厚生労働省は25日、海外で開発中の薬の早期承認を目指し、製薬会社が新薬開発を複数の国で進める国際共同の臨床試験(治験)前に求めていた日本人への事前の治験について、原則不要とする通知を出しました。
近年、海外で使える薬が日本で実用化されない「ドラッグロス」が問題となっており、製薬企業側の負担を減らすことで患者の不利益を解消する狙いがあります。
薬の承認を得るための臨床試験は一般的に3段階あり、少人数の患者らに薬を投与してから、最終段階は大人数を対象に実施します。
国際共同治験は、それぞれの国で承認を得るために必要なデータを集めるもので、主に最終段階の試験で行われます。副作用や効果の人種差も調べます。欧米のメガファーマ(巨大製薬会社)を中心に実施されていますが、医薬産業政策研究所によると、2000~2021年の国別実施数で、首位のアメリカを始め、欧米各国が上位を占め、日本は23位にとどまります。
これは、日本の独自ルールが妨げになっているとの指摘があります。日本が国際共同治験に参加する場合、厚労省は製薬会社に対し、原則として、事前に日本人で安全性などを確かめる臨床試験を実施するよう求めてきました。欧米ではこうした試験が必要となるケースはなく、多大な費用や時間がかかることから、欧米の製薬会社が国際共同治験の対象から日本を外すことにつながっているとみられます。
そこで、このルールを見直し、患者が少ない小児がんや難病の薬、ほかの投与データで日本人での安全性を確保できると判断できる場合は、事前試験を求めないようにします。
厚労省などによると、2020年時点で直近5年に欧米で承認された新薬のうち、日本では72%(176品目)が未承認で、2016年時点の56%(117品目)から増加しました。日本での承認が遅れる「ドラッグラグ」にとどまらず、使えないままになる「ドラッグロス」へと事態が深刻化しています。例えば、希少がんの「消化管間質腫瘍(GIST)」の治療薬「アバプリチニブ」は日本で使えません。
これまでの事前試験で、日本人特有の有害な影響が起きた事例はほとんど確認されていません。ただ、抗がん剤など重い副作用が起きやすく、臨床試験の情報も少ない場合は慎重に判断するよう促します。事前試験をしない場合は安全性に十分配慮し、必要に応じて投与後の検査の頻度を高めたり、少量の投与から始めたりして患者のリスクを下げます。
2023年12月27日(水)
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