食道が通る横隔膜の貫通部を通って、胃の一部が胸腔へ脱出
食道裂孔ヘルニアとは、食道が通る穴である食道裂孔を通って、腹腔(ふくくう)内にあるべき胃の一部が胸腔側へ脱出している状態。
胸部と腹部は、横隔膜という筋肉層の丈夫なドーム状の膜によって隔てられています。この隔壁を貫いて、大動脈、大静脈、食道はそれぞれ横隔膜にある裂孔を通っています。食道が通る穴が食道裂孔で、この貫通部は横隔膜にとっての弱点となり、胃の一部が肺や心臓の収まっている胸腔側へ脱出します。
本来、食道と胃の接合する位置は、横隔膜の下になっています。食道裂孔ヘルニアの場合は、食道と胃の接合部を含めて胃の上部が一緒に胸腔へ脱出する滑脱型と、食道と胃の接合部は横隔膜の下にあって胃の一部だけが脱出する傍食道型、および両者が混じった形で脱出する混合型があります。
大部分は滑脱型であり、あまり大きな症状が出ることは少ないのですが、この状態では胃の中のものが食道へと逆流するのを防ぎようがありません。そのため、食道炎を併発することになります。全体の1割程度と数は少ない傍食道型は、胃の一部が食道のわきを通った状態で横隔膜に挟まれるため出血したり、逆に血が巡らなくなったりするなど、滑脱型より重い症状を起こしやすくなります。混合型は、まれにしかみられません。
先天性のものもありますが、大部分は老化、脊椎(せきつい)変形、肥満、便秘、多産などが、食道裂孔ヘルニアの誘因となります。特に、コルセットをしている変形性脊椎症の高齢者に、よく起こります。いずれも、腹腔内の圧である腹圧が上昇し、横隔膜の筋力が低下するのが原因となっています。どちらかというと女性に多く、特に老化によるものであればさらに女性の割合が増えます。
胸焼け、胸骨下の痛み、みぞおちの痛み、吐き気、食べ物のつかえ、貧血などの症状が、数カ月から数年に渡って、よくなったり悪くなったりする状態が続きます。
これらの症状の多くは、同時に併発しやすい逆流性食道炎や、ヘルニア内に生じるびらん性胃炎、胃潰瘍(かいよう)によるもの。そのほか合併しやすい疾患には、瘢痕(はんこん)性食道狭窄(きょうさく)、出血性貧血などがあります。
食道裂孔ヘルニアがあっても、自分では気付かず、胃の検査で偶然発見されることも少なくありません。
食道裂孔ヘルニアの検査と診断と治療
胸焼け、胸痛、食べ物のつかえがあったら、消化器科を受診します。
医師による診断では、バリウムを飲んでのX線造影検査、内視鏡の検査が一般に行われます。特殊なものとして、食道内圧測定があります。X線造影検査を行うに当たっては、仰向けとするだけでなく、頭を下げたり、息ごらえをして腹圧をかけたりするとはっきり造影されます。
また、食道裂孔ヘルニアの診断だけでは不十分なため、胃液の逆流、食道炎の有無を正しく判断することが必要とされます。
食道裂孔ヘルニアが軽ければ、特に薬による治療の必要はありません。腹部を圧迫しないように帯、ベルトを緩くし、便秘や肥満を治し、脂肪食を制限すれば十分です。逆流性食道炎があれば、H2受容体拮抗(きっこう)薬やプロトンポンプ阻害薬を服用します。
内科的治療でよくならない食道炎や、炎症の跡が引きつれたようになって食道の内腔が狭まる瘢痕性食道狭窄などは、手術が必要となります。
傍食道型食道裂孔ヘルニアの場合も、形態的変化であるため、原則的に手術を行う必要があります。傍食道型では横隔膜が胃を締め付けてしまうため、締め付けられた胃が出血したり、逆に血の巡りが悪くなったりして、滑脱型より危険度が高く、自然治癒が難しい点や合併症を未然に防ぐなどの理由で、手術で治すケースが多くみられます。
脱出している胃を腹腔内に引き戻し、開大している食道裂孔を縫縮し、逆流防止手術を追加します。手術後の治癒率は、良好です。
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