精巣で精子を作る機能に障害がある状態で、男性不妊症の原因の一つ
造精機能障害とは、男性の精巣(睾丸〔こうがん〕)で精子を作る機能に障害がある状態。男性不妊症の原因の一つになっています。
男性不妊症は、避妊をせずに性交の機会を持ち続けているにもかかわらず、1年以上子供ができない不妊の原因が男性側にある状態です。その原因の9割を造精機能障害が占めています。
造精機能障害では、精巣で精子を作る機能に障害があるために、射精される精液中の精子の数、運動率、形態などに問題があり、無精子症、乏精子症、精子無力症、精子不動症、精子奇形症、精子死滅症に分けられます。
無精子症
無精子症は、男性の精液の中に、卵子と結合して個体を生成する精子が認められない状態。
男性の精液の大部分は、陰茎の奥にある前立腺(ぜんりつせん)と、その前立腺の奥にある精嚢腺(せいのうせん)で作られ、前立腺成分が約20パーセント、 精嚢腺成分が約70パーセントを占めます。そのほかにも、精巣や精巣上体(副睾丸)、精管でも一部作られます。
運動能力を持つ男性の精子のほうは、精巣の中で精原細胞から分化して作られ、精子を運ぶ精管が精巣のすぐ近くで膨れている精巣上体において成熟し、精嚢腺と前立腺で分泌された精液と一緒になって、尿道に出ていくのが射精です。射精によって精液が尿道から出ていく際には、最初は主に前立腺からの成分、続いて精嚢腺からの成分が出ていきます。
男性の100人に1人は、無精子症といわれています。この無精子症は、閉塞(へいそく)性無精子症と非閉塞性無精子症の2つの型に分類されます。
閉塞性無精子症は、精巣の中で精子が作られているものの、精巣から体外へ出ていく精路のどこかが閉塞しているために、精子が精液と合流して体外へ出ていくことができず、精液中に精子が認められない状態を指しています。無精子症の15〜20パーセントを占めているといわれています。
原因となる疾患は、両側精巣上体炎、小児期の両側鼠径(そけい)ヘルニア術後、精管切断(パイプカット)術後、原因不明の精路閉塞症、先天性両側精管欠損症などです。
一方、非閉塞性無精子症は、精子が精巣から体外へ出ていく精路があるにもかかわらず、精巣の造精機能の低下により、精巣で全く精子が作られていない状態、もしくは射精された精液中に精子が認められない状態を指しています。無精子症の80~85パーセントを占めているといわれています。
原因となる疾患としては、X染色体が1つ以上多いクラインフェルター症候群などの染色体異常症、脳下垂体と視床下部の障害による性腺刺激ホルモンの低下、おたふく風邪による精巣炎、高プロラクチン血症による精子形成の低下、薬の副作用による性腺刺激ホルモンの低下、精巣が陰嚢(いんのう)内に位置していない停留精巣、精巣の上の精索部の静脈が拡張しこぶができた精索静脈瘤(りゅう)などです。
乏精子症
乏精子症は、男性の精液の中に含まれる精子の数が正常よりも極端に少ない状態。ただし、国際保健機関(WHO)の基準により、精子の数だけでなく精子濃度、精子運動率、奇形率などを総合的にみて、乏精子症と見なすこともあります。
乏精子症は男性不妊症の原因となり、夫婦生活による自然妊娠を難しくすると考えられます。その程度により、軽度乏精子症、中等度乏精子症、重症度乏精子症に分けられます。
精子の数の正常値は1ml当たり6000~8000万以上であり、約5000万の場合は軽度乏精子症、1000万以下の場合は中等度乏精子症、100万以下の場合は重症度乏精子症に相当します。自然妊娠には精子の数が4000万以上あることが望ましいとされるものの、数100万で自然妊娠することも、ごくまれにあります。
精子無力症
精子無力症は、男性の精液内の精子の運動率が低下した状態。
運動能力を持つ精子は、中片部と尾部の鞭毛(べんもう)を振動させて動かし、結合して個体を生成するために卵子を目指して泳いでいきますので、運動率の低下、とりわけ真っすぐ前進し、高速で泳ぐ精子の割合が低いことは、卵子へ到達する精子が少ないということ、また到達しても鞭毛を振れずに卵子の透明体を通過できないということにつながり、受精障害となります。
この精子無力症は、軽度精子無力症、中等度精子無力症、重症度精子無力症に分けられます。運動率に関しては、正常な精子ではだいたい70~80パーセント以上が運動しているのに対して、軽度精子無力症では50パーセント程度、中等度精子無力症では20~40パーセント、重症度精子無力症は10パーセント以下に低下しています。
精子無力症の原因は、先天的なものが大半を占めますが、前立腺炎、おたふく風邪による精巣炎、高熱による精巣炎、精索静脈瘤などが原因になっているケースもあります。なお、長期間の禁欲も精子の運動率を低下させます。
精子不動症
精子不動症は、男性の精液中に精子を認めるものの、ほとんどの精子の動きがない状態。重度の精子無力症であり、精子の運動率が低下した状態にあります。
精子不動症の多くでは、精子の少なくとも何パーセントかは動いています。中には、すべての精子が全く動いていないというケースもあります。
例えば、常染色体の劣勢遺伝でカルタゲナー症候群を発症した人では、慢性副鼻腔(びくう)炎、右胸心、気管支拡張症を合併していて、精子の鞭毛のみならず全身の線毛の機能障害が特徴的で、精子も完全に不動化しています。
精子不動症で動いていない精子には、生きている精子と死んでいる精子の2通りがあります。
精子が不動化する原因は、尾部の鞭毛を構成している中心部分の2本、および周囲の9本の軸糸の配列が壊れていて、運動のエネルギー源となる中片部のミトコンドリア鞘(しょう)の発育が不十分なためです。
精子不動症になってしまう原因は、精子無力症と同じで先天的なものが大半を占めます。
精子奇形症
精子奇形症は、精液に含まれる精子の96パーセント以上が形態の異常を伴う状態。奇形精子症とも呼ばれます。
男性の誰(だれ)しも精子の100パーセントが正常な形態ということはありませんが、形態の異常を伴う奇形の精子が多く、正常な形態の精子が4パーセント未満の場合は、精子奇形症に相当します。
精子には、精液中の数はもちろんのこと、濃度、運動率、奇形率などさまざまな要素があります。その中でも精子の奇形率が高い場合、日常生活におけるパートナーの妊娠率の低下が引き起こされます。
精子奇形症は、精子の奇形のパターンによって、大きく2つに分類されます。1つは尾部の奇形、2つ目は頭部の奇形です。
2つのうち、頭部が明らかに小さい、異常な形態をしているなど頭部の奇形に関しては、遺伝子情報である核DNAを含有する頭部に奇形があるため、受精自体が非常に困難になり、妊娠率が非常に低くなります。精子尾部の奇形に関しても、結合して個体を生成するために卵子を目指し、鞭毛を振動させて泳いでいく運動能力を尾部が担っているため、妊娠率の低下が引き起こされます。
精子奇形症は原因不明であることが多く、精索静脈瘤、逆行性射精、染色体異常、過度なストレスなどが原因となって発生することもあります。
精子死滅症
精子死滅症は、男性の精液中に精子を認めるものの、その精子が全く動いておらず、しかもほとんどが死んでいる状態。死滅精子症とも呼ばれます。
精液検査における精子濃度には問題はないものの、精子のほとんどが死滅してしまっているという状態です。精子不動症とともに重度の精子無力症であり、精子不動症では精子の運動率が数パーセントに低下した状態にあるのに対して、精子死滅症では運動率が0パーセントに低下した状態に陥っています。
運動能力を持つ男性の精子は、精巣の中で精原細胞から分化して作られ、精巣上体において成熟しますので、この精子を作る造精機能や造精過程に何らかの障害があると、ほとんどの精子が死んでしまうことになります。
精巣の中で精子となる細胞自体にもともと何らかの原因があるケースと、精巣上体の分泌液に異常があって精子が死んでしまうケースなどがあります。それがどの過程で起こり、なぜ起こるのかについては、不明な点が多く残っています。
精子死滅症になる原因は、精子無力症や精子不動症と同じで先天的なものが大半を占めます。
造精機能障害の検査と診断と治療
無精子症の検査と診断と治療
泌尿器科の医師による診断では、精液検査の結果、射出精液中に精子が存在しない場合に無精子症と判断します。
精巣の大きさに問題がなく、ホルモン検査では脳下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)の値が正常値で、精管に閉塞部位が認められれば、ほぼ閉塞性無精子症と判断できます。ただし、性腺刺激ホルモンの値が正常値でも、まれにY染色体の特定部位の微小欠失により、精巣内での精子の成熟が途中で停止しているケースでは、非閉塞性無精子症と判断します。
また、精液検査の結果、精液中に精子が一つも存在しないという場合でも、数少ない精子が精巣内で作られていることがあり、それを調べるために精巣組織検査を行うことがあります。
泌尿器科の医師による閉塞性無精子症の治療では、精子が精巣から体外へ出ていく精路を再開させる精路再建手術を行います。閉塞部位が短く手術でつなぎ合わせることができれば、精液に精子が出るようになり、自然妊娠も期待できます。
先天性の精管欠損症などで閉塞部位が長い場合は、手術では治療できません。この場合は、閉塞性無精子症の人では精巣で精子が作られているため、精巣精子採取法によって、精巣の精細管や精巣上体、精管から精子を直接取り出し、排卵誘発によって採卵した卵子とともに体外受精という方法を用いて妊娠を期待します。
泌尿器科の医師による非閉塞性無精子症の治療では、精巣組織検査で数少ない精子が精巣内で作られていることが確認された場合に限り、顕微鏡下精巣精子採取法によって精巣の中を隅々まで観察し、精子がいる可能性の高い精細管を採取して精子を探し出し、排卵誘発によって採卵した卵子とともに顕微受精という方法を用いて妊娠を期待します。精子が一つでも探し出せれば、妊娠する確率はゼロではありません。
何らかの原因により性腺刺激ホルモンが低下し、造精機能が障害されている場合には、ホルモン補充療法を行い、精巣で精子が作られるようになることを期待します。
乏精子症の検査と診断と治療
泌尿器科の医師による診断では、間隔を空けながら精液検査を数回行い、射出精液中に存在する精子の数が常に正常値を下回る場合に乏精子症と判断します。
精索静脈瘤に対しては、視診と触診を行い、精巣の上部に腫瘤を触れたり、陰嚢や鼠径部の痛みを認めることもあります。数分間立位して腹圧をかけると、静脈の拡張がはっきりします。立位で容易に静脈瘤が触知できたり、陰嚢皮膚ごしに静脈瘤が見えることもあります。片側の精巣サイズが小さいこともあります。アイソトープを使った診断法もありますが、通常は視診、触診と超音波検査で十分診断できます。
泌尿器科の医師による治療では、明確な原因の判明しない乏精子症のケースでは効果的な治療が難しいため、軽度乏精子症の場合には人工授精、中等度乏精子症の場合には体外受精、重症度乏精子症の場合や受精しにくい場合には顕微授精を用いて、妊娠を期待するのが一般的です。
精索静脈瘤の場合は、精液所見が悪い成人男性でいずれ子供が欲しいと考えているケースや、陰嚢や鼠径部の痛みや違和感があるケースで、外科手術を行います。 思春期の男性でも、片側の精巣サイズが小さくなっているケースには、将来の不妊を予防するため手術が考慮されます。片側の精巣サイズが小さくなっていない場合は、年1回の診察と精液検査を行います。
外科手術では、病変のある静脈を縛る結紮(けっさつ)を行います。手術により、精液所見は60~70パーセントで改善し、30~50パーセントでパートナーの妊娠が得られるといわれています。手術後の精液検査は、3カ月後に行われます。精子の作り始めから精子として射出されるまで、約3カ月かかるためです。
何らかの原因により性腺刺激ホルモンが低下し、造精機能が障害されている場合には、ホルモン補充療法を行い、精巣で精子が作られるようになることを期待します。
精子無力症の検査と診断と治療
泌尿器科の医師による診断では、間隔を空けながら精液検査を数回行い、射出精液内に存在する精子の運動率が常に正常値を下回る場合に精子無力症と判断します。
泌尿器科の医師による治療では、軽度精子無力症の場合には、飲み薬や漢方薬を処方しながら、定期的に精液検査を行い、運動率が改善しているかどうか様子をみる場合もあります。精子を作るのに要する期間が74日間、その精子が運動能力を獲得するのに要する期間が14日間ですので、少なくとも3カ月以上は薬の処方を継続します。
薬の処方で精子の運動率に変化がみられないケースはもちろん、運動率が改善しても自然妊娠に至らないケースでは、人工授精などを用いる不妊治療を併用し、妊娠を期待します。
中等度精子無力症と重症度精子無力症の場合には、精子の運動率を改善する効果はあまり期待できないため、中等度精子無力症では人工授精か体外受精、高度精子無力症では体外受精か顕微授精を用いて、妊娠を期待します。
精子不動症の検査と診断と治療
泌尿器科の医師による診断では、間隔を空けながら精液検査を数回行い、射出精液内に存在する精子の運動率が常に数パーセント以下の場合に精子不動症と判断します。
泌尿器科の医師による治療では、精索静脈瘤のように明確な原因がわかっている場合は、その治療を行って造精機能を回復することで、日常生活におけるパートナーが妊娠できる可能性を高めます。
明確な原因がわからない場合は、飲み薬や漢方薬の服用、あるいは外科手術で精子の運動率を改善する効果は期待できず、通常の授精は困難であるため、顕微授精か体外受精を用いて、妊娠を期待します。
まずHOS(ホス)テストを行い、浸透圧の異なる培養液に精子をつけることによって、尾部に変化が起こる生きている精子と死んでいる精子を鑑別し、生きている精子のみを選別します。1個でも生きている精子を見付けられれば、顕微授精が可能なため妊娠も期待できます。
HOSテストを行っても精液中に生きている精子を見付けられなかった場合は、精巣内精子回収法や外科的精巣上体精子回収法などを行って、精巣や精巣上体から生きている精子を見付けていきます。
それでも生きている精子を見付けられなった場合は、精子不動症の人の精子での妊娠は難しくなり、女性側に特に大きな不妊原因がない場合などは、非配偶者間人工授精という方法もあります。とても特殊な治療法となりますので、パートナー間でよく話し合ってから決めることです。
精子奇形症の検査と診断と治療
泌尿器科の医師による診断では、4~5日間の禁欲後に、マスターベーションにより精液を採取し、精液検査とクルーガーテストを行って判断します。
クルーガーテストでは、特殊な溶液で精子を色付けして、奇形率と奇形のパターン、あるいは正常な形態の精子がどれだけいるかを顕微鏡で調べます。
泌尿器科の医師による治療では、原因となる疾患があれば、その治癒をまず図ります。
パートナーの妊娠を期待する場合は、できる限り状態のよい精子を選んで、人工授精や体外受精、顕微授精を試みます。正常な形態の精子が15パーセント以上であれば自然妊娠が期待できますが、4パーセント未満である精子奇形症では自然妊娠が見込めないためです。
通常、顕微授精を試み、場合によって体外受精から試みたり、パートナーが20歳代と若くて不妊症がなければ人工授精から試みたりすることもあります。
射出精子中には奇形精子しかいない場合は、精巣上体精子回収法を行って、精巣上体から正常な形態で運動良好な精子を回収して顕微授精を試みます。精巣上体から回収した精子も奇形精子であった場合もしくは精子が見付からない場合は、精巣生検を行って、精巣から後期精子細胞を回収して顕微授精を試みます。
精子死滅症の検査と診断と治療
泌尿器科の医師による診断では、間隔を空けながら精液検査を数回行い、射出精液内に存在する精子の運動率が常に0パーセントの場合に精子死滅症と判断します。
泌尿器科の医師による治療では、精索静脈瘤のように明確な原因がわかっている場合は、その治療を行って造精機能を回復することで、日常生活におけるパートナーが受精、妊娠できる可能性を高めます。
明確な原因がわからない場合は、飲み薬や漢方薬の服用、あるいは外科手術で精子の運動率を改善する効果は期待できず、通常の受精は困難であるため、顕微授精か体外受精を用いて、妊娠を期待します。
まずHOSテストを行い、浸透圧の異なる培養液に採取した精子をつけることによって、尾部に変化が起こる生きている精子と死んでいる精子を鑑別し、生きている精子のみを選別します。精子死滅症の場合は3回程度精液を採取し、その中に1個でも生きている精子を見付けられれば、顕微授精が可能なため妊娠も期待できます。
HOSテストを行っても精液中に生きている精子を見付けられなかった場合は、精巣内精子回収法や外科的精巣上体精子回収法などを行って、精巣や精巣上体から生きている精子を見付けていきます。
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