血液中の好酸球が消化管の粘膜に浸潤して、種々の症状を来す疾患の総称
好酸球性消化管疾患とは、血液中の好酸球が消化管の粘膜に浸潤して、種々の症状を来す疾患の総称。EGID(Eosinophilic Gastro-Intestinal Disorders)とも呼ばれます。
好酸球は、免疫にかかわる白血球の一種で、ある種の寄生虫に対して体を守る免疫機能を担い、アレルギー反応の制御を行う一方で、このアレルギー反応による炎症の一因にもなる細胞です。
この好酸球が引き起こす好酸球性消化管疾患は、好酸球性食道炎と好酸球性胃腸炎に大きく分けられます。
好酸球性食道炎の患者が2000年以降、欧米諸国で急増し、病態の解析や治療に関する研究が進んだことにより、日本でも好酸球性消化管疾患が注目されるようになりました。
欧米では好酸球性消化管疾患のほとんどが好酸球性食道炎ですが、日本では好酸球性胃腸炎のほうが多く認められています。
好酸球性食道炎は、血液中の好酸球の食道壁への浸潤を特徴とする炎症性消化管疾患。詳しい原因は不明ですが、飲食物を含む何らかの物質が直接、間接の引き金になってアレルギー反応が起こり、血液中の好酸球が大量に産生される結果、食道壁の粘膜に多数浸潤して慢性炎症が引き起こされ、これが原因となって食道の正常な機能が障害されます。
胸痛、胸焼け、食物を飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害、食物のつかえ感、腹痛などが主な症状です。進行すると、食道粘膜の下層にむくみや繊維化が起こり、食道の狭窄(きょうさく)によって食べ物の通過障害を起こすことがあります。
また、好酸球性食道炎の発症者は、喘息(ぜんそく)やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の病歴を高い頻度で有しています。
日本では比較的まれですが、近年は男性を中心として患者数が増加しています。発症者の平均年齢は49歳。
胸焼けや食物のつかえ感など好酸球性食道炎と類似した症状を示す疾患に、胃液、十二指腸液の食道への逆流によって、食道の内面を覆う粘膜に炎症が起こる逆流性食道炎があります。医療機関で逆流性食道炎と診断されて、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)を服用しても症状が改善しない患者の一部には、好酸球性食道炎が含まれるとみられています。
好酸球性食道炎を疑い、診断・治療機器の整った大学病院などの内科、気管食道科を受診することも勧められます。
一方、好酸球性胃腸炎は、血液中の好酸球の消化管壁への浸潤を特徴とする炎症性消化管疾患。こちらも詳しい原因は不明ですが、胃や腸に入ってきた飲食物を含む何らかの物質が直接、間接の引き金になってアレルギー反応が起こり、血液中の好酸球が大量に産生される結果、胃壁や腸壁の粘膜に多数浸潤して慢性炎症が引き起こされ、これが原因となって胃や腸の正常な機能が障害されます。
病変は胃、十二指腸、小腸などに好発し、食道や大腸にも病変を認める場合もあります。
好酸球性胃腸炎にはかなり長い潜行期間があると見なされ、顕性化すると発熱、全身倦怠(けんたい)感、疲れやすさを覚え、少量の食物で上腹部の膨満感と停滞感を来して十分に食事が取れなくなります。
下痢、腹痛、胸痛、嘔吐(おうと)がみられ、胃や小腸から出血するようになり、特に胃の前庭部と十二指腸の上部に、びらん、むくみ、発赤、潰瘍(かいよう)、出血が現れます。
炎症が胃や腸の粘膜に及ぶと、腹水が生じることがあります。病変の広がりと程度によって、軽度から重度の飲食物の消化障害、栄養物の吸収障害と蛋白(たんぱく)質喪失胃腸症を来し、次第に鉄欠乏性貧血と低蛋白血症が目立つようになります。
小腸の病変が強いと、繊維性狭窄のために腸の内容物である飲食物や消化液の通過障害が起こる腸閉塞(へいそく)となることもあります。
なお、好酸球性胃腸炎の発症者は、喘息などのアレルギー疾患の病歴を高い頻度で有しています。
まれな疾患ですが、小児から高齢者までのあらゆる年齢層に生じ、20歳代から50歳代の年齢層に好発しています。
下痢、腹痛が繰り返しみられ、胃薬の効果がない時には、好酸球性胃腸炎を疑い、消化器科、消化器内科、内科を受診することが勧められます。
好酸球性消化管疾患の検査と診断と治療
内科、気管食道科の医師による好酸球性消化管疾患のうちの好酸球性食道炎の診断では、食道粘膜の組織を採取して調べる生検を行って、好酸球の浸潤の存在を認めれば、それでほぼ確定します。
また、問診による喘息などのアレルギー疾患の病歴、血液検査による末梢(まっしょう)血液中の好酸球の増加、内視鏡検査による食道の壁の肥厚、縦方向のしまや白い斑点(はんてん)、環状狭窄の存在なども確認します。
鑑別する疾患としては、胸焼けや食物のつかえ感などで類似した症状を示す逆流性食道炎が重要です。逆流性食道炎は、胃液、十二指腸液の食道への逆流によって、食道の内面を覆う粘膜に炎症が起こる疾患です。
内科、気管食道科の医師による好酸球性食道炎の治療では、アレルギー反応を起こす原因と考えられる抗原の除去が基本となります。食事療法として、抗原と疑われる食品を検査して特定し、その食品を除いた食事を用いる方法、検査は行わず一般的に抗原となりやすい牛乳、卵、肉、魚などの食品を除いた食事を用いる方法、アミノ酸成分栄養食を用いる方法の3種類があります。
薬物療法として、好酸球による炎症を抑えることを目的に、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の吸入剤が主に用いられます。吸入剤は局所的に作用するため副作用が少なく、気管に吸い込まず、いったん口の中にため、唾液(だえき)と一緒に飲み込みます。重症の人には、ステロイド剤の内服剤を用いることもあります。
また、食道の運動機能が低下して胃酸の逆流症状を併発する場合、酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)を補助的に使用することもあります。
食事療法、薬物療法で症状が改善しない場合や、食べ物のつかえや嚥下障害が強い場合は、狭くなった食道を広げる外科手術を行うこともあります。
消化器科、消化器内科、内科の医師による好酸球性消化管疾患のうちの好酸球性胃腸炎の診断では、胃や十二指腸などの粘膜組織を採取して調べる生検を行って好酸球の浸潤の存在を認め、腹水中の多数の好酸球の存在を認めれば、それでほぼ確定します。
また、問診による喘息などのアレルギー疾患の病歴、血液検査による末梢血液中の好酸球の増多、内視鏡検査によるびらん、むくみ、発赤の存在、腹部超音波検査またはCT検査による胃や腸壁の肥厚の存在も確認します。
鑑別する疾患としては、硬性がん、メネトリエ病、胃の平滑筋腫(しゅ)または平滑筋肉腫、悪性リンパ腫、多発性内分泌腺(せん)腫、好酸球性肉芽腫などがあります。
消化器科、消化器内科、内科の医師による好酸球性胃腸炎の治療では、消化管の安静や保存的治療を行います。
消化管の安静としては、牛乳、卵、肉、魚などの食事性アレルギーの原因になりやすい食物を除いた除外食を摂取し、糖質を主にした輸液を中心にします。
保存的治療としては、早期に副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)のプレドニゾロンを1日30〜40mg 程度で使用します。効果のあるケースでは、1週間も使用すれば症状は改善するので、それから徐々に減量し、4週程度で終了するのが一般的です。胃腸症状は急速に軽症化し、腹水は消失、末梢血液中の好酸球はほとんど認められなくなります。
同時に、胃酸の分泌を促す物質の働きを抑える作用や止血作用のあるシメチジン製剤と、胃酸を中和する制酸剤を併用することもあります。制酸剤はシメチジン製剤の効果を増強するとともに、粘膜保護の役割を果たします。
消化管の狭窄、閉塞が起こっている場合は、外科手術を行うこともあります。
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