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2022/08/15

🇻🇺中毒性表皮壊死症

重度の薬疹で、表皮の壊死や剥離など重篤な症状を伴う皮膚障害

中毒性表皮壊死(えし)症とは、重度の薬疹(やくしん)で、表皮の壊死や剥離(はくり)など重篤な症状を伴う皮膚障害。中毒性表皮壊死融解症、ライエル症候群、ライエル症候群型薬疹などとも呼ばれます。

この中毒性表皮壊死症は、その多くが医薬品によるものと考えられています。原因と推定される医薬品は、抗生物質、解熱消炎鎮痛薬、抗てんかん薬を始め、痛風治療薬、サルファ剤、消化性潰瘍(かいよう)薬、催眠鎮静薬、抗不安薬、精神神経用薬、緑内障治療薬、筋弛緩(しかん)薬、高血圧治療薬など広範囲に渡り、その他の医薬品によっても発生することが報告されています。また、総合感冒薬(風邪薬)のような市販の医薬品が原因となることもあります。

中毒性表皮壊死症の一部は、単純疱疹(ほうしん)ウイルス、肺炎マイコプラズマ、細菌、真菌などの種々のウイルスや細菌による感染症が原因となって発症します。原因不明な場合も、まれにあります。

38度以上の高熱とともに急激に発症し、全身が広範囲に渡って赤くなり、全身の10パーセント以上にやけどのような水膨れ、皮膚のはがれ、ただれなどが認められます。皮膚や口にできるぶつぶつ、目の充血、のどの痛み、排尿・排便時の痛みなどの症状を伴います。その症状が持続したり、急激に悪くなったりします。肝障害、腎(じん)障害、呼吸器障害、消化器障害などの合併症により、死に至ることもあります。

発生頻度は、人口100万人当たり年間0・4〜1・2人。発症メカニズムについては、医薬品などにより生じた免疫・アレルギー反応によるものと考えられていますが、さまざまな説が唱えられており、いまだ統一された見解は得られていません。

なお、スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)と中毒性表皮壊死症は一連の病態と考えられ、中毒性表皮壊死症の症例の多くがステ ィーブンス・ジョンソン症候群の進展型と考えられています。

原因と考えられる医薬品の服用後2週間以内に発症することが多く、数日以内あるいは1カ月以上たってから起こることもあります。

その症状が持続したり、急激に悪くなったりした場合、何らかの医薬品を服用している人は放置せずに、すぐに医師、薬剤師に連絡して下さい。その際には、服用した医薬品の種類、服用からどのくらいたっているのかなどを伝えて下さい。

中毒性表皮壊死症の診断と治療は、皮膚科の入院施設のある病院で行うことが望ましいとされています。入院に至った際は、皮膚科と眼科、呼吸器科などとのチーム医療が行われることになります。

中毒性表皮壊死症の検査と診断と治療

皮膚科の医師による診断では、皮膚生検で確定診断を早急に行い、血液検査、呼吸機能検査なども行います。剥離した皮膚を組織学的に検討すれば、壊死に陥った表皮が認められ、これが確定診断に役立つ特徴となります。また、原因と推定される医薬品や、ウイルスや細菌の感染などを検索します。

医薬品の服用後に高熱を伴う皮膚、粘膜、目の症状を認めたケースでは、原因と推定される医薬品の服用を直ちに中止することが最も重要で、最良の治療法となります。しかし、服用を中止しても重症化する場合があるので、注意が必要です。

一般に、中毒性表皮壊死症を発症した場合、副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の全身投与、あるいは血漿(けっしょう)交換療法、ビタミン類の投与、さらに二次感染予防の目的で抗生物質の投与が行われます。皮膚の症状に対しては、熱傷と同様の治療を行い、外用抗生物質、外用副腎皮質ホルモン剤が用いられます。粘膜の症状に対しては、うがい、洗眼など開口部の処置が行われます。

2022/08/14

🇨🇺卵アレルギー

卵アレルギーとは、卵の摂取でアレルギー症状が出現した状態。食物の摂取でアレルギー症状が出現する食物アレルギー(食品過敏症)の一種です。

卵アレルギーの場合、主なアレルゲン(抗原)は卵白(白身)に含まれています。そのアレルゲンは、オボアルブミン、オボムコイド、リゾチーム、オボトランスフェリンなどのたんぱく質です。特に、オボムコイドは最もアレルゲン活性(アレルギーを起こす性質)が強く、加熱しても変わりません。

極度に強い卵アレルギーのある場合を除けば、卵黄にはアレルゲン活性はないといわれています。

卵アレルギーは、乳児や小児のころに多くみられます。消化器官が弱いことが一因となっているため、ある程度年齢を重ねると消化器官が強くなり、卵アレルギーが自然に治ってしまうことも多くみられます。しかし、牛乳アレルギーなどとは違って、大人になってもみられる人がいるのが特徴です。

アレルギー症状は、口唇、口腔(こうくう)粘膜の接触皮膚炎様の湿疹(しっしん)から、気管支喘息(ぜんそく)、じんましん、胃腸障害を引き起こすものまでさまざまです。時には、血圧低下、顔面蒼白(そうはく)、呼吸困難、意識混濁など生命にかかわる急激な全身のアレルギー反応(アナフィラキシーショック)を起こす場合もあります。

卵を食べてから発症するまでの時間は、アレルゲンへのアレルギーの強さと本人の抵抗力とで、かなり差が出ます。アレルギーの度合いが極度に強ければ、食べて数分で呼吸困難や、じんましんを起こす場合もあります。アレルギーの度合いが軽ければ、半日~数日後に湿疹が出て、その後卵アレルギーが消失するケースもあります。

卵アレルギーの治療は、主治医との相談の上で進めることが基本。原因となる卵を食べないのはもちろん、原則として卵を含む加工品もすべて除去します。また、鶏卵以外の卵や、魚卵も除去します。卵で強いアレルギー症状が出ると診断された場合には、鶏肉や加工食品も除去します。

食物除去療法でアレルゲンを除いたら、それに代わる栄養価の食品で補う必要があります。充実しているアレルギー対応食品を利用するのもよいでしょう。

乳児や小児の場合は、卵を取らない食事に変えることによって、年齢が大きくなるとともに、卵アレルギーが改善される場合が多くあります。成人の場合でも、少数ながら加齢に伴って症状がなくなるという人もいますが、現在のところ、卵アレルギーを含めた食物アレルギーに関しては、根本的な治療法というのは見付かっていません。そのため、現状では除去食対応というのが、正式な対応になります。

卵アレルギーの原因となる卵を使用した主な食材は、はんぺん、かまぼこ、竹輪、めん類、マヨネーズ、菓子パン、カステラ、ケーキ、ケーキの素、ホットケーキ、インスタントラーメン、インスタントココア、豚カツ、コロッケ、天ぷら、プリン、アイスクリーム、ビスケットなど。

2022/08/13

🇨🇭結節性多発動脈炎

全身の中小動脈に炎症が起こる疾患

結節性多発動脈炎とは、全身の中小動脈の動脈壁に炎症が起こる疾患。中小動脈に血管炎が起こる本症と、細小動脈から静脈に血管炎が起こる顕微鏡的多発血管炎とを併せて、結節性動脈周囲炎とも呼ばれます。

膠原(こうげん)病の中でも非常にまれで重い疾患といえ、全身の諸臓器に分布する中小動脈に血管炎が生じるため、多様な症状を示します。ほかの膠原病が女性に多くみられるのと異なり、やや男性に多く、通常中年から壮年に発症します。日本では、国の特定疾患(難病)に指定されています。

原因は不明です。B型肝炎ウイルスやヘアリーセル白血病、大気汚染などの関与が、示唆されています。初発症状としては、高熱が出て、関節痛、筋肉痛が起こり、体重減少、全身の消耗がみられます。

侵される血管の部位によって、引き起こされる障害は異なります。皮膚の場合は、結節性紅斑(こうはん)や紫斑、潰瘍(かいよう)、時に指先に壊疽(えそ)が起こることがあります。心臓の場合は、狭心症や心筋梗塞(こうそく)が起こります。腎(じん)臓の場合は、高血圧、腎不全が起こります。腸管の場合は、激しい腹痛、嘔吐(おうと)、下血などがみられます。神経の場合は、末梢(まっしょう)神経障害が起こります。筋肉の場合は、筋肉痛の原因となります。目の場合は、黒内障といって突然失明することがまれにあります。

結節性多発動脈炎の検査と診断と治療

結節性多発動脈炎はまれな疾患ながら、生命や臓器不全の危険性があるので、専門医の意見を聞いて入院治療を受けることが重要です。早期診断、早期治療が望まれますので、膠原病内科、腎臓内科などを受診します。

血液検査によって、血管の炎症の程度を調べます。皮膚や筋肉などの生検、血管造影、障害が起こっている臓器を調べる検査なども、診断のために重要です。区別すべき疾患は、顕微鏡的多発血管炎など他の血管炎および膠原病です。

治療には、高用量の副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)と免疫抑制剤が用いられます。重篤な臓器病変が生じたら、それに応じた治療も行われます。腎臓が侵されやすく、腎不全では人工透析が行われます。心筋梗塞では、冠動脈形成術も行われます。

🇮🇹気管支ぜんそく

●気管支ぜんそくとは

気管支ぜんそくとは、原因物質であるアレルゲンや個人の生活環境から生じる刺激物質などによって、気道が過敏に反応して内腔が狭くなった結果、突然、咳(せき)が出て、ゼーゼー、ヒューヒューといった音を伴う呼吸となり、息苦しくなる病気です。しかも、繰り返すことが特徴です。

この病気の怖い点は、重症の発作を起こすと死亡するケースもあることです。年間の死亡者は、6000人前後を数えています。年齢別に見ると、男女とも15~29歳の若年層で増加の傾向を示しています。さらに、死亡例を気管支ぜんそくの重症度別に見た時、軽症、中等症の気管支ぜんそくでの増加が、小児、成人ともに指摘されています。

小児の気管支ぜんそくが増加していることも、注目されています。また、以前は乳幼児の気管支喘息は比較的まれでしたが、最近では著しく増加しています。増加の原因として、さまざまな説がありますが、明確な答えが出ていないのが現状です。

●気管支ぜんそくの症状

成人でも小児でも、生まれ付きアレルギー反応を起こしやすいアトピー素因がある人では、突然、出現する呼吸困難、息苦しさ、息を吐く時にゼーゼー、ヒューヒューといった音がする喘鳴(ぜんめい)、夜間、早朝で出現しやすい咳が繰り返し起こり、軽い場合は特別な治療もせずに治まってしまうことがあります。

春先とか秋口になると毎年、喘鳴や咳が見られ、1~2カ月続くという人もいれば、1年中発作が続く人もいるなど、繰り返すパターンは人によって異なります。

気管支ぜんそくは多くの場合、アレルギー性の病気ですから、さまざまな病気を合併していることがあります。アレルギー性鼻炎、花粉症、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹(じんましん)などが、代表的な病気。

よく見られるものとして、運動誘発性ぜんそくがあります。運動をした直後に、ぜんそく発作を起こすタイプと、運動後6時間以上経って発作を起こすタイプがあります。特に、後者の診断には注意が必要です。

●気管支ぜんそくの予防法

気管支ぜんそくの予防については、発病しないための一次予防と、すでにかかっている人の発作を防ぐ二次予防に大別できます。

発病に関係する因子と一次予防

気管支喘息の発病には、三つの因子がかかわっていると考えられます。

かかりやすくする因子:環境アレルゲンに反応しやすいアトピー体質があります。また、小児では女児より男児に多く見られます。成人では、男女に差がなくなります。

原因となる因子:ちり、ダニ、ペット、カビなどの室内アレルゲンや、花粉などの屋外アレルゲンがあります。特に小児では、室内のちり、ダニなどが多い環境で生活すると発病しやすいので、室内環境を整えなければなりません。また、職業によっては、頻繁に接する物質が発病の原因になることがあります。さらに、アスピリンなどの消炎鎮痛剤や着色料などの食品添加物が、原因になることもあります。

発病の可能性を高める因子:たばこの煙や花火の煙、線香の煙なども、気道粘膜を刺激します。光化学スモッグなどの大気汚染も、悪影響を及ぼしているのではないかと考えられています。また、新建材や接着剤などから放出される化学物質なども、悪影響があります。

その他、乳幼児期のウイルス呼吸器感染症や出生時体重、母乳栄養や出生後の食事、寄生虫感染などの関与も、無視できません。

遺伝子が関与する因子については予防できませんが、生活環境の整備は大切です。これを一次予防といいます。具体的には、下記のようなことが考えられます。

〇室内のちり、ダニをできる限り除去する

〇妊娠中の人や小児に受動喫煙させない

〇職場での感作(アレルギーの素地を作ること)を避けるための衛生対策を講じる

〇妊娠中の栄養状態を良好に保ち、早産や出生児の低体重の原因を回避する

症状の悪化に関係する因子と二次予防

すでに気管支ぜんそくを発病してしまっている人にとっては、薬によるコントロールとともに、発病の原因となった物質などを回避することが、何よりも重要となります。これを二次予防といいます。

室内のちり、ダニの除去に努め、発病の原因となった物質や悪化させた因子を避けるようにして生活しましょう。

ただし、例えば運動誘発性ぜんそくが起こったとしても、小児における運動は心身の発育に不可欠ですので、医師の指導に従って運動種目を選択し、時には予防のための薬を使用して、適切な運動をしましょう。

また、悪化させた因子をすべて回避することは困難ですので、掛かり付けの医師や看護師、学校の先生などとよく相談して、望ましい環境を整えていきたいものです。

🇦🇩季節性アレルギー性鼻炎

花粉などの抗原に接触することが原因で、一年の特定の時期にだけ出現する鼻炎

季節性アレルギー性鼻炎とは、花粉などの空気中を漂う物質に接触することが原因で、一年の特定の時期にだけ出現する鼻炎。いわゆる花粉症です。

アレルギー性鼻炎は、鼻の粘膜でアレルギー反応が起こるもので、発作反復性のくしゃみ、鼻水(鼻汁)、鼻詰まり(鼻閉)の3つを主な症状とします。これらの症状は、体への異物の侵入を阻止し、排除しようとする防御のメカニズムの現れです。

Ⅰ型アレルギー反応(即時型アレルギー反応)により起こる疾患で、ほかに気管支喘息(ぜんそく)、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎などがあります。これらアレルギー性の疾患は、しばしばアレルギー性鼻炎と同時に起こります。

アレルギー性鼻炎は、季節性アレルギー性鼻炎と通年性アレルギー性鼻炎の2種類に分かれています。

通年性アレルギー性鼻炎のほうは、季節に関係なくいつでも発症し、1年中続くこともあります。鼻から吸い込まれた抗原(アレルゲン)が鼻の粘膜でアレルギー反応を起こして、通年性アレルギー性鼻炎を発症することから、空気中を浮遊している抗原が原因となります。代表的な抗原は、1年中存在しているダニ、ハウスダスト(室内のほこり)、カビや細菌です。

季節性アレルギー性鼻炎も、鼻から吸い込まれた抗原(アレルゲン)が、鼻の粘膜でアレルギー反応を起こして発症することから、空気中を浮遊している抗原が原因となります。代表的な抗原は、風の媒介で受粉する風媒花の雄しべの中にある花粉などです。

花粉が抗原の場合は、例えばスギ、ヒノキは春、イネ科の植物は夏、ブタクサ、ヨモギは秋というように開花の時期に一致して症状が突然、出現します。また、花粉は地域の植生や気象状況で飛散量が異なるため、花粉症が猛威を振るう年や地域に違いのみられることがあります。

外部からスギ、ヒノキの花粉など異物である抗原が侵入した時に、その抗原に対応する特定の抗体(IgE抗体)が体内に存在すると、抗原と抗体が結合し、抗原抗体反応が起こります。抗原抗体反応が起こると、免疫システムを構成する細胞の仲間である肥満細胞や、白血球の一種である好塩基球などからヒスタミン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどの化学伝達物質が遊離され、その作用でアレルギー反応が起こります。

ヒスタミンが鼻の粘膜の三叉(さんさ)神経を刺激したり、自律神経のバランスを崩して副交感神経の働きを優位にするために、くしゃみや、透明なさらさらとした鼻水の過剰分泌、鼻のかゆみなどが起こります。ロイコトリエンやトロンボキサンなどは、鼻の粘膜の血管を刺激して拡張させるために、鼻詰まりも起こります。

花粉などの空気中に漂う抗原が目に直接接触するとアレルギー性結膜炎を合併することも多く、目のかゆみや充血、流涙がみられることもあります。口の中とのどのかゆみ、のどの痛み、外気に触れている部分の皮膚炎などが起こることもあります。

進行すると、鼻の付け根や前頭部がずきずきしたり、耳が詰まったように感じる耳閉感、鼻が詰まってにおいがわからなくなる嗅覚(きゅうかく)低下、頭が重いように感じる頭重感などの症状を生じることもあります。

鼻の奥と中耳をつないでいる耳管がはれることもあり、特に小児では聴力が低下したり、慢性中耳炎になったりすることがあります。また、鼻の周囲にあって骨で囲まれた空洞である副鼻腔(ふくびくう)炎を繰り返すことで、鼻の粘膜組織が増殖して鼻ポリープができることもあります。

季節性アレルギー性鼻炎のある人の多くは、気管支喘息(ぜんそく)も発症して喘鳴を起こします。気管支喘息の原因は、季節性アレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎を起こすのと同じ抗原である可能性があります。

季節性アレルギー性鼻炎の始まりは、突然です。スギ、ヒノキの花粉にアレルギー反応を起こして発症した場合は、春先のある日、昨年までは何の症状もなかった人が、立て続けのくしゃみと止まらない鼻水に悩まされるようになります。その症状は、花粉が飛ぶ春から夏の間にかけて続き、空気中に花粉がなくなると自然に治まってきます。しかしながら、一度症状が出ると翌年以降、雄性の配偶体である花粉が飛来する季節の到来とともに、再び症状が出始めます。

この季節性アレルギー性鼻炎はかなり最近の疾患で、1961年に日本で初めてブタクサによる発症者が発見され、その2年後にスギによる発症者が発見されました。

近年、季節性アレルギー性鼻炎の発症者が増加していますが、その誘因には、体質や遺伝的素因としての内因と、環境や栄養などの外因とがあります。

季節性アレルギー性鼻炎の発症者の家系調査によると、アレルギーの体質は遺伝するといわれています。また、抗原抗体反応に関係なく、鼻粘膜の過敏性や化学伝達物質の遊離、自律神経のバランスの崩れやすさも遺伝するといわれています。

植林が盛んになりスギ林が多くなるにつれて、スギの花粉も増えています。このような抗原の増加も、季節性アレルギー性鼻炎の増加の誘因の1つと考えられています。

自動車、特にディーゼル車の排気中の物質が、抗体の産生を促す方向に作用するともいわれています。さらに、排気ガスや塵埃(じんあい)などの大気汚染物質のほか、たばこの煙も、季節アレルギー性鼻炎の増加に関係しているといわれています。

そのほか、食生活の欧米化による高蛋白(たんぱく)・高栄養の食事が抗体の産生に結び付くともいわれ、ストレスの増加による自律神経のバランスの崩れも誘因と考えられています。

近年、花粉症などの季節性アレルギー性鼻炎と、通年性アレルギー性鼻炎の両方を発症する人も増加傾向にあります。冷暖房が普及して住宅の空気が密閉されるようになったことで、ダニやハウスダストが室内に蓄積されやすくなり、通年性アレルギー性鼻炎を発症する人も増えているためです。

常に鼻炎に悩まされている人は、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診して、症状を引き起こす原因が何かを調べることが勧められます。原因が特定できれば、日常生活の中でそれを避ける工夫ができ、症状の軽減につなげることが可能になるためです。

季節性アレルギー性鼻炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、まず鼻炎の症状がアレルギー性かどうかを検査で調べます。検査には、問診、鼻鏡検査、鼻汁検査などがあります。

問診では、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりの3つの症状が始まった時期、症状が1年中起こるのか特定の季節と関連して起こるのか、症状の種類と程度、過去の病歴、気管支喘息やアトピー性皮膚炎などほかのアレルギー性疾患の併発の有無、副鼻腔炎や鼻ポリープの併発の有無、家族の病歴などを明らかにします。

鼻鏡検査では、専用のスコープを使って直接鼻の粘膜の状態を観察し、副鼻腔炎、鼻ポリープなどほかの疾患があるかどうかも観察します。

鼻汁検査では、綿棒などで採取した鼻水の中に、白血球の一種の好酸球という細胞がどの程度含まれているかを調べます。抗原抗体反応が起こると、鼻水の中の好酸球が増加するので、アレルギー性鼻炎の診断の助けになります。

アレルギー性であれば、原因となる抗原は何かを検査します。検査には、特異的IgE抗体検査、皮膚テスト、鼻粘膜誘発テストがあります。

特異的IgE抗体検査では、抗原抗体反応を起こす抗体(IgE抗体)が血液中にどの程度含まれているか、その抗体がどんな種類の抗原(アレルゲン)と結合するか、採血して調べます。

皮膚テストでは、可能性のある抗原のエキスを前腕の皮膚に注射するか、皮膚につけた引っかき傷に滴下して反応を調べます。15〜20分後に、皮膚が赤くはれる面積と程度で判定します。

鼻粘膜誘発テストでは、可能性のある抗原エキスの染み込んだ小さな紙を鼻の粘膜に張り付け、アレルギー反応を調べます。5分後にくしゃみ、鼻水、鼻詰まりがどの程度出現するかで判定します。

鼻汁検査、特異的IgE抗体検査または皮膚テスト、鼻粘膜誘発テストの3つのうち2つ以上が陽性の場合に、アレルギー性鼻炎と確定し、症状が特定の季節と関連して起こる場合に、季節性アレルギー性鼻炎と確定します。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、まず抗原の除去、回避に努めます。花粉の飛散期の外出をできるだけ控え、マスクや眼鏡で花粉との接触を避け、帰宅したら洗眼、うがいをして鼻をかんだり、室内に空気清浄機を設置したりすることで回避に努めます。

次に、減感作療法(特異的免疫療法)という体質改善の治療や、抗アレルギー薬で症状を抑える治療を行います。

減感作療法は、抗原に体を慣れさせ、抗原に接しても症状を起こしにくくする治療です。現在のところ、長期にわたって症状の出現を抑えることが可能な唯一の方法であり、週に1回くらいの割合で抗原希釈液を注射し、徐々に濃度を濃くしていく治療を2~3年続けます。治療終了後にも、症状の改善が持続します。

最近、長期にわたる通院の負担を軽減するのを目的として、急速減感作療法がいくつかの医療機関で行われています。副作用の出現も危ぶまれるために入院して行う場合もありますが、従来の減感作療法と同じか、それ以上の効果があるといわれています。

薬物療法では、ヒスタミンなどの化学伝達物質の作用を抑える抗ヒスタミン薬や、化学伝達物質の遊離を抑えるいわゆる抗アレルギー薬、副腎(ふくじん)皮質ホルモン薬、自律神経薬などを、症状やそのほかの状況に応じて内服薬、点鼻薬として使用します。

症状を抑える薬を使用すると、その時は改善しても、再発することが多く、完全に治ることが難しいため、長期間の経過観察も行います。花粉が飛散する前から薬物を予防的に投与し、症状の発現を遅らせて、花粉飛散期の症状を軽くする初期療法を行うこともあります。

薬物療法に効果を示さない場合は、手術療法を行うこともあります。鼻詰まりに対しては、鼻粘膜の一部を固める電気凝固術やレーザー手術、凍結手術、鼻粘膜の一部を切り取る鼻粘膜切除術などがあります。また、鼻水に対しては、自律神経の副交感神経を遮断する後鼻神経切断術が行われることもあります。

副鼻腔炎や鼻ポリープがある場合も、副鼻腔からの粘液の排出をよくしたり、感染物質を除去したり、鼻ポリープを切除したりするために、手術療法を行うこともあります。手術の前後に、温水や生理食塩水で副鼻腔を定期的に洗浄すると有効なこともあります。

2022/08/12

🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿吸収不良症候群

栄養分の消化吸収が障害され、栄養失調を起こす疾患

吸収不良症候群とは、経口摂取した栄養分の消化吸収が障害された状態の総称。障害の程度や持続時間によって、全身の栄養状態が悪くなり、いわゆる栄養失調を起こしてきます。

吸収不良症候群の中にはさまざまな疾患が含まれますが、原発性吸収不良症候群と、続発性吸収不良症候群に大きく分けられます。

原発性吸収不良症候群は、もともと小腸の粘膜自体に問題があり、栄養素の吸収が障害されているもので、スプルー(グルテン腸症)と牛乳不耐症(乳糖不耐症)とがあります。

スプルーは、小麦蛋白(たんぱく)のグルテンが腸粘膜に障害を起こすと考えられる優性遺伝による疾患で、欧米人に多く日本人ではほとんどみられません。1日3、4回、酸臭のある不消化便を排出し、すべての栄養素が吸収されないため、ビタミン欠乏を起こしたりします。

一方、牛乳不耐症は、日本人にも多く、二糖類分解酵素のラクトース(ラクターゼ)が欠損しているものです。牛乳など乳糖を含む食物を摂取すると、腹痛、腹鳴、腹部膨満感、水様性下痢を生じます。過敏性腸症候群と似ていますが、牛乳を温めて飲んでも、それを分解する酵素がないので、吸収されず、下痢などを生じます。

続発性吸収不良症候群は、原因となる疾患や腸管などの手術によって二次的に起こり、栄養分の吸収が悪くなっているものです。原因としては、クローン病など広範囲にわたる腸病変、異常蛋白のアミロイドが体の中に付着して臓器の機能障害を引き起こすアミロイドーシスなどの全身性の疾患、腸管などの手術による切除、放射線照射、膵(すい)がんや胆道がんなどでの消化酵素分泌障害などが挙げられます。ランブル鞭毛(べんもう)虫の小腸への寄生も、原因となります。

症状としては、下痢、泥状で酸臭がある脂肪便、体重減少、全身倦怠(けんたい)感、腹部膨満感、浮腫(ふしゅ)、貧血、出血傾向、病的骨折、四肢の硬直性けいれん、皮疹(ひしん)などがみられます

吸収不良症候群の検査と診断と治療

下痢、脂肪便、体重減少、貧血などの吸収不良症候群を疑わせる症状に気付いたら、消化器内科を受診します。牛乳不耐症(乳糖不耐症)では、乳糖を含む牛乳、チーズなどの食品をなるべく制限する必要があります。

医師による糞便(ふんべん)検査では脂肪便、血液検査では貧血、低蛋白血症、低アルブミン血症、低コレステロール血症、低カルシウム血症がみられます。消化吸収試験として、糞便脂肪量の測定、単糖のD-キシロース吸収試験、呼気水素試験、乳糖負荷試験、シリング試験、膵外分泌機能検査などが行われ、障害部位や程度の診断に有用です。

さらに、原因となる疾患の診断には、小腸X線検査、小腸や十二指腸の内視鏡検査、生検による組織検査、腹部超音波検査、CT検査などが行われます。牛乳不耐症の検査では、乳糖を20グラム飲み込んで、血液の中にどれだけ取り込まれているかを調べます。

治療としては、スプルー(グルテン腸症)の場合、グルテンを含まない食事をとり、各種の栄養剤、ビタミンを補給します。牛乳不耐症の場合、乳糖分解酵素剤を内服します。また、近年は乳糖分解酵素剤を加えた特殊な牛乳も市販されています。

続発性吸収不良症候群の場合で消化吸収障害が軽度であれば、低脂肪、高蛋白、低繊維食による食事療法と消化酵素の投与を行います。消化吸収障害が高度で低栄養状態を伴う場合には、まず半消化態栄養剤または成分栄養剤を経鼻チューブか経口で投与する経腸栄養法、あるいは完全静脈栄養法による栄養療法を行い、栄養状態の改善を目指します。

同時に、原因となる疾患の診断を確定し、それに対する治療が行われます。

🇪🇪牛乳不耐症

小腸粘膜に存在する乳糖分解酵素の欠損などにより、乳糖を含む牛乳を摂取すると下痢を生じる状態

牛乳不耐症とは、小腸粘膜に存在する乳糖分解酵素(ラクターゼ)が欠損していたり、少量しか産生されないために、牛乳や乳製品などの乳糖を含む食物を摂取すると、腹痛、腹鳴、腹部膨満感、水様性下痢を生じる状態。乳糖不耐症、選択的二糖類分解酵素欠損症とも呼ばれます。

乳糖(ラクトース)は、単糖のガラクトース(脳糖)とグルコース(ブドウ糖)が結合した二糖類で、牛乳や乳製品、母乳などに含まれる栄養素。口から摂取された乳糖は、小腸粘膜に存在する乳糖分解酵素によって分解されて、小腸粘膜より吸収されます。

牛乳不耐症では、乳糖分解酵素が生まれ付き欠損したり、少量しか産生されないために、酵素活性が低くて小腸での乳糖の分解がうまくいかずに、不消化の状態で腸内に残ります。分解されなかった乳糖は、大腸の中で腸内細菌によって発酵し、脂肪酸と炭酸ガスと水になります。

この脂肪酸や炭酸ガスは、腸を刺激して蠕動(ぜんどう)という自発運動蠕を高進させます。また、不消化の食物の残りかすにより大腸の中の浸透圧が高くなるために、腸管の粘膜を通して体の中から水分が腸管の中に移動し、水様性下痢を引き起こします。

生まれ付き遺伝的に乳糖分解酵素を持たない場合は、先天性牛乳不耐症といいます。乳糖分解酵素は小腸粘膜の先端部位にあるため、小腸粘膜が傷害される多くの疾患で二次的に酵素活性が低下する場合は、後天性(二次性)牛乳不耐症といいます。

先天性牛乳不耐症では、乳児が水様便を頻回に排出するようになります。続いて嘔吐(おうと)も出現し、ほうっておくと脱水症状や発育障害、慢性栄養障害を起こす原因になります。

乳児に多いのは後天性牛乳不耐症で、ウイルスや細菌による腸炎の後で腸粘膜が傷害されて、酵素活性が低下し、牛乳不耐症の症状が一過性に出現することがよくあります。小腸を休ませて粘膜が回復すれば、また乳糖を分解することができるようになります。

ミルクが主食の乳児期には乳糖分解酵素は十分に作られますが、成長するに従って特別な疾患がなくても、次第に乳糖分解酵素の活性が低下します。乳糖分解酵素の活性は、白人では高く、黄色人種、黒色人種ではあまり高くありません。従って、日本人の成人の約40パーセントで乳糖分解酵素の活性が低いといわれています。

また、成人になるにつれて乳糖分解酵素の活性が低下してくるので、子供のころは症状がなくても成人になってから症状が出現することがあります。これは、牛乳を多く摂取する食習慣を持たなかったためと推測されます。

このような状況で乳糖を多く含む牛乳や乳製品を摂取すると、腹痛、腹鳴、腹部膨満感を生じ、腸の蠕動が高進して、酸っぱいにおいのするガス成分に富んだ水様性下痢を生じます。

成人の牛乳不耐症の場合、牛乳や乳製品を摂取しなければ、症状は治まります。自覚がないことも少なくなく、長い間下痢に悩んでいた人が、牛乳を飲むのをやめたら症状が治まったということもあります。

牛乳不耐症は緊張や不安などのストレスが原因で起こる過敏性腸症候群と似ていますが、牛乳を温めて飲んでも、それを分解する酵素がないか少ないために、栄養素が吸収されず、下痢などを生じます。

牛乳不耐症の検査と診断と治療

小児科、あるいは消化器内科の医師による牛乳不耐症の診断では、牛乳を飲ませて血糖値が上がらないこと、便中に糖が排出されることで判断できます。小腸粘膜を採取して乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性を調べると確実ですが、乳児などで後天性(二次性)牛乳不耐症が疑われる場合は、経過や病歴、乳糖除去ミルクの使用で症状が改善するかどうかで判断できます。

小児科、消化器内科の医師による牛乳不耐症の治療としては、乳糖を含む牛乳、乳製品などの食物を除去、制限します。乳製品でもあらかじめ乳糖を分解してある食品は、摂取可能です。

乳児に対しては、乳糖を含まないラクトレス、ボンラクトなどの特殊なミルクを使用します。一過性に生じる後天性牛乳不耐症の場合は、治療薬剤として乳糖分解酵素(ラクターゼ)製剤があり、その粉薬をミルクなどに混ぜるという方法もあります。

🇲🇩強皮症(全身性硬化症)

皮膚が硬くなるのを特徴とする膠原病の一つ

強皮症とは、皮膚や内臓が硬くなるのを特徴とする膠原病の一つ。別名を全身性硬化症といいます。

30〜50歳代の女性に多くみられ、男女比は1:9、日本での発症者は推定で6000人。自己抗体の産生など原因は複雑であり、はっきりとはわかっていません。

最初にみられる症状は、冷水などに触れると手指が真っ白から青紫色になるレイノー現象で、その後、徐々に進行していきます。手指がこわばって、はれぼったくなり、皮膚が硬くなってきて、皮膚の色も黒くなります。中には、皮膚硬化がゆっくりとしか進行しないケースも多く、疾患に気が付かなかったり、医療機関を受診しても診断されなかったりすることもしばしばあります。

さらに進行した場合は、指が曲がったまま伸ばせなくなります。そのため、物をつかむことができにくくなります。指先に潰瘍(かいよう)ができたり、つめが変形することもあります。次第に、皮膚の硬化が全身に広がることもあります。

顔面の皮膚が硬くなると、表情が乏しくなる仮面様顔貌となり、口が開けにくくなったり、口の周囲に放射状のしわができます。

食道に硬化が及ぶと、胃酸が食道に逆流して胸焼けや、つかえる感じがします。腸に病変が起こると、下痢や便秘のほか、栄養を吸収しにくくなり、やせます。肺に病変が起こると、せき、息切れを引き起こします。腎(じん)臓に病変が起こると、血管の障害によって高血圧が生じる強皮症腎クリーゼを引き起こし、急激な血圧上昇とともに、頭痛、吐き気が生じます。腎不全を引き起こすこともあります。

強皮症の検査と診断と治療

強皮症では、発症5〜6年以内に皮膚硬化の進行と内臓病変が出現してきます。発症5〜6年を過ぎると、皮膚は徐々に軟らかくなってきて、皮膚硬化は自然によくなります。しかし、内臓病変は元には戻りませんので、できるだけ早期に治療を開始して、内臓病変の合併や進行をできるだけ抑えることが極めて重要となります。

医師による検査では、皮膚硬化のはっきりしない発症間もないケースや、症状の軽いケースでは、皮膚硬化の有無を確認するための皮膚生検が重要となります。この検査は皮膚の一部を切り取って、顕微鏡を用いて判断するもの。局所麻酔をかけて行われるので、痛みはほとんどありません。皮膚硬化がはっきりしているケースでも、どの程度皮膚硬化が進行しているかを判断する上で、皮膚生検は不可欠です。

一般血液検査の中で、最も重要な検査は抗核抗体の検査です。強皮症の発症者では90パーセント以上で抗核抗体が陽性となりますので、診断するためには非常に有用です。内臓の変化を調べるさまざまな検査も、強皮症と診断するために不可欠です。

強皮症自体を根本から治療する方法は、まだ解明されていません。レイノー現象を始め、症状に応じた治療が行われます。ある程度の効果を期待できる治療法としては、皮膚硬化に対してステロイド剤、肺の病変に対してシクロホスファミドないしエンドセリン受容体拮抗剤、食道の病変に対してプロトンポンプ阻害剤、血管の病変に対してプロスタサイクリン、強皮症腎クリーゼに対してACE阻害剤などの薬剤の使用が挙げられます。肺や腎臓に病変が起こった場合は、入院治療が必要です。

🇷🇺巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)

首や頭に向かう動脈に炎症が起こる疾患

巨細胞性動脈炎とは、頸(けい)動脈とその分枝の動脈、特に側頭動脈に炎症が起こる血管炎。疾患で障害された血管に、巨細胞という特徴ある細胞が認められ、側頭(そくとう)動脈炎とも呼ばれます。

高齢者にみられ、50歳以上で発症し60〜70歳代にピークがあります。日本では比較的まれな疾患で、欧米の白人に多いことが知られています。

側頭部の皮下を走っている側頭動脈などに炎症が起こる原因は、まだわかっていません。遺伝病ではありません。特定疾患(難病)の1つに指定されていますが、発症者への医療費給付は行われていません。

片側または両側の側頭部に、脈拍に合わせたズキズキする頭痛を自覚するようになり、こめかみの血管がはれて痛みます。場合によっては、食事をする時に、あごの関節や舌、口の回りに痛みが起ることがあります。それらの部位に行く動脈の流れが悪くなったためで、夜間に悪化しやすいことが知られています。典型的な場合には、側頭部に発赤を認め、ヒモのように細長い形態に肥厚した側頭動脈が触れます。

また、発症者の半数に、全身の筋肉痛や朝のこわばりなど、リウマチ性多発筋痛症に似た症状がみられます。巨細胞性動脈炎とリウマチ性多発筋痛症の両者は、極めて近似した疾患と考えられています。

そのほか、発熱や倦怠(けんたい)感、食欲不振などの全身症状もあります。目の血管に炎症が及ぶと、視力障害を起こし、時に失明することさえあります。大動脈にも障害が起こることがあり、間欠性跛行(はこう)、解離性大動脈瘤(りゅう)などをみることがあります。

巨細胞性動脈炎の検査と診断と治療

強い頭痛を感じたら、早めに神経内科あるいは脳外科の専門医の診察を受け、診断を確実にして、早期から適切な治療を受けるようにします。

血液検査では、血沈が著しく高進していることが多くみられます。血管撮影では、頸動脈系に狭窄(きょうさく)、閉鎖などを認めます。診断を確実にするには、側頭動脈の組織を取って調べる生検により、巨細胞を含む肉芽腫(にくげしゅ)を認めることが必要になります。

治療には、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)が用いられます。このステロイド療法により、視力障害までの進行が予防できます。失明の恐れがある場合には、大量の薬剤による治療が必要となります。その後、薬剤を次第に減らしていきます。

ステロイド療法で十分に血管の炎症が抑えられない場合や、薬剤の漸減に伴って血管の炎症が再燃する場合には、免疫抑制剤を併用することがあります。一般に予後は良好ですが、治療を開始した時期、病状の広がりによって、その経過はさまざまです。

2022/08/11

🇰🇷化学物質過敏症

身の回りにある微量な化学物質に反応し、頭痛やせきなどの症状が起きる疾患

化学物質過敏症とは、身の回りにある微量な化学物質に過敏反応を起こし、頭痛やせきなどの症状が起きる疾患。本態性環境不耐症とも呼ばれます。

過去に大量の化学物質に曝露(ばくろ)されて体の耐性の限界を越えた後、または長期間に渡って慢性的に低濃度の化学物質に曝露されて体の耐性の限界を越えた後、極めて微量の化学物質に再接触した際に過敏反応し、頭痛やせきを始め、アレルギーに似た症状、情緒不安、神経症などさまざまな症状を示します。

化学物質過敏症の発症原因の半数以上は、室内空気汚染です。この室内空気汚染による健康影響は、シックハウス症候群、あるいはシックビル症候群とも呼ばれています。自宅や職場、学校などの新築、改修、改装で使われる建材、塗料、接着剤から放散されるホルムアルデヒド、揮発性有機化合物などが、室内空気を汚染するのです。建築物自体だけでなく、室内で使われる家具、カーテンに含まれる防炎・可塑剤、殺虫剤、防虫剤や、喫煙なども室内空気汚染を引き起こし、化学物質過敏症の発症原因になります。

また、大気汚染物質、排気ガス、除草剤、食品の残留農薬、食品添加物(保存料、着色料、甘味料、香料など)、医薬品、石鹸、シャンプー、化粧品、洗剤、芳香剤なども化学物質過敏症の発症原因になります。

化学物質過敏症で起きる症状は、アレルギー疾患の特徴と中毒の要素を併せ持つとされ、その症状は多岐に渡ります。粘膜刺激症状(結膜炎、鼻炎、咽頭〔いんとう〕炎、口渇)、皮膚炎、気管支炎、喘息(ぜんそく)、循環器症状(動悸〔どうき〕、不整脈) 、消化器症状(下痢、便秘、悪心)、自律神経障害 (異常発汗、手足の冷え、易疲労性)、精神症状 (不眠、不安、うつ状態、記憶困難、集中困難、価値観や認識の変化)、中枢神経障害 (けいれん)、頭痛、発熱、疲労感、末梢(まっしょう)神経障害、運動障害、四肢末端の知覚障害などがあります。

化学物質の摂取量と症状との関係などは未解明で、化学物質に対する耐性は個人差が大きいとされ、その症状や度合い、進行速度、回復速度なども多種多様であるといわれます。

化学物質過敏症の定義、診断方法などの検証が十分とはいえない部分もあり、世界的には化学物質過敏症を特定の疾患と認めることに否定的な意見が大勢を占め、心身症と考える意見が強いとされます。日本でも多数の医師は化学物質過敏症に関心を持っておらず、診療できる医師は限られているため、疲れや軽い風邪、精神疾患、心身症、更年期障害など別の疾患として診断されたり、原因不明として放置されているケースもあるものと見なされます。

化学物質過敏症の検査と診断と治療

日本では現在、化学物質過敏症を専門に扱う化学物質過敏症外来などを設けている医療機関もあります。

室内空気汚染による化学物質過敏症の一種であるシックハウス症候群について述べると、医師による診断のポイントは、第1に自覚症状が出現した経過です。原因となった住居への入居前後での体調の変化を詳細に問診します。つまり、自覚症状の発症経過と居住環境の変化が1つの線で結び付けられるかどうかが、重要となります。

初診時に症状が出現する場所の空気測定結果を持参することは、大きな診断の助けとなります。この室内空気の測定は、新築、改修などを行った施工業者が有料で、最寄りの保健所が簡易測定を無料で行ってくれます。

シックハウス症候群の大半のケースでは、何らかの中枢神経系あるいは自律神経系の機能障害が認められるため、診断のための検査では神経眼科検査が有用。神経眼科検査では、目の動きが滑らかかどうかを評価する眼球電位図(EOG)、目の感度を評価する視覚コントラスト感度検査(視覚空間周波数特性検査)、光に対する瞳(ひとみ)の反応を評価する電子瞳孔(どうこう)計による瞳孔検査などがあり、シックハウス症候群では異常値を示すケースが多いことがわかっています。

例えば、目の動きを調べる眼球電位図(EOG)検査では、程度に差はあるもののシックハウス症候群発症者の85パーセント以上に滑動性追従運動異常が認められます。また、開眼時、閉眼時重心動揺検査でも、高い頻度で異常値を認めます。ただ、これらの検査は、シックハウス症候群発症者にみられる一般的特徴を調べるもので、確定診断法としてのツールにはなりません。

確定診断法として唯一の方法は、ブーステストあるいはチャレンジテストと呼ばれ、実際に揮発性化学物質を発症者に曝露し、何らかの症状が誘発されるかどうかを結果の再現性も含めて確認する検査方法しかありません。しかし、この検査を行うためには、化学物質を低減化したクリーンルームが設備として必要で、今のところこの設備を有する特殊専門病院は国内でも数カ所程度しかなく、現在の医療水準では確定診断は難しいといわざるを得ない状況です。

化学物質過敏症の半数以上を占めるシックハウス症候群の治療は、原因となった居住環境の改善という建築工学的アプローチと、身体状況の改善という医学的アプローチの二本立てで行います。

居住環境の改善としては、自覚症状の原因が室内空気汚染ですから、空気汚染の原因はどこにあるのか、何をどのように改善すればよいのか、汚染された建材や建材関連品の交換、新しい家具などの吟味、十分な換気量の確保を含めて、施工業者と十分に相談して善後策を立てることです。化学物質以外のカビやダニなど微生物による空気汚染が広い意味でのシックハウス症候群の原因となることも考えられるため、これらの発生防止や除去なども必要です。

身体状況の改善としては、ゆっくり歩いて30分などの軽い運動療法、少しぬるいと感じる39度前後の半身浴、60度前後の低温サウナなどの温熱療法が自覚症状の改善に有効で、居住環境が整えば数カ月~6カ月程度で、多くの症状は軽快します。また、解毒剤、水溶性ビタミン剤も身体状況の改善に有効であり、タチオン、タウリン散、ノイロビタン、アスコルビン酸末などの服薬治療も併せて行うことが一般的です。

また、一般的な意味での体調管理も重要です。暴飲暴食を避け、バランスの取れた規則的な食事や、十分な休養と睡眠、定期的な軽い運動を心掛けて体調がよければ、同じ環境負荷に対しても反応は軽くてすみます。

発症者によっては、シックハウス症候群を契機に、通常では気にならないほんのわずかな芳香剤、たばこ、香水などのにおいが気になったり、極めて微量の化学物質にさらされるだけでも多彩な症状が出現するようになったりするケースもまれにみられます。このようなケースでは、多くの場合、社会生活が制限されるため、心療内科医によるケアを併せて行う必要があります。

🇭🇰角膜潰瘍

黒目の表面を覆う角膜に、潰瘍が起きる眼疾

角膜潰瘍(かいよう)とは、黒目の表面を覆う透明な薄い膜である角膜に、潰瘍が起きる疾患。角膜の表面の上皮だけでなく、その奥の実質にも濁ったり、薄くなったりといった影響が出ます。

主たる原因は、外傷によって角膜に傷がついたり、コンタクトレンズの誤用で角膜の抵抗力が弱まっている際の、細菌、真菌(かび)、ヘルペスウイルス、アカントアメーバなどの感染です。中で最も多いのが細菌の感染で、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、緑膿(りょくのう)菌などが感染します。アカウントアメーバーとは、汚染された水の中にみられる原生動物。

そのほか、自分の角膜を濁らせたり溶かしたりするような異常な自己免疫反応によって生じる場合、酸やアルカリが目に入って起こる場合、糖尿病や神経系の腫瘍(しゅよう)などで角膜の知覚神経が障害されて起こる場合、ビタミンAの欠乏または蛋白(たんぱく)栄養の不良に続いて起こる場合もあります。

異常な自己免疫反応によって生じる場合は必ず角膜潰瘍になりますが、それ以外の場合は重症例が角膜潰瘍になります。

症状としては、目やに、涙がいつも流れ出ている流涙、異物感、ずきずきする疼痛(とうつう)、まぶしさを覚えます。まぶたの裏側から白目の表面を覆っている薄い膜である結膜も、充血します。瞳(ひとみ)にかかる部分に潰瘍ができると、白く濁り、かなり視力が低下します。涙もたくさん出ます。

細菌や真菌の感染による場合は、目やにがかなり多量に出ます。時に痛みを伴わないことがありますが、この時は角膜の知覚神経が障害されており、かえって治りにくいのが特徴です。場合によっては、角膜に孔(あな)が開いてしまう角膜穿孔(せんこう)を生じることもあり、失明に至るケースもまれにあります。

角膜潰瘍の検査と診断と治療

角膜潰瘍は速やかな治療を要する緊急の疾患ですので、目に少しでも傷を受けた時などはすぐに眼科を受診します。

医師による診断では、潰瘍の状態を観察しやすくするため、潰瘍に一時的に色をつけるフルオレセインという色素が含まれた点眼薬が使用し、角膜の表面の上皮の欠損、その奥の実質への影響を調べます。細菌などの感染が疑われた場合は、角膜の悪い部分を少し削って、そこに細菌や真菌、ヘルペスウイルスなどがいないかどうか検査します。角膜の知覚の低下をみる検査や、血液検査で、糖尿病や自己免疫疾患がないかを確認することもあります。

治療法は、角膜潰瘍の原因によって異なります。細菌などの感染による角膜潰瘍の場合は、その原因となっている微生物に対する薬剤を点眼、眼軟こう、点滴、内服、結膜下注射などの方法で投与します。結膜下注射では、白目の部分の最表面の結膜とその下の強膜の間に薬剤が入るようにします。

細菌などの感染によらない角膜潰瘍の場合は、抗炎症薬を投与したり、角膜の上皮の治癒を促進するために眼軟こうを入れて眼帯をしたり、治療用のソフトコンタクトレンズを入れたりします。

以上の治療法で治らない場合や、角膜穿孔を起こした場合は、角膜移植を行う必要があります。また、うまく治った場合でも、角膜の中央に強い混濁が残って視力が不良の際には、やはり角膜移植を行います。

🇮🇷過敏性血管炎

薬物、ウイルスなどがアレルギーの原因となって、細い血管に炎症が発生

過敏性血管炎とは、薬物やウイルス、細菌感染、化学物質などにアレルギー反応を起こすことが原因となって、全身の細い血管に炎症が起こる疾患。細動脈、毛細血管などに限局的に急性、壊死(えし)性の炎症が起こります。

種々の膠原(こうげん)病、悪性腫瘍(しゅよう)、炎症性疾患、混合性クリオグロブリン血症などでも過敏性血管炎を生じ、はっきりした原因がつかめないものもあります。男女差や好発年齢はありませんが、小児にみられるシェーンライン・ヘノッホ紫斑(しはん)病は、この疾患の亜型とされています。

下肢や腹、腰などの下半身を主に、腕、胸、背部などの皮膚表面に、少し硬めのしこりのような紫斑ができます。点状出血、皮膚潰瘍(かいよう)、水ぼうそう、じんましんなどの症状がみられることもあります。紫斑などが消失した後や、慢性化、再発したケースでは、色素が沈着することもあります。皮膚症状が目立ちますが、発熱や関節痛、筋肉痛、腹痛、倦怠(けんたい)感、体重減少などの全身症状とともに、腎(じん)臓や肝臓、肺、腸管、脳神経などの内臓が侵されることもあります。

過敏性血管炎の検査と診断と治療

治療では、原因となった薬剤などを取り除き、軽症の場合は特に何もせず自然に治るのを待ちます。中等症で皮膚に病変が限定されている場合は、対症療法が行われます。

重症で全身症状が激しく、皮膚以外の臓器障害ある場合は、中等度から大量の副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の投与が行われます。血尿、蛋白(たんぱく)尿に対しては、抗血小板薬、血管強化剤の投与が行われます。腎不全に対しては、一般の腎不全に準じた治療が行われます。

🇴🇲花粉症

●花粉症とは

 「花粉症」は「アレルギー性鼻炎」、「枯草熱」、「花粉熱」、あるいは「花粉によるアレルギー性鼻炎」、「季節性アレルギー性鼻炎」ともいわれ、ある種の植物の雄しべの中にある花粉を吸入するためにかかるアレルギー性疾患の一種です。起こす症状はくしゃみ、鼻水(水性鼻汁)、鼻詰まり(鼻閉)、喘息(ぜんそく)、目のかゆみ、結膜炎など。

 病気の始まりは、突然です。多くは春先のある日、昨年までは何の症状もなかった人が、立て続けのくしゃみと止まらない鼻水に悩まされるようになるのです。その症状は、花粉が飛ぶ春から夏の間にかけて続き、花粉がなくなると自然に治まってきます。

 しかしながら、一度症状が出ると翌年以降、雄性の配偶体である花粉が飛来する季節の到来とともに、再び症状が出始めます。

 この花粉症はかなり最近の病気で、昭和36年(1961年)に、日本で初めてブタクサによる花粉症患者が発見され、その2年後にスギ花粉症患者が発見されました。

以来、花粉症患者は、都市化が進むとともに増え続ける一方で、今や日本人の10人に1人が花粉症だといわれています。20~40歳代に多く、また女性により多い病気と見なされています。

■花粉症にかかりやすい人

 困ったことに、大人になってからでも突然発症する花粉症は、いったい、どんな人がかかりやすい病気なのでしょうか。

アレルギー体質の傾向が強い人

アトピー、食物アレルギー、小児喘息などがあって、一般にアレルギー体質の傾向が強い人が、かかることが多いとされている。

特に、ダニの死骸などのハウスダストに対してアレルギーがある子供の70~80%は、花粉症もあるという。逆に、アレルギーがない子供の花粉症は、30%以下。

アレルギー体質と花粉症には、明らかな関係があるようだ。

生活が乱れている人

例えば、食生活が乱れ、インスタント食品やコンビニ食品、ファーストフード、スナック菓子ばかりを食べている人は、要注意。こうしたものには添加物も多く、アレルギーへの影響が大きいといわれている。また、肉などの蛋白質のとりすぎも、アレルギー体質になりやすいとか。

ほかに、睡眠不足、生活時間が不規則な場合も、自律神経が乱れ、免疫機能が正常に働かなくなるため、アレルギーを引き起こす原因になる。もちろん、ストレスもその立派な原因の一つ。

都市的な生活をしている人

周りの道路はアスファルトで舗装されて、車両の往来が激しく、コンクリートの建物が多い環境の上、気密性の高いマンションに住んでいたり、ビルで働いている人など。

特に、自動車の排気ガスによる大気汚染は、花粉症の増加につながる原因。実際、スギ花粉の飛散数が多い非汚染地区より、飛散数が少ない大気汚染地区のほうが、スギ花粉症を訴える人が多いケースがある。

■花粉症は遺伝するのか

 蕁麻疹(じんましん)や気管支喘息に代表されるアレルギー性の病気には、遺伝が深く関わっています。つまり、花粉症にも遺伝が関わっているのです。

 両親にスギ花粉症がある場合、子供がかかる可能性は55~60%、片親だけが花粉症の場合の子供の可能性は30~50%、両親ともに花粉症でない場合の可能性は10~30というデータもあります。

 しかし、アレルギー性の病気の発症は、遺伝のみで決定されるものではありません。生活習慣や環境にも、大きく左右されます。

●花粉症の原因となる植物

■日本は8割がスギ花粉症

 花粉症の主な原因は、一般に風によって受粉する花粉。スギ花粉はその代表で、花粉症患者の約8割を占めているといわれています。

 その他にも原因となる植物があり、中でもヒノキ花粉はスギ花粉とよく似た糖たんぱく構造をしており、スギ花粉に反応する人はヒノキ花粉にも反応しやすいのです。

 スギ、ヒノキのほか、イネ科、ブタクサの花粉症も多く見られます。本州、四国、九州ではスギ花粉症が中心ですが、北海道ではイネ科、ヨモギ、カバノキ科の花粉症が多くなります。そのほか果樹園やハウス栽培などで働く人には、職業性花粉症が起こることもあります。

 また、世界的に見れば、地域に生育する植物の花粉が原因で起こる病気のため、同じ花粉症といってもお国ぶりが見られます。日本の約8割はスギ花粉症ですが、アメリカではブタクサ、ヨーロッパではイネ科、北ヨーロッパではカバノキ科が中心となっています。

■花粉症を起こす主な植物

 木本花粉

スギ科(スギ)

ヒノキ科(ヒノキ)

カバノキ科(シラカバ、ハンノキ、オオハシバミ)

ブナ科(ブナ、コナラ、クヌギ、クリ)

ニレ科(ケヤキ、アキニレ、オヒョウ、エノキ、ムクノキ)

 草本花粉

イネ科(カモガヤ、ススキノテッポウ)

キク科(ブタクサ、ヨモギ、セイタカアワダチソウ)

クワ科(カナムグラ)

■地域で特徴的な花粉症の原因植物

北海道

イネ科、シラカバ、テンサイ

東北

スギ、イネ科、リンゴ、サクランボ

北陸

ハンノキ

中部

ヒノキ、クルミ

関東

スギ、ケヤキ、イチョウ

近畿

ウメ

中国

オオバヤシャブシ、ネズ、モモ、ジョチュウギク

四国

オリーブ

九州

カラムシ

■花粉が飛び散る時期

 原因となる植物の花が咲き、花粉が飛び始める頃に、花粉症も始まります。花粉の飛ぶ時期は地域によって異なり、また、開花前の気温が高いほど早くなります。

 スギ花粉の平均的な飛散開始時期は、九州や四国の南部が2月上旬、関東南部が2月中旬、関東北部が2月下旬、東北地方は3月で、気温の上昇に伴って増加し、1カ月ほどでピークを迎えます。

 このスギの花が開くのは、昼間、気温が高くなった時間帯です。しかし、空中の花粉は、昼間は上昇気流に乗って上空に運ばれ、夜に再び落ちてきます。だから、前線の通過などがなく天気が安定している限り、スギ花粉が多いのは昼過ぎと日没頃になります。

 ヒノキ花粉の飛ぶ時期は、スギ花粉より3~4週間遅く、ブタクサやヨモギは8~9月が中心です。

 また、毎日の花粉の飛散量は、その日の天気に大きく左右されます。天気がよく暖かい日には多くなり、雨の日や湿度の高い日は少なくなります。

●飛び始める前の予防が大切 

 花粉症対策で、何より大切なのは「予防」です。毎年の予防対策の違いで、この先、どんどんつらくなっていくのか、楽になっていくのか、症状の分かれ道になります。

 なぜ、早めの対策が必要なのでしょう。

■症状が軽くなる

予防を講じない

症状が始まると、坂を転がるように加速し、どんどん悪化する可能性がある。

しかも、その年だけではない。一般的にアレルギーは、対策を講じないと年々ひどくなる病気だ。

早めに予防する

発症する前に、坂を転がりにくくなるよう予防や治療を始めると、何もしない時に比べて、ずっと楽に。

しかも、その年だけでなく、年々悪くなるのを食い止められる。

■軽い薬の使用ですむ

 症状が出始めてしまったら、強めの薬でなければ治まりにくいものです。あるいは、強い薬でも治まらない場合も多いものです。それよりも、早めの軽い薬で悪くしないようにするほうが、安心です。

始まってからの強い薬

悪化した場合、多量に使っても効かないこともあり、 副作用が強く出る可能性もなきにしもあらず。

始まる前の軽い薬

症状全般が悪化しにくいので、楽。ただし、効き目が出るのには時間がかかる。

また、予防をしていても、一部に強い症状が出ることはある。しかし、その時に使う「強めの薬」も、予防しない時より少なくてすむ。 

●こんなことから始めてみよう!

■花粉が飛び出してからの対策

 花粉症対策の基本中の基本は、花粉と接触しないことです。少しでも飛散が始まったならば、「まだ大丈夫」と油断しないで、掃除や外出時対策の習慣を身に着けたいものです。

 特に花粉の飛散時期には、花粉症の人も、そうでない人も、1日1回必ず掃除を行うことを心掛けたいものです。

 その理由は、

花粉に接触しないため

部屋を閉め切っていても入ってくるのが花粉。これを除去するためにも、飛散量が多い時期はできれば毎日掃除したい。

ダニに要注意!

ダニの死骸やフンは、あらゆるアレルギーの下地になりやすい。特に、花粉症で粘膜がデリケートになっている時期は、花粉でなくても刺激となってしまうので、注意して除去したい。

 同じ掃除でも、ちょっとの工夫で大きな差が出ます。に見えない花粉だからこそ、「知恵」を使ってたくさん追い出したいものです。

*掃除は朝のうちに

  花粉が日中多く飛ぶのは、主に午前9時~午後3時。その時間を避けて掃除したいものです。特に朝、まだ人が動いていない時には、ホコリも花粉も舞い上がっておらず、床に落ちているので効率的。

*排気は窓の外へ

 掃除機を使う際には、ホースを付け足して長くし、本体は外に出しながら使うことがお勧めです。   

*風の強い日は、掃除の際も窓を開けない

 最近は、排気循環型の掃除機や、フィルターの細かいものも売られているので、そうしたものを選ぶのもよいでしょう。

*空気を湿らせてから

 乾燥していると、ホコリも花粉も舞い上がりやすいもの。加湿器などで湿度を上げてからのほうが、より効果的です。もっと望ましい方法は、濡れ雑巾やモップを使う掃除です。

*空気清浄器も活用

 掃除をしてもフワフワ空気中に漂っている見えない花粉は、空気清浄器などで除去を。   

*フィルターをこまめに掃除

 他にも、こんな工夫で家から花粉を追い出しましょう。

*床をフローリングに

 じゅうたんやタタミは、知らない間に花粉もホコリもダニもたまりやすいもの。できれば取り除き、フローリングにしたいものです。

*飛散時には布団や洗濯物を外に干さない

 花粉が多く飛ぶ午前9時~午後3時の時間帯は、室内で乾かすか、乾燥機などを使いましょう。

*布団に掃除機を

 布団を干した後、できればアトピー用のローラーなどをつけた掃除機をかけると、とても効果的です。

*布団や家具を選ぶ

 毛足が長い寝具やソファーなどの家具は、フワフワして気持ちよさそうですが、花粉やホコリ、ダニがたまりやすいものです。ツルツルした手触りのものに変えるのが、無難です。

*アレルギーにはシンプルな生活

 植物や置き物、ぬいぐるみなどが飾ってある部屋は、アットホームな感じで素敵ですが、どうしても花粉、ホコリ、ダニの居場所が多いという欠点も伴います。和風や超モダンの、究極のシンプル・ライフを目指したいものです。  

●アレルギーの大敵は疲労

 花粉症というと、とかく「花粉」ばかりに注意がゆきがちですが、それと同じくらいに大切なのが、自らの体調を整えることです。

■体の抵抗力を付ける

 治療をうまく効かせるために、絶対に必要なのがその地盤づくりであり、自分の体そのものが弱っていては、花粉症には対抗できません。

 アレルギーに強い体をつくり、自律神経のバランスがよいと、花粉(アレルゲン)が入ってきて、IgE抗体(免疫グロブリンE)に結合しても、花粉症(アレルギー症状)が起こらないこともあります。免疫系が正常に保たれ、過剰な反応をしないからです。

■疲れをためると…

 副交感神経の緊張が高まったり、交感神経が抑えられていたりすると、肥満細胞からヒスタミンが放出されやすくなり、症状が出やすくなります。 

■体調を整え、自律神経を鍛えるには?

睡眠

花粉が飛び散る前から、なるべく規則的に十分とる。昼寝ができる環境なら、昼寝も OK。

体力

春は何かと忙しい時期だが、定期的に行っている運動は続けよう。そして、きちんと食べる心掛けを。

有酸素運動

普段から、鼻で呼吸できる、軽い有酸素運動の実践を。自律神経が整い、アレルギー反応を抑えやすくなる。鼻の粘膜の鍛練にもなり、鼻詰まりが改善。ただし、花粉が飛び始めてしまったら、ピーク時は、外で吸い込まないようにする。

ストレス

バラバラの生活リズムは、体を疲れさせ、花粉症の発症や悪化に確実につながる。一定のリズムを維持することで、体にストレスを与えず、疲労をためない心掛けを。

刺激物

鼻詰まりをひどくするので、からい食べ物、アルコールなどは控える。蛋白質のとりすぎにも、要注意。

たばこ

直接、鼻や目の粘膜を刺激するので、できるだけ禁煙、節煙を。

 

■心のストレスにも注意を

 心のストレスも、花粉症などのアレルギー因子の大きな1つと考えられています。

 体の免疫細胞は脳の信号を受け取ることができるという、免疫系と脳神経系の科学的なレベルでの相関関係も最近、分かってきているところで、アレルギーだけでなく、ウイルスや細菌、がんなど人間の病気の多くは、免疫機能が関係しています。

 こうしたことが解明されるにつれ、心のストレス解消の重要さが、今後ますますクローズアップされてくるでしょう。

●専門医による治療について

 先に花粉の平均的な飛散開始時期について触れましたが、早い年だと、スギ花粉は1月末~2月に少しずつ飛び始めます。花粉症はアレルギー性疾患の一種ですから、花粉に接触したら発症し始めてしまいます。

 予防するなら、その前からでなければ駄目です。主な治療法は投薬ですが、ほかにも手術、体質改善(減感作療法)などがあります。

【花粉飛散シーズンの薬物療法】

 花粉症の治療は、三つに分けられます。症状が現れることを防ぐ初期治療、症状が現れた後、速効性があり、かつ強力な治療で症状を抑制する導入療法、そして、症状の再現を抑える維持療法です。

 実際の治療は、花粉症の患者さんが病院へ来院した時期および症状の重症度によって、どの段階の治療から開始するかを決めることになります。 

1.初期療法

 症状の出ていない花粉症の患者さんには、花粉の飛散開始日を基準として、その2週間程度前から化学物質遊離抑制薬を投与する予防的治療から始めます。化学物質遊離抑制薬がアレルギー症状を抑制する効果を発揮するためには、2週間程度、毎日服用することが、必要なためです。

 また、軽微な症状が出てからの治療は、第2世代抗ヒスタミン薬での治療になります。ただし、この薬での治療も花粉の飛散開始日から大量飛散日の間までで、この期間に治療を開始すれば約1週間で予防的治療を開始した患者さんと同等の効果が得ることができます。 

2. 導入療法

 現状では花粉症の患者さんの多くは、早期に受診するのではなく、症状が重くなってから受診しています。そのため、これらの患者さんには、現在ある症状を抑制する強力な治療、例えば短期間のステロイド剤の内服が必要となります。なお、症状が治まってきたら、もう少し軽い薬での治療に切り替えます。 

3. 維持療法

 花粉症の治療では、症状が消失しても花粉の飛散が終わるまで使用している薬剤での治療を続けることが、重要になります。これが、維持療法です。  

■花粉症に用いる主な薬剤

分  類 

特  徴 

化学物質遊離抑制薬

(従来の酸性抗アレルギー薬)

・抗ヒスタミン作用のない、アレルギー症状を起こす化学伝達物質を抑制する抗アレルギー作用を持つ薬。

・花粉症のシーズン前の投与が有効。(効果が出てくるまでに、2週間程度かかるため)

第1世代抗ヒスタミン薬

(従来の抗ヒスタミン薬)

・抗ヒスタミン作用のみで抗アレルギー作用はない薬。

・即効性(20分程度で効果現れる)だが、眠気を伴う。

第2世代抗ヒスタミン薬

(従来の塩基性抗アレルギー薬)

・抗ヒスタミン作用と抗アレルギー作用を持つ薬。

・眠気を伴うことは比較的少ない。

・抗ヒスタミン作用は早く現れるが、抗アレルギー作用は効果が出てくるまでに約2週間かかる。

・花粉症に対しては抗ヒスタミン作用が主。

サイトカイン阻害剤

・アレルギー発症に関するサイトカインの生成を阻害する薬。

ロイコトリエン受容体拮抗薬

・化学伝達物質の1つ、ロイコトリエンの作用を抑制する薬です。

・通年性アレルギーでは鼻閉に有効ですが、花粉症には不明です。

トロンボキサン受容体拮抗薬

・化学伝達物質の1つ、ロイコトリエンの作用を抑制する薬。

・通年性アレルギーでは鼻閉に有効だが、花粉症には不明である。

局所ステロイド薬

・くしゃみ、鼻水、鼻閉にも効果が高く、効果が出てくるまでに1~2日と即効性のある薬。

・血管内へ吸収されにくく、局所で分解を受けやすいため全身投与に比べ副作用の出てくることはまれだが、鼻内刺激感、鼻内乾燥感、鼻出血などがある。 

経口ステロイド薬

・強力な抗炎症作用がある薬。

・副作用に注意し、短期間もしくは症状が出た時、投与する。 

【シーズンに無関係の治療法】

1. 減感作療法(免疫療法)

 「感作」とは体の中に抗体ができるという意味で、「減感作」とは抗体が減ることをいいますが、この治療をして症状がよくなっても、それに応じて抗体が減りません。体の免疫状態に変化が起こるため、最近では「免疫療法」という言葉が多く使われています。

 花粉症シーズンの薬による治療は、薬の服用を中止すれば1~2週間で薬の効果は切れてしまいます。しかし、免疫療法は中止後の効果が5~10年、あるいはそれ以上続くのが特徴で、現在では花粉症の治癒を期待できる唯一の治療法です。

 抗原エキスを微量ずつ、間隔をあけて注射することを約2~3年続けると、効果が現れてきます。飛散後からスタートし、初め半年間は週1~2回、さらに2年以上月1回の注射と、治療が長期間にわたること、効果がすぐに現れないこと、行える専門医が限られていることが欠点ですが、免疫療法終了5年後では、治療を受けた約70%から75%の方の症状が軽くなり、薬がほとんどいらない状態になっています。

 対処療法ではなく、根気よく体を徐々にスギ花粉に慣れさせて過剰反応せず、アレルギーを起こさない体質に変えて、薬なしも望める治療法は、現在、この方法だけなのです。  

2. 手術

 鼻詰まりの症状が薬ではよくならない時は、手術をすることがあります。繰り返す発作のため鼻の粘膜がケロイドのようになってしまった人(肥厚性鼻炎)や、先天的に鼻の骨が曲がっていて鼻詰まりを起こしている人(鼻中隔弯曲症)などが、対象となります。

 手軽で、効果的なレーザー手術という選択もあります。 鼻の粘膜をレーザーでやんわりと焼く施術で 、時間も1回5~20分間ですから日帰りができ、出血や痛みもありません。

 70~80%の効果が期待されますが、手術は症状を「抑える」だけで、花粉症を根本から「治す」ものではないことは、知っておきたいものです。レーザー手術後の約1週間は、一時的に鼻詰まりがかえって強く起きることもあります。

 また、花粉の飛散が始まり、発症してからでは手術を受けられないことがありますので早めに予約し、1月には済ませてしまいたいところです。

3. 漢方療法(体質改善)

 漢方薬は、花粉症に対しては局所症状だけでなく、全身の体質改善も期待できるということで、使われることがあります。具体的には、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、葛根湯加辛夷川(カッコントウカセンキュウシンイ)など、たくさんあります。

 しかし、他の病気の場合と同様に花粉症の場合も、患者さん本人の体質に合った漢方薬を処方してもらう必要が、当然あります。

2022/08/09

🇨🇬側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)

首や頭に向かう動脈に炎症が起こる疾患

側頭(そくとう)動脈炎とは、頸(けい)動脈とその分枝の動脈、特に側頭動脈に炎症が起こる血管炎。疾患で障害された血管に、巨細胞という特徴ある細胞が認められることから、巨細胞性動脈炎とも呼ばれます。

高齢者にみられ、50歳以上で発症し60〜70歳代にピークがあります。日本では比較的まれな疾患で、欧米の白人に多いことが知られています。

側頭部の皮下を走っている側頭動脈などに炎症が起こる原因は、まだわかっていません。遺伝病ではありません。特定疾患(難病)の1つに指定されていますが、発症者への医療費給付は行われていません。

片側または両側の側頭部に、脈拍に合わせたズキズキする頭痛を自覚するようになり、こめかみの血管がはれて痛みます。場合によっては、食事をする時に、あごの関節や舌、口の回りに痛みが起ることがあります。それらの部位に行く動脈の流れが悪くなったためで、夜間に悪化しやすいことが知られています。典型的な場合には、側頭部に発赤を認め、ヒモのように細長い形態に肥厚した側頭動脈が触れます。

また、発症者の半数に、全身の筋肉痛や朝のこわばりなど、リウマチ性多発筋痛症に似た症状がみられます。側頭動脈炎とリウマチ性多発筋痛症の両者は、極めて近似した疾患と考えられています。

そのほか、発熱や倦怠(けんたい)感、食欲不振などの全身症状もあります。目の血管に炎症が及ぶと、視力障害を起こし、時に失明することさえあります。大動脈にも障害が起こることがあり、間欠性跛行(はこう)、解離性大動脈瘤(りゅう)などをみることがあります。

側頭動脈炎の検査と診断と治療

強い頭痛を感じたら、早めに神経内科あるいは脳外科の専門医の診察を受け、診断を確実にして、早期から適切な治療を受けるようにします。

血液検査では、血沈が著しく高進していることが多くみられます。血管撮影では、頸動脈系に狭窄(きょうさく)、閉鎖などを認めます。 診断を確実にするには、側頭動脈の組織を取って調べる生検により、巨細胞を含む肉芽腫(にくげしゅ)を認めることが必要になります。

治療には、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)が用いられます。このステロイド療法により、視力障害までの進行が予防できます。失明の恐れがある場合には、大量の薬剤による治療が必要となります。その後、薬剤を次第に減らしていきます。

ステロイド療法で十分に血管の炎症が抑えられない場合や、薬剤の漸減に伴って血管の炎症が再燃する場合には、免疫抑制剤を併用することがあります。一般に予後は良好ですが、治療を開始した時期、病状の広がりによって、その経過はさまざまです。

2022/08/07

🇫🇲本態性環境不耐症

身の回りにある微量な化学物質に反応し、頭痛やせきなどの症状が起きる疾患

本態性環境不耐症とは、身の回りにある微量な化学物質に過敏反応を起こし、頭痛やせきなどの症状が起きる疾患。化学物質過敏症、多種化学物質過敏症、本態性環境不寛容状態などとも呼ばれます。

過去に大量の化学物質に曝露(ばくろ)されて体の耐性の限界を越えた後、または長期間に渡って慢性的に低濃度の化学物質に曝露されて体の耐性の限界を越えた後、極めて微量の化学物質に再接触した際に過敏反応し、頭痛やせきを始め、アレルギーに似た症状、情緒不安、神経症などさまざまな症状を示します。

本態性環境不耐症の発症原因の半数以上は、室内空気汚染です。この室内空気汚染による健康影響は、シックハウス症候群、あるいはシックビル症候群とも呼ばれています。自宅や職場、学校などの新築、改修、改装で使われる建材、塗料、接着剤から放散されるホルムアルデヒド、揮発性有機化合物などが、室内空気を汚染するのです。建築物自体だけでなく、室内で使われる家具、カーテンに含まれる防炎・可塑剤、殺虫剤、防虫剤や、喫煙なども室内空気汚染を引き起こし、本態性環境不耐症の発症原因になります。

また、大気汚染物質、排気ガス、除草剤、食品の残留農薬、食品添加物(保存料、着色料、甘味料、香料など)、医薬品、石鹸、シャンプー、化粧品、洗剤、芳香剤なども本態性環境不耐症の発症原因になります。

本態性環境不耐症で起きる症状は、アレルギー疾患の特徴と中毒の要素を併せ持つとされ、その症状は多岐に渡ります。粘膜刺激症状(結膜炎、鼻炎、咽頭〔いんとう〕炎、口渇) 、皮膚炎、気管支炎、喘息(ぜんそく)、循環器症状(動悸〔どうき〕、不整脈) 、消化器症状(下痢、便秘、悪心)、自律神経障害 (異常発汗、手足の冷え、易疲労性)、精神症状 (不眠、不安、うつ状態、記憶困難、集中困難、価値観や認識の変化)、中枢神経障害 (けいれん)、頭痛、発熱、疲労感、末梢(まっしょう)神経障害、運動障害、四肢末端の知覚障害などがあります。

化学物質の摂取量と症状との関係などは未解明で、化学物質に対する耐性は個人差が大きいとされ、その症状や度合い、進行速度、回復速度なども多種多様であるといわれます。

本態性環境不耐症の定義、診断方法などの検証が十分とはいえない部分もあり、世界的には本態性環境不耐症を特定の疾患と認めることに否定的な意見が大勢を占め、心身症と考える意見が強いとされます。日本でも多数の医師は本態性環境不耐症に関心を持っておらず、診療できる医師は限られているため、疲れや軽い風邪、精神疾患、心身症、更年期障害など別の疾患として診断されたり、原因不明として放置されているケースもあるものと見なされます。

本態性環境不耐症の検査と診断と治療

日本では現在、本態性環境不耐症(化学物質過敏症)を専門に扱う化学物質過敏症外来、化学物質過敏症診療科(シックハウス診療科)、アレルギー科(化学物質過敏症外来)、シックハウス外来などを設けている医療機関もあります。

室内空気汚染による本態性環境不耐症の一種であるシックハウス症候群について述べると、医師による診断のポイントは、第1に自覚症状が出現した経過です。原因となった住居への入居前後での体調の変化を詳細に問診します。つまり、自覚症状の発症経過と居住環境の変化が1つの線で結び付けられるかどうかが、重要となります。

初診時に症状が出現する場所の空気測定結果を持参することは、大きな診断の助けとなります。この室内空気の測定は、新築、改修などを行った施工業者が有料で、最寄りの保健所が簡易測定を無料で行ってくれます。

シックハウス症候群の大半のケースでは、何らかの中枢神経系あるいは自律神経系の機能障害が認められるため、診断のための検査では神経眼科検査が有用。神経眼科検査では、目の動きが滑らかかどうかを評価する眼球電位図(EOG)、目の感度を評価する視覚コントラスト感度検査(視覚空間周波数特性検査)、光に対する瞳(ひとみ)の反応を評価する電子瞳孔(どうこう)計による瞳孔検査などがあり、シックハウス症候群では異常値を示すケースが多いことがわかっています。

例えば、目の動きを調べる眼球電位図(EOG)検査では、程度に差はあるもののシックハウス症候群発症者の85パーセント以上に滑動性追従運動異常が認められます。

また、開眼時、閉眼時重心動揺検査でも、高い頻度で異常値を認めます。ただ、これらの検査は、シックハウス症候群発症者にみられる一般的特徴を調べるもので、確定診断法としてのツールにはなりません。

確定診断法として唯一の方法は、ブーステストあるいはチャレンジテストと呼ばれ、実際に揮発性化学物質を発症者に曝露し、何らかの症状が誘発されるかどうかを結果の再現性も含めて確認する検査方法しかありません。しかし、この検査を行うためには、化学物質を低減化したクリーンルームが設備として必要で、今のところこの設備を有する特殊専門病院は国内でも数カ所程度しかなく、現在の医療水準では確定診断は難しいといわざるを得ない状況です。

本態性環境不耐症の半数以上を占めるシックハウス症候群の治療は、原因となった居住環境の改善という建築工学的アプローチと、身体状況の改善という医学的アプローチの二本立てで行います。

居住環境の改善としては、自覚症状の原因が室内空気汚染ですから、空気汚染の原因はどこにあるのか、何をどのように改善すればよいのか、汚染された建材や建材関連品の交換、新しい家具などの吟味、十分な換気量の確保を含めて、施工業者と十分に相談して善後策を立てることです。化学物質以外のカビやダニなど微生物による空気汚染が広い意味でのシックハウス症候群の原因となることも考えられるため、これらの発生防止や除去なども必要です。

身体状況の改善としては、ゆっくり歩いて30分などの軽い運動療法、少しぬるいと感じる39度前後の半身浴、60度前後の低温サウナなどの温熱療法が自覚症状の改善に有効で、居住環境が整えば数カ月~6カ月程度で、多くの症状は軽快します。また、解毒剤、水溶性ビタミン剤も身体状況の改善に有効であり、タチオン、タウリン散、ノイロビタン、アスコルビン酸末などの服薬治療も併せて行うことが一般的です。

一般的な意味での体調管理も重要です。暴飲暴食を避け、バランスの取れた規則的な食事や、十分な休養と睡眠、定期的な軽い運動を心掛けて体調がよければ、同じ環境負荷に対しても反応は軽くてすみます。

発症者によっては、シックハウス症候群を契機に、通常では気にならないほんのわずかな芳香剤、たばこ、香水などのにおいが気になったり、極めて微量の化学物質にさらされるだけでも多彩な症状が出現するようになったりするケースもまれにみられます。このようなケースでは、多くの場合、社会生活が制限されるため、心療内科医によるケアを併せて行う必要があります。

2022/08/02

🇨🇱通年性アレルギー性鼻炎

季節を問わず1年中、鼻詰まりなどの症状が現れやすい鼻炎

通年性アレルギー性鼻炎とは、季節に関係なく、年間を通じて起こりやすい鼻炎。

アレルギー性鼻炎は、季節性アレルギー性鼻炎と通年性アレルギー性鼻炎の2種類に分かれています。季節性アレルギー性鼻炎のほうは、特定の季節にのみ起こる鼻炎で、そのほとんどが日本人の国民病とも呼ばれる花粉症です。花粉症は、風の媒介で受粉する風媒花の花粉を抗原(アレルゲン)としますので、花粉が飛ばない季節には発症しません。

通年性アレルギー性鼻炎のほうは、季節に関係なくいつでも発症し、1年中続くこともあります。症状は、季節性アレルギー性鼻炎と変わらず、くしゃみ、鼻水(鼻汁)、鼻詰まり(鼻閉)が主となります。

鼻から吸い込まれた抗原が鼻の粘膜でアレルギー反応を起こして、通年性アレルギー性鼻炎を発症することから、空気中を浮遊している抗原が原因となります。代表的な抗原は、ダニ、ハウスダスト(室内のほこり)、カビや細菌です。

日本の住宅の布団やカーペットなどに潜むダニの約九割を占めるヒョウヒダニ、中でもヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニの2種類が、主な原因となります。人やペットの抜け毛、フケなどが含まれているハウスダストをエサとして繁殖するダニの死骸(しがい)も、原因となります。

人やペットの抜け毛、フケ、ゴキブリなどの虫の死骸やフン、織物の繊維が含まれているハウスダストも、原因となります。室内の空気中を浮遊しているカビの胞子や室内の細菌も、原因となります。現代の住宅は密閉度が高く、湿度も高いため、ダニ、カビ、細菌が繁殖しやすくなっています。

外部からダニ、ハウスダストなど異物である抗原が侵入した時に、その抗原に対応する特定の抗体(IgE抗体)が体内に存在すると、抗原と抗体が結合し、抗原抗体反応が起こります。抗原抗体反応が起こると、肥満細胞や好塩基球などの細胞からヒスタミン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどの化学伝達物質が遊離され、その作用でアレルギー反応が起こります。

ヒスタミンが鼻の粘膜の三叉(さんさ)神経を刺激したり、自律神経のバランスを崩して副交感神経の働きを優位にするために、くしゃみや、透明なさらさらとした鼻水の過剰分泌、鼻のかゆみなどが起こります。ロイコトリエンやトロンボキサンなどは、鼻の粘膜の血管を刺激して拡張させるために、鼻詰まりも起こります。

鼻詰まりが強く、くしゃみや鼻水を感じない場合や、くしゃみと鼻水が強く、鼻詰まりを感じない場合などがあります。アレルギー性結膜炎を合併することも多く、目のかゆみや充血、流涙がみられることもあります。口の中とのどのかゆみ、のどの痛み、皮膚の炎症などが起こることもあります。

鼻の奥と中耳をつないでいる耳管がはれることもあり、特に小児では聴力が低下したり、慢性中耳炎になったりすることがあります。また、鼻の周囲にあって骨で囲まれた空洞である副鼻腔(ふくびくう)炎を繰り返すことで、鼻の粘膜組織が増殖して鼻ポリープができることもあります。

ダニやハウスダストを抗原とする通年性アレルギー性鼻炎では、しばしば気管支喘息(ぜんそく)やアトピー性皮膚炎を併せ持っています。

近年、冷暖房が普及して住宅の空気が密閉されるようになったことで、ダニやハウスダストが室内に蓄積されやすくなり、通年性アレルギー性鼻炎を発症する人が増えたとされています。さらに、花粉症などの季節性アレルギー性鼻炎と、通年性アレルギー性鼻炎の両方を発症する人も増加傾向にあります。

常に鼻炎に悩まされている人は、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診して、症状を引き起こす原因が何かを調べることが勧められます。原因が特定できれば、日常生活の中でそれを避ける工夫ができ、症状の軽減につなげることが可能になるためです。

通年性アレルギー性鼻炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、まず鼻炎の症状がアレルギー性かどうかを検査で調べます。検査には、問診、鼻鏡検査、鼻汁検査などがあります。

問診では、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりの3つの症状が始まった時期、症状が1年中起こるのか季節と関連して起こるのか、症状の種類と程度、過去の病歴、気管支喘息やアトピー性皮膚炎などほかのアレルギー性疾患の併発の有無、副鼻腔炎や鼻ポリープの併発の有無、家族の病歴などを明らかにします。

鼻鏡検査では、専用のスコープを使って直接鼻の粘膜の状態を観察します。通年性アレルギー性鼻炎の場合は、鼻の粘膜が全体的にはれ上がって白っぽく見え、透明の鼻水が認められます。また、副鼻腔炎、鼻ポリープなどほかの疾患があるかどうかも観察します。

鼻汁検査では、綿棒などで採取した鼻水の中に、白血球の一種の好酸球という細胞がどの程度含まれているかを調べます。抗原抗体反応が起こると、鼻水中の好酸球が増加するので、アレルギー性鼻炎の診断の助けになります。

アレルギー性であれば、原因となる抗原は何かを検査します。検査には、特異的IgE抗体検査、皮膚テスト、鼻粘膜誘発テストがあります。

特異的IgE抗体検査では、抗原抗体反応を起こす抗体(IgE抗体)が血液中にどの程度含まれているか、その抗体がどんな種類の抗原(アレルゲン)と結合するか、採血して調べます。

皮膚テストでは、可能性のある抗原のエキスを前腕の皮膚に注射するか、皮膚につけた引っかき傷に滴下して反応を調べます。15〜20分後に、皮膚が赤くはれる面積と程度で判定します。

鼻粘膜誘発テストでは、可能性のある抗原エキスの染み込んだ小さな紙を鼻の粘膜に張り付け、アレルギー反応を調べます。5分後にくしゃみ、鼻水、鼻詰まりがどの程度出現するかで判定します。

鼻汁検査、特異的IgE抗体検査または皮膚テスト、鼻粘膜誘発テストの3つのうち2つ以上が陽性の場合に、アレルギー性鼻炎と確定します。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、まず抗原の除去、回避に努めます。ダニやハウスダストが抗原であれば、室内の清掃をこまめに行い、布団や枕(まくら)に防ダニカバーを付け、空気清浄器を使用するのも有効です。

次に、減感作療法(特異的免疫療法)という体質改善の治療や、抗アレルギー薬で症状を抑える治療を行います。

減感作療法は、抗原に体を慣れさせ、抗原に接しても症状を起こしにくくする治療です。現在のところ、長期にわたって症状の出現を抑えることが可能な唯一の方法であり、週に1回くらいの割合で抗原希釈液を注射し、徐々に濃度を濃くしていく治療を2~3年続けます。治療終了後にも、症状の改善が持続します。

最近、長期にわたる通院の負担を軽減するのを目的として、急速減感作療法がいくつかの医療機関で行われています。副作用の出現も危ぶまれるために入院して行う場合もありますが、従来の減感作療法と同じか、それ以上の効果があるといわれています。

薬物療法では、ヒスタミンなどの化学伝達物質の作用を抑える抗ヒスタミン薬や、化学伝達物質の遊離を抑えるいわゆる抗アレルギー薬、副腎(ふくじん)皮質ホルモン薬、自律神経薬などを、症状やそのほかの状況に応じて内服薬、点鼻薬として使用します。

症状を抑える薬を使用すると、その時は改善しても、再発することが多く、完全に治ることが難しいため、長期間の経過観察も行います。

薬物療法に効果を示さない場合は、手術療法を行うこともあります。鼻詰まりに対しては、鼻粘膜の一部を固める電気凝固術やレーザー手術、凍結手術、鼻粘膜の一部を切り取る鼻粘膜切除術などがあります。また、鼻水に対しては、自律神経の副交感神経を遮断する後鼻神経切断術が行われることもあります。

副鼻腔炎や鼻ポリープがある場合も、副鼻腔からの粘液の排出をよくしたり、感染物質を除去したり、鼻ポリープを切除したりするために、手術療法を行うこともあります。手術の前後に、温水や生理食塩水で副鼻腔を定期的に洗浄すると有効なこともあります。

🇵🇼ツツガムシ病

ダニ類のツツガムシの幼虫に刺され、引き起こされる感染症

ツツガムシ病とは、細菌のリケッチアを保有するダニ類のツツガムシの幼虫に刺されることによって、引き起こされる感染症。症状は、リケッチアを保有するマダニに刺されることによって感染する日本紅斑(こうはん)熱と酷似しています。

日本海側の河川領域にいるネズミに寄生するアカツツガムシの幼虫、日本海側の山林にいるネズミに寄生するフトゲツツガムシの幼虫、太平洋側の山林にいるネズミに寄生するタテツツガムシの幼虫に刺されることによって、ツツガムシ病は引き起こされます。

かつては秋田県、山形県、新潟県などで夏季に河川敷でアカツツガムシの幼虫に刺されて感染する風土病(古典型ツツガ虫病)でしたが、戦後はフトゲツツガムシ、タテツツガムシの幼虫に刺されて感染する新型ツツガ虫病の出現により、北海道、沖縄県など一部の地域を除いて、全国で発症がみられるようになりました。

感染しやすい時期は、フトゲツツガムシの活動する春から初夏と、タテツツガムシおよびフトゲツツガムシの活動する秋から初冬の2つの時期で、近年は毎年500人程度の報告があります。1950年に伝染病予防法によるツツガムシ病の届け出が始まり、1999年4月からは感染症法により4類感染症全数把握疾患として届け出が継続されています。

ツツガムシの生息場所は、草むら、やぶ、林の土の中。ツツガムシの幼虫は成長過程で一度地表に出て、アカネズミ、ハタネズミといった野ネズミなどの動物に吸着して組織液を吸います。その後は、土壌中で昆虫の卵などを摂食して生活します。

人間は、リケッチアを保有するツツガムシの幼虫に刺され、吸着されると、皮膚から感染します。潜伏期間は、5~14日で、人から人への感染はありません。

よく刺される部位は、頭髪部、わきの下、腰など。刺し口は、刺されてから2~3日で赤くはれ、4~5日で水疱(すいほう)、その後潰瘍(かいよう)となり、10日目ごろには周囲が赤い陥没した黒いかさぶたとなります。

刺されてから10日目前後から、全身の倦怠(けんたい)感、手足の痛み、頭痛を伴う発熱が起こります。高熱は1~2週間続き、発疹(はっしん)は2~5日間に現れます。径5mm前後、紅斑性、丘疹性で全身に出現しますが、胸、腹部、背部に多くみられます。7日程度で、発疹は消退に向かいます。

刺し口近くのリンパ節のはれは、ほとんどでみられ圧痛を伴います。全身のリンパ節のはれも、約半数にみられます。肝臓が大きくなる肝腫大と脾(ひ)臓が大きくなる脾腫大は通常、軽度です。

重症例では、播種(はしゅ)性血管内血液凝固症候群(DIC)による出血傾向、髄膜刺激症状、昏睡(こんすい)やけいれんなどの中枢神経症状、肝障害による黄疸(おうだん)、末梢(まっしょう)血管抵抗の弱まりや心筋障害による血圧低下、間質性肺炎や胸膜炎などを合併します。

重症例で治療が遅れると、多臓器不全で死亡することもあります。

発熱、刺し口、発疹があって、感染する可能性のある場所への立ち入り、発症した時期からツツガムシ病の可能性を疑ったら、直ちに治療を受けるべきです。発症後7日以後になると重症化の傾向が高いので、早期診断、早期治療が重要となるからです。

ツツガムシ病の検査と診断と治療

内科、感染症内科、皮膚科の医師による診断では、一般検査で、細菌などに感染すると血液中で一気に増えるCRP(C反応性タンパク)強陽性、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)およびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)などの肝酵素の上昇がほとんどの例にみられます。

確定診断は、主に間接蛍光抗体法または間接免疫ペルオキシダーゼ法という方法によってリケッチアに対する血清抗体価の4倍以上の上昇、またはIgM(免疫グロブリンM)抗体の有意の上昇を測定することで行われます。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法などによって、リケッチアの遺伝子の検出も行うこともあります。検査所見は日本紅斑熱のものと類似するため、鑑別が必要となります。

内科、感染症内科、皮膚科の医師による治療では、テトラサイクリン系の抗菌薬(抗生物質)を第一選択として、点滴静脈内注射か内服で使用します。そのほか、クロラムフェニコールも使用されます。通常1~2日で速やかに解熱し、症状も軽快します。ただし、薬剤の投与は7~10日継続します。

細胞壁がペプチドグリカンを持たないというリケッチアの生物学的特性のため、ペニシリンを始めとするβ—ラクタム系抗菌薬は無効です。

ツツガムシ病の予防ワクチンはないため、ダニ類のツツガムシの幼虫に刺されないことが、唯一の感染予防法です。

そのポイントは、レジャーや作業などで、草むらややぶなどツツガムシの幼虫が多く生息する場所に入る時は、肌をできるだけ出さないように、長袖、長ズボン、手袋、足を完全に覆う靴などを着用することです。また、肌が出る部分には、人用の防虫スプレーを噴霧し、地面に直接寝転んだり、腰を下ろしたりしないように、敷物を敷きます。山野などから帰宅後は衣類を家の外で脱ぎ、すぐに入浴し体をよく洗って、新しい服に着替えます。

ツツガムシの幼虫に刺され、吸着された時は、つぶしたり無理に引き抜こうとせず、できるだけ病院で処理してもらうことです。

🇱🇮サルコイドーシス

多臓器に肉芽腫を作る、原因不明の疾患

サルコイドーシスとは、結核を始めとする感染症によく似た病巣を、全身のいろいろな臓器に作る疾患。そのような病巣をサルコイド、一般的には類上皮細胞肉芽腫(にくげしゅ)と呼んでいます。類上皮細胞肉芽腫は、類上皮細胞、T細胞、マクロファージなどからなる塊です。

原因は不明で、よく認められるサルコイドーシスの症状は目のかすみ、視力低下、せき、呼吸苦、皮膚の発疹(はっしん)、不整脈などで、小さな肉芽腫が多数発生した臓器の障害として出現します。しかし、一定の病変の拡大が認められる前は無症状のことが多いために、発症者の約40パーセントは自覚症状に乏しく、住民検診や職場検診で発見されています。

無症状のことが多くて日本での発症者数は不明ですが、推定有病率が人口10万人当たり2.2人で、男女別では男性1.7人、女性2.6人と女性に多い疾患。発症年齢でみると、20~30歳代と50~60歳代の二峰性のピークを示し、高年齢層のピークが著明です。地域別に見ると、北部が南部と比較して発症者数が多い傾向にあります。

現在まで原因が明確にされるに至っていませんが、結核を始めとする感染性肉芽腫性疾患と病理組織像が大変似ていることから、何らかの感染症が関与しているのではないかと、以前より考えられてきました。結核では、乾酪壊死(かんらくえし)というチーズに似た壊死部分で、細胞の融解したものが肉芽腫の中央にみられます。サルコイドーシスの肉芽腫では、乾酪壊死はみられません。

現在の日本では、グラム陽性の嫌気性細菌であるアクネ桿菌(かんきん)が原因菌の一部として、研究の対象となっています。一方、どこにでもある種々の環境刺激に対して、免疫反応が起きたとする報告もあります。欧米では、Lー型結核菌、ウイルス、自己免疫などと関係があるとする報告があります。

サルコイドーシスの症状は、罹患(りかん)臓器によって異なります。主に侵される臓器は、目、皮膚、肺、心臓、神経。

目では、ぶどう膜炎を合併し、目のかすみや、まぶしさ、充血に加えて、視力低下、飛蚊(ひぶん)症、眼圧上昇を来すことがあります。皮膚では、ひざ、ひじ、顔面などに瘢痕(はんこん)浸潤、皮膚サルコイドという皮疹ができます。すねに結節性紅斑(こうはん)という皮疹ができることもあります。

肺では、両側肺門リンパ節腫脹 (BHL) がみられるのが特徴的で、ほとんど無症状です。一部の発症者は次第に、肺野病変を合併して、せき、呼吸苦を来し、さらに肺線維症やブラ(肺嚢胞〈のうほう〉)への感染が起こると、呼吸困難が進みます。このような例は全体の5パーセント以下で、10年以上の年月を要します。

心臓では、不整脈が最も多く認められ、心不全、心筋梗塞(こうそく)を引き起こすこともあります。動悸(どうき)や失神発作、呼吸困難、浮腫を来し、致死的となることがあります。神経では、尿崩(にょうほう)症となり、多尿になることがあります。精神症状や、脳梗塞に似た多彩な症状が出ることもあります。

その他の臓器では、ひざや足の関節痛、耳下腺(じかせん)のはれ、わきの下や首のリンパ腺のはれ、乳腺の腫瘤(しゅりゅう)、皮下や筋肉内の腫瘤などがみられます。また、発熱や体重減少などの全身症状が出ることもあります。

サルコイドーシスの検査と診断と治療

サルコイドーシスでは、胸部X線検査やCT検査で、肺門リンパ節腫脹 (BHL)特有の陰影が認められるのが特徴的です。健康診断で胸部X線検査を行った結果、偶然見付かるケースも多く認められます。

また、医師の診断において、ぶどう膜炎や皮膚病変が特徴的であれば、サルコイドーシスを疑うことになります。病変部位の生検で乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が証明されれば、診断が確定します。はれたリンパ節や、皮膚病変、あるいは気管支鏡や手術で採取した肺組織などから生検します。診断の補助検査としては、血液検査でガンマグロブリン、リゾチーム、アンギオテンシン変換酵素(ACE)の上昇がみられ、ガリウムシンチグラフィーで病変部位への集積像がみられると、サルコドーシスと見なされます。ツベリクリン反応が陰性化することも、結核との鑑別に重要です。心臓病変の診断には、心電図やホルター心電図、心エコーなどが必要となります。

このサルコイドーシスの診断は、専門医であれば比較的容易にできます。しかし、治療に関しては原因が不明な現在、真の治療はできません。ただし、発症者の約90パーセントという大多数では予後がよく、無治療で2〜3年以内に自然軽快する人もたくさんいます。無症状で肺門リンパ節腫脹 (BHL)が認められるだけの場合など、類上皮細胞肉芽腫は自然消失することが多いからです。発症者の約10パーセントは、治療中止が困難か、進行性です。

無症状の例では、特に薬物治療はせず、一般には許される限り3~6カ月は細心の注意を払って、経過を観察することがほとんどです。症状が強くなり必要ありと判断されれば、結核などと同様な細胞性免疫が疾患の発生に関係があるものと考えられているため、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド)を第一選択薬とした薬物治療が行われます。罹患臓器の種類と重症度によって、副腎皮質ホルモンの投与方法、量、期間、中止の目安などが異なります。使用に際してはその副作用が問題で、最初に多くの量を使い、徐々に減らしていき、少量で維持します。

 副腎皮質ホルモン無効例、再発症例、難治化症例などでは、各種の免疫抑制剤なども使用されます。心臓病変に対しては、抗不整脈剤などの併用や、ペースメーカー装着が必要な場合もあります。

心臓や中枢神経に病変が及んだ場合や、類上皮細胞肉芽腫が自然消失せずに進展して肺線維症を起こしてしまった場合は、予後が悪いので、定期的な検査による長期に渡る綿密な経過観察が必要です。まれな症例として、心臓病変による突然死、肺線維症で死亡する場合もあります。

🇻🇳原発性吸収不良症候群

もともと小腸の粘膜自体に問題があり、栄養素の吸収が障害された状態の総称

原発性吸収不良症候群とは、もともと小腸の粘膜自体に問題があり、経口摂取した栄養分の消化吸収が障害された状態の総称。障害の程度や持続時間によって、全身の栄養状態が悪くなり、いわゆる栄養失調などを起こしてきます。

この原発性吸収不良症候群には、グルテン腸症と牛乳不耐症とがあります。

グルテン腸症は、小麦に含まれる蛋白(たんぱく)質のグルテンが小腸粘膜に障害を起こし、栄養素の吸収不良が現れる疾患。グルテン過敏性腸炎、グルテン腸症候群、グルテン不耐症、スプルー、セリアック病、セリアックスプルーなどとも呼ばれます。

グルテンは主に小麦に含まれ、大麦、ライ麦、オート麦など他の麦類では含有量が比較的少量です。このグルテンに対する遺伝性の不耐症がグルテン腸症であり、発症した人がグルテンを含んだ食品を摂取すると、グルテンの分解ができず、腸管免疫システムがそれを異物と認識して過剰に働くことで、産生された抗体が小腸の絨毛(じゅうもう)を攻撃し、慢性的な炎症が起こります。

この炎症によって、上皮細胞が変性したり、絨毛が委縮して、その突起が平坦(へいたん)になったりします。その結果、平坦になった小腸粘膜は糖、カルシウム、ビタミンB群などの栄養素の吸収不良を起こし、小腸がしっかり機能しなくなることで、さまざまな症状が出てきます。

しかし、グルテンを含んだ食品の摂取をやめると、正常な小腸粘膜のブラシ状の表面とその機能は回復します。

グルテン腸症は、小児のころに発症する場合と、成人になるまで発症しない場合とがあります。症状の程度は、炎症によって小腸がどれだけ影響を被ったかで決まります。

成人で発症する場合は通常、下痢や栄養失調、体重減少が起こります。中には、消化器症状が何も現れない人もいます。グルテン腸症の発症者全体のおよそ10パーセントに、小さな水疱(すいほう)を伴い痛みとかゆみのある湿疹(しっしん)がみられ、疱疹性皮膚炎と呼ばれます。

小児のころに発症する場合は、グルテンを含む食品を食べるまでは症状が現れません。通常、パンやビスケット、うどんなどによってグルテンを摂取するようになる2歳から3歳の時に発症します。

子供によって、軽い胃の不調を経験する程度から、痛みを伴って腹部が膨張し、便の色が薄くなり、異臭がして量が多くなる脂肪便を起こすこともあります。

グルテン腸症による吸収不良から起こる栄養素の欠乏は、全身の栄養状態の悪化を招いて栄養失調を起こし、さらに別の症状を起こします。別の症状は、特に小児で現れやすい傾向にあります。

一部の小児は、成長障害を起こし身長が低くなります。鉄欠乏による貧血では、疲労と脱力が起こります。血液中の蛋白質濃度が低下すると、体液の貯留と組織の浮腫(ふしゅ)が起こります。ビタミンB12の吸収不良では、神経障害が起こり、腕と脚にチクチクする感覚を生じます。カルシウムの吸収不良では、骨の成長異常を来し、骨折のリスクが高くなり、骨と関節が痛みます。

また、カルシウムの欠乏では、歯のエナメル質の欠陥と永久歯の障害を起こします。グルテン腸症の女児では、エストロゲンなどのホルモン産生が低下し、初潮がありません。

一方、牛乳不耐症は、小腸粘膜に存在する乳糖分解酵素(ラクターゼ)が欠損していたり、少量しか産生されないために、牛乳や乳製品などの乳糖を含む食物を摂取すると、腹痛、腹鳴、腹部膨満感、水様性下痢を生じるものです。乳糖不耐症とも呼ばれます。

牛乳不耐症は緊張や不安などのストレスが原因で起こる過敏性腸症候群と似ていますが、牛乳を温めて飲んでも、それを分解する酵素がないので、吸収されず、下痢などを生じます。

乳糖分解酵素の活性は白人では高く、黄色人種、黒色人種ではあまり高くありません。従って、日本人には比較的多くみられます。また、成人になるにつれて乳糖分解酵素の活性が低下してくるので、子供のころは症状がなくても成人になってから症状が出現することがあります。

牛乳不耐症の場合、牛乳を飲まなければ、症状は治まります。自覚がないことも少なくなく、長い間下痢に悩んでいた人が、牛乳を飲むのをやめたら症状が治まったということもあります。

原発性吸収不良症候群のグルテン腸症と牛乳不耐症を疑わせる症状に気付いたら、消化器内科を受診します。

原発性吸収不良症候群の検査と診断と治療

消化器内科の医師によるグルテン腸症の診断では、小腸のX線検査と小腸の内視鏡検査を行います。小腸の繊毛が委縮、平坦化している状態が認められることと、グルテンを含む食品の摂取をやめた後に小腸粘膜の状態が改善していることにより確定します。また、グルテンを含む食品を摂取した時に産生される特異抗体の濃度を測定する検査を行うこともあります。

消化器内科の医師による牛乳不耐症の診断では、乳糖を飲ませて血糖値が上がらないこと、便中に糖が排出されることで判断できます。小腸粘膜を採取して乳糖分解酵素の活性を調べると確実ですが、乳糖除去ミルクの使用で症状が改善することが参考になります。

消化器内科の医師によるグルテン腸症の治療としては、グルテンを含まない食事を摂取し、各種の栄養剤、ビタミンを補給します。

少量のグルテンでも症状を起こすので、グルテンを含む食品をすべて避けなければなりません。グルテンを含まない食事への反応は迅速に起こり、小腸のブラシ状の表面とその吸収機能は正常に戻ります。

ただし、グルテンはさまざまな食品中に広く含まれているので、避けるべき食品の詳細なリストと栄養士の助言が必要です。

グルテンを含む食品の摂取を避けても症状が継続する場合は、難治性グルテン腸症と呼ばれる状態に進んだ可能性があり、プレドニゾロンなどのステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)で治療します。

まれに、グルテンを含む食品の摂取を避け、薬物療法を行っても改善しなければ、静脈栄養が必要となります。小児では初診時に非常に重篤な状態になっている場合もあり、グルテン除去食を開始する前にしばらく静脈栄養の期間が必要になります。

グルテンを避ければ、グルテン腸症のほとんどの発症者はよい状態を保てますが、長期間にわたってグルテン腸症が継続すると、まれに腸にリンパ腫(しゅ)を形成し、死に至ることもあります。グルテン除去食を厳格に守ることで、腸のリンパ腫やがんなどの長期間にわたる合併症のリスクを減少させられるかどうかは、不明です。

グルテン腸症の人は、グルテンを含まない穀物である米やトウモロコシを中心に、卵、肉、魚、牛乳、乳製品、果物類、野菜類、豆類を中心に摂取することになります。加工食品の場合、グルテンを含まないと表示されている物以外は注意が必要。

摂取できない食品としては、パン、うどん、ラーメン、ヌードル、パスタ(スパゲッティ、マカロニ)、ビスケット・クッキー・クラッカーなどの菓子、ケーキ、ビール、大麦水などが挙げられます。

グルテンを含んでいる可能性がある食物としては、豚肉(ソーセージ、ボローニャソーセージ)、缶詰のパテや肉、ミートボール、ハンバーガー、ホットドッグ、ソース、トマトソース、調味料、コーヒー代用品、チョコレート、ココア、アイスクリーム、キャンディー、食品色素などが挙げられます。

消化器内科の医師による牛乳不耐症の治療としては、乳糖を含む牛乳、乳製品などの食物を除去、制限します。乳製品でもあらかじめ乳糖を分解してある食品は、摂取可能です。

乳児に対しては、乳糖を含まないラクトレス、ボンラクトなどの特殊なミルクを使用します。治療薬剤として乳糖分解酵素(ラクターゼ)製剤があり、その粉薬をミルクなどに混ぜるという方法もあります。

🇲🇹顕微鏡的多発血管炎

全身の細い血管に炎症が起こる疾患

顕微鏡的多発血管炎とは、全身の毛細血管や細動動脈、細動静脈といった細い血管の血管壁に炎症が起こる疾患。細い血管にのみ血管炎が起こる本症は、中小動脈にのみ血管炎が起こる結節性多発動脈炎から近年、分離されて独立したものです。

男性にやや多く、50歳以上の高齢者に好発します。欧米に比べて比較的頻度が高いようで、日本全国の年間発生数は約1400人と推定され、国の特定疾患(難病)に指定されています。

原因は、結節性多発動脈炎と同じようにいまだ不明です。しかし、ウイルス感染や大気汚染などが誘因として考えられており、好中球細胞質の酵素に対する抗好中球細胞質抗体(自己抗体)が血液検査で認められることから、他の膠原(こうげん)病と同様に、免疫異常が背景に存在すると考えられています。

症状としては、全身の細い血管の血管壁に炎症を起こして、出血したり血栓を形成したりするため、障害が起こった血管の還流臓器や組織が壊死したり、虚血を来したりします。初発症状としては、高熱が出て、関節痛、筋肉痛が起こり、体重減少、全身の消耗などがみられます。

特徴的なのは、腎(じん)臓の機能が急速に悪化する急速進行性の腎炎と、肺に間質性肺炎や肺出血がみられることです。その他、網目状の発疹(はっしん)が出る、紫斑(しはん)が出る、末梢(まっしょう)の神経障害が出るなど血管炎の症状がみられます。高血圧、心不全、脳出血、脳梗塞(こうそく)、腹痛、下血なども認められます。

顕微鏡的多発血管炎の検査と診断と治療

顕微鏡的多発血管炎は結節性多発動脈炎と同様、生命や臓器不全の危険性があるので、専門医の意見を聞いて入院治療を受けることが重要です。早期診断、早期治療が望まれますので、膠原病内科、腎臓内科などを受診します。

診断に重要な検査は、抗好中球細胞質抗体の検索、皮膚・筋肉などの生検、血管造影。区別すべき病気は、他の血管炎および膠原病です。

治療は、結節性多発動脈炎とほぼ同じ治療が行われます。腎臓や肺などの重要臓器に血管炎による障害がみられる場合、入院して、大量の副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)で治療を開始し、以後、血管炎の再燃に配慮しながら薬の量を減らしていきます。同時に免疫抑制剤薬が用いられます。

腎障害が高度に進行してしまった場合は腎不全になり、血液透析が必要となることがあります。治療に反応せず、臓器障害が進行したり、感染症を併発してさらに病状が悪化する危険性もありますので、感染症予防が大切となります。

診断6カ月未満の死亡率が高くなっていて、予後は決してよいとはいえません。感染症、肺出血、腎不全が主な死亡原因です。

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 警察庁は、自宅で亡くなる1人暮らしの高齢者が今年は推計でおよそ6万8000人に上る可能性があることを明らかにしました。  1人暮らしの高齢者が増加する中、政府は、みとられることなく病気などで死亡する「孤独死」や「孤立死」も増えることが懸念されるとしています。  13日の衆議院...