新型コロナウイルスワクチンの特許を巡り、アメリカのバイオ医薬ベンチャーのモデルナが26日、ライバルであるアメリカのファイザーとドイツのビオンテックを訴えると発表しました。同日付で、アメリカのマサチューセッツ州の地方裁判所とドイツのデュッセルドルフ地方裁判所に訴訟を提起するとしています。
モデルナはワクチンを構成するメッセンジャーRNA(mRNA)技術を模倣したと主張しています。mRNA技術はほかのワクチンや免疫疾患などさまざまな治療領域に応用される可能性が高く、訴訟により競合の参入をけん制する狙いがありそうです。
訴訟はmRNAワクチンの設計に焦点を当てています。モデルナは2010年から2016年にかけて出願した特許について、許可なく使用されたと主張しています。これに対しビオンテックは「あくまでオリジナル技術で、特許侵害の申し立てについては積極的に抗弁する」との声明を出しました。
体内で安全に使用できるmRNA技術の基本設計は、アメリカのペンシルベニア大学にいたカタリン・カリコ博士(現ビオンテック上級副社長)らが中心となって開発した経緯があります。mRNAを医薬品として活用する上で重要なこの特許について、モデルナとビオンテックはそれぞれペンシルベニア大学からサブライセンス権を取得。モデルナはこの技術を改良してワクチンなどに使用しているとみられています。
今回、ファイザーとビオンテックを訴えるモデルナは、自らもmRNAを巡る特許トラブルを抱えています。モデルナのコロナワクチンはアメリカ国立衛生研究所(NIH)と開発した製品でしたが、特許出願に当たりNIHの研究者らを除外したためNIH側は反発しています。
また、ワクチンを構成する脂質ナノ粒子(LNP)技術については、特許を持つバイオ企業のアービュタス・バイオファーマの権利無効化を訴えたものの失敗。その後「モデルナが持つLNP技術はアービュタスの特許に抵触しない」との主張を展開しています。LNP技術を巡ってモデルナは、別のバイオ企業であるアメリカのアルナイラム・ファーマシューティカルズから特許侵害で訴えられています。
もっともこうした特許訴訟は製薬業界で頻発しています。特に売上高が1000億円を超えるような大型製品が登場すると、ライバル同士の特許訴訟が過熱しており、がん免疫薬「オプジーボ」と「キイトルーダ」が実用化された際も、特許訴訟が相次ぎました。
ただモデルナはパンデミック(世界的な大流行)期間中は関連特許を行使しないと表明しており、3月8日より前に発生したワクチン販売については損害賠償を求めない意向で、現在流通するファイザー・ビオンテック製のワクチンの販売差し止めも求めません。
その意味で今回の訴訟はライバルの勢いをそぐとともに、競合の参入をけん制する狙いが強そうです。今後はファイザー側からの対応を含め、さまざまな訴訟が相次ぐ可能性があります。パンデミックの混乱がある程度落ち着いてきたことで、mRNAを巡る製薬会社間の特許紛争が再び顕在化した格好です。
2022年8月27日(土)
0 件のコメント:
コメントを投稿