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2022/08/14

🇧🇴停留精巣

男児の精巣が陰嚢内に位置せず、下降途中でとどまっている状態

停留精巣とは、男児の精巣の下降が不十分で、精巣が陰嚢(いんのう)内に位置せずに、途中でとどまっている状態。停留睾丸(こうがん)とも呼ばれます。

性腺(せいせん)に相当する精巣は本来、妊娠3カ月ごろから9カ月ごろまでの胎児期に、腹腔(ふくくう)の腎臓(じんぞう)に近いところから次第に下降し、鼠径管(そけいかん)という下腹部の決まった道を通ってから陰嚢まで下降し、出生時には陰嚢内に位置するようになります。陰嚢からの牽引(けんいん)、ホルモン(内分泌)などの働きにより精巣は下降しますが、何らかの原因によって下降が途中で止まったものが停留精巣です。

片側性と両側性があり、多くは股(また)の付け根の鼠径部に精巣を触れることができます。新生児の3~4パーセント、低出生体重児では20パーセントの頻度でみられ、珍しい疾患ではありません。

生後3カ月ごろまでは精巣の自然下降が期待でき、1歳時には新生児の1パーセント程度、低出生体重児では2パーセント程度となります。1歳を過ぎると、精巣の自然下降はほとんど期待できません。

普段は陰嚢が空のようであっても、風呂に入っている時や、リラックスして座っている時などに精巣が陰嚢内に触れるような場合には、移動性精巣と呼びます。移動性精巣は緊張や刺激により位置が高くなりますが、リラックスしている状態では陰嚢内に位置します。

陰嚢の中に精巣がある場合に比べ、それ以外のところに精巣がある場合は、2〜4度高い温度環境にさらされていることになります。陰嚢内にあると33度、鼠径管内にあると35度、腹腔内にあると37度というデータもあります。高い温度環境にある停留精巣を放置しておくと、精巣は徐々に委縮してしまいます。精子を作る細胞も少しずつ機能を失い、数も減少してゆきます。この変化は高い温度環境では常に進行してゆき、成人になってからの男性不妊の原因になると考えられています。

さらに、停留精巣から悪性腫瘍(しゅよう)ができやすい、停留精巣が外傷を受けやすく、精巣捻転(ねんてん)を起こしやすいなどともいわれます。

1歳の誕生日を過ぎても精巣が陰嚢内に触れない場合には、小児科、泌尿器科、小児外科の医師による診察を受けることが勧められます。また、移動性精巣と停留精巣の区別が難しいことも多いため、正しい治療方針を立ててもらいます。

停留精巣の検査と診断と治療

小児科、泌尿器科、小児外科の医師による診断では、陰嚢の中に精巣を触れない場合に、鼠径部にあるのかどうかをよく触診します。この触診で精巣を触知する場合には、停留精巣か移動性精巣です。

精巣を触れない時には、精巣がない疾患である無精巣症と区別する必要があるため、超音波検査、MRI検査、腹腔鏡などにより、腹腔内に精巣があることを確認することがあります。同じ目的で、精巣を刺激するホルモンを注射して、男性ホルモンの分泌能力をみるホルモン検査を行う場合もあります。

小児科、泌尿器科、小児外科の医師による治療では、停留精巣に対しては精巣を固定する手術を行います。手術前および手術中には、超音波検査、MRI検査、腹腔鏡などにより、停留精巣の位置、大きさを確認することが重要です。

手術の時期に関しては、1歳から1歳6カ月ごろまで、遅くとも2歳までに手術をするのがよいとされています。移動性精巣であれば、治療の必要はありません。

幼児期の手術は、将来の男性不妊症の予防と、合併しやすい鼠径ヘルニア、精巣腫瘍の早期発見に役立つとされています。 ただし、手術を行っても精巣腫瘍の発生を防げるかどうかは不明です。

手術でなく男性ホルモンを使って精巣の下降を促す方法もありますが、副作用もあり日本ではあまり行われていません。

🇧🇴適応障害

社会環境に適応できず、心身の症状が出現

適応障害とは、ある社会環境においてうまく適応することができず、さまざまな心身の症状が現れる精神疾患の一種。急性ストレス障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と同様に、外的ストレスが原因となって起こるストレス障害に分類されます。

だれでも、新しい環境に慣れて社会適応するためには、多かれ少なかれ苦労をしたり、いろいろな工夫や選択をする必要に迫られることはよくあることです。それがうまくいかなくなった場合には、会社では職場不適応、学校では登校拒否(不登校)、家庭では別居あるいは離婚などといった形で現れます。

ストレス学説によれば、心理社会的ストレス(環境要因)と個人的素質(個人要因)とのバランスの中で、いろいろなストレス反応である心理反応、行動反応、身体反応が生じますが、これらは外界からの刺激に適応するための必要な反応です。ところが、ストレスが過剰で長く続く時、個人がストレスに対して過敏である時に、このバランスが崩れてさまざまな障害を来すようになります。

適応障害の発症に関しては、個人的素質が大きな役割を果たしていますが、もし外的ストレスがなければこの状態は起こらなかったと考えられることが、この障害の基本的な概念です。つまり、外的ストレスの源がはっきり指摘できる場合にのみ、適応障害と診断されます。症状が現れるのに先立って、日常的ではあるが個人にとっては重大な環境の変化である就職、就学、独立、転居、結婚、離婚、失業、経済的困難、重い病気、子離れ、親別れなどがあります。

適応障害の症状はいろいろで、不安、抑うつ、焦燥、過敏、混乱などの情緒的な症状、不眠、食欲不振、全身倦怠(けんたい)感、易疲労感、頭痛、肩凝り、腰痛、腹痛、吐き気、動悸(どうき)などの身体的な症状、業績や学力の低下、遅刻、欠勤、不登校、早退、過剰飲酒、ギャンブル中毒、暴力などの問題行動があります。そして、次第に対人関係や社会的機能が不良となり、仕事や学業にも支障を来し、引きこもってうつ状態となります。

精神科、心療内科以外の病院で身体的な症状のみを訴える場合、検査では確認できないため、適応障害が見過ごされることが多くなります。逆にいうと、不眠や頭痛、吐き気などの症状があるにもかかわらず、病院で異常なしといわれた場合、適応障害であることがあります。

軽度のうつ病と区別がつきにくく、放置しているとうつ病になることもあります。また、適応障害がもとで発生する身体的な異常は、自律神経失調症や心身症とも呼ばれます。

適応障害は比較的よくみられ、精神科受診者の約10パーセントとも見なされています。思春期、青年期に多く起こりますが、どの年代でも起こり得ます。男性より女性により多くみられ、性格がまじめで、忍耐強い人ほどかかりやすいとされます。

適応障害の検査と診断と治療

適応障害の診断には、次のような基準があります。

1、はっきりとした心理社会的ストレスに対する反応で、3カ月以内に発症する。2、ストレスに対する正常で予測されるものよりも過剰な症状。3、社会的または職業(学業)上の機能の障害。4、不適応反応はストレスが解消されれば6カ月以上は持続しない。そして、他の精神障害がないことが前提条件です。

適応障害のタイプとしては、その主要な症状によって以下のように分類されます。

1、不安気分を伴う適応障害:不安、神経過敏、心配、いらいらなどの症状が優勢。2、抑うつ気分を伴う適応障害:抑うつ気分、涙もろさ、希望のなさなどの症状が優勢。3、行為の障害を伴う適応障害:問題行動、人の権利の障害、社会規範や規則に対する違反行為などが優勢。4、情動と行為の混合した障害を伴う適応障害:情動面の症状(不安、抑うつ)と行為の障害の両方がみられるもの。5、身体的愁訴を伴う適応障害:疲労感、頭痛、腰痛、不眠などの身体症状が優勢。6、引きこもりを伴う適応障害:社会的引きこもりが優勢。

適応障害の治療では、まず原因となっている心理社会的ストレスを軽減することが第一です。環境要因を調整して適応しやすい環境を整えることや、場合によってはしばらく休職、休学して休養し、心的エネルギーを回復することが必要です。また、心理的葛藤(かっとう)に関してカウンセリングを受けて、混乱した情緒面の整理をすることや、社会適応へ向けての心理的援助を求めることも有効です。精神療法によるストレス脆弱(ぜいじゃく)性の体質改善も、効果があるといわれています。

不安を主とする場合は抗不安薬、うつ症状を主とする場合は抗うつ薬の服薬など、それぞれの病型に応じて薬物療法が必要な場合もありますが、薬物は期間を限って補助的に用いられます。

適切な治療で、多くは3カ月以内という短期間で回復します。しかしながら、適応障害の原因となっている心理社会的ストレスの軽減、あるいは除去が行われないことには、さまざまな症状が再発する可能性が高くなります。 ストレス因子がなくなった後も6カ月以上症状が続く場合は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や分類不能の重度のストレス障害、特定不能の不安障害などを考慮する必要もあります。

日常生活上の心掛けとしては、環境要因からの心理社会的ストレスにより、心身のバランスを崩した時に症状が現れてくるので、適度の休養を確保したり、気分転換を図ったりして、日頃からストレスをためないような工夫をする必要があります。適切な相談相手を持って一人でくよくよ考えないことや、人といかにうまく付き合い、その中でいかに自己実現するかというソーシャルスキルを身に着けることも有効です。

🇧🇴滴状乾癬

扁桃炎などに引き続いて、水滴くらいに小さい発疹が現れる皮膚疾患

滴状乾癬(てきじょうかんせん)とは、扁桃(へんとう)炎や風邪などに引き続いて、1センチほどの水滴状の赤い発疹(はっしん)が急速に現れる皮膚疾患。滴状類乾癬とも呼ばれます。

滴状乾癬は多くの場合、突然、発症します。扁桃炎や風邪などウイルスまたは溶連菌の上気道感染の1週間から3週間後に、腹部や背中、尻(しり)などの体幹や大腿(だいたい)部に水滴くらいから1センチ大くらいの赤い発疹が現れます。

この小さな赤い発疹は、体の狭い部分に限定して現れる場合もあれば、一度に多発して体中に広まって現れる場合もあります。

一見、乾癬という皮膚疾患、すなわち表皮の細胞の新陳代謝が異常に早くなり、皮膚の細胞が垢(あか)になる角化が早く進む皮膚疾患に、よく似ていることから乾癬の一種とされていますが、症状は比較的軽く、かゆみや痛みを感じることはほとんどありません。

乾癬との大きな違いは、発疹部に集まって血管に炎症を起こしている白血球のタイプの違いで、発疹を表面から見ただけではなかなか区別はつきません。

やがて、小さな赤い発疹の表面は、垢(あか)のような銀白色の鱗屑(りんせつ)となり、その一部がポロポロとはがれ落ちます。

いったん滴状乾癬を発症すると、再発を繰り返し慢性化しやすいのですが、一度出た一つ一つの小さな赤い発疹はそう長続きせず、すぐに治る傾向にあります。再発を繰り返すと、新しい発疹と古い発疹が皮膚に混在し、古い発疹は色素沈着や、皮膚の一部の色が白く抜け落ちる白斑(はくはん)を残すことがあります。

再発を繰り返す傾向がある一方、扁桃炎や風邪がよくなると症状も改善し、自然に治癒することもあります。しかし、時には、滴状乾癬から移行して、乾癬を発症することもあります。

滴状乾癬は、男女を問わず子供から30歳未満の成人に、比較的多くみられる傾向が強いのが特徴です。

自然に治癒することもありますが、もちろん治療を受けたほうが早く治るため、滴状乾癬の症状に気が付いたら早めに皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診したほうがよいでしょう。

滴状乾癬の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断は、乾癬の場合と同じように、特徴的な発疹とその分布、経過から判断します。細菌検査をすると、溶連菌、インフルエンザ菌などが検出されることがあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、軽い場合は、炎症を抑制するステロイド(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)の外用剤を用います。多くは1カ月から3カ月で治癒します。

発疹の範囲が広くて目立つ場合は、内服剤を用いたり、紫外線治療を行います。

内服剤には、かゆみに有効な抗アレルギー剤から、炎症を抑制するステロイド剤や免役抑制剤まで、多くの選択肢があります。滴状乾癬の原因が感染症であった場合、内服剤の服用によって感染が終息すれば、多くは数週間で治癒します。

紫外線治療には、波長や使用する薬の違いにより、PUVA(プーバ)療法、UVB療法、ナローバンドUVB療法などがあります。

2022/08/10

✍手首トンネル症候群

手首にある手根管というトンネル内で神経が圧迫されて、手や指がしびれ、痛みが起こる疾患

手首トンネル症候群とは、手首の手のひら側にある骨と靭帯(じんたい)に囲まれた手根管(しゅこんかん)というトンネルの中で、神経が慢性的な圧迫を受け、しびれや痛み、運動障害を起こす疾患。手根管症候群、カーパルトンネル症候群とも呼ばれます。

手根管は、手関節部にある手根骨と横手根靱帯で囲まれた伸び縮みのできない構造になっており、その中を1本の正中神経と、9本の指を動かす筋肉の腱(けん)が滑膜性の腱鞘(けんしょう)を伴って通っています。

初期には人差し指、中指がしびれ、痛みが出ますが、最終的には親指から薬指にかけての親指側にしびれ、痛みが出ます。

このしびれ、痛みは明け方に強く、目を覚ますと指がしびれ、痛みます。ひどい時は夜間の睡眠中に、痛みやしびれで目が覚めます。この際に手を振ったり、指を曲げ伸ばしすると、楽になります。手のこわばり感もあります。

進行すると親指の付け根の母指球筋という筋肉がやせてきて、親指と人差し指できれいな丸(OKサイン)ができなくなります。細かい作業が困難になり、縫い物がしづらくなったり、細かい物がつまめなくなります。

原因が見いだせない特発性というものが多く、原因不明とされています。妊娠期や出産期、更年期の女性に多く生じるのが特徴で、骨折などのけが、仕事やスポーツでの手の使いすぎ、腎不全のために人工透析をしている人などにも生じます。腫瘍(しゅよう)や腫瘤(しゅりゅう)などの出来物でも、生じることがあります。

妊産婦と中年の女性にはっきりした原因もなく発症する特発性の手首トンネル症候群は、女性のホルモンの乱れによる滑膜性の腱鞘のむくみが誘因と考えられ、手根管の内圧が上がり、圧迫に弱い正中神経が偏平化して症状を示すと見なされています。けがによるむくみや、手の使いすぎによる腱鞘炎などでも、同様に正中神経が圧迫されて症状を示すと見なされています。

最近では、パソコンの使用者が多いアメリカや日本で、手首トンネル症候群が女性を中心に増えていることが注目されています。パソコンは、手首を不自然な位置に置いたまま動かします。そして、長い時間キーを打ち、マウスを操作することは、手首に大きな負担をかけます。また、キーを打つ際に、無意識に力を入れている人もいます。こうして特定の筋肉や腱だけを繰り返し使うことで、手首を傷めてしまうのです。

パソコン作業者だけでなく、レジスター係、食肉加工業者、電気機器組み立て工、建築施工業者、板金工、自動車修理工、調理員、包装・箱詰め作業者、音楽家、針仕事・編み物作業者、農業従事者、歯科衛生士なども、仕事での手の使いすぎによって手首トンネル症候群を発症する可能性がある職業です。

指にしびれ、痛みがあり、朝起きた時にひどかったり、夜間睡眠中に目が覚めるようなら、整形外科を受診することが勧められます。

手首トンネル症候群の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、手首の手のひら側を打腱器などでたたくとしびれ、痛みが指先に響きます。これをチネル(ティネル)サイン陽性といいます。手首を手のひら側に最大に曲げて保持し、1分間以内にしびれ、痛みが悪化するかどうかをみる誘発テストを行い、症状が悪化する場合はファレンテスト陽性といいます。母指球筋の筋力低下や筋委縮も診ます。

補助検査として、電気を用いた筋電図検査を行い、手根管を挟んだ正中神経の伝導速度を測定します。正中神経を電気で刺激してから筋肉が反応するまでの時間が、手首トンネル症候群では長くなります。知覚テスターという機器で感覚を調べると、手首トンネル症候群では感覚が鈍くなっています。 腫瘤が疑われるものでは、エコーやMRIなどの検査を行います。

首の病気による神経の圧迫や、糖尿病性神経障害、手指のほかの腱鞘炎との鑑別も行います。

整形外科の医師による治療では、消炎鎮痛剤やビタミンB12などの内服薬、塗布薬、仕事やスポーツの軽減、手首を安静に保つための装具を使用した局所の安静、腱鞘炎を治めるための手根管腱鞘内へのステロイド剤注射など、保存的療法が行われます。

保存的療法が効かない難治性のものや、母指球筋のやせたもの、腫瘤のあるものなどは、手術が必要になります。以前は手のひらから前腕にかけての大きな皮膚切開を用いた手術が行われていましたが、現在はその必要性は低く、靭帯を切って手根管を開放し、神経の圧迫を取り除きます。手根管の上を4~5cm切って行う場合と、手根管の入り口と出口付近でそれぞれ1~2cm切って内視鏡を入れて行う場合とがあります。

とりわけ母指球筋のやせたものは、手術を含めた早急な治療が必要となります。母指球筋のやせた状態が長く続くと、手根管を開放する手術だけでは回復せず、腱移行術という健康な筋肉の腱を移動する手術が必要になります。

👏手湿疹(主婦湿疹)

水をよく使う主婦などの手に発症する皮膚炎

手湿疹(てしっしん)とは、主婦など水をよく使う人の手に起こる皮膚病。主婦湿疹、進行性指掌(ししょう)角皮症とも呼ばれます。

主婦だけに限らず、調理師、美容師、理容師など毎日、水仕事をする男女にもみられます。そのほかに、紙を頻繁に扱う仕事を行っている人にもみられます。

原因は、水やお湯、洗剤やせっけん、食物の残りかすなどの物理的、化学的な刺激によって、手の表面を覆っている皮脂膜の脂が落ちることにあります。皮脂膜の脂は皮膚表面を刺激や乾燥から守る脂であり、これが落ちると角質の表面の水分保有力が低下し、外的刺激に対する抵抗力が弱くなるために、皮膚炎が生じます。

しかし、同じ程度の水仕事をしていても全く症状の出ない人もおり、皮膚表面の角質の水分保有能力の悪い体質の人、生まれ付きの過敏症であるアトピー性体質の人に生じやすいと考えられています。

手湿疹には、湿潤型と乾燥型という2つのタイプがあります。湿潤型は、小さな赤い発疹や水膨れができるのが特徴です。多少じくじくし、かゆみを伴います。指の腹や手のひらから発症することが多く、手の甲にも症状がみられます。

乾燥型は、皮膚がカサカサして皮がむけ、ひどくなるとひび割れが生じます。指紋が消える、皮膚が硬くなるなどの症状もみられます。かゆみよりも、ヒリヒリした痛みを伴います。個人差はありますが、利き手の親指、人さし指、中指などよく使う指先から症状が始まり、次第に手のひら全体に広がっていくこともあります。

一般には、空気が乾燥した冬に悪くなり、暖かい夏には軽くなりますが、なかなか治らず、通年で悩まされる人も少なくないようです。

手湿疹の検査と診断と治療

手湿疹(主婦湿疹)の治療では、皮膚表面の皮脂膜が食べ物で補えないため、手指の休息と保護が最も大切です。

湿潤型と乾燥型では、治療法が異なります。湿潤型や、特に症状が強い部位には、市販のステロイド外用剤を使用します。乾燥型は、市販の保湿剤による治療がベースとなります。刺激物が入っていないワセリンか、保湿に優れている尿素やヘパリン類似物質などを、皮膚の症状に合わせて使用します。また、保湿成分の入った化粧品や入浴剤を合わせて使うと、より効果的です。

湿潤型と乾燥型が混在している場合には、保湿剤を塗った上に、炎症症状がある部位にのみステロイド外用剤を使うようにします。保湿剤は一日に何度使ってもよいので、水仕事の後に繰り返し塗り、刺激や乾燥から手を守ります。ステロイド外用剤は1日2回、朝と入浴後に塗ります。用法をきちんと守れば、ステロイド外用剤は安全に使える薬です。

また、水仕事をする時には、薄い木綿の手袋をした上からゴム手袋をするとよいでしょう。木綿の手袋は、ゴムの刺激から皮膚を守ります。

通気性がよく、皮膚を保護してくれる木綿の手袋をさまざまな場面で活用すれば、症状の改善を助けることになります。水仕事以外の家事で、洗濯物を干したり、布団の上げ下げをしたり、掃除機をかける時でも、木綿の手袋をします。夜寝る際には、保湿剤をたっぷり塗って木綿の手袋をすれば、保湿剤の浸透がよくなる上、寝ているうちに無意識にかいて炎症を悪化させるのも予防できます。肌寒い日や乾燥している日は、手袋をして外出します。

皮膚の負担を軽くするために、洗剤やシャンプー、ボディーソープ、せっけん、ハンドソープなどは、低刺激性のものを選ぶようにします。食器洗浄機などの機器を利用したり、症状が強い時は上手に手を抜いたり、家族に手伝ってもらうことも大事です。

薬物療法と生活改善によって手湿疹が治っても、根本原因である刺激や乾燥を減らさなければ再発します。手の皮膚を保護する生活を習慣にし、炎症が起こり始めたら早めに治療を行います。

🏋鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血とは、体内の鉄が不足することにより、赤血球の中に含まれているヘモグロビン(血色素)の産生が不十分になって、発症する貧血です。

その貧血とは、赤血球中のヘモグロビンの量が減少したり、血液中の赤血球の数が減少した状態をいいます。原因によりいくつかの種類がある中で、最も多いのが鉄欠乏性貧血。

ヘモグロビンは肺から各臓器や組織に酸素を運び、不必要になった二酸化炭素を持ち帰って、肺から外に出すなど重要な働きをしていますので、ヘモグロビンの産生が不足すると、全身に運ばれる酸素の量が減少し、体が酸素不足になってさまざまな症状が起きてしまいます。

貧血の症状としてみられるのは、めまい、立ちくらみ、頭が重い、頭痛、耳鳴り、顔色が悪い、唇の色が悪い、肩や首筋が凝る、動悸(どうき)、 息切れ、むくみ、疲れやすい、体がだるい、手足が冷える、注意力が散漫になる、などです。

鉄欠乏性貧血を発症する原因として、以下のものが考えられます。

出血が原因:傷などによる一過性の出血だけでなく、胃・十二指腸潰瘍(かいよう)や痔(じ)、子宮筋腫(きんしゅ)、胃や大腸のがんなどで、持続的あるいは反復的に出血がみられると、少しずつ鉄分を失います。

食生活が原因:偏食やダイエットなどで、食物からの鉄分の摂取が不足するような栄養バランスの悪い食事をしていると、発症します。

激しい運動が原因:スポーツなどで激しい筋肉運動をする人は、赤血球が早く壊されて鉄分が不足しがちになります。

不規則勤務が原因:体内の鉄分は夜になると減少するため、深夜勤や不規則勤務に就いている人は、同じ食事をしていても貧血になりやすくなります。

鉄欠乏性貧血は、生活習慣の改善によって予防することができます。まず、無理なダイエットや不規則な食事を改め、鉄分の多い食品を積極的に摂取します。成人男性は鉄分を1日約12~15mg、成人女性は15~20mgの摂取を心掛けたいもの。女性は月経や妊娠、授乳のため鉄分が失われやすいので、男性より多くを必要とします。

鉄分を多く含む食品は、大豆、大豆製品、レバー、ひじき、もずく、のり、あさり、かき、ほうれん草、小松菜、切干大根、いわし丸干し、牛もも肉、まぐろ赤身など。

たんぱく質を摂取することも、大切です。ヘモグロビンは鉄とたんぱく質でできているので、肉や魚、豆腐、卵などを適量食べましょう。また、ビタミンCは鉄の吸収を促進させる働きがあるので、野菜や果物なども食べるようにしましょう。緑茶や紅茶、コーヒーに含まれるタンニンを鉄分と一緒に取ると、鉄分の吸収が悪くなりますので、食事とは時間をずらして飲むといいでしょう。

医師による治療では、鉄剤を内服します。この鉄剤には、徐放性鉄剤と非徐放性鉄剤があります。徐放性鉄剤は、胃から腸にかけてゆっくりと鉄を放出して、少しずつ吸収されるため、胃粘膜への刺激は少なく、空腹時に飲むことができます。ただ、この製剤は胃酸がないと効果がないため、胃の切除を受けた人には使えません。非徐放性鉄剤は、胃を切除した人や胃酸の分泌が低下している高齢者、低酸症の人に吸収可能な薬剤です。

徐放性、非徐放性ともに主な副作用として、悪心、嘔吐(おうと)、食欲不振、腹痛、下痢、便秘などの胃腸障害を起こすことがあります。鉄剤を服用すると便が黒くなることがありますが、心配はいりません。貧血が改善されたからといって、医師の指示なしに服用をやめてはいけません。ヘモグロビンの量が正常になっても、その後2~3カ月は服用を継続する必要があります。

🎾テニス肘

テニスのストロークの繰り返し動作などで、利き腕の肘に起こる障害

テニス肘(ひじ)とは、ストロークの繰り返し動作などで慢性的に衝撃がかかることによって、利き腕の肘に炎症や痛みが起こる関節障害。

中年以降のテニス愛好家に生じやすいのでテニス肘と呼ばれていますが、テニスに限らず他のスポーツや手の使いすぎが原因となって、誰にでも発症する可能性がある関節障害でもあります。

このテニス肘には、バックハンドストロークで肘の外側を痛めるバックハンドテニス肘と、フォアハンドストロークで肘の内側を痛めるフォアハンドテニス肘とがあります。どちらもボールがラケットに当たる時の衝撃が、手首を動かす筋肉の肘への付着部に繰り返し加わることによって、微小断裂や損傷を来して起こると考えられています。

バックハンドテニス肘では手首を甲側に曲げる筋肉が骨に付いている上腕骨外側上顆(がいそくじょうか)に、フォアハンドテニス肘では手首を手のひら側に曲げる筋肉が骨に付いている上腕骨内側上顆に発生するため、正式にはそれぞれ上腕骨外側上顆炎、上腕骨内側上顆炎といわれます。

バックハンドテニス肘(上腕骨外側上顆炎)の発生頻度については、若年層で少なく、30歳代後半から50歳代に多いことがわかっています。

症状としては、バックハンドテニス肘ではバックハンドストロークのたびに肘の外側に、フォアハンドテニス肘ではフォアハンドストロークのたびに肘の内側に疼痛(とうつう)が現れます。また、テニス以外の日常生活でも、物をつかんで持ち上げる、タオルを絞る、ドアのノブを回すなどの手首を使う動作のたびに、肘の外側から前腕にかけて疼痛が出現します。多くの場合、安静時の痛みはありません。

この関節障害は、一定の動作を繰り返し行うことで症状を発症するオーバーユース症候群として知られています。しかし、テニスを始めたばかりの初心者であっても、症状を発症する可能性がないわけではありません。むしろ初心者の場合は、筋を痛めたような感覚、もしくは筋肉痛などと思い込み、痛みを抱えたままプレーを続けることで、症状を悪化させてしまうことに注意が必要となります。

また、男性と比べると筋力の弱い女性や、まだ体が完成していない子供にもテニス肘は多く発症する傾向にあります。これは、ゲーム中に強いサーブやボレーを打ちたいという思いから力みが生じて、フォームのバランスを崩し、関節に無理のあるフォームでのラリーが続くことが原因の一つになっています。

そして、スポーツ競技としては比較的長時間のゲームとなるテニス競技では、片手で軽く持てるラケットの重さも徐々にフォームの悪化を招く要因となります。

テニス肘の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、肘の外側または内側に圧痛が認められます。バックハンドテニス肘(上腕骨外側上顆炎)では、手首を甲側に曲げる動きで肘の外側に運動痛を生じます。

また、抵抗を加えた状態で手首を甲側に曲げてもらうトムセンテスト、肘を伸ばした状態で椅子を持ち上げてもらうチェアーテストなどの疼痛を誘発する検査を行い、肘外側から前腕にかけての痛みが誘発されたら、テニス肘と確定診断します。

整形外科の医師による治療法は、大きく分けて4つあります。1つは、肘の近くの腕をバンド状のサポーター(テニスバンド)で押さえること。2つ目は、肘を伸ばし手首を曲げて筋肉を伸ばすストレッチング、痛い所を冷やして行う冷マッサージ、超音波を当てるなどのリハビリテーションを行うこと。3つ目は、痛みや炎症を抑える飲み薬や湿布薬を使用する薬物治療を行うこと。4つ目は、炎症を抑えるステロイド剤の痛い部分への注射を行うこと。

同時に日常生活では、強く手を握る動作や、タオルを絞る、かばんを持ち上げるなどの動作をなるべく避けるようにします。物を持つ時には、肘を曲げて手のひらを上にして行うことを心掛けます。

このような治療で、大部分の人が6カ月ほどで治ると考えられます。しかし、痛みがよくならない難治性テニス肘では、手術を行う場合もあります。手術方法としては、伸筋腱(けん)起始部解離術、伸筋筋膜切開術、輪状靭帯(じんたい)や関節包の部分切除術、関節内の滑膜切除術などがありますが、成績にはっきりした差は認められていません。

テニス肘は再発性が極端に高い障害で、一度発症すると数年後、もしくは数カ月後に再発してしまうことも多くみられます。再発予防も含めたテニス肘の予防法としては、ラケットのガットを緩めにするなどのラケットの選択や、フォームの改良、テニスで使用する部位の筋肉強化や手首の筋力強化、前腕のストレッチング、サポーターの活用、テニス後の肘のアイシングなどが挙げられます。

🎾テニスレッグ

テニスをする人などに、ふくらはぎの腓腹筋の肉離れが起こる障害

テニスレッグとは、ふくらはぎの筋肉の1つである腓腹(ひふく)筋が肉離れを起こす障害。テニスをする人に起こりやすいことから、この呼称が付けられました。

ふくらはぎは、ヒラメ筋と腓腹筋で構成され、一般にはこの筋肉群を下腿(かたい)三角筋と呼んでいます。そのうち、膝(ひざ)の少し上の部分の大腿骨からかかとまでの間に大きく伸びている腓腹筋は、すねの部分の骨と足の骨をつないでいるヒラメ筋を覆う場所に位置しています。ヒラメ筋と腓腹筋の下端は合わさって、アキレス腱となっています。

構造上、腓腹筋は肉離れを起こしやすいのですが、これにテニスなどの運動中に強い張力が加わることで、筋肉の繊維や膜が伸ばされて損傷や断裂が生じるのです。つまり、原因は限界以上の張力が腓腹筋に掛かってしまうことです。

特に、コートを前後左右に激しく動くテニスでは、突発的な方向転換で地面をけり、足首に力を入れて強く踏み込む動作や、サーブのような足関節を背屈させて前方に重心を移動させる動作で、瞬間的に強い張力が掛かるため、腓腹筋の肉離れを起こしやすいといわれています。

ほかにも、急なダッシュやジャンプなどの動作が必要になる短距離走やハードル、バスケットボール、サッカーなどでも、テニスレッグを起こす可能性があります。運動不足の人では、日常的な動作で起こす可能性もあります。

テニスレッグを起こした際の主な症状は、急激に起こる痛みです。太ももなどほかの部位の肉離れと同様、非常に強い痛みが伴うために、運動の継続はもちろん、歩くことさえ難しくなります。

ようやく歩くことはできたとしても、ふくらはぎに負荷が掛かった途端に激しい痛みを感じることが多く、症状が重い場合には松葉杖(づえ)などが必要になってきます。

テニスをする人に注意が必要なのは、加齢とともにテニスレッグのリスクが高くなることで、多くは中高年にみられます。若いころと同じ感覚でふくらはぎに負荷をかけると、たちまち症状に見舞われるケースもあります。

テニスレッグは復帰に時間がかかる障害なので、なるべく早期に整形外科を受診して治療を受け、復帰に向けたリハビリに多くの時間が割けるようにするのがポイントです。

テニスレッグの検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、受傷時の状況と症状から、テニスレッグを疑います。腓腹筋の損傷や筋膜の断裂の確定診断には、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査や超音波(エコー)検査が有効です。

整形外科の医師による治療では、原則、保存療法で対処しますが、どの部位の肉離れでも発生時にはアイシングと圧迫が必要になります。その上で圧迫のためのテーピング固定や弾性包帯での固定を行い、筋肉の繊維が修復するのを待ちます。

損傷の大きさにもよりますが、1~2週間程度は固定します。痛みが取れ始めたら、ストレッチで筋肉を動かしていき、筋肉の柔軟性を取り戻します。

部分断裂(筋損傷、筋膜断裂)のほとんどの症例は1カ月程度で治りますが、完全断裂(筋断裂)では長期に及んだり、手術を行って筋肉を縫い合せることもあります。

テニスレッグの予防には、筋肉を柔軟にするストレッチが大変有効です。ウオーミングアップ時だけでなく、クールダウン(クーリングダウン)の時も行うことで、より高い効果が期待できます。寒い日や筋肉が疲労している時などは、特に注意が必要です。

2022/08/05

🇦🇺出べそ

生後間もなくへその緒が取れた後、へそが飛び出してくる状態

出べそとは、生後間もなくへその緒が取れた後に、へそが飛び出してくる状態。乳幼児期特有の疾患で、正式には臍(さい)ヘルニアと呼ばれます。

へその緒(臍帯)が取れた生まれて間もない時期には、まだへその真下の臍輪が完全に閉じていないために、乳児が泣いたり息んだりして腹に圧力が加わった時に、筋肉の透き間から腸管が皮下に飛び出してきて、へそが膨らんだ出べその状態となります。

触れると柔らかく、圧迫するとグジュグジュとした感触で簡単に腹の中に戻りますが、乳児が再び泣いたり息んだりして腹に圧力が加わると、すぐに元に戻ってしまいます。腸管が腹腔(ふくくう)内に入ったり、出たりする結果です。

臍帯付着部の臍輪の閉鎖不全が、原因です。臍輪の下方には正中(せいちゅう)臍靭帯(じんたい)、外側(がいそく)臍靭帯があり、上方には肝円(かんえん)靭帯があります。特に、臍上部が弱く、出生までに臍輪が閉じられない場合に、出べそが発症します。

この出べそは、新生児の5~10人に1人、出生体重1000〜1500グラムの未熟児の80パーセント以上にみられるといわれています。生後3カ月ころまで大きくなり、ひどくなる場合は直径が3センチ以上にもなることがあります。しかし、4カ月ころには日1日と急速に小さくなり、ほとんどの出べそは左右の腹直筋が発育してくる1〜2年の間に完全に臍輪が閉じて、自然に治ります。

ただし、1~2歳を超えても出べそが残っている場合や、ヘルニア(脱腸)は治ったけれども皮膚が緩んでしまって、へそが飛び出したままになっている場合には、手術が必要になることがあります。

出べそで痛みがある場合は、大網(だいもう)がヘルニア嚢(のう)に癒着しているためと考えられます。大網とは、胃の下部から垂れて腸の前面を覆う薄い膜で、ヘルニア嚢とは、飛び出してくる腸管を包む腹膜です。乳幼児の出べそでは、腸管がヘルニア嚢内に陥入し、腸管血行障害を起こす嵌頓(かんとん)は極めてまれです。

出べその検査と診断と治療

1~2歳を超えても出べそ(臍ヘルニア)が残っている場合や、出べそは治ったけれども皮膚が緩んでしまって、へそが飛び出したままになっている場合には、小児外科の専門医を受診します。

医師が指で圧迫すると、腸管はグル音という腹腔内に戻る時の音を伴い、簡単に還納できることで、確定診断ができます。

乳幼児期に自然に治る可能性が高いので、まずは手術はせずに外来で経過観察します。腸が腐る危険はまずありませんし、どんなに大きくても皮膚が破裂することもありません。へその形をよくする意味で、絆創膏(ばんそうこう)固定を行う医師もいます。

生後1年以内に、80〜95パーセントは自然に治ります。2歳までに治らなければ、外科的治療を行います。臍輪の穴を閉じるとともに、へそのへこみを人工的に作ります。成人の場合は、出べそ内に腸管嵌頓が起こる頻度が高いので、発見次第、外科的治療を行います。合併症がなければ、予後は良好です。

🇨🇺デュプイトラン拘縮

主として薬指や小指が次第に曲がって変形する疾患

デュプイトラン拘縮は 手のひらや指の腱膜(けんまく)の肥厚と収縮によって、主として小指や薬指が次第に曲がって変形する疾患。この疾患名は詳しく調べたフランスの外科医ギョーム・デュプイトラン男爵(1777〜1835年)に由来しており、デュプイトラン病、デュピュイトラン拘縮とも呼ばれます。

日本人には比較的少ないものの、中年すぎの50~60歳での発症が時々みられ、5対1の割合で男性に多く、半数以上は両手に起こります。

北欧系の白人に多く黒人に少ないため遺伝的な素因が疑われていますが、はっきりした原因はまだ明らかにはなっていません。長期に渡るアルコール依存、抗てんかん薬(バルビタール)常用が危険因子の一つとされ、糖尿病、頸椎(けいつい)症、ペロニー病(陰茎形成性硬結症)などに合併して起こると指摘されています。一説には、手掌(しゅしょう)腱膜への小外傷の繰り返しで生じるのではないかと考えられています。

指が曲がって伸ばせないという状態は関節の疾患によっても起こりますが、デュプイトラン拘縮では皮膚の下にある線維性の手掌腱膜に病的な硬いしこり(結節)が生じて、しこりの数と大きさが増し、これが索状に指へと広がって、指の皮膚や腱を覆う腱膜までつながります。この索状物は弾力性がなく、指の皮膚が引っ張られるため、皮膚が引きつれ指が曲がります。この際、指の神経や血管を螺旋(らせん)状に巻き込んでいく場合もあります。

病的な索状物の広がり方により、指の根元が曲がる場合、第2関節が曲がる場合、両方とも曲がる場合があります。小指や薬指、中指に起こりやすく、人差し指や親指は程度の軽いことが多いと見なされています。

時に軽く痛むこともありますが、ほとんどは痛みを伴いません。進行すると指が伸びないために、洗顔などの際に指がじゃまになったり、指を引っ掛けやすい、両手を合わせにくい、大きな物を持ちにくいなどの生活上の支障が生じます。指を曲げる屈筋腱を始め手指の腱は影響を受けず、握力の低下は原則的には起こりません。指の第2関節が曲がった状態が長く続くと、関節自体の拘縮が起こります。

足底腱膜や陰茎の皮下に、同じようなしこりができることもあります。症状に気付いた際は、整形外科の医師にご相談下さい。

デュプイトラン拘縮の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、小指、薬指の手のひらの部分に皮下結節があり、典型的な指の変形、皮膚の引きつれがみられれば確定できます。ただし、腱の断裂や癒着、腫瘍(しゅよう)などのほかの疾患と区別する必要があります。診断の際には、足の裏の所見にも注意します。特別な検査は、ありません。

指の変形が軽いうちは、手指を伸ばす装具を着けて矯正できることがあります。

指の根元の曲がりが強く、動きにくくなって日常生活に支障を来すようになると、薬物療法や注射は治療効果がないため、手術が必要となります。おおよその手術の適応は、手のひらを机にピッタリ着けられるかどうかを試し、浮いてピッタリ着かなくなったころと考えられます。

一方、第2関節が曲がってきた場合には、関節自体の拘縮も生じやすく、進行してから手術をしても関節可動域が完全に改善しないこともあるので、早めの手術が必要になります。

手術では、厚くなった手掌腱膜を切除します。皮膚自体も短縮しているので、皮膚をジグザグに切開して縫い直すZ形成術などを同時に行い、皮膚を延長します。皮膚移植を行う場合もあります。

皮膚の壊死(えし)や、指の神経血管束が硬縮した結節に巻き込まれている場合、手術後に指の知覚障害を生じることがあります。また、ごくまれに複合性局所疼痛(とうつう)症候群を合併することがあります。

手術後には、リハビリや、装具による夜間伸展位固定などの後療法が行われます。手術後の拘縮の程度により、1〜3カ月程度のリハビリが必要なこともあります。

🇨🇺デュプレー病

石灰化したカルシウムが肩腱板内に沈着することで炎症が生じ、肩の痛みが起こる疾患

デュプレー病とは、石灰化したカルシウムが肩腱板(かたけんばん)内に沈着することにより炎症が生じ、肩の痛みが起こる疾患。石灰沈着性腱板炎、肩石灰沈着性腱炎、石灰沈着性腱炎、石灰性腱炎とも呼ばれます。

デュプレー病という疾患名は、最初に報告したフランス人のデュプレーにちなみます。

肩腱板は肩関節で上腕を保持している筋肉と腱の複合体であり、肩関節は肩甲骨と上腕骨で構成される関節です。

デュプレー病は、40歳代から60歳代の女性に多く発症します。肩を強く打つなどの思い当たる切っ掛けもなく、片側の肩の激しい痛みを夜間などに突然、覚えます。急激に痛みが増してきて、睡眠が妨げられるほどになります。また、肩の痛みのため可動域の制限がみられ、肩の挙上ができなくなります。

強い症状が発症後1~4週みられる急性型、中等度の症状が1~6カ月続く亜急性型、運動時痛などが6カ月以上続く慢性型があります。慢性型では、急性期の激痛が消失した後にも肩関節の硬さが残って、関節の可動域の低下を起こし、肩関節周囲炎(五十肩)と同じような状態になります。

石灰化したカルシウムはリン酸カルシウムの結晶で、その肩腱板内への沈着は、肩腱板の加齢による変性と、女性ホルモンの分泌減少の影響によって起こると考えられています。

体内のカルシウムは腸で吸収されて、骨を丈夫にするために使われ、不要な分のカルシウムは尿とともに排出されて、常に一定量が体内に残るようにバランスがとられています。しかし、女性では30歳代をピークに、徐々に骨量が落ちてきます。女性ホルモンの分泌減少に伴って、破骨細胞の働きが増し、骨の代謝のバランスが崩れて、骨からたくさんのカルシウムが血中に放出される結果です。

その放出されたカルシウムの多くは尿とともに体外に放出されますが、一部は腱や靭帯(じんたい)、血管壁に沈着していくことになります。腱の中に沈着する石灰化したカルシウムに対して、体は異物と認識して反応するために炎症が生じ、痛みが起こることになります。

石灰化したカルシウムは当初、濃厚なミルク状で、時がたつにつれ、練り歯磨き状、石膏(せっこう)状へと硬く変化していきます。石灰化したカルシウムがどんどんたまって、膨らんでくると、痛みが増してきます。そして、肩腱板から関節の周囲にある滑液包内に、石灰化したカルシウムが漏れ出す時に激痛となります。

デュプレー病の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、肩の圧痛の部位や肩関節の動きの状態などを調べ、肩関節周囲炎(五十肩)の症状とよく似ているため、X線(レントゲン)撮影によって肩腱板部分に石灰化したカルシウムの沈着を確認することによって、デュプレー病(石灰沈着性腱板炎)と確定します。

石灰沈着の位置や大きさを調べるために、CT(コンピューター断層撮影)検査や超音波検査なども行います。肩腱板断裂の合併を調べるために、MRI(磁気共鳴画像)検査も行います。

整形外科の医師による治療では、急性例では、激痛を早く取るために、肩腱板に注射針を刺して沈着した石灰化部分を破り、ミルク状の石灰を吸引する方法がよく行われています。三角巾、アームスリング(腕つり)などで安静を図り、消炎鎮痛剤の内服、水溶性副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)と局所麻酔剤の滑液包内注射などが有効です。

一般に行われている治療法ではありませんが、胃潰瘍(かいよう)治療薬のシメチジンに、石灰を吸収し痛みを軽減する作用があるともされています。

ほとんどの場合、保存療法で軽快します。時間がたつとともに、滑液包内に漏れ出た石灰を自然に修復しようとする体の反応により、石灰化部分が小さくなってきます。このころには肩も動かせるようになり、日常でも支障のない程度まで回復します。しかし、完全に石灰化部分が修復されるまでには、2~3カ月かかります。

亜急性型、慢性型では、石灰沈着が石膏状に固くなり、時々強い痛みが再発することもあります。硬く膨らんだ石灰化部分が肩の運動時に周囲と接触し、炎症が消失せず痛みが続くこともあります。痛みが強く、肩の運動に支障がある場合、関節鏡視下による手術で石灰化部分を摘出することもあります。確実に摘出されると治療効果は速やかに認められ、ほとんどの場合1〜2週間以内に肩の挙上が可能となります。

肩の痛みが取れたら、ホットパック、入浴などによる温熱療法や、拘縮を予防したり筋肉を強化する運動療法などのリハビリを行います。

🇧🇸転移性眼内炎

体のほかの部位に感染していた細菌や真菌が目の中に転移して、炎症を引き起こす眼病

転移性眼内炎とは、目以外の体の部位に感染していた細菌や真菌(カビなど)が血流に乗って目に波及し、炎症を引き起こす眼病。内因性眼内炎とも呼ばれます。

転移性眼内炎のほとんどは、糖尿病を患っている、抗がん剤投与を受けている、肝臓や心臓に感染症を起こしている、体が弱り免疫力が落ちている、血管内カテーテル(栄養のチューブ)が挿入されているなどで起こります。

症状としては、 ひどい目の痛み、明るい光の非常なまぶしさ、充血、目やに、急な視力低下、視力の部分的な欠損があり、視力の完全な欠損によって失明を起こすこともあります。

真菌による転移性眼内炎の場合は、目の症状が出る前に発熱することが多く認められます。発熱のほかに全身症状が出ることもあります。続いて1週間前後で、目の前に蚊など小さい物が飛んでいるように見える飛蚊(ひぶん)症や、視界に霧がかかっているように見える霧視などの症状が出ます。

症状が出たら、早めに眼科を受診します。真菌によるものは、飛蚊症が出た時期に眼科的な検査を行い適切な薬剤を使用すると、ほとんどのケースで治癒します。

しかし、細菌によるものは数時間から数日の単位で、真菌によるものは数日から数週間の単位で進行し、重症になった場合は、最大限の治療を施しても目を救えないこともあります。

転移性眼内炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、眼球の検査の前に、問診で全身的な要因の有無や、血管内カテーテルの使用有無、発熱の有無を確認します。

続いて、目の表面を拡大して見る細隙灯(さいげきとう)顕微鏡を用いて眼球を丹念に調べます。さらに、分泌液の培養検査を行います。場合によっては、抗体検査やDNA検査も行います。

分泌液の培養検査では、眼球内の前方にある液体である房水や、眼球後部の内部にあるゼリー状の組織である硝子体(しょうしたい)から採取し、感染の原因菌を早急に特定するとともに、どの薬剤が最も有効かを調べます。

眼科の医師による治療では通常、視力を守るために、抗菌剤または抗真菌剤による治療を直ちに開始します。極端な場合、数時間の遅れが、回復不可能な視力の低下につながることがあります。

眼内炎の原因であると判明した菌に応じて、抗菌剤や抗真菌剤の選択を調整することがあります。抗菌剤や抗真菌剤は、眼内注射、あるいは静脈内注射、または経口で投与します。

抗菌剤や抗真菌剤を眼内に注射した後、数日間にわたって痛みを和らげるコルチコステロイド剤を経口で投与することもあります。感染を食い止める確率を上げるため、眼球内部の感染組織を取り除く手術を行うこともあります。

🇧🇸伝音難聴

音を伝える外耳、中耳、鼓膜の障害による難聴

伝音(でんおん)難聴とは、音を聴神経へ伝える外耳、中耳、鼓膜に障害が生じたために起こる難聴。伝音性難聴とも呼ばれます。

聴力が低下した状態である難聴は、この伝音難聴、感音(かんおん)難聴(感音性難聴)、混合難聴(混合性難聴)の3つに大きく分けられます。

感音難聴は、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こる難聴。突発性難聴や騒音性難聴の場合も、感音難聴に含まれます。混合難聴は、伝音難聴と感音難聴の両方の特徴を併せ持った難聴。多くの老人性難聴は混合難聴ですが、どちらの度合が強いかは個人差が大きいといえます。

また、難聴の度合は一般的に、平均聴力レベルが20デシベルまでを、ささやき声もよく聞こえる正常聴力として、40デシベルまでを、小声が聞きにくい軽度難聴、70デシベルまでを、普通の声が聞きにくい中度難聴、70デシベル以上を、大きな声でも聞きにくい高度難聴、90デシベル以上を、耳元での大きな声でも聞こえない重度難聴、100デシベル以上を、通常の音は聞こえない聾(ろう)に分けます。

伝音性難聴は、空気の振動として耳に入ってくる音が外耳の一部である外耳道や、外耳と中耳の境目にある鼓膜、中耳内にある耳小骨を震わせて振動を伝えていく部分に、障害が生じたために起こります。音が十分に伝わっていかないため、音が鳴っていること自体を把握することが難しい性質を持っています。

通常、伝音性難聴による聴力の低下は70デシベルを超えることはなく、これだけで高度難聴になることはありません。例えば、耳栓をしても大きな音は聞こえてしまいますし、どんなに耳に蓋(ふた)をしても全く外部の音が聞こえなくなることはありません。

これは通常の外耳から内耳を通じる経路ではなく、大きな音が直接頭蓋骨(ずがいこつ)を振動させることによって、内耳のリンパ液が振動して有毛細胞という感覚細胞が興奮し、音を知覚することになるからです。

中耳炎などを患った場合に、伝音難聴になりやすいことが知られています。原因となる疾患には、急性中耳炎や慢性中耳炎を始めとする各種の中耳炎や、耳垢栓塞(じこうせんそく)、外耳道閉鎖症、耳管狭窄(きょうさく)症、鼓膜裂傷、耳硬化症、耳の腫瘍(しゅよう)などがあります。

伝音難聴は、音を感じる内耳から聴覚中枢路には異常がなく、聞こえのゆがみなどは起こらないため、原因となる疾患に応じた医学的な治療を受けることにより、聴力を回復させることができます。もし回復しない場合でも、耳に入る音を大きくできれば聞こえがよくなるため、補聴器の効果が期待できるタイプの難聴です。

伝音難聴の検査と診断と治療

耳鼻咽喉(いんこう)科の医師による診断では、一般的に鼓膜の観察や聴力検査を行ったり、耳管の通り具合を調べます。例えば、急性中耳炎では、鼓膜を検査し、その色、はれ具合から簡単に診断がつきます。外耳道炎を併発し、外耳道がはれて見えにくい時は、診断がやや難しいことがあります。慢性中耳炎では、鼓膜の穿孔、耳垂れの有無を調べるため、耳垂れの細菌検査、CTを含む耳のX線検査、聴力検査を行います。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、伝音難聴を起こす原因となる疾患に応じた治療を行います。

例えば、急性中耳炎では、全例にアモキシシリンなどの抗生物質による治療を行います。自然に治癒するか、悪化するかどうかを予測するのが、難しいためです。アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬は、痛みを和らげます。フェニレフリンが入ったうっ血除去薬も、効果があります。抗ヒスタミン薬は、アレルギーによる中耳炎の場合は有効ですが、風邪による中耳炎には効果はありません。

痛みや熱が激しかったり、長引く場合、また鼓膜のはれがみられる場合には、鼓膜切開を行って、耳垂れを中耳腔(こう)から排出します。鼓膜を切開しても聴力に影響はなく、切開した穴も普通は自然にふさがります。中耳炎を繰り返し起こす場合は、鼓膜を切開して、耳だれを排出する鼓膜チューブを設置する必要があります。

慢性中耳炎では、抗生物質で炎症を抑え、耳垂れを止めます。しかし、鼓膜の穿孔や破壊された中耳はそのまま残ることが多く、また、真珠腫性中耳炎では普通の治療では治りにくいので、手術が必要です。

鼓膜の穿孔をふさぎ、疾患で破壊された、音を鼓膜から内耳に伝える働きをする耳小骨をつなぎ直せば、聴力は改善できます。これを鼓室形成術といい、細かい手術のため手術用の顕微鏡を使って行います。

伝音難聴の中でも、特に症状がひどく、補聴器を用いてもほとんど聞こえないような慢性穿孔性中耳炎の場合には、人口中耳と呼ばれる高感度の補聴器を中耳に植え込む手術も開発されています。

伝音難聴は感音難聴に比べると治療による効果が出やすく、補聴器を使用することによって聞き取りやすくなる傾向も持っています。補聴器で音を大きくすることで、かなり聞こえるようにもなるので、補聴器を使用すれば生活しやすくなります。

🇯🇲てんかん

脳の神経細胞の一時的な機能異常で、発作が起こる疾患

てんかんとは、脳の神経細胞の伝達システムに一時的な機能異常が発生して、反復性の発作が起こる疾患。発作時には意識障害がみられるのが普通ですが、動作の異常、けいれんなどだけの場合もあります。こうした異常な症状が長期間に渡って何度も繰り返し現れるのが、この疾患の特徴です。

そのため、1回だけの発作だけでは、普通はてんかんと診断することは困難。場合によっては、脳波にどのような波が出ているかによって、1回の発作でてんかんの診断をつけることもあります。

脳の神経細胞(ニューロン)は、規則正しいリズムでお互いに調和を保ちながら電気的に活動しています。この穏やかなリズムを持った活動が突然崩れて、激しい電気的な乱れ(ニューロンの過剰発射)が生じることによって、てんかん発作が起きます。てんかん発作はよく、脳の電気的嵐(あらし)に例えられます。

日本全国の発症者は、推定100万人。乳幼児期から高齢期まで幅広く発症しますが、脳が発達途上にある3歳以下が最も多く、80パーセントは18歳以前に発症するといわれています。しかし、近年は人口の高齢化に伴い、高齢者の脳血管障害などによる発症が増えてきています。現在の医療では、適切な治療により70~80パーセントの人で発作のコントロールが可能であり、多くの人たちが普通に社会生活を営んでいます。20パーセントの人は、薬を飲んでも発作をコントロールできない状態で、難治性てんかんと呼ばれるものもあります。

てんかんの発作には、いくつかのタイプがあります。典型的な症状は、上下肢を突っ張って硬直させ、直後にガクガクと全身のけいれんを起こし、何分間か続いた後、完全に意識がなくなります。その後、短時間で意識が自然に戻ります。これを大発作といいます。大発作のようなはっきりしたけいれんはなく、数秒から数十秒ほどのごく短時間、ふっと意識が途切れる程度の発作が1日に何回も起こることがあり、これを小発作といいます。

大発作のような大きな手足のけいれんは起こらず、体の一部の筋肉がピクンと収縮を繰り返すのは、ミオクロニーてんかん(ミオクロニー発作)と呼ばれます。幻覚などが起きたり、もうろう状態になって口をモグモグさせたり、目的なく歩き回ったりして、それが数分で消失する型もあります。これは精神運動発作と呼ばれます。

てんかん発作を起こしやすい遺伝的な素因が関係している場合と、脳に障害や傷があるために起こる場合とがあります。一部のてんかんには発病に遺伝子が関係していたり、発作の起こりやすさを受け継ぐことが明らかになっていますが、そうしたてんかんの多くは良性であり、治癒しやすいようです。

原因がはっきりしている場合は、症候性てんかん、原因不明の場合には特発性てんかんと呼びます。症候性てんかんの原因には、出産時の仮死状態や低酸素による脳の障害や傷のほか、先天性の代謝異常や内分泌異常による脳の障害、脳炎、髄膜(ずいまく)炎、脳出血、脳梗塞(こうそく)といった疾患や、交通事故といった脳外傷による障害や傷があります。

また、発作は大きく分けると、全般発作と部分発作に分けられます。全般発作は発作の初めから脳全体に起因しているもの、部分発作は脳のある限られた場所から発作が始まるものです。全般発作では、初めから脳全体が電気の嵐に巻き込まれるので、最初から意識がなくなるという特徴があります。部分発作には、意識は保たれている単純部分発作、意識が消失する複雑部分発作、部分発作から始まって全身のけいれんが起こる二次性全般化発作があります。

てんかんの検査と診断と治療

てんかんの診断は、発作の様子を詳しく説明してもらうことから始まります。しかし、多くの発症者は発作が始まると意識が障害されることが多く、自分で発作の状態や状況を話すことができません。発作の状態、状況を知る家族や学校の先生、職場の人などの介助者、目撃者は、診察に同行し、医師に発作の状況を正確に伝えます。

てんかんの診断のために最も重要な検査は、脳波検査です。てんかんは脳の神経細胞の電気的発射によって起きますので、この過剰な発射を脳波検査で記録することができます。診断のみでなく、てんかんの発作型の判定にも役立ちます。何回検査しても安全ですし、痛みもありません。

脳波検査のほかにも、CT検査やMRI検査などは、脳腫瘍(しゅよう)や脳外傷などを画像で確認できるため有効です。PET/SPECT(脳機能画像)、MGE(脳磁図)なども、てんかんの検査に使われます。

血液検査、尿検査も、てんかんの診断に欠かせない検査。てんかんの発作はさまざまな原因で起こりますので、原因検索のために血液や尿の検査をします。また、慢性の疾患であるてんかんの薬物治療は、長期間に渡り薬を飲み続ける必要があるので、服用する前に体の状態を調べる必要があります。

てんかんであることがはっきりすれば、発作が繰り返されると脳の障害も進んでくるので、抗てんかん剤を服用して発作をコントロールします。抗てんかん剤は、脳の神経細胞の電気的な興奮を抑えたり、興奮が他の神経細胞に伝っていかないようにすることで、発作の症状を抑える薬のことをいいます。小児のてんかんの7~8割は、抗てんかん剤で正しく治療すれば発作を止めることができます。

抗てんかん剤は、てんかん発作型、年齢、性別などを考慮して選択します。選択の目安となる基準はありますが、どの薬をまず選択するかなどの細かな治療法は、医師の臨床経験、考え方によって、多少の違いがあります。選択された薬が適薬かどうかは、発作に対する効果と副作用の有無によって決まります。1種類の薬で発作を抑制する単薬療法が好ましい形ですが、1種類のみでは発作が抑制されない時には、2種類以上の薬を用いる多薬療法が行われます。

服薬した薬の量と吸収されて脳に届く薬の量は個人差があり、同じ割合ではありません。脳内の薬の濃度は直接測ることができないので、血液中の薬の濃度から間接的に脳内の濃度を推定します。血中濃度の測定は、適量の決定、副作用の予測や副作用が出た場合の対応、薬物の相互作用を知る上で大変有効です。

てんかんの治療では、長期間に渡る服薬が必要ですので、薬の副作用は特に重要な問題です。薬には発作の抑制に有効性がある反面、好ましくない効果があることも否めません。皮膚に発疹(はっしん)などのアレルギー反応が出る際には、速やかに服薬を中止する必要があります。 眠気、ふらつきなどが出る際には、薬の量を減らすことで和らげますし、1週間くらいで慣れる場合もあります。長く服薬し続けることで、肝臓機能低下、血液中の白血球減少、歯肉増殖、多毛、脱毛など体に気になる影響が出る際には、早めに医師に相談します。

薬物治療のほかにも、外科治療、食事療法などがあり、十分な服薬治療を行っても発作が抑制されない時に行います。例えば、難治性てんかんに対して、外科手術による治療を検討します。ただし、すべてのてんかんに外科治療が可能であるわけではなく、発作の始まる部分がはっきりしている部分発作で、その部分を切除しても障害が残らない場合に可能です。

てんかんの発作の原因や重症度、脳の障害の程度にもよりますが、適切な薬物療法によって、発作の消失、発作の回数を減少させることができます。また、発作が消失している期間が小児で2~3年、成人で5年以上続き、医師が服薬中止が可能だと判断すれば、3カ月~6カ月かけてゆっくりと薬の量を減らしてゆきます。

服薬を中止した後も発作の再発がなければ、てんかんが治癒したといえます。しかし、薬の中止後も発作が再発する場合もありますので、半年から1年の1回程度、脳波検査を含む診断を定期的に受けます。

一般的にはてんかんがあっても、生活リズムを整えることが大切で、発作の誘引である睡眠不足、疲労、暴飲暴食、薬の飲み忘れには注意が必要です。勝手に薬をやめると発作を起こし、外傷などの危険もあるので、本人も家族も十分に注意する必要があります。

発作が起きた場合、吐いた物を誤嚥(ごえん)しないようにするため顔を横に向け、どんな発作か、発作時間を観察します。大抵の場合は、自然に止まりますが、5分以上続く場合は受診したほうがよいでしょう。

なお、発作が頻発している場合や、抗てんかん薬を多種類、多量に服用している時期に妊娠すると、胎児に影響を与えます。いつなら妊娠してよいか、どんな職業に就くかなど、いずれも家族で十分話し合ったり、医師に相談して決めなくてはなりません。

🇯🇲転換性障害

体の疾患が認められないのに、運動機能や知覚、感覚などの障害として神経症状が起こる疾患

転換性障害とは、一般的な体の疾患が認められないにもかかわらず、運動機能や知覚、感覚などの障害として神経症状が起こる疾患。解離性障害の症状の一つにも相当します。

医師が詳しく検査しても神経症状を起こしている体の疾患が見当たらない場合に、転換性障害と判断します。背景にある心理的なストレスが神経症状に転換しているので、転換性障害といいます。

神経症状としては、知覚、感覚などの異常や、運動機能の障害が出現します。知覚、感覚の異常は、手足のしびれ、まひが中心となり、目が見えなくなる、耳が聞こえなくなるといった視覚や聴覚で症状が起こったりもします。

運動機能の障害では、脱力して座り込む失立、歩けない失歩、筋力低下が起こったりします。めまい、耳鳴り、過呼吸発作、下痢などの胃腸症状、動悸(どうき)、発汗、頻尿といった自律神経症状が起こることもあります。

転換性障害は通常、思春期から成人期初期にかけて発症し、その確率は1パーセント未満で、男性よりも女性に多くみられます。治療の必要がないような程度のものも含めれば、有病率はより高いといわれています。

発症の背景には、無意識の過程が働いていると考えられており、幼少期からの強い抑圧が精神エネルギーを知覚、感覚などの異常や、運動機能の障害に転換させてしまうと仮定されています。発症者の日々の生活の中では、家族や知人への怒りやねたみ、恨み、あるいは性的な不満などが多いとされます。

ほかにも、発症から得られる疾病利得が背景にあり、発症することで周りの人から優しい言葉をかけられたり、助けられたり、現在の不快な生活状況やストレスを軽減できたり、回避できるような肯定的な結果が得られていることも、症状の持続につながっている可能性も指摘されています。

この転換性障害に、解離性障害が合併することがあります。転換性障害では、心理的なストレスが神経症状となって現れるのに対して、解離性障害では、心理的なストレスが意識障害、記憶障害、感情まひなどの精神症状となって現れます。転換性障害と解離性障害を合わせたものが、従来、医学的にヒステリーと呼ばれていた疾患に相当します。

また、解離性障害の発症により、精神的なダメージを受けて、うつ状態となってしまう恐れもあります。

転換性障害の検査と診断と治療

精神科、神経科、心療内科の医師による診断では、症状を注意深く観察し、体を診察して、一般的な体の疾患を除外するための検査を行います。

精神科、神経科、心療内科の医師による治療では、症状が出現する背景となった心理的なストレスに焦点を当てた心理療法やカウンセリングを行います。

心理療法では、失われた記憶を明らかにする記憶想起法や、催眠療法、認知行動療法などを行い、発症者がストレス対処法を自ら身に着けていくことを目指します。

また、発症者の精神的な健康を回復させるために、抗うつ剤や精神安定剤が有効なこともあります。時には、家族などの協力も得ながら、生活上の問題の解決を支援し、現実生活への適応を促します。

一般的に転換性障害の症状は自然に治癒するといわれていますが、この症状を維持することで何らかの利益を長期にわたって得ている場合には、回復が遅れることもあります。

2022/08/03

🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿デング熱

蚊が媒介するデングウイルスによる感染症で、熱帯や亜熱帯の地域で主に流行

デング熱とは、ネッタイシマカやヒトスジシマカなどの蚊によって媒介されるデングウイルスの感染症。インフルエンザのように人から人には感染しません。

非致死性の一過性熱性疾患であるデング熱と、重症型のデング出血熱の二つの病状があります。デングウイルスは、日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルス科に属し、1型、2型、3型、4型の4種の血清型が存在します。

デング熱は、デングウイルスを持った蚊に刺されることで感染、発症します。例えば1型の血清型のデングウイルスに感染した場合、1型に対しては終生、免疫を獲得するとされます。しかし、ほかの血清型に対する交差防御免疫は数カ月で消失し、その後は2型、3型、4型のデングウイルスに感染し得ます。この再感染時に、重症型のデング出血熱になる確率が高くなるとされています。

デングウイルスの感染症が主にみられるのは、媒介するネッタイシマカやヒトスジシマカの存在する熱帯や亜熱帯の地域、特に東南アジア、南アジア、中南米、カリブ海諸国ですが、アフリカ、オーストラリア、中国、台湾、日本においても発生しています。

日本国内にはデングウイルスは常在しておらず、海外でデング熱に感染して、帰国後に発症する人が年間200人ほど報告され、2013年にはこれまでで最も多い249人の発症者が確認されていました。しかし、2014年1月に日本を旅行したドイツ人の女性が帰国後にデング熱を発症し、8月下旬には、およそ70年ぶりに日本人女性が国内感染でデング熱を発症したのを皮切りに、10月初旬には155人が発症しています。

全世界では、年間約1億人がデング熱を発症し、約25万人がデング出血熱を発症すると推定されています。

蚊に刺されてデングウイルスに感染後、2~15 日、多くは3~7日の潜伏期間をへて、突然の高熱で発症します。頭痛、目の奥の痛み、腰痛、筋肉痛、関節痛が主な症状として現れます。発熱は、2〜7日間持続します。

さらに、食欲不振、腹痛、吐き気、嘔吐(おうと)、脱力感、全身倦怠(けんたい)感も現れることがあります。全身のリンパ節のはれもみられます。また、発熱してから3〜5日目に胸、背中、顔面、腕、脚に発疹(はっしん)が出ることもあります。

これらの症状は約1週間で消え、通常は後遺症を残すことなく回復します。

デングウイルスに感染後、デング熱とほぼ同様に発症して経過した人の一部は、熱が平熱に戻るころに突然に、血液中の液体成分である血漿(けっしょう)が血管から漏れ出したり、出血の症状が現れたりするデング出血熱となることがあります。

血漿の漏れ出しは、胸水あるいは腹水として現れます。出血は、比較的軽い点状出血、鼻出血、血便、重篤な吐血、下血と多様です。血漿の漏れ出しが進行すると、ショック症状を起こし、デングショック症候群となることがあります。

デング出血熱を起こして適切な治療が行われないと、死亡することがあります。

蚊に刺されて3~7日程度で高熱などの症状が出た場合には、内科や感染症科を受診する必要があります。

デング熱の検査と診断と治療

内科、感染症科の医師による診断では、血液検査を行い、血液からデングウイルスやその遺伝子を検出すること、あるいは特異的な抗体を検出することで確定します。血液所見では、発症後数日で末梢(まっしょう)血の血小板減少、白血球減少がみられます。

デングウイルスには1〜4型の4つの型がありますが、どの型のウイルスでも同様の症状が起こるので、症状から感染したウイルスの型は特定できません。

また、発疹を有するウイルス性疾患である麻疹、風疹、チクングニア、エンテロウイルス感染症や、チフス、マラリア、猩紅(しょうこう)熱、A型肝炎、レプトスピラ症などとの鑑別を行います。デング熱でも時に呼吸器症状がみられることがあり、呼吸器感染症との鑑別を行う必要が生じることもあります。

内科、感染症科の医師による治療では、デング熱に有効な抗ウイルス薬やワクチンがないため、対症療法を中心に行います。

通常のデング熱の場合には、輸液による水分補給や鎮痛解熱剤の投与を行います。ただし、血小板の機能を低下させ、出血傾向を助長する可能性があるため、鎮痛解熱剤としてアスピリンやロキソニンなどを投与してはいけないことになっており、アセトアミノフェンを投与します。

デング出血熱の場合には、血漿漏出による循環血液量の減少、血液濃縮を輸液によって補います。輸液剤としては生理食塩水、乳酸加リンゲル液などのほかに、新鮮凍結血漿などが必要となることもあり、時には酸素投与なども行います。血小板減少が著しい場合には、血小板輸血も考慮します。

デング熱の予防に関しては、デングウイルスを媒介するヒトスジシマカに刺されない工夫が重要です。ヒトスジシマカは、秋田県および岩手県以南の日本のほとんどの地域に生息し、その活動時期は5月中旬から10月下旬なので、茂みのある公園や庭の木陰、竹林の周辺、墓地では、長袖のシャツを着たり、靴下を履いたりするなど、なるべく皮膚の露出を減らすことが有効なほか、虫よけスプレーなどを使うことも効果的です。

デングウイルスを持ったヒトスジシマカも、10月下旬以降には死にます。卵を産みますが、デングウイルスが受け継がれることはほとんどありません。

🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿電磁波過敏症

ある程度の電磁波を浴びることで体が過敏に反応し、さまざまな症状が現れる疾患

電磁波過敏症(Electrical Hypersensitivity)とは、身の回りにある微弱な電磁波を浴びることで体が過敏に反応し、頭痛や吐き気などのさまざまな症状が現れる疾患。日本ではまだ認知されていない疾患で、アメリカの医学者ウィリアム・レイ博士によって命名されました。

電磁波対策先進国のスウェーデンやデンマークでは、電磁波過敏症は疾患として認知され、公的保健の対象になっています。また、スウェーデンでは1995年に国策として、労働者の安全と健康を守る法律を始め、コンピュータ画面からの電磁波放射の規制を制定し、その規制をクリアした製品しか販売できなくなっています。ほかにもドイツ、アメリカなど欧米各国では認知されつつあり、ケアも進められています。

世界保健機関(WHO)では、電磁波過敏症の存在を認めていますが、電磁波にさらされて起きることを裏付ける科学的根拠はまだないとしています。

電磁波には、波長の短い順にガンマ線、エックス線、紫外線、可視光線、赤外線、電波があります。ガンマ線とエックス線の2つは放射線であり、電波は波長の短いマイクロ波から、長い極超長波まであり、細かく分けられます。

レイ博士によると、電磁波過敏症の人は最初に目、皮膚、神経に症状が現れます。次に、呼吸困難や動悸(どうき)、めまい、吐き気などの症状が現れてきます。また、疲労感やうつを伴う頭痛や短期的な記憶喪失、手足のしびれやまひが起こってくる人もいます。

一方、世界保健機関(WHO)では、電磁波過敏症は人によって異なるさまざまな非特定症状を持つのが特徴であるとした上で、 一般的な症状として、発赤、チクチク感、灼熱(しゃくねつ)感などの皮膚症状や、神経衰弱症のほか、倦怠(けんたい)感、疲労感、集中困難、めまい、吐き気、動悸、消化不良などの自律神経系症状を挙げています。

電磁波過敏症の原因については、まだはっきりとはわかりませんが、電磁波によるカルシウムイオン流出や脳中心部の松果体(別名、磁気器官)からの分泌ホルモンの抑制による免疫機能の低下で、アレルギー状態になりやすいことが原因ではないかと考えられています。

この電磁波過敏症は、家電製品や携帯電話などから出る電磁波に反応して一度過敏になると、ほかの人が感じないほどの微弱な電磁波でも繰り返し反応します。症状が悪化すると、高圧送電線、携帯電話の基地局塔、電波塔、電車の中、家電製品、パソコン、携帯電話、コードレス電話、歯科のレントゲンや医療器具などにも反応し、近付くことができないなどの障害が現れます。

今のところ、主な対処方法は電磁波の発生源を避ける以外にありません。電化製品は配置を換えたり、使用頻度を少なくすることで対処し、高圧送電線や携帯電話の基地局塔には近寄らないことで対処します。

🇬🇮伝染性紅斑

伝染性紅斑(こうはん)とは、ほおがりんごのように真っ赤になるウイルス感染症で、俗にリンゴ病と呼ばれます。ヒトパルボウイルスB19型というウイルス感染によって、幼児から学童に多く発症します。

季節的には、春から初夏にかけて流行することが多いようです。感染力はそれほど強くなく、のどの分泌物の飛沫(ひまつ)によって、気道から主に感染します。

10~14日の潜伏期間を経て、両側のほおの発疹(はっしん)から始まるのが普通です。1~2日後には肩から腕、大ももに赤い発疹が出現し、数日後にはまだらなレース編み模様になります。かゆみを伴うことが多く、平均11日間で消えていきますが、いったん消失した発疹が日光や運動などによって再び現れてくることもあります。

医師による特別な治療を受けなくても、自然に治ります。ほおが赤くなった時は、すでに感染する時期をすぎているので、保育所や学校に行ってもかまいません。

しかし、あまりにも真っ赤なほおの時、かゆみが強くなった時、高い熱が出た時、元気がなくなってきた時なら、2~3日休ませ、医師の診察を受けたほうが無難でしょう。かゆみが強い時は、抗ヒスタミン薬が処方されます。年長児~成人で腰やひざに発生することがある関節痛に対しては、鎮痛剤が使われることがあります。

🇮🇪伝染性単核球症

主にEBウイルスの感染で起こり、15~30歳くらいに多くみられる疾患

伝染性単核球症とは、主にEB(エプスタイン・バー)ウイルスの感染で起こり、15~30歳くらいの青年期に多くみられる良性の疾患。EBウイルス感染症とも呼ばれ、アメリカではキス病とも呼ばれています。

ヘルペスウイルスの仲間であるEBウイルスはBリンパ球に感染しますが、感染Bリンパ球を排除するためにTリンパ球が増加します。サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、またHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した場合でも、同様の症状がみられることがあります。

EBウイルスに感染する時期によって、症状の現れ方が異なります。日本人の70パーセントは2〜3歳までに初感染しますが、乳幼児期では病原菌に感染しても症状が現れない不顕性感染が多く、症状が現れても軽度です。

思春期以降に感染すると、約50パーセントが発症します。ただし、感染してもほとんどが4~6週間で、症状は自然になくなるといわれています。20歳代では90パーセント以上が抗体を持っているといわれていますが、成人になってから初感染した場合、症状が重くなります。6カ月以上症状が続く場合は、重症化している可能性があります。

EBウイルスは一度感染すると、その後は潜伏感染状態となり、終生に渡って共存します。そのため、急性感染症以外にもいろいろな疾患を引き起こすことがわかってきました。再感染はしないものの、免疫力が低下した場合に発症することもあります。

キスや飲み物の回し飲みなどによる、既感染者の唾液を介した経口感染が、主要な感染経路です。感染してから発症するまでの潜伏期間は、4~6週間といわれています。

主な症状は、発熱、頸部(けいぶ)リンパ節の腫脹(しゅちょう)、咽頭(いんとう)痛。 まず、頭痛、熱感、悪寒、発汗、食欲不振、倦怠(けんたい)感などの前駆症状が数日間続き、その後38℃以上の高熱が1~2週間続きます。発熱のないこともありますが、通常は発症から4~8日が最も高熱で、以後徐々に下がってきます。

頸部リンパ節の腫脹は、発症2週目ころから現れ、時に全身性のリンパ節腫脹もみられます。上咽頭のリンパ節腫大による鼻閉も、よく起こります。口蓋扁桃(こうがいへんとう)は発赤、腫脹し、口蓋に出血性の粘膜疹(しん)が出て咽頭痛が生じます。発疹は、抗生物質、特にペニシリン系を投与された後に現れることがしばしばあります。

肝臓や脾臓(ひぞう)が腫大することもあり、急激な腫脹のためにまれに脾臓の破裂を招くことがあります。

発熱が1週間続く場合は、内科あるいは耳鼻咽喉(いんこう)科の医師を受診し、精密検査を受けることが勧められます。症状が進行して、劇症肝炎や血球貪食(どんしょく)症候群などを併発すれば、生命の危険があります。リンパ節腫大が長引き、悪性リンパ腫と誤診されることがあるので、要注意です。 ほとんどの大人は既感染者なので、他人への伝播(でんぱ)を気にする必要はありません。

伝染性単核球症の検査と診断と治療

内科、耳鼻咽喉科の医師による診断では、血液検査を行い、白血球の増加、特に末梢(まっしょう)血中の単核球(リンパ球)の増加と、正常なリンパ球と異なった形の異型リンパ球の出現がみられることを確認します。ほとんどのケースで肝機能異常を認め、EBウイルス血清中抗体価が陽性となることなどで、総合判断します。

この伝染性単核球症に特異的にみられるポール・バンネル反応を調べる血清試験があり、これが陽性ならば診断が決められます。しかし、日本人では検査が陽性にならないものが多く、頼りになりません。

ほかのウイルス感染や悪性リンパ腫、リンパ性白血病などとの区別が、必要になります。

内科、耳鼻咽喉科の医師による治療では、抗EBウイルス薬はないため、安静と対症療法が中心です。咽頭痛がひどい場合は、アセトアミノフェンなどの消炎鎮痛薬を用います。血小板減少や肝機能障害の程度が強く、症状が長引く場合は、ステロイドホルモン剤を用いることもあります。肝機能障害には、肝庇護(ひご)剤を用いることもあります。 発疹が現れることがあるため、抗生物質、特にペニシリン系抗生物質の投与は避けます。

安静にしていれば経過は比較的良好で、1〜2週間で解熱し、リンパ節のはれも数週から数カ月で自然に消えます。

重症の場合は、血漿(けっしょう)交換療法や抗がん剤が用いられます。アシクロビル(ゾビラックス)などの抗ウイルス薬の有効性は、証明されていません。

異型リンパ球は、少数ながら数カ月残存しているケースもあります。肝臓や脾臓のはれも1カ月ほどで回復しますが、まれに脾臓破裂を起こすことがあるので、治った後も2カ月ほどは腹に圧力や衝撃がかかる運動などは避けるようにします。

また、疾患が治ったと思っても、数週間たってから肝機能障害などが悪化することがあるので、リンパ節のはれがなくなっても数週間は経過に注意し、医師の指示を受けることが大切です。

🇮🇸伝染性軟属腫(水いぼ)

幼児に多いウイルス性のいぼで、他人にも移りやすい疾患

伝染性軟属腫(しゅ)とは、6歳以下の子供の皮膚に多くできる小さな、丸い突起物。でき初めは水っぽく見えるので、一般的には、水いぼと呼ばれています。

ウイルス感染が原因で起こり、自分の皮膚に移って広がるだけでなく、プールなどで他人にも移りやすい疾患です。

背中や首、ひざの裏など皮膚の薄いところにできやすく、直径1~3ミリほど、肌色や白色、赤みがかったものがあります。半球状に盛り上がり、表面は滑らかで光沢があり、成長したものでは中央にへそのようなくぼみができるのが特徴です。

自覚症状は少ないものの、時に多少のかゆみを伴うこともあります。気になって絶えずいじることも多く、このため自分の体に次々と移して数を増やすことになります。

放っておいて自然治癒することもあります。しかし、半年から2年、長いと4年ほどかかりますし、その間にいぼの数が増えてしまう恐れもあります。早めに皮膚科、ないし小児科の専門医を受診することが勧められます。

伝染性軟属腫の検査と診断と治療

先が輪っかになった特殊なピンセットで、いぼをつまみ取るのが、最も早く効果的な方法です。いぼの中にあるウイルスの白い塊を取り除くのです。ただ、痛みがあるので、泣いたり暴れたりする子供もいます。痛みを和らげるために、事前に局所麻酔剤付きのテープを張った後に行うこともあります。

一部の医師では、痛くない治療として、いぼを液体窒素で凍らせウイルスを死滅させる方法や、硝酸銀溶液を塗って焼き取る方法などをしています。しかし、治療期間が長くなったり、効果が出にくかったり、硝酸銀の場合、患部回りの皮膚にまで薬剤がついてしまい、軽いやけどの跡が残ってしまうこともあるなど一長一短です。治療内容を問い合わせてから、受診するとよいでしょう。

家庭での注意としては、軽いかゆみを感じることがあっても、いじって、いぼをつぶさないこと。ウイルスが散って症状が広がったり、他人に移すことになります。 水を介して移ることはなく、裸同士の接触で感染すると考えられています。治るまで入浴は兄弟姉妹と別々にし、タオルも使い分けます。保育園などのプールは、治療がすむまで控えることが望まれます。

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