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2022/07/30

🇱🇰胃食道逆流症

食道炎の有無にかかわらず、胃内、十二指腸内の酸性内容物が食道に逆流

胃食道逆流症とは、食道炎の有無にかかわらず、胃内や十二指腸内の酸性内容物が食道に逆流する疾患。GERD(gastro esophageal reflux disease)とも呼ばれます。

逆流性食道炎も、この胃食道逆流症に含まれます。従来、胃内の酸性内容物が食道に逆流することで、食道の内面を覆う粘膜にびらんや潰瘍(かいよう)を生じる場合を、逆流性食道炎と呼んでいました。しかし、胸焼けなどの症状はあるものの、内視鏡的には炎症症状に乏しい場合もあることが、わかってきました。

そこで、食道炎の有無にかかわらず、胃内容物、すなわち酸やペプシンを含んだ胃液や、時に胆汁酸や膵液(すいえき)を含んだ十二指腸内容物が食道に逆流することを胃食道逆流症と呼ぶようになりました。炎症症状がなくても逆流を生じるのは、粘膜が酸に対して敏感なためと考えられています。

欧米に多く日本では比較的少ないと考えられていましたが、日本でも近年、胃食道逆流症が高齢者に増えてきています。

食道と胃の境界部には、下部食道括約筋があります。食物を飲み込む際に下部食道括約筋は弛緩(しかん)し、食道から胃に食物が流れ込みます。食後は通常、この下部食道括約筋は閉鎖して逆流を防止しています。胃食道逆流症では、食後にもこの下部食道括約筋が一過性に弛緩して逆流を生じると考えられています。

また、肥満では腹圧が上昇し下部食道括約筋圧よりも高くなると逆流しますので、肥満は危険因子となります。喫煙もリスク因子となることから、生活習慣が胃食道逆流症の発生に重要と認識されています。

さらに、胃食道逆流症は、ヘリコバクター・ピロリ除菌後に悪化、あるいは顕在化することが知られています。ピロリ菌除去後に胃酸分泌が増えるために、逆流による症状が悪化すると考えられています。

胃食道逆流症は続発性に生じることもあり、食道裂孔ヘルニアや強皮症などの基礎疾患が原因で逆流を生じます。食道裂孔ヘルニアでは、ヘルニアの影響で下部食道括約筋の締め付け圧が下がり、寝たり、前かがみになったり、食事をした後には、胃液が食道へ逆流します。強皮症では、食道平滑筋の硬化が生じるために下部食道括約筋の締め付け圧が下がり、逆流を来たします。

典型的な症状は、胸がチリチリ焼けるように感じる胸焼けや、口が酸っぱくなるように感じる呑酸(どんさん)感です。それ以外にも、狭心症様の胸痛、つかえ感、気管支喘息(ぜんそく)様のせき、咽頭(いんとう)痛、しわがれ声、耳痛などを示すこともあります。横になった際に逆流しやすくなるので、症状が悪化し睡眠障害となることもあります。

重症になると、嚥下(えんげ)障害を起こすこともあります。胃食道逆流症の1つである逆流性食道炎が慢性に経過すると、障害された食道粘膜上皮がなくなり、胃粘膜上皮で覆われることがあり、バレット上皮食道と呼ばれます。ここには食道がんが発症しやすく、注意が必要です。

胃食道逆流症の検査と診断と治療

内科、気管食道科の医師による診断に際しては、内視鏡検査で、発赤、びらん、潰瘍などの炎症があれば、胃食道逆流症の1つである逆流性食道炎と診断できます。

しかし、近年、内視鏡検査でも診断のつかないケースがしばしばあることがわかったため、半日ないし1日の食道内の酸度を連続測定する24時間PH(ペーハー)モニターという方法を行うことがあります。

そのほか、逆流を防ぐ下部食道括約筋の働きや、逆流した胃液を再び胃内へ戻す収縮力が、どのくらいのレベルまで低下しているかを詳しく調べる食道内圧測定もあります。

内科、気管食道科の医師による治療では、薬物療法として、逆流してくる胃酸の量を減らす目的で、プロトンポンプ阻害剤(PPI)やH2受容体拮抗(きっこう)剤を使用します。シサプリドなどの消化管運動改善剤を補助的に使用することもあります。

症状が長引く場合には、逆流をしないように手術をすることもあります。手術としては、腹腔(ふくくう)鏡下ニッセン法が主に行われますが、食道の蠕動(ぜんどう)の悪いケースに対してはトペー法、ドール法、胸腔の中に胃の一部が入り込んでいる短食道という奇形があるケースに対してはコリス法、ダイタル法が行われることもあります。

日常生活における注意としては、脂肪食やチョコレートなど逆流しやすい食品を制限すること、腹部を圧迫しないこと、便秘を避けること、太りすぎの人は標準体重に近付けることなどが大切です。喫煙、アルコールは、下部食道括約筋の締め付け圧を低下させると考えられているため控えます。

食後1~2時間に逆流が生じやすいので、その時間は横にならないようにします。就寝時に上体を高く上げれば、胃液の逆流を防ぐ効果があります。

🇬🇫異所性骨化

本来は骨形成の起こらない軟部組織に、骨性組織が形成される疾患の総称

異所性骨化とは、本来は骨形成の起こらない軟部組織である筋肉、腱(けん)、靭帯(じんたい)、臓器、関節包に、骨性組織が形成される疾患の総称。異所性骨化症、異所性骨形成、異所的骨形成とも呼ばれます。

軟部組織に石灰が沈着して、骨性組織が形成されメカニズムには、いまだ不明確な部分が多く認められます。一説では、骨の基質中に含まれるサイトカインと呼ばれる化学物質のシグナルによって、軟部組織内に存在する間葉系細胞が骨芽細胞へと分化し、数週かけて骨性組織に成熟していくとしています。

脊椎(せきつい)の靭帯に骨化が生じ、さまざまな症状を示す後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症(黄色靭帯肥厚症)が多くみられ、重要視されます。

このほか、幼少期に発症する進行性骨化性筋炎、外傷後にみられる骨化性筋炎(外傷性骨化性筋炎)、関節周辺の外傷後にみられる異所性骨化、脊髄損傷や頭部外傷後にみられる異所性骨化、人工関節置換術後にみられる関節周辺の異所性骨化などがみられ、問題視されます。

脊椎の靭帯の骨化する後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症では、脊髄圧迫症状が現れ、手指のしびれ、首や肩の痛み、運動障害、歩行障害、排尿障害などがみられます。

骨化性筋炎や関節周辺にみられる異所性骨化では、痛み、局部のはれ、関節可動域の制限、運動障害などの症状が起こります。損傷部位を不用意に強くもむようなマッサージ、痛みがある時点での無理なストレッチといった不適切なケアが、異所性骨化をさらに起こりやすくすることもあります。

脊髄損傷や頭部外傷後にみられる異所性骨化では、発生部位として股(こ)関節が最も多く、膝(しつ)関節、肘(ちゅう)関節、肩関節に発生することもあります。骨化がみられる部位も小さく、特に問題がないこともありますが、骨化が大きくなると痛み、関節のこわばり、関節可動域の制限が生じてきます。リハビリテーションが難しくなるどころか、日常生活にも影響を及ぼします。

骨化性筋炎の受診科は、整形外科です。

異所性骨化の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行い、軟部組織内に発生した骨性組織を確認します。初期は不明瞭ですが、受傷後6週目以降明瞭となり、X線像では単なる石灰沈着と異なり骨梁(こつりょう)が認められます。

整形外科の医師による治療では、関節の可動に問題がなく痛みなどの症状がなければ、治療を行わず経過観察します。関節の機能回復が遅い場合には、理学療法、NSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性消炎・鎮痛剤)の服用、時に放射線療法などを行います。骨化のために関節が動かなくなれば、骨化した部分を取り出すために外科手術を行います。

🇸🇷異所性脂肪

皮下脂肪でも内臓脂肪でもない第3の脂肪で、より体内に悪影響を及ぼす脂肪細胞

異所性脂肪とは、皮下脂肪でもなく内臓脂肪でもない第3の脂肪と呼ばれているもの。

異所性脂肪は皮下脂肪や内臓脂肪と同じ中性脂肪で、食べ物から摂取される脂分で作られており、体の機能不全によって構成されるものではありません。また、異所性脂肪は内臓脂肪や皮下脂肪よりも体内に悪影響を及ぼす脂肪細胞であることが、今現在の研究に基づいてわかっています。

そして、日本人は欧米人に比べて、皮下脂肪の貯蔵能力が低いため、少し太っただけで異所性脂肪が蓄積して、より早い段階で肥満に関係する疾患になりやすい体質であるというデータもあります。

この異所性脂肪は食事で脂分を多く摂取することで作られ、皮膚と筋肉の間にたまる皮下脂肪や、大腸や小腸の周りに付着する内臓脂肪に貯蔵されなかったエネルギーが体内に残った時に、異所性脂肪として構成されます。

人間の体にはエネルギーを体内に保存し有事に備えるという便利な機能があり、摂取した食べ物から抽出するエネルギーが余った場合、そのエネルギーを脂肪細胞という器に貯蔵します。

この脂肪細胞という器は伸縮自在で、大きさは貯蔵したエネルギーによって小さくなったり、大きくなったりします。脂肪細胞が大きくなると、人間の外見も大きく膨らみます。これが肥満と呼ばれるものです。

しかし、脂肪細胞がいくら伸縮自在といっても、その容量には限りがあり、脂肪細胞という器に貯蔵しきれないエネルギーは体内に無理やり居場所を作ります。これが異所性脂肪というわけで、脳以外の内臓などの臓器や骨格筋などに付着し、臓器や筋肉の内部に入り込みます。

脂肪細胞に貯蔵されているエネルギーは、体内の状況に応じて神経やホルモンなどの伝令を通して正しく体内に作用します。一方、異所性脂肪は正規のエネルギー貯蔵方法で体内に存在しているわけではないため、体内の生理機能に正しく反応できず、ほかの細胞や、心臓や膵臓(すいぞう)、肝臓などに内部から直接悪い影響を及ぼし、糖尿病、高血圧、高脂肪血症、脂肪肝、動脈硬化、心筋梗塞(こうそく)、痛風、膵炎などの生活習慣病を引き起こします。

例えば、異所性脂肪が膵臓に付着すると、脂肪が細胞を殺すためにインスリンが作られなくなり、糖尿病になると見なされます。異所性脂肪が肝臓に付着すると、脂肪肝になり、さらにはNASH(ナッシュ、非アルコール性脂肪性肝炎)になり、そのまま悪化すると組織の中に線維ができて、自覚症状がないまま肝硬変や肝臓がんに進む恐れもあると見なされます。

異所性脂肪の効果的な減らし方

異所性脂肪は、脂肪細胞に入り切らなかったエネルギーによって生成されます。つまり、脂肪細胞を飽和状態にしなければ、異所性脂肪も生成されないというわけです。

脂分の多い食事を避け、貯蔵されたエネルギーを運動によって放出するのが、異所性脂肪の効果的な減らし方といことになります。

ちなみに、脂肪細胞の数は人によってさまざまですが、通常、乳幼児の時期と思春期の時期に増加するとされています。成人してからも特殊なケースで増えることはありますが、一般的に成人後に脂肪細胞の数が増えることはないというデータがあり、エネルギー貯蔵庫としての脂肪細胞の数は増やすことはできません。

中高生のころに太っていた人は、基本的に脂肪細胞の数が多いため、異所性脂肪が付着しにくいとされますが、油断して食べすぎることによりエネルギーをため込みすぎると外見がより膨らみます。

逆に、中高生のころにやせていた人は、いくら食べても外見はあまり太ったようには見えない人が多くいますが、エネルギー貯蔵庫自体が少ないため異所性脂肪が付着しやすい体になっているため、生活習慣病を引き起こす危険性があるとされます。

異所性脂肪は体の外見に影響しにくい、つまり異所性脂肪がいくら付着しても見た目にはわからないということですので、食事で脂分の取りすぎを控え、1日1万歩のウオーキングで運動不足を解消するなどの自己管理が必要です。

異所性脂肪は簡単にたまりやすい代わりに、簡単に減らせるという特徴があり、ごく短期間の食事のコントロールと運動の実践をするだけで、その量が劇的に減ることがわかっています。

ただし、運動の負荷が大きすぎると異所性脂肪は減らせても、心肺機能や関節など体の別の部分にダメージが現れてきますので、 自分に適した運動量を無理なくキープしていく気持ちで臨むことも必要です。

🇪🇸異所性膵

 

本来の膵臓から全く違う臓器に膵臓の組織が存在する形成異常

異所性膵(すい)とは、膵臓と全く違う臓器に膵臓の組織が紛れ込む形成異常。迷入膵、副膵とも呼ばれます。

8割は胃の出口付近の幽門部、十二指腸、小腸の上半分の空腸に存在しますが、まれに小腸の下半分の回腸、腸間膜、胆道、肝臓、脾臓(ひぞう)、メッケル憩室、虫垂などにもみられることがあります。

膵臓は胃の背側にある臓器で、胎児期に胃と膵臓の組織が別れてそれぞれの臓器に分化してくのですが、膵臓の組織のごく一部が胃などの筋肉の層に誤って入り込んだ状態で、胃と膵臓が別れてしまうことがあります。この誤って胃などに入り込んだ膵臓組織が異所性膵で、胃の粘膜の下にある筋肉の層に入り込んでいる場合は胃粘膜下腫瘍(しゅよう)と呼ばれる形態をとり、十二指腸、小腸などの粘膜の下にある筋肉の層に入り込んでいる場合は消化管粘膜下腫瘍と呼ばれる形態をとります。

大きさは0・2ミリから5ミリ程度であり、その多くは1つだけで存在します。

組織学的には正常な膵臓と同じで、腸管内に膵液を出せる構造になっている場合もある一方、腸管内に膵液を出せる構造になっていなかったり、インシュリンを製造するランゲルハンス島がないものだったりと、完全な膵臓としては機能していない場合もあります。

多くは無症状であり、多くの人は異所性膵の存在に気付いていませんが、内視鏡の検査でたまたま見付かることがあります。

ただ、膵臓に発生し得る病変はすべて発生する可能性があり、異所性膵が胃や小腸の潰瘍(かいよう)や出血の原因になることもあり、腹痛や腹部不快感を伴うこともあります。

膵管が腸管につながらずに閉じている場合は、異所性膵炎を発症することもあり得ます。ごくまれに異所性膵が炎症を起こして異所性膵炎を発症すると、みぞおちや背部の強い痛みを感じます。

異所性膵がんの発症もあり得ることで、膵臓がんの検査で本来の膵臓に異常が全く見付からない場合には、本来の膵臓と連続性を欠き血行支配も異なる異所性膵の病変を疑うことも重要で、それにより異所性膵がんを発見することに成功した例もあります。

検査で異所性膵の存在を指摘されたら、まず内科か外科を受診して、手術が必要なのか、それとも経過観察でよいのかどうかを診断してもらいます。

異所性膵の検査と診断と治療

内科、外科の医師による診断では、通常、血液検査、腹部X線(レントゲン)検査、腹部造影CT(コンピュータ断層撮影)検査、内視鏡検査などを行います。潰瘍性病変を認める場合は、組織の一部を採取して顕微鏡で調べる生検で、腫瘍の種類やがんの有無を調べます。

内科、外科の医師による治療では、基本的には無症状で特に害もないので、小さいものは年に1、2回、内視鏡による精密検査を行って、経過を観察します。

大きいものや、出血するもの、悪性腫瘍が疑われるものは、内視鏡下に、あるいは外科的に手術をして摘出します。異所性膵がんは全摘出しても重大な影響が全く出ないので、手術は本来の膵臓がんよりも格段に簡単です。小さいものの経過観察中に、大きさや形態に変化がみられるようであれば、手術も考慮します。

🇸🇩異所性尿管

尿管が本来とは違う位置で膀胱とつながったり、膀胱以外の部位に開口している尿路奇形

異所性尿管とは、通常は膀胱(ぼうこう)につながっている尿管が、膀胱の正常でない部位や尿道、女児で外陰部、膣(ちつ)、子宮、男児で精管、精嚢(せいのう)に開口しているまれな尿路奇形。尿管異所開口とも呼ばれます。

尿は腎臓(じんぞう)から尿管を通って排出されますが、尿管の出口が膀胱三角部という正常な部位ではない場合、尿失禁や尿路感染などの原因となります。男児よりも女児に6倍多くみられ、多くは先天的形態異常としてみられますが、まれに成人になってから発症する場合もあります。

異所性尿管の原因は、胎児期の尿管の発達異常や腎臓障害などにあると見なされていますが、尿管の先天性異常ということ以外はよくわかっていません。

尿管が膀胱内部ではなく、膀胱以外の部位に開口していると、尿路感染、尿失禁、下腹部のはれなどの症状で、医療機関の診察を受けることになり、幼少期に発覚することが多い疾患です。多くの場合、異所性尿管と診断されると、2つある腎臓の両方の尿管の位置が異常な重複腎盂(じんう)尿管であることも知られています。

初期では痛みなどの自覚症状がない場合もあり、尿路感染や尿失禁などを起こさなければ、異常に気が付かずに成長することもあります。

多くの場合は、尿失禁が昼夜かまわず発生し、治ることなく持続します。腎臓から尿管を通じて膀胱へ尿がたまり、膀胱壁が尿の存在を感じ取ることで尿意が生じますので、尿管が膀胱につながっていないことで尿意をコントロールできなくなり、尿失禁の原因となってしまうのです。

腎盂腎炎などの尿路感染症による発熱などで判明する場合が多いのが特徴で、症状が悪化すると、尿が腎臓に逆流する水腎症と呼ばれる疾患になり、発熱、腹痛、頻尿、嘔吐(おうと)、尿切迫などの症状が起こる可能性があります。

異所性尿管の検査と診断と治療

小児外科、泌尿器科の医師による診断では、腹部超音波(エコー)検査、静脈に造影剤を注入してX線撮影する静脈性腎盂造影検査、膀胱内視鏡とカテーテルを用いて造影検査をする逆行性腎盂造影検査などを行います。

小児外科、泌尿器科の医師による治療では、尿管をできるだけ正常に近い形で膀胱につなぎ直し、腎臓の機能低下を防ぐための外科手術を行います。これにより、持続性の尿失禁は消失します。

腎臓の機能が大きく落ちている時は、腎臓と尿管を摘出する腹腔鏡下手術を行うこともあります。

尿路感染症に対しては、ペニシリン系抗菌薬、セフェム系抗菌薬などを投与したり、予防的に内服したりします。 

🇸🇪異所性妊娠

受精卵が子宮内膜以外の異常な部位に着床した状態

異所性妊娠とは、受精卵が子宮の内膜以外の異常な部位に着床した状態。かつては子宮外妊娠とも呼んでいましたが、現在では異所性妊娠が正式な名称となっています。
 正常の妊娠では、精子と卵子が結合した受精卵は6〜7日かけて、卵管から子宮、さらに子宮内膜へと移動して、子宮内膜に着床します。しかし、まれに子宮内膜までたどり着かない場合や行きすぎてしまう場合があり、受精卵が子宮内膜以外の部位に着床し、発育します。
 異所性妊娠は、全妊娠の約1%を占めており、決して珍しい状態ではありません。その上、近年は異所性妊娠が増加傾向にあります。
 原因はクラミジア・トラコマーティスという微生物を原因とする性感染症の流行で、今日の性感染症のうち、日本においても、世界においても最も多い疾患として人々の間で流行しています。女性がクラミジア感染症になると、卵管が痛み、異所性妊娠が起こりやすくなります。
 従来は異所性妊娠を早期に診断することは難しく、その結果、受精卵が着床した部位が破裂し腹腔(ふくくう)内に大出血することで生命に影響を与えていました。しかし、現在では妊娠反応検査や超音波検査が発達し、診断方法が進歩したため、症状が出る前の早期に診断できることも多くなり、従来に比べて危険度が下がりました。
 異所性妊娠は、受精卵の着床部位によって卵管妊娠、腹膜妊娠、卵巣妊娠、子宮頸管(けいかん)妊娠の4つに分けられます。このうち98%を占めるのが、卵管妊娠です。
 卵管が傷んで詰まっていたり細くなっていたりして、受精卵が卵管を通過できなかったり、子宮内膜にたどり着く前にどこかで着床してしまうものと考えられています。
 妊娠初期では、異所性妊娠の特別な症状というものはなく、通常の妊娠とあまり変わりがありません。そのため、妊娠していることに女性本人が気付いてない場合もあります。子宮内膜以外の部位に着床した場合、4カ月以内には受精卵の成長が限界に達し、下腹部痛や性器出血がみられるようになります。卵管妊娠の状態で放置すると、受精卵が成長し卵管破裂が起こる危険もあります。着床した部位によっては、出血量がかなり多いこともあり、命を落とす可能性もあります。

異所性妊娠の検査と診断と治療

産婦人科、婦人科、産科などの医師による異所性妊娠の検査は、経膣(けいちつ)超音波検査によって子宮内の状態を確認し、流産していないかどうかを調べた後、尿検査などで調べます。
 症状がない場合や妊娠初期である場合、非常に判断がしづらいものですが、超音波検査などの精度が上がっているため、複数の検査で異所性妊娠と認められることが多くなってきています。症状が軽く判断が難しい場合は、さらに細胞の検査や腹腔鏡で確認することもあります。
 異所性妊娠の典型的なケースとしては、妊娠可能な年齢の女性が無月経、少量の性器出血、下腹部痛、下腹部の筋けいれんなどを訴え、産婦人科などを受診します。そこで妊娠反応検査を行うと妊娠が確認され、経膣超音波検査が行われます。この時に、妊娠初期に胎児が入っている袋である胎嚢(たいのう)が子宮内部に認められず、子宮内膜以外の領域に胎嚢が認められることになります。
 ただし、妊娠初期には正常妊娠でも子宮内膜に胎嚢が認められない時期があるので、胎嚢がないからといって直ちに異所性妊娠と診断することはできません。加えて、妊娠初期の流産の場合も、妊娠反応が陽性であるにもかかわらず胎嚢が認められないことがあります。
 産婦人科、婦人科、産科などの医師による治療では、原則として手術を行います。以前は、腹部に切開を施して行う開腹手術がほとんどでしたが、現在では腹腔鏡下手術で行われることが多くなってきました。
 ただし、腹腔内で多量に出血している場合や、施設の設備によっては開腹手術が優先されることもあります。
 卵管妊娠の場合、胎児と胎盤を含む卵管全体を摘出する手術を行うことが一般的です。
 一方、卵管を開いて胎児と胎盤を除去し、卵管を摘出しない卵管温存手術も考慮されるようになってきました。ただし、安全に温存できる状態であるか十分に検討する必要があり、手術中の状態にもよるため、最終的に主治医が判断することになります。
 卵管妊娠は、胎児が生存し胎嚢が発育していることを指します。これに対し、卵管妊娠流産というケースもあります。卵管妊娠流産で多いのは、比較的初期に胎児が死亡し、流産が卵管内で起こるケースで、卵管妊娠に比べて出血や下腹部痛などの症状が軽く、手術をせず経過をみることもあり、手術をする場合も卵管を切り取らずに温存することもできるようになってきていますので、将来子供が欲しい人には朗報といえるでしょう。
 まれに損傷がひどい場合や、子宮頸管妊娠の場合に、子宮の摘出手術が必要になることもあります。手術後は、病理学検査で摘出した組織を詳しく調べ、問題がないか確認します。

 また、程度が軽い状態ならば、手術ではなく化学療法を行うケースもあります。手術の代わりに抗がん剤でもあるメトトレキサートという薬剤の全身投与、または局所投与を行います。このメトトレキサートによって、異所性妊娠の組織が縮小して消失します。メトトレキサートに手術を併用しなければならないケースもあります。 

🇨🇭異所性蒙古斑

尻などの通常の部位以外の手足や顔などに見られる蒙古斑

異所性蒙古斑(もうこはん)とは、手足や顔、腹部、背中の上部、胸などに現れる青みを帯びた黒色調のあざの一種。

通常、蒙古斑は生後1週から1カ月ころまでに、青い染みが尻(しり)や腰、背中の下部に見られるもので、胎生期に皮膚の深い部分の真皮に生じたメラノサイト(メラニン細胞)の残存と考えられています。通常は表皮にあって、メラニンという皮膚の色を濃くする色素を作り出すメラノサイトが、表皮に出ていけずに真皮にとどまって増殖しているために、青い染みに見えてしまうのです。

日本人の新生児の9割にみられ、誰でも知っているあざの一種ですが、濃淡には個人差があります。多くは中心が濃くて、境界線付近は薄くはっきりしていません。境界線もはっきりして、ほくろのように濃い蒙古斑もあります。小さいとほくろのようですが、蒙古斑は隆起がないのが特徴です。

この蒙古斑は生後2歳ころまでには青色調が強くなり、その後は徐々に薄くなって、5、6歳までには、遅くとも10歳前後までには自然に消失し、さほど問題にはなりません。まれに、尻などの通常の部位以外にも蒙古斑が見られることがあり、これが異所性蒙古斑に相当し、通常の蒙古斑よりも消えにくい特徴があります。

といっても、異所性蒙古斑の大半は学童期までに消失することが多く、蒙古斑同様に治療の必要はありません。中には、青い染みが学童期になっても残る場合があります。しかし、その大半は成人期までに消えることが多く、放置しておいてもかまいません。

なかなか消えない異所性蒙古斑が衣服に隠れない露出部などに現れている場合は、子供が気にしてしまうケースもあり、外見的コンプレックスになることがあります。いくつかの側面から考えて、治療の対象にするべきか、皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科、美容外科の医師と対処を考えることが勧められます。

なかなか消えない青いあざの中には、まれに異所性蒙古斑ではなく、青色母斑(せいしょくぼはん)であることもあります。この青色母斑の中でも細胞増殖型と呼ばれるものは、幼少時に異所性蒙古斑と区別がつかないこともあり、悪性化することもあって治療法も異なるため、通常の部位以外にみられる青いあざは時々専門医の診察を受けることも必要でしょう。

異所性蒙古斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科、美容外科の医師による診断では、特徴的な色素斑なので、ほとんどは見ただけで診断はつきます。細胞増殖型青色母斑の確定診断は、切除した小結節を顕微鏡を用いて病理組織検査することでつきます。

細胞増殖型青色母斑が疑われる場合は、リンパ節転移を起こすことがあるため、CT(コンピュータ断層撮影法)検査やシンチグラム検査(RI検査、アイソトープ検査)といった全身の検査も行う必要があります。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療では、通常の異所性蒙古斑の場合は悪性化の心配はほとんどないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザーにより、あざを除去します。

Qスイッチレーザーには、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ヤグレーザーなどがあり、レーザーの種類により多少の効果や経過の違いがみられます。特定のレーザー光線を患部に照射すると、皮膚の中にあるメラニン色素に対してのみ反応するため、周辺の正常な皮膚組織へのダメージを極力抑えながら、あざの元になっているメラニン色素だけを破壊することができます。

いずれのレーザー治療も痛みを伴うため、麻酔シール、注射などを使用して痛みの緩和を行います。治療対象となる異所性蒙古斑の色が濃く、範囲が広い場合、1~2回程度のレーザー照射では終わらない場合もあります。

異所性蒙古斑の治療の難しさは、治療をすべきかどうか、その見極めにあるともいわれています。乳幼児に現れた大半は、成長とともに消えてしまう、あるいは薄くなるケースが多いことから、早い時期に治療を選択してしまうことで、かえって傷跡を残してしまう恐れがあるためです。また、手の甲に境界線のはっきりしない異所性蒙古斑ができた場合、レーザーを照射することで逆に色を目立たせてしまう結果に至ることもあります。

一方で、異所性蒙古斑は、まだ皮膚の薄い幼児期に治療したほうが、レーザーが皮膚内に届きやすく、治療効果が高いといった意見もありますので、担当医とよく相談し、治療の有無を決めるようにします。

細胞増埴型青色母斑が疑われる場合は、原則として、局所麻酔による手術で深く広範囲に切除します。リンパ節転移が見付かった場合には、リンパ節を切除します。

🇿🇼胃神経症(神経性胃炎)

心理的ストレスが大きな要因となって現れる胃の不快症状

胃神経症とは、いかなる検査をしても器質的な異常がないにもかかわれず、胃の痛み、もたれ、胸焼け、食欲不振などの症状が現れる疾患。神経性胃炎、上腹部不定愁訴、ノン・アルサー・ジスペプシア(NUD)とも呼ばれます。

何らかの胃の機能的な異常を反映していると考えられますが、胃の精密検査をいくら行っても、胃の粘膜には炎症やただれ、潰瘍(かいよう)などのはっきりとした異常は認められません。症状は3カ月以上に渡って繰り返し現れ、通常は、数年に渡って慢性に経過します。

胃の痛み、もたれ、胸焼け、食欲不振のほか、げっぷ、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢、体重減少などの症状が比較的多くみられるものの、一定したものではありません。これらの症状が精神状態や感情の動揺などによって変動することが、特徴です。例えば、精神状態がよい時は、消化の悪いものを食べても何の苦痛もありません。精神状態が悪い時には、何を食べても痛んだり吐いたりします。また、現れる症状が多彩で、しかも長く続くわりには、栄養の状態が比較的よいのも特徴です。

神経症的素質のある人に、心理的、精神的なストレス、過労、生活習慣などの要因が加わって、胃神経症が発症すると考えられます。その誘因としては、家庭内のごたごた、疾患に対する不安や恐怖、同じ年齢の知人や近親者の死亡、体に対する自信喪失、職場での不満や抑圧、対人関係のトラブル、事業上での失敗などが挙げられます。

20歳代の比較的若い年代にみられ、女性に多いのが特徴です。

胃神経症の検査と診断と治療

基本的に胃神経症の治療を行う科は心療内科、神経内科になりますが、まず器質的疾患がないかどうかを確認するために消化器内科を受診します。

医師はまず、X線造影検査や内視鏡検査で異常が見当たらないことを、次いで血液一般検査や便潜血反応で異常が見当たらないことを確認します。特に中年以降では、胃がんや大腸がんなどの悪性疾患と区別することが重要です。

治療の方法は、精神的治療と薬物治療に分けられます。多くは何らかの体質的な素因があり、幼少時からよく腹痛、嘔吐、下痢などを起こしていたというエピソードを持っています。その素因のある人が、何らかの強い心理的、精神的ストレスや心身の過労を体験した時に初めて、日常生活や社会生活に大きな支障を来しますので、不安な点は医師に何でも話し、予後がよいことを理解することが大切です。

薬物治療では、消化管機能改善薬が用いられ、重症の場合は抗不安薬も用いられます。 抗不安薬はベンゾジアゼピン系抗不安薬などが用いられますが、ベンゾジアゼピン系は長期間服用した場合、精神的依存や眠気などの副作用があります。

胃神経症と診断されたら、家庭や職場など環境の中で要因となっていそうなものを取り除く、あるいは緩和することが大事です。とりあえずは、精神的、肉体的安静を図り、過労を避けるように努めます。

🇸🇬泉熱

湧き水や井戸水を飲用した後に発熱、発疹、腹痛、下痢などが現れる感染症

泉熱(いずみねつ)とは、発熱、全身性の発疹(ほっしん)、腹痛、嘔吐(おうと)、下痢を主症状とする感染症。疾患名は、1929年に独立疾患として初めて報告した泉仙助の姓に由来します。

猩紅(しょうこう)熱(A群溶血性連鎖球菌感染症)に似た症状を示すところから異型猩紅熱といわれたこともありますが、猩紅熱とは全く別の疾患です。原因となる病原体は、偽結核性エルシニア菌(エルシニア・シュードツベルクローシス)で、ネズミ、リスなどの、げっ歯類に結核様病変を起こすことで知られていた菌であり、近年になって人への感染ケースが明らかにされました。

泉熱は5~9歳の学童期に最も多くみられ、90パーセントは19歳以下にみられます。春と秋に多発する傾向があり、集団発生することが多いのですが、散発することもあります。ただし、1950年代まで日本の各地でその流行がみられましたが、近年はまれになっています。

病原体を保有するネズミ、リスなどの糞尿(ふんにょう)に汚染された湧(わ)き水、井戸水などの生水や食物の摂取で感染し、潜伏期は4~10日。急に38〜40度の発熱があり、頭痛、食欲不振が起こります。翌日ごろから、部位によって濃淡のある赤い発疹が全身に現れますが、肘(ひじ)、手首、膝(ひざ)、足首などに密集して出る傾向があります。発疹はかゆく、舌がイチゴ舌になることもあります。

発熱、発疹とも5日間ぐらい続きます。発疹が消えると、熱も37度くらいまで下がります。これで治ることもありますが、発熱は二峰性の熱型のことが多く、いったん下がって一両日後に再び38~39度に上がり、1~2週間続いてから解熱してきます。

この高熱期には、じんま疹のような発疹や結節性紅斑(こうはん)という発疹が、腕や下肢に現れることがあります。また、右下腹痛や1日数回の軽い下痢が多いのも、この泉熱の特徴です。

2度目の解熱の後、さらに3度目の発熱が数日続くこともあります。経過が長くても合併症を起こすことは少なく、予後は良好で、生命にかかわったりすることはありません。

湧き水や井戸水を飲用した後に発熱、発疹、腹痛、下痢などが現れた場合、特に秋と春に現れた場合は、泉熱を疑う必要があります。小児科、あるいは循環器科、泌尿器科を受診します。

泉熱の検査と診断と治療

小児科、循環器科、泌尿器科の医師による診断は、便の低温増菌培養、血液の抗体検査によって行います。通常の細菌感染症と同じで、白血球の増加、炎症反応上昇がみられます。

医師による治療では、整腸剤を投与したり、輸液によってブドウ糖液、リンゲル液などの電解質液、あるいは水を補充して症状の改善を待ちます。抗菌剤を投与しても効果は不十分で、テトラサイクリンやクロラムフェニコールなどの抗生物質が効きます。発熱に対しては、必要に応じて解熱剤を内服します。皮膚のかゆみに対しては、必要に応じて抗ヒスタミン薬の内服、または軟こうを使用します。

家庭看護のポイントは、高熱時に安静にさせておくことです。高熱が続いても発症した学童はそれほど苦しい思いはしませんので、床に寝かせ、気持ちのいい程度に頭を冷やします。腹痛が強ければ、右下腹部を冷湿布します。寝起きは本人の気分に任せていいのですが、熱が長引きますので、医師の指示を守って下さい。

予防法としては、この病原菌である偽結核性エルシニア菌を持っているネズミの糞(ふん)や尿で汚染された湧き水や井戸水、簡易水道水など消毒不十分な水の飲用、同様に汚染された食物の摂取で感染しますから、家庭ではネズミの駆除と飲食物の保管に注意します。

🇸🇾遺精

性行為、自慰行為によらず、ほとんど無意識のうちに射精が生じる現象

遺精とは、性行為、自慰行為などによらず、ほとんど無意識のうちに射精が生じる現象。

睡眠中に遺精を生じることがありますが、これを夢精、あるいは夜間遺精と呼んでいます。遺精は昼間に突然、起こることもあります。

夢精には、睡眠中に性的な夢を見てオルガズムを伴い、勃起(ぼっき)してから射精する場合と、性的な夢、オルガズム、勃起を伴わない場合があります。10~16歳くらいの思春期の男子に多くみられる生理的現象で、疾患ではありません。まれには、精嚢炎などで起こることもあります。

思春期には、精液の成分を作っている精嚢腺(せいのうせん)や前立腺が分泌液を大量に作るため、自律神経を介する射精反射が起こることが原因と考えられています。とりわけ夜間は、膀胱(ぼうこう)が尿で充満するため、これに接している精嚢腺や前立腺が圧迫されて夢精が発生すると考えられています。

かつては思春期を迎えると、夢精で精通を経験する比率が高かったとされていますが、近年は自慰行為を覚えるのが低年齢化しており、夢精を経験せずに自慰行為を始めるケースが多いと見なされています。一般的に自慰行為を頻繁に行うと夢精を経験する割合が下がり、年齢とともに少なくなっていくのが普通。一説には、成長に伴い過剰な精液の成分を排尿時に一緒に排出する能力が備わるため、夢精によって排出する必要がなくなるからといわれます。

夢精が毎晩起こったり、遺精が頻繁にみられるようになると、病的な遺精といえます。その原因となる疾患としては、脊髄(せきずい)神経疾患、精嚢炎、前立腺炎、極度の精神的疲労、神経衰弱、性的神経症、禁欲などが挙げられ、治療が必要な場合もあります。

一説には、精神的疲労や肉体的疲労がたまっている際には、筋肉の硬直から遺精が引き起こされやすいといわれます。

遺精の検査と診断と治療

病的な遺精は、その原因となる脊髄神経疾患、精嚢炎、前立腺炎などの疾患を治すことが必要ですので、泌尿器科の専門医を受診します。精嚢炎、前立腺は細菌などによって炎症が起こるもので、あらゆる年代の男性に起こります。

極度の精神的疲労、神経衰弱、性的神経症が原因となることもありますので、できるだけ精神的な過労を避けるように努めることも大切です。

🇯🇲胃石

摂取した食物成分や異物が凝固して硬くなり、胃から排出されない塊

胃石(いせき)とは、胃内異物の1つで、摂取した食物成分や異物が部分的に消化されたり、全く消化されなかったりして緊密に凝固して、石のように硬くなっ塊。

この胃石は直径10センチくらいにまでなることもあり、胃から排出されません。

胃は、胃石や異物が集まりやすい部位です。理由としては、胃の形が湾曲していること、胃の内容物が小腸の始まりの部分である十二指腸に入る際に必ず通る幽門と呼ばれる出口が狭いことなどが挙げられます。胃石や異物の直径が約2センチを超えると、ほとんどの場合は幽門を通過することができません。

胃石は内容により、果物や野菜や海草の繊維が集まった植物胃石、飲み込んだ髪の毛が部分的に消化された毛髪胃石、制酸薬などの薬が固まって塊状になった薬物胃石に分類されます。

植物胃石には、空腹時に果物の柿(かき)を大量に食べて生じる柿胃石、植物の一種であるコンフリー(ヒレハリソウ)を食べて生じるコンフリー胃石(いせき)があります。毛髪胃石は、自分の髪の毛を飲み込む癖のある人に生じるもので、ほとんどが女性にみられ、大抵は精神的なストレスなどで髪の毛をかんで飲み込むことにより、胃の中で凝固して胃石となります。

柿胃石は形成が速く健常な人の胃の中にも形成されますが、ほかの植物胃石は手術で胃を部分切除した人や糖尿病などで自律神経障害がある人など、胃の運動機能の低下や排出機能の障害がある場合に形成されやすくなります。

柿胃石の形成システムはいまだにはっきりしていませんが、柿渋の主成分であるシブオールというタンニンが胃酸により可溶性から不溶性に変化し、これが食物のかすと一緒に凝固してできるといわれています。柿胃石は、柿の栽培地域でしばしば流行します。

柿胃石は、吐き気、嘔吐(おうと)、上腹部痛などの急性症状を現し、上腹部に移動性のしこりを触れます。便や吐物(とぶつ)に胃石が混じることもあります。また、胃石によって胃粘膜が傷付き、びらんや潰瘍(かいよう)となることがあります。

柿胃石以外では、無症状、あるいは胃の不快感など軽度の症状で、慢性的です。まれには幽門閉塞(へいそく)の症状を引き起こす場合もあり、通常量の食事の後に非常に満腹感を覚えたり、悪心、吐き気、嘔吐、痛み、消化管出血が現れたりすることもあります。

胃石の検査と診断と治療

内科、消化器科、外科などの医師による診断では、柿を食べたことや、毛髪を飲み込む癖などを聞き出す問診を行った上、腹部単純X線(レントゲン)検査、腹部超音波(エコー)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、時に胃内視鏡検査に基づいて判断します。胃内視鏡検査の際、胃石を採取し、顕微鏡で調べて毛髪や植物性物質を探すこともあります。

 内科、消化器科、外科などの医師による治療では、胃石は胃潰瘍(かいよう)や腸閉塞を合併することがあるので、胃石を溶解して縮小させる試みとして胃洗浄、炭酸水素ナトリウム剤、パパイン製剤、分解酵素剤などを使用します。

溶解療法が不成功に終わった場合と症状がみられる場合は、内視鏡を用いて鉗子(かんし)、ワイヤースネア、ジェットスプレー、レーザーなどで胃石を破砕し、小片として十二指腸より肛側へ排出させるか、内視鏡を介して回収します。

内視鏡下での胃石の排出や回収が不可能な岩石様の凝固物および毛髪胃石に対しては通常、開腹を要する外科的手術を行います。 

🇱🇾胃切除後障害

胃の手術を受けた後に起こる各種の障害

胃切除後障害とは、胃の手術を受けた後に起こってくる各種の障害の総称。胃切除後症候群とも呼ばれます。

胃がんなどで胃の切除手術を受けた場合、胃が小さくなったり、消失したことによって、比較的長期に渡って障害が残ります。胃の大きさについては、わずかには大きくなりますが、肝臓などのように再生して元の大きさに戻ることはありません。

胃切除後障害の種類としては、術後胃炎、早期ダンピング症候群、後期ダンピング症候群、術後貧血、逆流性食道炎、残胃がんなどが挙げられます。

術後胃炎は、手術後、胃と腸をつなぎ合わせた吻合(ふんごう)部を中心として、むくみや、血液成分などが集まる細胞浸潤といった炎症が起こるものです。これは経過とともに、次第に治まってきます。まれに、数年間続く場合がありますが、あまり神経質になることはありません。

早期ダンピング症候群は、食事中や食後30分以内に、胃の不快な感じ、むかつき、発汗、動悸(どうき)、体のだるさなど一連の症状が起こるものです。手術によって、胃と十二指腸の境界部にある幽門がなくなり、括約筋による調節が失われた上に、胃が小さくなっているために食べ物が胃の内部にとどまっている時間が短いか、胃がないために直接小腸に落下(ダンピング)することによって生じます。

後期ダンピング症候群は、食後2〜3時間たって、めまい、発汗、動悸、体のだるさなど一連の症状が起こるものです。原因は、食後に食べ物が急速に小腸へ流入したために起こる高血糖と、それを是正する膵臓(すいぞう)からのインシュリン過分泌により、ある程度時間をへて低血糖症状が生じるためです。

術後貧血には、鉄欠乏性貧血と悪性貧血の2つのタイプがあります。鉄欠乏性貧血は、胃酸分泌の低下とともに、赤血球を合成するために必須の鉄分の吸収が低下するために起きます。悪性貧血は、胃液の中にあって内因子と呼ばれ、赤血球を作り出す上で必要なビタミンB12の吸収に不可欠な物質が、胃液分泌の低下とともに作れなくなるために起きます。

いずれの貧血とも、めまい、脱力感、倦怠(けんたい)感などの症状があります。胃の部分切除をした人の約35パーセント、全摘した人の約70パーセントに貧血が現れるとされています。

逆流性食道炎は、胃切除による胃噴門部の逆流防止機構の障害で、胃液や胆汁、小腸液などの消化液が食道に頻回に逆流することにより起こります。症状としては、胸焼け、胸痛などが挙げられます。

残胃がんは、胃の一部が残る胃切除を受けた後、残った胃に再度がんが発生するものです。多くは、切除断端や吻合部付近に発生します。

胃切除後障害の検査と診断と治療

手術を受けた病院でその症状を診てもらい、原因を診断してもらいます。診断を基に治療を受けるのですが、その治療で効果がない時は、他の病院の専門医に指導を受けるのもよい方法でしょう。

胃切除後障害は、再手術を要することは少なく、保存的治療で軽快することがほとんどです。逆流性食道炎と残胃がんでは、手術を含めた専門医による治療が必要になることもあります。いずれにしても、胃切除術後に定期的な検査や診察を受けることで、さまざまな胃切除後障害を早期に発見、治療することが重要です。

早期ダンピング症候群では、食事療法が有効です。高蛋白(たんぱく)、高脂肪の食事にし、糖分摂取による血糖値の大きな変化を防ぎます。また、1回の食事の量を減らし、1日6回くらいに分けて、ゆっくり食べるように心掛けるのも効果的。食後1時間くらいは横になっていると、症状は軽くなります。一連の症状は、胃切除後、経過がたつとともに、軽快して治ります。

後期ダンピング症候群でも、蛋白質が多めの食事をゆっくり食べるように努めます。低血糖による発作の症状が起こったら、血液中の糖分を増やすために、あめや氷砂糖などを摂取すると、症状が軽くなります。

貧血では、鉄欠乏性貧血には鉄剤、悪性貧血にはビタミンB12製剤が有効です。逆流性食道炎では、薬物療法が主となり、制酸剤、アルロイドG、蛋白分解阻害薬の内服などが有効とされます。薬物療法に抵抗する高度の逆流性食道炎に対しては、体を傷付けることの少ない腹腔(ふくくう)鏡下、または内視鏡下手術が選択されることもあります。

残胃がんでは、早期発見によって再度の胃切除を行わずに、内視鏡的粘膜切除術や他の内視鏡治療の選択が可能です。進行がんに対しては、根治手術が第一選択となります。

🇬🇮イタイイタイ病

重金属カドミウムの摂取で起きる慢性中毒病

イタイイタイ病とは、重金属カドミウムの摂取で起きる慢性中毒病。略してイ病とも呼ばれます。

1910年代から1970年代前半にかけて、富山県神通(じんづう)川流域の婦中町(現・富山市)などを中心に多発しました。神通川上流の岐阜県神岡町(現・飛騨市)の三井金属鉱業株式会社神岡鉱業所(神岡鉱山)から排出されたカドミウムが川に流れ、川水を灌漑(かんがい)用水に使用していた富山県の農地土壌が汚染されました。そこで産出された米などの農作物や飲料水を長年、摂取した主に中高年の出産経験のある女性多数が、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を伴う骨軟化症を発症。

当初は風土病といわれたものの、現地の開業医である萩野昇医師などの努力もあり、1955年(昭和30年)にカドミウムによる慢性中毒と判明しました。末期になると、体中の骨がちょっとしたショックでボキボキ折れるのが症状の特徴で、「痛い、痛い」という叫びがそのまま疾患名になりました。

その後の研究の結果、当時の厚生省も1968年(昭和43年)5月に慢性中毒と認め、「イタイイタイ病はカドミウムの慢性中毒により、まず腎臓(じんぞう)障害を生じ、次いで骨軟化症を来し、これに妊娠、授乳、内分泌の変調、老化および栄養としてのカルシウム等の不足などが誘因となって生じたもので、慢性中毒の原因物質としてのカドミウムは自然界に微量に存在するものを除き、神通川上流の三井金属神岡鉱業所の活動で排出されたもの以外、認められない」と見解を明らかにし、国内初の公害病と認定しました。

その後1971(昭和46年)年2月からは「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法」が施行され、医療等の救済が行われてきました。1974(昭和49年)年9月からは「公害健康被害補償法」による医療救済等の措置が実施されています。

患者と遺族33人が訴えた損害賠償の訴訟では、一審、控訴審ともに原告が勝ち、三井金属鉱業側は死者に1200万円、患者に960万円を支払いました。

このイタイイタイ病の認定患者は2012年(平成24年)3月現在、196人。このうち生存者は、4人だけです。罹患(りかん)者は1000人以上と推定されていますが、1955年(昭和30年)以後は重症者はほとんどみられなくなり、近年、富山県神通川流域などでのイタイイタイ病の新たな発症は認められていません。

なお、イタイイタイ病患者は、石川県梯川(かけはしがわ)流域、兵庫県市川流域、長崎県対馬でも発見されていますが、国は認定していません。

イタイイタイ病の症状は腰痛、背痛から始まり、次第に股(こ)関節の痛みのため臀部(でんぶ)を振ってアヒルのような歩き方をするようになり、やがて歩行不能となります。また、ぶつかったり転んでも容易に四肢骨や肋骨(ろっこつ)に骨折を起こし、度重なるとタコの足のように四肢が屈曲してしまいます。体位を変えたり、談笑やせきなどによっても全身に痛みがくるようになると、昼夜を問わず「痛い、痛い」と訴え続け、ついには栄養失調やその他の合併症で死亡します。

骨の変化のほかに、腎臓の尿細管の機能も侵されるカドミウム腎症になり、尿中に蛋白(たんぱく)、糖、カルシウムが増加します。骨折しやすい理由の一つにカルシウムの体外排出が考えられ、多産婦に多発したのも、妊娠中にカルシウムが胎児に多く奪われることが誘因とみられています。

医師によるイタイイタイ病の治療では、骨軟化症についてはビタミンD2の大量投与や、活性型ビタミンD3の投与によりある程度症状は和らぐとされますが、金銭的余裕のある患者は少なかったと見なされます。また、この治療では尿細管の機能異常は改善されないため、骨軟化症がしばしば再発します。

🇩🇯イチゴ状血管腫

出生時や生後間もなくに出現する、イチゴ状の赤く軟らかい小腫瘤

イチゴ状血管腫(しゅ)とは、出生時より、または生後間もなく出現する赤色、ないし暗赤色の軟らかい小腫瘤(しゅりゅう)。ストロベリーマークとも呼ばれます。

出生時にはわずかに赤いか無症状で、生後1週から数週より、平らで小さい赤あざが出現し、次第に増大、隆起し、生後6〜8カ月ごろピークに達します。表面はイチゴの実のように顆粒(かりゅう)状で、軟らかく、鮮紅色を示す場合が多いのですが、色調に変化がないこともあります。また、表面が腫瘤状に隆起するものは3割程度で、6割近くは軽度に隆起するだけです。

鶏卵大以上の大きな腫瘤になることもあるものの、年月とともに自然に小さくなっていき5~7歳ごろまでに自然消退しますが、完全ではなく、表面にしわや変形が残ることも少なくありません。

このイチゴ状血管腫は、真皮内に未熟な血管がたくさん増殖するために出現します。胎児期の発達段階にある血管を構成する細胞が何らかの原因で残り、出生後、母親から受けていた増殖抑制因子が欠乏して、増殖するのではないかとも考えられています。

自然に治るので慌てて治療する必要はありませんが、未熟な血管の集団が皮下にあるため、外傷を受けるとなかなか出血が止まらないことがあるので、注意が必要です。出血した時には、清潔なタオルかガーゼで十分に圧迫して、出血が止まるまで押さえておく必要があります。

イチゴ状血管腫の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師は通常、見た目と経過からイチゴ状血管腫を診断します。

自然に消えていくので、特に合併症の危険がない大部分のものは、無治療で経過をみて差し支えありません。ただし、まぶたや唇、鼻孔部や肛門(こうもん)部などに生じたものでは、視力や呼吸に障害を与えたり、腸閉塞(へいそく)を来す危険性もありますので、早急に治療を施します。

即効的な治療として、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の大量投与が行われます。効果が不十分な場合には、インターフェロンαの連日皮下注射が行われる場合もあります。これらの治療は効果的ですが、いずれも重い副作用を生じる可能性があります。

自然消退した後に表面にしわや変形が残ったケースでは、後日、形成外科的に手術します。また、乳幼児期からレーザーによる早期治療を行い、色調を自然経過よりも淡くしたり、自然消退を促して変形を抑制することもできます。表面の赤あざには、パルス色素レーザーを照射して色調を淡くします。皮下血管腫には、内部にヤグレーザーを照射して血管腫が腫瘤になるのを未然に防いだり、すでに盛り上がった腫瘤を縮小したりします。

🇸🇱1p36欠失症候群

染色体の異常によって発症する生まれつきの疾患

1p36(いちぴーさんろく)欠失症候群とは、染色体の異常によって発症し、生まれた時から持っている疾患。
 その名前の通り、1番染色体短腕の末端の36領域に微細な欠失がみられます。ほとんどの発症者は、顔貌(がんぼう)に特徴があり、運動や言葉の発達に遅れが生じます。

1p36欠失症候群の発症者は、日本では2万5000人から4万人に1人の頻度で年間10人から20人程度出生し、現在は約100人いると推測されています。

しかし、一般医師における認知度が低く、未診断のまま原因不明の重度精神発達遅滞児として重度心身障害児施設に入所している例が多いと考えられ、正確な有病率はわかっていません。男女の割合は、3対7で女性のほうが多いとされます。

染色体の異常は、生殖細胞の減数分裂過程で精子あるいは卵子ができる時に起こると考えられています。ほとんどの場合は、突然変異により生じます。

ただし、ほかの染色体との不均衡転座によって生じる欠失が認められる場合は、約半数の発症者で両親のうちの一方に由来する均衡転座から生じています。

1p36欠失症候群の発症者の主な症状は、突出した下顎(かがく)や落ちくぼんだ目などの特徴的な顔貌、運動や言葉の発達の遅れ、てんかん発作。特に特徴的な顔貌と発達の遅れは、ほぼ100%の割合でみられます。

これらの症状のほか、生まれつき心臓の構造に問題がみられる先天性心疾患、生まれつき口蓋(こうがい)に割れがみられる口蓋裂、口唇裂などの口腔(こうくう)外科疾患、難聴などの耳鼻科疾患、肥満などを合併することがあります。

染色体の欠失の大きさや、合併症の程度にも影響され、経過はさまざまで、発音がうまくできない構音障害を示しながらも会話が可能になる場合もあれば、自力歩行ができない場合もあります。

自力歩行ができ、日常生活も比較的自立している発症者の場合、過食から肥満になることがあります。

1p36欠失症候群の検査と診断と治療

小児科の医師による出生後の診断では、特徴的な外見や症状から可能性が疑われ、染色体検査で確定します。

ただし、染色体の欠失の大きさが微細であることから、Gーband(ジーバンド)法などの通常の染色体検査では検出が困難で、染色体の一部に蛍光物質で目印をつけて蛍光顕微鏡で観察するFISH(フィッシュ)法により確定診断が可能です。近年では、正確な欠失範囲を同定するために、網羅的に解析することができるアレイCGH法などの染色体検査が用いられるようになってきています。

小児科の医師などによる治療では、根本的な治療法がないため、さまざまな症状に対する対症療法を行います。てんかん発作に対しては薬物療法、先天性心疾患に対しては手術療法が中心となります。症状が安定している場合は、口蓋裂などの手術に踏み切ることもあります。

それに加えて、コミュニケーションの訓練や、咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)の問題による摂食障害がある場合は口から食べる行為の訓練など、専門的な訓練を行うことも重要です。

てんかん発作の予後にはばらつきがあり、症状の緩和が得られる場合もあれば、生涯にわたって持続する場合もあります。てんかん発作の予後は、運動や言葉の発達の予後と関係します。先天性心疾患を合併している場合には、その治療の成否が生命予後に影響します。

🇸🇲一過性黒内障

頸動脈狭窄に伴う症状で、突然、片目の視力障害が起こって、数分から数十分で回復するもの

一過性黒内障とは、片目の視力障害が急速に起こって、数分から数十分で回復するもの。眼虚血症候群の一種に数えられます。

突然、片側の目の上半分や下半分が暗くなる、幕が上がるまたは下がるように視野が暗くなる、視力が急に低下し、物が見えなくなる、時に目の奥の痛みを覚えるというような症状が出現して、2~3分の間続き、普通、数分以内、長くても20分ほどで元の見え方に戻ります。一時的な症状で回復することがほとんどなので、一過性黒内障と呼ばれています。

この一過性黒内障の多くは、頸動脈狭窄(きょうさく)による一過性脳虚血発作の一つの症状であり、脳梗塞(こうそく)の発作を起こす以前の前触れ症状、警告症状と考えられています。

頸動脈は頸部頸動脈と頭蓋(ずがい)内頸動脈に分かれますが、心臓から脳へと向かう血液の流れ道である頸部頸動脈が動脈硬化を起こし、血液が流れる道が狭まる頸動脈狭窄になると、狭い個所で流れの悪くなった血液が小さな血の塊である血栓を作り、この一部がはがれて、頭蓋内頸動脈が最初に枝分かれする目の網膜へと向かう眼動脈のほうに流れて血管を詰まらせる結果、血液の流れが一時的に途絶えて、視力障害が急速に起こると考えられています。

一方、はがれた血栓が頭蓋内頸動脈のほうへ流れて、脳の血管の一部を詰まらせた場合には、突然、言葉が出にくい、手足のしびれやまひ、手足が動きにくいなどの一過性脳虚血発作の症状が出ます。短時間のうちに、血栓が溶けるか、副血行路が形成されるために、発作は一過性ですみます。しかし、血栓が完全に脳の血管を詰まらせた場合は脳梗塞になります。

食生活の欧米化による糖尿病、高脂血症といった生活習慣病や、動脈硬化による頸動脈疾患の増加によって、一過性黒内障も増加しています。

一時的な症状で回復するからといって安心していないで、すぐに神経内科、ないし脳神経外科で精密検査を受けておいたほうがよいでしょう。片目の視力障害が起こるという症状のため、最初に眼科を受診する発症者が多いとされていますが、近年は眼科の医師も一過性黒内障に対する認識が深まり、原因となっている頸動脈狭窄などの治療を専門とする神経内科、脳神経外科に紹介することが多くなっています。

一過性黒内障の検査と診断と治療

神経内科、ないし脳神経外科の医師による診断では、首に超音波を当てて診断する頸部血管ドップラー検査、CTやMRIによる血管の検査で、容易に頸動脈狭窄と確定されます。近年では、狭くなった個所の診断やその程度のほか、動脈硬化の性質、血流の早さなどの質的診断も行え、よい治療方法が選択できるようになりました。

治療上必要な場合は、頸動脈を直接レントゲンで撮影する血管撮影が行われます。また、血液が到達する脳の状態を調べるため、脳のMRIや核医学による脳血流検査なども行われます。さらに、心臓などほかの血管に、同じような疾患がないか調べることも重要です。

神経内科、ないし脳神経外科の医師による一過性黒内症の治療は、原因となっている頸動脈狭窄などの疾患の治療が中心になります。禁煙、運動療法、食事療法などに加え、高脂血症、糖尿病、高血圧に対する薬による内科的治療が基本となります。これに加えて、脳梗塞など脳卒中を予防するために血液の流れをよくする抗血小板療法の薬が追加されます。

頸動脈の狭さが強くなった場合には、その程度により手術か血管内治療が追加されます。頸動脈狭窄のみが発見されて、脳の症状がなく頸動脈の狭さが60パーセント以上の場合は、脳神経外科医により手術で頸動脈の病変を摘出することが脳卒中を予防するためによいとされています。一方、脳の症状がある場合の手術の基準は70パーセントの狭さに上昇し、手術により脳卒中が拡大することを防止します。この脳神経外科医による手術法は、長年に渡って世界中で行われ、多くの結果が蓄積された結果、現在の基準が確立されました。

血管内治療は新しい治療法で、太ももの付け根から血管の中にカテーテルと呼ばれる管を入れ、これを頸動脈の狭窄した場所に誘導します。ここでバルーンと呼ばれる風船を膨らましたり、網目状に血管の中で拡張し頸動脈の内側を適切な太さに保つステントと呼ばれる機器を挿入します。この治療法は歴史が浅いため、病変を直接取り除く手術のリスクが高いと思われる場合や高齢者の場合などに行われています。

🇱🇸一過性全健忘症

記憶を一時的に失い、24時間以内に正常に戻る疾患

一過性全健忘症とは、一時的に記憶のみが障害される疾患。通常、24時間以内に正常に戻るために、一過性と呼ばれます。

記憶に障害が起こる発作が、ある日突然生じます。発作中は、新たな記憶の形成ができません。これを前向(ぜんこう)健忘と呼びます。また、発作前の数時間の記憶が消失します。これを逆向(ぎゃっこう)健忘と呼びます。 通常、数カ月から数年以上前の長期記憶には障害は起こりません。

発作中の記憶の形成障害と逆向健忘によって、自分がどこにいるのか、また何をしているのかがわからず、「私はどこにいるのですか」などの質問を繰り返します。状況を教えられても、その記憶を保持できないために、再び同じ質問を繰り返すという特徴があります。

ろれつが回らなくなったり、失語症がみられることはありませんし、手足にまひが起きたりすることもありません。発作中は記憶の障害以外の症状が生じないので、かなり複雑な行為も可能で、車の運転をしたり、物を作ったりといつもと変わりのない行動が観察されます。発作後、逆向健忘はかなり回復しますが、発作直前の数時間以内の記憶は永久に失われます。発作中の記憶もほぼ全部が欠落したままとなり、回復しません。

この一過性全健忘症は、動脈硬化の発症者で脳の側頭葉に血液を送る動脈が一時的に遮断されると起こり、特に高齢者で起こりやすくなります。また、側頭葉のてんかん発作によって起こることもあり、しばしば原因は不明です。若い成人では、片頭痛で脳への血流が一時的に減少して起こることがあります。

また、激しい運動中の脳しんとう、頭部外傷、脳腫瘍(しゅよう)、初期のアルツハイマー病、精神的なショック、感情の大きな動きなど、いろいろな原因でも起こります。医療機関での病気の検査中、冷たいシャワーを浴びた時、セックスの最中に起きたというケースもあります。

記憶の中枢は、脳の側頭葉内側部の海馬(かいば)と呼ばれている部位に存在することが知られています。発作中に脳血流を調べた結果、両側の側頭葉内側部で血流が低下しているとの報告があります。一過性全健忘症は脳血管障害の危険因子ではないことが判明しており、この血流の低下は脳機能障害の後に生じる二次的な現象であろうと推測されています。

原因はまだ詳しくはわかっていませんが、経過は良好です。早い人で数分、多くの場合は一晩眠れば、記憶は自然と回復します。

しかし、発作が治まった後でも、原因をはっきりさせるために、神経内科あるいは精神科の医師に相談することが勧められます。医師による診断は臨床症状から容易ですが、てんかん発作や頭蓋(ずがい)内の器質的な疾患を除外するために、脳波検査や頭部MRI検査が行われます。医師の診断で原因が判明したら、それに即した治療が行われるものの、一般的には特別な治療は行われません。

すぐによくなって後遺症も残らないし、再発する可能性も極めて低く、一生に一度しか起こらないといわれているからです。中高年に多く発症するものの、繰り返し再発する人は5、6パーセント以下と少なく、記憶障害がずっと続く人はほとんどいません。

🇧🇼一過性脳虚血発作

脳に行く血液の流れが一過性に悪くなり、発作が起こるもの

一過性脳虚血発作とは、突然、手足のしびれやまひ、視力障害などの発作が起こり、短時間のうちに回復して、後遺症状を残さないもの。脳梗塞(こうそく)の発作を起こす以前の前触れ症状として、重要な発作です。

動脈硬化を起こしている血管壁から、小さな血液の塊がはがれて、もっと細い脳の血管の一部に引っ掛かって症状が起こります。脳の血管が詰まると、その部分の組織の循環と代謝に障害が起こり、機能が停止します。脳の機能はそれぞれの部位で違うので、損なわれた部位により症状は違ってきます。短時間のうちに、血液の塊が溶けてしまうか、副血行路が形成されるために、発作は一過性ですみます。

そのほか、血圧が急に著しく低下すると、脳に血液が十分いかなくなり、一過性の脳虚血発作を起こすこともあります。この場合は、急性の出血や心筋梗塞、不整脈など、ほかの因子が作用している場合も少なくありません。

症状としては、一過性の片側だけの手足まひである片まひ、手足の一方だけのまひである単まひ、意識消失発作、失語症、半身知覚鈍麻、視力障害、めまい発作などが現れます。これらの症状は、普通は数分から数時間、長くても一昼夜くらいで、後遺症も残さずに消えてしまいます。

しかしながら、このような発作を繰り返しているうちに脳梗塞に移行するので、必ず医師の治療を受けることが必要です。一過性脳虚血発作があった場合、約10パーセントが1年以内に、約30パーセントが5年以内に脳梗塞を発症すると見なされています。

一過性脳虚血発作の検査と診断と治療

発作の最中に診察を受けることはほとんどないため、多くは発作後、病歴から診断することになります。脳動脈硬化のあることが、この疾患の条件です。診断には頸(けい)動脈の超音波ドプラー検査が有用で、血管の内中膜の厚さや、動脈硬化の指標になるプラークの状態を調べます。血管の病変が原因の一過性脳虚血発作では、詰まりの源になる脳血管の病変を調べることが重要で、脳血管撮影を行い、その狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)の部位とそれらの程度をみます。

拡散強調画像MRIは、急性期の脳梗塞の有無をみるのに有用です。頸部から血管の雑音を聴き取ることもあります。心疾患が疑われる場合には、心エコー検査を行います。

2週間以内に4回以上の発作がある場合、2週間以内に頻度、持続時間、重症度が急速に増している場合、心臓の異常が閉塞の原因と考えられる場合は、早期入院が必要です。

一過性脳虚血発作は多くの場合、診察時には症状が治まっているので、再発予防が重要です。そのためには、脳梗塞の危険因子となる高血圧、糖尿病、高脂血症の管理、禁煙指導、心疾患の治療、経口避妊薬の中止、運動指導などを行います。

再発予防のための薬物治療としては、発作を繰り返すような場合には、抗凝固剤が使われます。この薬物療法は、最低6カ月、通常は1〜2年は継続する必要があります。また、血管撮影によって脳の血管に狭窄や閉塞が確かめられた場合は、手術によって取り除くこともあります。

🇲🇼溢流性尿失禁

排尿障害があって十分に排尿できないために起こる残尿の一時的な漏れ

溢流(いつりゅう)性尿失禁とは、排尿障害があって十分に排尿できず、常に膀胱が伸展しているために、一時的な少量の漏れを示す尿失禁。

尿失禁というと、尿を流す部分が緩んで垂れ流しになることと思われがちですが、一時的な漏れではなく、一日中、常に漏れ続ける失禁は真性尿失禁、または全尿失禁と呼び、代表例として挙げられるのは尿管開口異常などの先天性尿路奇形によって常に尿が漏れているもの、または手術などの際、尿道括約筋を完全に損傷したものです。

一方、一時的な漏れを示す溢流性尿失禁は、排尿障害があって尿が出にくい状態になっているのに尿が漏れるものです。尿が出にくくても、新しい尿は腎臓(じんぞう)から次々に膀胱(ぼうこう)に送られてくるのでたまっていき、膀胱がいっぱいになると尿がチョロチョロと少量ずつあふれて出てきます。

この症状は、前立腺(ぜんりつせん)肥大症による下部尿路閉塞(へいそく)が原因となることが多いので、中高年男性に多くみられます。

前立腺肥大症による排尿トラブルは、膀胱への刺激による頻尿から始まります。前立腺は膀胱から出てすぐの尿道を取り巻いているので、前立腺肥大によって膀胱の出口や尿道への刺激が強くなり、夜中に何度も排尿のために起きるというような頻尿が始まります。同時に、会陰(えいん)部の不快感や圧迫感、尿が出にくいといった症状も現れます。

次に、排尿に際して尿が出切らずに、膀胱にたまる残尿が発生するようになります。この段階では排尿障害が次第に強くなり、息んで腹圧をかけないと出ないようになってきます。さらに、肥大した前立腺によって尿道が狭くなっていくと、慢性尿閉となります。残尿が多くなって膀胱は尿が充満した状態になり、尿意を感じなくなって気付かないうちに尿が少量ずつあふれて漏れる溢流性尿失禁の状態になります。

ほかには、女性が子宮がんを手術した後、糖尿病や脳血管障害で膀胱が収縮しなくなった場合に、溢流性尿失禁がみられます。

女性の場合は尿が出やすい体の構造なので、男性に比べて溢流性尿失禁の状態になるケースはまれですが、子宮がんや直腸がんの手術の後で一時的に膀胱が収縮しなくなった場合、大きな子宮筋腫(きんしゅ)で膀胱の出口が圧迫され尿閉になった場合、子宮脱や子宮下垂などで尿道が開きづらくなった場合に、溢流性尿失禁がみられます。

また、糖尿病や脊髄(せきずい)損傷、脳血管障害などによって、膀胱を中心とする末梢(まっしょう)神経系が器質的に傷害されると、膀胱が収縮しなくなる神経因性膀胱となり、たまった尿があふれて漏れる溢流性尿失禁がみられます。糖尿病では知覚がまひするために、尿意を感じないまま膀胱が膨らんで、1000ミリリットルもたまることがあります。

溢流性尿失禁がみられると、下着がぬれる、臭いが気になるなど、しばしば不快感を覚えることになります。最近は尿パッドも普及してきましたが、外出や人との交流を控えることにもつながりかねません。次第に日常生活の質が低下することも懸念されます。

溢流性尿失禁を放置していると、膀胱にたまっている尿に細菌が繁殖して尿路感染症や腎機能障害などを起こしたり、腎不全になることもあります。症状がみられたら、泌尿器科、ないし婦人科など専門医を受診してください。

溢流性尿失禁の検査と診断と治療

泌尿器科、ないし婦人科の医師による診断では、症状および各種検査を総合し、溢流性尿失禁の原因を確定します。一般的には問診、尿検査、超音波検査、血液検査、尿流動態(ウロダイナミクス)検査(膀胱内圧、腹圧、排尿筋圧、外尿道括約筋活動、尿流量測定)、尿路造影検査、内視鏡検査などを行って、溢流性尿失禁の原因を探ります。

泌尿器科、ないし婦人科の医師による治療は、溢流性尿失禁の原因になる疾患の種類によって異なり、基礎疾患があればその治療が第一です。前立腺肥大症や子宮脱、子宮下垂と診断すれば、その治療を行います。また、必要に応じて膀胱を収縮させる薬を用いることもあります。

前立腺肥大症が溢流性尿失禁の原因の場合は、症状が軽い場合は薬物療法から始め、症状がひどい場合や合併症を引き起こしている場合は手術療法を行います。

神経因性膀胱が溢流性尿失禁の原因の場合は、治療が可能ならばまず基礎疾患に対して行いますが、神経の疾患はなかなか治療の難しいことが多く、薬物療法、排尿誘発、自己導尿法などで排尿効率を高めることになります。

自己導尿法は、尿が出にくく残尿が多い場合に、1日に1〜2回、清潔なカテーテルを自分で膀胱内に挿入し、尿を排出させるものです。 これで、とりあえず症状は改善し、外出も容易になります。

🇿🇼遺伝性アロマターゼ発現異常症

遺伝性の原因により、アロマターゼの発現に異常が生じて発症する疾患

遺伝性アロマターゼ発現異常症とは、遺伝性の原因により、アンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲン(女性ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼが過剰に、あるいは過少に発現することにより発症する疾患。

アンドロゲン(男性ホルモン)とエストロゲン(女性ホルモン)は、性差の決定にかかわるホルモンです。これらは男性だけ、あるいは女性だけが持つのではなく、両方の性ホルモンは適切な時期に適量でそれぞれの性において産生されています。テストステロン、デヒドロテストステロン、アンドロステロンなどのアンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲン(女性ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼは、体内のさまざまな部位で発現し、血流によって運ばれてくるアンドロゲン(男性ホルモン)を基質として、局所的にエストロゲン(女性ホルモン)を産生しています。

遺伝性アロマターゼ発現異常症の代表的な疾患は、アロマターゼ過剰症とアロマターゼ欠損症です。

男性に乳房の発育を認めるアロマターゼ過剰症

アロマターゼ過剰症は、遺伝性の原因により、男性に乳房の発育を認める疾患。遺伝性女性化乳房症とも呼ばれます。

常染色体優性遺伝性の単一遺伝子病で、エストロゲン(女性ホルモン)合成酵素であるアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異により発症します。全身の臓器や細胞で、アロマターゼが過剰に発現し、血中のエストロゲン(女性ホルモン)が上昇します。

血中のエストロゲンが持続的に高値となるため、思春期より前の小児期に発症し、症状が現れ始めます。大きな症状としては、高度で反復性の乳房増大、骨年齢進行による低身長、性欲の低下、精巣機能の低下などがあります。

乳房の増大の程度は、強い場合が多いのですが、比較的軽い場合もあります。一過性でなく、進行性に乳房が増大してくる場合、父親または兄弟に同様の症状がある場合には、このアロマターゼ過剰症が疑われます。

男性の乳房の増大は、身体的問題だけでなく、精神的問題を引き起こします。そのため、社会的活動性の著しい低下を来すことがあります。

また、このアロマターゼ過剰症は、女性にも発症することがあり、症状としては巨大乳房、低身長、不正性器出血などがあります。乳がんや子宮体がんが発生することも懸念され、不妊症の原因になることもあります。

アロマターゼ過剰症の発生はまれで、かつ新しい疾患概念であるため、専門に診断や治療を行う診療科はなく、小児科、内科、外科、産婦人科、乳腺(にゅうせん)外科など複数の診療科で別々に取り扱われています。

エストロゲンが働かないアロマターゼ欠損症

アロマターゼ欠損症は、遺伝性の原因により、女性ホルモンの一つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が働かない疾患。

常染色体劣性遺伝性の単一遺伝子病で、男性ホルモンの一つであるテストステロンをエストロゲン(卵胞ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異により発症します。

アロマターゼ欠損症を発症した女性は、胎盤アロマターゼ欠損症により新生児の時から外性器が不明瞭(めいりょう)に男性化し、女性仮性半陰陽と診断されることがあります。2~4歳の女児では、エストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣の一部にできた袋状の腫瘍(しゅよう)内に液体がたまる卵巣嚢腫(のうしゅ)(未破裂卵胞)が出現します。

思春期には、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が高く、エストロゲン(卵胞ホルモン)が低くなり、第2次性徴が起こリません。テストステロンが増加し、徐々に男性化します。骨減少症、骨粗鬆(こつそしょう)症を引き起こすこともあります。

一方、アロマターゼ欠損症を発症した男性は、正常な性分化、正常な思春期を迎えますが、エストロゲン(卵胞ホルモン)の低下のため、類宦官(るいかんがん)体形という子供のような体形がみられ、骨端線の閉鎖不全によって大人になってもどんどん骨が成長し続け、極めて身長が高くなります。性欲減退が著しく、骨減少症、骨粗鬆症、インスリン抵抗性(耐糖能異常)になります。

アロマターゼ欠損症の発生はまれで、かつ新しい疾患概念であるため、専門に診断や治療を行う診療科はなく、小児科、小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科など複数の診療科で別々に取り扱われています。

アロマターゼ欠損症を発症した女性は、出生時に医師や看護師によって女性仮性半陰陽が発見されることが望ましいのですが、思春期や成人後に発見されることもあります。思春期になって女子のはずなのに初経(初潮)がなかったり、陰核の肥大や多毛、声の低下などの男性化が起こってくる場合には、できるだけ早く小児科、あるいは小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科などの診断を受けるようにします。

アロマターゼ過剰症の検査と診断と治療

小児科、外科、乳腺外科などの医師による診断では、乳房増大などの症状があり、かつ血中エストロゲンが高値があることからアロマターゼ過剰症と判断します。確定するために、遺伝学的診断でアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異を検索することもあります。

小児科、外科、乳腺外科などの医師による治療では、症状が軽い場合はそのまま経過観察しますが、程度が強い場合や、若年発症で低身長が予測される場合には、乳がんなどの治療に用いられているアロマターゼ阻害剤を投与することにより、過剰なエストロゲン(女性ホルモン)の産生を抑制し、症状の改善や発症の予防を図ります。しかし、遺伝子の異常によって生じる疾患であるため、根本的な治療はできません。

男児が女性のように乳房が大きくなることで身体的、精神的問題を抱えている場合は、外科的手術を行い、肥大した乳腺の組織をほぼ全部、または一部を切除することもあります。

手術後にも、アロマターゼ阻害剤を投与し、乳房増大の再発を予防します。

アロマターゼ欠損症の検査と診断と治療

小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による診断では、女性仮性半陰陽を手掛かりとして、血中エストロゲンが低値であることからアロマターゼ欠損症と判断します。確定するために、遺伝学的診断でアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異を検索することもあります。

小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による治療では、アロマターゼ欠損症の2~4歳の女児ではエストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣嚢腫(未破裂卵胞)が出現しますが、少量のエストロゲンを投与すると嚢腫は消失し、正常な卵胞発育を起こします。

エストロゲンの投与は2歳からが望ましく、結合型エストロゲン0・15mg(エストラジオール0・25mg)を使用します。10~12歳では、これを0・3mg~1・25mgに増加させ、さらに黄体ホルモン剤も投与し、生理を起こすようにします。14歳までには、低用量経口避妊薬(OCピル)へスイッチします。

第2次性徴の欠如によりアロマターゼ欠損症が発見された女性に対しても、同じようなエストロゲンの投与により女性ホルモンの補充療法を行います。しかし、遺伝子の異常によって生じる疾患であるため、アロマターゼ欠損症の根本的な治療はできません。

アロマターゼ欠損症の男性では、14~16歳から少量のエストロゲン(12・5~25μg貼付〈ちょうふ〉剤)を使用します。これにより、骨端線が閉鎖し、骨粗鬆症が予防され、インスリン抵抗性(耐糖能異常)が正常になります。しかし、過剰のエストロゲンの投与は、男性の乳房が女性のような乳房に膨らむ女性化乳房を引き起こしますので、注意が必要です。

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 警察庁は、自宅で亡くなる1人暮らしの高齢者が今年は推計でおよそ6万8000人に上る可能性があることを明らかにしました。  1人暮らしの高齢者が増加する中、政府は、みとられることなく病気などで死亡する「孤独死」や「孤立死」も増えることが懸念されるとしています。  13日の衆議院...