膣の上部に位置する左右一対の小前庭腺の排出管が詰まり、尿道口付近に嚢胞が生じる疾患
小前庭腺嚢胞(しょうぜんていせんのうほう)とは、女性の膣(ちつ)の上部に位置する左右一対の分泌腺である小前庭腺の排出管が詰まり、尿道口付近に嚢胞が生じる疾患。
小前庭腺は、スキーン腺、スケネー腺、傍尿道腺とも呼ばれ、陰核(クリトリス)と腟口の間に位置する尿道口の左右両側に、小さな穴として開口しています。開口部の大きさは一人一人ばらつきがあり、完全に消失している女性もいるとされています。
小前庭腺からは、性的刺激によって粘液が分泌され、膣から分泌される粘液とも混ざり合い、性交時の潤滑液としての役割を果たしています。
また、小前庭腺のある位置は、女性の膣の内部にある快感スポット、いわゆるGスポット(グレフェンベルグ・スポット)として知られています。小前庭腺は発生学的に男性の前立腺に相当し、女性の射精中、俗にいう潮吹き現象で現れてくる透明、あるいは乳白色の液体は、男性の前立腺で産出される液体と非常によく似た酸性フォスファターゼなどの構成成分を持っています。この液体は、オーガスムの際に時々緊張から解放されて放たれる尿の中に混ざります。
この小前庭腺の開口部から、細菌などが侵入し、それらの細菌に感染すると、急性期には排出管に炎症が起こり、開口部が発赤して、はれが現れます。炎症が治まった後に、開口部の閉鎖が起こると、本来は外に分泌される粘液が排出管内部にたまり、拡大して嚢胞を形成します。嚢胞は液体を満たした袋を意味し、これが小前庭腺嚢胞です。
小前庭腺嚢胞はまれで、主に成人に発症します。ほとんどの嚢胞は、大きさが直径約1センチメートル未満で、症状はありません。大きくなると、性交時に痛みを感じたり、排尿のトラブルが生じることがあります。
こうした場合の初期症状には、尿道を通る尿の流れを小前庭腺嚢胞が遮るために、なかなか尿が出ない、排尿が終わる時に尿がポタポタと滴る、尿が出なくなるなどがあります。尿路感染症が生じ、切迫した尿意が頻繁にみられたり、排尿時に痛みを感じることもあります。
さらに、小前庭腺嚢胞内に細菌感染が起きると、うみが排出管内部にたまって、膿瘍(のうよう)を形成することがあります。膿瘍はうみの塊を意味し、これを小前庭腺膿瘍といいます。
膿瘍ができると小前庭腺がある部分の皮膚は赤くなり、はれが生じ、何もしていなくても痛む自発痛と、押すと痛む圧痛が生じます。発熱はほとんどみられません。膿瘍が大きくなりすぎて自然に破裂して、うみが出ることもあります。
小前庭腺嚢胞、小前庭腺膿瘍の症状に気付いたら、婦人科、産婦人科、あるいは泌尿器科を受診することが勧められます。
小前庭腺嚢胞の検査と診断と治療
婦人科、産婦人科、あるいは泌尿器科の医師による診断では、嚢胞や膿瘍が大きくなって症状が現れるようになると、通常、内診の際に触れることができます。
ただし、診断を確定するために、超音波(エコー)検査や、柔軟性のある内視鏡で膀胱(ぼうこう)を観察する膀胱鏡検査を行うこともあります。鑑別すべき疾患には、女性の尿道の前部3分の1に発生する遠位尿道の憩室があります。
時には、小前庭腺の排出管内部にたまっている粘液やうみを培養して、原因となっている菌を特定する細胞検査を行うこともあります。
婦人科、産婦人科、あるいは泌尿器科の医師による治療では、症状のある小前庭腺嚢胞ができている場合、切除します。切除は、外来の処置室や手術室で行います。処置室で切除を行う場合は、通常、局所麻酔を用います。
膿瘍ができている場合は、抗生物質(抗生剤、抗菌剤)のセファレキシンなどの経口剤を7~10日間投与し、その後切除を行います。あるいは、膿瘍を小さく切開して、切開創の縁を外陰部の表面に縫い合わせる造袋を行い、膿瘍内の液を出すこともあります。
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