染色体の異常によって発症する生まれつきの疾患
1p36(いちぴーさんろく)欠失症候群とは、染色体の異常によって発症し、生まれた時から持っている疾患。
その名前の通り、1番染色体短腕の末端の36領域に微細な欠失がみられます。ほとんどの発症者は、顔貌(がんぼう)に特徴があり、運動や言葉の発達に遅れが生じます。
1p36欠失症候群の発症者は、日本では2万5000人から4万人に1人の頻度で年間10人から20人程度出生し、現在は約100人いると推測されています。
しかし、一般医師における認知度が低く、未診断のまま原因不明の重度精神発達遅滞児として重度心身障害児施設に入所している例が多いと考えられ、正確な有病率はわかっていません。男女の割合は、3対7で女性のほうが多いとされます。
染色体の異常は、生殖細胞の減数分裂過程で精子あるいは卵子ができる時に起こると考えられています。ほとんどの場合は、突然変異により生じます。
ただし、ほかの染色体との不均衡転座によって生じる欠失が認められる場合は、約半数の発症者で両親のうちの一方に由来する均衡転座から生じています。
1p36欠失症候群の発症者の主な症状は、突出した下顎(かがく)や落ちくぼんだ目などの特徴的な顔貌、運動や言葉の発達の遅れ、てんかん発作。特に特徴的な顔貌と発達の遅れは、ほぼ100%の割合でみられます。
これらの症状のほか、生まれつき心臓の構造に問題がみられる先天性心疾患、生まれつき口蓋(こうがい)に割れがみられる口蓋裂、口唇裂などの口腔(こうくう)外科疾患、難聴などの耳鼻科疾患、肥満などを合併することがあります。
染色体の欠失の大きさや、合併症の程度にも影響され、経過はさまざまで、発音がうまくできない構音障害を示しながらも会話が可能になる場合もあれば、自力歩行ができない場合もあります。
自力歩行ができ、日常生活も比較的自立している発症者の場合、過食から肥満になることがあります。
1p36欠失症候群の検査と診断と治療
小児科の医師による出生後の診断では、特徴的な外見や症状から可能性が疑われ、染色体検査で確定します。
ただし、染色体の欠失の大きさが微細であることから、Gーband(ジーバンド)法などの通常の染色体検査では検出が困難で、染色体の一部に蛍光物質で目印をつけて蛍光顕微鏡で観察するFISH(フィッシュ)法により確定診断が可能です。近年では、正確な欠失範囲を同定するために、網羅的に解析することができるアレイCGH法などの染色体検査が用いられるようになってきています。
小児科の医師などによる治療では、根本的な治療法がないため、さまざまな症状に対する対症療法を行います。てんかん発作に対しては薬物療法、先天性心疾患に対しては手術療法が中心となります。症状が安定している場合は、口蓋裂などの手術に踏み切ることもあります。
それに加えて、コミュニケーションの訓練や、咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)の問題による摂食障害がある場合は口から食べる行為の訓練など、専門的な訓練を行うことも重要です。
てんかん発作の予後にはばらつきがあり、症状の緩和が得られる場合もあれば、生涯にわたって持続する場合もあります。てんかん発作の予後は、運動や言葉の発達の予後と関係します。先天性心疾患を合併している場合には、その治療の成否が生命予後に影響します。
0 件のコメント:
コメントを投稿