ラベル がん の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル がん の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2022/08/23

🇦🇲腎細胞がん

腎臓の細胞にできるがんで、血尿が主な症状

腎(じん)細胞がんとは、腎臓の細胞にできるがん。腎臓に発生するがんの約90パーセントを占めることから、単に腎がんとも呼ばれます。

がんは、腎臓の実質で、尿を作る腎尿細管上皮細胞から発生します。年間発生者数は1万〜1万2000人と推定され、発症年齢は50〜60歳代が最も多く、男女比はほぼ2〜3対1の割合です。

原因は不明ですが、発症の危険因子として、たばこや鎮痛解熱剤の大量摂取、ホルモン薬の常用、肥満、高血圧、糖尿病、心筋梗塞(こうそく)の既往がいわれています。また、腎不全により長期間血液透析を受けている人における腎細胞がんの発生頻度は、一般の人に比べて100倍ぐらい高いといわれています。これは血液中の尿毒症物質が原因と考えられています。

初期は、無症状です。近年は画像診断の普及により、人間ドックや他の疾患で医療機関を受診した際に偶然、無症状の小さな腎細胞がんが発見されることが多くなりました。

サイズの大きい腫瘍(しゅよう)においては、出たり止まったりの肉眼でわかる血尿、腎臓の疼痛(とうつう)、側腹部の腫瘤(しゅりゅう)が認められます。また、全身的症状として倦怠(けんたい)感、発熱、体重減少、食欲不振、貧血などを来す場合は、進行が速いといわれています。

腫瘍が静脈内に進展した場合は、下大静脈という腹部で一番大きな静脈が閉塞(へいそく)し、血液が他の静脈を通って心臓に戻るため、腹部体表の静脈が目立ったり、男性の陰嚢(いんのう)内の静脈が目立つ現象が起こることもあります。

腎細胞がんの転移しやすい臓器は肺と骨で、肺転移の多くは自覚症状に乏しく、骨に転移すると痛みを伴います。

まれに、腎細胞がんが産生するサイトカインという物質によって、赤血球増多症や高血圧、高カルシウム血症などが引き起こされることがあります。

腎細胞がんの検査と診断と治療

肉眼的血尿に気付いたら、泌尿器科、腎臓内科の専門医を受診します。人間ドックや検診などで腎細胞がんが疑われた場合は、すぐに泌尿器科の専門医を受診します。

医師による診断では、まず尿検査と腎臓の画像診断を行います。尿の検査では、血液の出血の有無、がん細胞の有無を調べます。画像診断では、超音波検査、CT検査(コンピューター断層撮影)、静脈性腎盂(じんう)造影や腎動脈造影で、腎臓の形の変化や動脈の分布状態を調べます。これらの検査で腎静脈や下大静脈の腫瘍による閉塞が疑われる場合には、MRI検査により進展範囲を診断します。

肺転移の有無は、胸部X線写真や肺CTによって検索します。骨転移の有無は、骨シンチグラフィを行って確認します。

医師による治療では、腎臓を摘出する手術が最善の方法です。薬物療法、放射線療法もありますが、これらはあくまでも手術の補助療法です。

手術は従来、開腹手術による腎臓の摘出だけでしたが、近年は開腹手術よりも術後が楽な腹腔(ふくくう)鏡下の手術が開発され、この方法で周囲脂肪組織も含めた腎臓の摘出も行われています。リンパ節切除も腹腔鏡下で行われます。

各種画像診断の普及から発見される機会が増加している、腫瘍サイズが3〜4センチと小さい腎細胞がんに対しては、腎臓を全部摘出せず、腫瘍とともに腎臓の一部のみを摘出する手術が行われています。このような手術を受けた場合でも、腎臓を全部摘出する手術を受けた場合でも、再発率、生存率については大差がないといわれています。

腎臓が摘出ができない症例に対しては、動脈塞栓(そくせん)術や凍結術が有効なこともあります。動脈塞栓術は、腎動脈を人工的に閉塞させ、がんに血液が流れ込まないようにする方法で、大きな腫瘍を摘出する手術に先立って行われることもあります。

薬物療法については、抗がん剤はほとんど無効ですが、インターフェロンやインターロイキンが有効なこともあります。

肺や骨などへの転移に対しては、自己の免疫力を高める免疫療法や分子標的治療を行うことが一般的です。転移巣が少数で、腫瘍の大きさや数が変わらない場合、経過観察後あるいは免疫療法後に、手術による転移部位の摘出が行われることがあります。肺の転移巣に対する外科療法では、長期生存も期待されます。さらに骨転移、脳転移などに対しても、外科療法や放射線療法が行われることがあります。

腫瘍サイズが3〜4センチと小さい腎細胞がんは、90パーセント以上が治癒しています。5〜6センチの腫瘍では20〜30パーセント、7〜8センチの腫瘍では、30〜40パーセントで再発を認めるといわれています。10センチ以上の大きな腫瘍や、転移のある腫瘍では、治癒率はより劣ります。発熱、体重減少、貧血などの症状のある腎細胞がんの予後は、無症状のがんより明らかに不良です。

🇲🇸精巣腫瘍(睾丸腫瘍)

精巣にはれ物ができ、がんであることが多い疾患

精巣腫瘍(しゅよう)とは、男性の生殖器官である精巣に、はれ物ができる疾患。悪性腫瘍、いわゆるがんであることが多く、睾丸(こうがん)腫瘍とも呼ばれます。

精巣、すなわち睾丸は、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしており、男性ホルモンおよび精子を産生しています。精巣腫瘍の頻度としては10万人に1〜2人の非常に珍しい疾患ですが、好発年齢は0~10歳、20~40歳、60歳以上の3つのピークがあります。

精巣腫瘍は、セミノーマ、胎児性がん、卵黄嚢(のう)腫瘍、奇形腫、絨毛(じゅうもう)がんと呼ばれるものに区分されます。これらのいずれも成人にはみられますが、セミノーマが最も多く、全体の約半数。乳幼児にみられるのは、卵黄嚢腫瘍と奇形腫。

がんでは進行が速く、リンパ管や血管を通じて容易に他の臓器に転移するので、放っておくと命にかかわることがあります。しかし近年では、治療法の進歩により9割以上の人が完治するようになりました。転移を起こしてしまった人でも適切な治療を行えば7〜8割の人が治りますが、進行した状態では治療が困難な場合もあります。

なぜがんができるのか、本当の原因はまだわかっていません。ただ、停留精巣や精巣発育不全などの疾患を持っている人、胎児期に母親がホルモン剤投与を受けた人は、精巣のがんになりやすいと見なされています。

症状で最も多いのは、痛みのない精巣のはれです。時には、痛みを伴うこともあります。一般に、痛みもなく、熱もないために放置しておくと、陰嚢の中の精巣の一部が硬くゴツゴツしたり、全体的にはれて大きくなってきます。かなり進行すると、腹部が膨らんだり、せきが出て胸が苦しくなるなど精巣腫瘍の転移による症状が現れます。

精巣腫瘍の検査と診断と治療

精巣のはれ物に気付いた場合には、恥ずかしがらずに泌尿器科の専門医を受診します。

医師による診断では、ほとんどの場合、触っただけで判断できます。判断に迷う場合は、懐中電灯を当てて中身が詰まっているかどうか調べたり、超音波で腫瘍の内部を検査します。診断が確定すれば、血液検査で腫瘍マーカーを調べ、がんが他の臓器に転移していないかどうかを全身のCTやアイソトープを使った検査で詳しく調べます。

治療では、まず腫瘍ごと精巣を取り除きます。陰嚢を切開せず、おなかの下のほうに傷ができる高位除精巣術と呼ばれる方法です。精巣は左右一対ありますから、片方を摘出しても、もう一方が正常に機能していれば、男性ホルモンや精子を産生する能力が低下したり、勃起(ぼっき)能が衰えるような後遺症はありません。

精巣を摘出した後、疾患がまだ全身に広がっていない時は、一般に再発予防の治療が行われます。医療機関によっては、摘出した後、定期的な精密検査のみの場合もあります。このような治療法で転移がない場合には、9割以上治ります。

すでにリンパ節や肺、肝臓、骨、さらに脳などに転移している場合は、シスプラチン、エトポシド、ブレオマイシンという3種の抗がん剤による治療が追加されます。1回5日間の点滴を3〜4週間おきに繰り返す方法で、3〜4回行うことが標準的。成人に最も多いセミノーマの場合は、放射線治療も有効です。このような治療で転移があるような進んだがんでも、7〜8割が完治します。

なお、転移が見付からないような初期のがんでも、将来2〜3割に転移が現れるため、予防的な抗がん剤投与や放射線治療を行う場合もあります。

2022/08/22

🇨🇳舌がん

口の中に発生するがんで、大部分は舌の両サイドに発生

舌(ぜつ)がんとは、口の中の舌前方に発生するがん。歯肉がん、唾液腺(だえきせん)がんなど口の中に発生するがんの中では、最も頻度が高くて約50パーセントを占めます。

この舌がんは、普通に鏡で見える範囲の舌前方の3分の2、すなわち舌背部後方にある8〜10個の突起に相当する有郭(ゆうかく)乳頭より、前方部に生じたがんをいいます。有郭乳頭より後方に発生したものは、舌根がんと分類されます。

好発部位は舌の側縁から下面で、特に臼歯(きゅうし)部に相当する側縁部に多く発症し、舌の先端、中央、裏面にできるのはまれです。組織学的には、その大多数が扁平(へんぺい)上皮がんですが、まれに腺系(せんけい)がんも発生します。初期の舌がんではアフタ性口内炎と間違えやすく、放置していると進行がんになります。

病変の表面には、こぶ状に膨らむ腫瘤(しゅりゅう)、びらん、潰瘍(かいよう)を形成することが多く、白板、肉芽(にくげ)、乳頭状を示すものもあります。白板型、肉芽型および乳頭型のがんは外向性に発育し、粘膜表層を広範囲に侵すものの、深部への浸潤は比較的少ない傾向があります。腫瘤型や潰瘍型は内向性に発育し、深部組織に深く浸潤して、嚥下(えんげ)障害や構音障害などを生じます。

頸部(けいぶ)リンパ節への転移も多くみられ、治療後に現れる後発転移も多く認められます。全経過をみると、約50パーセントに転移が認められます。通常、口腔(こうくう)がんでは病変と同じ側の頸部リンパ節へ転移しますが、舌がんでは両側に転移することもあります。

女性の約2倍と男性に多く、50〜70歳代に多く発生します。最近では、20歳代の若い人にも認められつつあります。発生の原因は、不明です。誘因としては、口腔内の不衛生、喫煙、飲酒、義歯や虫歯による持続的な刺激が考えられています。

早期では、ほかのがんと同じように、ほとんど自覚症状はありません。ただ舌の表面がわずかにザラザラしたり、白い斑点(はんてん)状の病変が認められるものが多いようです。

最初から浅いびらんや潰瘍ができる場合には、舌が歯にこすれて痛い、食べ物がしみるなどの症状がみられます。進行してくると、舌に硬いしこりが触れるようになり、しこりの表面には潰瘍を生じ、出血しやすく、次第に激しい痛みを伴うようになります。舌の動きが悪くなり、ろれつが回らない、飲み込みにくいなどの症状も現れます。

舌がんの検査と診断と治療

口内炎が治りにくかったり、舌の側縁に白い斑点があったり、しみて痛かったりしたら、耳鼻咽喉(いんこう)科や、口腔外科、頭頸部外科を受診します。

医師による診断では、触診を重視します。触診により、周囲の舌の軟らかさとがんの浸潤による硬さとの違いがはっきりします。表在性のがんの場合でも、触診に勝る診断法はありません。

舌の深部に浸潤している場合には、CT検査やMRI検査を行い、がんの広がりを診断すると同時に、頸部のリンパ節転移の有無を診断します。しかし、口腔のCT検査、MRI検査では、歯の治療に使われた金属材料のため十分な所見が得られないこともあります。確定診断には、潰瘍部の細胞片を採取して調べます。

治療方法には、大きく分けて手術治療と放射線治療の2つがあります。

長径2センチ未満や、長径2〜4センチ未満の舌がんでは、放射線治療が有効です。外から放射線を照射する方法ではなく、放射線を出す線源と呼ばれる針やワイヤーを舌に刺して、直接組織内に放射線を照射する方法です。治療の数日後に、刺した線源を抜き取ります。また、放射線を出して、次第にエネルギーが減衰していく金属の小粒子を埋め込む方法もあります。これらの放射線治療は、比較的浅い部分にあるがんで有効。

一方、手術治療は小さいがんでも有効です。大きな進行がんでは、切除手術と再建手術を同時に行います。舌がんでは部分切除術、半側切除術、亜全摘術、全摘術などがあります。部分切除術以上の切除では、再建手術を行います。

半側切除までであれば、手術後の言語は十分に保たれます。切除した部分が大きいほど、言語と咀嚼(そしゃく)、嚥下などの機能障害が強く出ます。近年では、再建手術が進歩したため、舌の3分の2を切除しても術後の機能は比較的良好で、社会復帰が容易にできるようになっています。

手術の前後に、放射線照射を行ったり、抗がん剤による化学療法を加えることもあります。術後は積極的に舌を動かして、リハビリテーションを行う必要があります。

頸部リンパ節転移に対する治療も、大切になります。初診時になかったリンパ節転移が治療後に現れることが、約20〜30パーセントにみられます。見付けたら早急に、転移のあるリンパ節のみならず、頸部のリンパ節を周囲の組織も含めてすべて摘出することが必要です。

リンパ節の後発転移が予後に影響し、舌がんの5年生存率は全体で約60パーセントです。

2022/08/21

🇶🇦大腸カルチノイド

がんに似た性質を持つ悪性腫瘍が大腸粘膜下に発生した疾患

大腸カルチノイドとは、カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍(しゅよう)が大腸粘膜下に発生した疾患。

カルチノイドは、がんの意味であるカルチと、類を意味するノイドが組み合わさった英語で、日本語で「がんもどき」とも呼ばれます。消化管内分泌細胞腫瘍、神経内分泌腫瘍、消化管ホルモン産生腫瘍と呼ばれることもあります。

がんと同様、カルチノイドはいろいろな臓器に発生します。胃、十二指腸、小腸、虫垂、直腸などの消化管内壁のホルモン産生細胞に発生し、膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺、気管支、胸腺(きょうせん)のホルモン産生細胞でも発生します。

このカルチノイドは、一般的には悪性度が低いと考えられています。実際、症状の進行もゆっくりで長期生存が期待できるものも多く、これらは定型カルチノイドと呼ばれています。一方、比較的早く症状が進行し治療が困難なものがあり、これらは非定型カルチノイドと呼ばれています。定型カルチノイドは非がん性、非定型カルチノイドはがん性と見なされます。頻度的には、定型カルチノイドのほうが多くみられます。

盲腸から始まる大腸は、時計回りに上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、そして直腸に区別できますが、大腸カルチノイドは特に直腸に多く、盲腸の先端にある虫垂、結腸にも発生します。直腸カルチノイドは、胃、十二指腸、小腸を含めた消化管カルチノイドの約4分の1を占め、全直腸がんの1パーセント未満を占めます。

大腸に発生したカルチノイドは、小型核を持つ形状をしていて、卵円形から円形をした細胞で構成されており、表面は大腸粘膜で覆われています。

胃や小腸にできたカルチノイド、あるいは虫垂や結腸にできた大腸カルチノイドでは、その腫瘍がセロトニンを始め、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジン、カテコールアミンなどのホルモン様の生理活性物質を分泌し、顔面紅潮、下痢、喘息(ぜんそく)などカルチノイド症候群と呼ばれる症状が出ることがあります。

顔や首に出る不快な紅潮は最も典型的で、最初に現れることが多い症状。この血管拡張による紅潮は、感情の高揚や、食事、酒類、熱い飲み物の摂取によって起こります。紅潮に続いて、皮膚が青ざめることもあります。

セロトニンに起因して腸の収縮が過剰になると、腹部けいれんと下痢を生じます。腸は栄養を適切に吸収できないため栄養不足になり、脂肪性の悪臭を放つ脂肪便が出ます。心臓も傷害を受けて、下肢がはれます。肺への空気の供給も妨げられて、気管支喘息に似た発作や息切れが現れます。セックスへの興味を失ったり、男性では勃起(ぼっき)機能不全になることもあります。

ただし、直腸にできた大腸カルチノイドでは、このようなカルチノイド症候群の症状が起こることはめったにないとされています。直腸の腫瘍が大きくなって表面に潰瘍(かいよう)が生じると、血便を起こすようになります。疼痛(とうつう)、便秘を起こすこともあります。

無症状の直腸カルチノイドは、他の症状で直腸検査または大腸内視鏡検査を受けて、偶然発見されることがあります。

大腸カルチノイドを放置しておくと、転移して大腸がんのような経過をたどることがあります。最悪の場合は命を落とすこともあるので、カルチノイド症候群による種々の症状、あるいは血便などが現れた場合は、消化器科、外科の医師を受診します。主症状が腹痛なので、内科を受診することがあるかもしれませんが、それでも問題はありません。

大腸カルチノイドの検査と診断と治療

消化器科などの医師による診断では、症状から大腸カルチノイドが疑われる場合は、尿を24時間採取して、尿中のセロトニンの副産物の1つである5ーヒドロキシインドール酢酸(5ーHIAA)の量を測定し、その結果から判断します。

この検査を行う前の少なくとも3日間は、バナナ、トマト、プラム、アボカド、パイナップル、ナス、クルミといったセロトニンを豊富に含む食べ物を避けます。ある特定の薬、せき止めシロップによく使われるグアイフェネシン、筋弛緩(しかん)薬のメトカルバモール、抗精神病薬のフェノチアジンなども検査結果の妨げになります。

腫瘍の位置を突き止めるには、放射性核種走査(放射性核種スキャン)が有効な検査です。カルチノイドの多くはホルモンのソマトスタチン受容体がありますので、放射性ソマトスタチンを注射する放射性核種走査によって、腫瘍の位置や転移の有無が確認できます。この方法で約90パーセントの腫瘍の位置がわかります。

CT(コンピューター断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、動脈造影も、腫瘍の位置を突き止めたり、腫瘍が肝臓に転移していないかを確認するのに役立ちます。腫瘍の位置の診査手術が必要な場合もあります。

腫瘍が虫垂、結腸、直腸など一定部分に限定していれば、外科的切除で治癒することがあります。大腸カルチノイドの腫瘍径が1cm以下の良性である場合は、内視鏡切除が行われます。腫瘍径が1cm以上2cm以下である場合は、大腸壁の筋層まで入っていることが少なくないので、外科手術で局所切除をすべきだと考えられています。腫瘍径が2cm以上であり、表面が結節状になっていて、びらん、潰瘍を伴う悪性である場合は、原則として外科手術が必要となります。

ただし、腫瘍径が1cmに満たないものでも、切った断面にカルチノイド細胞が残ることがあります。そのため、切除をした後に再発の有無について調べる病理検査を定期的に受けなくてはなりません。

腫瘍径が2cmを上回る場合は、リンパ節に転移する可能性が高くなってくるため、大腸がんと同様に腸を切除する根治手術が原則として行われます。放置すると腫瘍が増殖を続け、大腸がんと同じ経過をたどります。

直腸カルチノイドの治療では、経肛門(けいこうもん)的内視鏡下マイクロサージェリー(TEM)という手術法も有効だとされています。これは、腹部を切開しなくても、肛門から直腸の奥深くまで届き、顕微鏡を見ながら正確な手術ができるという手術法です。筋肉も含めてカルチノイド細胞を完全に切除し、縫合もきれいにできるとされています。

腫瘍が肝臓に転移している場合、手術で治すのは困難ですが、症状が緩和されることがあります。腫瘍の増殖は遅いので、腫瘍が転移している人でさえ、10〜15年生存することがしばしばあります。

進行した場合、一般のがんと同様に放射線療法や、抗がん剤による化学療法を含めた集学的治療を行います。ストレプトゾシンにフルオロウラシル、時にはドキソルビシンなどの抗がん剤の併用によって、症状を緩和できることがあります。オクトレオチドもホルモン産生や腸の収縮を抑制して症状を緩和し、タモキシフェン(ホルモン剤)、インターフェロンアルファ(生物学的応答調節剤)、エフロルニチンは腫瘍の増殖を抑制します。

カルチノイド症候群による紅潮を抑えるためには、フェノチアジン、シメチジン、フェントラミンが使用されます。

🇶🇦大腸がん

食生活の欧米化で増加する一方

大腸がんとは、大腸の粘膜に悪性の腫瘍(しゅよう)ができた疾患です。発生部位によって、大腸の大部分を占める結腸にできた結腸がんと、肛門(こうもん)までの10センチ前後に相当する直腸にできた直腸がんとに分類できます。

従来、日本人には比較的少ないがんとされてきましたが、近年、増加する一方で、年間約6万人の罹患(りかん)者数は、胃がんに迫っています。この大腸がんの増加の原因として、食生活の欧米化による、食物繊維の摂取不足と動物性脂肪の摂取増加が挙げられます。

大腸がんの発生部位でみると、直腸と結腸で半々の割合ですが、結腸の中でもS状結腸がんが増加する傾向にあります。罹患の頻度は男性、女性ともに同じで、60代が一番多く、70代、50代と続きます。若年者の大腸がんでは、遺伝的な素因もあると見なされています。

結腸がんの症状は腹痛と血便

盲腸、結腸、直腸の3部からなる大腸のうち、結腸にできた悪性の腫瘍が、結腸がんです。結腸は、上行、横行、下行、S状の各結腸からなります。

長さ約1・5メートルに渡る大腸の壁は、内腔側から粘膜(固有層)、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層という5つの層に分かれています。このうち、がんが粘膜内から粘膜下層にとどまっているものを早期結腸がん、固有筋層以下にまで進んでいるものを進行結腸がんといいます。

最もがんができやすいのは、直腸に近いS状結腸で、下行結腸、横行結腸、上行結腸の順に少なくなっていきます。 小腸から送られてきた内容物である便のもとは、管腔(かんこう)の広い上行結腸に入った時には、まだ水のような状態です。管腔の狭い下部の下行結腸からS状結腸に至って、特に硬くなるために腸壁を傷付けてしまうことがあるのが、S状結腸や下行結腸にがんが多い理由です。同時に、硬くなった便の滞留時間が長くなることも、悪影響を与えると考えられています。

結腸がんの初期症状として最も多いのは、腹痛。右側の結腸、すなわち盲腸及び上行結腸、横行結腸右半分のがんでは、80パーセントに腹痛が認められ、嘔吐(おうと)を伴うことが少なくありません。また、がんの部位からの出血によって血便が出ることがありますが、これは鮮やかな赤色ではなく、便が全体に暗赤色に変わったり、黒っぽい血塊が便に混じったりします。

左側の結腸、すなわち横行結腸左半分、下行結腸、S状結腸では、がんのために腸が狭窄(きょうさく)を起こすことが多く、便秘と下痢が交互に繰り返して起こったり、腸の一部がふさがる腸閉塞(へいそく)症を起こしたりします。

早期症状としては、やはり腹痛が最も多く、差し込むような痛みが多く生じます。血便などの下血症状も、半数の人に認められます。

しかし、結腸がんでは、発病してから2~3年はほとんど自覚症状を感じないままに過ぎ、貧血が進行して倒れるようになってから、初めてがんと知ることもあります。

ポリープから発生する直腸がん

大腸のうち、直腸の粘膜にできた悪性の腫瘍が、直腸がんです。直腸は便の滞留時間が長いため、腸壁が傷付くことが多く、さらに排便時の硬い便がさまざまな刺激となり、がんの前身である腺腫(せんしゅ)性ポリープを発生させる原因になると考えられています。

直腸がんでは、この腺腫性のポリープから発生するものが大部分で、腺腫を介さず直接粘膜からがんが発生するものは少数です。

代表的な初期症状は、血便。がんの前身であるポリープが大きくなると、便秘しがちになり、便がポリープを傷付けて出血を起こします。さらに、ポリープにがんが発生して広がってくると、崩れて傷付き、出血するようになります。

肛門からの出血は、痔(じ)出血と間違えるほど真っ赤ですから、非常にはっきりした自覚症状といえます。血液だけではなく、粘液の排出もしばしばあり、がんが進むと、悪臭のある腐敗性のものが排便と同時に排出されます。

また、直腸の炎症を一緒に起こすため、下痢と度重なる便意がくることもあります。がんのために直腸が狭まると、便が細くなり、周囲に血液が付いてきます。出血を繰り返すと、貧血が強くなり、めまいを起こすようにもなります。

痛みは初期にはほとんどなく、がん病巣の潰瘍(かいよう)が大きくなったり、直腸の狭窄が強まったりすると、腹部膨満や腹痛、あるいは肛門や臀部(でんぶ)に放散する痛みが起こります。

しかし、これといった症状がほとんどないうちに突然、腸閉塞症として発病することもまれではありません。

医師による検査、診断、治療

大腸がんは、早期のうちに発見し患部を取り除けば、ほぼ100パーセント近く完治できる病気です。無症状の時期にがんを発見するには、便の免疫学的な潜血反応を調べます。簡単に行えて体に負担のない検査で、陽性と出た場合には、大腸X線検査や大腸内視鏡検査が行われます。しかし、陽性と出ても必ず大腸がんがあるわけではなく、逆に進行した大腸がんがあっても陰性になることもあります。

排便時の出血や便通異常がある場合には、血液検査で貧血の有無、腹部のX線検査でガスの分布の状態を調べます。腹部の触診では腫瘤(しゅりゅう)、すなわち、こぶを触れることがあり、直腸がんでは肛門から指を入れて触るだけで、ポリープ、がんなどの有無を診断できることもあります。ポリープがあれば、内視鏡でポリープ全体か部分を採取して、組織検査を行い、良性か悪性かを診断します。

確定診断をするためには、食事制限と下剤により大腸を空っぽにして、肛門から造影剤を入れてX線写真を撮る注腸検査と、下剤で大腸を洗浄し肛門から内視鏡を挿入して直接大腸の内腔を観察する大腸検査が必要です。大腸内視鏡検査は、挿入技術の進歩と器械技術の進歩により、苦痛も少なくかつ安全にできるようになっています。

内視鏡検査では、直接大腸の内側を観察し、異常があれば一部をつまみ取って顕微鏡で良性か悪性かを調べます。ポリープやごく早期のがんであれば、内視鏡で簡単に治療が可能で、診断と治療を同時に行うことも可能。

また、がんの進行度によっては、周囲の臓器への広がりや、肝臓やリンパ節への転移の有無を調べるために、腹部の超音波検査、CT検査、MRI検査を行うこともあります。近年では、早期がんの進行度を調べて治療方針を決めるために超音波内視鏡検査を行うこともあります。

大腸がんの治療の原則は、がんを切除することです。がんが粘膜下層までにとどまっている早期がんの中でも、粘膜下層の浅いところまでであれば転移の心配はなく、内視鏡での治療が可能です。また、肛門に近いところにできた早期の直腸がんでは、おなかを開けずに手術を行います。

リンパ節転移の可能性があり内視鏡治療ができないのものや、固有筋層以下にまで達している進行がんでは、外科手術が必要です。手術では開腹し、腫瘍を含めた大腸の一部を切除してリンパ節をきれいに取り除き、残った腸をつなぎ合わせます。

また、近年では小さな傷で手術ができる腹腔鏡を用いた治療が急速に普及してきており、早期がんばかりではなく隣接臓器に浸潤していない進行がんに対しても、行われるようになってきています。

進行した直腸がんでは、肛門から離れている場合には肛門の筋肉が温存できる低位前方切除術が行われ、最近ではさらに、術後の性機能や排尿機能を温存するように必要最低限の手術が行われています。

それ以外では、人工肛門(ストーマ)が必要なマイルス法で手術が行われます。人工肛門もさまざまな装具が開発されており、普通に社会生活が送れるようになっています。

がんが広がりすぎていて不能な場合には、抗がん薬を用いた化学療法、放射線療法、免疫療法などが行われます。

生活習慣の改善アドバイス

大腸がんの発生を防ぐには、生活習慣を改善することです。完全ではありませんが、ある程度の予防は可能です。

●食物繊維を豊富に含む、野菜、いも類、穀類、茸類、海草類などを積極的に取る

●主食はなるべくご飯にする

●動物性の高脂肪、高蛋白(たんぱく)の食物を過度に取りすぎない

●1日3回決まった時間に食事をする

●禁煙する

●お酒は適量を守る

●規則正しい排便習慣を身に着け、便意を我慢しない

●生活リズムを整え、毎日適度な運動をする

🇾🇪大腸ポリポーシス

ポリープが大腸の全体に多数できるとともに、大腸以外の消化管や全身の臓器にも異常を伴う疾患群

大腸ポリポーシスとは、ポリープが大腸の全体に多数できるとともに、大腸以外の消化管や全身の臓器にも異常を伴いやすい疾患群。消化管ポリポーシス、ポリポーシス症候群とも呼ばれます。

種々の疾患が含まれていますが、腫瘍(しゅよう)性の大腸ポリポーシスと、非腫瘍性の大腸ポリポーシスに大きく分けられます。

腫瘍性の大腸ポリポーシスには、家族性大腸腺腫(せんしゅ)症(家族性大腸ポリポーシス、ガードナー症候群)とターコット症候群があります。

非腫瘍性の大腸ポリポーシスには、過誤腫性の大腸ポリポーシスであるポイツ・イェガース症候群、若年性ポリポーシス、コーデン病、結節性硬化症、また炎症性の大腸ポリポーシスである炎症性ポリポーシス、良性リンパ濾胞(ろほう)性ポリポーシス、さらにそのほかの大腸ポリポーシスである過形成性ポリポーシス、クロンカイト・カナダ症候群が含まれます。

腫瘍性の大腸ポリポーシスおよび過誤腫性の大腸ポリポーシスに分類される疾患は、いずれも遺伝性があるので、まとめて遺伝性消化管ポリポーシスとも呼ばれます。

家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス、ガードナー症候群)

家族性大腸腺腫症は、遺伝子の変異が原因で、10歳代の半ばごろから、大量のポリープが大腸にできる疾患。

ポリープと呼ばれるいぼのようなものの中でも、良性のものは腺腫と呼ばれますが、大腸に数百個から数千個という多数のポリープができるのが特徴です。

2分の1の確率で親から子に常染色体優性遺伝し、5番目の染色体にあるAPC遺伝子の異常が原因で起こります。しかし、一部はAPC遺伝子以外のMUTYH遺伝子の異常によって起こり、常染色体劣性遺伝を示します。

ポリープの発生は多くの場合学童期に始まりますが、ポリープの数が数十個と少ない人や、成人以後にポリープが多発する人もいます。

ポリープが大きくなり、1センチ以上になると、3、4個に1個はがん化します。

この家族性大腸腺腫症では、20歳代ごろから大腸がんになる人が出始め、40歳までに半数、60歳までには90パーセントが大腸がんになるとされます。

症状としては、ポリープが多発するために、血便が出たり、貧血になったりすることがあります。また、下痢や便秘などの便通異常になることもあります。大腸以外にも、胃、十二指腸、小腸、骨、軟部組織、目など全身の臓器に、ポリープあるいは腫瘍状病変ができることがあり、それぞれの症状を現すことがあります。

大腸にポリープが一般に100個以上ある人は、家族性大腸腺腫症が疑われます。ポリープの数が100個以下でも、近親者に大腸ポリープが多発している人がいる場合、家族性大腸腺腫症が疑われます。

大腸切除を行わなければ、将来ほぼ100パーセント大腸がんができます。血便などが現れた場合は、消化器科、消化器外科、外科、あるいは肛門(こうもん)科の医師を受診します。

ターコット症候群

ターコット症候群は、ポリープが大腸の全体に多数できるとともに、脳など中枢神経系の腫瘍を伴う遺伝性の疾患。家族性大腸腺腫症とは別の疾患と考えられています。

大腸にできるポリープの数は、家族性大腸腺腫症に比べて少ない傾向にあるものの、比較的大きな腺腫が認められ、がんが高率に合併するとされています。

ポイツ・イェガース症候群

ポイツ・イェガース症候群は、消化管に過誤腫性ポリポーシスが多数できるとともに、皮膚粘膜の色素沈着を伴う遺伝性の疾患。消化管がん、卵巣がん、子宮がんなど多臓器にわたってがんが高率に合併し、がんの高危険群とされています。

ポリープは、食道を除く胃から大腸までの消化管全体に発生します。特に、小腸が好発部位で、しばしば上方の腸管が下方の腸管の中に入り込む腸重積(じゅうせき)を伴い、イレウス( 腸閉塞〔へいそく〕)症状や腹痛を起こします。血便、ポリープの肛門脱出を認めることがあります。

色素沈着は、口唇や口腔(こうくう)粘膜、四肢末端部に、米粒大の黒褐色の色素斑(はん)として認められます。

若年性ポリポーシス

若年性ポリポーシスは、消化管に過誤腫性ポリポーシスが多数できる遺伝性の疾患。ポリープの分布によって、大腸限局型、胃限局型、全消化管型の3型に分けられます。

血便やポリープの肛門脱出が主な症状で、ポリープの一部に腺腫やがんを合併することもあります。

コーデン病

コーデン病は、消化管に過誤腫性ポリポーシスができるとともに、顔面の多発性丘疹(きゅうしん)、四肢末端の角化性小丘疹、口腔粘膜の乳頭腫を伴う遺伝性の疾患。

結節性硬化症

結節性硬化症は、消化管に過誤腫性ポリポーシスができるとともに、顔面の血管線維腫、脳内多発結節性病変、精神遅滞、腎(じん)血管筋脂肪腫を伴う遺伝性の疾患。ポリープは、大腸と胃に多発します。がんを合併することは、まれです。

クロンカイト・カナダ症候群

クロンカイト・カナダ症候群は、消化管にポリポーシスができるとともに、皮膚色素沈着、爪(つめ)の委縮、脱毛などを伴う非遺伝性の疾患。そのほか、消化管からの蛋白(たんぱく)漏出による低蛋白血症、貧血、味覚異常も認められます。原因は不明です。>ポリープは、胃、小腸、大腸、まれに食道にもみられ、腺腫やがんを合併することもあります。

大腸ポリポーシスの検査と診断と治療

家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス、ガードナー症候群)

消化器科などの医師による診断では、食事制限と下剤により大腸を空っぽにして、肛門から造影剤を入れてX線写真を撮る注腸検査と、下剤で大腸を洗浄し肛門から内視鏡を挿入して直接大腸の内腔を観察する大腸検査を行います。大腸内視鏡検査は、挿入技術の進歩と器械技術の進歩により、苦痛も少なくかつ安全にできるようになっています。

内視鏡検査で直接大腸の内側を観察し、ポリープを採取して組織検査を行い、多数の腺腫が確認されれば、家族性大腸腺腫症と確定できます。できれば遺伝子検査まで行って、APC遺伝子の異常を確認しておくと、治療法の選択や近親者の早期診断に役立ちます。

また、胃・十二指腸のX線および内視鏡検査、骨X線検査、眼底検査などを行い、大腸以外の病変をチェックしておく必要があります。

消化器科などの医師による治療では、大腸がん合併の有無を問わず、大腸を切除し、小腸を肛門につなげる手術を基本とします。直腸を温存する場合は、残った直腸にがんができないかどうか、大腸内視鏡で定期的に観察しなければなりません。

近親者の調査によって無症状で発見された場合、大腸の予防的手術は遅くても20歳代前半までに行うべきとされています。

一方、大腸以外の腫瘍状病変に対しては、がん化の危険性は極めて低いので、予防的手術の必要はありません。

ターコット症候群

消化器科などの医師による治療は、家族性大腸腺腫症と同じです。

ポイツ・イェガース症候群

消化器科などの医師による診断では、口や手足の先の色素沈着で気が付くことがあります。このポイツ・イェガース症候群を疑い、胃や腸の検査をすることで確定します。

消化器科などの医師による治療は、大きなポリープに対して、内視鏡下で切除する内視鏡的ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)を行います。内視鏡を挿入した後、スネアとよばれる金属でできた輪でポリープの根元を引っ掛けて絞扼(こうやく)し、高周波電流を流して焼き切る方法(スネアリング)が一般的で、開腹など外科的手術に比べて患者の負担が少ないというメリットがあります。

小腸ポリープについては、従来は開腹下で切除していましたが、最近では小腸内視鏡で切除することが多くなっています。しかし、腸重積を伴う場合は、手術を行います。

なお、口唇や口腔粘膜の色素沈着が美容上で問題になる時は、皮膚科あるいは形成外科で診療の上、レーザーで治療します。

若年性ポリポーシス

消化器科などの医師による治療は、ポリープに対して、内視鏡下で切除する内視鏡的ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)を行います。

コーデン病

消化器科などの医師による治療は、確立した治療法がないため、対症療法を行います。全身の臓器にわたってがんが高率に合併するため、定期的な検査を受ける必要があります。

結節性硬化症

消化器科などの医師による治療は、消化管ポリポーシスに対しては内視鏡的切除の適応とはなりませんが、定期的な検査を受ける必要があります。

クロンカイト・カナダ症候群

消化器科などの医師による治療は、がんを伴う場合を除いて保存的に行い、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)を投与する薬物療法や、栄養療法を行います。予後は一般的に不良とされていますが、最近は栄養療法の導入によって改善されつつあります。

🇨🇾唾液腺がん

唾液を作る臓器である唾液腺のうち、耳下腺などの大唾液腺に発生するがん

唾液腺(だえきせん)がんとは、唾液を作る臓器である唾液腺のうち、大唾液腺に発生するがん。

唾液腺には、大唾液腺と小唾液腺とがあります。大唾液腺は、耳の前から下に存在して、おたふく風邪の際にはれる耳下腺、あごの下に存在する顎下(がくか)腺、舌の裏に存在する舌下腺に分けられます。一般に、食事が口に入った時に分泌される唾液は耳下腺から、安静時、特に睡眠中に分泌される唾液は主に顎下腺からと考えられています。

小唾液腺は、口腔(こうくう)粘膜、咽頭(いんとう)粘膜に無数に存在します。

頭頸(とうけい)部がんの中でも、唾液腺がんは5パーセント程度と少なく、そのほとんどは耳下腺と顎下腺に発生し、舌下腺がんは極めてまれです。一般に頭頸部がんは粘膜上皮から発生することが多いため、扁平(へんぺい)上皮がんという組織がほとんどですが、唾液腺は複数の細胞が集まっていますので、唾液腺がんの病理組織も多彩であることが特徴で、世界保健機関(WHO)の分類で18種類。

また、病理組織型により悪性度も異なります。耳下腺腫瘍(しゅよう)の80パーセントは良性なのに対して、顎下腺腫瘍では50〜60パーセントが悪性です。

唾液腺がんができやすいのは、50歳以降の年齢層で、男性が女性の約2倍となっています。若い年齢層にも、決してまれではありません。

初期症状は、耳下腺や顎下腺、舌下腺がある部位に腫瘤(しゅりゅう)を認めるだけです。進行すると、首のリンパ節がはれたり、耳下腺がんでは顔面神経まひが起こったり、口が開けにくくなったりするような症状を伴ってきます。顎下腺がんでは痛みが伴うことがあります。

一般に進行は遅いものの、急速に進行して腫瘤が急激に大きくなることもあるので、あまり大きさが変わらないからといって、良性とは判断できません。

唾液腺がんの検査と診断と治療

唾液腺がんの診断は、視診、触診、細い針で腫瘍細胞を吸引して検査をする吸引細胞診や組織生検で行われます。さらに、耳下腺や顎下腺の開孔部から造影剤を注入してX線撮影する唾液腺造影法、CT検査、MRI検査、超音波検査などで、進展範囲、頸部リンパ節転移、遠隔転移の程度を調べて病期分類を決定し、進行度を判定します。

唾液腺がんの治療の基本は、手術になります。がん手術は腫瘍周囲の安全域を含めて切除することが基本なので、腫瘤自体が小さくても顔面神経や皮膚、下顎骨と近い場合は、これらも一緒に切除することもあります。

神経を切除した場合は、神経を移植してまひの程度を軽くします。下顎骨を切除した場合には、咀嚼(そしゃく)に不便を感じることが多いものの、嚥下(えんげ)や会話は可能。近年では、肋骨(ろっこつ)、腸骨、腓骨(ひこつ)、 肩甲骨などを用いて下顎骨を再建するようになってきているため、手術後の障害は大幅に解消されつつあります。

手術前に遠隔転移があったり、全身状態が不良な場合は、手術以外の方法を選択することもあります。しかし、唾液腺がんのうち、耳下腺がんでは放射線や化学療法は一般的な治療ではありません。放射線治療単独では根治は望めないものの、手術後に放射線治療を加えることはあります。未分化がんや、腺がんの一部には、手術に加えて抗がん剤による化学療法を行う場合もあります。

頸部のリンパ節に明らかな転移があれば、転移のあるリンパ節のみならず、頸部のリンパ節を周囲の組織も含めてすべて摘出します。がんの病理組織型によっては、予防的にリンパ節を摘出する場合もあります。 摘出手術後には、首から肩にかけての知覚および運動機能の低下が問題になりますので、積極的に肩を動かしてリハビリテーションを行う必要があります。

唾液腺がんの生存率についての全国的なデータはありませんが、いくつかの病院が調査したデータによると、5年生存率は50パーセント程度とみられています。

2022/08/19

🌄日光角化症(老人性角化腫)

長期間、紫外線を受けて起こる前がん性の皮膚変化

日光角化症は、長い年月に渡って日光紫外線を受けたことが原因で起こる前がん性の皮膚変化。老人性角化腫(しゅ)とも呼ばれます。

日光紫外線を受けやすい顔面、耳、前腕、手の甲の皮膚に好発します。直射日光を受けて急性に起こるいわゆる日焼けとは異なり、長い年月に渡って慢性的に日光紫外線、特に中波長紫外線を受けることにより表皮細胞のDNAに傷ができるのが、その原因と考えられています。

日光に含まれる紫外線は肉眼では見えませんが、皮膚に最も大きな影響を与えます。体がビタミンDを作り出すのを助ける働きがあるので、少量ならば紫外線は有益なものの、大量に浴びると遺伝物質であるDNAが損傷を受け、皮膚細胞が作り出す化学物質の量と種類が変わってしまうのです。

発症者の年齢は、中高年層がほとんど。性差は、やや男性に多い傾向があります。日焼けの際に皮膚に紅斑(こうはん)を生じやすい人のほうが、褐色変化する人よりもなりやすいと見なされています。白色人種に比べて黒色人種、黄色人種では発症率が低く、日本人での発症率については沖縄県が高いという報告もあります。

症状としては、黄褐色のかさぶたを伴う大きさ1〜3cmの紅褐色の皮疹(ひしん)が現れることが多く、角化した部分はかさかさしたうろこ状となり、ぼろぼろむけます。色が濃くなったり、灰色がかったりすることもあり、触れると硬く感じられます。周囲の皮膚は薄くなり、多少の赤みがあります。皮疹が1カ所だけにできることも、複数の部位にできることもあります。軽度のかゆみを訴えるケースもありますが、皮疹以外に自覚症状を来すことはまれ。皮疹は自然に消えることもあれば、同じ部位や別の部位に再発することもあります。

老人性のいぼと間違いやすいので注意が必要なものの、前がん性の皮膚変化といっても実際に、扁平(へんぺい)上皮がん、または有棘(ゆうきょく)細胞がんにまで発展するケースは、数パーセントにとどまります。

日光角化症の検査と診断と治療

日光角化症では、いぼ(脂漏性角化症あるいは尋常性疣贅〔ゆうぜい〕)などと紛らわしいことがありますので、疑わしい場合は病変の一部を切り取って組織検査をする皮膚生検を行います。組織所見に基づいて、日光角化症を委縮性、ボーエン病様、棘(きょく)融解性、肥厚性、色素性に分類することもあります。

治療は通常、病変を液体窒素で凍結させて取り除きます。高齢者や角化部分の多発例では、液体窒素による凍結療法やCO2レーザー照射なども行います。また、角化部分の多発例では、フルオロウラシル入りのローションやクリームを塗ることもあります。フルオロウラシルは皮膚の発赤、うろこ状のかさつき、角化症の部分とその周囲の日光で損傷した皮膚をヒリヒリさせるなどの作用を起こすため、この治療を行うと皮膚の状態は一時的に悪化したようにみえます。

治療後も、外科的切除の取り残しがないことや再発の有無をみるため、定期的な経過観察が必要です。

日常生活での注意点としては、一見正常にみえる皮膚も日光紫外線のダメージをすでに受けているので、新たな病巣を生じないためにも、サンスクリーンを使用するとともに帽子などで直射日光を避けるようにします。日光の紫外線が最も強いのは、1日の中では午前10時から午後3時までの日中、季節では夏、地域では海抜の高い場所です。

🇦🇫乳がん

急増している、女性がかかるがんの第1位

乳がんとは、乳房に張り巡らされている乳腺(にゅうせん)にできる悪性腫瘍(しゅよう)。欧米の女性に多くみられ、従来の日本人女性には少なかったのですが、近年は右肩上がりに増加の一途をたどっています。すでに西暦2000年には、女性のかかるがんの第1位となり、30~60歳の女性の病気による死亡原因の第1位となっています。

2006年では、4万人を超える人が乳がんにかかったと推定され、女性全体の死亡数を見ると、乳がんは大腸、胃、肺に次いで4位ですが、1年間の死亡者数は1万1千人を超え、30~60歳に限ると1位を維持しています。

乳がんは転移しやすく、わきの下のリンパ節に起きたり、リンパ管や血管を通って肺や骨など他の臓器に、がん細胞が遠隔転移を起こしやすいのですが、早期発見すれば治る確率の高いがんでもあります。

代表的な症状は、乳房の硬いしこり。乳がんが5ミリから1センチほどの大きさになった場合、しこりがあることが自分で注意して触るとわかります。普通、表面が凸凹していて硬く、押しても痛みはありません。しこりが現れるのはむしろ、乳腺炎、乳腺症、乳腺嚢胞(のうほう)症など、がんではないケースの方が多いのですが、痛みのないしこりは乳がんの特徴の一つ。

さらに、乳がんが乳房の皮膚近くに達した場合、しこりを指で挟んでみると、皮膚にえくぼのような、くぼみやひきつれができたりします。乳首から、血液の混じった異常な分泌液が出てくることもあります。

病気が進むと、しこりの動きが悪くなり、乳頭やその周辺の皮膚が赤くなったり、ただれてきて汚い膿(うみ)が出てきたりします。

わきの下のリンパ節に転移すると、リンパ節が硬く腫(は)れてきて、触るとぐりぐりします。さらに進んで、肺、骨、肝臓などに転移した場合、強い痛みやせき、黄疸(おうだん)などの症状が現れます。

ただし、乳がんは他の臓器のがんとは異なり、かなり進行しても、疲れやすくなったり、食欲がなくなってやせてきたり、痛みが出るというような全身症状は、ほとんどありません。

乳がんが最も多くできやすい場所は、乳房の外側の上方で、全体の約50パーセントを占めます。次いで、内側の上方、乳頭の下、外側の下方、内側の下方の順となっていて、複数の場所に及んでいるものもあります。乳がんが乳房の外側上方にできやすいのは、がんの発生母体となる乳腺組織が集まっているためです。

乳がんの原因はいろいろあって、特定することはできませんが、日本人女性に増えた原因として、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の過剰な分泌が関係していると見なされます。

そのエストロゲンの分泌を促す要因として挙げられるのは、生活様式が欧米化したこと、とりわけ食生活が欧米化したことです。高蛋白(たんぱく)質、高脂肪、高エネルギーの欧米型の食事により、日本人の体格も向上して女性の初潮が早く始まり、閉経の時期も遅くなって、月経のある期間が延びました。その結果、乳がんの発生や進行に関係するエストロゲンの影響を受ける期間が長くなったことが、乳がんの増加に関連しているようです。

ほかに、欧米型の食事の影響である肥満、生活習慣、ストレス、喫煙や環境ホルモンによる活性酸素の増加なども、エストロゲンの分泌を促す要因として挙げられます。

乳がんにかかりやすい人としては、初潮が早い人、30歳以上で未婚の人、30歳以上で初めてお産をした人、55歳以上で閉経した人、標準体重の20パーセント以上の肥満のある人などが挙げられています。また、母親や姉妹が乳がんになった人や、以前に片方の乳房に乳がんができた人も、注意が必要です。

特殊なタイプの乳がんも、まれに発生しています。乳首に治りにくいただれや湿疹(しつしん)ができるパジェット病と、乳房の皮膚が夏みかんの皮のように厚くなり、赤くなってくる炎症性乳がんと呼ばれる、非常に治りにくい種類です。

なお、乳がんにかかる人はほとんど女性ですが、女性の約100分の1の割合で男性にもみられます。

自己検診による乳房のチェックを

乳がんは、早期発見がとても大切な病気。乳房をチェックする自己検診の方法を覚えて、毎月1回、月経が終了して1週間後の乳腺の張りが引いているころに、実行するとよいでしょう。閉経後の人は、例えば自分の誕生日の日付に合わせるなど、月に一度のチェック日を決めておきます。

こうして、自分の乳房のふだんの状態を知っておくと、異常があった時にすぐにわかるのです。

自己触診は、目で乳房の状態を観察することと、手で触れて乳房や、わきの下のしこりの有無をみるのが基本です。鏡に向かって立ち、両手を下げた状態と上げた状態で、乳房の状態をチェックします。

具体的には、乳首が左右どちらかに引っ張られたり、乳首の陥没や、ただれがないか。乳房に、えくぼのような、くぼみやひきつれがないか。乳輪を絞るようにし、乳頭を軽くつまんで、血液や分泌液が出ないか。

以上の点に注意します。さらに、乳房を手の指の腹で触り、しこりの有無をチェックします。指をそろえて、指の腹全体で乳房全体を円を描くように触ります。乳房の内側と外側をていねいにさすってみましょう。調べる乳房のほうの腕を下げたポーズと腕を上げたポーズで、左右両方の乳房をチェックします。

そして、わきの下にぐりぐりしたリンパ節の腫れがないかどうかもチェックします。

少しでも、しこりや異変に気が付いたら、ためらわずに外科を受診することが大切です。専門家によって、自己触診では見付からないようながんが発見されることもありますから、定期検診も忘れずに受けましょう。

検査はマンモグラフィが中心

乳がんは、乳腺外科、あるいは外科で専門的に扱う場合がほとんどです。検査は、視診と触診、さらにマンモグラフィが中心ですが、超音波検査(エコー)もよく利用されています。

マンモグラフィは、乳房用のレントゲン検査で、早期乳がんの発見率を向上させた立役者といえます。乳房全体をプラスチックの板などで挟み、左右上下方向からレントゲン写真をとります。

乳房のしこりだけではなく、石灰化像といって、しこりとして感じられないような小さながんの変化も捕らえることができます。この段階で発見できれば、乳がんもごく早期であることがほとんどですから、乳房を残したままがんを治療することも可能になります。

現在の日本では、乳がん検診にアメリカほどマンモグラフィが普及していません。検診では、触診や視診だけではなく、マンモグラフィの検査が含まれているかどうかを確認したほうが安心です。

超音波検査は、超音波を発する端子を乳房に当てて、その跳ね返りを画像にするもの。痛みなどはなくて受けやすい検査で、自分ではわからないような小さな乳がんを発見することが可能です。

しこりや石灰化像などの、がんが疑われる兆候が発見された場合には、良性のものか、がんかを判断する検査が行われます。従来、穿刺(せんし)吸引細胞診、針生検(せいけん)や切開生検が中心に行われていましたが、近年はマンモトーム生検という検査法が登場しました。

穿刺吸引細胞診は、専用の針をしこりに刺して一部の細胞を吸引して取り、顕微鏡で細胞の形などを調べる検査。体への負担が少ないのが利点ですが、しこりとして触れないような小さながんなどは、診断できないことも少なくありません。

針生検は、少し太めのコア針で局所麻酔をして、組織を取り出して調べる検査。体への負担が少ないのが利点ですが、病変が小さい場合は何度も刺す必要があったり、診断が付かないこともあります。

切開生検は、メスで乳房に切開を入れ、がんと思われる部位の組織の一部を取ってきて、顕微鏡で調べる検査。穿刺吸引細胞診や針生検で、確定診断ができない場合に行われてきましたが、外科手術になりますので、体への負担が大きいのが欠点です。

マンモトーム生検は、超音波やマンモグラフィで見ながら、疑わしい部分に直径3ミリの針であるマンモトームを刺して、自動的に組織の一部を吸引してきて、顕微鏡で調べる検査。広範囲の組織が取れて、切開生検より傷口が小さいため、テープで止めるだけで糸で縫う必要がないのが利点です。とりわけ、しこりとして触れない小さながんや、石灰化の段階のがんの診断に、威力を発揮します。

乳がんとわかった場合には、がんの広がりの程度、他の部位への転移の有無を調べるために、胸や骨のレントゲン検査、CT、超音波検査、アイソトープ検査などが行われます。その程度や有無によって、治療の方針が決められることになります。

早期がんでは温存も可能

乳がんの治療法は、その進み具合によって、いろいろな方法が選ばれます。一般的には、まず手術により、乳がんの病変部をできるだけ取り除く治療を行います。

従来は、乳房と胸の筋肉とわきの下のリンパ節をひと塊として、完全に取ってしまうハルステッドという手術が、定型的な乳房切除術として長い間、行われていました。この手術によって、乳がんの治療成績は飛躍的に向上しました。しかし、手術後に腕がむくんで動かしにくくなるなどの障害と、肋骨(ろっこつ)が浮き出て見えたりする美容的な問題が、難点でした。

ところが、乳がんも早期発見が多くなったため、このように大きな手術をすることは少なくなりました。現在では、がんが胸の筋肉に深く食い込んでいる場合などごく一部を除いて、ハルステッド法はほとんど行われなくなっています。

代わりに、胸の筋肉は残して、乳房とわきの下のリンパ節を取る胸筋温存乳房切除術という手術が、行われるようになりました。

乳房のすぐ下には大胸筋、その下には小胸筋という筋肉がありますが、この胸筋温存乳房切除術にも、大胸筋だけを残す大胸筋温存乳房切除術と、両方の筋肉を残して乳房を切除する大小胸筋温存乳房切除術があります。

リンパ節転移が多い場合などは、リンパ節を確実に切除するために、小胸筋を切除することがありますが、最近は両方の筋肉を残して乳房を切除するケースが多くなっています。腕を動かす時に主に使われる大胸筋を残すだけでも、ハルステッド法に比べればかなり障害は少なくなります。

さらに、近年では、早期に発見された乳がんに対しては、乳房を全部切り取らずに、しこりの部分だけを取り除いて、残した乳腺に放射線をかける乳房温存療法が、盛んに行われるようになりました。日本では2003年に、乳房温存療法が乳房切除術を数の上で上回るようになり、標準的な手術法となっています。

この乳房温存療法では、乳房を残して、がんの病巣をできるだけ手術によって切除し、残ったがんは放射線の照射で叩くというのが基本的な考え方ですので、放射線治療は必須です。一般的には、わきの下のリンパ節転移があるかどうかにかかわらず、しこりの大きさが3センチ以下で、乳房の中でがんが広範囲に広がっていないことなどが、適応の条件とされています。

また、しこりが3センチ以上でも、手術前に化学療法を行ってしこりが十分に小さくなれば、可能であるとされています。ただし、医療機関によって考え方には多少違いがあり、もっと大きな乳がんにも適応しているところもあります。

わきの下のリンパ節をたくさん取らない方法も、最近では検討されています。手術中に、センチネルリンパ節(見張りのリンパ節)という最初にがんが転移するリンパ節を見付けて、そこに転移がなければリンパ節はそれ以上は取らないという方法です。まだ確立はされた方法ではありませんが、腕の痛みやむくみなどの障害が出ないので、今後急速に普及していくと考えられます。

乳がんはしこりが小さくても、すでにわきの下のリンパ節に転移していたり、血液の中に入って遠くの臓器に広がっていることもあります。転移の疑いがある場合、術後の再発予防のために抗がん薬やホルモン薬による治療を加えると、再発の危険性が30~50パーセント減ることがわかってきました。抗がん薬やホルモン薬においても、副作用が少なく、よく効く薬が開発されてきて、再発後の治療にも効果を上げています。

2022/08/18

🇸🇰肺カルチノイド

カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍が肺に発生した疾患

肺カルチノイドとは、カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍(しゅよう)が肺に発生した疾患。

カルチノイドは、がんの意味であるカルチと、類を意味するノイドが組み合わさった英語で、日本語で「がんもどき」とも呼ばれます。

がんと同様、カルチノイドはいろいろな臓器に発生します。小腸、直腸、虫垂、十二指腸、胃などの消化管のホルモン産生細胞に発生し、膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺、気管支、胸腺(きょうせん)のホルモン産生細胞でも発生します。

このカルチノイドは、一般的には悪性度が低いと考えられています。実際、症状の進行もゆっくりで長期生存が期待できるものも多く、これらは定型カルチノイドと呼ばれています。一方、比較的早く症状が進行し治療が困難なものがあり、これらは非定型カルチノイドと呼ばれています。定型カルチノイドは非がん性、非定型カルチノイドはがん性と見なされます。頻度的には、定型カルチノイドのほうが多くみられます。

肺カルチノイドの場合は、肺の中枢の主気管支に発生するものと、末梢(まっしょう)の肺に発生するものがあります。その頻度は、6割は主気管支に発生し、4割弱は末梢に発生します。しかし、肺カルチノイドは比較的まれな疾患で、肺の悪性腫瘍の約1パーセントを占めるにすぎません。

肺カルチノイドの発症年齢は、40歳代から60歳代とされています。

主気管支に発生した肺カルチノイドの初期症状は、肺がんと同様です。咳(せき)や血痰(けったん)などが見られますし、カルチノイドの増大に伴い、気道の狭窄(きょうさく)によるヒューヒュー、ゼーゼーという喘鳴(ぜんめい)などが認められます。

一方、末梢の肺に発生した肺カルチノイドは、ほとんど症状が現れず、健康診断やほかの病気で撮影した胸部レントゲンやCT検査などで、偶然発見されるケースが多いのが現状です。

なお、肺カルチノイドは肺がんと比べて、転移が少ない腫瘍とされていますが、非定型のタイプはリンパ節、肝臓などに転移します。

咳や喘鳴はほかの呼吸器疾患でも見られるものですが、血痰は腫瘍からの出血に伴う比較的特異的なものです。もし、血痰が見られる場合には、ほかの疾患の可能性もありますので一度、呼吸器科や内科を受診されることが勧められます。

ただし、主気管支に発生した肺カルチノイドは喘鳴を起こすため、気管支喘息と間違う診断で治療が遅れてしまう可能性があるので注意が必要です。

肺カルチノイドの検査と診断と治療

呼吸器科、内科の医師による治療では、肺がんと同様、手術、化学療法、放射線治療、抗がん剤治療を組み合わせて行います。

悪性腫瘍ですので手術がメインとなるものの、低悪性度ということも考慮し、転移が見られない症例では、肺の一部を解剖学的領域単位で切除する区域切除など縮小手術が行われるようになってきています。

転移や浸潤が激しく手術が困難な場合には、化学療法や放射線療法がメインとなるものの、特に非定型カルチノイドについては、1年ほどの間に急速に症状が変化することもあり、治療の成績はまだまだ満足いくものではありません。肺カルチノイドの症例数が多くないこともあり、治療法にはさらなる研究の余地が残されている状態です。

🇸🇰肺がん

国内外で最も死亡者数が多い、がん

肺がんとは、肺の粘膜を覆っている上皮性組織から発生する悪性腫瘍(しゅよう)です。悪性腫瘍、つまりがんとは、無限に増殖、増大して体のあちこちに転移し、正常な細胞やその働きを破壊して、人間を死に至らしめる腫瘍のことです。

日本では、肺がんが年々増えています。死亡者数をみますと、1960年の5171人から1998年の50460人へと、約40年の間に10倍に増加し、男女合わせた死亡者数が胃がんを抜いて第1位となりました。男性では逆上る1993年に、胃がんを抜いて第1位となっています。

2005年の統計では、肺がんによる男女合わせた死亡者数は62063人で、全がん死の19パーセントを占めます。男性では全がん死の中で最も多い45189人、女性では大腸がん(結腸がん及び直腸がん)、胃がんに次いで3番目を占める16874人。

同じ2005年のWHO(世界保健機関)の試算によると、世界中では年間130万人ほどが肺がんで死亡し、全がん死の17パーセントを占めて最多。

肺がんの発生原因は不明ですが、近年の急激な増加の背景として考えられているのは、環境の汚染と喫煙です。大量喫煙者に肺がんが多いことは間違いのない事実で、間接的な喫煙も原因になるといわれています。

肺門がんと肺野がん

症状は発生部位により分けられる肺門(型)がんと、肺野(型)がんで異なりますが、主に咳(せき)、血痰(けったん)、胸痛などがみられます。

肺門がんは、肺の入り口付近の太い気管支にできたがんで、病理学的には扁平(へんぺい)上皮がんです。この場合、早期から頑固な咳が出るのが特徴で、痰を伴うこともあります。

咳止めで一時的に軽くなることはあっても、完全に止まることはなく、中止すると再びひどくなります。痰は粘液性か粘液膿(のう)性で粘りがあり、血液が混じったり、熱を伴う肺炎のような症状を示すこともあります。

肺野がんは、肺の末梢(まっしょう)の細い気管支に発生したがんで、病理学的には腺(せん)がんです。早期には全く症状のないことが多く、肺門リンパ節にがん細胞が転移してから、激しい咳や血痰が出るようになり、声がかすれることもあります。

発見が早ければ、手術で切除

医師による診断では、胸部X腺検査で肺がんと判断された場合、ファイバースコープによる気管支内視鏡検査と、痰の細胞診の二つによる確定診断が行われます。その後、肺がんの病巣の広がりを把握するために、CT検査、骨シンチグラフィ、超音波検査、血管造影、MRI検査などが行われます。

治療では、手術療法(肺切除療法)、放射線療法、化学療法、免疫療法の4つが行われます。第一選択は今でも手術療法で、がんの大きさ、リンパ節への転移の有無、隣接する臓器への浸潤の程度、その人の肺機能の程度によって、手術法が異なります。

最も一般的に行われるのは、肺葉切除。右肺には上葉、中葉、下葉の3葉、左肺には上葉、下葉の2葉ありますが、そのうちの病巣のある肺葉を1葉、ないし2葉切除します。がんが広範囲に渡っている時や、太い血管に浸潤がみられる時などに行われるのは、片側の肺葉をすべて摘出する肺全摘出術。この肺全摘出術は、肺機能が良好でないとできません。特殊な手術法として、がんの存在する気管支の一部を切除する方法もあり、肺機能が落ちている場合に行われます。

近年では、胸腔(きょうくう)鏡が開発され、体の負担、苦痛が軽い縮小手術を行う方向に進んでいます。従来のように大きく胸を切り開くのではなく、2~3センチくらいの穴を胸壁に2~3カ所開け、そこから器具を挿入して行う手術法で、全国的に行われています。

ほかにも、気管支鏡を使用して、二つのタイプのレーザー療法が行われています。一つは、太い気管支に発生したがんで気管支が詰まっているような場合に、レーザー照射で焼く方法。もう一つは、光線力学的治療(PDT)とも呼ばれて、レーザー照射による光化学反応によって、がん細胞を破壊する方法。早期の肺門がんでは、レーザーによる治療のみで完治できることもあります。

肺がんが進行し、がんの浸潤が広範囲に渡っている場合や、ほかの臓器に転移している場合には、局所的には放射線療法、全身的には抗がん薬による化学療法、免疫療法が行われます。

新しい抗がん薬の開発、さらに副作用を軽減させる薬の開発により、抗がん薬による治療効果は向上しています。また、イレッサなど分子標的治療薬も開発され、従来の化学療法では効果がなかった人にも、福音となりつつあります。

🇨🇻膣がん

膣の入り口の内側に発生する、まれながん

膣(ちつ)がんとは、膣の入り口の内側に発生するがん。膣の入り口の外側に発生すれば、外陰がんとなります。

腟は子宮頸部(けいぶ)と外陰をつなぐ筒状の組織で、長さ10~15 センチ、出産時には産道となります。腟の入り口周囲には腟前庭、その外側には小陰唇、陰核、大陰唇、会陰があり、総称して外陰と呼ばれています。

女性性器がんの中で、膣がんが占める割合は1〜2パーセントと、比較的少ないがんといえます。若い女性には少なく、一般に50〜60歳の女性にみられます。

膣の表面は粘膜で覆われており、この粘膜からがんが発生し、球状または長楕円(だえん)形の潰瘍(かいよう)状の硬い腫瘤(しゅりゅう)を形成します。多くは単独性で、扁平(へんぺい)上皮がんがほとんどです。腺(せん)がんはまれです。

がんが発生しやすいのは後ろ側の膣壁で、上3分の1の、いわゆる下り物がよくたまる部位。進行すると表面を広がったり、粘膜の下の筋肉に広がり、さらには周囲の臓器にまで広がることもあります。

直接、発がんと結び付く原因はまだわかっていませんが、高リスク因子としてヒトパピローマウイルスの感染が挙げられています。ヒトパピローマウイルスは、いぼを作るウイルスの一種で、男性性器の分泌物などに含まれています。このウイルスを持った男性との性交渉によって、膣、外陰、子宮頸部などの細胞に感染します。

最も多い症状は、生理以外や閉経後の不正出血、性交中や性交後の不正出血、血性の下り物です。進行すると、大きくなったがんが膀胱(ぼうこう)や直腸を圧迫するようになって、排尿障害や便秘などが起こり、腰痛や下腹部痛を伴うようにもなります。

膣がんの検査と診断と治療

他のがんと同様に、膣がんも早期発見、早期治療が第一です。自覚症状がある場合は、婦人科の専門医を受診します。比較的少ないがんといえるだけに、産婦人科医でも膣がんの経験がない医師もおり、発見や治療が遅れることがあるとされています。

医師による診断では、まず視診、触診、細胞診を行います。細胞診で異常な細胞が見付かった場合は、組織の一部を採取して顕微鏡で調べる生検で、がん細胞があるか、どのような種類のがん細胞であるかを詳しく調べます。

さらに、がんのできた場所と広がり程度を調べるために、膣の中だけでなく骨盤内の他の臓器についても、診察やCT、MRIなどの検査を行います。肺に転移していないかどうかを調べる胸部レントゲン検査などの検査も行います。

膣がんの治療には、外科療法、放射線療法、化学療法の3つの方法があり、がんの広がり程度である病期、扁平上皮がんないし腺がんの組織型、年齢、全身状態などによって選択します。ごく早期の膣がんに対しては、がんの部位を焼いて蒸散させるレーザー治療を行うこともあります。

外科療法は、がん病巣が膣の表層に限局している場合や、膣の上部3分の1にある場合に限って行われ、手術によってがんを切除します。 膣は、前方には膀胱、後方には直腸、肛門(こうもん)が近接し、側方は足に栄養を送る血管や神経が存在するため、手術が広範囲に及ぶ場合、どの機能をどの程度温存するかが問題となります。

子宮頸部や腟の周囲にがんが広がっている場合には、広汎(こうはん)性子宮全摘出術に加え、腟がんを含めて腟壁の切除を行います。

放射線療法は、高エネルギーX線によってがん細胞を消滅させ、腫瘤を縮小させるもので、単独で行ったり、手術の後の追加治療として行います。照射方法には2種類あり、放射線発生装置を用いて体外から放射線を照射する外照射と、放射線が発生する物質をがんのある部位にプラスチックの筒を通して挿入する膣内照射があります。

放射線療法では、子宮や腟が残せる半面、直腸に穴が開いて、腟から便が漏れる直腸腟ろうなどの障害が残り、人工肛門になることがあります。

化学療法は、経口剤や静脈注射によって抗がん剤を体内に投与するものです。抗がん剤は血流に乗って全身を巡り、膣壁などにあるがん細胞を消滅させるので、全身療法とも呼ばれています。一般的に、シスプラチン、カルボプラチン、タキソール、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプレオマイシン、フルオロウラシルなどの抗がん剤を組み合わせて使用します。

化学療法だけでは、完治することは難しいため、外科療法や放射線療法と併用して行われます。

膣がんの予後は一般的に不良で、5年生存率は40~50パーセントという報告が多いのが現状です。近接している直腸や膀胱などの臓器に、がんが広がる傾向が強いためと考えられています。

🇬🇫中咽頭がん

口を開ければ見える扁桃や、その周辺に発生する咽頭がん

中咽頭(ちゅういんとう)がんとは、口を開ければ見える扁桃(へんとう)や、その周辺の舌の付け根などに発生するするがん。ほとんどは、中咽頭の表面を覆っている薄く平らな形をした偏平上皮細胞から発生します。

鼻や口の奥にある部分を咽頭といいます。咽頭は全長約13センチの中空の管で、鼻の後方から始まって、気管、食道の入り口まで連続しています。咽頭は上咽頭、中咽頭、下咽頭に分類されていて、中咽頭とは口の後方に位置する咽頭の中間部分のことをいいます。

空気や食べ物が気管や食道に送られる際には、この中咽頭の中を通過していきます。中咽頭には、これら呼吸作用、嚥下(えんげ、えんか)作用のほかに、言葉を作る構音作用があります。

中咽頭がんは、頭頸(けい)部がんの約10パーセントにすぎません。その頭頸部がんの発生頻度は少なく、がん全体の約5パーセントと見なされています。日本では年間1000〜2000人程度に、中咽頭がんが発生していると推定されています。男性が女性よりも3〜5倍多く発症し、好発年齢は50〜60歳代。

中咽頭がんは、咽頭粘膜の偏平上皮細胞が正常の機能を失い、無秩序に増えることにより発生します。近年、がんの発生と遺伝子の異常についての研究が進んでいるものの、なぜ細胞が無秩序に増える悪性の細胞に変わるのか、まだ十分わかっていません。がんは周囲の組織や器官を破壊して増殖しながら、ほかの臓器に広がり、多くの場合腫瘤(しゅりゅう)を形成します。ほかの臓器にがんが広がることを転移と呼びます。

中咽頭がんの原因として最も因果関係がはっきりしているのは、喫煙習慣と過度の飲酒です。従って、長期の飲酒歴、喫煙歴のある人は注意を要します。

その初期には、自覚症状がほとんどありません。進行すると、扁桃部のはれ、咽頭の異物感、咽頭痛、嚥下痛などの症状で気付きます。さらに、発声障害、出血、呼吸困難、嚥下障害などの深刻な症状が出現してきます。首のリンパ節への転位も比較的多く出現し、のどの症状より先に首のしこりに気付くこともあります。

しかし、がんのできる部位や大きさにより症状が出にくい場合もあり、症状がないからといって安心はできません。 偏平上皮細胞から発生するがんのほか、まれには唾液分泌腺(せん)などの腺組織から生じる腺がん、およびそれに類するがんも発生します。また、この部位には悪性リンパ腫がしばしばみられるが、中咽頭がんとは別に取り扱われます。

中咽頭がんの検査と診断と治療

医師による診断では、内視鏡検査やCT検査、MRI検査などの画像検査を行い、最終的には組織片を調べて確定します。

初期のがんでは、放射線治療で十分に治る可能性があります。進行したがんでは、手術が必要になります。

両側の首にリンパ節転移がある場合や、片側でも多数のリンパ節がはれている場合には、肺転移が多いために、手術や放射線治療の前後に抗がん剤による治療が行われます。抗がん剤による治療はある程度の効果は得られるものの、単独でがんを根治するだけの力はないので、現在のところ手術や放射線治療に比べると補助的な治療と位置づけられています。

近年では、放射線治療と抗がん剤の同時併用療法が注目されています。

2022/08/17

💅爪部悪性黒色腫

メラニンを作り出す爪部のメラニン細胞から発生するがん

爪部(そうぶ)悪性黒色腫(しゅ)とは、メラニンを作り出す爪部のメラニン細胞(メラノサイト、皮膚細胞)から発生するがん。爪下悪性黒色腫、爪(つめ)メラノーマとも呼ばれます。

メラニン細胞は、色素を作り、皮膚の色を決める色素細胞です。日光(紫外線)がメラニン細胞を刺激すると、メラニンという皮膚の色を濃くする色素がたくさん作られて、悪性黒色腫(メラノーマ)を発生するリスクが高まります。

悪性黒色腫は最初、正常な皮膚に新しくできた小さな濃い色の皮膚の増殖性変化として現れます。多くの場合、日光にさらされる皮膚にできますが、もともとあったほくろに発生する場合もあります。体のほかの部位に非常に転移しやすく、転移した部位でも増殖を続けて組織を破壊します。また、悪性黒色腫は遺伝することがあります。

日本での悪性黒色腫の発症数は、人口10万人当たり1・5~2人くらいといわれ、年間1500~2000人くらい発症しています。白色人種の多い欧米では人口10万人当たり10数人以上で、オーストラリアは20数人以上の発症と世界一です。日本でも外国でも年々、発症数の増加傾向が認められています。

日本での悪性黒色腫による死亡者は、年間約450人。40歳以上になると発症が多くなり、60~70歳代が最も多くなっています。男女差はありません。

悪性黒色腫の外観は、さまざまです。平らで不規則な形の茶色の皮疹(ひしん)の中に黒い小さな点がある場合もあれば、盛り上がった茶色の皮疹の中に赤、白、黒、青などさまざまな色の点があるものもあります。黒か灰色の硬い塊ができることもあります。

その外観や色などによって、いくつかのタイプに分類されています。悪性黒子型は高齢者の顔などの露出部に色素斑が発生するタイプ、表在拡大型はやや盛り上がった不整型の色素斑が発生するタイプ、結節型は盛り上がるタイプ、末端黒子型は手や足から発生するタイプ、粘膜型は口腔(こうくう)や陰部などの粘膜に発生するタイプ、またメラニン欠乏性は色素を持たないので発見されにくいタイプです。

末端黒子型の一つに、爪部悪性黒色腫のほとんどは含まれます。爪部悪性黒色腫のほとんどは、手足の爪の主に爪母部(爪の基部)上皮のメラニン細胞のがん化によって、爪甲色素線条、すなわち黒褐色で縦の線状の染みとしてみられます。

時には、爪床上皮や爪郭(そうかく)部表皮のメラニン細胞ががん化することもあり、表在拡大型や結節型に含まれます。

爪甲色素線条がみられる爪部悪性黒色腫は、全悪性黒色腫の10パーセント近くを占め、手の親指の爪、足の親指の爪、手の人差し指の爪、手の中指の爪に好発します。しかし、爪部悪性黒色腫によく似た良性腫瘍(しゅよう)が、はるかに多く存在しています。

悪性か良性かを一応判別する目安として、染みの横幅が6センチ以上、黒褐色の色調に不規則な濃淡がみられるか真黒色、20歳以後、特に中高齢者になって発生した色素線条、色素線条が爪の表面を越えて皮膚の部分にまで及んでいる状態であれば、爪部悪性黒色腫かもしれません。

がん化したメラニン細胞が増えるにつれて、黒褐色の線状の染みが増えるだけでなく太くなっていき、長さも伸びていきます。やがて、爪全体が黒くなります。進行すると、爪が変形したり破壊されてしまいます。

爪部悪性黒色腫は、がんの中でも繁殖しやすいタイプです。そのため、爪から全身に転移していくというデメリットもあります。短期間で転移してしまうため、爪の症状の変化に気付いたら、すぐに皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診することが勧められます。

爪部悪性黒色腫の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、問診、視診、触診を行い、続いてダーモスコピー検査を行います。ダーモスコピー検査は、病変部に超音波検査用のジェルを塗布してから、ダーモスコープという特殊な拡大鏡を皮膚面に当て、皮膚に分布するメラニンや毛細血管の状態を調べ、デジタルカメラで記録するだけの簡単なもので、痛みは全くありません。

そして、爪部悪性黒色腫(メラノーマ)が疑われる場合に生検を行います。通常は色の濃い増殖部分全体を切除し、顕微鏡で病理学的に調べます。もし爪部悪性黒色腫だった場合、がんが完全に切除されたかどうかを確認します。

一方、悪性黒色腫の周囲組織を切り取ると、がん細胞が刺激されて転移を起こすことが考えられるため、生検をせずに視診と触診などで診断する医師もいます。

確定診断に至ったら、他の部位への転移の有無を調べるためのCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、PET(陽電子放射断層撮影)検査、X線(レントゲン)検査、超音波(エコー)検査、などの画像検査や、心機能、肺機能、腎機能などを調べる検査を行います。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療は原則的に、爪部悪性黒色腫(メラノーマ)の部位を外科手術によって円形に切除します。手術が成功するかどうかは、皮膚のどの程度の深さにまで爪部悪性黒色腫が侵入しているかによって決まります。初期段階で最も浅い爪部悪性黒色腫であれば、ほぼ100パーセントは手術で治りますので、周囲の皮膚を腫瘍の縁から最低でも約1センチメートルは一緒に切除します。

皮膚の中に約0・8ミリメートル以上侵入している爪部悪性黒色腫の場合、リンパ管と血管を通じて転移する可能性が非常に高くなります。転移した悪性黒色腫は致死的なものになることがしばしばあり、抗がん剤による化学療法を行いますが、治療の効果はあまりなく余命が9カ月を切る場合もあります。

とはいえ、このがんの進行の仕方には幅がありますし、発症者の体の免疫防御能によっても差がありますので、化学療法、インターフェロンによる免疫療法、および放射線療法などいろいろな手段を組み合わせた集学的治療を行い、たとえ爪部悪性黒色腫が転移しても健康を保って何年も生存する人もいます。

一度、爪部悪性黒色腫を発症した人は、再発するリスクが高くなります。そのため、発症者は毎年皮膚科、皮膚泌尿器科で検査を受けるべきです。

🇬🇮喉頭(こうとう)がん

声帯を中心に発生するがん

喉頭(こうとう)がんとは、喉(のど)の奥の、いわゆる喉仏(のどぼとけ)に当たる声帯を中心に発生するがんです。病因は明らかではありませんが、遺伝的素因のほかに、喫煙、大気汚染、飲食物による機械的刺激、声帯の酷使、ウイルスや細菌の感染などが挙げられます。

罹患(りかん)者は50~60代のヘビースモーカーに多く見られ、アルコールの多飲は、その頻度を増加させます。男女比は10:1で、圧倒的に男性に多く見られます。

その発生の場所により、声帯に発生する声門がん、声帯の上方に発生する声門上(じょう)がん、声帯の下方に発生する声門下(か)がんに分けられます。日本人では、声門がんが最も多い60~65パーセント、次いで声門上がんが30~35パーセントで、声門下がんはめったにみられません。

声門がんの場合、がんが米粒大程度のごく早い段階で、声がかれてきます。このため、早期に発見されることが多いのですが、適切な治療を受けずに進行すると、ますます声がかれてきて、ほとんど声が出なくなってしまうこともあります。声門が狭くなると、喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難が生じます。

声門上がんの場合、声の異常はすぐには現れず、最初の自覚症状は喉の違和感や異物感、咳(せき)、痰(たん)、食べ物を飲み込む時の痛みとして出てきます。腫瘍(しゅよう)が大きくなって、声帯の振動に影響を与えるようになりますと、声がかれてきます。さらに腫瘍が増大して、気道をふさぐと、呼吸困難に陥ることもあります。また、首のリンパ節に、がんの転移が生じてきます。

声門下がんの場合、早期にはほとんど症状がなく、たまに咳や痰が出る程度です。しかし、腫瘍が声帯に達すると、かれ声が起こり、腫瘍面が露出して潰瘍(かいよう)ができると、血痰が出ることがあります。

とりわけ中高年の男性で、しゃがれ声、喉の異常感が2週間以上続く時は、単なる風邪と思わず、一度、耳鼻咽喉(いんこう)科で診てもらいましょう。

早期の喉頭がんには放射線治療

耳鼻咽喉科では、喉頭鏡や内視鏡で喉頭内を観察し、腫瘍性病変を見付けます。組織の一部を採取し、顕微鏡で調べる生検で、確定診断となります。X線検査、CT検査、MRI検査などを行い、腫瘍の大きさと広がりを検査します。

早期の喉頭がんの治療では、放射線治療、レーザー手術が試みられ、非常によい治療成績が得られています。放射線と多剤化学療法との同時併用治療を行い、喉頭の温存をはかる治療も行われています。

外科療法では、限られた部位のがんなら声帯を残せる喉頭部分切除術が、進行がんでは喉頭をすべて摘出する喉頭全摘出術が行われます。いずれを選ぶかは、医師によって意見が多少異なるのが現状です。適切な治療が行われれば、一般に予後は良好です。

喉頭全摘出術を行った場合は、音声機能を喪失することになりますので、コミュニケーションの障害に対する配慮が必要になってきます。

喉頭をなくした時の代用音声は、食道発声、人工喉頭、電気喉頭が主なものです。音声の性質からみて、優れているのは食道発声です。そこで、手術後は食道音声を獲得するためのリハビリテーションが指導され、肺からの空気を食道へ直接送る音声再建手術も試みられています。

喉頭がんの予防法

喉頭がんの予防法としては、まずタバコを吸う人は禁煙、そして、お酒を飲みすぎないことです。1日平均で男性は日本酒で1合、女性は0・5合までに抑えましょう。

仕事でよく声を出す人は、なるべく仕事以外では声帯を休ませる工夫も必要です。新鮮な空気の下で、皮膚や体を鍛えることも、気道粘膜の抵抗力の強化につながります。室内の換気や湿気の調節など、環境にも配慮して、日ごろから喉をいたわるように心掛けることが必要です。

バランスのとれた食事を取ることも大切。がんのリスクが上がる肉類を控えめに、あるいは魚や鶏肉を食べるようにしましょう。 色々な種類の野菜、果物、豆類や、なるべく精製度を抑えたでんぷん質、例えば胚芽米、玄米、全粒粉のパンなどを食べることで、がんを予防するさまざまな成分を取り入れましょう。

がんの発生要因とされている活性酸素を抑える物質を多く含む食品を取ることも、有効ながん予防法です。食事等から摂取する抗酸化力のある物質としては、ビタミンA(β―カロチン)・C・E・B群や、ポリフェノール、カロチノイド、イソフラボン、カテキンなどがあります。

🇱🇰副腎がん

左右の腎臓の上に位置する小さな臓器である副腎にできる悪性の腫瘍

副腎(ふくじん)がんとは、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器である副腎にできる悪性の腫瘍(しゅよう)。

副腎は内部を構成する髄質と、髄質を包む皮質からできており、皮質からはグルココルチコイド(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンを分泌しています。髄質からはアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌しています。

この副腎がんは、副腎表面の皮質にできる副腎皮質がんと、髄質にできる副腎髄質がんに分けられます。

副腎皮質がんは極めてまれながんです。ホルモンの分泌異常を伴う機能性腫瘍と、ホルモンの分泌異常を伴わない非機能性腫瘍に分けられます。

一方、副腎髄質がんには、副腎の褐色細胞腫が悪性化した悪性褐色細胞腫や、神経芽細胞腫があります。副腎がんのほとんどは、この副腎内部の髄質にできる副腎髄質がんです。

副腎がんは、同じ副腎から発生し、ホルモンを過剰に分泌する機能性腫瘍と、ホルモンを過剰に分泌しない非機能性腫瘍に分けられる副腎腫瘍と比べると、発生頻度は著しく落ちます。副腎腫瘍のほうは、いずれも良性腫瘍がほとんどで、悪性のものはほとんどみられません。

また、良性の副腎腫瘍が悪性化して副腎がんに変化することは、ないとされています。

副腎がんはまれながんであり、副腎皮質がんと副腎髄質がんを合わせても、100万人当たりの罹患率は2人です。発症年齢でみると、10歳前後と40歳から50歳代の二峰性のピークを示し、女性の発症率は男性の1・5倍から3倍です。

副腎がんを発症する原因は、よくわかっていません。副腎がんに特徴的な症状も、ありません。

がんが進行して大きくなることによって、体の外から腫瘍を触れる、腹が痛くなる、便秘や吐き気が起こるといった症状で発見されることが、多くみられます。当然、早期には症状がありませんが、早期に発見されることは多くはなく、発見された時、多くは5センチ以上の大きさになっています。

がんが副腎のホルモンを異常に多く分泌する場合、糖尿病や高血圧、肥満といった症状で発見されることがあります。また、健康診断や、胃腸、肝臓、腎臓などの腹部の疾患に対するCT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査などの画像診断による精査過程で偶然、発見されることもあります。

進行するにつれ、発熱、食欲不振、体重減少などの多彩な全身症状を伴うことがあります。

副腎がんの検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による診断では、血液検査・尿検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査、副腎血管造影検査などを行います。

血液検査・尿検査では、副腎に腫瘍ができると、ホルモンの分泌異常が起きるケースがありますので、血液と尿内の成分を調べることで、ホルモン異常の有無を調べることができます。副腎と同様のホルモンを異常に分泌するタイプの副腎がんの場合、血液検査でアルドステロン、グルココルチコイド、アンドロゲンの硫酸塩であるデヒドロエピアンドロステロンサルフェー ト、アンドロゲンに属するテストステロン、アドレナリン、ノルアドレナリンなどが異常高値を示すことがあります。

CT(コンピュータ断層撮影)検査では、体の内部を輪切りにした画像を撮影することができ、副腎にできた腫瘍だけでなく、リンパ節転移、肺臓や肝臓への転移などの有無を調べることができます。

MRI(磁気共鳴画像撮影)検査では、腫瘍と副腎がんとを鑑別できることがあります。また、周囲の組織へのがんの進行具合を診断する上で重要です。

超音波(エコー)検査では、副腎にできた腫瘍の大きさや広がりを調べることができます。

副腎血管造影検査では、造影剤を副腎動脈内に注入し、X線(レントゲン)により撮影します。造影剤が副腎内の血管に浸透しますので、副腎内の血管が腫瘍によりふさがった部位がないか調べることができます。

副腎がんのステージ(進行度)は、副腎がんの大きさ、広がり、転移の有無により、ステージⅠからステージⅣに分類されます。

ステージⅠは、 副腎がんの直径が5セント以下で副腎内部にとどまっているもの。ステージⅡは、副腎がんの直径が5セントを超えているものの、副腎内部にとどまっていて周囲への浸潤がないもの。ステージⅢは、副腎がんが副腎周辺の脂肪組織やリンパ節にまで広がっているもの。ステージIVは、副腎がんが副腎に隣接した臓器、または遠く離れた臓器にまで転移しているもの。

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による治療では、副腎がんは手術以外に有効な治療法がないため、ほかの臓器への転移がない副腎がんは手術による切除が第一です。

手術で完全に切除できた場合は、予後の改善が期待できます。状況によっては、腎臓や周囲の臓器を一緒に切除することもあります。なお、手術の後に、副腎皮質ホルモンの生合成を阻害する作用と皮質細胞に対し細胞毒性を有するミトタンという薬剤による薬物療法を追加することがあります。

副腎がんが進行している場合、手術自体に難渋することや大量の輸血が必要になることがあります。また、切除を途中で断念せざるを得ない場合があります。アドレナリンやノルアドレナリンを産生する悪性褐色細胞腫では、手術中あるいは手術後に、血圧や脈拍に大きな乱れを生じたり、ショック状態になることがあります。

副腎がんに対する基本的姿勢は手術が第一ですが、ほかの臓器への転移を認めたり、全身状態が不良で手術が不可能な場合、ミトタンによる薬物療法が考慮されます。ミトタンの使用により80パーセント以上のケースで、食欲不振、吐き気を始めとするとする消化器症状や肝機能障害などの副作用が起こります。また、ミトタンは正常な側の副腎にも抑制的に作用するために、副腎皮質ホルモンの補充がしばしば必要になります。

副腎がんは、ステージⅠやⅡの早期に発見されることは多くはなく、腫瘍が大きくなるスピードが速いため、予後は極めて不良です。

2022/08/16

🇯🇲副鼻腔がん

ほとんどが最も大きい副鼻腔の上顎洞から発生

副鼻腔(びくう)がんとは、鼻の周囲にあって骨で囲まれた空洞である副鼻腔より、発生するがん。

副鼻腔の空洞は、ほおの奥の上顎洞(じょうがくどう)、鼻の両わきの篩骨洞(しこつどう)、まゆ毛の部分の前頭洞、篩骨洞の奥のほうの蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)の4種類があります。がんのほとんどは、最も大きい空洞である上顎洞の粘膜から発生しますので、上顎洞がんと呼ばれることもあります。次いで多いのは、篩骨洞に発生するがんです。

耳鼻咽喉(いんこう)科関係のがんとしては、女性に比べて男性にやや多く発生するものの、その差はそれほど大きくはありません。年齢的には、40〜60歳代に多くみられます。

原因は、明らかではありません。ある種の木材や金属の微細な粉を日常的に吸いこんでいる人に多くみられる傾向は、認められています。慢性副鼻腔炎が副鼻腔がんの原因になるとは、考えられていません。

副鼻腔は空洞になっているために、がんが増殖できる空間があり、まだ周囲が圧迫されていない初期においては、ほとんどの人ははっきりした症状がありません。これより進んで、周囲の組織や骨を破壊するようになると、 がんらしい症状が出てきます。

例えば、上顎洞がんが下のほうに発生して空洞のほうへ広がると歯肉がはれてきたり、歯がぐらぐらしてきたり、痛んだりします。歯科医に抜歯してもらった傷跡がいつまでも治らないなどということから、発見されることもあります。

上顎洞の鼻腔に近い所から発生すると、鼻腔の中にがんが出てきて、片側の鼻詰まりが生じたり、鼻汁に血が混じったりします。上方に進めば、目の症状が現れ、ものが二重に見えたり、片方の目から涙があふれたり、眼球が前方へ突き出たり、側方に押されたりします。

最もよくみられる症状に、ほおがはれてくることがあります。この場合は上顎洞の前のほうにがんが広がってきています。上顎洞の後ろのほうから発生すると、口が開きにくくなったり、ほおや目の奥が痛んだり、逆に感覚が鈍くなったりと、三叉(さんさ)神経痛のような症状になります。

副鼻腔がんの検査と診断と治療

副鼻腔がんが疑われる症状があれば、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診します。

医師は、鼻腔や口腔を観察するほか、ほおのはれの範囲や骨破壊の状況を指で探って調べます。X線検査やCT検査(コンピューター断層撮影)、MRI検査(磁気共鳴画像撮影法)で副鼻腔がんらしい組織が見付かれば、その小片を切除して顕微鏡検査を行います。 がんが外に出ていないのに症状があったり、X線検査やCT検査、MRI検査でがんの疑いがあれば、試験的に上顎洞に小さな穴をあけてみることもあります。

治療では、放射線治療、抗がん剤の動脈内注入法(化学療法)、手術療法の三者併用療法が行われます。この方法が行われるようになってから、以前のように大きな顔面欠損や、眼球摘出を伴うような手術を行うことは少なくなりました。

しかしながら、非常に進行したがんや、放射線治療後に再発した場合には、やむなく眼球や顔面の皮膚を含めて大きく切除します。切除後の変形は、再建外科の進歩により修復可能となりました。

例えば、顔面の皮膚や上顎骨を切除した欠陥部分には、肋骨(ろっこつ)や背中の皮膚を移植したり、胸の筋肉を使用して再建形成します。

治療開始が早いほど、予後は良好です。5年間再発しないで健康である率は、約50〜60パーセント。

🇵🇦慢性骨髄性白血病

未熟な細胞である白血病細胞が骨髄の中で増殖し、正常な血液細胞の増殖が抑えられる疾患

慢性骨髄性白血病とは、未熟な細胞である白血病細胞が骨髄の中で異常に増殖するため、正常な血液細胞の増殖が抑えられてしまう疾患で、ゆっくりと進行するもの。CML(Chronic Myelogenous Leukemia)とも、慢性顆粒(かりゅう)球性白血病とも呼ばれます。

血液のがんともいわれる白血病を発症すると、未熟な白血病細胞が骨髄を占領するために正常な血液を作る能力が障害され、赤血球、白血球、血小板が減少してきます。そのため、赤血球の減少による貧血、白血球の減少による感染、血小板の減少が原因となって出血が起こったりします。また、白血病細胞が血流に乗って全身の臓器に浸潤してその働きを障害し、肝脾腫(かんひしゅ)、リンパ節の腫大、骨痛、歯肉の腫脹(しゅちょう)などいろいろな症状を起こし、生命を脅かします。

白血病は、疾患の進行の速さと、がん化する細胞のタイプによって、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)という4つのグループに大別されます。急性白血病は急速に進行し、慢性白血病はゆっくりと進行します。骨髄性白血病では、好中球、好塩基球、好酸球、単球を作る骨髄性(顆粒球性)の細胞ががん化します。リンパ性白血病では、リンパ球やリンパ球を作るリンパ性の細胞ががん化します。

また、急性白血病では未熟な白血病細胞のみ増加しますが、慢性白血病では未熟な白血球から正常細胞に見える成熟細胞まで、いろいろな成熟段階の細胞が増加します。慢性骨髄性白血病では、骨髄および末梢(まっしょう)血液中に白血球の一種である顆粒球が異常に増加します。

急性と慢性に大別される白血病の原因は不明ですが、放射線被曝(ひばく)やある種の染色体異常、免疫不全症がある場合に、発症頻度が高いことが知られています。

白血病全体のうち、慢性白血病が約4分の1を占め、4分の3が急性白血病です。慢性白血病のほとんどは慢性骨髄性白血病で、慢性リンパ性白血病はわずか数パーセントといわれています。慢性白血病は、主として成人に発症します。

慢性骨髄性白血病は、いつ発症したのかはっきりしないことが多く、また、ゆっくりと進行します。いわゆる遺伝性のものではなく、子孫への影響はありません。通常、疾患の進展に伴い、慢性期、移行期、急性転化期に分けられます。

すべての遺伝子は細胞の中にある46本の常染色体と、2本の性染色体に存在していますが、慢性骨髄性白血病ではほとんどの場合で、9番染色体と22番染色体が途中で切断され、それぞれ相手方の染色体と結合する異常が認められます。この異常な染色体をフィラデルフィア染色体と呼んでいます。

この結果、新たにBCRーABLと呼ばれる異常な遺伝子が形成されます。この遺伝子からBCRーABL蛋白(たんぱく)質が産生され、これが慢性骨髄性白血病の発生原因と考えられます。しかし、どのような原因によってフィラデルフィア染色体が形成されるのかは、わかっていません。

慢性骨髄性白血病の慢性期では、全身のだるさ、体重減少、皮膚のかゆみなどのほかに、肝臓あるいは脾臓の腫大による腹部膨満感を自覚することがあります。そのほか、胃潰瘍(かいよう)を合併することもあります。

しかし、自覚症状がない段階で、健康診断やほかの疾患の検査で偶然に発見されることも少なくありません。

 急性転化期では、動悸(どうき)、息切れ、全身のだるさなどの貧血症状、皮下出血、鼻血、歯肉出血などの出血症状、発熱などの感染症状のほか、関節痛、骨痛などが現れる場合があります。

 慢性骨髄性白血病の発症はやや男性に多く、すべての年齢層に起こり得ますが、40歳から50歳前後に多くみられます。 発症の頻度は、100万人に5人です。

慢性骨髄性白血病の検査と診断と治療

内科、血液内科の医師による診断では、血液検査、骨髄検査を行います。正常なら骨髄の中だけにある未熟な白血球が、骨髄だけでなく血液の中でも多数認められ、血小板も増加しています。また、骨髄では未熟な赤血球が極端に減少し、対照的に白血球が充満しています。

 染色体を検査すると、特殊な染色体であるフィラデルフィア染色体が大部分の症例で見付かり、診断の決め手となります。

慢性骨髄性白血病の治療では、急性白血病のように強力な化学療法は行わず、外来で経口投与する抗がん剤によって、血液中の白血球数を抑えて、コントロールします。化学療法の進歩によって、ほぼ100パーセントの症例で寛解(かんかい)させることができますが、最後は急性白血病に変わっていくことが少なくありません。

慢性骨髄性白血病には近年、画期的な分子標的薬剤のグリベック(イマチニブ)が開発されました。グリベックはフィラデルフィア染色体上にある、この疾患の原因遺伝子のBCRーABLが産生するチロシンキナーゼの働きを特異的に阻害する薬剤。経口で投与でき、副作用が比較的軽度なので、外来で治療可能です。しかし、グリベックのみで完治することは難しいと考えられており、効果がある場合でも、長期間に渡って服用を続けることが必要とされています。

グリベックが効かない場合や、副作用によりグリベックを続けることができないケースなどで、ダサチニブ(スプリセル)、ニロチニブ(タシグナ)といった新薬も使われるようになってきています。

通常では50歳以下の年齢であること、白血球の型が一致したドナーがいることなどの条件が整えば、造血幹細胞移植が選択肢の一つとなります。治癒をもたらし得ることがわかっている唯一の治療法ですが、移植に伴う合併症の危険についても十分に考慮する必要があり、その適応は慎重に検討されなければなりません。

発症者には比較的高齢者が多いため、移植時に行う前処置の治療毒性を軽減した非破壊性造血幹細胞移植も試みられています。

🇲🇭ほくろのがん

メラニンを作り出す皮膚細胞から発生するがん

ほくろのがんとは、メラニンを作り出す皮膚細胞(メラニン細胞、メラノサイト)から発生するがん。悪性黒色腫(しゅ)、メラノーマとも呼ばれます。

メラニン細胞は、色素を作り、皮膚の色を決める色素細胞です。日光がメラニン細胞を刺激すると、メラニンという皮膚の色を濃くする色素がたくさん作られて、ほくろのがんを発生するリスクが高まります。

ほくろのがんは最初、正常な皮膚に新しくできた小さな濃い色の皮膚の増殖性変化として現れます。多くの場合、日光にさらされる皮膚にできますが、もともとあったほくろに発生する場合もあります。体のほかの部位に非常に転移しやすく、転移した部位でも増殖を続けて組織を破壊します。また、ほくろのがんは遺伝することがあります。

日本でのほくろのがんの発症数は、人口10万人当たり1・5~2人くらいといわれ、年間1500~2000人くらい発症しています。白色人種の多い欧米では人口10万人当たり10数人以上で、オーストラリアは20数人以上の発症と世界一です。日本でも外国でも年々、発症数の増加傾向が認められています。

日本でのほくろのがんによる死亡者は、年間約450人。40歳以上になると発症が多くなり、60~70歳代が最も多くなっています。男女差はありません。

ほくろのがんの外観は、さまざまです。平らで不規則な形の茶色の皮疹(ひしん)の中に黒い小さな点がある場合もあれば、盛り上がった茶色の皮疹の中に赤、白、黒、青などさまざまな色の点があるものもあります。黒か灰色の硬い塊ができることもあります。

その外観や色などによって、いくつかのタイプに分類されています。悪性黒子型は高齢者の顔などの露出部に色素斑が発生するタイプ、表在拡大型はやや盛り上がった不整型の色素斑が発生するタイプ、結節型は盛り上がるタイプ、末端黒子型は手や足から発生するタイプ、粘膜型は口腔(こうくう)や陰部などの粘膜に発生するタイプ、またメラニン欠乏性は色素を持たないので発見されにくいタイプです。

このようにいろいろなタイプがあるものの、それぞれに対応したよく似た良性腫瘍(しゅよう)が多数存在しています。悪性か良性かを一応判別する目安として、足の裏などのほくろの場合、一般に大きさが5ミリ以下であればほとんど心配はないが、7ミリ以上では要注意と考えられます。さらに、皮疹が数カ月以内に急速に大きくなったり、出血するようになったり、色調に異変などが認められた場合は、悪性化の兆候の可能性があるので、皮膚科の専門医を受診します。

ほくろのがんの検査と診断と治療

皮膚科の医師による診断では、ほくろのがん(悪性黒色腫)が疑われる場合に生検を行います。通常は色の濃い増殖部分全体を切除し、顕微鏡で病理学的に調べます。ほくろのがんだった場合、がんが完全に切除されたかどうかを確認します。

一方、ほくろのがんの周囲組織を切り取ると、がん細胞が刺激されて転移を起こすことが考えられるため、生検をせずに視診と触診で診断する医師もいます。

医師による治療は原則的に、ほくろのがんの部位を外科手術によって円形に切除します。手術が成功するかどうかは、皮膚のどの程度の深さにまでがんが侵入しているかによって決まります。初期段階で最も浅いがんであれば、ほぼ100パーセントは手術で治りますので、周囲の皮膚を腫瘍(しゅよう)の縁から最低でも約1センチメートルは一緒に切除します。

皮膚の中に約0・8ミリメートル以上侵入しているがんの場合、リンパ管と血管を通じて転移する可能性が非常に高くなります。転移したがんは致死的なものになることがしばしばあり、抗がん剤による化学療法を行いますが、治療の効果はあまりなく余命が9カ月を切る場合もあります。

とはいえ、このがんの進行の仕方には幅がありますし、発症者の体の免疫防御能によっても差がありますので、化学療法、インターフェロンによる免疫療法、および放射線療法などいろいろな手段を組み合わせた集学的治療を行い、たとえがんが転移しても健康を保って何年も生存する人もいます。

一度、ほくろのがんを発症した人は、再発するリスクが高くなります。そのため、発症者は毎年皮膚科で検査を受けるべきです。ほくろが多い人も、全身のほくろの検査を年に1回は受けるほうがよいでしょう。

ほくろのがんをはじめ、その他の皮膚がんの発生数も年々増加傾向にあり、今まで紫外線に対する防御対策をしてこなかったことが増加の一因であると考えられます。海水浴やスポーツ、仕事などで長時間、過度の紫外線を受ける場合は、皮膚を紫外線から防御することが非常に大切です。日焼け止めクリームの使用、帽子や日傘の使用、長袖(ながそで)で腕を覆うなどの予防策があります。

🇲🇴ページェット病

乳房、外陰部、肛門部に発生する皮膚の異常

ページェット病とは、乳房、わきの下、外陰部、肛門(こうもん)部などに発生する皮膚の異常。

通常、乳房(にゅうぼう)ページェット病と、乳房外ページェット病に分けられます。前者は、乳がん、すなわち乳管浅部がんの皮膚への浸潤で、イギリスの外科医ジェームス・ページェットによって発見されました。後者の多くは、がん前駆症と見なされます。

症状は一般に、かゆみやムズムズする違和感から始まり、淡紅褐色から鮮紅色の赤色調の色素斑(はん)として、病変が皮膚に現れます。乳房にできるものは、湿疹(しっしん)様の変化のほか、乳頭のびらんがあります。腫瘤(しゅりゅう)は触れません。

乳房外にできるものは、男女ともに外陰部を中心に発生し、わきの下も含めて、体臭のもとであるアポクリン汗腺(かんせん)の多い皮膚に同時に多発することもあります。男性ではペニスの根元に病巣の中心を持つことが、また、女性では太ももの根元に左右同時に発生することが多いようで、時に脱色素斑もみられます。

いずれも赤みの強い、ジトジトした局面で、湿疹として治療されている場合が多いので、注意が必要です。乳房外にできるものは、男性ならば、いんきんたむし、女性ならば、カンジダ症と間違いやすく、市販の湿疹や水虫の薬を塗り、医師に診せてもページェット病と診断が確定できずに時間がたってしまいがちです。

診断や治療が遅れれば、真皮内に浸潤してページェットがんになり、びらんや潰瘍(かいよう)を伴うようになり、予後不良となる場合があります。乳房外ページェット病の場合、日本では高齢者に好発して、男性が女性の2倍ほど多く、女性のほうが多い欧米と異なっています。

ページェット病の検査と診断と治療

長い間続いていた皮膚の異常が急に変化して、びらん、潰瘍を生じたり、大きさが増した時には、すぐに皮膚科専門医の診断を受けます。

乳房外ページェット病の場合、病変が外陰部であるため病院に行くのが恥ずかしく、いんきんたむし、湿疹、カンジダ症と自己診断して市販薬を購入し、使用している発症者を多く見掛けます。当然のことながら、これらの自己治療には反応しません。

専門医が視診すると診断がつくことが多いのですが、湿疹など他の皮膚病との鑑別は必ずしも簡単ではありません。確実に診断するためには、病変の一部を切り取って組織検査をする生検が必要です。

 ページェット病の治療法としては、外科的切除が原則です。外科手術以外の方法として、体力のない高齢者に対する放射線照射、抗がん剤による化学療法などが行われていますが、あまり効果は期待できないとされています。

切除範囲の決定には、手術前に病巣辺縁部から少し離れた部位で、多数箇所の生検を行います。乳房外ページェット病では、組織学的には乳房ページェット病ではみられない表皮内におけるページェット細胞のスキップ現象がみられることが多いため、切除範囲を決定するのが容易ではありません。

ページェット病の原発巣が大きい場合は、ページェットがんに進行していることもあり、特に隆起性病変となっている時は、進行がんを疑います。一方で、意外に早く浸潤してリンパ節に転移する場合がありますので、MRI検査あるいはCT検査により、リンパ節の検索も行ったほうがよいとされています。

手術では、病巣辺縁から3~5センチ離して、皮下脂肪組織の中層の深さで切除します。広範な欠損となりますが、一般的には植皮で修復されます。リンパ節転移が疑われる場合には、リンパ節郭清(かくせい)術を行います。

女性の乳房外ページェットがんの進行例では、時に尿路変更や人工肛門の造設を必要とし、会陰部の組織欠損に対しては筋皮弁などを用いた再建手術を行います。

予後は、ページェット病かページェットがんかで全く異なります。ページェット病であれば、根治手術さえなされれば予後は良好です。ページェットがんでは、転移の程度にもよるものの予後は良好とはいえません。

🟧アメリカの病院でブタ腎臓移植の男性死亡 手術から2カ月、退院して療養中 

 アメリカで、脳死状態の患者以外では世界で初めて、遺伝子操作を行ったブタの腎臓の移植を受けた60歳代の患者が死亡しました。移植を行った病院は、患者の死亡について移植が原因ではないとみています。  これはアメリカ・ボストンにあるマサチューセッツ総合病院が11日、発表しました。  ...