精巣にはれ物ができ、がんであることが多い疾患
精巣腫瘍(しゅよう)とは、男性の生殖器官である精巣に、はれ物ができる疾患。悪性腫瘍、いわゆるがんであることが多く、睾丸(こうがん)腫瘍とも呼ばれます。
精巣、すなわち睾丸は、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしており、男性ホルモンおよび精子を産生しています。精巣腫瘍の頻度としては10万人に1〜2人の非常に珍しい疾患ですが、好発年齢は0~10歳、20~40歳、60歳以上の3つのピークがあります。
精巣腫瘍は、セミノーマ、胎児性がん、卵黄嚢(のう)腫瘍、奇形腫、絨毛(じゅうもう)がんと呼ばれるものに区分されます。これらのいずれも成人にはみられますが、セミノーマが最も多く、全体の約半数。乳幼児にみられるのは、卵黄嚢腫瘍と奇形腫。
がんでは進行が速く、リンパ管や血管を通じて容易に他の臓器に転移するので、放っておくと命にかかわることがあります。しかし近年では、治療法の進歩により9割以上の人が完治するようになりました。転移を起こしてしまった人でも適切な治療を行えば7〜8割の人が治りますが、進行した状態では治療が困難な場合もあります。
なぜがんができるのか、本当の原因はまだわかっていません。ただ、停留精巣や精巣発育不全などの疾患を持っている人、胎児期に母親がホルモン剤投与を受けた人は、精巣のがんになりやすいと見なされています。
症状で最も多いのは、痛みのない精巣のはれです。時には、痛みを伴うこともあります。一般に、痛みもなく、熱もないために放置しておくと、陰嚢の中の精巣の一部が硬くゴツゴツしたり、全体的にはれて大きくなってきます。かなり進行すると、腹部が膨らんだり、せきが出て胸が苦しくなるなど精巣腫瘍の転移による症状が現れます。
精巣腫瘍の検査と診断と治療
精巣のはれ物に気付いた場合には、恥ずかしがらずに泌尿器科の専門医を受診します。
医師による診断では、ほとんどの場合、触っただけで判断できます。判断に迷う場合は、懐中電灯を当てて中身が詰まっているかどうか調べたり、超音波で腫瘍の内部を検査します。診断が確定すれば、血液検査で腫瘍マーカーを調べ、がんが他の臓器に転移していないかどうかを全身のCTやアイソトープを使った検査で詳しく調べます。
治療では、まず腫瘍ごと精巣を取り除きます。陰嚢を切開せず、おなかの下のほうに傷ができる高位除精巣術と呼ばれる方法です。精巣は左右一対ありますから、片方を摘出しても、もう一方が正常に機能していれば、男性ホルモンや精子を産生する能力が低下したり、勃起(ぼっき)能が衰えるような後遺症はありません。
精巣を摘出した後、疾患がまだ全身に広がっていない時は、一般に再発予防の治療が行われます。医療機関によっては、摘出した後、定期的な精密検査のみの場合もあります。このような治療法で転移がない場合には、9割以上治ります。
すでにリンパ節や肺、肝臓、骨、さらに脳などに転移している場合は、シスプラチン、エトポシド、ブレオマイシンという3種の抗がん剤による治療が追加されます。1回5日間の点滴を3〜4週間おきに繰り返す方法で、3〜4回行うことが標準的。成人に最も多いセミノーマの場合は、放射線治療も有効です。このような治療で転移があるような進んだがんでも、7〜8割が完治します。
なお、転移が見付からないような初期のがんでも、将来2〜3割に転移が現れるため、予防的な抗がん剤投与や放射線治療を行う場合もあります。
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