極めて感染力の強い「はしか(麻疹)」の感染が、国内で広がりつつあります。はしかは感染者と同じ空間にしばらくいるだけで空気感染し、発症すると重症化して命にかかわることもあり、専門家は「侮ってはいけない病気だ」と警戒を呼び掛けています。
それを端的に示すケースが今年報告されました。切っ掛けは、インドから帰国後の4月27日に感染が確認された茨城県在住の30歳代男性でした。男性は発熱やせきの症状が現れた後、新幹線で新神戸から東京に移動しており、同じ車両に乗っていた東京都内の30歳代の女性と40歳代の男性の感染が後に明らかになりました。さらに、この男女のどちらかと接触した5歳未満の子供2人の感染も確認されました。
厚生労働省は、患者が公共の場を移動した結果、感染が広がったとみて事態を重大視。5月12日、各都道府県などに対し、保健所や医療機関に注意喚起するよう通知しました。
国立感染症研究所も、「感染性を有する期間に不特定多数の方と接触があった可能性があり、今後、広域的な感染拡大の可能性が危惧される」として注意を呼び掛けています。
国立感染症研究所などのデータでは、今年の感染者数は5月21日の時点で10人となりました。21日までの1週間で3人増えました。
感染者の報告があった地域は、茨城県、東京都、神奈川県、新潟県、大阪府、兵庫県の6都府県となっています。
はしかの1年間の感染者数は、全数調査が始まった2008年には国内で大規模な流行があり、1万1013人に上りました。
しかし、2015年には35人にまで抑え込み、すべて海外から入り込んだケースだったため、日本は世界保健機関(WHO)からはしかの「排除状態」にあると認められました。
2019年にははしかの感染の報告が相次ぎ、1年間で744人が感染したと報告されましたが、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大以降は海外との人の往来が少なくなったこともあって低い水準となり、一昨年は6人、昨年も6人でした。今年は5月の時点ですでに上回っています。
はしかに警戒が必要な理由は、感染力が極めて強く、重症化したり死亡したりするケースがあることです。
はしかは麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症で、患者がせきやくしゃみをすることで放出された粒子にウイルスが含まれていて、それを吸い込むことで感染します。
空気感染のほか、飛まつや接触を通じて広がることもあり、感染力は極めて強く、免疫がない場合、感染者と同じ空間にいただけでほぼ確実に感染するとされています。
周囲の人に免疫がなく、対策がとられない場合、患者1人から何人に感染を広げるかを示す「基本再生産数」は「12から18」とされ、「2から3」ほどとされてきた新型コロナウイルスなどより感染力は格段に強いとされています。
はしかに感染した時に出る主な症状は、発熱やせき、発疹などです。熱は2日ほどでいったん下がった後、再び上がるのが特徴で、40度近くまで上がり、発熱は1週間ほど続くということです。
また、発疹は症状が出始めてから数日たたないと出ないため、最初のうちは、はしかと判断しにくいこともあるということです。
さらに、感染による合併症として肺炎や脳炎が引き起こされ、重症化するケースもあります。特に脳炎については、約1000人に1人の割合で起き、中には亡くなるケースもあります。
アメリカの疾病対策センター(CDC)によりますと、はしかに感染した子供1000人中、1人から3人は、呼吸器や神経系の合併症で亡くなるとしています。
妊娠している女性は、特に注意が必要です。妊婦がはしかに感染すると、合併症のリスクが高いとされ、流産や早産の可能性も指摘されています。
また、感染を防ぐためのワクチンは、ウイルスの毒性を弱めた「生ワクチン」で、妊娠している場合は接種を受けることが適当ではないとされています。
はしかを防ぐためには、あらかじめワクチンを接種しておくことが大切です。ただ、妊娠していることに気付かずにワクチンを接種してしまっても、リスクは低いとされています。
2023年6月1日(木)
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