後天的な理由により、抗利尿ホルモンに腎臓が反応しないために多尿を示す疾患
後天性腎性(じんせい)尿崩症とは、後天的な理由により、抗利尿ホルモン(バソプレシン)に腎臓が反応しなくなることで、薄い尿が大量に排出される疾患。
利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンは、大脳の下部に位置する視床下部で合成され、神経連絡路を通って下垂体(脳下垂体)後葉に運ばれて貯蔵された後、血液中に放出されて腎臓に作用し尿の量を調節します。後天性腎性(じんせい)尿崩症では、利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンの分泌は正常でも、腎尿細管における作用障害に由来して腎臓が反応しなくなり、体内への水分の再吸収が低下するために、尿の濃縮障害が引き起こされ、水分が過剰に尿として排出されます。
一方、利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンの分泌量の低下で、体内への水分の再吸収が低下するために、水分が過剰に尿として排出される疾患は、先天性ないし後天性の中枢性尿崩症です。
後天性腎性尿崩症の症状は、薬剤の副作用で出現することがあります。原因となる薬剤は、双極性障害(躁〈そう〉うつ病)の躁状態治療薬、抗リウマチ薬、抗HIV薬、抗菌薬、抗ウイルス薬など広範囲にわたります。薬剤を服用後、数日から1年くらいで発症することが多く、数年以上たって発症することもあります。
また、何らかの理由で血液中のカリウム値が低くなった場合や、カルシウム値が高くなった場合にも、発症することがあります。そのほか、慢性腎盂(じんう)腎炎、シェーグレン症候群、骨髄腫(しゅ)、多嚢胞(たのうほう)性疾患、鎌(かま)状赤血球貧血などの疾患によって腎臓が障害された時にも、発症することがあります。
後天性腎性尿崩症は、いずれの年代でも、徐々にあるいは突然、発症します。発症すると、のどが渇いて過剰に飲水するといった症状が現れ、多尿を呈します。1日に排出される尿量は3リットルから15リットルと、通常の2倍から10倍にもなります。ひどい時には、1日30リットルから40リットルになることもあります。
薄い尿の大量排出は、特に夜間に著しくなります。飲水は冷水を好む傾向があり、たくさん飲むために、食べ物があまり取れず、体重は減少します。
一般に、口渇中枢は正常であるため、多尿に見合った飲水をしていれば脱水状態になることはありません。進行すると、体液が減少し、発汗の減少、皮膚や粘膜の乾燥、微熱などの症状がみられることがあります。
1日3リットル以上の著しい多尿や口渇、多飲などの症状がみられた際には、糖尿病や心因性多飲症とともに後天性腎性尿崩症である可能性があります。内科か内分泌科の専門医と相談して下さい。
後天性腎性尿崩症の検査と診断と治療
内科、内分泌科の医師による診断では、早急に採尿検査、採血検査などを行い、多尿、多飲を示す糖尿病を除外します。これが除外された後、心因性多飲症などとの鑑別が必要になります。
心因性多飲症は、精神的原因で強迫的に多飲してしまう疾患です。血漿(けっしょう)浸透圧と血中の抗利尿ホルモンを測定して、鑑別診断に用います。鑑別が難しい場合、水制限試験を行います。水分摂取の制限を行うと、心因性多飲症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えて濃縮がみられますが、中枢性尿崩症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えることはありません。腎性尿崩症では、抗利尿ホルモンは高値になります。
腎性尿崩症と中枢性尿崩症の区別は、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤の投与によって、尿が濃縮されるか否かで調べます。反応せず尿が濃縮されないのが腎性尿崩症であり、尿が濃縮されるのが中枢性尿崩症です。
内科、内分泌科の医師による治療では、薬剤が原因の場合は、早期発見で障害が軽度なら、原因薬剤の中止のみでよく、1カ月ほどで症状が改善されることが多いので、経過観察を行います。
原因薬剤の中止でも回復が遅れる場合は、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤や、デスモプレシン剤を用いた治療を行います。尿量を減らす目的で、抗利尿ホルモンの産生を刺激するサイアザイド系(チアジド系)利尿薬を使用することもあります。
そのほかの疾患が原因とされる場合は、原因疾患の治療と、腎臓障害、脱水、高ナトリウム血症の有無の経過観察を続けます。
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