健康な人の便に含まれる腸内細菌を集め、難病治療薬開発に活用する国内初の「献便(けんべん)施設」が山形県鶴岡市にオープンしました。山海の幸に恵まれた食文化が腸内細菌の多様性を生んでいるといい、便の提供を募るのに最適な場所として同市が選ばれました。
4月24日にオープンしたのは、医療・創薬を行う新興企業メタジェンセラピューティクスの運営する施設「つるおか献便ルーム」。同市覚岸寺の鶴岡サイエンスパーク内に設置されました。
同社によると、人の腸内には、約1000種類、40兆個以上の細菌が生息しています。腸内細菌のバランスが乱れると、さまざまな病気の発症に影響します。すでに、健康な人の便に含まれる「腸内細菌叢(そう)」を疾患を持つ患者に移植し、腸内環境を変える治療法が確立されています。同社は、2020年に腸内細菌移植の研究を行っている順天堂大や慶応大、東京科学大のチームらで創業。集めた腸内細菌で、難病の「潰瘍性大腸炎」の治療薬開発を行います。
献便ルームは約70平方メートル。専用のトイレが3カ所あり、提供者は便器内の専用ボックスに便をします。その便から腸内細菌を抽出した溶液を作り冷凍。川崎市内の施設に運び、創薬に活用します。同社の計画では、2026年に日本とアメリカで治験を始め、2032年にカプセルの飲み薬として承認を目指します。
鶴岡市は食物繊維が豊富に含まれている山菜などが各家庭で親しまれ、ユネスコ食文化創造都市に登録されています。こうした食生活は健康な腸内細菌の素地となることから、同社は献便ルームの設置場所として鶴岡市を選んだといいます。
献便を行う「腸内細菌ドナー(提供者)」の対象は、18〜65歳の庄内地域に住む健康な人。専用アプリで健康チェックを行い、荘内病院(同市)での問診や血液・便検査などを経て、医師が適格と判断すると提供者として認定されます。一度不適格とされても、健康な食生活を続けることで適格となる可能性もあり、地域住民の健康意識向上も期待できるとしています。
提供者は献便の3日前から酒や生ものなどの飲食が禁じられ、3カ月ごとに検査を受けて資格を更新する必要があるものの、献便1回当たり3000〜5000円の協力金が準備されています。
応募者のうち、提供者として適格と判断されるのは1割程度。2025年は約100人の提供者の確保を目指します。
同社の中原拓社長は、「便由来の薬は国内にはなく、我々がトップランナーとして進めている。最高のうんちから、最高の薬が生まれると思い、この地を選んだ。ぜひ皆さまにご協力いただきたい」と話しました。
2025年5月19日(月)
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