脳の血管にこぶができた病態で、破裂するとくも膜下出血を発症
未破裂脳動脈瘤(りゅう)とは、脳の動脈の一部が内側からの圧力によって、こぶのように膨らんでいる病態。小さいものを含めると、成人の4~6パーセントに発生していると見なされています。
この未破裂の脳動脈瘤は近年、脳ドックや人間ドックの普及に伴って、MRA(磁気共鳴血管撮影)を行った時にたまたま発見されるケースが、急速に増加しています。中には、脳動脈瘤が大きくなって脳の神経を圧迫して障害を生じたために、発見されるケースもあります。
脳動脈瘤が発生する原因はまだはっきりとはしていませんが、遺伝的な要素で血管の壁が弱くなる、加齢や高血圧などにより動脈硬化が起こり血管の壁に弱い部分ができる、血流が当たる影響で血管の壁がもろくなど、いくつかの原因が考えられています。内頸(ないけい)動脈、脳底動脈、中大脳動脈、後大脳動脈、あるいはそれらの動脈の分枝などに起こり、血管の分かれ目など、血流がぶつかりやすく、また血管の弱い部分にできることが多いようです。
脳動脈瘤の大きさは、径2ミリ程度の小さなものから25ミリ以上の大きなものまでさまざまで、75パーセント以上は10ミリ未満です。
そのまま破裂しない状態では、脳動脈瘤自体には痛みや違和感などの自覚症状はありませんが、動脈瘤の大きさによっては何らかの症状が出ます。例えば、動眼神経の近くの内頸動脈に未破裂脳動脈瘤が発生すると、動眼神経を圧迫して片側の目が外方以外には動かなくなり、瞳孔(どうこう)が大きくなり、対光反射がなく、まぶたが下がってくる眼瞼(がんけん)下垂などの動眼神経まひの症状が起こることがあります。
未破裂の脳動脈瘤が破裂した場合には、脳の中にくも膜下出血というタイプの出血を来します。脳は外側から順に硬膜、くも膜、軟膜という3層の膜で覆われており、くも膜とその下の軟膜との間を、くも膜下腔(くう)といい、ここには脳脊髄(せきずい)液が満たされています。脳動脈瘤が破裂すると、血液がくも膜下腔に一気に流出するため、頭蓋(ずがい)内圧(頭蓋骨の内部の圧力)が上がって、激しい頭痛が起こります。
バットか金づちで殴られたような、今までに経験したことのないひどい痛みに襲われ、その頭全体に感じる痛みがしばらく続きます。頭蓋内圧が急激に上がって脳全体が圧迫されると、意識障害が起こったり、吐いたりします。重症の場合、意識障害から、昏睡(こんすい)状態に進んだまま死亡することもあります。
くも膜下出血では、半数以上の人が死亡するか社会復帰不可能な障害を残しています。
未破裂脳動脈瘤が自然に破裂して、くも膜下出血を起こす確率は、大きさや形などでも違いますが、平均して年に1パーセント程度といわれています。例えば、62歳の男性に発見された場合、平均余命が20年あるとすると、生涯でくも膜下出血を起こす可能性は20パーセントということです。
脳ドックなどの医療検査で発見された場合は、信頼できる脳神経外科医と相談してください。
未破裂脳動脈瘤の検査と診断と治療
脳神経外科の医師による診断では、MRA(磁気共鳴血管撮影)などで未破裂脳動脈瘤が疑われたら、三次元造影CT血管撮影で脳動脈瘤の大きさや形を確認します。手術のために脳動脈瘤や周囲の血管の情報がさらに必要な場合は、脳血管撮影を行うこともあります。
日本脳ドック学会のガイドライン(2008)では、1)余命が10~15年以上ある、2)動脈瘤の大きさが5~7ミリ以上、3)動脈瘤の大きさが5~7ミリより小さい場合でも、症状のあるものや特定の部位にあるもの、一定の形態的特徴を持つものという条件がそろえば、手術を勧めています。
手術は通常、頭蓋骨を切開し、こぶの根元を金属のクリップで挟むクリッピング法が行われます。近年では、血管内手術といって血管の中へ細いカテーテルを挿入し、プラチナの細いコイルを入れて動脈瘤の内側に詰める塞栓(そくせん)術を行うこともあります。
また、治療をせずに半年後、1年後などにMRAで経過をみるというのも一つの方法です。通常の手術や血管内手術も、治療後にまひや重篤な合併症を来す危険性がゼロというわけではないためです。
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