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2022/08/15

🇵🇰頭部粃糠疹

頭部の角質片のはがれ落ちが目立つ疾患

頭部粃糠疹(ひこうしん)とは、頭部の表皮の角質層が大小の角質片であるふけとなって、はがれ落ちるのが目立つ疾患。ふけ症とも、乾性脂漏とも呼ばれます。

頭皮だけでなく全身の皮膚の表面からは、絶えず角質が自然にはがれ落ちています。この角質の細胞は非常に小さいために、目で見ることができません。ふけというのは、角質に皮膚の脂やごみが混ざり、細かい米ぬか状の白色、ないし灰色の角質片となってはがれ落ちたものです。

健康な人でも生理的な現象として軽度のふけはみられますが、頭皮の新陳代謝が速まって角質がどんどんはがれ落ち、くしでとかすと肩に大小のふけが目立つ場合は病的と考えられます。一般的に、乾いたサラサラのふけを乾性ふけ、粘っこく重いふけを脂性ふけと呼びます。

頭部粃糠疹の原因として、男性ホルモンであるアンドロゲンの影響が指摘されています。しかし、ふけの程度と皮脂の量は必ずしも比例しません。頭部の毛嚢(もうのう)に住み着いている微生物、特にかび(真菌)の一種である癜風(でんぷう)菌の量が増えており、これを抑える薬用シャンプーでふけが減ることから癜風菌が原因との説がありますが、関係はないとの説もあります。

20歳代がピークで、その後、特に誘因もなく、ふけの量が増えたり減ったりします。40〜50歳代になると、自然に軽快する傾向にあります。普通、かゆみはなく、あっても軽度です。

頭部粃糠疹として治療が必要になってくるのは、ほかの疾患の症状、脂漏性皮膚炎や乾癬(かんせん)などがある場合です。これらの真菌によって起こる疾患では、頭の皮膚が赤くなったり、かゆみを伴ったりしています。また、ふけがかさぶたのように大きく、固着する傾向のある時も、ほかの疾患の症状と考えられます。

そのほか、若い男性の若はげの前兆として、ふけと抜け毛が多くなることもあり、粃糠性脱毛症と呼ばれます。

頭部粃糠疹の検査と診断と治療

自分でできる頭部粃糠疹の対処法として、抗真菌薬であるケトコナゾールを含有するシャンプー(コラージュフルフル)を始め、真菌を抑制するジンクピリジンチオンを含有するメリットシャンプー、カロヤンなどのヘアートニックを用います。これらは、薬局で市販されています。洗髪回数としては、毎日1回または1日おきが適当であり、洗いすぎは逆効果のことがあります。

日常生活での対処で効果が見られない場合、ほかの疾患の症状として頭部粃糠疹がある場合は、皮膚科を受診します。

頭部粃糠疹の特別な検査はありませんが、脂漏性皮膚炎、皮膚の角質が異常増殖する乾癬、水虫の原因である白癬菌が頭皮に感染する頭部白癬、頭虱(あたまじらみ)との区別が必要です。抜けた毛やふけの顕微鏡検査により、白癬菌や頭虱の虫卵の有無が診断されます。

専門医による治療としては、せっけんでよく洗い、皮膚の状態に合わせて副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)のローションを1日に2〜3回、擦り込むと効果があります。

🇵🇰動脈管開存症

本来は自然閉鎖される動脈管が残った先天性心臓病

動脈管開存症とは、出生により本来は自然閉鎖される動脈管が残った先天性心臓病。ボタロー管開存症とも呼びます。

胎児の時の動脈管は開いていて、肺動脈から大動脈に血液を送る重要な役目を持ち、胎盤からもらった酸素の多い血液が下半身へ通っていきます。出生によって肺が呼吸をすると、肺動脈から肺静脈へと血液が回り、動脈管は自然閉鎖する仕組みになっています。

本来は自然閉鎖される動脈管が出生後も残った動脈管開存症では、大動脈圧が肺動脈圧より高くなるため、心臓を出て大動脈へ行った血液が動脈管を通って、再び肺動脈へと流れ込むことになります。そのぶんの血液は、肺血管と左心房、左心室を空回りします。結果として、左心室の負担と肺動脈圧の上昇が起こり、肺高血圧は右心室の肥大や拡大を招きます。

動脈管開存症の症状としては、運動時の息切れ、動悸(どうき)があり、感染(細菌)性心内膜炎にかかりやすくなります。

動脈管開存症の検査と診断と治療

出生時における動脈管の開存は、生後1日から7日くらいではプロスタグランジン合成阻害剤により、閉鎖する場合もあります。この方法で閉鎖しない場合は通常、外科的手術が行われます。

手術は通常、人工心肺を用いないで、動脈管を切り離したり、しばって血行を止める結紮(けっさつ)により行われます。心臓を切開して内部を見ながら行う開心術を必要とせず、開胸術、すなわち胸腔(きょうくう)切開術のみによってできるので、成績も極めて良好です。動脈管開存症では、左のわきの下から胸腔にメスを入れ、動脈管を切断するか、しばります。

また、動脈管が細い場合には、心臓カテーテル法によって、動脈管を人工栓で閉塞(へいそく)する方法がとられることもあります。

子供の場合の手術は、比較的短期間の入院ですむことがほとんどで、予後も非常に良好。通常、ほかの子供たちと同様に生活していけると見なされています。手術を実施する時期は1歳から7歳くらいまでがよいのですが、重症例では新生児でも行われます。

🇮🇩動脈硬化

動脈壁が硬化し、肥厚した病変

動脈硬化とは、コレステロールなどが動脈壁に沈着し、動脈壁の限られた部分が硬化し、肥厚した病変をいい、これによって引き起こされるさまざまな病態を動脈硬化症といいます。

動脈硬化によって動脈の血管壁に病変が起こっても、初期のうちは特に症状はありません。しかし、ある程度病変が進むと、血管の内腔(ないくう)が狭くなって血液の流れが障害されたり、血管壁の弾力性が失われた動脈が拡張、蛇行したり、時には破裂してしまうこともあり、その流域の臓器に影響が現れてきます。

影響を受ける臓器とそれに関連する動脈の部位によって、動脈硬化症を分類すると、脳へいく動脈に起こる脳動脈硬化症、心臓の動脈に起こる冠動脈硬化症、腹部や胸部の大動脈に起こる大動脈硬化症、手足へいく動脈に起こる末梢(まっしょう)動脈硬化症、腎(じん)臓へいく動脈に起こる腎動脈硬化症が、主なものとして挙げられます。

また、動脈壁に生じる病変によって、動脈硬化は粥状(じゅくじょう)硬化(アテローム硬化)、中膜硬化、細動脈硬化という3つのタイプに分類されます。

粥状硬化(アテローム硬化)は、太い動脈や比較的太い動脈の内壁、特に3層からなる動脈壁の内側表面の層である内膜に、コレステロールを主成分とする脂質や石灰が沈着しているタイプ。

アテロームとは、ギリシャ語で粥(かゆ)という意味です。石灰とは、酸と結び付いたカルシウムのことで、血液中のカルシウムはリン酸カルシウムの形となって、血管壁に沈着します。

中膜硬化は、手足などの動脈壁の中膜にまで、石灰の沈着が及んでいるタイプ。中膜とは3層から動脈壁の中央の層のことであり、筋肉と弾力線維からなっています。

この中膜硬化は、高齢者に多くみられる動脈硬化の一つで、加齢に従って動脈壁の中膜に変化が起こると考えられています。血管は硬くなり、弾力性は失われていきます。

細動脈硬化は、脳や腎臓などの臓器内部の細い動脈の壁が厚くなり、内腔が狭くなるタイプ。細動脈は直径わずか0.1ミリから0.2ミリにすぎない血管で、血管壁の老化などに伴って硬くなり、弾力性がなくなるため、血圧に対する抵抗力が弱くなります。高血圧が長い間続くと、その圧力で細動脈の壁が傷付きやすく、細動脈硬化は一層進行します。

この状態では、血管が破裂しやすく、特に脳内で破裂すると体の機能が突然まひする脳卒中になりやすく、危険なタイプの病気です。血圧を下げる薬を服用する以外に、決定的な解決策はありません。

最も注意を要する粥状硬化

通常、動脈硬化といえば、粥状硬化(アテローム硬化)を指します。この粥状硬化は、高血圧、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、肥満、喫煙、運動不足、ストレスなどの危険因子により生じると考えられています。

この粥状硬化は、心臓を取り巻く冠動脈、心臓からの血液を受け入れる大動脈、その大動脈から枝分かれして、腎臓と連絡する腎動脈、下肢へいく腸骨動脈や大腿(だいたい)動脈、脳へいく内頸(ないけい)動脈、同じく脳へいく脳底動脈など、比較的太い動脈の壁によく起こります。

早い場合、粥状硬化はすでに10歳代から始まります。個人差はありますが、その後長い年月をかけて、加齢とともに進展していきます。

初期の病変は、動脈壁の内膜の下に、血液中のコレステロール、リン脂質、中性脂肪などが沈着し、黄色い斑(まだら)状あるいは線状になることです。

やがて、その部位に、中膜の平滑筋細胞や、細胞間をくっつけている結合組織の成分が増殖して固まって、内膜が肥厚し、内腔側に膨らんきます。この塊が粥腫(じょくしゅ)、すなわちアテロームで、粥のようにドロドロしています。

さらに進むと、粥腫がつぶれたり、その部分に血栓がついたり、石灰化なども起こって、一層複雑な病変となっていきます。そうなると、血管の内腔はさらに狭くなってしまいます。

結果として、動脈の血流が遮断されて、酸素や栄養が重要な臓器に到達できなくなる結果、脳卒中、狭心症、心筋梗塞(こうそく)といった生命の危険につながる病気を引き起こす原因となります。

治療の方法と病気の予後

現代では、動脈硬化は治療と予防が可能な病気と見なされています。しかし、一般的には、治療より予防という考え方が大切にされており、実際に予防は非常に効果があります。

その治療と予防の重要なポイントは、危険因子をできるだけ早く発見して、上手にコントロールすること。

動脈硬化、特に粥状硬化の危険因子は高血圧、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、肥満、喫煙、運動不足、ストレスなどですので、これらの危険因子を一つだけでなく複数持っている場合、動脈硬化を進行させる危険は一層高まります。

特に、内臓脂肪が増加し、血圧の上昇、中性脂肪の上昇、糖代謝異常が合併した状態は、メタボリック・シンドローム(代謝症候群)と呼ばれ、動脈硬化が進展しやすい状態です。

治療と予防の原則は、まず食事療法です。その理由として、食事療法がかなり効果的である上に、薬物療法に比べて副作用が少ないことが挙げられます。

動脈硬化を促進させる高血圧や高脂血症、肥満を防ぐため、毎日規則正しい時間に、栄養バランスのとれた食事を取るようにし、偏食や過食をしないように心掛けます。より具体的には、動物性脂肪やコレステロール含有量の多い食品の摂取を制限することで高血圧、高脂血症を防止し、高カロリー食品の制限によって肥満を是正します。野菜や海草類のほか、不飽和脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)を多く含む青魚を多く摂取するように心掛けます。

運動療法を適当に取り入れることも効果的です。運動療法によって肥満の是正、ストレスの解消が図れますし、日常的な運動を継続的に行えば、中性脂肪を減らし、善玉コレステロールを増やし、血清脂質の代謝の改善が図れます。そのほかにも、運動は血圧を安定させたり、糖代謝を改善させる効果があります。

運動の種類は、激しいものは適しません。ウオーキング、水泳、水中ウオーキング、ジョギング、サイクリング、体操など、体に無理をかけない適度な運動を習慣にして、楽しく、長く続けることが大切です。

また、善玉コレステロールを減らし、ビタミンCを破壊する喫煙の制限や、ストレスの軽減を図るなど、生活上の注意を怠りなく続けることが肝要です。

食事療法や運動療法、生活上の注意だけでは、動脈硬化の進行が抑えられない時には、危険因子の改善、合併症予防のために、薬物療法が行われます。具体的には、降圧薬、脂質降下薬(特に悪玉コレステロール低下作用のあるスタチン系)、糖尿病治療薬が用いられます。この場合でも、食事療法や運動療法は、基礎的な治療として続けることが重要です。

🇸🇬動揺性肩関節症

肩の関節のつくりが不安定で、あらゆる方向に正常以上に動いてしまう状態

動揺性肩関節症とは、肩の関節のつくりが不安定で、あらゆる方向に正常以上に動いて、不安定感を伴う状態。動揺肩、ルーズショルダーとも呼ばれます。

大抵は先天的なもので、両側性が多く、肩関節以外にも指、足、肘(ひじ)、膝(ひざ)の関節が軟らかい人に多くみられます。男女とも13~14歳で発症することが多いとされていますが、自然治癒することもあります。

こういう動揺性肩関節症の人が肩を使いすぎると、その最中に肩の痛みや疲れ、だるさを感じます。肩の不安定感、脱臼(だっきゅう)感、脱力感、可動域の制限、腕や手指のしびれ感、肩凝りを伴うこともあります。

野球では、投球の最後に腕を振り切る動作であるフォロースルーの際に、肩が抜けるように感じることがあります。これは肩関節の90度外転位での外旋運動、その後の急激な内旋運動の繰り返しによって、つくりが不安定な肩関節が常にストレスにさらされるために起こります。

バレーボールのスパイクやサーブ、テニスのサーブ、ハンドボールのシュート、槍(やり)投げ、砲丸投げ、ボウリング、水泳などでも肩の痛みが起こります。

動揺性肩関節症の人は、野球やバレーボールなどのスポーツが不向きという潜在的要素を持ち合わせていますので、それらのスポーツを無理に続けた場合、肩から肘にかけての大きな骨である上腕骨頭が肩甲骨関節窩(か)中央からいろいろな方向へずれてしまうことで、関節窩の縁にある線維軟骨性の関節唇の剥離(はくり)を起こしたり、肩関節で上腕を保持している筋肉と腱の複合体である腱板(けんばん)の損傷を起こすこともあります。

動揺性肩関節症の原因としては、肩甲骨の外転外旋筋力低下によるもの、肩甲骨臼蓋(きゅうがい)後下縁の形成不全や傾斜角度の異常によるもの、肩甲骨臼蓋に肩峰(けんぽう)および烏口(うこう)突起までを含めた機能的臼蓋の形成不全によるもの、肩関節を包んでいる関節包や、関節の周囲にある滑液包といった軟部組織の膠原(こうげん)繊維の異常によるものなど、さまざまあります。

動揺性肩関節症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査で、おもりを持ってもらって撮影を行うと、肩から肘にかけての大きな骨である上腕骨骨頭が外れた状態が映ります。

整形外科の医師による治療では、痛みが続く場合、三角巾(きん)固定による安静、非ステロイド性消炎・鎮痛剤の投与、肩峰下滑液包、腱板、烏口突起などへの局所注射を行います。

そのほか、肩の周囲の筋力を積極的に鍛えてもらいます。筋力を強化しても、動揺性肩関節症が治るわけではありませんが、痛みを軽くする効果があります。

肩をすぼめ猫背の姿勢の場合、不良姿勢の矯正が大切で、肩甲骨の安定を図り、姿勢をよくするバンドを装用してもらうこともあります。また、やや大股(おおまた)歩きで早足の歩行は、姿勢矯正に有効です。

重い物を持たないようにし、肩甲骨を中心とした部位である肩甲帯の下垂を助長しやすいショルダーバックは避けます。

野球やバレーボールなどの継続している限り自然治癒が望めないスポーツを禁止するか、必要に応じて運動量を制限することを勧めます。野球の投球フォームやバレーボールのスパイクフォームが正しくない場合は、フォームを矯正することを勧めます。テニスなどのラケット競技の場合では、サーブやストロークに際してなるべく肘を伸ばすことで、肩関節にかかる外旋ストレスを小さくすることが可能です。

氷を用いたアイスマッサージやアイシング(冷却)も痛みの軽減に効果があるので、スポーツ直後に実行することを勧めます。

症状が重度な場合や保存療法が無効な場合は、肩関節を包んでいる関節包を縫い縮める手術や、肩甲骨の傾きを正しくするために大胸筋腱(けん)を肩甲骨の下部に移動する手術などを行うこともあります。

🇸🇬動揺病(乗り物酔い)

船など乗り物に乗っている最中に、気分が悪くなる症状

動揺病とは、船、飛行機、バス、車、タクシー、電車など、いろいろな乗り物に乗っている最中に気分が悪くなる症状。乗り物酔い、船酔い、空酔い、バス酔い、加速度病とも呼ばれています。

遊園地のジェットコースターやコーヒーカップなどの乗り物でも、症状が出ることもあります。軽いめまいのほかに、顔面が蒼白(そうはく)になったり、首や額、手のひらに冷や汗をかいたり、吐き気を伴ったりします。吐き気を感じると同時に生つばが出てきて、ため息や生あくびが出てきます。次第に無気力になり、頭の重みや頭痛が出てくる場合もあります。

生つばが出た状態が続くと、突然、嘔吐(おうと)を起こします。さらに悪化した場合には、下痢を起こすこともあり、あまりにも嘔吐を繰り返すと脱水症状に陥り、点滴が必要になることもあります。

一般的には、乗り物から降りた場合、しばらくすると症状は回復し、後遺症も残りません。

ふだんは動揺病を起こさない人でも、体調次第で起こすことがありますし、めまいを起こしやすい人は、動揺病も起こしやすい傾向があります。乗り物別の起きやすさには個人差があり、例えば車には全く酔わない人でも船には酔いやすかったり、飛行機や電車には全く酔わないのに車には酔いやすいという人もいます。急ブレーキ、急発進を行う乱暴な運転、渋滞、上り斜面、つづら折りのカーブ、効きすぎる暖房、効きが悪い冷房などが長時間続いた場合には、とりわけ発生しやすくなります。

動揺病が起こる原因ははっきりとはわかっていませんが、乗り物に乗っている時の振動、加速、減速などによって、耳の奥にある内耳の三半規管と前庭という平衡器官が連続的に刺激されて起こると考えられています。

体の平衡、すなわちバランスは、静止時でも運動時でも、脳やほかの神経系、目でも調節されますが、耳がたいへん重要な役割を果たしています。耳では、三半規管と前庭が体の平衡を調節していて、三半規管は主に回転運動に関係し、前庭は上下、前後の運動に関係しています。三半規管と前庭が病的に侵されると、立つことも歩くこともできず、めまいが起こります。

三半規管と前庭が強く刺激された例が動揺病で、この平衡器官は呼吸や循環器をつかさどる自律神経系とも連絡しているために、動揺病では気分が悪くなり、吐き気、嘔吐、冷や汗などの症状が出てくるのです。

なお、何日も繰り返し刺激されていると、動揺病の症状は急激に消失していきます。例えば、日本からヨーロッパまでの長期間の航海に出た時、最初の数日間は激しい症状を示した人でも、しばらくたつと消えてしまいます。つまり、慣れていない乗り物に乗ったとしても、何度も同じ体験を繰り返すと次第に動揺病の症状が軽減し、最終的にはその乗り物に乗っても症状が出なくなります。

動揺病の治療法と予防法

動揺病(乗り物酔い)の治療の基本は、不安感を抱かないことです。酔うかもしれないという不安を抱かないようにして、楽しみながら乗るべきです。周りの人も、不用意に不安がらせないことです。

どうしても不安が強い時は、乗り物に乗る30分前ごろに酔い止めの薬を飲んでおきます。この内服薬は抗ヒスタミン剤が代表的で、眠気やだるさの副作用が伴うために、これに無水カフェインを含ませている薬もあります。内服液になっているものや、水なしで内服できるチュアブルタイプの薬もありますが、内容はやはり抗ヒスタミン剤が主体で、どの薬も症状が出る前に内服することが大切です。

欧米では、スコポラミンという副交感神経遮断(しゃだん)剤を皮膚に張るタイプもありますが、眠気が生じ、しかも記憶障害が起こることがあるために日本では許可されていません。

乗り物に酔って動揺病を起こさないためのポイントを紹介します。

きちんと睡眠をとっておく。空腹のまま乗り物に乗らない。脂肪分の多い食品を避けて食べすぎず、酒や乳製品、炭酸飲料を飲みすぎずに、適度な食事をとっておく。乗る前にトイレをすませておく。厚着をせず、風通しのよい楽な服装をする。きついネクタイやベルト、帽子、体を圧迫する下着は避ける。

乗り物の中では、読書や携帯メール、携帯ゲーム機のプレイなど、眼球の動きを細かくするような行為はしない。一点を凝視せず、遠くの景色をぼんやりと見る。窓を開けて、風に当たる。船なら甲板に出て空気を吸う。気分をリラックスさせ、深くゆっくりと呼吸する。周りの人と話す、好きな音楽を聞く、歌を歌う、合唱するなどで気分をそらす。

後ろ向きの座席を避け、進行方向が見える前の方に座る。気分が悪くなったら、早めにシートを倒すか横になる。

以上のポイントを一つずつ実践するとともに、何より気を強く持つことが大事です。酔うかもしれないと思っていると、本当に酔ってしまいます。予防に最善を尽くしたから大丈夫と自信を持って、乗り物に乗るようにします。

🇵🇦トゥレット症候群

不随意に急速な運動や発声が起きるチック症の中で、最も重症な疾患

トゥレット症候群とは、チックという一種の癖のようなものが固定、慢性化した疾患であるチック症の中で、最も重症な疾患。トゥレット障害とも呼ばれます。

チックというのは、ある限局した一定の筋肉群に、突発的、無目的に、しかも不随意に急速な運動や発声が起きるもの、とされています。従って、チック症の症状には、運動性チック、音声(発声)チックがあります。

運動性チックの症状としては、まばたき(瞬目)、首振り、顔しかめ、口すぼめ、肩上げなど上位の身体部位によく現れますが、飛び跳ね、足踏み、足けりなど全身に及ぶものもあります。音声(発声)チックの症状としては、咳(せき)払い、鼻鳴らし、舌鳴らしのほか、叫びや単語を連発するものがあります。

3〜4歳の幼児期から11歳ごろに発症することが多く、ピークは6〜8歳です。男児に多い傾向にあり、男女比は3対1。その意味付けに関して定説はありませんが、一応この時期の男女の成長、発達の特異性によるものと考えられています。

原因は、慢性的なものであれば、遺伝的なものを含め脳にあると考えられていますが、環境や心の問題も症状に影響します。一過性のものの中には、心因性のものもあると考えられていますが、その場合自然に軽快することが多いといわれています。脳については、線状体の障害説などがあります。

チック症は、一過性チック症、 慢性チック症、トゥレット症候群に分類されます。

一過性チック症は、1種類または多彩な運動性チックおよび音声チックが頻回に起こりますが、1年以内に症状が消失するものです。心と体の成長、発達の過程で、子供の10~20パーセントに何らかのチック症がみられるとされていますが、多くは一過性と考えられています。

慢性チック症は、1種類または多彩な運動性チックあるいは音声チックのどちらかが、頻回に起こり1年以上持続するものです。

トゥレット症候群は、多彩な運動性チックおよび1つまたはそれ以上の音声チックが、同時ではなくても頻回に起こり1年以上持続するものです。10歳過ぎになると、卑猥(ひわい)な単語などをいってしまう汚言症、他人のいった言葉などを繰り返す反響言語、音声や単語を繰り返す反復言語などの複雑な音声チックが出現することがあります。

このトゥレット症候群、時に慢性チック症にも併発することがあるものとして、強迫性障害、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)、睡眠障害、学習障害、不登校、衝動性、攻撃性の高進、自傷・他害行為が挙げられます。

以上の一過性チック症、 慢性チック症、トゥレット症候群という3つの障害は、連続するものかどうかは明らかでありませんが、大きく見れば1つの集合と考えられています。そして問題なのは、どのようなタイプの一過性チック症が、慢性チック症あるいはトゥレット症候群に進展するかがわかっていないことです。

トゥレット症候群などのチック症の症状が長期、慢性化し、多発、激症化する場合には、子供専門の精神科などの医療機関への受診が必要になります。

トゥレット症候群の検査と診断と治療

精神科などの医師による診断は、一般には症状や治療経過の特徴などからなされます。

精神科などの医師による治療は、「トゥレット症候群などのチック症という疾患を治すのではなく、チック症の子供を治療する」ことになります。治療の目標は、ストレスなどへの適応性を高め、人格の発達援助を目指すことです。

軽症の場合は、遊戯療法などの行動療法的なアプローチが有効とされています。その際は、親へのカウンセリングが重要になります。親の対応としては、症状を誘発する緊張や不安を軽減、除去することや、それへの耐性(精神的抵抗力)を高めるように援助することが肝要です。

症状の出現をやめるように、いたずらに叱責(しっせき)して注意を促すことは、避けるべきです。チックは、緊張や不安、興奮、疲労などによって影響されますので、ちょっとした変動で一喜一憂しないことです。

学校ではチックが目立たないのに、家庭では多い場合もあります。これは家庭に問題があるのではなく、むしろリラックスできるからであることが多いと思われます。本人が症状に捕われすぎないように配慮し、ゆったりと過ごせるようにします。全身運動による発散に関心を向けさせ、一方では、何か興味を抱いて熱中できる、趣味的なものを持たせることが有効です。

トゥレット症候群や慢性チック症の治療には、主としてハロペリドール、ピモジドなどの向精神薬による薬物療法が有効です。そのほかの治療法の併用も、行われます。

🇵🇦兎眼

顔面神経まひにより、目を閉じることができなくなり、目の表面が乾燥する疾患

兎眼(とがん) とは、顔面>神経まひが原因で、目を閉じることができなくなり、目の表面が乾燥する疾患。

兎眼はその字の通り、兎(うさぎ)の目という意味です。兎は、その目が外敵から身を守るのに都合よくできていて、まばたきの回数が人間より大変少ないため、いつも開いているように思われています。人間が兎眼を生じると、意識してまぶたを閉じようとしても薄目を開けている状態になり、本当にいつも目を開いていることになります。

目は、常に外界と接して空気にさらされているために乾燥したり、ほこりが付いたりします。そこで、まばたきというまぶたの動きによって、常にその表面を涙で湿らして、ほこりを取り除き、細菌などの侵入を防いでいますので、いつも目を開いていると、目の表面が乾燥したり、黒目の表面を覆う角膜に傷が付いたりします。

兎眼の初期には、睡眠中だけに症状が現れる夜間性兎眼がみられます。睡眠中にまぶたを完全に閉じることができないため、涙で目を十分に潤すことができず、翌朝目覚めた際には目の表面が乾燥していて、不調を感じます。しかし、日中はまぶたを閉じることができるため、兎眼に気付かない場合もあります。

日中もまぶたを閉じることができず、目が常に開いている状態になると、目の表面が強度に乾燥し、ごろつき感や痛みを生じます。

さらに、目の表面が乾燥したまま放っておくと、角膜の傷が常態化するばかりか、点状表層角膜症や角膜混濁を生じ、極端な例では角膜潰瘍(かいよう)を生じ、視力の低下を引き起こすこともあります。細菌や、かびの一種の真菌、ウイルスなどの感染を伴い、重症となることもあります 。

兎眼の主な原因は顔面神経まひであり、単純性疱疹(ほうしん)、帯状疱疹などのヘルペスウイルス感染症で、一般的には口唇ヘルペスを患ったことがある人が急性あるいは亜急性に、顔面神経まひを発症し、上下のまぶたの開閉にかかわる眼輪筋がまひで動かなくなるため、兎眼を合併します。症状は普通、片側だけの目に起こります。まれには、両側の目に起こります。

ほかには、脳梗塞(こうそく)や脳腫瘍(しゅよう)の部分症として顔面神経まひを発症したり、ベルまひといって原因ははっきりしていないもののヘルペスウイルスによる場合が多いと推定されている顔面神経まひを発症したりして、兎眼を合併します。

まれには、外傷後のまぶたの傷跡による閉瞼(へいけん)障害によって、兎眼を起こすこともあります。

兎眼の症状に気付いたら、原因の治療が必要ですので、眼科の専門医を受診することが勧められます。

兎眼の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、顔面神経まひの原因を調べるために、頭部のCT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行います。

眼科の医師による治療では、顔面神経まひを治すことを第一とします。目に関しては、顔面神経まひの症状が軽快してくるまでの間、目の表面が乾燥するのを防ぐため、軽症では、防腐剤を含んでいない人工涙液を頻回に点眼したりします。

中等症では、抗菌剤眼軟こうを入れて眼帯をします。重症の兎眼では、目を閉じた上から透明な専用保護膜を張ったり、角膜に穴が開く危険性があったり痛みが強い場合には、上と下のまぶたを一時的に縫い合わせたりします。

睡眠中だけに症状がみられる夜間性兎眼の場合は、睡眠時のみ、抗菌剤眼軟こうを塗ることで対応することが必要です。

🇵🇦トキソプラズマ症

ネコの便や動物の肉を介して、トキソプラズマ原虫が人に感染

トキソプラズマ症とは、単細胞の原虫の一種であるトキソプラズマによる感染症。トキソプラズマは世界中に存在し、人や動物、鳥に感染します。

不顕性感染が多く、症状が出る人はほとんどいません。顕性感染となって重い症状が出るのは、新生児や乳幼児と免疫機能が低下している人だけです。

この寄生虫はさまざまな動物の組織で成長しますが、卵を産み付けるのはネコ科の動物の腸の内皮細胞のみ。卵はネコなどの便に混じって排出され、土の中で最長18カ月間生き続けます。トキソプラズマの卵が入っている土に触った人が手を口に入れて感染する場合もあれば、卵がついている食べ物を介して感染する場合もあります。

時には、ブタなどの動物が土からトキソプラズマ症に感染することもあり、その感染した動物の肉を生や加熱調理が不十分な状態で人が食べて感染する場合もあります。冷凍するか、よく加熱すれば、トキソプラズマは死滅します。

妊婦が感染した場合には、血液中に流入したトキソプラズマが胎盤を通して胎児に感染することがあります。その結果、流産や死産になったり、形態異常児出産、知能障害、けいれん、まひ、水頭症、脈絡網膜炎などの視力障害がみられることがあります。

先天性トキソプラズマ症の新生児は、重症で生後まもなく死亡することもあれば、何カ月もたってから症状が出ることもあります。場合によっては何年も症状が現れなかったり、一生発病しないこともあります。妊娠前に感染した場合は、寄生虫が胎児に感染することはありません。

免疫機能が低下している人、特にエイズやがんの人や、nter、トキソプラズマ症を発症するリスクが高くなります。このような人たちの症状は、通常は過去に感染したトキソプラズマが再び活動を始めたことによるものです。

感染部位によってさまざまな症状が現れ、脳のトキソプラズマ症になると、半身の脱力感、言語障害、頭痛、錯乱、けいれん発作などが起こります。急性散在性トキソプラズマ症は、発疹(はっしん)、高熱、悪寒、呼吸困難、疲労を起こします。髄膜脳炎、肝炎、肺炎、心筋炎を起こす人もいます。治療しなければ、ほぼ100パーセント死亡します。

健康な人が後天的にトキソプラズマ症にかかった場合は、ほとんど症状は現れません。症状が出ても普通は軽症で、痛みのないリンパ節のはれ、間欠性の微熱、はっきりしない体調の悪さなどです。脈絡網膜炎が単独で起こり、視力障害、目の痛み、光過敏性を伴うこともあります。

トキソプラズマ症の検査と診断と治療

医師による診断では通常、血液検査でトキソプラズマに対する抗体を調べます。ただし、エイズで免疫機能が低下している人は、血液検査で偽陰性が出ることがあるので、医師は脳のCT検査とMRI検査に基づいて診断します。まれに、トキソプラズマの感染部位の組織片を採取し、顕微鏡で調べて診断する生検を行うこともあります。

感染していても、症状がなくて免疫機能が正常な成人の場合には、治療の必要はありません。症状がある場合は、スルファジアジンとピリメタミンの併用で治療し、ピリメタミンの副作用から骨髄を保護するためにロイコボリンを追加します。脈絡網膜炎の治療には、クリンダマイシンと併用して、炎症を鎮めるためにプレドニゾロンなどのステロイド剤を使います。

エイズ患者の場合、トキソプラズマ症は再発する傾向があるので、投薬は期限を決めずに行うことが多くなります。トキソプラズマ症を予防するため、トリメトプリム・スルファメトキサゾール(ST合剤)の予防投与を行うこともあります。妊娠中の人がトキソプラズマ症にかかった場合は、胎児への感染を防ぐためにアセチルスピラマイシンで治療します。

予防としては、ネコはしばしば庭や砂場をトイレにすることがあるため、妊娠中に庭いじりをしたり、土や砂に触れるような時には、手袋を着けます。土や砂に触れた後、食事や料理の前には、水とせっけんでよく手を洗い流します。また、ネコのトイレを屋内に設置している場合には、その掃除をするのはやめるか、掃除をする際には手袋を着けるなどの注意が必要です。ブタ、ウシ、トリ、ヒツジなどの肉は、十分に加熱調理したものだけを食べるようにします。

🇵🇦毒キノコ中毒

食用キノコによく似た毒キノコが起こす食中毒

毒キノコ中毒とは、食用キノコによく似た毒キノコを食べることによって、引き起こされる食中毒。

日本は気温も湿度も、キノコ類の発生に適しています。特に、繁殖することが多い晩夏から秋にかけては、採集して食べる人も増え、しばしば毒キノコ中毒がみられます。平成16年から平成20年までの間では、年間42~79件の食中毒、年間77~232人の食中毒患者が全国で発生しています。約9割は家庭で発生し、約1割は販売店、飲食店などの営業施設が原因で発生しています。

毒キノコには多数の種類がありますが、多くは特有の色彩とにおいを有するので、食用キノコと間違われやすいのは10数種にすぎません。この10数種が引き起こす毒キノコ中毒は、胃腸炎型、脳症・神経症型、コレラ型の3タイプに大別されます。

胃腸炎型を起こすのは、ツキヨタケ、イッポンシメジ、クサウラベニタケ、カキシメジ、ニガクリタケなど。食後30分から2時間で、吐き気、嘔吐(おうと)、腹痛、下痢などの症状を起こします。

脳症・神経症型を起こすのは、ワライタケ、オオシビレタケ、ヒカゲシビレタケ、テングタケ、ベニテングタケ、ハエトリシメジなど。食後30分から1時間で、ワライタケやオオシビレタケ、ヒカゲシビレタケは幻覚、知覚まひ、めまい、言語障害を起こし、意識不明に陥らせます。同じく食後30分から1時間で短時間眠くなった後。テングタケやベニテングタケ、ハエトリシメジは嘔吐、腹痛、下痢に続いて耳鳴り、めまい、視力障害、けいれんなどの症状を起こし、進行すると幻覚、精神錯乱、意識不明に陥らせます。

コレラ型を起こすのは、ドクツルタケ、タマゴテングタケ、コタマゴテングタケ、シロタマテングダケ、コレラタケなど。食後6時間から半日で発症し、アマニタトキシンなどの毒成分が強烈な腹痛、嘔吐、下痢とともに、意識障害、けいれん、脱水状態を起こして、発症者を死亡させたり、肝臓、腎臓(じんぞう)などに障害を残したりします。

食中毒の症状は食べた種類や量によって異なりますが、症状が早く現れるもののほうが比較的軽く、回復も早い傾向があります。

毒キノコ中毒の検査と診断と治療

キノコを食べた後に胃が重くなり腹痛、嘔吐、下痢などの症状が現れて、少しでも「おかしい」と思ったら、すぐに食べた物を吐き出します。当人が自力で困難のようなケースでは、周囲の人が発症者の口の中に指を入れて、舌の奥を刺激して吐かせます。何も出なくなったら、水やぬるま湯を飲ませて、さらに何回か吐かせるようにします。

応急処置を施した後は、毛布にくるむなど全身を保温して内科か、救命救急センターに運び、医師の診察を受けます。嘔吐物や食べ残しをサンプルとして持ってゆくと、素早く適切な治療につながります。毒キノコ中毒の初期症状を自覚しても、素人判断で胃腸薬や下剤を服用しないことも大切です。

医師による診断では、問診でキノコの外観、採集場所、調理前の処理、調理法、食べた量を聞き出し、食べ物の残り、嘔吐物、便、調理くずなどの検査によって毒キノコの種類を調べます。

治療では、もし誤食したとわかったら、指で口の中を刺激して吐き出させたり、胃洗浄、腸洗浄を行ったり、活性炭末などの吸着剤を投与したりします。また、対症的に、リンゲルなどの電解質液の輸液や、強心剤、呼吸中枢刺激剤などを用いることもあります。

短時間に現れた胃腸炎型の毒キノコ中毒の場合は、対症療法ですみ数日中に治ります。しかし、コレラ型の毒キノコ中毒では直ちに入院し、早期の毒素除去、集中治療が必要です。

毒キノコによる食中毒を防止するには、以下のことを心掛けます。毒キノコは多くの種類に分かれていて共通の特徴を持っていないので、確実に鑑別できる食用キノコ以外は絶対に採らない、食べない。図鑑の写真や絵に出ていない種類のキノコは、無理に食用とされているキノコに当てはめない。食用のキノコでも、生の状態で食べたり、一度に大量に食べると食中毒になるものがあるので注意する。毒キノコは塩漬け、乾燥、水さらしなどの加工によって毒成分がなくなることはないので、加工して食べるのもやめる。

🇹🇴特発性顔面神経まひ

顔面神経が侵されて、顔の筋肉の運動がまひする疾患で、原因不明なもの

特発性顔面神経まひとは、顔面神経が侵されて、顔の筋肉の運動がまひする疾患。この疾患を報告した医師の名を付けてベルまひ、あるいは特発性末梢(まっしょう)性顔面神経まひとも呼ばれます。

原因はいまだ不明ですが、考えられる可能性としてはウイルス感染、アレルギー、局所浮腫(ふしゅ)、寒冷刺激などがあります。いずれにしても、顔面神経は顔面神経管と呼ばれる骨で取り囲まれた狭いトンネルを通って脳から外に出ますが、何らかの原因で顔面神経がはれると、顔面神経が圧迫されてまひが現れると見なされています。

一方、原因疾患が明らかな顔面神経まひは、症候性顔面神経まひと呼ばれます。症候性顔面神経まひの原因疾患として多いのは、単純性疱疹(ほうしん)、帯状疱疹などのヘルペスウイルス感染症で、一般的には口唇ヘルペスを患ったことがある人が突然の顔面神経まひで発症します。ほかには、腫瘍(しゅよう)や代謝疾患が原因となる場合もあります。

特発性顔面神経まひ、症候性顔面神経まひとも、急性あるいは亜急性に発症します。症状は普通、片側だけに起こります。まれには、両側に起こります。

侵された側の表情筋が緩むために、顔がゆがむ、額にしわが寄らず仮面様の顔付きになる、口の一方が曲がって食べ物やよだれが出てしまう、目が完全に閉じられない、などの症状が現れます。

そのほか、まひ側の舌の前方3分の2の味覚障害を伴うこともあり、物を食べた時、金属を口に入れたような感じがしたりします。まひ側の耳が過敏になり、音が大きく響くように感じることもあります。目が閉じにくいために目を涙で潤すことができず、夜間などに角膜が乾燥しやすくなるため、角膜に潰瘍(かいよう)ができることもあります。

まれには、帯状疱疹が耳たぶや内耳にできた場合に、激しいめまい、耳鳴り、歩行障害、味覚の消失とともに、顔面のまひが起こります。

特発性顔面神経まひの検査と診断と治療

基本的には耳鼻咽喉(いんこう)科の外来で治療可能な場合が多いのですが、検査が必要な場合、診断がはっきりしない場合、特発性顔面神経まひ(ベルまひ)や症候性顔面神経まひの程度が強い場合などでは、入院が必要です。

医師による診断は、典型的な顔の表情から比較的容易です。しかし、原因となる疾患がある症候性顔面神経まひの場合、両側に同時に発症したり何度も繰り返す場合などは、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像診断が必要です。

サルコイドーシス、ライム病などの珍しい疾患で起こった可能性が疑われる場合には、血液検査などの検査が必要になります。障害の程度や回復の正確な評価のために、筋電図や誘発電位検査が行われることもあります。

特発性顔面神経まひは治りやすい疾患で、まひが軽度であれば1~2カ月で完全に治ります。しかし、急性期にはステロイド剤、ビタミンB複合剤などを処方して治療を行います。マッサージや電気治療も行われます。また、目が閉じにくい場合、人工涙液を点眼して角膜を保護します。

帯状疱疹の治療では、原因療法として抗ウイルス剤、対症療法として消炎鎮痛剤が処方されます。抗ウイルス剤は、ウイルスの増殖を阻止して治癒を早めます。神経がまだ破壊されていない初期の段階で使用すれば、帯状疱疹後神経痛の予防が期待できます。

また、痛みがひどい場合は、神経ブロックを行って痛みを止める治療法が有効です。神経ブロックとは、局所麻酔剤を用いて、神経の流れを一時的に遮断する治療法です。この治療法によって血液循環がよくなるとともに、神経の緊張が和らぎ、その神経が支配している領域の痛みを止めることができるのです。

帯状疱疹が原因で起こった場合には、比較的、経過が長く、顔面まひがある程度残ることが多いようです。また、再生した顔面神経が本来の支配先と異なった筋を支配してしまった場合には、口を閉じると目が一緒に閉じたり、熱い物や冷たい物を食べた時に涙が出たりする異常連合運動が起こることがあります。

特発性顔面神経まひ、症候性顔面神経まひとも、リハビリテーション療法も重要です。家庭でできるマッサージとしては、朝夕30分間ほど、手で額や目の周りの筋肉をゆっくりと回すようにしてマッサージしたり、まひした口角を引っ張り上げるようにしたり、顔面の筋肉を働かせるために百面相の練習をしたりすると、効果があります。

🇹🇴特発性血小板減少性紫斑病

血を止めるのに必要な血小板が減少して、出血しやすくなる自己免疫疾患

特発性血小板減少性紫斑(しはん)病とは、血液中にあって血を止めるのに必要な血小板の数が著しく減少して、出血しやすくなる自己免疫疾患。

体内にあって細菌やウイルスなどを攻撃する抗体が、免疫の異常によって自己の血小板に結合するために、マクロファージという血液細胞によって脾(ひ)臓や肝臓、骨髄で破壊されて、血小板の数が減少します。どのようして免疫異常が起きるかは、不明とされています。

通常、健康な人は、血小板が血液1マイクロリットル中に15〜40万個存在します。この数が10万個以下になると、血が止まりにくくなります。

特発性血小板減少性紫斑病は急性型と慢性型に分類され、急性型は小児に多く、風邪やはしか、おたふく風邪などの後に、急に血小板の数が減って発症します。重症化しますが、その9割は長引かずに自然に治ります。

一方、血小板の数の減少が半年以上続く慢性型は成人、とりわけ男性の約二倍と女性に多く発症し、皮膚の紫斑や粘膜からの出血が全身にみられます。歯茎や鼻からの出血、血尿、血便、月経過多などの症状が起こり、貧血、体がだるい、熱っぽいなどの症状も起こってきます。重症の場合は脳出血、胃や腸からの出血を起こすこともあり、大けがや手術時の出血が止まらなくなることが懸念されます。慢性型の一部は、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が原因といわれています。

国内には約2万人の患者がおり、厚生労働省から特定疾患、いわゆる難病に指定されていますので、所定の手続きを経て申請が受理されると、医療費の補助を受けることができます。最近は、出血傾向がみられない時期に、健診で血小板の減少を指摘されて診断に至るケースもあります。

血小板の数や臨床症状により治療の緊急性が異なるので、内科の医師を受診し、適切な検査と治療を受けます。

特発性血小板減少性紫斑病の検査と診断と治療

出血症状があり、特徴的な検査所見がみられ、基礎疾患を否定された場合に、特発性血小板減少性紫斑病と診断されます。特に、血液を正常に作れない二次性血小板減少症、白血病、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、膠原(こうげん)病、薬剤性血小板減少症の否定が、重要となります。

特徴的な検査所見は、血小板数が血液1マイクロリットル中に10万個以下に減り、骨髄検査で未熟な巨核球が正常または増加することです。巨核球とは、血小板を作る血液細胞のことです。

治療においては、小児に多い急性型は半年以内に約9割は自然軽快しますので、出血傾向が強くなければ経過を観察します。急性型から慢性型へ移行する確率は、高くありません。

成人に多い慢性型では、ピロリ菌感染が見られる人に対しては、特別な胃薬と抗生物質を1週間内服しピロリ菌を除く治療をすると、約半数で血小板が増加します。ピロリ菌に感染しているかどうかは、尿素呼気試験、血液検査、便検査で調べることができます。

ピロリ菌感染が見られない人、あるいはピロリ菌を除菌しても血小板が増加しない人に対しては、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)を用います。このステロイド療法により約8割の人で血小板が増えるものの、完全に治るのは約2割にとどまります。

完全に治らない人は大きな出血を避けるために、少量のステロイド剤を飲み続ける必要があります。ステロイド剤を長期間飲み続けると、胃十二指腸潰瘍(かいよう)、骨粗鬆(こつそしょう)症、糖尿病、白内障、精神神経症状、顔が丸くなる満月様顔貌(がんぼう)などの副作用が、一部の人で見られることが知られています。

ステロイドを減量できない場合には、血小板の破壊にかかわっている脾臓を手術で摘出することがあります。近年では腹腔鏡(ふくくうきょう)手術が行われ、1週間程度の入院で約7割の人に効果が認められます。脾臓を摘出する前には、肺炎球菌ワクチンの予防接種を受け、摘出後の長期経過中に見られることがある敗血症や髄膜炎などの重篤な感染症を避けます。

血小板の数が急激に減少し、全身の出血傾向が強い場合は、入院をしてガンマグロブリン大量療法と血小板輸血を行います。脾臓摘出をしても血小板数が3万個以下の場合、血小板を増やすトロンボポエチン受容体作動薬や免疫抑制剤を使うことがあります。

ふだんは血小板数が安定していても、通院中に風邪を切っ掛けに血小板数が1万個以下に減り、鼻血、全身の皮膚の出血を認めることがあり、受診を必要とします。血小板数が少ない場合は、脳内での出血に注意を払わなければならないため、スキー、スノーボードなど頭部を打撲するような激しいスポーツを避ける必要があります。

出血を伴う歯科治療、胃カメラ、大腸カメラなどの検査を受ける時、手術の予定がある時は、事前に担当の医師に相談する必要があります。痛み止めの種類によっては、血小板の機能を落として出血傾向を悪くするものもあるからです。

🇹🇴特発性骨髄線維症

骨髄の中に線維が増え、骨髄での造血が低下する状態

特発性骨髄線維症とは、骨髄の中に線維が増え、骨髄での造血が低下する状態。原発性骨髄線維症とも呼ばれます。

この特発性骨髄線維症は、慢性骨髄増殖性疾患というグループに属する血液腫瘍(しゅよう)で、同じグループには慢性骨髄性白血病、真性多血症、本態性血小板血症が属しています。

血球である赤血球、白血球、血小板の産生、すなわち造血は、成人では骨髄で行われます。しかし、胎児の時期には、肝臓や脾臓(ひぞう)で造血が行われています。特発性骨髄線維症では、腫瘍細胞によって骨髄に線維化という変化が起こるため、造血が肝臓や脾臓で行われるようになり、その結果、肝臓や脾臓が次第に大きくなって、肝脾腫といわれます。特に、脾臓は非常に巨大になり、腹腔(ふくくう)の半分以上を占めるほどになることもあります。

脾臓や肝臓で赤血球や白血球が作られた場合、骨髄で作られたものと少し違って、若い細胞が血液に出てきたり、普通はみられない変形したものがみられたりします。初期では白血球数が増加し、慢性骨髄性白血病と同じように若い細胞から成熟した細胞まで、すべての段階の白血球が認められるのが特徴です。さらに、若い赤血球系の細胞や変形した赤血球も認められます。

特発性骨髄線維症の症状としては、貧血や白血球数の増加のほか、初期には血小板数も増加する傾向があります。一般的に進行は緩慢ですが、進行すると逆に貧血や血小板数の低下が著しくなります。一部の例では、急性白血病と類似した症状を示す急性期へと進展することがあります。

脾臓のはれによる腹部の圧迫感、膨満感が、比較的多く現れます。一方、無症状の段階で健康診断などにより、血液検査のデータの異常を指摘されて発見されることも、しばしばあります。貧血が進行すると、倦怠(けんたい)感、動悸(どうき)、息切れなどの症状が目立つようになります。血小板数が低下すると、皮下出血、鼻血、歯肉出血などの出血症状を認めます。

骨髄に線維化を起こす腫瘍細胞が発生する原因については、詳しくはわかっていません。しかし、約半数の例では真性多血症と同じJAK2遺伝子の異常が認められており、この異常が発症にかかわっていると考えられています。慢性骨髄性白血病と異なり、フィラデルフィア染色体の形成は認められません。また、いわゆる遺伝性疾患ではなく、子孫への影響はありません。

特発性骨髄線維症の検査と診断と治療

内科の医師による診断では、骨髄の組織の一部を採取して調べる生検により骨髄の線維化を証明することで、特発性骨髄線維症と確定します。骨髄の線維化は、白血病や悪性リンパ腫などのほかの血液腫瘍、あるいはがんの骨髄転移によっても起こり、膠原(こうげん)病や結核などが原因になる場合もあるので、これらの疾患を除外する必要があります。

骨髄穿刺(せんし)によって骨髄液を採ろうとしても、線維が増えているために骨髄液を十分に採ることができません。

一方、特発性骨髄線維症の初期段階では、若い細胞が血液に出てきたり、普通はみられない変形したものがみられたりするため、慢性骨髄性白血病と血液検査のデータが類似し、判別が難しいことがあります。慢性骨髄性白血病と判別するためには、骨髄生検の結果のほかに、フィラデルフィア染色体およびBCR/ABL遺伝子を認めないこと、一般的に好中球アルカリフォスファターゼ活性が低下しないことが重要になります。

内科の医師による治療では、根本的な治療法はまだ確立されていないため、専ら対症的に治療を行うことになります。症状に応じて、経口抗がん薬の投与や輸血療法などが選択され、条件が整えば、治癒を目的として行われる唯一の方法である造血幹細胞移植も考慮されます。

白血球や血小板の増加が著しく、脾臓のはれが目立つ場合に、メルファラン(アルケラン)、ハイドロキシウレア(ハイドレア)などの経口抗がん薬が使用されます。脾臓のはれのための圧迫感や痛みがある場合には、手術による脾臓の摘出や脾臓への放射線治療なども考慮されます。貧血や血小板減少が進行した場合には、輸血療法が行われます。

通常では50歳以下の年齢であること、白血球の型が一致したドナーがいることなどの条件が整えば、造血幹細胞移植が選択肢の一つとなります。しかし、移植に伴う合併症の危険についても十分に考慮する必要があり、その適応は慎重に検討されなければなりません。発症者には比較的高齢者が多いため、移植時に行う前処置の治療毒性を軽減した非破壊性造血幹細胞移植も試みられています。

経過はさまざまなものの、約15〜20パーセントの発症者では、急激に悪化して急性白血病などに移行します。この場合は治療が極めて難しく、予後不良です。

食事、運動、旅行など日常生活全般についての制限はほとんどありませんが、定期的に血液検査を受けることが必要です。脾臓のはれがある場合には、腹部の圧迫などに注意します。また、薬剤の副作用が疑われるような症状が現れた場合には、速やかに医療機関を受診する必要があります。

🇹🇴特発性色素性紫斑

下肢に点状の紫斑ができ、慢性化して褐色調の色素斑ができる皮膚疾患

特発性色素性紫斑(しはん)とは、点状の紫斑が主に下肢にたくさんでき、慢性化するうち、次第に褐色調の色素斑をみるようになる皮膚疾患。慢性色素性紫斑とも呼ばれます。

中年以降の人に好発し、やや男性に多くみられます。時に小児、若年者にもみられます。皮膚に出血がみられますが、血液学的に異常はなく、内臓などの全身臓器からの出血はありません。予後も心配ありません。

いくつかの型があります。不規則な斑(まだら)ができるシャンバーグ病、環状の斑ができる血管拡張性環状紫斑(マヨッキー紫斑)、丘疹(きゅうしん)状の皮疹をみる紫斑性色素性苔癬(たいせん)状皮膚炎、かゆみの強い瘙痒(そうよう)性紫斑などです。

いずれも真の原因は不明ながら、微小循環障害と血管壁の弱さが関係するものと考えられます。症状の違いが何によるのかは、今後の解明を待たねばなりません。シャンバーグ病の原因については、うっ血による静脈内圧の高進や毛細血管を脆弱(ぜいじゃく)化する要因が存在するという説などがあります。また、何らかの遅延型過敏反応であるという説もあり、衣類の接触、扁桃(へんとう)炎などからの病巣感染、ある種の薬剤の関与などを指摘する報告などがあります。

特発性色素性紫斑は基本的に下肢、特に下腿(かたい)の裏側が好発部位で、おおかたは両脚に発症します。点状の紫斑で始まり、毛細血管が拡張し、次第に進行して大小の紅褐色の斑となります。大きくなると、辺縁は不規則な形になりますが、境界は明白です。色はやがて薄れてゆきますが、しばしば新生を繰り返して慢性化し、数年に渡ることもあります。紅褐色の斑が大腿、腰臀(ようでん)部へと拡大することもあります。

表面は平滑ですが、時にはカサカサしている場合もあり、かゆみを伴うこともあります。シャンバーグ病では、斑と斑の間に拡張した静脈あるいは静脈瘤(りゅう)の存在が認められることがあります。

特発性色素性紫斑に気付いたら、疾患を正しく把握するためにも、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科の医師に相談してみることが勧められます。

特発性色素性紫斑の検査と診断と治療

皮膚科、ないし皮膚泌尿器科の医師による診断では、出血傾向の一般検査を行ない、血液学的に異常をみないことを確認します。組織を病理検査すると、慢性的な出血性の炎症がみられます。病変部は明らかな色素の沈着を残すので、診断は比較的容易です。

積極的な治療の必要はありません。症状の程度によって、血管強化剤、止血剤、抗炎症剤などが使用されます。病因を絶つ根本治療ではなく、対症的治療にとどまります。副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の外用が有効なことがあります。静脈瘤を伴う例には、弾力包帯、弾力ストッキングを使用します。

慢性かつ進行性で一進一退を繰り返し難治性ですが、自然軽快もあり得ます。

衣類の接触とともに、使用中の薬剤などが疾患を悪化させているかどうかを観察し、日常生活の中で関係していると思われるものがあれば、それを避けるようにします。下肢の血液の循環に負担をかけないように心掛けることが大切で、長時間の歩行、立ち仕事などは避けるようにします。

🇹🇴特発性視神経炎

視神経の髄鞘が脱落し、視神経機能に障害が起こる眼疾

特発性視神経炎とは、片目または両目に急性の視カ低下がみられ、視神経の脱髄が起こる眼疾。特発性とは原因が不明という意味で、ほかの原因が除外されますが、多発性硬化症の初発もしくは部分症としてみられることがあります。

20歳代から50歳代に多く、男性より女性のほうに好発します。視力低下が生じる数日前から、あるいはほぼ同時に眼球を動かすと痛みを感じたり、眼球の後ろに種々の程度の痛みを感じたりします。見ようとするところが見えない中心暗点型の症状が多く、全体に霧がかかったように見えたり、視野の周辺の一部からだんだん見えにくくなることもあります。

この特発性視神経炎は、視神経の眼球壁内に起こる視神経乳頭炎と、これより後方に起こる球後視神経炎の2種類に分けられます。視神経乳頭炎は、眼底の視神経の先端部分に当たる乳頭や、これに近い部分の視神経に赤いはれを示します。 球後視神経炎は、眼球の後方に炎症があってはれが見えず、乳頭が正常に見えます。

視神経乳頭炎は、比較的改善率がよいものです。球後視神経炎は、視神経以外の脊髄(せきずい)や、大脳の白質という神経線維の集まりにも病変が及び、しばしば軽快と悪化を繰り返す多発性硬化症の一部になることもあります。多発性硬化症では、目の障害だけでなく、手足のまひなどの運動失調、感覚障害、認知症などが出現することがあります。

特発性視神経炎の真の原因は不明ながら、神経の炎症によって、視神経の回りを取り囲む髄鞘(ずいしょう)が脱落し、視神経機能に障害が起こると推定されています。一部は何らかのウイルス感染が契機となって、髄鞘の構成蛋白(たんぱく)や脂質に対する自己免疫反応が関与すると考えられています。

特発性視神経炎の検査と診断と治療

医師による診断では、瞳孔(どうこう)の反応検査と、検眼鏡による眼底検査、及び視野検査を行って診断を確定した後、視神経の病変を直接見ることができる眼窩(がんか)部や頭部のMRI検査が行われます。

片眼性の特発性視神経炎の場合は、瞳孔の対光反応に左右差があることが特徴的で、瞳孔の反応検査は診断上重要です。急性期の視神経炎では、眼底検査で視神経乳頭のはれが認められることが多いのですが、炎症が眼球より後方の視神経に限られている場合には、眼底は全く正常の所見を示しますが、慢性期の視神経炎では視神経委縮を示します。

また、周辺視野検査により、周辺部の視野欠損が発見されることがあります。

特発性視神経炎には自然回復傾向の強いものもあって、特に治療しなくても数カ月のうちに改善されるものもあります。病状によっては、副じん皮質ステロイド剤の点滴治療と、その後の内服により治癒が早まり、再発が防止できることがあります。副腎皮質ステロイド剤以外では、神経保護のビタミンB12製剤の内服を行います。

多発性硬化症による視神経炎、高度の視力障害を起こす難治性再発性の視神経炎の場合には、副じん皮質ステロイド剤の反応も悪く、長期間の投与により副作用も懸念されることがありますので、インターフェロンβ(ベータ)―1b治療が悪化の抑制、再発防止に有効です。

治療により視力がいったん回復しても、原因によっては再発を繰り返し、徐々に視力が悪化することもありますし、片目だけに現れた症状が両目に現れることもありますので、定期的な経過観察は必要です。予後の比較的よい視神経炎では、10年後にも視力が1.0以上を維持します。

2022/08/14

🇵🇾特発性食道拡張症

 

食道下端の通過障害と、胸部食道の拡張が起こる疾患

特発性食道拡張症とは、食道と胃の接合部である噴門の神経節障害の結果、胸部の食道全体が広がる疾患。噴門けいれん症、食道アカラシアとも呼ばれます。

食道は飲んだり食べたりした物を口から胃へ通す25センチほどの管ですが、それ自体が蠕動(ぜんどう)運動という、物を運ぶための働きを備えています。食べ物がのどを通ると、反射的に蠕動運動が起こって次第に下方に伝わり、その動きの波に乗って飲食物は運ばれます。蠕動の波が噴門に達すると、ここが緩んで飲食物を胃へ通し、通した物を再び食道へ逆流しないように、噴門は締まります。

しかし、何かの原因で食道の蠕動運動が起こらなくなると、噴門が緩まなくなるアカラシアという状態になって飲食物が滞る結果として、胸部の食道が異常に広がる特発性食道拡張症を生じます。

原因は、はっきりとはわかっていません。食道の蠕動運動は自律神経の働きによりますが、現在のところ、噴門の粘膜の下にある筋層内の神経節細胞の機能異常であることまでしか解明されていません。精神的なショックが誘因になることもあります。

症状としては、食べた物が胸の辺りでつかえる感じがして、すぐに満腹感が起こり、たくさん食べられません。ほかの食道狭窄(きょうさく)疾患と異なり、固形物より液体、とりわけ冷水の通過が悪い傾向にあります。

食道の広がりが高度になると嘔吐(おうと)が起こりますが、特に夜間、寝ている時にに多い傾向があります。そのほか、胸の圧迫感や痛み、背中の痛みが出て、病状が進行すると体重が減少してきます。

よくなったり悪くなったして長期間続き、精神的に緊張した時、体調不良の時には症状が悪くなります。10〜50歳代に発症して中年にピークがあり、やや女性に多くみられます。

特発性食道拡張症の検査と診断と治療

食べ物のつかえ、胸痛、嘔吐などがあったら、内科、消化器科(胃腸科)を受診します。

医師による診断では、バリウムを飲んでのX線造影検査をしたり、食道内視鏡検査、食道内圧検査を行います。さらに、食べ物の長期残留によって起こる慢性食道炎、食道内容物が気道に入って起こる肺感染症、食道がんなどの合併もあるので、これらの検査も行われます。

治療としては、精神安定剤、鎮痙(ちんけい)剤、狭心症に対する薬剤などがある程度有効なものの、大きな期待はできません。

軽症、中等症のものに対しては、噴門拡張術が有効です。食道下端の狭窄部にバルーンという袋つきのゴム管を挿入し、これに空気、水を満たして膨らませ拡張を図ります。また、内視鏡で病変を見ながら、バルーンを狭窄部に当てて膨らませるバルーン拡張術は、検査と治療が同時に行え、よい結果を得ています。

重症のものに対しては、手術が行われます。 内視鏡下に狭くなった下部食道の筋層を切開して広げ、胃液の逆流を防止する修復をします。

ただし、特発性食道拡張症では、食道に食物が停滞する時間が長いので、食物中の発がん物質が食道壁に接触する時間が長くなり、食道がんを合併する確率が高くなります。定期的に内視鏡検査を受けるようにします。

🇨🇱特発性心筋症

心臓の筋肉の疾患で、原因が不明なもの

特発性心筋症とは、原因または原因との関連が不明な心筋の疾患。原発性心筋症とも呼びます。

原因の明らかな心筋異常であるリウマチ性心疾患、心奇形、高血圧性心疾患、虚血性心疾患、内分泌性心疾患、貧血、肺性心などは、特発性心筋症から除外されます。同時に、特定心筋疾患、すなわち、全身疾患の一部として心筋病変を示す心筋炎や、ある疾患に伴う心筋疾患なども除きます。

特発性心筋症はその形態や機能異常の特徴から、肥大型心筋症と拡張型心筋症の二つの型に分けられます。

肥大型心筋症は、左心室心筋の異常肥大が特徴です。肥大が心室中隔の上部で著しい場合には、左心室の流出路の狭窄(きょうさく)を生じるものがあり、これを閉塞(へいそく)性肥大型心筋症と呼びます。狭窄の生じないものは、非閉塞性肥大型心筋症と呼びます。

また、この肥大型心筋症では心室中隔の異常肥大が左心室自由壁に比べて著しいことが一般的なため、非対称性中隔肥大と呼ばれることもあります。

片や、拡張型心筋症は、心室の拡張が著しく、心室の収縮性が低下して、心臓のポンプとしての機能が十分に果たせないことが特徴です。

症状としては、非閉塞性肥大型心筋症では、動悸(どうき)、呼吸困難、胸部圧迫感、胸痛などが自覚症状として現れます。閉塞性肥大型心筋症では、さらにめまい、あるいは失神が加わります。

失神の多くは運動時に起こりますが、運動をすると安静時よりも心臓が強く収縮するため、左心室の流出路の閉塞を強めるためと考えられます。重い場合には、運動中に急死することもあります。多くみられるのは、若年者で家族歴に急死例のある人。

拡張型心筋症の症状としては、呼吸困難、動悸、疲労、むくみ、不整脈、胸部圧迫感などがみられますが、心臓の収縮力の低下によるものと考えられます。

特発性心筋症の検査と診断と治療

特発性心筋症の診断は、症状、身体所見、各種検査、特に心エコー所見によります。

肥大型心筋症の治療では、心臓が強く収縮して流出路が閉塞するのを防ぐために、心臓の筋肉の収縮力を抑えるβ(ベータ)遮断剤が有効です。しかし、この薬も急死を予防できるものではありません。日常生活では自覚症状のない軽症例でも、運動中の急死が起こりますから、急激な運動は避けます。カルシウム拮抗(きっこう)剤も、β遮断剤と同様に有効であると見なされています。

拡張型心筋症では一般的に、長期間に渡る安静と減塩食、水分摂取制限が必要です。また、心収縮力の低下に対しては通常、強心薬のジギタリス、利尿剤、降圧剤の一種のACE阻害剤の三つが使用され、症例によってはβ遮断剤が有効なこともあります。すべての薬剤が無効な場合には、心臓移植が検討されます。

拡張型心筋症で多く出現する頻拍性不整脈に対しては、抗不整脈薬が必要となります。しかしながら、心筋収縮力の低下している拡張型心筋症では、抗不整脈薬の使用で、さらに収縮力を低下させることは不利であるため、使用には十分な注意が必要。

また、心房と心室の間の刺激伝導が完全に途絶えた状態になるなどの徐拍性不整脈には、ペースメーカーの植え込みによる治療が行われます。

🇨🇱特発性腎出血

腎臓から尿管に至る部位からの原因不明の出血の総称

特発性腎(じん)出血とは、腎臓から尿管に至る部位からの原因不明の出血。本態性腎出血とも呼ばれます。

特発性とは、原因が不明、または原因との関連が不明という意味です。

目で見て明らかに赤い尿が出る肉眼的血尿が現れ、数時間から数日続きます。腎臓からの出血といっても、体内に血液がたまるわけではありません。一般に男性に多く、20〜30歳代の比較的若年者に多くみられます。

なお、ナットクラッカー(クルミ割り)現象による腎出血は、以前は特発性腎出血に含まれていましたが、左側の腎臓の静脈がそばの2本の動脈に圧迫されることで、静脈の流れが悪くなってうっ血が起こり、それが血尿の原因になると明らかになったため、現在では含まれません。

特発性腎出血も、何らかの原因で片側の腎臓内の微少な血管が破れ、軽いうっ血が起こることなどが原因と考えることもできます。

明らかな原因や誘因がなく、急に真っ赤な尿が現れるため、驚いてしまうことが多いようです。一度だけの場合もありますが、数日間続くこともあります。また、再発することもあります。

真っ赤な尿のすべてが、特発性腎出血ではありません。原因を特定できない特発性腎出血は、肉眼的血尿の発症者の約10人に1人にみられるだけです。他の肉眼的血尿の原因となる疾患として、膀胱(ぼうこう)炎などの尿路感染症、尿管結石などの尿路結石症、膀胱がんなどの尿路悪性腫瘍(しゅよう)、急性糸球体(しきゅうたい)腎炎やIgA腎症などの糸球体腎炎、膀胱や尿道に異物が入って炎症を起こす尿路異物などが挙げられます。

また、健常者でも激しい運動後、一時的に血尿を認めることがあります。いずれにおいても血尿が認められた時、特に持続したり、何度も再発したりする場合には、泌尿器科、ないし腎臓内科の医師の診断を受け、定期的に経過観察することが必要です。

特発性腎出血の検査と診断と治療

泌尿器科、腎臓内科の医師による診断では、まず他の原因による肉眼的血尿を除外します。具体的な検査としては、尿沈渣(ちんさ)、尿細胞診、尿細菌培養、超音波、CT、MRI、静脈性腎盂(じんう)造影(IVP)、膀胱鏡などを行います。他の原因を除外することにより、特発性腎出血と診断を確定します。

特発性腎出血と診断されたら、腎臓の働きに関しては正常で、健康人と何ら変わることはありません。また、貧血になったり、IgA腎症のように将来、腎臓の働きが悪くなるといった恐れはないのが普通です。

泌尿器科、腎臓内科の医師による治療では、薬物療法として、抗プラスミン薬などの止血薬を使用して、血尿を止めます。肉眼的血尿が持続する場合には、尿管カテーテルを用いて、1~3パーセントの硝酸銀を腎盂内へ注入して、出血している静脈を凝固させる治療を行うこともあります。

自然に治ることも多いものの、安静が第一です。肉眼的血尿が見られる間は、血尿を増やしてしまう恐れがある過労や風邪などに注意しながら、1日の平均的な成人の尿量である1~1・5リットルを保つために十分な水分補給を心掛けます。飲酒や激しい運動も、控えたほうがよいでしょう。

2022/08/10

🇮🇳特発性正常圧水頭症

頭蓋内の圧力が上がった症状を示さず、明らかな原因が不明な水頭症

特発性正常圧水頭症(すいとうしょう)とは、脳の内側にある脳室が拡大しているにもかかわらず、頭蓋(とうがい)内の圧力が正常範囲内で、明らかな原因が不明な水頭症。

水頭症自体は、脳の中や脊髄(せきずい)の表面を流れる脳脊髄液(髄液)が頭蓋内にたまり、脳の内側で4つに分かれて存在する脳室が正常より大きくなり、周りの脳を圧迫する疾患です。

脳脊髄液は、脳全体を覆うように循環して脳保護液として働き、脳を浮かせて頭部が急激に動くことによる衝撃を柔らげたり、部分的な脳の活動によって産生される物質を取り除く働きも併せ持つと考えられています。脳室で血液の成分から1日約500ミリリットル産生されて、1日で3回ほど全体が入れ替わる程度のスピードで循環し、最終的には、くも膜という脳の保護膜と脳との間に広がっている静脈洞という部位から吸収され、血液へ戻ってゆきます。

水頭症では、この脳脊髄液の産生、循環、吸収などいずれかが障害されることで、頭蓋内の圧力が高まり、さまざまな症状が出ます。

大きく分けて、胎児期に障害が生じる先天性水頭症と、生後に脳腫瘍(しゅよう)、がん、細菌・ウイルス・寄生虫などの感染で起こる髄膜炎、頭部外傷、脳動脈瘤(りゅう)の破裂や高血圧が原因で起こる脳内出血、脳室内出血、脳室内腫瘍などによって起こる後天性水頭症があります。

後天性水頭症では、脳圧が正常であるにもかかわらず症状が出現する場合もあります。これが正常圧水頭症であり、さらに、くも膜下出血、髄膜炎などといった明らかな原因がある続発性(症候性)正常圧水頭症と、明らかな原因が不明な特発性正常圧水頭症に分けられます。

特発性正常圧水頭症は、高齢者に多く発症し、その症状が認知症と混同されやすいことがあります。物忘れ外来を受診する人の3パーセント程度、認知症と診断されている患者の5〜6パーセントで、特発性正常圧水頭症が疑われるといわれています。早期に適切な治療を受ければ、症状が改善する可能性が高いため、特発性正常圧水頭症は「治る認知症」ともいわれています。

特徴的な症状は、歩行障害、認知障害、尿失禁の3兆候。発症者の約60パーセントに3兆候がみられますが、ほかにも表情が乏しくなったり、声が出にくくなったりすることもあります。

3兆候では、最初に歩行障害が現れることが多いとされます。足を左右に広げ、すり足や小刻みな歩き方になるのが特徴で、方向転換などでバランスを崩して転倒しやすくなるほか、次第に第一歩が出なくなり、立っていたり座っていたりする状態を維持できなくなります。

認知障害では、思考や行動が緩慢になり、放置すると物忘れがひどくなって、興味や関心の低下、さらには無反応へと進行します。アルツハイマー病のように、自宅から勝手に出てしまい近所をウロウロするような徘徊(はいかい)は認めません。また、パーキンソン病のように、手の震えは出ません。

尿失禁には、歩行障害や認知障害も影響しており、尿意切迫感や頻尿が出現することもあります。

特発性正常圧水頭症の診断は、神経を専門とする内科や脳外科、脳神経外科が行います。歩行の不自由さに、物忘れとトイレの問題などが加わって疾患が進行してしまうと、治療効果が少なくなりますので、早めの受診が勧められます。

特発性正常圧水頭症の検査と診断と治療

内科、脳外科、脳神経外科の医師による診断では、頭部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査を行います。脳脊髄液のたまりと脳室の拡大が確認できれば正常圧水頭症が疑われますが、アルツハイマー病などとの鑑別が難しい場合もあり、両者が併存することもあります。

そのため、腰椎(ようつい)から髄液を20〜30ミリリットル抜き取って症状の変化を調べるタップテスト(髄液排除試験)を行います。タップテストによって、症状が1~2日程度で軽くなれば、手術で改善する可能性が高いと考えられます。そのほか、頭蓋内圧測定、脳血流測定などを行うこともあります。

内科、脳外科、脳神経外科の医師による治療では、タップテストで髄液を抜き取って反応があった場合は、シャントと呼ばれる手術を行います。

本来の脳脊髄液の流れの一部分から、シリコンでできたシャントチューブと呼ばれる細い管を用いて、頭以外の腹腔(ふくこう)や心房などへ余分な脳脊髄液を半永久的に流す仕組みを作ります。もしくは、できるだけ脳を傷付けないために、腰椎から腹腔へシャントチューブを通して、余分な髄液を半永久的に流す仕組みを作ります。

脳脊髄液(髄液)を流しすぎると頭蓋内出血を来すことがあるため、シャントチューブには流れる量を調整する圧可変式バルブと呼ばれる部分がつけられます。

シャント手術後の特発性正常圧水頭症で示している症状の改善度は、治療の時期や症状の程度によって異なります。歩行障害で60〜90パーセント、認知障害で30〜80パーセント、尿失禁で20〜80パーセントとされますが、中には劇的に回復する例もあります。一般的には、最も改善しやすいのは歩行障害で、次いで尿失禁、記憶障害の順です。

手術後の合併症として、脳を覆う硬膜下血腫などのリスクはありますが、シャント手術自体はそれほど難しい手術ではありません。

3兆候が軽くなれば、日常生活の質(QOL)が向上して家族の負担も軽減されます。治療を受けた後は、定期的な医師の診察を受けることが必要です。

🇻🇳特発性脱疽

手足の指の動脈が詰まって、指が腐ってくる疾患

特発性脱疽(だっそ)とは、手足の爪(つめ)の周りや指の間に、治りにくい傷ができて、ひどくなると足の指が腐ってくる疾患。最初に報告者したアメリカ人の名前からバージャー病とも、閉塞(へいそく)性血栓血管炎とも呼ばれます。

体の組織の一部が生活力を失う状態を壊疽(えそ)または脱疽といいますが、このような病変が手足の指に起こるのは動脈が詰まるためです。特に膝(ひざ)から下の足と腕の動脈が、原因不明の炎症によって血管の壁が厚くなり、血流障害ができるために、そこで血液が固まり、詰まってきます。

原因は不明ですが、発症には喫煙が深く関係していて、たばこをやめると疾患が進行しない特徴があります。一説によると、原因は口腔内の細菌、特に歯周病菌によるという可能性が指摘されています。発症者数は、日本国内で推定約1万人。男女比は10対1と男性が多く、20〜40歳代を中心に発症しています。

症状としては、膝の下の血管が詰まった場合、足先が腐ってきます。ほとんどの場合、両方の足先に病変が出現します。腕の動脈が詰まれば、手の指に壊疽が出現します。

壊疽は血管に閉塞性の病変が起きた後、数年間この閉塞に近い状態が続いた場合に起こるので、特発性脱疽の始まりの血管炎では、指先のしびれ感、冷感として自覚されます。進行すると、長い距離を歩くと痛みが起こるようになり、休息しながら歩くようになる間欠性跛行(はこう)を生じます。さらに進行すると、手足の静脈にも炎症を起こし、静脈に沿って赤く腫(は)れ、安静にしていても激しく痛み、壊疽の状態となります。

動脈硬化によって下肢の動脈が詰まる閉塞性動脈硬化症も、特発性脱疽と同じような症状を来しますが、閉塞性動脈硬化症は高齢者に多く、40歳以下の青年や壮年にはほとんど発症していません。

特発性脱疽の検査と診断と治療

検査をすると、血管が閉塞した部位より先の動脈は、拍動が触れなくなります。四肢の血圧から足関節/上腕血圧比を測ることにより、下肢虚血の重症度の判定に役立ちます。確定診断には、血管造影検査が必要になります。血液検査では、特徴的な所見はありません。

壊疽、脱疽というと、すぐに手足の切断を思い浮かべる人が多いようですが、傷が治りにくくても、疾患が指先などに限られている間は治療が可能です。

薬物療法としては、血液の循環を改善して血栓を予防するために、血管拡張薬や抗血小板薬が用いられます。重症例に対しては、多くの場合、詰まっている動脈を元通りに開通させることは不可能ですが、閉塞している部位の状態によって可能であれば、バイパス手術などの血行再建を行います。

バイパス手術が適さない場合は、交感神経を切除することによって、末梢(まっしょう)血管を拡張させ、血流をよくすることを目的に交感神経節ブロックが行われています。足の場合には腰の交感神経、手の場合には胸の交感神経を手術で切除します。壊疽が進行して各種の治療が無効な場合には、手足の切断が必要になります。

治療後の生活上の注意としては、手足の保温と清潔を心掛けます。傷を付けると、壊疽の再発の引き金となりますので、靴下を履く、靴擦れを起こさないように大きめの靴を履くなど、注意が必要です。散歩などの適度な運動は、お勧めです。また、この特発性脱疽はたばこを吸う人の発症率が高いので、禁煙を守ることも必要です。

発症した人のうち、多くは動脈の病巣は詰まったままの状態で、血行再建のバイパス手術などができるのはごく少数です。しかしながら、日ごろの注意をよく守れば、疾患の進行を食い止め、再発を減らすことができます。直接、生命に関係するような大切な臓器である心臓、脳、内臓などの動脈が侵されることはありません。予後も同年代の健常者と変わりありませんが、手足の切断を必要とすることもあり、生活の質(QOL)が脅かされることは否めません。

🇻🇳特発性慢性胃炎

胃の炎症が慢性的に起こるものの、原因の特定が難しい疾患

特発性慢性胃炎とは、原因または原因との関連が不明なままに、胃の内側に炎症が慢性的に起こる疾患。突発性慢性胃炎とも呼ばれます。

慢性胃炎には、随伴性慢性胃炎もあり、こちらは胃がんや胃潰瘍(かいよう)、十二指腸潰瘍などの疾患に伴って、胃の内側に炎症が慢性的に起こる疾患です。

特発性慢性胃炎は、さらに表層性胃炎、委縮性胃炎、肥厚性胃炎の3つのタイプに分類されます。

表層性胃炎は胃の粘膜の表面だけに炎症が起こる疾患

表層性胃炎は、胃の粘膜の表面に慢性の炎症が起こる疾患。

慢性胃炎の初期症状ともいえる状態で、胃腺(せん)の委縮はあまり目立たず、胃の出口近くの粘膜の表面にびらんやむくみ、発赤などの症状がみられるのが特徴です。

飲酒やたばこ、香辛料の摂取、熱いものの刺激、薬物による刺激が原因になるほか、感染したピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)に対して、人体の免疫が反応している状態であるために炎症が起こっているのが原因の場合もあります。また、表層性胃炎は不安やストレスなどの精神的な状態との関連もあるようです。

胃の粘膜の表面のみの炎症ですから、それほど症状は強くなく、自然と改善していく場合もあります。しかし、そのまま進行して長期化してくると、胃粘膜は次第に委縮し、胃液(胃酸)や粘液を分泌しない状態になり、委縮性胃炎になってしまう恐れがあります。

表層性胃炎はどちらかといえば若い人に多く、胃に不快感があり、胃もたれを起こしたり、食後に腹痛を起こすことがあります。場合によっては、胃潰瘍と同様に空腹になると胃に痛みを感じたり、重苦しさが起こってくることがあります。食事をすると軽減されますが、げっぷや胸焼けなどを伴うこともあります。

胃の炎症症状の強い時には、食欲不振に陥ることもありますし、吐き気を覚えることもあります。このような症状は、1〜2年に及ぶこともあります。

委縮性胃炎は慢性的な胃の炎症により胃の粘膜が委縮する疾患

委縮性胃炎は、慢性的な胃の炎症によって、胃液を分泌する胃腺の部分の粘膜が委縮していく疾患。

胃粘膜の委縮の度合は人によってさまざまで、胃の一部しか委縮してない人から、胃全体まで委縮している人もいます。

委縮性胃炎の経過はまず、胃の粘膜が赤く痛んだ状態になることから始まり、胃の粘膜の細胞が次第に少なくなって、胃液(胃酸)を分泌する力が次第に衰えていきます。さらに進行すると、粘膜の性質が変わって、腸の粘膜に近いような細胞に姿を変えます。これを腸上皮化生(じょうひかせい)といい、委縮性胃炎の最も進行した病態です。

A型胃炎(自己免疫性胃炎)は、胃の真ん中の部分を中心として、広い範囲で委縮が広がり、主に胃液を出す壁細胞という細胞が減っていきます。その進行した病態は腸上皮化生で、自分の細胞に対する抗体ができることによる疾患であり、一種の自己免疫疾患です。

悪性貧血という貧血を伴い、カルチノイドという腫瘍(しゅよう)を誘発しやすいのも特徴です。このタイプは、海外に比較的多く、日本では非常にまれだと見なされています。

その一方で「自己免疫性胃炎」の原因は不明で、こちらもピロリ菌が関わっているのでは、という意見もありますが、どちらかといえば少数派です。

B型胃炎(多巣性委縮性胃炎)は、ほとんどの場合、委縮が胃の出口の付近から始まり、進行とともに、次第に胃の上のほうへと上がっていきます。進行すると、胃の全体に広がり、腸上皮化生がみられるようになります。

委縮の進行した粘膜には遺伝子異常が起こり、これが胃がんの大きな原因となるのも特徴です。このタイプが、日本人の委縮性胃炎の大部分を占めます。

B型胃炎(多巣性委縮性胃炎)の原因の大部分は、ピロリ菌の感染であると見なされています。

人間の胃にピロリ菌が感染すると、まず表面が赤くはれるようなタイプの胃炎が起こります。その中には潰瘍化するものもあり、しばらくすると、胃の出口から胃の細胞の減少、すなわち委縮が始まります。

さらに進行すると、胃の粘膜の細胞に遺伝子異常が起こり、腸上皮化生が起こります。この腸上皮化生が進行すると、胃酸はほとんど出なくなり、胃の中の酸度は低下します。

ピロリ菌は胃粘膜の環境に適合しているので、委縮性胃炎が高度になると、ピロリ菌はかえって減少し、時には胃の中からいなくなります。つまり、委縮性胃炎の原因はピロリ菌なのですが、進行した委縮性胃炎では、往々にしてピロリ菌は見付からないことがあるのです。

ピロリ菌の感染から数十年を掛けて、委縮性胃炎が発生し、それからさらに十数年を経て腸上皮化生が生じるというのが、一般的な時間経過と考えられています。従って、高齢者に多くみられ、食欲不振、食後のもたれ、上腹部の張りを覚える人もいます。

肥厚性胃炎は胃の粘膜表面が正常より厚くなった状態

肥厚性胃炎は、胃の粘膜の筋肉が緊張して、胃の粘膜表面が正常より厚く、硬くなった状態。慢性肥厚性胃炎とも呼ばれます。

この肥厚性胃炎では、胃液やその中の胃酸の分泌が増加し、過酸症がみられることがあります。原因の多くはピロリ菌の感染と考えられていますが、病態は完全には解明されていません。

症状としては、みぞおちから胸にかけて焼けるような不快感がある胸焼け、げっぷ、胃の酸っぱい液体が口まで逆流してくる呑酸(どんさん)、空腹時の胃の痛み、胃もたれなどの症状が現れます。大きな自覚症状が出ない場合もあります。

肥厚性胃炎に過酸症を伴う場合は、酸度の高い胃酸が食後に大量に分泌されることが一般的なため、食後1~2時間で胸焼け、げっぷ、呑酸の症状が現れます。また、食べ物が胃に入っていない空腹時に胃液が大量分泌し、とりわけ夜間に分泌量が増える傾向がある過酸症を伴う場合は、空腹時の胃の痛み、胃もたれ、食欲減退などの症状が現れます。

これらの症状は肥厚性胃炎だけではなく、十二指腸潰瘍、食道がん、胃がんなどでもみられる症状なので、検診などで肥厚性胃炎が発見された際には、消化器科、消化器内科、内科を受診することがお勧めです。

特発性慢性胃炎の検査と診断と治療

表層性胃炎の検査と診断と治療

消化器科、内科の医師による診断では、胃内視鏡検査を行うと、胃の出口近くの粘膜に多数のびらんやむくみ、発赤が観察されます。正確な診断には、組織の一部を採取して調べる生検による病理学的検索が必要です。 組織を調べると、原因となるピロリ菌がいるかどうかを診断することもできます。

消化器科、内科の医師による治療では、症状がみられるようであれば、胃液の分泌を抑える制酸剤や抗コリン剤(自律神経遮断薬)を使用します。食後に胃のもたれが起こるようであれば、消化剤を使用することも有効で、症状に合わせて、傷みを和らげる鎮痛剤も使用します。

薬の効果によって一時的に回復しますが、炎症が治まっていなければ、薬の服用をやめれば再発することも考えられます。薬の服用が必要だと判断された場合では、医師の指示を守り正しく服用することが必要です。

日常生活では、できるだけ胃に負担をかけない食生活を心掛けることが大切です。1日3食を規則正しく摂取するようにして、脂っこいものなど消化の悪いものや、香辛料など刺激の強いものは控えめにします。ストレスを改善する方法も見付けましょう。

委縮性胃炎の検査と診断と治療

消化器科、内科の医師による診断では、内視鏡で胃の粘膜の状態を見て、委縮しているかどうか判断します。通常の粘膜であれば胃の血管は見えませんが、委縮している場合は粘膜が薄くなり、胃の血管が黄色っぽく見えてきます。

消化器科、内科の医師による治療では、委縮してしまった粘膜を元に戻す画期的な方法はありません。ピロリ菌が原因のB型胃炎(多巣性委縮性胃炎)の場合は、除菌という方法があります。ピロリ菌に感染しているかどうかを調べ、陽性の場合は、除菌すれば胃の壁の状態が回復し、胃液分泌も元に戻ります。しかし、除菌したからといって、委縮が治るわけではありません。

胃がんを発症した人はほぼ100パーセントがピロリ菌に感染していたことがわかっており、ピロリ菌の除菌をすれば、胃がんのリスクの減少につながります。もちろん、ピロリ菌に感染している人がすべて胃がんになるわけではなく、1000人の陽性者のうち胃がんを発症する人は2~3人にすぎません。

除菌だけで、すべてが解決するわけでもありません。委縮性胃炎の状態では、胃液の分泌が少ないため、できるだけ胃に負担をかけない食生活を心掛けることが大切です。1日3食を規則正しく摂取するようにして、脂っこいものなど消化の悪いものや、香辛料など刺激の強いものは控えめにします。

委縮性胃炎を持っている人は胃がん発症のリスクが高くなりますから、最低でも年に一度の内視鏡検査は必ず受けることも大切です。委縮の程度が軽度であれば、少し間隔を空けても構いませんが、中等度から重症といわれている場合は、定期健診は欠かせません。

たとえ胃がんが発生したとしても、早期発見ならば内視鏡による胃粘膜切除手術で、簡単に切除することができます。早期の胃がんの5年生存率は90パーセント以上と高くなっています。

肥厚性胃炎の検査と診断と治療

消化器科、消化器内科、内科などの医師による診断では、胃内視鏡検査を行うと、胃粘膜の筋肉の緊張による粘膜表面の肥厚が観察されます。

また、胃内視鏡検査の時に胃粘膜の一部を採取し、顕微鏡で調べる生検を行うと、原因となるピロリ菌がいるかどうかを診断することもできます。

消化器科などの医師による治療では、胃の粘膜の状態に応じて、胃の中に放出された胃酸を中和する制酸剤や、胃酸の分泌を減少させる抗コリン剤(自律神経遮断薬)、ヒスタミンH2受容体拮抗(きっこう)薬(H2ブロッカー)、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などを使用します。

食後に胃のもたれが起こるようであれば、消化剤を使用することも有効で、症状に合わせて、傷みを和らげる鎮痛剤も使用します。

ピロリ菌が胃に感染している場合には、根本的な治療の見地から、抗生物質(抗菌剤)の投与によるピロリ菌の除去が選択肢の一つになります。

ピロリ菌に対しては、2~3種類の抗生物質を、同時に1~2週間服用し続けることで、胃の中に生息しているピロリ菌を除菌します。

肥厚性胃炎、過酸症において日常で注意することは、脂肪食、香辛料、コーヒー、炭酸飲料、漬物、アルコール、たばこなどの胃酸の分泌を促進するものと、精神的疲労によるストレスを避けることです。ストレスがあると、血流が悪化し胃粘膜の防御機能が低下します。

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