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2022/08/23

🇭🇰精神疾患

脳および心の障害で起こる疾患

精神疾患とは、脳および心の機能的、器質的な障害によって、精神の変調が引き起こされる疾患。統合失調症や躁(そう)うつ病といった重度のものから、不安障害(神経症)、パニック障害、適応障害といった中、軽度のものまでの多くの疾患を含みます。

精神の変調が髄膜炎、内分泌疾患などの身体疾患によって引き起こされる場合も含み、広義の精神疾患として知的障害や人格障害をも含みます。

精神疾患には多くの種類があり、精神医学の領域では、精神疾患の定義、診断基準が統一されていません。そのために、同じ病状に対して付けられる病名が、精神疾患の分類法によって変わってくることがあります。

世界保健機構 (WHO) による国際疾患分類(ICD-10)や、アメリカ精神医学会による統計的診断マニュアル (DSM-IV)においては、診断カテゴリーを用いて網羅的に分類しています。これにより、個々の精神疾患の診断が世界全体で以前よりも標準化され、一貫性を持つようになりつつあります。

以下の精神疾患の分類は、世界保健機構による国際疾患分類に基づきます。

●症状性を含む器質性精神障害

認知症疾患、コルサコフ症候群、頭部外傷後遺症などによる精神疾患

 ●精神作用物質使用による精神および行動の障害

アルコール、アヘン、大麻、鎮静薬または催眠薬、コカイン、覚醒(かくせい)剤・カフェイン、幻覚薬、タバコ、揮発性溶剤などの精神作用物質に関連した精神疾患。依存症、乱用、中毒などに分けられる。アルコール依存症、薬物依存症など

 ●統合失調症・統合失調型障害および妄想性障害

統合失調症、統合失調症型障害、持続性妄想性障害、急性一過性精神病性障害、感応性妄想性障害、統合失調感情障害

●気分(感情)障害

躁病、双極性障害(躁うつ病ともいう)、うつ病

●神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害

不安障害、恐怖症、単一恐怖広場恐怖社会恐怖、パニック障害全般性不安障害、強迫性障害、重症ストレス障害、急性ストレス障害PTSD(心的外傷後ストレス障害)適応障害、 解離性障害、解離性同一性障害(いわゆる多重人格)、身体表現性障害、転換性障害心気症、疼痛(とうつう)性障害、身体醜形障害

●生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群

摂食障害、神経性無食欲症(拒食症)、神経性大食症(過食症)、 睡眠障害、不眠症、精神生理性不眠症概日リズム睡眠障害、入眠困難中間覚醒早朝覚醒過眠症、睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー、原発性過眠症反復性過眠症特発性過眠症睡眠時随伴症レム睡眠行動障害、睡眠時遊行症、夜驚症

●成人の人格および行動の障害

妄想性人格障害、統合失調質人格障害、分裂病型人格障害、境界性人格障害(境界例)、自己愛性人格障害、演技性人格障害、反社会性人格障害、強迫性人格障害、回避性人格障害、依存性人格障害、性同一性障害、性嗜好(しこう)障害、フェティシズム、露出症、窃視症、小児性愛、サディズム・マゾヒズム、虚偽性障害、ミュンヒハウゼン症候群

●精神遅滞

精神遅滞

●心理的発達の障害

広汎(こうはん)性発達障害、自閉症、アスペルガー症候群

●小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害

多動性障害、チック障害、トゥレット障害

●その他

幻覚、妄想、文化依存症候群、神経質、対人恐怖症

精神疾患の診断と治療

精神疾患の治療を担当するのは、主に精神科、神経科です。発症者の症状や状況によっては、心療内科や内科など他の科で診察、治療が行われている場合もあります。

精神疾患の治療とケアを行うための訓練を受けた専門家は、精神科医だけではありません。医師以外の専門家として、臨床心理士、ソーシャルワーカー、看護師などがいます。ただし、このうち薬を処方する資格を持っているのは精神科医だけです。医師以外の精神医療の専門家は、主に心理療法を行います。

医師による診断においては、精神疾患を判別するための研究が進み、以前よりはるかに正確にできるようになっています。診断方法も進歩し、CT(コンピューター断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、ポジトロンCT(PET)検査(脳の特定領域への血流を測定する画像診断法の1種)といった脳の画像診断が行われています。

医師による治療法は精神疾患の種類や重症度により異なりますが、大きく分けると、身体療法か心理療法(精神療法)のいずれかです。身体療法には、薬物療法と電気けいれん療法があり、脳に直接働き掛けます。

心理療法には、個人療法、作業療法、グループ療法、家族療法、夫婦療法といったもののほか、行動療法におけるリラクセーション訓練や暴露療法などの各種技法、催眠療法などがあり、言語や行動を介して治療します。

重い精神疾患に対しては、薬物療法と心理療法を併用することが治療効果を高めると見なされています。ストレスの緩和は精神疾患の症状の緩和につながることから、音楽療法、運動療法、ユーモア療法などが活用されることもあります。

精神疾患を予防したり、症状が軽減、消失した後の再発防止のために、社会適応能力を習得したり、趣味やスポーツなどでストレスを適切に管理することも、重要視されています。

また、家族など周囲の人間が理解を示すことも必要です。精神疾患に偏見や差別的な見方を持っている人もいるため、それが発症者のストレスとなり、引きこもりがちに、内向的になることもあるためです。

🇭🇰精神社会性低身長症

愛情を感じられないストレスから、子供の睡眠時に成長ホルモンが十分に分泌されず、低身長を生じる状態

精神社会性低身長症とは、母子関係や家族関係の問題によって、子供が十分な愛情を感じられないまま育った結果、成長ホルモンの分泌が低下して身長が伸びない状態。精神社会的小人症、心理社会性低身長症、愛情遮断性低身長とも呼ばれます。

低身長は、さまざまな原因で身長が伸びない状態のことで、年齢別平均身長より20%、あるいは標準偏差(SD)より2SD以上低い場合を目安としており、同性・同年齢の100人に2~3人が低身長という定義に当てはまります。

精神社会性低身長症は、乳幼児から6歳児程度の子供に多くみられます。母親など養育者からの愛情を感じられない極度のストレスや不安から、子供は心から安らいでグッスリ眠ることができず、成長するために必要な成長ホルモンが睡眠時に脳下垂体から十分に分泌されなくなる結果、身体的な成長に遅れが生じ、年齢別平均身長を著しく下回ると考えられています。

子供は愛情ばかりでなく、十分な栄養を与えられていないこともあり、栄養不足も年齢に見合った身長の伸びを止めてしまう原因の1つになります。身体的な成長の遅れだけでなく、情緒の発達、言語や知的能力の発達の遅れを生じたり、行動異常を示すこともあります。

入院、死亡、離婚などによる母親不在の環境が原因となったり、母親など養育者が深い悩みを抱えていたり、うつ状態であったり、薬物依存や知的障害、精神的な病気を持っていたりして、適切な子育てができないことが原因となったりします。

母親など養育者自身が子供時代に十分な愛情を受けて育っていない場合に、世代を超えて子育てに影響する世代間伝達、愛情不足の連鎖もあります。夫婦仲が悪く、家庭環境の雰囲気が悪いことが原因になることもあります。

栄養障害によって現れる症状として、身長が低い、体重の増えが悪い、腕や脚が細い、やせている、肋骨(ろっこつ)が目立つ、お尻がへこんでいるなどがあります。不適切な養育の結果として観察される症状としては、おむつかぶれがひどい、皮膚が汚い、汚い服を着ているなどがあります。子供の心理的な変化や行動異常によって現れる症状としては、目を合わせない、表情が乏しい、感情表現が乏しい、動作が緩慢、抱きついたり寄り添ったりしない、親に抱かれるのを嫌がる、異様な食欲増進、尿や便をもらす、寝付きが悪い、かんしゃくを起こすなどがあります。

愛情不足の養育や、より重大な問題がある虐待やネグレクト(育児放棄)が生後1年以内に始まり、3年以上続く時は、情緒や知能の障害が永久に回復しないといわれています。

養育者が子供の精神社会性低身長症に気付いたら、母子手帳の成長曲線をつけてみたり、子供らしい豊かな表情をしているかどうか、気を配りましょう。心配なことがあれば、小児科医や保健師に相談しましょう。

精神社会性低身長症の検査と診断と治療

小児科の医師による診断では、過去から現在までの身長、体重、頭囲の計測値から成長曲線をつくり、子供の成長を評価します。食事の内容から、栄養学的な分析をします。また、養育環境についての情報を集めます。

小児科の医師による治療では、食事の内容について養育者に栄養指導を行い、子供の年齢に見合った十分な食事を与えるようにします。

また、子供と養育者にとって、ストレスの少ない環境になるように調整をします。母親など養育者に対する心理カウンセリングが必要な場合もあります。養育者は子供に対してストレスを与えていないつもりでも、気付いていない家庭の習慣が子供のストレスになっている場合もあります。

子供にとってストレスの少ない環境で、年齢に見合った十分な栄養を与えると体重が増加し、成長ホルモンの反応も回復して身長の伸びが促進されなど、成長の遅れは取り戻されます。

しかし、虐待やネグレクト(育児放棄)など養育者の子育てに重大な問題がある場合、ケースによっては養育者と子供を遠ざけることも必要です。入院で治療を受けさせたり、乳児院など保護観察施設で養育したりすることで遅れていた成長が改善されることもあります。

母親が不在の場合、あるいは母親がいても子供に愛情を十分に与えることができない場合には、母親に代わって父親や親に代わる養育者が十分な愛情を注ぐことで防ぐことは可能です。

🇭🇰精神遅滞(精神薄弱)

全般的な知能が低く、環境への適応に障害

精神遅滞とは、知的機能が全般的に平均よりも低く、同時に環境への適応機能の障害が認められる発達障害の一つ。法令上は18歳までに、多くは一般的に生まれた時点、あるいは早期の乳幼児期に障害が生じ、日常生活において、何らかの援助や介助が必要となります。

以前は精神薄弱と呼ばれていましたが、この用語は最近ではほとんど用いられず、1994年頃から精神遅滞と呼ばれるようになりました。日本では2000年から、法律用語、行政用語としては知的障害が用いられています。知的機能が遅れていることで、精神遅滞は自閉症や学習障害と混同されることがあります。

多くは原因不明です。原因として想定されているものは、以下に示すようにさまざまです。髄膜炎や脳炎などの感染症、頭部外傷、フェニールケトン尿症などの代謝異常症、ダウン症などの染色体異常、子宮内胎児発育遅延や母体のアルコール摂取といった出生前要因などが挙げられ、脳の機能の成熟障害が存在すると見なされています。

心理的、環境的な原因で発達が遅れている場合には、精神遅滞とはいいません。

症状の現れ方については、重度の精神遅滞の子供は一般に、首の座りが遅い、座ることができないなど、運動の発達が遅いことで乳児期に気付きます。染色体異常による場合は、身体奇形を伴うことが多く、出産直後に判明するものも少なくありません。

身体発達に異常がない、軽度から中等度の精神遅滞の場合には、乳幼児の発達課題を乗り越えることができず、少しずつ明らかになってくることが多くみられます。初めの数年間は正常な発達をしているようにみえますが、バイバイをしないことや言葉が出ないことなど、言語の発達の遅れ、遊びの不得手、体の動きの不器用さなどから判明してきます。

全般的な知能が低いために、日常生活や社会生活への適応に障害が生じ、食事、衣服の着脱、トイレでの排便、排尿といった身の回りのことが一人でうまくできない、同じ年齢の子供と遊ばない、といった症状がみられます。小学校に入って、集団生活に適応できないために問題行動が目立ち、初めて精神遅滞に気付くこともあります。

成年期では、一般的な職場への就労はハードルが高いものの、本人の能力に合っている環境であれば問題はありません。一般的な職場での就労が困難な場合は、障害者の保護者やボランティアなどが開設する通所施設で活動するケースが多くみられます。

精神遅滞の検査と診断と治療

兄弟姉妹と比べて、あるいは近所の子供と比べて、自分の子供は発達が遅いのではないかという心配があれば、成長障害や身体的な病気の有無も含めて、小児科医、児童精神科医、小児神経専門医を始めとした医師の診察を受ける必要があります。

医師による診断では、面接や診察、質問用紙、知的水準を測る知能検査、ないし幼児では発達検査などを行って、症状を調べます。これらの検査は、発達の遅れている点を明らかにするだけでなく、子供の優れた能力を見いだすことにもなります。

専門医であっても、一度の診察や検査で長期的な発達の予測をすることは困難です。時間を空けて診察し、発達の経過も併せて判断することが必要です。

しかしながら、フェニールケトン尿症や被虐待児など、ごく一部の場合を除けば、精神遅滞に対する医学的治療はありません。元来が知的機能の遅れであり、その基礎は大脳皮質に存在する神経細胞の働きの弱さにあるため、薬物によって治したり、知能段階を高めることは不可能とされています。

合併する身体の病気が予想される場合には、必要な検査を定期的に行うことがあります。例えば、てんかんの合併が考えられる場合には、脳波検査を行います。もちろん、合併症の症状を改善させる治療も行います。

精神遅滞に対する医学的治療はないため、治療の目標は一人ひとりの子供に応じた教育と訓練に置かれます。つまり、現在の知能に沿った生活能力を訓練して、その知能段階で生きていける能力を開発することが、目標となります。身体機能訓練、言語訓練、作業療法、心理カウンセリングなどを開始し、現実的で達成可能な目標を定め、教育と訓練を行うことにより、子供の持つ発達の可能性を最大限に発揮させることができます。

心理的な問題、自傷行為などの行動の問題に対しては、カウンセリングや環境の調整を行います。十分に行き届いた指導やサポートのためには、個別や少人数集団における特別な教育環境が必要になります。

長期的には、身の回りのことが一人でできるようになること、将来の職業につながるような技能を身に着け、社会に適応していくことが目標となります。

精神遅滞の子供の抱える問題点は、年齢や発達段階によって変化します。周囲の人にとって大切なことは、年齢や発達の段階によって直面するハンディキャップを理解し、子供の能力に見合った教育手段を選ぶことです。小児科医などの医師、発達相談、地域の発達支援プログラムなどを利用して、情報を得るとよいでしょう。

ある程度の障害のある子供には、療育手帳を交付してもらい、特別児童扶養手当の受給手続きを取ることも大切です。公的援助の内容と手続きについては、児童相談所に相談してください。

🇮🇲成人スティル病

子供のスティル病と同様の症状が成人に起こる疾患

成人スティル病とは、子供の若年性関節リウマチのうち、高熱が出るタイプのスティル病と似ている症状が、大人に起こる疾患。成人スチル病ともいわれます。

スティル病は長い間、子供ににしかかからない疾患と考えられていましたが、1971年にイギリスのバイウォータースが、16歳以上になって発病するケースがあることを報告しました。以降、同様のケースが世界中で報告され、現在では大人になってから発病したスティル病(成人発症スティル病)と、子供の時に発病し、その後大人の年齢になって再発した場合(小児発症スティル病の再発)を併せて、成人スティル病と総称しています。

20~40歳代の比較的若い成人に多いと見なされますが、まれに高齢者にもみられます。日本における男女比は、約1:2です。成人スティル病が発病する決定的な原因は、不明です。ウィルスなどの病原微生物による感染が引き金となり、それに免疫異常が絡んで発症するのではないかと考えられています。また、近年、発病者ではインターロイキン6あるいは18などサイトカイン(炎症を引き起こす液性因子)が著しく高くなっていることが知られ、遺伝子レベルでも研究が進んでいます。

一日のうちに、高熱が上がったり下がったりする発熱が、症状として特徴的です。一般には、夕方から夜間に発熱がみられ、 昼間は平熱であることが多いようです。そして、発熱時に薄いピンク色の発疹(はっしん)が前胸部や腕に現れますが、これは一過性のもので、かゆみなどの症状に乏しいため気付かれにくい傾向があります。

手やひざの関節の痛みとはれ、リンパ節のはれ、のどの痛み、肝臓や脾(ひ)臓のはれも伴います。

成人スティル病の検査と診断と治療

急性期の検査では、白血球増加や炎症所見、肝機能障害などを認めます。また、血液中にフェリチンという、組織中で鉄を貯蔵する役割を持つ蛋白(たんぱく)が増加することも。特徴です。なお、関節リウマチや他の膠原(こうげん)病で陽性になることが多いリウマトイド因子や、抗核抗体などの自己抗体(自己の組織成分に対する抗体)は、この成人スティル病では通常、陰性です。

治療の中心は抗炎症療法で、非ステロイド性消炎鎮痛剤が用いられます。十分に解熱しない場合、肝障害がある場合、薬剤アレルギーがみられる場合は、中等量の副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)が用いられ、多くのケースでは症状の改善がみられます。副腎皮質ホルモンが十分効かなかった場合は、免疫抑制剤を併用し、関節炎が持続する場合には、リウマチの際に使われる抗リウマチ剤が併用されることもあります。

再発は比較的多くみられますが、全身症状の経過は一般に良好です。副腎皮質ホルモンによる治療が開始されたら、自己調節することなく、根気よく治療を続けることです。副腎皮質ホルモンを中止できない場合には、骨粗鬆(こつそしょう)症など副作用にも注意するべきです。

🇮🇲成人T細胞白血病(ATL)

ウイルスに感染して発症する白血病

成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia:ATL)とは、レトロウイルス、腫瘍(しゅよう)ウイルスであるヒトTリンパ球向性ウイルス1型(Human T Lymphotropic Virus type 1:HTLVー1)の感染により発症する腫瘍性疾患。

悪性リンパ腫の一種ですが、大部分が白血病化するために、成人T細胞白血病と呼ばれたり、成人T細胞白血病リンパ腫(Adult T-cell Leukemia Lymphoma:ATLL)と呼ばれたりします。1976年に、京都大学の高月医師、内山医師らによって初めて報告、命名された疾患です。

この成人T細胞白血病(ATL)の発症は、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLVー1)を体の中に持っているキャリアの分布と一致することが知られています。キャリアは、日本では120万人、世界では1000~2000万人いると推定されています。

日本では、従来から九州、沖縄など西南日本に多くみられますが、近年は関東、中部、近畿で増え、全国的にキャリアと発症者が存在しています。世界的には、カリブ海沿岸諸国、南アメリカ、アフリカ、南インド、イラン内陸部などにキャリアと発症者の集積が確認されています。それらの地域からの移民を介して、ヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国などでも、キャリアと発症者の存在が報告されています。

ヒトTリンパ球向性ウイルス1型の感染経路としては、母乳を介する母子間垂直感染と、輸血、性交渉による水平感染が知られていて、出産時や母胎内での感染もあります。輸血では、感染リンパ球を含んだ輸血により感染し、血漿(けっしょう)成分輸血、血液製剤では感染しません。なお、日本では現在、献血に際して抗体スクリーニングが行われており、輸血後の発症はなくなりました。性交渉による感染に対しても、成人T細胞白血病を発症することは極めてまれであるため、今のところ特別な対策は立てられていません。

ほとんどが母乳感染により、乳幼児の感染者が40~60年の潜伏期を経て、成人T細胞白血病を発症します。日本で発症するのはヒトTリンパ球向性ウイルス1型のキャリア1万人について年間6〜7人あまり、発症の割合は3〜5パーセントほど。40歳以上の人がほとんどで、60~70歳に最も多く発症します。

リンパ球はリンパ系組織、血液、骨髄の中にあり、細菌やウイルスなどの感染と戦っていますが、機能の違いからT細胞、B細胞、ナチュラルキラ-細胞(NK細胞)に分けられます。成人T細胞白血病では、T細胞が悪性化して、リンパ節や血液の中で異常に増加し、骨髄や肝臓、脾臓、消化管、肺など全身の臓器に広がっていきます。末梢(まっしょう)血液中に出現する場合、特徴的な花びらのような形状をした核を有し、花細胞と呼ばれています。

症状としては、首、わきの下、足の付け根など全身のリンパ節がはれたり、肝臓や脾臓の腫大、皮膚紅斑(こうはん)や皮下腫瘤(しゅりゅう)などの皮膚病変、下痢や腹痛などの消化器症状がしばしばみられます。病勢の悪化によって、血液中のカルシウム値が上昇して高カルシウム血症になると、全身倦怠(けんたい)感、便秘、意識障害などを起こします。

>悪性化したリンパ球が骨髄に広がった場合には、正常な赤血球や血小板が作られなくなります。このために動悸(どうき)、息切れなどの貧血の症状や、鼻血、歯肉出血などの出血症状がみられることがありますが、他の白血病と違ってあまり多くありません。悪性化したリンパ球が中枢神経と呼ばれる脊髄(せきずい)や脳に広がると、頭痛や吐き気が認められることもあります。

また、免疫担当細胞として重要なT細胞ががん化して、強い免疫不全を示すため、感染症にかかりやすくなり、真菌、原虫、寄生虫、ウイルスなどによる日和見感染症を高頻度に合併します。

成人T細胞白血病の検査と診断と治療

成人T細胞白血病は、ウイルス感染症、カビによる感染症、カリニ原虫による肺炎、糞線虫(ふんせんちゅう)症といった寄生虫感染症など、健康な人にはほとんどみられない日和見感染症が起こりやすいことで知られています。疲れやすい、熱が続く、リンパ節がはれる、皮疹(ひしん)が塗り薬でよくならないなどの症状が続く場合は、血液内科の専門医のいる病院を受診して検査を受けるようにします。

血液の悪性腫瘍が疑われた場合、まず血液細胞の数や内容を調べる血液検査が行われます。成人T細胞白血病では、花びらのような形をした核を持つ異常なリンパ球の出現が特徴的です。また、血液検査では、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型に感染して抗体があるかどうかも調べます。リンパ節がはれている場合には、リンパ節生検が行われ、局所麻酔による小切開でリンパ節を取り出し、顕微鏡で悪性細胞の有無を調べます。最終的に成人T細胞白血病の診断を確定するためには、血液やリンパ節の悪性細胞の中に入り込んだウイルス遺伝子の検査が行われる場合もあります。

成人T細胞白血病と診断された後、疾患の広がりを調べるために全身の検査が行われます。目に見えない腹部や骨盤部のリンパ節がはれてないか、肝臓や脾臓に広がっていないかを調べるために、腹部CTや腹部超音波検査が行われます。胃や十二指腸に広がっていないかどうかを調べるためには、胃内視鏡検査やX線検査が必要です。肺に広がっていないかどうかを調べるためには、胸部X線検査や胸部CTが行われます。

骨髄に広がっていないかどうか調べるためには、骨髄穿刺(さくし)も行われます。骨髄穿刺は、局所麻酔後、胸骨または腰の骨に細い針を刺して骨髄液を吸引し、顕微鏡で観察します。その他、中枢神経である脳や脊髄への広がりを調べるために、局所麻酔後に腰の部分の背骨の間から針を刺して少量の脳脊髄液を採取する場合もあります。

成人T細胞白血病は多彩な症状、臨床経過をとることで知られていますが、一般には急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型、急性転化型の5つの病型に分類されています。

急性型は、血液中に花びらの形をした核を持つ異常リンパ球が出現し、急速に増えていくものです。リンパ節のはれや、皮疹、肝臓や脾臓の腫大を伴うことも多くみられ、消化管や肺に異常なリンパ球が広がる場合もあります。感染症や血液中のカルシウム値の上昇がみられることもあり、抗がん剤による早急な治療を必要とします。

リンパ腫型は、悪性化したリンパ球が主にリンパ節で増殖し、血液中に異常細胞が認められない型です。急性型と同様に急速に症状が出現するために、早急に抗がん剤による治療を開始する必要があります。

慢性型は、血液中の白血球数が増加し、多数の異常リンパ球が出現しますが、その増殖は速くなく、症状をほとんど伴いません。無治療で経過を観察することが、一般的に行われています。

くすぶり型は、白血球数は正常でありながら、血液中に異常リンパ球が存在する型で、皮疹を伴うことがあります。多くの場合、無治療で長期間変わらず経過することが多いため、数カ月に1回程度の外来受診で経過観察が行われます。

急性転化型は、慢性型やくすぶり型から、急性型やリンパ腫型へ病状が進む場合をいいます。この場合には、急性型やリンパ腫型と同様に、早急に治療を開始する必要があります。

成人T細胞白血病の治療として一般に行われているのは、抗がん剤を用いた化学療法です。抗がん剤は静脈注射や飲み薬などいろいろな種類があり、血管の流れによって全身に運ばれて悪性化したリンパ球を殺すため、全身療法といわれています。また、髄腔内注射といって、腰の正中部より細い針で抗がん剤を髄液内に入れます。

成人T細胞白血病に対する抗がん剤は、通常、非ホジキンリンパ腫に有効な抗がん剤が用いられます。これらの抗がん剤の併用療法によって、30~70パーセントの場合で悪性細胞がかなり減少して、検査値異常が改善した状態が得られますが、最終的な治癒が期待できるのは残念ながらごく一部にとどまっています。

成人T細胞白血病の細胞には、抗がん剤が最初から効きにくかったり、途中から効きにくくなったりする性質があり、化学療法にしばしば抵抗性を示すからです。また、見掛け上症状がよくなったとしても、再発率は非常に高いことが知られています。

このように治療が難しい疾患ですが、よりよい治療法を開発するために臨床試験が行われています。研究段階の治療法の中で、現在最も期待されているのは同種造血幹細胞移植。化学療法により疾患がある程度コントロールされている、感染症を合併していない、全身状態がよい、50歳以下である、白血球の型が合っているドナーがいるなどの条件を満たす場合は、検討する価値のある治療法です。

また、ミニ移植といって、造血幹細胞移植の前の処置を軽くすることにより、50歳以上の高齢者にも適用可能な同種造血幹細胞移植法も検討されています。

🇨🇳成人夜尿症

睡眠時に無意識のうちに排尿する夜尿症を成人まで持続している状態

成人夜尿症とは、睡眠時に無意識のうちに排尿してしまう夜尿症を成人まで持続している状態。成人になってから初めて、夜尿症を出現した状態も含みます。

小児の夜尿症は5歳では約20パーセント弱の頻度でみられますが、10歳では約5パーセントまで減少し、成人まで持続する人は1パーセンと程度と考えられています。

乳児のころからずっと続いている夜尿症は、神経系の発達が未熟であることにより、膀胱(ぼうこう)が尿でいっぱいになっても目が覚めないことが原因の場合や、膀胱が尿でいっぱいになる前に勝手に縮んでしまう過活動膀胱が原因の場合があります。また、尿を濃縮し、尿量を減らすホルモンである抗利尿ホルモンは通常、昼間よりも夜間に多く分泌されますが、夜尿症児では夜間の抗利尿ホルモンの分泌の増加が不十分であることが認められています。

夜尿症には3タイプあり、多量の尿を漏らしてしまう多量遺尿型、少しだけ尿を漏らす排尿機能未熟型、そして、両者の混合型があります。成人の夜尿症では排尿機能未熟型が多くみられ、過活動膀胱が代表的な原因で、膀胱炎や前立腺(ぜんりつせん)肥大症などの病気、冷え性、常習性便秘によっても起こります。多量遺尿型は、抗利尿ホルモンの分泌不足、水分の取りすぎ、生活リズムの乱れ、精神的な問題が原因で起こります。

また、乳児のころからずっと夜尿症が続いている場合を一次性夜尿症、少なくとも半年間は夜尿症がなかった時期があり、再度出現した場合を二次性夜尿症と分類します。大人になってから初めて夜尿症が出現した場合も、二次性夜尿症に分類されます。

小児の場合では、二次性夜尿症は下の子供の誕生など精神的なものが原因となっていることがあります。しかし、成人の場合にはそのようなことは考えにくく、何らかの隠れた病気の存在を疑う必要があります。

成人夜尿症の原因の一つは、睡眠障害です。アルコールや睡眠薬が、その睡眠障害の原因になっていることもあります。睡眠障害のうちでも頻度の高い睡眠時無呼吸症候群では、夜間の尿量が増えるため、夜中に何回もトイレに起きるようになり、夜尿症の原因となることもあります。また、睡眠時遊行症、いわゆる夢遊病も、夜尿症を合併することが多いと考えられています。

尿を蓄えたり排出したりする働きを持つ膀胱は、手や足と同じように神経によって動きが調節されています。従って、神経の病気が夜尿症の原因となることがあります。脳血管障害や脳腫瘍(しゅよう)、免疫異常により神経系が障害される多発性硬化症などの重大な神経の病気が、夜尿症によって判明する場合もあります。

ただし、これら神経の病気では、昼間にも頻尿や尿失禁、排尿困難感などの症状を伴うことが多いようです。ほかにも、糖尿病や尿崩症のように極端に尿の量が増えるような病気でも、夜尿症が引き起こされることがあります。

このように、とりわけ成人になってから始まる夜尿症では、多様な原因を考える必要があり、重大な病気が隠れている場合もあるので、夜尿症が継続するようでしたら、一度泌尿器科の専門医を受診することが勧められます。

成人夜尿症の検査と診断と治療

成人夜尿症の原因は多種多様で、その原因に応じて治療法や治療薬などの対処法も異なります。膀胱炎や前立腺肥大症、睡眠障害、脳血管障害、脳腫瘍、多発性硬化症、糖尿病、尿崩症などの基礎疾患がある場合には、その治療を優先的に行います。

基礎疾患がないことが認められた場合は、泌尿器科の医師はまず、睡眠時におむつをして夜尿の量を測定する検査を行い、夜尿症のタイプを判別します。その後、診断結果を基にタイプ別の原因を調べて、その原因に応じた治療薬の投与が行います。

抗利尿ホルモンの量が少ないために夜尿の量が多くなる多量遺尿型の夜尿症では、イミプラミン(トフラニール)、クロミプラミン(アナフラニール)、アミトリプチン(トリプタノール)三環系抗うつ剤が使用されます。この治療薬が使用される目的は、精神の安定、膀胱括約筋の緊張を促すなどです。

膀胱に尿を多くためることができない排尿機能未熟型の夜尿症では、パップフォー、ポラキスなどの尿失禁治療薬が使用されます。成人がこれらの治療薬を用いた場合、副作用として、のどが渇く、目が乾く、排尿困難などが起こる可能性があります。 排尿機能未熟型のタイプの場合、尿意を感じた時にすぐにトイレにゆくのではなく、なるべく我慢する排尿抑制訓練も必要です。また、1日3回、肛門(こうもん)を締める運動を一緒に行うと効果的です。

尿が少し漏れるとアラームが鳴る装置を用い、排尿抑制を繰り返す夜尿アラーム療法という治療法も有効です。睡眠中の膀胱容量が増えてきますので、排尿の時間帯が遅くなってゆき、最終的には朝起きるまで排尿せずにすむようになります。

いずれのタイプの夜尿症も、基本になるのは日常生活でのケアです。例えば、夕食後は水分をあまり取らないようにし、就寝前には一切飲まないようにします。夜尿症は温度が低いことで悪化しやすいので、夏場にクーラーをつけすぎないようにします。冬は就寝前に入浴するようにし、できるだけ体を温めた状態で床に就くようにし、寝具は前もって温めておきます。また、抗利尿ホルモンという尿量を減らすホルモンは睡眠中に起こされると減ってしまうので、睡眠中には起こされないようにします。

🇮🇲性腺機能低下症

類宦官症など、性腺からのホルモンの分泌不足によって起こる疾患

性腺(せいせん)機能低下症とは、性腺からのホルモンの分泌不足によって起こる疾患。

性腺は男性では精巣、女性では卵巣に相当し、その性腺の機能が、先天的に、あるいは炎症、腫瘍(しゅよう)、外傷などで後天的に障害されて、ホルモンの分泌が低下して起こります。

類宦官(るいかんがん)症、ターナー症候群は、先天性のものです。そのほか、脳下垂体からの性腺刺激ホルモンの分泌不足のために、性腺ホルモンが不足して起こるケースもあります。

類宦官症は、生まれ付き男性ホルモンが不足しているために、男性性器の発育が十分でない疾患を指します。性腺に相当する精巣の機能が先天的に障害されて、ホルモンの分泌不足が起こるほかに、脳下垂体からの性腺刺激ホルモンの分泌不足のために、性腺ホルモンが不足して起こるケースもあります。

思春期前に精巣機能、睾丸(こうがん)機能が低下すると、思春期になっても男性ホルモンの分泌が増えないため、精巣は4、5歳の小児のようで、陰毛もなく、体全体に皮下脂肪の沈着がみられます。声変わりもみられません。手足は長く、身長も高くなります。

この体形、外観が、古代中国で官僚の世襲を防ぐために去勢された若い宦官に似ていることに、疾患名は由来しています。

類宦官症のうち、染色体異常を伴うものはクラインフェルター症候群といい、正常男子の性染色体XYよりXが一個以上多い染色体を持っています。

内分泌専門医にかかり、男性ホルモンや性腺刺激ホルモンで治療します。

ターナー症候群は低身長を特徴とし、女性だけに起こる先天的な疾患

一方、ターナー症候群は、染色体異常のうちの性染色体異常の代表的な疾患で、女性にだけ起こる先天的な疾患。その最も大きな特徴は、背が低いことです。

ほかにも、首の回りの皮膚がたるんでいるためにひだができる翼状頸(よくじょうけい)、ひじから先の腕が外向きになる外反肘(がいはんちゅう)、乳房が大きくならない、初潮が来ないといった二次性徴欠如などの特徴があります。

ただ、症状にも個人差は大きく、例えば二次性徴に関して、中学生になっても性の発達がみられない女性が多い一方、ほぼ正常に二次性徴が現れるターナー症候群の女性もいます。中学生くらいまでは、低身長以外、あまり気になる症状がない女性も多くいます。また、合併症として、後天的に治療を要する症状が出てくる場合もあります。中耳炎、難聴、骨粗鬆(こつそしょう)症、糖尿病などがその例で、思春期年齢以降に起こることがあります。

ターナー症候群という疾患名は1938年、これを初めてきちんとまとめたアメリカの内科医ヘンリー・ターナーの名前に由来します。それから約20年後の1959年、染色体の検査が開発され、以後、ターナー症候群は染色体検査できちんと診断でき、幅広く見付けられるようになりました。しかし、この疾患は染色体異常が原因のため、今のところ疾患そのものを治す方法はありませんが、成長ホルモン治療で身長は改善し、二次性徴も女性ホルモン剤の使用で治療が可能です。

染色体は、体を作るすべての細胞の内部にあり、2つに分かれる細胞分裂の一定の時期のみ、色素で染めると棒状の形で確認できます。染色体には22対の常染色体と2対の性染色体とがあります。父親から22本の常染色体と1本の性染色体、母親から同じく22本の常染色体と1本の性染色体を受け継いで全部で46対の染色体を持つことになります。性染色体にはXとYという2つの種類があり、Xを2本持つ場合は女性に、XとYを1本ずつ持つ場合は男性になります。染色体は女性だと46XX、男性だと46XYということになります。

ターナー症候群の女性の場合の典型的な例は、45Xであり、Xが1つしかないものです。また、X染色体が2本あるのに先が欠けていたり、時には小さなY染色体の一部を持っていたり、46XXと45Xとが混ざり合っているモザイクを持つなど要因はさまざまです。

ターナー症候群の発生頻度は、1000~2000人に1人と推定されています。先天的な疾患の中では、かなり多いほうといえるでしょう。しかも、この染色体構造を持っていると圧倒的に流産の確率が上がりますので、受精卵の段階での発生数はかなりであろうと考えられます。

ターナー症候群の検査と診断と治療

早期発見が重要です。ターナー症候群という体質を正しく理解する時間的余裕が、本人と家族に得られます。背が低いのを少しでも高くしてほしいという女性に対して、よりよい治療成績も得られます。ターナー症候群における低身長症は成長速度が遅いわけですので、発見が遅れれば遅れるほど標準的な身長との差は開いて、せっかく治療しても取り戻すことが難しくなってきます。

また、低身長症の裏に重大な疾患が隠されていた場合、それを早い段階で見付けて、早く治療することが大切です。成長を促すホルモンを出す脳や甲状腺、あるいは栄養を体に活かす役割を担う心臓、腎(じん)臓、肝臓、消化器官そのものに異常がある場合は、一刻も早くその元凶を治していかなければなりません。

ターナー症候群の日本人女性は成長ホルモン治療を受けなかった場合、最終身長が平均139センチなので、治療希望の人には早期発見、早期治療は極端な低身長を防ぎ、最終身長を平均身長に近付ける上で効果がみられています。

ターナー症候群であることが確定すれば、そのすべての人に成長ホルモン治療が公費でできます。成長ホルモン治療の方法は、自己注射方法で、家庭で注射を行います。そのため、医師の適切な指示により注射をすることが必要です。年齢に応じ、夜寝る前に毎日、あるいは2日に1回注射をします。小さいうちは、親などが注射をし、自分でできるようになれば本人が行います。注射針はとても細く、痛みは少ないので心配ありません。

成長ホルモン注射は基本的に、最終身長に達するまで続けることが必要です。具体的には、年間成長率が1センチになった時か、手のレントゲンで骨端線が閉じる時まで、すなわち15〜16歳ころまで続けることになります。しかし、思春期の早い遅い、性腺刺激ホルモン分泌不全の有無によって治療期間が異なり、20歳を過ぎることもあります。身長の伸びの程度もさまざまな条件が関係してきますが、一般的にホルモン不足が重症なほど成長率も高いといえます。

成長ホルモン治療ではまれに、副作用がみられることもあります。注射した場所の皮膚が赤くなったり、かゆくなったり、注射部位がへこむこともあります。同じ場所ばかりに注射するのでなく、毎回注射する場所を変えることが重要です。 身長が伸びるのに伴って、関節が痛むこともあります。多くはいわゆる成長痛で、一時的なもので心配いりません。しかし、股関節(こかんせつ)の痛みが強い時や長時間続く時は、大腿骨(だいたいこつ)骨頭すべり症なども疑う必要があります。

一時期、成長ホルモン治療と白血病発症との関連性が心配されましたが、現在ではその関連性は否定されています。 原則として安全な治療薬ですが、治療中はもちろん、治療後も定期的に検査を行うなど、副作用がないかを専門医で調べる必要があります。

🇨🇿性染色体異常

性染色体の構造異常、また、それが原因で引き起こされる先天性障害

性染色体異常とは、性染色体の構造異常、また、それが原因で引き起こされる先天性障害。

性染色体は、女性ではXX、男性ではXYの2本で1対をなしています。しかし、性染色体異常では、染色体が1本欠如しているモノソミーや、染色体が過剰となっているトリソミーなどが現れます。

モノソミーとしては女性のみに発現するターナー症候群があり、X染色体の片方が一部もしくはすべて欠損しています。

染色体過剰としては、男性のみに発現するクラインフェルター症候群、女性のみに発現するXXX症候群、男性のみに発現するXYY症候群があります。

ターナー症候群は2本で対をなしている性染色体が1本になることが原因で、引き起こされる先天性障害

ターナー症候群の女性の場合の典型的な例は、45Xであり、Xが1つしかないものです。また、X染色体が2本あるのに先が欠けていたり、時には小さなY染色体の一部を持っていたり、46XXと45Xとが混ざり合っているモザイクを持つなど要因はさまざまです。

ターナー症候群の発生頻度は、1000~2000人に1人と推定されています。先天的な疾患の中では、かなり多いほうといえるでしょう。しかも、この染色体構造を持っていると圧倒的に流産の確率が上がり、生きて生まれることはできませんので、受精卵の段階での発生数はかなりであろうと考えられます。

ターナー症候群という疾患名は1938年、これを初めてきちんとまとめたアメリカの内科医ヘンリー・ターナーの名前に由来します。それから約20年後の1959年、染色体の検査が開発されてX染色体の一部欠落が原因と判明して以後、ターナー症候群は染色体検査できちんと診断でき、幅広く見付けられるようになりました。

その最も大きな特徴は、背が低いことです。ほかにも、首の回りの皮膚がたるんでいるためにひだができる翼状頸(よくじょうけい)、ひじから先の腕が外向きになる外反肘(がいはんちゅう)、乳房が大きくならない、初潮が来ないといった二次性徴欠如などの特徴があります。X染色体が少ないために、女性ホルモンや卵巣を作る能力が劣り、大人になっても女性らしい体つきになりにくい傾向があります。

ただ、症状にも個人差は大きく、例えば二次性徴に関して、中学生になっても性の発達がみられない女性が多い一方、ほぼ正常に二次性徴が現れるターナー症候群の女性もいます。中学生くらいまでは、低身長以外、あまり気になる症状がない女性も多くいます。

また、合併症として、後天的に治療を要する症状が出てくる場合もあります。中耳炎、難聴、骨粗鬆(こつそしょう)症、糖尿病などがその例で、思春期年齢以降に起こることがあります。

しかし、この疾患は染色体異常が原因のため、今のところ疾患そのものを治す方法はありませんが、成長ホルモン治療で身長は改善し、二次性徴も女性ホルモン剤の使用で治療が可能です。

年齢により、小児科、婦人科、あるいは内分泌内科での検査が勧められます。

ターナー症候群の検査と診断と治療

早期発見が重要です。性染色体モノソミーに相当するターナー症候群という体質を正しく理解する時間的余裕が、本人と家族に得られます。背が低いのを少しでも高くしてほしいという女性に対して、よりよい治療成績も得られます。ターナー症候群における低身長症は成長速度が遅いわけですので、発見が遅れれば遅れるほど標準的な身長との差は開いて、せっかく治療しても取り戻すことが難しくなってきます。

また、低身長症の裏に重大な疾患が隠されていた場合、それを早い段階で見付けて、早く治療することが大事です。成長を促すホルモンを出す脳や甲状腺(せん)、あるいは栄養を体に活かす役割を担う心臓、腎(じん)臓、肝臓、消化器官そのものに異常がある場合は、一刻も早くその元凶を治していかなければなりません。

ターナー症候群の日本人女性は成長ホルモン治療を受けなかった場合、最終身長が平均139センチなので、治療希望の人には早期発見、早期治療は極端な低身長を防ぎ、最終身長を平均身長に近付ける上で効果がみられています。

小児科、婦人科、内分泌内科の診断で、特徴的な症候により疑い、染色体検査でターナー症候群であることが確定すれば、そのすべての人に成長ホルモン治療が公費でできます。

成長ホルモン治療の方法は、自己注射方法で、家庭で注射を行います。そのため、医師の適切な指示により注射をすることが必要です。年齢に応じ、夜寝る前に毎日、あるいは2日に1回注射をします。小さいうちは、親などが注射をし、自分でできるようになれば本人が行います。注射針はとても細く、痛みは少ないので心配ありません。

成長ホルモン注射は基本的に、最終身長に達するまで続けることが必要です。具体的には、年間成長率が1センチになった時か、手のレントゲンで骨端線が閉じる時まで、すなわち15〜16歳ころまで続けることになります。しかし、思春期の早い遅い、性腺刺激ホルモン分泌不全の有無によって治療期間が異なり、20歳を過ぎることもあります。

身長の伸びの程度もさまざまな条件が関係してきますが、一般的にホルモン不足が重症なほど成長率も高いといえます。

成長ホルモン治療ではまれに、副作用がみられることもあります。注射した部位の皮膚が赤くなったり、かゆくなったり、へこむこともあります。同じ部位ばかりに注射するのでなく、毎回注射する部位を変えることが重要です。

身長が伸びるのに伴って、関節が痛むこともあります。多くはいわゆる成長痛で、一時的なもので心配いりません。しかし、股(こ)関節の痛みが強い時や長時間続く時は、大腿骨(だいたいこつ)骨頭すべり症なども疑う必要があります。

一時期、成長ホルモン治療と白血病発症との関連性が心配されましたが、現在ではその関連性は否定されています。原則として安全な治療薬ですが、治療中はもちろん、治療後も定期的に検査を行うなど、副作用がないかを医師が調べる必要があります。

クラインフェルター症候群は男性の性染色体にX染色体が1つ以上多いことが原因で、引き起こされる先天性障害

クラインフェルター症候群は、男性の性染色体にX染色体が1つ以上多いことで、女性化とみられる特徴を生じる一連の症候群。

1942年に、ハリー・クラインフェルターによって初めて紹介された性染色体異常です。

通常の男性の性染色体XY、通常の女性の性染色体XXに対して、クラインフェルター症候群の男性の性染色体はX染色体が1つ多いXXYとなっています。一般に染色体すべてを総合して、47, XXYと表現されます。また、X染色体が2つ以上多い48, XXXY、49, XXXXYや、48, XXYY、さらに46, XY/47, XXYのモザイク型もあります。

細胞分裂期の性染色体不分離で過剰に生じたX染色体が、クラインフェルター症候群の原因です。過剰に生じたX染色体の由来は、父母半々とされており、高齢出産がその一因とされています。

クラインフェルター症候群の80〜90パーセントを占めるXXY染色体の発生頻度は、新生児の男児1000人から2000人に1人とされ、決して珍しい異常ではありません。

過剰に生じたX染色体が多いほど、障害の傾向も強くなります。しかし、X染色体の数の異常があればクラインフェルター症候群の症状が高確率で出るわけではなく、X染色体が1つ以上多い組み合わせの染色体を持ちながら症状が全く出ないケースのほうが多く認められます。

アンドロゲン不応症と似通っていますが、アンドロゲン不応症は染色体異常ではなく、男性ホルモンの受け皿が働かないために、男性への性分化に障害が生じる先天性の疾患群であり、別の疾患です。

クラインフェルター症候群の男児は、通常の男性器を持って生まれ、幼児期、学童期には特に症状はみられず、ほぼ正常な第二次性徴的変化を認めます。しかしながら、第二次性徴ごろから胴体の成長が止まる一方で、首や手、足などが成長するため、肩幅が狭く高身長で、手足の長い細身の体形になる人が多いとされます。

原発性の性腺(せいせん)機能低下症(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)を示すために、思春期から精巣の発達が進まず、精巣が小さいために無精子症となります。そのため、正常な勃起(ぼっき)能力と射精能力などの完全な性能力を持ちながら、男性不妊となります。

そのほか、ひげや恥毛の発育不全、乳腺(にゅうせん)がいくらか発達した女性化乳房、腹壁脂肪過多、筋力低下、性欲低下、骨密度の低下など多彩な症状を示します。男性乳がんやメタボリック症候群、糖尿病などを成人期に発症しやすい体質も伴います。さらに、男性ホルモン不足による更年期障害や骨粗鬆(こつそしょう)症を中年以降に発症しやすい体質も伴います。

発語の障害、言語の障害の可能性も高く、これが学校や社会での学習障害の原因となります。性自認は大多数が通常男性ですが、性同一性障害を伴う人もいます。

なお、46, XY/47, XXYのモザイク型で正常なXYの染色体が混在するタイプの場合には、少ないながらも精巣内で精子形成も認められ、子供を持つことができる人もいます。

外見上からの診断が難しく、思春期前にクラインフェルター症候群と診断されるのは、10パーセントに満たないともされています。多くは成人となり、男性不妊の原因精査によって診断されています。

クラインフェルター症候群の検査と診断と治療

小児科、ないし内分泌科の医師による診断では、通常、血液を用いた染色体検査を行い、クラインフェルター症候群と確定します。

また、血液検査を行い、男性ホルモンのテストステロンの低値、黄体化ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)高値を確認します。精液検査を行い、無精子症または極乏精子症を確認します。

小児科、内分泌科の医師による治療では、テストステロン補充療法を行います。通常、一生涯継続することになります。思春期に治療開始できた場合、正常な第二次性徴の発達など、良好な効果が期待できます。

男性不妊症に対する治療として、卵細胞質内精子注入法を行うと、健常児の出産も可能になってきています。

XXX症候群は女性だけにみられる性染色体異常で、言葉の障害や運動機能の遅れがみられる先天性障害

XXX症候群は、染色体異常のうちの性染色体異常の疾患で、女性にだけ起こる先天的な疾患群。トリプルX症候群、スーパー女性、超女性とも呼ばれます。

XXX症候群の女性の場合は、性染色体がXXXと1本多く、女性約1000人に1人の割合で生まれるといわれます。

正確な原因は不明ですが、減数分裂の際に2対の染色体が分裂し損なってXが1つ多い卵子もしくは精子を作り出す、もしくは減数分裂後の受精段階で、胎児の前身の胎芽の細胞分裂でXが1つ多くなることで起こるとされます。母親の高齢出産で、XXX症候群の新生児女児が生まれる頻度が高いともいわれています。

このXXX症候群は、パトリシア・ジェイコブズらがイギリスのスコットランドで、染色体構成47XXXを持つ2人の女性を見付け、1961年に最初に報告しました。

染色体構成47XXXを持つ新生児女児のほとんどは、XXX症候群の症状をいくつかしか持っていないか、全く持っていません。

新生児女児のほとんどは、身体的には誕生時から正常に発育します。ただし、誕生時の平均体重値は、正常な染色体を持つ女児よりわずかに低くなっています。8歳までは、正常な染色体を持つ女児よりやや身長の伸びが速く、最終的に2、3cm高くなり、高身長で手足の長い細身の体形になる人が多いとされます。

ほとんどは、性関連と性ホルモン条件に関して、正常な染色体を持つ女児と違いはありません。外陰部や卵巣、子宮、膣(ちつ)に異常はなく、一般的な胸部、体毛の成長、そして第二次性徴も普通に現れます。妊娠、出産も可能で、その子供の大部分は正常な染色体を持って生まれます。

染色体構成47XXXを持つ女児のほとんどは、通常の知能、もしくは低くても通常の範囲の知能を持っています。しかし、その多くは、言葉の障害や学習障害を持ち、運動機能や感情の発達の遅れがみられます。数は少ないものの、軽い知的障害を持っていることもあります。

なお、XXX症候群の症状の現れは人によって大きく異なり、筋緊張低下によって上まぶたにしわが寄ったり、小指が短く内側に曲がった斜指症がみられることがあります。中には、発作や、腎臓(じんぞう)を含む泌尿生殖器の奇形など、より深刻な状態がみられることもあります。

普通、XXX症候群のほとんどは、治療の必要はありません。

XYY症候群は男性だけにみられる性染色体異常で、背が高く、言語発達の遅れがみられたりする先天性障害

XYY症候群は、染色体異常のうちの性染色体異常の疾患で、男性にだけ起こる先天的な疾患群。スーパー男性症候群、スーパー男性、超男性、Y過剰男性とも呼ばれます。

XYY症候群の男性の場合は、性染色体がXYYと1本多く、47XYYということになります。性染色体が3本ある異常で、性染色体トリソミーにも該当します。トリソミーとは、3本という意味です。

47XYYの完全型のほか、性染色体異常の細胞と通常の細胞が混在する47XYY/46XYのモザイク型もありますが、大半が完全型です。

XYY症候群の男性は、約1000人に1人の割合で生まれるといわれます。

正確な原因は不明ですが、減数分裂の際に2対の染色体が分裂し損なってYが1つ多い卵子もしくは精子を作り出す、もしくは減数分裂後の受精段階で、胎児の前身の胎芽の細胞分裂でYが1つ多くなることで起こるとされます。

XYY症候群の男性は身長が高くなるのが特徴といわれ、出生時の身長は平均的なので、思春期に急速に伸びると考えられます。これは、Y染色体にあって身長を高くするSHOX (身長伸長蛋白〔たんぱく〕質)遺伝子が二重に働き、身長伸長蛋白質が多く作られるためと考えられます。

知能指数がほかの家族よりやや低い傾向があり、軽い言語発達の遅れがみられたりします。軽度の行動障害、多動性、注意欠陥障害、および学習障害を来すこともあります。

男性ホルモンの一種であるテストステロンのレベルは、先天的にも後天的にも一般の男性と同じ値で、精子の造成機能にやや難があり精子の数が少ないものの、子供を作ることは可能です。

XYY症候群の男性のほとんどは、原則として知能と生殖能力は正常で、一般の人と変わりはありません。障害が全くないこともあり、本人も家族も気が付かないまま通常に学校を卒業し、通常に就職し、通常に結婚して、一生を通じて全く気が付かないこともあります。性染色体は1本多いトリソミーになっても不活性化し、症状が軽くなるためです。

一説によると、XYY症候群の男性は男性としての特徴が極端に出て、背が高くて、攻撃的、または活動的な性格になりやすく、この性格が良い方向に向かえば成功者になる確率が高くなる一方、悪い方に向かえば犯罪に結び付くこともあるとされています。この説に対しては、現在では否定的な意見が多いようです。

1960年代のアメリカでは、1966年にシカゴの看護婦寮に押し入り8人の女性を殺害した事件など、いくつかの殺人事件の犯人が47XYYの染色体構成を持つ男性だったという報告があり、注目を集めました。

このため、要注意の染色体異常であるというイメージが広まり、47XYY型の男性に対する偏見、差別が生まれました。しかし、現在では、検査ミスであったと判明し、XYY症候群の男性と犯罪との関連性は否定されています。

XYY症候群の男性のほとんどは、普通に日常生活を送っていますので、治療の必要はありません。

🇧🇲性染色体トリソミー

XまたはYの性染色体が1本多い、3本あること、また、それが原因で引き起こされる先天性障害

性染色体トリソミーとは、XとYという2つの種類がある性染色体が1本多い、3本あること、また、それが原因で引き起こされる先天性障害のこと。

人間の体は、父親と母親からもらった遺伝子情報に基づいて作られます。遺伝子情報は、染色体という生体物質が担っています。一般の細胞の核には、1番から22番までの一対の常染色体が44本、それにXまたはYの性染色体の2本が加わって、合計46本の染色体がセットになって存在します。半数の23本ずつを父親と母親から継承しています。

合計46本の染色体のうち、ある染色体が過剰に存在し、3本ある状態がトリソミーです。卵子や精子が作られる過程で染色体が分離しますが、分離がうまくいかないことがトリソミーを引き起こします。

常染色体トリソミーには、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトー症候群)があります。トリソミーが起きると、その染色体が担当する物質産生などが通常の1・5倍になって致命的な影響を及ぼし、新生児が生きて生まれた場合でも知的障害や奇形など多くの先天性障害を持つことになります。染色体のサイズが大きいほうから染色体番号は割り振られているので、染色体番号が若いほど先天性障害が重症になります。

3種類以外の常染色体トリソミーは、ごくまれにしか存在しません。この理由は、ほかの染色体にはより重要な遺伝情報が多いため、トリソミーは致死的となり早期に流産するためです。

一方、性染色体トリソミーには、クラインフェルター症候群、XXX症候群(トリプルX症候群)、XYY症候群(スーパー男性症候群)があります。性染色体はトリソミーになっても不活性化するため、常染色体トリソミーと比較して症状は軽く、一生発見されない場合もあります。

クラインフェルター症候群は、男性の性染色体にX染色体が1つ以上多いことで生じる先天的な疾患

クラインフェルター症候群は、男性の性染色体にX染色体が1つ以上多いことで、女性化とみられる特徴を生じる一連の症候群。

1942年に、ハリー・クラインフェルターによって初めて紹介された性染色体異常です。

通常の男性の性染色体XY、通常の女性の性染色体XXに対して、クラインフェルター症候群の男性の性染色体はX染色体が1つ多いXXYとなっています。一般に染色体すべてを総合して、47XXYと表現されます。また、X染色体が2つ以上多い48XXXY、49XXXXYや、48XXYY、さらに46XY/47XXYのモザイク型もあります。

細胞分裂期の性染色体不分離で過剰に生じたX染色体が、クラインフェルター症候群の原因です。過剰に生じたX染色体の由来は、父母半々とされており、高齢出産がその一因とされています。

クラインフェルター症候群の80〜90パーセントを占めるXXY染色体の発生頻度は、新生児の男児1000人から2000人に1人とされ、決して珍しい異常ではありません。

過剰に生じたX染色体が多いほど、障害の傾向も強くなります。しかし、X染色体の数の異常があればクラインフェルター症候群の症状が高確率で出るわけではなく、X染色体が1つ以上多い組み合わせの染色体を持ちながら症状が全く出ないケースのほうが多く認められます。

アンドロゲン不応症と似通っていますが、アンドロゲン不応症は染色体異常ではなく、男性ホルモンの受け皿が働かないために、男性への性分化に障害が生じる先天性の疾患群であり、別の疾患です。

クラインフェルター症候群の男児は、通常の男性器を持って生まれ、幼児期、学童期には特に症状はみられず、ほぼ正常な第二次性徴的変化を認めます。しかしながら、第二次性徴ごろから胴体の成長が止まる一方で、首や手、足などが成長するため、肩幅が狭く高身長で、手足の長い細身の体形になる人が多いとされます。

原発性の性腺(せいせん)機能低下症(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)を示すために、思春期から精巣の発達が進まず、精巣が小さいために無精子症となります。そのため、正常な勃起(ぼっき)能力と射精能力などの完全な性能力を持ちながら、男性不妊となります。

そのほか、ひげや恥毛の発育不全、乳腺がいくらか発達した女性化乳房、腹壁脂肪過多、筋力低下、性欲低下、骨密度の低下など多彩な症状を示します。男性乳がんやメタボリック症候群、糖尿病などを成人期に発症しやすい体質も伴います。さらに、男性ホルモン不足による更年期障害や骨粗鬆(こつそしょう)症を中年期以降に発症しやすい体質も伴います。

発語の障害、言語の障害の可能性も高く、これが学校や社会での学習障害の原因となります。性自認は大多数が通常男性ですが、性同一性障害を伴う人もいます。

なお、46XY/47XXYのモザイク型で正常なXYの染色体が混在するタイプの場合には、少ないながらも精巣内で精子形成が認められ、子供を持つことができる人もいます。

外見上からの診断が難しく、思春期前にクラインフェルター症候群と診断されるのは、10パーセントに満たないともされています。多くは成人となり、男性不妊の原因精査によって診断されています。

小児科、ないし内分泌科の医師による診断では、通常、血液を用いた染色体検査を行い、クラインフェルター症候群と確定します。

また、血液検査を行い、男性ホルモンの一種であるテストステロンの低値、黄体化ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の高値を確認します。精液検査を行い、無精子症または極乏精子症を確認します。

小児科、内分泌科の医師による治療では、テストステロン補充療法を行います。通常、一生涯継続することになります。思春期に治療が開始できた場合、正常な第二次性徴の発達など、良好な効果が期待できます。

男性不妊症に対する治療として、卵細胞質内精子注入法を行うと、健常児の出産も可能になってきています。

XXX症候群は、女性だけにみられる性染色体異常で、言葉の障害や運動機能の遅れがみられる疾患

XXX症候群は、染色体異常のうちの性染色体異常の疾患で、女性にだけ起こる先天的な疾患群。トリプルX症候群、スーパー女性、超女性とも呼ばれます。

XXX症候群の女性の場合は、性染色体がXXXと1本多く、47XYYとなっています。性染色体が3本ある異常で、性染色体トリソミーにも該当します。トリソミーとは、3本という意味です。

XXX症候群の女性は、約1000人に1人の割合で生まれるといわれます。

正確な原因は不明ですが、減数分裂の際に2対の染色体が分裂し損なってXが1つ多い卵子もしくは精子を作り出す、もしくは減数分裂後の受精段階で、胎児の前身の胎芽の細胞分裂でXが1つ多くなることで起こるとされます。母親の高齢出産で、XXX症候群の新生児女児が生まれる頻度が高いともいわれています。

このXXX症候群は、パトリシア・ジェイコブズらがイギリスのスコットランドで、染色体構成47XXXを持つ2人の女性を見付け、1961年に最初に報告しました。

染色体構成47XXXを持つ新生児女児のほとんどは、XXX症候群の症状をいくつかしか持っていないか、全く持っていません。

新生児女児のほとんどは、身体的には誕生時から正常に発育します。ただし、誕生時の平均体重値は、正常な染色体を持つ女児よりわずかに低くなっています。8歳までは、正常な染色体を持つ女児よりやや身長の伸びが速く、最終的に2、3cm高くなり、高身長で手足の長い細身の体形になる人が多いとされます。

ほとんどは、性関連と性ホルモン条件に関して、正常な染色体を持つ女児と違いはありません。外陰部や卵巣、子宮、膣(ちつ)に異常はなく、一般的な胸部、体毛の成長、そして第二次性徴も普通に現れます。妊娠、出産も可能で、その子供の大部分は正常な染色体を持って生まれます。

染色体構成47XXXを持つ女児のほとんどは、通常の知能、もしくは低くても通常の範囲の知能を持っています。しかし、その多くは、言葉の障害や学習障害を持ち、運動機能や感情の発達の遅れがみられます。数は少ないものの、軽い知的障害を持っていることもあります。

なお、XXX症候群の症状の現れは人によって大きく異なり、筋緊張低下によって上まぶたにしわが寄ったり、小指が短く内側に曲がった斜指症がみられることがあります。中には、発作や、腎臓(じんぞう)を含む泌尿生殖器の奇形など、より深刻な状態がみられることもあります。

普通、XXX症候群のほとんどは、治療の必要はありません。

XYY症候群は、男性だけにみられる性染色体異常で、背が高く、言語発達の遅れがみられたりする疾患

XYY症候群は、染色体異常のうちの性染色体異常の疾患で、男性にだけ起こる先天的な疾患群。スーパー男性症候群、スーパー男性、超男性、Y過剰男性とも呼ばれます。

XYY症候群の男性の場合は、性染色体がXYYと1本多く、47XYYとなっています。性染色体が3本ある異常で、性染色体トリソミーにも該当します。

47XYYの完全型のほか、性染色体異常の細胞と通常の細胞が混在する47XYY/46XYのモザイク型もありますが、大半が完全型です。

XYY症候群の男性は、約1000人に1人の割合で生まれるといわれます。

正確な原因は不明ですが、減数分裂の際に2対の染色体が分裂し損なってYが1つ多い卵子もしくは精子を作り出す、もしくは減数分裂後の受精段階で、胎児の前身の胎芽の細胞分裂でYが1つ多くなることで起こるとされます。

XYY症候群の男性は身長が高くなるのが特徴といわれ、出生時の身長は平均的なので、思春期に急速に伸びると考えられます。これは、Y染色体にあって身長を高くするSHOX (身長伸長蛋白〔たんぱく〕質)遺伝子が二重に働き、身長伸長蛋白質が多く作られるためと考えられます。

知能指数がほかの家族よりやや低い傾向があり、軽い言語発達の遅れがみられたりします。軽度の行動障害、多動性、注意欠陥障害、および学習障害を来すこともあります。

男性ホルモンの一種であるテストステロンのレベルは、先天的にも後天的にも一般の男性と同じ値で、精子の造成機能にやや難があり精子の数が少ないものの、子供を作ることも可能です。

XYY症候群の男性のほとんどは、原則として知能と生殖能力は正常で、一般の人と変わりはありません。障害が全くないこともあり、本人も家族も気が付かないまま通常に学校を卒業し、通常に就職し、通常に結婚して、一生を通じて全く気が付かないこともあります。性染色体は1本多いトリソミーになっても不活性化し、症状が軽くなるためです。

一説によると、XYY症候群の男性は男性としての特徴が極端に出て、背が高くて、攻撃的、または活動的な性格になりやすく、この性格が良い方向に向かえば成功者になる確率が高くなる一方、悪い方に向かえば犯罪に結び付くこともあるとされています。この説に対しては、現在では否定的な意見が多いようです。

1960年代のアメリカでは、1966年にシカゴの看護婦寮に押し入り8人の女性を殺害した事件など、いくつかの殺人事件の犯人が47XYYの染色体構成を持つ男性だったという報告があり、注目を集めました。

このため、要注意の染色体異常であるというイメージが広まり、47XYY型の男性に対する偏見、差別が生まれました。しかし、現在では、検査ミスであったと判明し、XYY症候群の男性と犯罪との関連性は否定されています。

XYY症候群の男性のほとんどは、普通に日常生活を送っていますので、治療の必要はありません。

🇧🇲性染色体モノソミー

2本で対をなしている性染色体が1本になること、また、それが原因で引き起こされる重度の先天性障害

性染色体モノソミーとは、通常、2本で対をなしている性染色体が1本になること、また、それが原因で引き起こされる重度の先天性障害のこと。

人間の体は、父親と母親から受け継いだ遺伝子情報に基づいて作られます。遺伝子情報は、染色体という生体物質が担っています。一般の細胞の核には、1番から22番までの一対の常染色体が44本、それにXまたはYの性染色体の2本が加わって、合計46本の染色体がセットになって存在します。半数の23本ずつを父親と母親から受け継いでいます。

性染色体のXを2本持つ場合は女性に、XとYを1本ずつ持つ場合は男性になります。染色体は女性だと46XX、男性だと46XYということになります。

合計46本の染色体のうち、2本ずつあるはずの染色体が1本減っているのがモノソミーです。卵子や精子が作られる過程における染色体の減数分裂に際して、ある染色体がうまく分離しなかったことにより、2本あるはずの染色体が1本しかないモノソミーになります。

通常、2本で対をなしている常染色体が1本になる常染色体モノソミーが起こると、生きて生まれることはできません。常染色体の一部が欠けている常染色体部分モノソミーが起こると、生きて生まれても知的障害を含む重い先天性障害を併発し、自立はほとんど期待できません。

また、通常、2本で対をなしている性染色体が1本になるY染色体モノソミー(Yモノソミー)が起こると、人間の生命に欠かせない遺伝子が入っているX染色体を全く持たないので、生きて生まれることはできません。

性染色体モノソミーとして存在するのは、X染色体が1本になっているX染色体モノソミー(Xモノソミー、モノソミーX)、いわゆるターナー症候群のみで、女性にだけ起こる先天性障害です。

このターナー症候群の女性の場合の典型的な例は、45Xであり、Xが1つしかないものです。また、X染色体が2本あるのに先が欠けていたり、時には小さなY染色体の一部を持っていたり、46XXと45Xとが混ざり合っているモザイクを持つなど要因はさまざまです。

ターナー症候群の発生頻度は、1000~2000人に1人と推定されています。先天的な疾患の中では、かなり多いほうといえるでしょう。しかも、この染色体構造を持っていると圧倒的に流産の確率が上がり、生きて生まれることはできませんので、受精卵の段階での発生数はかなりであろうと考えられます。

ターナー症候群という疾患名は1938年、これを初めてきちんとまとめたアメリカの内科医ヘンリー・ターナーの名前に由来します。それから約20年後の1959年、染色体の検査が開発されてX染色体の一部欠落が原因と判明して以後、ターナー症候群は染色体検査できちんと診断でき、幅広く見付けられるようになりました。

その最も大きな特徴は、背が低いことです。ほかにも、首の回りの皮膚がたるんでいるためにひだができる翼状頸(よくじょうけい)、ひじから先の腕が外向きになる外反肘(がいはんちゅう)、乳房が大きくならない、初潮が来ないといった二次性徴欠如などの特徴があります。X染色体が少ないために、女性ホルモンや卵巣を作る能力が劣り、大人になっても女性らしい体つきになりにくい傾向があります。

ただ、症状にも個人差は大きく、例えば二次性徴に関して、中学生になっても性の発達がみられない女性が多い一方、ほぼ正常に二次性徴が現れるターナー症候群の女性もいます。中学生くらいまでは、低身長以外、あまり気になる症状がない女性も多くいます。

また、合併症として、後天的に治療を要する症状が出てくる場合もあります。中耳炎、難聴、骨粗鬆(こつそしょう)症、糖尿病などがその例で、思春期年齢以降に起こることがあります。

しかし、この疾患は染色体異常が原因のため、今のところ疾患そのものを治す方法はありませんが、成長ホルモン治療で身長は改善し、二次性徴も女性ホルモン剤の使用で治療が可能です。

年齢により、小児科、婦人科、あるいは内分泌内科での検査が勧められます。

性染色体モノソミーの検査と診断と治療

早期発見が重要です。性染色体モノソミーに相当するターナー症候群という体質を正しく理解する時間的余裕が、本人と家族に得られます。背が低いのを少しでも高くしてほしいという女性に対して、よりよい治療成績も得られます。ターナー症候群における低身長症は成長速度が遅いわけですので、発見が遅れれば遅れるほど標準的な身長との差は開いて、せっかく治療しても取り戻すことが難しくなってきます。

また、低身長症の裏に重大な疾患が隠されていた場合、それを早い段階で見付けて、早く治療することが大事です。成長を促すホルモンを出す脳や甲状腺(せん)、あるいは栄養を体に活かす役割を担う心臓、腎(じん)臓、肝臓、消化器官そのものに異常がある場合は、一刻も早くその元凶を治していかなければなりません。

ターナー症候群の日本人女性は成長ホルモン治療を受けなかった場合、最終身長が平均139センチなので、治療希望の人には早期発見、早期治療は極端な低身長を防ぎ、最終身長を平均身長に近付ける上で効果がみられています。

小児科、婦人科、内分泌内科の診断で、特徴的な症候により疑い、染色体検査でターナー症候群であることが確定すれば、そのすべての人に成長ホルモン治療が公費でできます。

成長ホルモン治療の方法は、自己注射方法で、家庭で注射を行います。そのため、医師の適切な指示により注射をすることが必要です。年齢に応じ、夜寝る前に毎日、あるいは2日に1回注射をします。小さいうちは、親などが注射をし、自分でできるようになれば本人が行います。注射針はとても細く、痛みは少ないので心配ありません。

成長ホルモン注射は基本的に、最終身長に達するまで続けることが必要です。具体的には、年間成長率が1センチになった時か、手のレントゲンで骨端線が閉じる時まで、すなわち15〜16歳ころまで続けることになります。しかし、思春期の早い遅い、性腺刺激ホルモン分泌不全の有無によって治療期間が異なり、20歳を過ぎることもあります。

身長の伸びの程度もさまざまな条件が関係してきますが、一般的にホルモン不足が重症なほど成長率も高いといえます。

成長ホルモン治療ではまれに、副作用がみられることもあります。注射した部位の皮膚が赤くなったり、かゆくなったり、へこむこともあります。同じ部位ばかりに注射するのでなく、毎回注射する部位を変えることが重要です。

身長が伸びるのに伴って、関節が痛むこともあります。多くはいわゆる成長痛で、一時的なもので心配いりません。しかし、股(こ)関節の痛みが強い時や長時間続く時は、大腿骨(だいたいこつ)骨頭すべり症なども疑う必要があります。

一時期、成長ホルモン治療と白血病発症との関連性が心配されましたが、現在ではその関連性は否定されています。 原則として安全な治療薬ですが、治療中はもちろん、治療後も定期的に検査を行うなど、副作用がないかを医師が調べる必要があります。

🇧🇲精巣炎(睾丸炎)

細菌やウイルスの感染などで、精巣に炎症が起こる疾患

精巣炎とは、細菌やウイルスなどに感染することによって、男性の生殖器官である精巣に炎症が起こる疾患。睾丸(こうがん)炎とも呼ばれます。

精巣、すなわち睾丸は、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしており、男性ホルモンおよび精子を産生しています。

精巣炎の原因のほとんどは、後部尿道からの細菌の感染によるものです。原因細菌は、大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌など。細菌の感染によって精巣だけに炎症が起こることはまれで、その多くは細菌性の精巣上体炎(副睾丸炎)が波及して精巣にも炎症が起きます。

また、流行性耳下腺(せん)炎(おたふく風邪)を起こすムンプスウイルスの血行感染によって起こることがあり、思春期以降に流行性耳下腺炎にかかった人の10〜30パーセントが精巣炎も発症します。両方の精巣に炎症を起こすと、後遺症として無精子症など男性不妊の原因になることがあります。

そのほか、外傷で精巣が強く打たれた時に、精巣炎が起こることもあります。

症状は、急激な寒けと震えがきて、高熱が出ます。陰嚢は赤くなってはれ上がり、熱感を持ち、精巣も大きく硬くなり、強く痛みます。圧痛も激しく腹部まで及びます。ムンプスウイルスによるものは、流行性耳下腺炎を発症した4〜7日後に、急激な精巣の痛みとはれが起き、発熱や倦怠(けんたい)感などが現れます。通常、排尿に関する症状はありません。

精巣炎の検査と診断と治療

精巣炎(睾丸炎)を発症したら、できるだけ精巣へのダメージを少なくするため家で安静にし、陰嚢をつり上げて固定し、さらに冷湿布をすると痛みは軽くなります。 男性不妊になるのを予防するために、やはり一度は泌尿器科の専門医を受診しておいたほうが安心です。

医師の側は、精巣の症状から簡単に診断できます。ムンプスウイルスによるものは、流行性耳下腺炎の先行と、咽頭や精液からのウイルス分離や、血液中のウイルスに対する抗体の値が初回より2回目の測定で上昇することで、確定診断できます。尿中に、うみや細菌は認められません。

治療としては、全身の安静、陰嚢の固定や冷湿布とともに、大腸菌、ブドウ球菌などの細菌が原因の時は抗生物質を強力に投与します。

ムンプスウイルスが原因の時は、抗生物質は有効ではないため、熱を抑えるための消炎鎮痛剤を投与します。1週間程度で炎症は治まりますが、長期化したり両側に炎症を起こすと、精巣の中の精子のもとになる細胞が死んでしまい、精巣が委縮し、不妊症の原因になってしまいます。20〜30パーセントに起きると見なされます。

🇧🇲精巣過剰症

男性の精巣が3個以上存在する先天性奇形

精巣過剰症とは、男性の下腹部に精巣、すなわち睾丸(こうがん)が3個以上存在する状態の先天性異常。多精巣症、睾丸過剰症、多睾丸症とも呼ばれます。

泌尿器系と生殖器系には、その胎生期の複雑な発生過程のために多くの先天性異常が生じやすく、男性の生殖器官である精巣、すなわち睾丸についても数、形態、位置などの異常が知られています。精巣過剰症も、比較的まれにみられる先天性異常です。

精巣は本来、陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしており、男性ホルモンおよび精子を産生していますが、精巣過剰症では真ん中にある陰嚢縫線で区切られた左右の陰嚢内に、過剰な精巣を含めて2個の精巣が重複して存在します。左の陰嚢内に2個存在することが多く、右の陰嚢内に2個存在することもありますが、左右両側の陰嚢内に2個存在することはまれです。

過剰な精巣はほとんどが陰囊内に存在しますが、精巣の下降が不十分で陰嚢内に位置せずに途中でとどまっている停留精巣(停留睾丸)などに合併して、脚の付け根の鼠径(そけい)部に存在することもあります。

過剰な精巣が発生する理由として、胎生6週で構成される生殖隆起(生殖堤)の分割過程での異常、生殖隆起の重複、胎生5週で構成される胎芽期の腎臓(じんぞう)に相当する中腎の部分的な退化の3つが考えられています。

精巣過剰症は、精巣(睾丸)、精液の通り路である精管(輸精管)、精巣の上面および後面に付着している精巣上体(副睾丸)の関係から6型に分類されています。

第1型は、精巣、精管、精巣上体を重複するもの。第2型は、重複する一方が精巣、精巣上体のみで精管を有しないもの。第3型は、重複する一方が精巣、精管のみで精巣上体を有しないもの。第4型は、重複する一方が精巣のみで精巣上体、精管を有しないもの。第5型は、重複する精巣に精巣上体が付着し、これに続く1本の精管を共有するもの。第6型は、重複する精巣、精巣上体が1本の精管で連結されているもの。このうち、第5型が最も多いとされています。

精巣過剰症には、停留精巣のほか、鼠径ヘルニア、陰囊水腫(すいしゅ)、精索水腫、精巣捻転(ねんてん)、精巣(睾丸)腫瘍(しゅよう)、奇形腫、胎児性がんなどを合併することがあります。

精巣過剰症を発見された年齢は、2歳から49歳と幅広いものの、平均年齢は20歳で若年者に多くなっています。幼少時は、停留精巣、鼠径ヘルニアなどほかの疾患の治療時に発見されることが多く、幼少時以降では無痛性陰囊内腫瘤(しゅりゅう)を主訴として受診した際に、診断されることが多くなっています。

精巣過剰症の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、まず陰嚢の触診による腫瘤の触知を図ります。超音波(エコー)検査を行うと、精巣と等信号の像が得られ、陰囊水腫、精索水腫との鑑別が可能となります。悪性腫瘍の可能性もあるため、 CT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査などを行い、骨盤内病変の有無を調べることもあります。

最終的には、過剰な精巣に針を刺して組織を採取し、その組織を顕微鏡で見て検査を行う生検も含め、手術で摘除した組織の病理組織診によって、確定します。

鑑別すべき疾患としては、悪性腫瘍のほか、精巣腫瘍、精巣上体腫瘍、精液瘤などがあります。

泌尿器科の医師による治療では、ほとんどの場合は診断も兼ねて、過剰な精巣を手術で摘除します。過剰な精巣が小さい場合はもちろん、特に、陰囊外の鼠径部に存在する過剰な精巣は、がん化の危険を考慮し手術で摘除するべきと考えられています。

また、陰囊内にあり妊孕(にんよう)性を期待できるものに関しても、生検で悪性・異型性を認めるもの、解剖学的には精路を認めても造精能を欠くもの、超音波検査で悪性所見を認めるもの、あるいは本人に過剰な精巣の摘除の希望がある時、定期的な経過観察が望めない時は、手術で摘除するのが一般的です。

生検で過剰な精巣が精巣実質であり、悪性腫瘍でないことを確認した後に温存した場合は、慎重を期した定期的な診察と超音波検査が必要になります。

🇲🇸精巣結核

結核菌が男性の生殖器である精巣に感染することによって起こる疾患で、肺外結核の一種

精巣結核とは、結核菌が男性の生殖器である精巣に感染することによって起こる疾患。睾丸(こうがん)結核とも、結核性精巣炎とも呼ばれ、また肺外結核の一種であり、男性性器結核の一種でもあります。

精巣、すなわち睾丸は、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしており、男性ホルモンおよび精子を産生しています。

精巣結核の原因菌となる結核菌は、正式な名称をマイコバクテリウム・ツベルクローシスで、グラム陰性無芽胞性桿菌(かんきん)に所属する抗酸性の細菌。この結核菌は、酸、アルカリ、アルコールに強い上に乾燥にも強く、また空気感染を引き起こします。

基本的には、その多くは肺に孤立性の臓器結核を発症する肺結核の病原菌になりますが、低い頻度ながら、肺外結核と呼ばれる肺以外への結核菌感染症を引き起こします。

肺外結核は、主に結核菌が血管を通って全身にばらまかれ、そこに病巣を作る粟粒(ぞくりゅう)結核によって起こります。腎(じん)臓とリンパ節に起こるものが最も多く、骨、脳、腹腔(ふくこう)、心膜、関節、尿路、そして男女の生殖器にも起こります。

男性性器結核は、結核菌が前立腺(ぜんりつせん)、精巣上体(副睾丸)、精巣(睾丸)、精嚢(せいのう)腺、精索に病巣を作ることによって起こり、その一種の精巣結核は、結核菌が精巣に病巣を作ることによって起こります。

結核菌が血管を通って前立腺、精巣上体、精巣などに連続的に感染することが多く、一方では腎臓、尿路の結核に続発して尿路、精路に沿って逆行性に感染し、炎症を起こして、精巣などに硬い凹凸のあるはれを生じます。

感染部位のはれが起こっても、ほとんどは自覚症状はないものの、時に精巣の痛み、違和感、不快感、下腹部痛を生じることもあります。

また、精巣結核は精子を産生する精巣機能の障害から、男性不妊症の発生に関連する場合があります。特に長期的、慢性的に炎症が継続すると、男性不妊症の発生頻度が上昇しやすくなります。

感染が進行すると、精巣と、精巣の上面および後面に付着している精巣上体の境界がわからないほどの一塊となったはれがみられたりして、最終的には精巣と精巣上体を破壊することもあります。初めは片方の精巣にはれが起きるケースがほとんどですが、放置すると両方に起きる恐れもあります。

結核が減少している近年では、結核の二次的発症である精巣結核の頻度は低下しています。

精巣結核の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、血液検査や尿検査、前立腺液検査、ツベルクリン反応検査などを行い、体内に結核菌があるかどうかを調べます。なお、精液からの結核菌の証明は困難です。

精巣が結核にかかっている場合には、痛みや発熱などの症状がなくても、硬い凹凸のあるはれがみられたり、精巣上体と一塊となったはれがみられたりするので、触診による検査を初めに行うこともあります。

精巣結核に尿路結核が併発していることが多いため、静脈性尿路造影ないし逆行性尿路造影、CT(コンピュータ断層撮影)検査、膀胱(ぼうこう)鏡などの画像検査を行うこともあります。

また、精巣や前立線などにがんなどの腫瘍(しゅよう)ができている場合にも、同じようなはれが現れたり下腹部痛を感じる場合があるため、精巣がんなどの検査を同時に行うこともあります。

泌尿器科の医師による治療では、抗結核剤の投与による化学療法を中心とする内科的療法を行います。

肺結核に準じて、普通、最初の2カ月間はリファンピシン、ヒドラジド、ピラジナミド、エタンブトールまたはストレプトマイシンの4種類の抗結核剤を投与し、その後はリファンピシンとヒドラジドの2種類の抗結核剤の投与にし、合計6カ月で治療を完了します。

ピラジナミドを初め2カ月間使うと殺菌力が強く有効ですが、80歳以上の高齢者や肝機能障害のある人には使えません。この場合には、治療は6カ月では短すぎ、最も短くて9カ月の治療が必要です。

抗結核剤の投与によっても完治しない場合には、外科的療法を検討します。腎結核により片方の腎臓の機能が完全に失われている場合には、内科的療法の前に腎臓を摘出する外科的療法を先行することを積極的に検討します。

自覚症状があまり現れないため、結核菌が発見されて治療が始まっても、薬の服用を忘れてしまったり自己判断でやめてしまう人もいます。しかし、結核菌は中途半端な薬の使用で薬に対する耐性ができてしまうこともあるので、服用の必要がなくなるまできちんと検査を受ける必要があります。

早期発見、早期治療を行えば精巣結核は治りますから、これが原因となっていた男性不妊症であれば、性パートナーの女性が妊娠する可能性も高くなります。

🇲🇸精巣腫瘍(睾丸腫瘍)

精巣にはれ物ができ、がんであることが多い疾患

精巣腫瘍(しゅよう)とは、男性の生殖器官である精巣に、はれ物ができる疾患。悪性腫瘍、いわゆるがんであることが多く、睾丸(こうがん)腫瘍とも呼ばれます。

精巣、すなわち睾丸は、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしており、男性ホルモンおよび精子を産生しています。精巣腫瘍の頻度としては10万人に1〜2人の非常に珍しい疾患ですが、好発年齢は0~10歳、20~40歳、60歳以上の3つのピークがあります。

精巣腫瘍は、セミノーマ、胎児性がん、卵黄嚢(のう)腫瘍、奇形腫、絨毛(じゅうもう)がんと呼ばれるものに区分されます。これらのいずれも成人にはみられますが、セミノーマが最も多く、全体の約半数。乳幼児にみられるのは、卵黄嚢腫瘍と奇形腫。

がんでは進行が速く、リンパ管や血管を通じて容易に他の臓器に転移するので、放っておくと命にかかわることがあります。しかし近年では、治療法の進歩により9割以上の人が完治するようになりました。転移を起こしてしまった人でも適切な治療を行えば7〜8割の人が治りますが、進行した状態では治療が困難な場合もあります。

なぜがんができるのか、本当の原因はまだわかっていません。ただ、停留精巣や精巣発育不全などの疾患を持っている人、胎児期に母親がホルモン剤投与を受けた人は、精巣のがんになりやすいと見なされています。

症状で最も多いのは、痛みのない精巣のはれです。時には、痛みを伴うこともあります。一般に、痛みもなく、熱もないために放置しておくと、陰嚢の中の精巣の一部が硬くゴツゴツしたり、全体的にはれて大きくなってきます。かなり進行すると、腹部が膨らんだり、せきが出て胸が苦しくなるなど精巣腫瘍の転移による症状が現れます。

精巣腫瘍の検査と診断と治療

精巣のはれ物に気付いた場合には、恥ずかしがらずに泌尿器科の専門医を受診します。

医師による診断では、ほとんどの場合、触っただけで判断できます。判断に迷う場合は、懐中電灯を当てて中身が詰まっているかどうか調べたり、超音波で腫瘍の内部を検査します。診断が確定すれば、血液検査で腫瘍マーカーを調べ、がんが他の臓器に転移していないかどうかを全身のCTやアイソトープを使った検査で詳しく調べます。

治療では、まず腫瘍ごと精巣を取り除きます。陰嚢を切開せず、おなかの下のほうに傷ができる高位除精巣術と呼ばれる方法です。精巣は左右一対ありますから、片方を摘出しても、もう一方が正常に機能していれば、男性ホルモンや精子を産生する能力が低下したり、勃起(ぼっき)能が衰えるような後遺症はありません。

精巣を摘出した後、疾患がまだ全身に広がっていない時は、一般に再発予防の治療が行われます。医療機関によっては、摘出した後、定期的な精密検査のみの場合もあります。このような治療法で転移がない場合には、9割以上治ります。

すでにリンパ節や肺、肝臓、骨、さらに脳などに転移している場合は、シスプラチン、エトポシド、ブレオマイシンという3種の抗がん剤による治療が追加されます。1回5日間の点滴を3〜4週間おきに繰り返す方法で、3〜4回行うことが標準的。成人に最も多いセミノーマの場合は、放射線治療も有効です。このような治療で転移があるような進んだがんでも、7〜8割が完治します。

なお、転移が見付からないような初期のがんでも、将来2〜3割に転移が現れるため、予防的な抗がん剤投与や放射線治療を行う場合もあります。

🇲🇸精巣上体炎(副睾丸炎)

精巣に付着している精巣上体に、炎症が起こる疾患

精巣上体炎とは、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしている精巣の上面、および後面に付着している精巣上体に、炎症が起こる疾患。副睾丸(こうがん)炎とも呼ばれます。

精巣上体、すなわち副睾丸は、精巣から出た精子を運ぶ精管が精巣、すなわち睾丸のすぐ近くで膨れている部分に相当します。精管はこの精巣上体から、精嚢腺(せいのうせん)と前立腺につながり、そこで分泌された精液と一緒になって尿道に出ていくのが、射精です。

発症経過によって、急性精巣上体炎(急性副睾丸炎)と慢性精巣上体炎(慢性副睾丸炎)に分けられます。

【急性精巣上体炎(急性副睾丸炎)】

急性精巣上体炎の多くは、精巣の上面に付着している精巣上体に起こります。尿の中の細菌などが精巣上体に入り込んで、感染を起こすことが原因です。

通常、尿には炎症を起こすほどの細菌はいませんが、前立腺肥大症、尿道狭窄(きょうさく)、膀胱(ぼうこう)結石などの疾患があると、尿は汚れて細菌が増殖しますから、急性精巣上体炎を起こしやすくなります。これらは高齢者に多く、大腸菌などの一般的な細菌が原因菌となります。

一方、青年層にみられる場合は、性行為感染症(STD)の1つである尿道炎から引き起こされます。尿道炎の原因であるクラミジアや淋菌(りんきん)が精巣上体に至ることによって、炎症を起こします。

症状は、陰嚢内の精巣上体の一部の軽い痛みで始まります。自覚症状としては、精巣そのものの痛みのように感じるかもしれません。徐々に陰嚢全体に痛みが広がり、陰嚢が硬くはれ上がり、皮膚が赤みを帯びてきます。

歩行時に激しく痛んだり、はれているところを圧迫すると強い痛みを感じ、38度以上の発熱を伴うことがしばしばあります。さらに悪化すると、陰嚢の中にうみがたまり、破れて出てくることもあります。精管に沿って炎症が広がっていると、大ももの付け根の鼠径(そけい)部や下腹部の痛みを感じることもあります。

普通は、膿尿(のうにょう)、細菌尿を伴って症状が全般的に強いのですが、クラミジアの感染では症状が軽度で膿尿もみられないことがあります。精巣に炎症がおよぶことはまれで、精巣にはれ、圧痛は認められません。

【慢性精巣上体炎(慢性副睾丸炎)】

慢性精巣上体炎は、急性精巣上体炎の局所症状が完全に消えないで慢性症に移る場合が多いのですが、初めから慢性あるいは潜行性に起こることもあります。また、外傷が誘因となって起こることもあります。さらに、結核菌による炎症など特殊な菌による感染で炎症が長引く場合とがあります。

尿道炎や前立腺炎を起こした時に、大腸菌、ブドウ球菌などの一般細菌や、クラミジア、淋菌などの性行為感染症菌が尿道や前立腺から精巣上体に逆流し、炎症を起こすのが急性精巣上体炎であり、この治療が不十分であると、細菌が精巣上体の中にこもってしまい、慢性的精巣上体炎を生じると考えられます。

結核性の場合は、肺結核から尿に結核菌の感染が移行して引き起こされます。尿路性器結核の部分現象として発症するので、睾丸を除く前性器が侵されていることが多く、尿路結核を合併することがしばしばあります。20~30歳代に多い疾患です。

慢性精巣上体炎では、全身症状は乏しく、陰嚢内の違和感や不快感、鈍い痛みが長期に渡って続きます。陰嚢に触ると、精巣上体に硬いしこりを感じます。発熱、急激なはれ、激しい痛みなどは伴いません。結核性の場合も、精巣上体が数珠状に硬くはれ、鈍い痛みが続きます。

精巣上体炎の検査と診断と治療

【急性精巣上体炎(急性副睾丸炎)】

適切な抗生剤を早期に使用することによって比較的治りやすい疾患ですが、悪化すると治療が困難になり慢性化してしまったり、精巣を摘出しなければならないことがあります。早めに泌尿器科の専門医を受診することが大切で、治療中は激しい運動や飲酒は控えます。

医師の側では、尿検査で尿中の白血球や細菌を検出します。クラミジア感染が疑われる場合も、尿で検査できます。細菌については、その種類とどのような抗生剤が効くかを同時に調べますが、細菌が検出されないこともまれではありません。また、全身への影響をみるため、血液検査で炎症反応などをチェックします。精巣(精索)捻転(ねんてん)症や精巣腫瘍(しゅよう)との区別が難しい場合もあります。

治療は、局所の安静と冷湿布、抗生剤の経口投与が主体となります。抗生剤は、尿路感染症に有効なユナシンなどのペニシリン系、セフゾンなどのセフェム系、クラビットなどのニューキノロン系が用いられます。また、サポーターなどで陰嚢を持ち上げることで、症状が和らぎます。発熱などの全身症状がみられる場合は、消炎鎮痛剤の投与とともに、入院した上で安静を保ち、抗生剤の点滴による治療が必要になります。

発熱を伴う急性期の炎症は、1〜2週間で治まります。精巣上体のはれや鈍い痛みは、数カ月続く場合が多く、時には精巣上体に硬いしこりが残ってしまうことがあります。初期の治療が不十分だと炎症が悪化してうみがたまり、陰嚢を切開してうみを出さなければならなかったり、精巣を含めて精巣上体を摘出しなければならないこともあります。

後遺症として、慢性精巣上体炎に移行したり、精巣上体部の精子通過障害をもたらすことがあります。精巣にも炎症が波及し、両側性であれば男性不妊につながることもあります。

【慢性精巣上体炎(慢性副睾丸炎)】

激しい症状がないので放置してしまう場合もみられますが、徐々に悪化してしまったり、他の疾患が見付かったりすることもありますので、泌尿器科の専門医を受診します。

医師の側はまず、尿中の白血球や細菌の検査をします。しかし、慢性精巣上体炎では細菌を検出することが難しい場合も多く、原因菌の特定ができないことがあります。細菌が検出されない場合は、結核性を疑って特殊な検査で尿中の結核菌の有無を調べますが、結核菌は検出されずに、手術で精巣上体を摘出した結果、結核感染が証明されることもあります。

また、慢性前立腺炎などの慢性尿路感染や、前立腺肥大症などの他の疾患を合併している場合もあるので、腎臓(じんぞう)、膀胱、前立腺など他の尿路に異常がないかどうか検査します。

治療においては、抗生剤の投与では効果が得られない場合が多いため、消炎鎮痛剤などの痛みと炎症を抑える薬を長期間投与します。不快な痛みが続く場合は、精巣上体を摘出することもあります。

結核性の場合は、他の尿路にも結核菌の感染を起こしている可能性があり、結核菌が臓器の奥深くに潜んでいることも多いので、半年以上の長期間、抗結核剤を投与します。イソニアジド(イスコチン)とリファンピシン(リファジン)に、ストレプトマイシンまたはエサンブトールを組み合わせた治療が標準的です。それでも改善しなければ、精巣上体だけを摘出する手術、あるいは精巣上体を含めて精管、精嚢、前立腺まで摘出する根治手術を行うこともあります。

後遺症として、精巣上体部の精子通過障害をもたらすことがあります。精巣にも炎症が波及し、両側性であれば男性不妊につながることもあります。

🇨🇿精巣上体結核

結核菌が男性の生殖器である精巣上体に感染して起こる疾患で、肺外結核の一種

精巣上体結核とは、結核菌が男性の生殖器である精巣上体に感染することによって起こる疾患。

副睾丸(ふくこうがん)結核とも、結核性精巣上体炎とも呼ばれ、また肺外結核の一種であり、男性性器結核の一種でもあります。

精巣上体、すなわち副睾丸は、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしている精巣、すなわち睾丸の上面、および後面に付着している精巣付属器の一つになります。精巣上体は、内部に精巣上体管を内包していて、この精巣上体管は、精巣で産生している精子の通路である精路の一部になります。 また、精巣上体は、精子を運ぶだけでなく、精液の液体成分である精漿(せいしょう)の一部の産生も行っています。

精路はこの精巣上体から、精嚢腺(せいのうせん)と前立腺(ぜんりつせん)につながり、そこで分泌された精液と一緒になって尿道に出ていくのが、射精です。

精巣上体結核の原因菌となる結核菌は、正式な名称をマイコバクテリウム・ツベルクローシスで、グラム陰性無芽胞性桿菌(かんきん)に所属する抗酸性の細菌。この結核菌は、酸、アルカリ、アルコールに強い上に乾燥にも強く、また空気感染を引き起こします。

基本的には、その多くは肺に孤立性の臓器結核を発症する肺結核の病原菌になりますが、低い頻度ながら、肺外結核と呼ばれる肺以外への結核菌感染症を引き起こします。

肺外結核は、主に結核菌が血管を通って全身にばらまかれ、そこに病巣を作る粟粒(ぞくりゅう)結核によって起こります。腎(じん)臓とリンパ節に起こるものが最も多く、骨、脳、腹腔(ふくこう)、心膜、関節、尿路、そして男女の生殖器にも起こります。

男性性器結核は、結核菌が前立腺、精巣上体、精巣、精嚢腺、精索に病巣を作ることによって起こり、その一種の精巣上体結核は、結核菌が精巣上体に病巣を作ることによって起こります。

結核菌が血管を通って前立腺、精巣上体、精巣などに連続的に感染することが多く、一方では腎臓、尿路の結核に続発して尿路、精路に沿って逆行性に感染し、また精路周囲のリンパ管からリンパ行性に感染し、炎症を起こして、精巣上体などに硬い凹凸のあるはれを生じます。

感染部位のはれが起こっても、ほとんどは自覚症状はないものの、時に精巣の痛み、違和感、不快感、下腹部痛を生じることもあります。

また、精巣上体の結核は精路の物理的閉塞(へいそく)から、精巣の結核は精子を産生する精巣機能の障害から、男性不妊症の発生に関連する場合があります。特に長期的、慢性的に炎症が継続すると、男性不妊症の発生頻度が上昇しやすくなります。

感染が進行すると、精巣上体と精巣の境界がわからないほどの一塊となったはれがみられたりして、最終的には精巣上体と精巣を破壊することもあります。初めは片方の精巣上体と精巣にはれが起きるケースがほとんどですが、放置すると両方に起きる恐れもあります。

結核が減少している近年では、結核の二次的発症である精巣上体結核の頻度は低下しています。

精巣上体結核の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、血液検査や尿検査、前立腺液検査、ツベルクリン反応検査などを行い、体内に結核菌があるかどうかを調べます。なお、精液からの結核菌の証明は困難です。

精巣上体が結核にかかっている場合には、痛みや発熱などの症状がなくても、硬い凹凸のあるはれがみられたり、精巣と一塊となったはれがみられたりするので、触診による検査を初めに行うこともあります。

精巣上体結核に尿路結核が併発していることが多いため、静脈性尿路造影ないし逆行性尿路造影、CT(コンピュータ断層撮影)検査、膀胱(ぼうこう)鏡などの画像検査を行うこともあります。

また、前立線や精巣などにがんなどの腫瘍(しゅよう)ができている場合にも、同じようなはれが現れたり下腹部痛を感じる場合があるため、前立線がんなどの検査を同時に行うこともあります。

泌尿器科の医師による治療では、抗結核剤の投与による化学療法を中心とする内科的療法を行います。

肺結核に準じて、普通、最初の2カ月間はリファンピシン、ヒドラジド、ピラジナミド、エタンブトールまたはストレプトマイシンの4種類の抗結核剤を投与し、その後はリファンピシンとヒドラジドの2種類の抗結核剤の投与にし、合計6カ月で治療を完了します。

ピラジナミドを初め2カ月間使うと殺菌力が強く有効ですが、80歳以上の高齢者や肝機能障害のある人には使えません。この場合には、治療は6カ月では短すぎ、最も短くて9カ月の治療が必要です。

抗結核剤の投与によっても完治しない場合には、精巣上体だけを摘出する外科的療法、あるいは精巣上体を含めて精巣、精嚢腺、前立腺まで摘出する外科的療法を検討することもあります。腎結核により片方の腎臓の機能が完全に失われている場合には、内科的療法の前に腎臓を摘出する外科的療法を先行することを積極的に検討します。

自覚症状があまり現れないため、結核菌が発見されて治療が始まっても、薬の服用を忘れてしまったり自己判断でやめてしまう人もいます。しかし、結核菌は中途半端な薬の使用で薬に対する耐性ができてしまうこともあるので、服用の必要がなくなるまできちんと検査を受ける必要があります。

早期発見、早期治療を行えば精巣上体結核は治りますから、これが原因となっていた男性不妊症であれば、性パートナーの女性が妊娠する可能性も高くなります。

🇨🇿精巣性女性化症候群

男性ホルモンの受け皿が働かないために、外性器が女性化する先天性異常

精巣性女性化症候群とは、男性ホルモンの受け皿が働かないために、男性への性分化に障害が生じる先天性の疾患群。アンドロゲン不応症とも呼ばれます。

男性仮性半陰陽(はんいんよう)の発生の原因となる疾患の1つに数えられます。この精巣性女性化症候群では、染色体による性は46XY型の男性であり、男性の性腺である精巣からテストステロンを主とするアンドロゲン(男性ホルモン)が分泌されています。しかしながら、体の中の細胞の表面にあるアンドロゲン(男性ホルモン)受容体という、ホルモンの受け皿のような構造に遺伝子異常があるために、男性ホルモンの全部または一部を感知できません。その結果、外性器になる組織が男性型へ発達することができなくなります。

そもそも、性分化は性染色体による性に規定されます。具体的にはY染色体の有無が性を決定し、Y染色体上のSRY遺伝子が精巣決定因子として作用します。SRY遺伝子を有する男の胎児では未分化性腺から精巣が分化、発生し、SRY遺伝子を有しない女の胎児では卵巣に分化、発生し、それぞれ配偶子が精子と卵子に分かれていきます。

次いで、男の胎児では胎児期精巣のセルトリ細胞からミュラー管抑制因子、ライディッヒ細胞からアンドロゲンが分泌され、それぞれミュラー管の退縮とウォルフ管の発育が起こって、性器の男性化が起こります。

ところが、精巣性女性化症候群の場合、ミュラー管抑制因子は正常に分泌される一方、アンドロゲンの作用が発現しません。その結果、ミュラー管由来の女性内性器(子宮、卵管、腟〔ちつ〕上3分の1)と、ウォルフ管由来の男性内性器(精巣上体、精管、精嚢〔せいのう〕、射精管)はみられないということになります。

精巣性女性化症候群は、X染色体に依存する伴性遺伝であり、多くは母親が保因者となっています。染色体による性が46XX型の女性であれば、精巣性女性化症候群であっても特に症状はなく、疾患として発見されずに保因者となり、家族性に受け継がれることもあります。

精巣性女性化症候群は、アンドロゲンを全く感知しない完全型精巣性女性化症候群、アンドロゲンを不完全に感知する不完全型精巣性女性化症候群、アンドロゲンの一部を感知しない部分型精巣性女性化症候群の3型に分かれます。

完全型精巣性女性化症候群では、外性器は女性型で、上端がふさがっている腟があり、内性器は精巣を持つ男性型で、子宮、卵巣はありません。その精巣は体内にとどまる停留精巣で、造精機能は著しく低下しています。鼠径(そけい)ヘルニア、尿道下裂の合併が多い傾向も示します。第二次性徴は女性化乳房などがみられる女性型を示しますが、子宮、卵巣を持たないため月経はなく、妊娠、出産は不可能です。乳房はやや未発達で、陰毛、わき毛はありません。

不完全型精巣性女性化症候群では、外性器に軽度の男性化が認められ、陰核肥大、陰唇癒合などの男性化兆候がみられます。部分型精巣性女性化症候群では、外性器が男女中間型を示し、男性器とも女性器とも判別しがたい形になることが多く認められます。外性器の形状により、女児もしくは男児として育てられます。

完全型精巣性女性化症候群では、出生時に発見されることはほとんどないため、通常の女児として育てられ、本人も女性として認識して成長します。外見上は正常な女性で、膣も持ち、性交も可能。思春期になって第二次性徴が起きても初潮がない(原発性無月経)ことから、あるいは結婚後に妊娠しないことから、産婦人科などを受診して発見されるケースが多くみられます。

女性として育てられ、思春期あるいは結婚後に、染色体上は男性であるということが診断され、妊娠、出産は不可能と告げられるので、大きな精神的打撃を受ける恐れが大きく、精神的なケアが重要となります。本人や親、夫のショックを配慮して、医師が診断結果を告げないケースもあるといわれています。

出生時に医師や看護師によって、精巣性女性化症候群が発見することが望ましいのですが、思春期や成人後に発見されることもあるのが実態です。思春期になって女の子のはずなのに初潮(初経)がなかったりした場合には、できるだけ早く小児科、あるいは婦人科、産婦人科、内科、内分泌代謝内科などの専門医の診断を受けるようにします。

精巣性女性化症候群の検査と診断と治療

小児科、婦人科、産婦人科、内科、内分泌代謝内科の医師による精巣性女性化症候群の診断では、染色体分析検査、性ホルモンの測定、アンドロゲン受容体の検査、超音波検査、X線造影検査、CTやMRI検査による内性器の存在確認を行います。

精巣性女性化症候群の治療では、戸籍上の性として育てていく性、生きていく性を決めることが最も大事です。一般的には、染色体や精巣によって将来の性を決めるより、現在の外性器の状態、将来の生活、本人の希望や心理状態をも考慮して、男性か女性かを決めます。完全型精巣性女性化症候群の場合、女性として生きていく人がほとんどとなります。

選択した性に合わせて、女性として生きていく決定をした場合で膣が短く、性交に支障を来すケースでは、腟形成術を行って膣を延長します。男性として生きていく決定をした場合には、陰茎形成術を行います。

体内にとどまる停留精巣はがん化するリスクが高いために早期に摘出手術を行う必要があるといわれていますが、成人前にがん化することは少ないため、現在では第二次性徴が完了した思春期以降に精巣摘出が行われています。思春期前に性腺を除去してしまうと、第二次性徴に必要なホルモン量が自前では不足するためです。

一般の男女でもそうですが、分泌された男性ホルモンの一部は体内で女性ホルモンに変換されて機能しており、完全型精巣性女性化症候群であっても精巣からのホルモン分泌が乳房の発育や女性らしい体形を形作るための重要な供給源となっています。

精巣摘出後は、更年期障害や骨粗鬆(こつそしょう)症を防ぐために、ホルモン補充療法によって女性ホルモンを補充します。ホルモン補充療法は一生涯に渡るため、精巣摘出の判断は慎重にしなければならず、精巣を摘出せず、こまめに検診を受けて経過観察を行う場合もあります。

部分型精巣性女性化症候群の停留精巣はがん化リスクが50パーセントと高いのに対し、完全型精巣性女性化症候群の停留精巣はがん化リスクが2パーセントと高くなく、あえて摘出を必須とするほどではないと見なされています。

🇨🇿精巣捻転症(精索捻転症)

男性の精巣が回転して精索がねじれ、精巣への血流が妨げられる疾患

精巣捻転(ねんてん)症とは、精巣が回転して精索がねじれ、精巣への血流が妨げられる疾患。精索捻転症とも呼ばれます。

男性の精巣、すなわち睾丸(こうがん)と、精巣上体、すなわち副睾丸は、陰嚢(いんのう)の底部の固定にされていて、それにひも状の精索がつながっています。精索には、精巣に出入りする血管と、精液の通り路の精管が入っています。精索がねじれると、精巣に通じる血管がふさがれて血行障害を起こすために、6〜12時間で精巣は壊死(えし)に陥ります。

新生児期と、思春期から25歳ごろまでの間に多く発生しますが、どの年齢でも起こる可能性があります。新生児期では、精巣が陰嚢の中で底部に十分固定されておらず回転しやすいことが原因です。思春期では、第二次性徴といって精巣の重量が増える際に、周囲の支持組織が十分でないことが原因と考えられています。

症状としては、精巣部から下腹部にかけて突然、強い痛みが起こります。吐き気、嘔吐(おうと)、時にはショック症状となることもあります。局所は赤くなり、はれを生じ、触ると強い圧痛を覚えます。その際、精巣は上方へ上がっています。

精巣捻転症の検査と診断と治療

発症者は夜中から明け方に突然、激しい陰嚢部の痛みで目が覚めることが多いようです。足の付け根から下腹部にかけて痛みが響くことがあるので、単なる腹痛や虫垂炎(盲腸炎)と間違われることもあります。少しでも精巣捻転症が疑われる場合は、泌尿器科のある総合病院を一刻も早く受診します。

医師の診断は、発症者の症状説明と臨床所見に基づいて行われますが、血液検査、尿検査で感染症が疑われるような異常がないことが1つのポイントとなります。陰嚢を上方に持ち上げた時に痛みが強まるプレーン徴候があり、反対に痛みの和らぐ精巣上体炎と区別できるといわれていますが、はっきりしないことが多いようです。

精巣の血液の流れを確認するためにドプラー超音波検査を行い、血流が確認できないことで診断がより確実になります。

治療としては、精巣捻転症の可能性が高い、あるいは精巣捻転症が否定できない場合は、緊急手術でできるだけ早期に陰嚢を切開し、捻転症であれば精索のねじれを元に戻します。この時、精巣の血流が再開されてきれいな色に戻れば、そのまま陰嚢の中に戻し、精巣を周囲の組織に縫い付ける処置を行い、二度と捻転が起こらないようにします。反対側の精巣もねじれやすいと考えられるので、予防のため同様に固定します。

精索のねじれが強かったり、時間がたちすぎていて、精巣への血液の流れが回復せず壊死してしまった場合は、そのままだと反対側の精巣にも悪影響を及ぼすため、精巣を摘出せざるを得ません。約1時間の簡単な手術で、新生児では全身麻酔、中学生以上なら下半身麻酔で行われます。

🇸🇰声帯委縮

声帯の容積が減少して、声門に透き間ができ、声がかすれる状態

声帯委縮とは、声帯の容積が減少して弓状になり、声を出そうと声門を閉じても透き間ができ、声がかすれる状態。

声帯は、のど仏を形成する甲状軟骨の中にある縦16~20ミリ、横10ミリ、厚さ3ミリほどの細長い粘膜とその回りにある結合組織に包まれた帯状の器官。左右1枚ずつ、計2枚の対になっています。

声の元になる音は、左右2枚の帯状声帯の声門が男性で毎秒100回、女性で毎秒250回左右に開閉して振動を生じ、その振動が口や鼻の中で響きや音色が変えられて実際の声になるのです。また、声帯は、飲食物が誤って肺に入らないように閉じて誤嚥(ごえん)を防ぎ、肺炎を起こさない役目も果たしています。

この楽器の弦のような声帯の容量が減少し、委縮するのが、声帯委縮です。声門がきちんと閉じなくなるため、その透き間から息が漏れて、声がれ、すなわち嗄声(させい)を生じたり、声が小さく弱々しくなる、声が震える、声が詰まって長く続かなくなる症状が起きます。また、声に力が入りにくい、せき込む、のどがむせるなどの症状が同時に現れる場合もあります。

声帯委縮を来す代表的な要因としては、加齢に伴う変化、声帯まひ、声帯溝症があります。加齢に伴う変化は高齢者、特に男性に多くみられ、声帯全体が弓状に委縮して生じます。声帯まひは、声帯を動かす神経のまひによって生じます。声帯溝症は、声帯粘膜の縁に前後に走る溝状のくぼみができるもので、生まれ付きのこともありますが、後から炎症などが原因となって生じることもあります。

長年の声の使いすぎによるものや、原因不明のものもあります。20歳代~50歳代の人に起こる場合もあります。

嗄声が続く場合には、とりわけ喫煙者は喉頭がん(声門がん、声門上がん、声門下がん)の可能性も念頭に入れて、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。

声帯委縮の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、喉頭ファイバースコピー検査、喉頭ストロボスコピー検査、発声機能検査などを行います。喉頭がんを疑う声帯の所見がある時には、組織を採取して調べる病理組織検査を行います。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、音声治療を行い、発声訓練によって声帯を若返らせたり、筋肉訓練によって声帯に強い力が働くようにしたりします。

保存的治療を行っても効果がない時や、ある程度以上の声帯委縮がある場合は、手術的治療を行います。手術的治療には声帯内注入術があり、アテロコラーゲンや自家脂肪などを声帯内に注入し、声帯の厚みを回復させます。手術は局所麻酔で行い、声を出しながらよい声が出るまで調節します。手術後は、音声治療による発声訓練などを行います。

手術的治療には喉頭顕微鏡下手術として行う甲状軟骨形成術1型、甲状軟骨形成術4型などもあり、1型では声帯を内部に移動させて、声帯の間の透き間を少なくし、声を出しやすくします。4型では、甲状軟骨とその下にある輪状軟骨とを近付けることで、声帯を前後に引っ張り、緊張を高め、声を高くします。

甲状軟骨形成術1型と4型の手術は全身麻酔で行い、入院が必要です。手術の前日に入院し、入院期間は約3~5日間。また、この手術の後には声帯の傷の安静のために、1週間前後の沈黙期間を要します。

声帯委縮を予防するためには、ふだんから声の衛生観念を持って過度の喫煙や飲酒、乾燥した空気を避け、声帯を大事にすることが大切です。声帯の疾患になりやすい声を使う環境を考慮しないと、症状が悪化したり、治療後に病変が再発する可能性があります。

🇸🇰声帯ポリープ、声帯結節

声の乱用で、声帯のふちに結節やポリープが発生

声帯結節とは、声帯のふちに小さな、いぼのような突起ができるもの。声帯ポリープとは、声帯結節が大きくなって、キノコ状になったもの。

声帯結節は、両側の声帯のふち、それも前3分の1くらいにできます。この声帯結節はまた、歌を歌う人にできやすいため、謡人(ようじん)結節とも呼ばれています。声帯ポリープも、声帯の前3分の1にできることが多く、通常片側に発生します。ポリープの大きさはさまざまで、まれに両側の声帯にできることもあります。ポリープができると、発声時の声帯の強い振動で、ポリープの中に出血することがあります。

また、声帯全体がぶよぶよに、カエルの水かきのようにはれることもあります。これをポリープ様声帯と呼んでいます。さらに、声帯のすぐ上に喉頭(こうとう)室というくぼみがありますが、その粘膜がぶよぶよとはれ、声帯ポリープのように飛び出してくることがあります。これを喉頭室脱出症と呼んでいます。

声帯ポリープなどの原因は慢性喉頭炎と同じように、声の使いすぎにあるといわれていますが、不明な点もたくさんあります。カラオケ、怒鳴り声、演説などの一過性の急激な発声が誘因となり、声帯粘膜の血管が破れて内出血を起こし、ポリープなどを形成するという説が有力です。

声がれ、すなわち嗄声(させい)が声帯ポリープ、声帯結節、ポリープ様声帯、喉頭室脱出症ともの主症状ですが、のどの違和感や発声時の違和感などの症状を示すこともあります。突起が大きくなると、息苦しさなどの呼吸困難を起こすようになります。

声帯ポリープ、声帯結節の検査と診断と治療

疾患の症状に気付いたら、声をなるべく使わないようにして、のどの安静を心掛けます。それでも2週間で改善しなければ、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診します。

医師による診断は、喉頭に小さな鏡である喉頭鏡を入れたり、鼻からファイバースコープを入れて、声帯を直接観察し、ポリープなどを確認すればすぐつきます。喉頭がんなど他の疾患との鑑別が、必要なこともあります。

治療では、突起がごく小さい場合は、発声を制限し、消炎剤の投与や蒸気吸入、薬剤吸入(ネブライザー)を行います。この治療法以外では、手術が早くて確実です。声帯は狭く、深く、小さいところなので、手術は一般的には入院の上、全身麻酔で顕微鏡下に行い、ぶよぶよの個所を切開したり、切除します。

全身麻酔が不可能な場合や、入院を希望しない場合などは、外来でファイバースコープを用いて摘出することもあります。また、この手術の後には声帯の傷の安静のために、1週間前後の沈黙期間を要します。

声帯ポリープは悪性化はしませんが、まれにポリープのような外観のがんがあるので、摘出されたポリープは病理組織検査で、悪性化の有無をチェックします。

なお、声帯ポリープや声帯結節などは、職業で声帯を酷使しなければならない場合には、再発の可能性があります。

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