成人の3人に1人が悩む国民病
虫歯に次ぐ「第2位の国民病」といわれているのが、お尻のトラブル、すなわち痔(じ)。成人の3人に1人が、その症状に悩んでいるとされています。
正確には、痔とは肛門(こうもん)周辺の病気の総称で、大きく分けて3種類、「痔核(じかく)」、「裂肛(れっこう)」、「痔瘻(じろう)」があります。最も多いのが痔核で、男女ともに痔全体の約60パーセントを占めるようです。次いで男性では痔瘻13パーセント、裂肛8パーセント、女性では裂肛15パーセント、痔瘻が3パーセントの順だという統計があります。
痔核は通称「いぼ痔」と呼ばれ、肛門周囲の静脈がふくらんで、こぶになったものです。直腸側にできる「内痔核」と、肛門部にできる「外痔核」があります。
内痔核は、肛門の中の直腸静脈に静脈血がたまって、感染と腫脹を起こしてできた静脈瘤です。排便、立ち仕事、妊娠などで腹圧が過度にかかると、静脈瘤ができます。不規則な排便習慣で、排便時に息んだり、気張りすぎて、だんだんうっ血し、直腸の静脈瘤が腫(は)れてきて、内痔核になります。
この内痔核の症状は、「出血」です。拡張した静脈瘤から出血し、赤い血が飛び散ります。進行すると、出血だけでなく、痔核がだんだん大きくなり、肛門の外に飛び出して「脱肛」になります。重症の内痔核による脱肛者には、医療機関での手術が必要になります。
外痔核のほうは、肛門の外側で目に見えるところに、皮下の静脈が血栓や静脈瘤を形成したもので、炎症を起こし腫れています。この外痔核も強い息みで突然、出現します。外痔核の周囲には、多数の神経が集まっているので、激しく痛みます。
裂肛は通称「切れ痔」と呼ばれ、肛門部の皮膚が切れたり裂けたりした外傷で、ひりひりとした強い痛みがあるのが特徴です。便秘している硬い大便が、肛門を無理に通過する際に、肛門管の粘膜面が傷ついて出現します。「急性裂肛」の場合には、便を軟らかくしておけば治りますが、裂肛が慢性化すると、排便時には激痛が起こり、ひどくなると、排便後も痛みが長く続きます。
痔瘻の通称は「あな痔」で、肛門と直腸の境にあって、分泌物を出している歯状腺という組織が感染して、膿(うみ)がたまり、それが破れて出た跡に瘻管、ないし瘻孔と呼ばれる膿が出る穴ができる病気です。慢性化し、炎症を起こした穴からは、肛門の外側にいつまでも膿がじくじくと出ます。激しい痛みや発熱を伴い、肛門がんになることもあるので、100パーセント手術が必要とされています。
悪化させない生活習慣が大切に
肛門周辺に起こる炎症が、お尻のトラブルである痔の原因ですが、炎症を引き起こすのは「便秘」、「下痢」、「肉体疲労」、「ストレス」、「冷え」、「飲酒」といった生活習慣です。中でも、便秘や下痢などの排便の異常は、痔の最大要因となります。
便秘に際して、硬い便を息んで排便すると、裂肛や痔核を招くもとになります。逆に、下痢の軟らかすぎる便も、痔瘻をつくる切っ掛けになります。
また、肉体疲労は筋肉に疲労物質をため、免疫力を低下させますので、肛門に炎症が起こりやすくなります。ストレスも、免疫力を低下させるとともに自律神経を乱し、便通の異常を生じる原因になります。
さらに最近では、夏の冷房で体が冷えすぎて、痔になる人が増えています。体が冷えた場合、肛門括約筋が緊張したり、抹消血管が収縮して、血液の循環が悪くなるために、痔を誘発することになります。
過度の飲酒も、アルコールが血管を拡張しますので、肛門の炎症や便通の乱れにつながります。
セルフケアと薬が治療の基本
どのような痔も、当人の生活習慣が大きな原因となっていますから、治療の第一は日常生活でのセルフケア、第二が薬です。
どんないい薬を使おうと、生活習慣を変えない限り、痔は治りません。手術が必要な痔瘻を除いて、生活習慣の改善と、薬で症状を軽くしていく保存療法が、治療の基本になります。
日常のセルフケアには、三つのルールがあります。第一には、病名がきちんと診断されていること。「痔だとばかり思っていたら、大腸がんだった」というケースが増えているので、「本当に痔なのか、ほかの病気は隠れていないのか」、専門の肛門科医に診察してもらうことが必要です。
とりわけ痔の場合、どんなに不快な症状があっても病院へ行かず、自己療法で我慢している人が少なくありません。「恥ずかしいから」、「命にかかわる病気ではないから」、「手術はしたくないから」などの理由で受診が遅れるのが一般的ですが、痔の種類にもよるといえど、ほとんどの痔は早く治療を始めれば、手術しないで治すことができます。排便時の出血や痛みといった気になる症状があれば、自己判断せずに、受診するのがよいでしょう。
第二には、医師や看護師などの指導を受けて、計画を立てて行なうこと。第三には、長続きできる方法で行なうことです。
日常生活におけるセルフケアのポイントを挙げれば、排便のコントロールで、規則正しい便通習慣をつけることが大切です。便意を感じたら我慢しないでトイレに行くこと、便意がないのに息むと肛門に負担を強いるのでトイレは3分で切り上げることも、痔の予防や治療のために心掛けたい習慣です。
食物繊維を多くとるなど、食事を見直すことも大切。肉体疲労やストレスは痔を誘発するだけでなく、健康も損なうので、休養と睡眠を十分にとり、映画やスポーツ、散歩、旅行など自分に合った趣味を楽しむことで、リラックスをはかるようにします。
冷え対策としては、冬よりも夏の冷房に要注意です。特に、電車の中やデパート、スーパーマーケットなどは冷房が効いているので、カーディガンを羽織るなどして体を冷やさない工夫を。
飲酒については、酒を断つ必要はありませんが、適量を心掛けましょう。アルコール代謝能力には個人差があるため、ほろ酔い程度が適量となります。
痔の検査と診断と治療
病院で医師が薬を使うのは、痔による痛みや出血、腫れを和らげるほかに、肛門内を薬の膜で覆って、排便時の刺激を減らす目的もあります。
日常生活のセルフケアと薬による保存療法を行なっても、効果や改善がみられないケース、再発を繰り返すケースでは、手術ということになります。とはいえ、なるべく手術をしないで治すのが医師側の主流となっていますし、最近では炭酸ガスレーザーによる、切らない手術で、痔核、裂肛、痔瘻を治療している施設もあります。
内痔核には、「保存療法」、「切らない治療法」として肛門を清潔にして、便秘や下痢にならないように便通を整える目的で、座薬や軟膏を使用したり、鎮痛剤や抗消炎剤を投与します。
この内痔核や脱肛の患者には、PPHと呼ばれる自動縫合器による直腸粘膜切除術が日本でも行なわれるようになり、普及しつつあります。PPHという新しい痔の手術法は、1993年にオーストリアのセントエリザベス病院の大腸・肛門外科部長により開発されたもので、治療の対象になるのは主に内痔核。特殊な専用機器で下部直腸粘膜にできた内痔核を上に押し上げ、機器で簡単に切除し、縫合します。手術後の肛門がきれいで、手術後の痛みが少ないのが特徴で、日帰り手術も可能ですが、日本では健康保険に採用されておらず自費となります。
外痔核の場合、座薬や軟膏の塗布や温浴などにより多くの方が軽快しますが、なかなか治らない場合に手術が行なわれます。
痔瘻の場合、座薬や軟膏などの外用薬で出血や痛み、腫れなどの症状を和らげた上で切開処置しても、再発を繰り返し、なかなか自然治癒しません。手術で切り取るケースが、ほとんどとなります。
痔の予防と痔を悪化させないための注意事項
1)お風呂は毎日入る
2)肛門を清潔に保つ
3)規則正しい便通習慣をつける
4 )食物繊維を多くとり、便秘や下痢をしないように注意する
5)トイレでは、強く息まない
6)十分な休養と睡眠を心掛け、リラックスをはかる
7)アルコールは適量、あるいは飲まない
8)おしりを冷やさない
9)長く座ったままの状態でいない
10)便器は、シャワー付き・便座ヒーター付きを利用する
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