
上腕骨や上腕骨顆上(かじょう)の骨折などの外傷が原因で引き起こされるものの、一般には使いすぎが原因で引き起こされるため、手や腕を内側に回す回内、外側に回す回外を多く繰り返す、指揮者やギター奏者、あるいはテニスやバドミントンなどのスポーツ選手に起こることがあります。
発症すると、肘周辺や前腕部が痛み、肘が伸ばしにくい日が続きますが、3~7日で痛みは消えます。その後、まひが生じて、下垂指(ドロップフィンガー)になります。
下垂指になると、手首の関節の背屈は可能なものの、手指の付け根の関節の背屈が不可能になり、指のみが下がった状態になります。重度の場合は、手指を付け根から全く伸ばせなくなり、親指を広げられなくなります。まひの状態が長く続くと、筋肉の委縮が起こり、腕の筋肉がやせ細ってきます。
後骨間神経は運動神経であるため、手の甲から前腕の皮膚を触った感覚には異常はありませんが、まれに知覚異常を認めることもあります。
後骨間神経まひに気付いた場合には、整形外科、ないし神経内科を受診することが勧められます。
後骨間神経まひの検査と診断と治療
整形外科、神経内科の医師による診断では、下垂指と皮膚の感覚障害のないことで判断します。確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)、超音波(エコー)検査などを必要に応じて行います。
後骨間神経まひの初期では、上腕骨外側上顆炎(テニス肘)との鑑別が大切となります。
整形外科、神経内科の医師による治療では、回復の可能性のあるものや原因が明らかでないものに対しては、局所の安静、薬剤内服、必要に応じ装具、運動療法などの保存療法を行います。薬剤内服では、 ビタミンB12 、消炎鎮痛剤などを服用することが有用です。
ほとんどは保存療法で回復しますが、数パーセントは回復しないこともあります。中にはフローゼのアーケードの部位の前後で後骨間神経の砂時計様のくびれが存在することもありますので、3~6カ月ほど様子をみて全く回復しないもの、まひが進行するもの、骨折などの外傷で手術が必要なもの、腫瘤(しゅりゅう)のあるものでは、手術を行います。
神経損傷のあるものでは、神経剥離(はくり)、神経縫合、神経移植などの手術を行います。神経の手術で回復の望みの少ないものでは、ほかの筋肉で動かすようにする腱(けん)移行手術を行います。
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