肩の使いすぎなどにより、肩の筋肉を支配している肩甲上神経が損傷する疾患
肩甲上神経損傷とは、野球のピッチャーなどの投球動作による肩の使いすぎにより、肩の筋肉を支配している神経が損傷する疾患。
この肩甲上神経損傷は、利き腕の上腕を肩より上に上げてボールなどを投げたり、打ったりするオーバーヘッドスローイング動作を行うスポーツ全般で生じる傾向にあり、野球のピッチャー、キャッチャーのほか、バレーボールのアタッカー、アメリカンフットボールのクォーターバック、あるいはサーブやスマッシュを行うテニス、ハンドボール、陸上競技のやり投げ、水泳のクロールとバタフライなどでも生じます。
肩甲上神経は、首の付け根から出て、肩甲骨の上のほうにある肩甲切痕(せっこん)という骨の溝を擦り抜けるようにして、肩の筋肉である棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)へつながっている末梢(まっしょう)神経です。棘上筋と棘下筋の動きを支配しており、腕を上げるのに必要とされています。
元来、肩甲切痕の部分の肩甲上神経の走行に無理があるため、野球のピッチャー、バレーボールのアタッカーなどのように腕を上げる動作を繰り返すと、肩甲上神経が引っ張られ、なおかつ周囲の組織によって圧迫を受けるので、肩甲上神経損傷を生じることがあります。
また、骨のとげである骨棘(こっきょく)やガングリオン(結節腫〔(しゅ〕)が肩関節にできることによって圧迫されて、肩甲上神経損傷を生じることもあります。
結果として、腕を上げる動作や腕を外に広げる動作がしづらい、肩が重い、肩が疲れる、肩に力が入らない、肩が痛い、肩がしびれるなどの症状が出ます。
また、棘上筋にある肩甲切痕の部分で肩甲上神経が圧迫を受けると、棘上筋と棘下筋の筋肉がやせてきます。一方、棘下筋にある肩甲切痕の部分で肩甲上神経が圧迫を受けると、棘下筋だけがやせてきます。
腕が上がらない、肩の周囲の筋肉がやせてきているといった症状が出たら、整形外科を受診することが勧められます。
肩甲上神経損傷の検査と診断と治療
整形外科の医師による診断では、症状や電気生理学的検査などにより判断します。神経伝導検査と筋電図検査を行うことで、肩甲上神経の障害の程度や正確な障害部位を確認します。また、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行うことで、肩周辺部の骨棘やガングリオンなどの肩甲上神経を圧迫している病変を確認します。
鑑別すべき疾患には、いわゆる四十肩、五十肩といわれる肩関節周囲炎や頸椎(けいつい)疾患、腱板(けんばん)損傷があります。
整形外科の医師による治療では、筋委縮が軽度の場合は、オーバーヘッドスローイング動作をしばらく中止し、委縮した棘上筋、棘下筋などを強化していくようにします。同時に、肩周辺筋力のバランス強化を行います。副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンの注入や、肩甲切痕を広げて神経の圧迫を取り除く手術を行うこともあります。
痛みがひどく、筋委縮が重度の場合は、肩甲上神経を圧迫している骨棘やガングリオンなどを摘出する手術を行います。ガングリオンでは、太めの針の注射器で腫瘍中のゼリー状の内容物を穿刺(せんし)吸引する方法もありますが、再発しやすいのが欠点です。
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