2022/08/17

🇮🇩脱腸(鼠径ヘルニア)

足の付け根などから腸などの臓器が脱出した状態

脱腸とは、足の付け根の特に内側の部分や下腹部から、腸などの臓器が脱出した状態。脱腸は通称であり、医学的には鼠径(そけい)ヘルニアと呼ばれます。

おなかを覆う腹膜が弱いことが原因になって、腹筋の圧力で臓器が脱出します。先天性(若年性)と後天性のものがあります。

男性の場合、脱出した臓器は主に陰嚢(いんのう)に飛び出るため、袋が大きく膨らみます。女性の場合、または男性でも部位によっては、下腹部にポコッとした膨らみができます。膨らんだ部分によって、脱腸(鼠径ヘルニア)は細かく外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿(だいたい)ヘルニアに分けられます。

体の中の至る所にできるヘルニアの中で最も多いのが外鼠径へルニアで、大部分は小児期、特に乳幼児期に発生し、右側、左側、そして両側の順に多く、男女比は4対1です。乳幼児の場合は、泣いた時、入浴させた後、おむつを取り替える時などに気付きます。

胎児の段階で、袋状になっている腹膜鞘状(しょうじょう)突起というものが形成され、成長に従って陰嚢に下がってきて、本来であれば袋の口がふさがります。生まれ付き、袋の口がふさがっていなかったり、ふさがっていても不十分だったりすることが、先天性鼠径ヘルニアの原因になります。

生後1年以内で自然に治る可能性がありますが、年を加えるにつれて、その可能性は少なくなります。また、学童期に近付いて運動が激しくなるにつれて、症状が著明になります。

後天性鼠径ヘルニアは高齢者にみられ、加齢することで腹膜や筋肉が弱るために、小腸などの臓器が鼠径部分に脱出してきます。たいてい脱出する穴であるヘルニア門が非常に大きく、ヘルニアの内容部が大きく袋状に突き出ます。 起こしやすいのは、ふだんから立って作業することが多い人や、重い荷物を持ち上げることの多い人、便秘気味でトイレで気張る人、妊婦、前立腺(ぜんりつせん)肥大の人、せきやくしゃみをよくする人、太った人など。

当初のうちは、腹に力を入れると下腹部に軟らかい膨らみを感じる程度で、手で押したり、横になってリラックスすれば簡単に引っ込のが普通です。しかし、何回も繰り返していくうちに、ヘルニア門が広がってきて突き出す部分が増え、痛みや便秘などの症状を伴うことになります。

まれに、臓器の突き出した部分がヘルニア門で締め付けられて戻らなくなってしまうことがあります。これを嵌頓(かんとん)ヘルニアと呼び、締め付けられた状態が長期に及ぶと、血流の流れが妨げられて、腸が腐る壊死(えし)に至ることがあり、激しい痛み、嘔吐(おうと)などの腸閉塞の症状が出現します。

脱腸の検査と診断と治療

大人の脱腸(鼠径ヘルニア)の場合、放置していると悪化していく一方で、嵌頓ヘルニアにもなりやすいので、早めに消化器科、外科を受診します。乳幼児の場合も、見た目で気付きやすいので、早めに受診します。

生後1年以内で自然に治る可能性がある乳幼児の鼠径ヘルニアの治療としては、ヘルニアバンドによってヘルニア内容物の脱出、増大を防ぎます。乳児ではヘルニアバンドをしているだけで自然に治る可能性があります。

年長児や大人の鼠径ヘルニアの治療としては、一応、臓器が突出しないようにヘルニアバンドで抑える方法もありますが、常時装着しておく必要があるなど通常生活にかなりの負担を強いることになり、早いうちに手術を受けることが勧められます。

臓器の突き出した部分が戻らなくなる嵌頓ヘルニアの場合、専門的な医師による整復処置でとりあえず元に戻りますが、整復処置をしても元に戻らない場合は、ヘルニア内容物の腸や精巣、卵巣などが血行障害に陥って障害される危険があるため、嵌頓を解除する緊急手術も考慮されます。

乳幼児期の手術に関しては、生後3カ月以降であれば発見次第すぐ行う医療機関と、ある程度の年齢まで待機して行う医療機関とがあります。未熟児で生まれた乳児では、手術可能な時期は生後3か月よりも遅くなります。

整復処置で嵌頓が解除された場合も、ヘルニアの原因は修復されていないため、後に手術で原因となった構造を修復する必要があります。 特に女児の場合は、卵巣などの女性付属器が絶えずヘルニアとして飛び出していることが多く、手術は早めにしたほうがよいとされています。

手術は大きく分けて、従来法の手術(バッシーニ法)、腹腔(ふくくう)鏡下手術、メッシュ法の3種類が行われます。

従来法の手術は、腸管などの出てくる穴を周囲の筋肉を寄せて縫い合わせてふさぐ方法。入院が1週間と長い、術後に痛みがある、再発率が15パーセントと高いなどの問題があって、今はそれほど行われない手術法です。

腹腔鏡下手術は、腹部に小さな穴を3カ所開けて、モニターを見ながら手術を行う方法。脱出部に、腹腔内からポリプロピレン製のメッシュで閉鎖固定をして補強します。手術時間が1時間と長いというデメリットがある。

手術の主流となっているのは、メッシュ法。全世界の鼠径ヘルニア手術の90パーセントを占め、日本でも85パーセントを占めています。再発率が3パーセントと低い、手術時間が15~20分と短い、局所麻酔で行える、手術創が3~4センチと小さくて痛みが軽いなどのメリットがあります。

メッシュ法の中のメッシュ&プラグ法では、脱出した小腸などを押し戻して穴にふたをするように、ポリプロピレン製のバドミントンの羽根のような形のプラグを入れ、さらに、鼠径管内にメッシュシートを入れて補強し、皮膚を縫合します。メッシュ法にはこのほか、リヒテンシュタイン法、クーゲル法、PHS(プロリン・ヘルニア・システム)法などがあります。

脱腸(鼠径ヘルニア)は、立ち仕事の人、重い荷物を持ち上げることの多い人、せきをよくする人、妊娠している人、便秘症の人、太っている人がなりやすいといわれています。その点から、食生活で行う予防方法は以下の3点です。

野菜を積極的に摂取。野菜は葉物と根の物をバランスよく、また赤、黄、緑、白など色合いも考えて1日350グラムは取るようにすると、肥満予防に結び付きます。

食物繊維を十分に摂取。今日の日本人の食物繊維摂取量は1日平均15グラムですが、1日平均20~25グラムにします。そのために、豆類、海藻類、キノコ類、山菜類を積極的に取ると、バナナのような健康的な硬さの便になります。

ヨーグルトやオリゴ糖を摂取。腸内の善玉菌であるビフィズス菌はヨーグルトで増え、オリゴ糖はビフィズス菌のエサになります。善玉菌が優位になると便秘知らずに。

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