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2022/08/24

🇦🇹小頭症

頭蓋骨が先天的に小さく、変形を伴う症状

小頭(しょうとう)症とは、頭蓋骨(とうがいこつ)が先天的に小さく、変形を伴う症状。狭頭症、頭蓋骨縫合早期癒合症とも呼ばれます。

乳児の頭蓋骨は何枚かの骨に分かれており、そのつなぎを頭蓋骨縫合と呼びますが、乳児期には脳が急速に拡大するため、頭蓋骨もこの縫合部分が広がることで脳の成長に合わせて拡大します。成人になるにつれて縫合部分が癒合し、強固な頭蓋骨が作られます。

小頭症では、主に遺伝子の異常が原因となって、頭蓋骨縫合が通常よりも早い時期に癒合したり、一部の縫合が欠損したりする結果、脳の発達に呼応して頭蓋骨が健全に発達することができず、頭部に異常な変形が起こってきます。

頭蓋骨縫合の早期癒合部位、縫合の欠損部位によって、頭の前後径が異常に長い舟状頭、頭の前後径が異常に短くて横幅が広く、額が偏平になる短頭、額の中央が突出して三角形となる三角頭蓋など、頭蓋骨がさまざまに変形します。

そのほか、小頭症に顔面骨の発達の障害を伴って、顔、顎(あご)も変形するクルーゾン症候群、これに手足の指の癒合を伴うアペール症候群(尖頭〔せんとう〕合指症候群)などが起こることもあります。

頭部や顔面の変形、眼球突出などだけではなく、頭蓋骨が正常に発達できないために脳の圧迫や頭蓋内圧の上昇が起こり、脳や脳神経の発育と機能が障害され、耳の聞こえが悪くなったり、視力を損なうことがあります。

クルーゾン症候群が起こると、気道狭窄(きょうさく)、歯列のかみ合わせ異常、高口蓋や口蓋裂など、さまざまな症状もみられます。

小頭症は、遺伝子の異常で起こるほか、妊娠中の女性の風疹(ふうしん)ウイルスやサイトメガロウイルス、単細胞の原虫の一種であるトキソプラズマなどへの感染、低栄養、薬物、放射線照射により起きることもあります。

ウイルス感染の多くは、特に生命に必要な臓器が作られる妊娠初期の3カ月の間に、胎盤を通じて胎児、時にはその脳に直接感染し、小頭症を発症させます。2015年から中南米を中心に流行が拡大しているジカ熱の原因となるジカウイルスと小頭症の関連も指摘されていますが、科学的にはまだ証明されていません。

乳児の頭蓋骨は、子宮内での圧迫、産道を通る際の圧迫、また寝癖などの外力で容易に変形します。こうした外力による変形は自然に改善することが多いので心配ありませんが、遺伝子の異常やウイルス感染による小頭症との鑑別が大切です。

乳幼児の頭の形がおかしいと心配な場合は、形成外科や小児脳神経外科の専門医を受診します。

小頭症の検査と診断と治療

形成外科や小児脳神経外科の医師による診断では、頭蓋骨のX線(レントゲン)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行い、頭蓋骨縫合の早期癒合部位、縫合の欠損部位を明らかにします。

頭蓋骨の変形はないが、頭が小さく、大泉門(だいせんもん)という前頭部にある頭蓋骨の透き間も触知できない場合は、脳の発育が悪いために脳体積が小さく、頭蓋骨が小さいタイプの小頭症の可能性が大です。この場合は、頭蓋骨のX線検査、CT検査で頭蓋骨縫合の早期癒合は全くみられません。知能の発達遅滞が顕著で、多くは有効な治療法がありません。

形成外科や小児脳神経外科の医師による治療では、早期癒合による小頭症の症状には、軽度なものから重度なものまであり、形成外科や脳神経外科の領域のほか、呼吸、循環、感覚器、心理精神、内分泌、遺伝など多くの領域にわたる全身管理を行います。乳幼児の成長、発達を加味して適切な時期に、適切な方法で治療を行うことが望ましいと考えられ、関連各科が密接な連携をとって集学的治療を行います。

小頭症の治療は、放置すると頭の変形が残ってしまうばかりでなく、脳組織の正常な発達が抑制される可能性があるため、外科手術になります。

手術法としては従来から、変形している頭蓋骨を切り出して、骨の変形を矯正することで正常に近い形に組み直す頭蓋形成術が行われています。乳幼児の骨の固定には、できるだけ異物として残らない吸収糸や吸収性のプレートが用いられます。

近年では、この頭蓋形成術に延長器を用いた骨延長術も行われています。具体的には、頭蓋骨に刻みだけ入れて延長器を装着し、術後に徐々に刻みを入れた部分を延長させ、変形を治癒させるという方法。

骨延長術のメリットとして、出血が少なく手術時間の短縮が図れる、骨を外さないため血行が保たれるので委縮や変形が少ない、骨欠損が比較的早期に穴埋めされる、皮膚も同時に延長可能である、術後に望むところまで拡大可能であるなど挙げられます。一方、デメリットとして、頭蓋形成術より治療期間が長く1カ月程度は入院しなければならない、延長器を抜去する手術が必要となるなどが挙げられます。

さらに、内視鏡下で骨切りを行い、ヘルメットで頭の形を矯正するなどの手術方法も開発されています。

頭蓋骨の手術だけでなく、顔面骨を骨切りして気道を拡大し、眼球突出や不正咬合(こうごう)を適切な位置へ移動させる手術も行われます。

単純な小頭症であれば、適切な時期に適切な手術が行われれば、一度の手術で治療は完結することが期待できることがあります。クルーゾン症候群性、アペール症候群性の小頭症では、複数回の手術が必要になることもまれではありません。頭蓋骨、顔面骨の形態は年齢により変化しますので、長期にわたる経過観察が必要です。

🇸🇲小舞踏病

リウマチ熱に由来する脳の障害で、不随意運動が出現

小舞踏病とは、リウマチ熱に由来する脳の障害で、手足が勝手に動いてしまう不随意運動を起こす疾患。ジデナム舞踏病とも呼ばれます。

通常5~15歳くらいの子供、特に女子に多くみられます。原因となるのは免疫反応で、リウマチ熱の引き金になる溶血性連鎖球菌(溶連菌)の感染に起因します。 溶血性連鎖球菌と人体の組織が似たような抗原部分を持つため、自分自身の免疫が誤って自分の体の中枢神経を攻撃し、発症します。

症状はまず、発熱、関節症状、皮膚症状、扁桃(へんとう)炎、心筋炎、心内膜炎などリウマチ熱に付随する症状を示し、多くのケースでは3〜6カ月後に不随意運動(舞踏運動)を生じます。リウマチ熱に付随する他の症状を伴わず、不随意運動が単独で出現することもあります。

手足が自分の意思とは無関係に動いてしまい、不自然に肩が動いたり、顔を曲げたり、踊るような歩き方をします。不随意運動は両手、両足や顔面において両側性に発生しますが、一側性のケースも見られます。

精神的にも不安定で、行動も落ち着きがなく、言葉もはっきりしないし、字を書かせると、健康な時と違って大小不同であり、たいへん下手になります。疾患の悪い時には、一人では食事がとれません。また、疲れたり興奮したりすると、症状がひどくなります。眠っている時は、症状が出ません。

軽い場合には、「落ち着きがない」「行儀が悪い」と見られる程度で、見逃されることも少なくありません。チックや多動症と誤診されることもあります。

小舞踏病の検査と診断と治療

診断は、リウマチ熱の症状と溶血性連鎖球菌の存在によって行われます。

治療としては、不随意運動のコントロールに抗精神病薬が用いられます。中には6〜8週間、不随意運動が続くケースもありますが、通常は数日で自然に症状が消えます。ほかに、安静が維持できない場合に、鎮静剤を用いることもあります。最近では、リウマチ性変化に対して、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)、バルプロ酸ナトリウム剤を使用することもあります。また、心合併症を防止するためには、ペニシリン剤の長期投与が必要とされます。

小舞踏病は1週間~2年ほど持続しますが、75パーセントは6カ月以内に消失します。

🇳🇱自律神経失調症

自律神経失調症とは、自律神経の不調によって、めまい、吐き気、けいれん、頭痛など多種多様な症状が起こる病態です。自律神経は交感神経と副交感神経から成っており、両者のバランスを保つことで人間の体は円滑な機能を果たしているのですが、緊張や疲労、ストレスなどで、このバランスが崩れると、体に変調が出てきます。

大きく分けると、心因の関与の強い心因性自律神経失調症と、心因の関与が明らかでない本態性自律神経失調症があります。発症年代は幅広く、赤ちゃんから高齢者までですが、心身の変調を来しやすい思春期と更年期に、多く現れます。

症状としては、めまい、吐き気、けいれん、頭痛のほか、微熱、疲労感、のぼせ、手足の冷え、胸痛、動悸、息切れ、呼吸困難感、発汗異常、神経性下痢、筋肉痛、肩凝り、腰痛など、非常に多岐にわたっています。

治療は、心身の休養と精神療法、薬物療法が主で、加えて生活環境の改善を図ることも大切です。少々の苦痛はあっても、できるだけ規則正しい日常生活を送り、それによって自信をつけることが、快方へ向かう第一歩となります。

🇳🇱自律神経不全症

内臓、血管などの働きを自然に調節している自律神経が侵される疾患の総称

自律神経不全症とは、交感神経と副交感神経からなる自律神経が内臓、血管、分泌腺(せん)の働きを自動的に調節している、その調節がうまくいかない状態のこと。

一般によくいわれる自律神経失調症というのは、本来の意味では疾患ではなく、大部分は不安障害(神経症、ノイローゼ)か軽いうつ病、あるいは精神的な性格によるもので、心因性自律神経失調症と見なされます。

一方、神経系の器質的な病変、例えば脊髄(せきずい)小脳変性症、多発性神経炎など、本当に自律神経系が侵されると、体温調節不能、性欲減退、汗が出ない、失神発作、貧血、失禁、夜尿などの症状を現してきます。

脊髄小脳変性症は、小脳および脳幹から脊髄にかけての神経細胞が遺伝的な変性や、老化などによって進行性に侵され、歩行や手足の運動ができにくくなる疾患の総称。現在、厚生労働省の特定疾患(難病)の一つで、医療費の公費負担が受けられます。この脊髄小脳変性症は総称であって、多数の病型に分類されていて、孤発性(非遺伝性)のものと遺伝性のものに大別されます。

多発性神経炎も総称であって、代表疾患にはギランバレー症候群と慢性炎症性脱髄性多発神経炎があります。

また、先天的に自律神経系の障害があると、激しい症状を示して10歳までに死亡することが多いもの。時には、30歳以後に現れることもあり、手足の震えや知能の低下を示すこともあります。

そのほか、原因不明で、局所的な自律神経障害を起こす特殊な疾患もあります。代表的なものとしては、手の血管が急に収縮するレイノー病、血管運動神経の局部的興奮によって、皮膚や皮下組織にむくみを生じるクインケ浮腫(ふしゅ)、多汗症などがあります。

自律神経不全症の検査と診断と治療

神経系の器質的な病変や、先天性の自律神経障害など、本当の自律神経系の変性によって起こるものに対しては、有効な薬も、治療法も現在、見いだされていません。専ら対症療法ということになります。

2022/08/23

🇪🇪真菌性髄膜炎

真菌の感染により、脳を取り巻いている髄膜に炎症が起こる疾患

真菌性髄膜炎とは、カビの仲間である真菌の感染によって、脳を取り巻いている髄膜に炎症が起こる疾患。

真菌は、カビ、酵母(イースト)、キノコなどからなる微生物の総称であり、菌類に含まれる一部門で、細菌と変形菌を除くものに相当します。葉緑素を持たない真核生物で、単細胞あるいは連なって糸状体をなし、胞子で増えます。

真菌性髄膜炎を発症する原因となる真菌としては、クリプトコックス、カンジダ、ムコール、アスペルギルス、コクシジオイデスなど挙げられますが、クリプトコックスによる真菌性髄膜炎の頻度が最も高いとされています。

クリプトコックスは、自然界に広く存在する酵母状真菌で、日本では特に神社仏閣などのハトの糞(ふん)の中から高率に見付けられています。ハトなど鳥の糞に含まれる窒素成分があると、クリプトコックスは大変よく増殖し、鳥の活動範囲の土が乾燥すると細かい微粒子となって、少しの風で舞い上がり、人間が気道から吸い込むこととなります。

鳥自身はクリプトコックスを運ぶことはあっても、体温が高いためにクリプトコックスの増殖が難しいために、クリプトコックス髄膜炎にはなりません。猫などの動物も、人間と同じく発症します。

初めての感染は肺で感染を引き起こすことが多いものの、肺での初感染は何の症状もないことが多くみられます。健康診断や、ほかの疾患で病院にかかった時に、偶然発見されたりします。

多くは体力や免疫力が落ちた時か、がんや白血病、エイズ、悪性リンパ腫(しゅ)、重症糖尿病など体力を消耗する基礎疾患の二次感染として、初めて症状が出ます。まれに、健康な人にも症状が出ることがあり、必ずしも体力、免疫力の低下と関係しているとは限りません。

発症した場合には、発熱、せき、喀(かく)たん、頭痛、徐々に進行する倦怠(けんたい)感や食欲不振が現れます。次いで、急性または亜急性に真菌性髄膜炎を発症すると、吐き気、嘔吐(おうと)を起こし、首が強く突っ張る項部強直(こうぶきょうちょく)で、首が曲がらなくなります。

さらに、炎症が脳そのものまでに及ぶと脳炎を合併し、意識障害や手足のけいれんを起こすこともあります。重症になると、脳、脊椎(せきつい)髄膜の病巣により死亡に至ることもあります。肺で発症する場合、肺の中に単一または複数の腫瘤(しゅりゅう)ができたり、肺炎を起こすことがあります。

一般人口での発症者は、10万人につき年間0・2〜0・9人と見なされています。なお、自然条件では、クリプトコックスによる真菌性髄膜炎になった人や動物から、ほかの人や動物への感染は起こりにくいと考えられています。

クリプトコックスなどによる真菌性髄膜炎は、早期に発見して早期に治療すれば予後の改善が期待できますが、時期を失したり、脳炎を合併したりすると、治ったとしても記憶障害などが残ってしまいます。

大人では激しい頭痛が続き、熱がなかなか下がらない場合、乳幼児では甲高い泣き声を上げたり、大泉門(だいせんもん)という前頭部にある頭蓋(ずがい)骨の透き間が膨らんで硬く張った場合は、すぐに神経内科や内科、小児科、呼吸器科の専門医を受診することが大切です。

真菌性髄膜炎の検査と診断と治療

神経内科や内科、小児科、呼吸器科の医師による診断では、髄膜炎や脳炎の程度を見るために胸部X線(レントゲン)検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査を行い、たん、髄液(脳脊髄液)、皮膚滲出(しんしゅつ)物から原因となる真菌が検出されれば、診断が確定します。クリプトコックスの場合は、円形の酵母様細胞が検出されます。

神経内科や内科、小児科、呼吸器科の医師による治療では、一般に抗真菌剤が用いられ、フルコナゾール、イトラコナゾール、フルシトシンを始めとするアゾール系抗真菌剤が第一選択となります。 このほか、アムホテリシンBなどの抗真菌剤も使われ、静脈内投与するか、髄液の中に直接注射します。

真菌性髄膜炎を引き起こしたもとになる基礎疾患があれば、その治療も並行して行います。予後は、基礎疾患に左右されます。

予防のためには、体力や免疫力が落ちた人、他の疾患を持っている人は、ハトが集まるような場所に近寄らない注意が必要です。周囲の人たちには、そういう人が治療を受ける医療機関の近くで、ハトにエサをあげるのをやめる配慮が必要です。

🇱🇻神経圧迫症候群

骨や結合組織などが神経を圧迫して、感覚や運動、または両方の異常を引き起こす疾患群

神経圧迫症候群とは、骨や結合組織などが神経を圧迫して、感覚や運動、または両方の異常を引き起こす疾患群。

神経圧迫症候群には、手根管(しゅこんかん)症候群、肘部管(ちゅうぶかん)症候群、橈骨管(とうこつかん)症候群などがあります。

手首にある手根管というトンネル内で神経が圧迫されて、手や指がしびれ、痛みが起こる手根管症候群

手根管症候群は、手首の手のひら側にある骨と靭帯(じんたい)に囲まれた手根管というトンネルの中で、神経が慢性的な圧迫を受け、しびれや痛み、運動障害を起こす疾患。

手根管というトンネルは、手関節部にある手根骨と横手根靱帯で囲まれた伸び縮みのできない構造になっており、その中を1本の正中(せいちゅう)神経と、9本の指を動かす筋肉の腱(けん)が滑膜性の腱鞘(けんしょう)を伴って通っています。

初期には人差し指、中指がしびれ、痛みが出ますが、最終的には親指から薬指にかけての親指側にしびれ、痛みが出ます。

このしびれ、痛みは明け方に強く、目を覚ますと指がしびれ、痛みます。ひどい時は夜間の睡眠中に、痛みやしびれで目が覚めます。この際に手を振ったり、指を曲げ伸ばしすると、楽になります。手のこわばり感もあります。

進行すると親指の付け根の母指球筋という筋肉がやせてきて、親指と人差し指できれいな丸(OKサイン)ができなくなります。細かい作業が困難になり、縫い物がしづらくなったり、細かい物がつまめなくなります。

原因が見いだせない特発性というものが多く、原因不明とされています。妊娠期や出産期、更年期の女性に多く生じるのが特徴で、骨折などのけが、仕事やスポーツでの手の使いすぎ、腎不全のために人工透析をしている人などにも生じます。腫瘍(しゅよう)や腫瘤(しゅりゅう)などの出来物でも、生じることがあります。

妊産婦と中年の女性にはっきりした原因もなく発症する特発性の手根管症候群は、女性のホルモンの乱れによる滑膜性の腱鞘のむくみが誘因と考えられ、手根管の内圧が上がり、圧迫に弱い正中神経が偏平化して症状を示すと見なされています。けがによるむくみや、手の使いすぎによる腱鞘炎などでも、同様に正中神経が圧迫されて症状を示すと見なされています。

指にしびれ、痛みがあり、朝起きた時にひどかったり夜間睡眠中に目が覚めるようなら、整形外科を受診することが勧められます。

肘の皮膚表面近くを通る尺骨神経が圧迫されて、障害が起こる肘部管症候群

肘部管症候群は、肘(ひじ)の内側の皮膚表面近くを通る尺骨(しゃくこつ)神経が圧迫されて起こる障害。

腕に走る大きな神経の1つである尺骨神経は、肘の内側にある内側上顆(ないそくじょうか)という骨の出っ張りの後ろを通り、その先にある骨と靭帯などで形成された肘部管という狭いトンネルをくぐって、手に伸びていきます。トンネル内は狭くゆとりがないため、慢性的な圧迫や引き延ばしが加わると、容易に尺骨神経まひが発生します。

肘部管症候群の原因は、現在では変形性肘関節症による肘関節の変形がその多くを占めています。変形性肘関節症は肘をよく使う人に発症しやすいことから、肘部管症候群は30歳以上の男性に多くみられます。一般に、利き手側に起こり、両手に同時に発症することはめったにありません。

尺骨神経は肘の皮膚表面近くを通っていて、何度も肘をついたり、長時間に渡って肘を曲げたままでいたりして、簡単に障害されます。野球のピッチャーは、スライダーを投げる際に腕を過剰にひねるため、肘部管症候群になりやすい傾向があります。

そのほか、肘関節部の骨折、肘部管を構成する骨が隆起した骨棘(こつきょく)、靭帯の肥厚、肘部管内外にできたガングリオン(結節腫)、外傷などから起こる場合もあります。 小児期の骨折によって生じた外反肘(がいはんちゅう)という、肘を伸展させると過剰に外側に反る変形によって、神経が引き延ばされて起こる場合もあります。

尺骨神経の働きは、手首の屈曲、小指と薬指の屈曲、親指を人差し指の根元にピッタリつける内転、親指以外の4本の指を外に開く外転、4本の指を互いにくっつける内転です。 知覚神経は、小指、薬指の小指側半分、手のひらの小指側半分を支配します。

尺骨神経が圧迫されたり引き伸ばされると、ほとんどの場合、最初は小指と薬指の小指側半分のしびれや痛み、感覚障害が起こってきます。また、尺骨神経は手のひら側と甲側の両方を支配しているので、指全体がしびれるのが特徴です。寝て起きた際にしびれていることが、しばしばあります。肘周辺のだるさ、前腕内側の痛みやしびれが出現することもあります。

尺骨神経の障害が進むと、親指の付け根の母指球筋以外の手内筋が委縮して、やせてきます。特に、手の骨と骨との間の筋肉がやせるので、指を開いたり閉じたりする力が弱くなったり、親指の内転困難によって親指と人指し指で物をつまむ力が弱くなったり、はしが使いづらくなったりなど、細かい動きがうまくできない巧緻(こうち)運動障害が生じます。顔を洗うために手で水をすくったりする動作も、難しくなってきます。

そのほか、手の筋肉が固まって指が曲がったままになる鉤爪(かぎづめ)変形(鷲手〔わして〕変形)と呼ばれる独特の現象が起こることもあります。

小指や薬指にしびれや痛みがあり、肘の内側にある内側上顆の後ろをたたくとしびれや痛みが走ったら、整形外科を受診して下さい。一般に、症状が軽いほど、早い回復が見込めます。手指の筋肉にやせ細りがあれば、急を要します。

腕に走る橈骨神経が圧迫されて、腕がしびれたり、動かなくなる障害が起こる橈骨管症候群

橈骨管症候群は、腕の骨を巻くように、鎖骨の下からから手首、手指まで走っている橈骨神経が、外から圧迫されることで起こる障害。腕がしびれたり、手首や手指が動かなくなったりします。

橈骨神経は腕に走る大きな神経の1つで、主に肘関節を伸ばしたり縮めたり、手首や手指を伸ばしたりするなどの動きを支配している神経です。感覚領域は手の背部で、親指、人差し指とそれらの間の水かき部を支配しています。

腕に走る大きな神経はほかに、正中神経、尺骨神経がありますが、橈骨神経は障害を受けやすく、腕の神経まひのほとんどを占めます。

この橈骨神経は鎖骨の下からわきの下を通り、上腕の外側に出てきて上腕中央部で上腕骨のすぐ上を走り、肘のあたりで腕の内側を走り、手首の近くでまた表面に出てきます。このようにいろいろな方向に走っていますので、いろいろな部位で圧迫を受ける可能性があります。中でも、橈骨神経が障害されやすい部位は2カ所あります。

1カ所はわきの下での圧迫、もう1カ所は上腕の外側の橈骨管での圧迫です。特に上腕の外側、いわゆる二の腕にある橈骨管の部位は、上腕骨に接するように橈骨神経が走行し、筋肉が薄い部位であるために、上腕骨に橈骨神経が圧迫されやすい状況にあり、最も障害を受けやすい部位です。

橈骨管症候群の原因は、大きく分けて2つあります。一番多いのが、腕の橈骨神経を体外から強く圧迫したことで起こる末梢(まっしょう)性の神経まひです。

典型的には、前夜から腕枕をして寝ていた、ベンチの背もたれにわきの下を挟むような姿勢を続けていた、電車で座席の横のポールに腕を当てて寝ていた、飛行機で肘掛けに寄り掛かるように寝ていた、浴槽でわきの下を圧迫するようにうたた寝していたなど、わきの下や上腕の外側を強く圧迫するような姿勢を一定時間続けると、気付いた時には腕はしびれ、動かなくなっていたというように発症するケースが多く認められます。飲酒後、寝て起きたら、橈骨管症候群になっていたというケースも多く認められます。

何らかの思い当たる原因があって手が動かなくなったのであれば、まず末梢性のもので一時的な神経まひと考えられます。逆に、全く何の覚えもなく発症した時は、腫瘤などほかの原因から起きている場合もありますので、要注意です。

橈骨管症候群のもう1つの原因は、骨折、脱臼(だっきゅう)などの外傷による外傷性の神経まひで、外からの圧迫で神経を傷付けたり、骨折した骨が神経を傷付けたりといったケースです。

橈骨神経が上腕の中央部で傷害されると、手首と手指の付け根の関節に力が入らず伸ばしにくくなり、手首と手指がダランと垂れる下垂手になります。親指、人差し指、中指の伸ばす側を含む手の甲から、前腕の親指側の感覚の障害も生じます。

橈骨神経が肘関節の屈側で傷害されると、手首を伸ばすことは可能ですが、手指の付け根の関節を伸ばすことができなくなり、指のみが下がった状態になる下垂指になります。手の甲から前腕の感覚の障害がありません。

橈骨神経が前腕から手首にかけての親指側で傷害を受けると、障害の部位によりいろいろな感覚の障害が起こりますが、下垂手にはなりません。

共通する症状は、グーが握れなくなる、パーに開けなくなる、しびれです。まひの程度が重いほど、パーに開けなくなる症状が顕著です。手首の筋力が著しく弱くなるため、ちょっとした物でも持ち上げられなくなります。また、感覚の鈍さが現れ、ペンなどをうまく持てず、字もうまく書けません。親指と人差し指の水かき部分のしびれ、腕のだるさや痛み、腕や手のひらのむくみなどがよくみられる症状です。

まひの状態が長く続くと、筋肉の委縮が起こり、腕の筋肉がやせ細ってきます。

手がしびれ、動かなくなった場合のほとんどは、末梢性のもので一時的な神経まひと考えられますが、中には重症の場合があるので、念のために整形外科、ないし神経内科を受診することが勧められます。

神経圧迫症候群の検査と診断と治療


手根管症候群の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、手首の手のひら側を打腱器などでたたくとしびれ、痛みが指先に響きます。これをティネル様サイン陽性といいます。手首を手のひら側に最大に曲げて保持し、1分間以内にしびれ、痛みが悪化するかどうかをみる誘発テストを行い、症状が悪化する場合はファレンテスト陽性といいます。母指球筋の筋力低下や筋委縮も診ます。

補助検査として、電気を用いた筋電図検査を行い、手根管を挟んだ正中神経の伝導速度を測定します。正中神経を電気で刺激してから筋肉が反応するまでの時間が、手根管症候群では長くなります。知覚テスターという機器で感覚を調べると、手根管症候群では感覚が鈍くなっています。 腫瘤が疑われるものでは、エコーやMRIなどの検査を行います。

首の病気による神経の圧迫や、糖尿病性神経障害、手指のほかの腱鞘炎との鑑別も行います。

整形外科の医師による治療では、消炎鎮痛剤やビタミンB12などの内服薬、塗布薬、運動や仕事の軽減、手首を安静に保つための装具を使用した局所の安静、腱鞘炎を治めるための手根管内腱鞘内へのステロイド剤注射など、保存的療法が行われます。

保存的療法が効かない難治性のものや、母指球筋のやせたもの、腫瘤のあるものなどは、手術が必要になります。以前は手のひらから前腕にかけての大きな皮膚切開を用いた手術が行われていましたが、現在はその必要性は低く、靭帯を切って手根管を開放し、神経の圧迫を取り除きます。手根管の上を4~5cm切って行う場合と、手根管の入り口と出口付近でそれぞれ1~2cm切って内視鏡を入れて行う場合とがあります。

とりわけ母指球筋のやせたものは、手術を含めた早急な治療が必要となります。母指球筋のやせた状態が長く続くと、手根管を開放する手術だけでは回復せず、腱移行術という健康な筋肉の腱を移動する手術が必要になります。

肘部管症候群の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、損傷した神経の位置の特定するために、神経伝導試験を行います。親指の付け根の母指球筋以外の手内筋の筋委縮や鉤爪変形、両手の親指と人差し指で紙をつまみ、医師が紙を引く時に親指の第1関節が曲がるフローマンサインがあれば、診断がつきます。

感覚の障害がある時は、皮膚の感覚障害が尺骨神経の支配に一致していて、チネルサインがあれば、傷害部位が確定できます。チネルサインとは、破損した末梢神経を確かめる検査で、障害部分をたたくと障害部位の支配領域に放散痛が生じます。

確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波検査など必要に応じて行われます。X線検査では、変形性肘関節症や骨折の経験などがわかりますし、肘を曲げた姿勢でX線検査を行うと、肘部管の狭窄(きょうさく)などもわかります。

首の病気による神経の圧迫や、糖尿病性神経障害などとの鑑別が必要で、問診で首の痛みや肩凝りがあるかなどを聞くこともあります。

整形外科の医師による治療は通常、筋肉の硬直を防ぐために理学療法で治療します。超音波治療、電気治療、ストレッチング、アイスマッサージ、アイシングを主に行い、夜間に肘が過度に曲がるのを避けるために添え木で固定したり、肘の負担を避ける肘用のパッドを着用したりします。

肘の圧迫や長時間の肘の屈曲など、明らかな誘因がある場合には、生活習慣の改善と局所の安静で軽快することが多い傾向にあります。ビタミン剤の内服も有効と考えられます。

筋委縮を起こしている場合や、肘関節部の骨折やガングリオンなどよって肘関節に変形を起こしている場合では、手術が必要になります。手術方法には、ガングリオンの切除、腱弓(オズボーンバンド)の切開、内側上顆の切除、神経の前方移行術などがあります。

腱弓の切開は、尺骨神経を圧迫している膜状の組織を切る手術です。ほかの手術に比べて簡単ですが、再発する場合があります。手術後は、1週間ほど肘を固定します。

内側上顆の切除は、肘を曲げた時に内側上額で尺骨神経が引っ張られ、圧迫されないように、内側上顆を切除します。再発も少なく、肘部管症候群の手術としては、日本では最もよく行われています。手術後は、1週間程度の肘の固定が必要です。

神経の前方移行術は、尺骨神経を内側上顆の後ろから前側に移す手術です。手術方法には、前側の皮膚の下に神経を移す皮下前方移行術と、指を握る筋肉の下に移す筋層下前方移行術があります。皮下前方移行術では3週間程度、筋層下前方移行術では1カ月程度、それぞれ肘を固定します。

手術後は、神経の回復を促すために、ビタミンB12剤を服用したり、低周波療法などを行うこともあります。回復の早さは、神経の障害の程度によって異なります。

橈骨管症候群の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、上腕の中央部の傷害で下垂手を示して感覚障害があり、チネルサインがあれば、傷害部位が確定できます。チネルサインとは、破損した末梢神経を確かめる検査で、障害部分をたたくと障害部位の支配領域に放散痛が生じます。

知覚神経が傷害されていれば、チネルサインと感覚障害の範囲で、傷害部位の診断が可能です。確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波検査など必要に応じて行われます。

整形外科、神経内科の医師による治療では、回復の可能性のあるものや原因が明らかでないものに対しては、局所の安静、薬剤内服、必要に応じ装具、運動療法などの保存療法を行います。薬剤内服では、発症早期にメチルコバラミンや副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤などを服用することが有用です。予後はおおむね良好で、多くの場合1~3カ月で完治します。

3カ月ほど様子を見て全く回復しないもの、まひが進行するもの、骨折などの外傷で手術が必要なもの、腫瘤のあるものでは、手術が必要になります。神経損傷のあるものでは、神経剥離(はくり)、神経縫合、神経移植などの手術が行われます。神経の手術で回復の望みの少ないものは、ほかの筋肉で動かすようにする腱移行手術が行われます。

🇱🇹神経血管圧迫症候群

血管が脳神経を圧迫することにより症状が出る疾患群

神経血管圧迫症候群とは、血管が脳神経を圧迫することにより症状が出る疾患群。

神経血管圧迫症候群には、三叉(さんさ)神経痛、顔面けいれん、舌咽(ぜついん)神経痛などがあります。

三叉神経痛は、顔面の片側に発作的な激しい痛みが起こる神経痛

三叉神経痛は、顔面の片側に発作的な激しい痛みが起こる神経痛。

一般には顔面神経痛とも呼ばれますが、正式な呼称ではありません。顔面神経は顔面にある筋肉を動かす運動神経であり、三叉神経が痛さ熱さなどを感じる知覚神経であるため、厳密には、顔面神経痛という疾患は存在しないのが実態です。

三叉神経痛は、中年以後から認められ始め、女性にやや多い傾向があります。

脳から出て顔の左右に広がるのが知覚神経である三叉神経で、顔面の感覚を脳に伝えるほか、物をかむ際に使う筋肉をコントロールしています。名前のとおり、三本の枝に分かれていて、第一枝の眼神経は前頭部から目、第二枝の上顎(じょうがく)神経は頬(ほお)から上顎(あご)、第三枝の下顎(かがく)神経は下顎にかけて分布しています。

この分布に沿って、ズキンとする激しい痛みが、あくび、会話、歯磨き、咀嚼(そしゃく)、洗面などの刺激で起こり、時には冷たい風に当たるだけで起こります。

普通は頬と顎に痛みがよく起こり、顔の片側全部に痛みが及ぶケースもあります。一回の痛みは数秒から数分と瞬間的ながら、痛みの発作が短い時は数時間、長い場合には数週から数カ月も繰り返し起こるのが特徴。痛みの発作のない間欠期には、神経症状は全くみられず無症状です。

原因がよくわからず、特発性三叉神経痛といわれるものが大部分ですが、近年の研究においては、動脈硬化などで蛇行した血管が三叉神経を圧迫して、痛みを誘発していると考えられています。

また、症候性三叉神経痛といわれるものもあり、こちらは頭部の腫瘍(しゅよう)や動脈瘤(りゅう)、三叉神経の近くにある歯や耳、目、鼻などの疾患、多発性硬化症や帯状疱疹(たいじょうほうしん)などによって引き起こされますが、強い発作性の痛みはないのが特徴です。

三叉神経痛による悩み、不安を感じている場合、神経内科、脳外科、麻酔科(ペインクリニック)を受診することが勧められます。

顔面けいれんは、自分の意思とは関係なく、まぶたや口角などの顔面の筋肉がけいれんする疾患

顔面けいれんは、まぶたや口角などの顔面の筋肉がピクピクとけいれんする疾患。

>ほとんどの場合は片側の顔面だけにみられ、まれに両側の顔面にみられることがあります。どの年齢層でも発症しますが、比較的女性に多く、40歳代から50歳代に多く発症します。

人前での緊張、ストレス、疲れ、強い閉眼などの顔面筋(表情筋)の運動などで誘発されやすくなります。

典型的な顔面けいれんは、自分の意思とは関係なく、目の周囲がピクピクとけいれんする症状から始まります。徐々に、けいれんは口元にまで広がり、さらに進行すると、頬、額、耳、顎、首筋にまで広がることがあります。まれに、口元がけいれんする症状から始まり、徐々に、顔全体にけいれんが広がることもあります。

初めは人前で緊張した時など時々だけけいれんが起こり、あまり気にならない程度でも、けいれんしている時間が長くなっていき、持続的にけいれんが起こることもあります。

重症になると、目の周囲や口元のけいれんが同時に起こり、一日中、時には寝ていても起こるようになることもあります。長期間、けいれんが続いていると、けいれんのない時には顔面まひがみられ、顔がゆがむこともあります。

例えば、営業職や会社の受付をしている人などにとっては、顔面がピクピクとけいれんしていると、まともに相手と目を合わせて話すことができず、仕事に支障を来すことになります。

顔面けいれんが起こる主な原因は、顔面にある筋肉を動かす運動神経である顔面神経が、脳幹という脳の中心の部分から出てきている部分で、頭蓋(ずがい)内の動脈または静脈が接触して顔面神経を圧迫していることです。血管の拍動とともに顔面神経が刺激されることで、顔面の筋肉が不随意に収縮して、顔面のけいれんを起こしているのです。

そのため、高血圧や糖尿病、喫煙などで動脈硬化になりやすい人は、顔面けいれんが起こりやすくなります。

そのほかにも、顔面神経の周囲に腫瘍があり、腫瘍が顔面神経を圧迫することにより刺激が伝わり、顔面のけいれんを起こしていることもあります。また、明らかな原因が見付からない場合に、顔面けいれんが起こることもあり得ます。

顔面けいれんは明らかな症状でわかりやすいので、顔が無意識に収縮するような症状がある場合は、神経内科、脳神経外科を受診することが勧められます。治療可能だと知らないで、誰にも相談できずに一人で悩み、様子をみてしまっているケースも見受けられます。

舌咽神経痛は、喉の奥や舌の後ろに激痛発作が繰り返し起こる疾患

舌咽神経痛は、喉(のど)、扁桃(へんとう)、舌に通っている舌咽神経(第9脳神経)の機能不全により、扁桃に近い喉の奥や舌の後ろに発作的な激しい痛みが繰り返し起こる疾患。

顔面の片側に発作的な激しい痛みが起こる三叉神経痛(顔面神経痛)に比べてまれな疾患であり、通常は40歳を過ぎてから発症し、男性に多く起こります。

舌咽神経痛の症状は、三叉神経痛と同様に、発作の時間は短く間欠的ですが、耐えがたい痛みが起こります。舌咽神経が知覚神経、運動神経のほかに舌の後方の3分の1の味覚を支配しているという特性上、飲食物をかむ、飲み込む、せき、くしゃみ、会話などの特定の動作が切っ掛けになって、発作が誘発されることが多くみられます。

痛みは、喉の奥や舌の後ろから始まって、耳にまで広がることがあります。数秒から数分間、痛みが続き、通常は喉と舌の片側だけに起きて、耳へ放散されます。耳に痛みが起こるのは、外耳や中耳にも舌咽神経の枝が分布しているためで、これを投射性耳痛ともいいます。

三叉神経痛を合併すると、顔面の片側に発作的な激しい痛みが起こります。迷走神経症状を合併すると、脈拍の低下を引き起こす結果、めまい、ふらつき、失神を起こすこともあります。

舌咽神経痛の原因はあまり特定されていないのが実際ですが、特定された中で多いのは血管による舌咽神経の圧迫です。舌咽神経が分布している部位の血管がもろくなったり、はれたりすることで隣にある舌咽神経を圧迫し、圧迫を受けた神経が激痛発作を起こしたり、慢性的な違和感を起こしたりします。血管のはれを起こす要因としては、顎関節症や歯性病巣感染などが考えられます。

舌咽神経が分布している部位に顎骨腫瘍などの腫瘍などができた場合も、激痛発作を起こします。頭蓋骨や頸椎(けいつい)、筋肉に問題がある場合も、激痛発作を起こすことがあります。

例えば、舌咽神経が分布している先の一つに、頭蓋骨の頸静脈孔と呼ばれる関節の透き間があり、その透き間がかみ合わせや外傷によってずれることが要因となって、舌咽神経が圧迫されて激痛発作が起こることもあります。

また、舌咽神経痛には脳梗塞(こうそく)、脳腫瘍、脳動脈瘤、脳血管疾患が潜んでいることもあります。

舌咽神経痛の症状に気付いたら、神経内科、内科、脳神経外科を受診し、神経痛の原因になっている炎症や腫瘍、血管の異常、感染の有無などをよく調べることが必要です。

神経血管圧迫症候群の検査と診断と治療

三叉神経痛の検査と診断と治療

神経内科、脳外科、麻酔科(ペインクリニック)の医師による診断では、MRI(磁気共鳴画像)検査を行って三叉神経のそばに血管を確認できれば、通常、その血管が神経を圧迫していると判断します。

神経内科、脳外科、麻酔科の医師による治療では、薬物療法、神経ブロック、手術、ガンマナイフなどを行います。

薬物療法においては、痛みの発作を予防する働きを持っている抗てんかん剤(抗けいれん剤)のテグレトールと呼ばれる薬の内服が有効です。痛みがきれいになくなるという大変有効な薬ですが、注意が必要な面もあります。量が多いとふらつきなどの副作用が出たり、まれに白血球が減る副作用も確認されています。

薬物療法を行っても、期待される効果がみられない場合、神経ブロックを行うこともあります。痛みのある部分に麻酔薬を注射したり、電気凝固して痛みを緩和する方法ですが、原因を治しているわけではないので、根本治療ではありません。仮に症状が軽くなっても、完全に治るわけではないのです。

根本から治すには、手術療法を行います。手術では、三叉神経を直接圧迫している血管を見付け出し、三叉神経と血管の間に筋肉片あるいは綿などを入れて、神経に対する圧迫を除きます。

ガンマナイフは、三叉神経根の部分に放射線を集中照射することで、痛みを緩和するものです。しかし、2013年時点で、保険適応外治療となるので、実費の負担が必要です。

日常生活では、体の過労と精神的ストレスを避けて、規則正しい生活をすることが大切。痛みが始まったら、部屋をやや暗くして刺激を避けるようにします。

顔面けいれんの検査と診断と治療

神経内科、脳神経外科の医師による診断では、顔面けいれん症状と特徴的なけいれんを視診することによって、ほとんどの場合は容易に確定できます。

けいれんの原因を突き止めるためにMRI(磁気共鳴画像)検査やCT(コンピューター断層撮影)検査などの画像診断や、神経伝導検査、筋電図などの検査を行うこともあります。

脳の血管が脳幹の部分で顔面神経を圧迫していることを最もはっきり確認できるのは、血管造影と呼ばれる検査で、血管にカテーテルを入れて造影剤を流し、血管の走行を調べます。しかし、血管造影は脳梗塞などの危険を伴うことがあるので、MRI検査と同時に、体に負担をかけずに血管の走行がわかるMRA(磁気共鳴血管撮影)検査という画像診断で診断することもあります。

神経内科、脳神経外科の医師による治療では、抗コリン剤、抗てんかん剤(抗けいれん剤)のテグレトールなどを内服で使用します。効果は比較的弱く、短期間で再発することがあります。

ボツリヌス毒素(ボトックス)をけいれんする筋肉に局所注射し、筋肉を弱めるボツリヌス療法を行うこともあります。ボツリヌス毒素は細菌兵器として使われることが危ぶまれているボツリヌス菌からの毒素と同じものですが、治療に使われる量は致死量よりはるかに少量なので、命にかかわることはありません。ボツリヌス療法は外来でできますが、効果は約3カ月なので繰り返し注射する必要があります。

脳の血管が脳幹の部分で顔面神経を圧迫している場合には、手術が根本的な治療法になります。圧迫している血管と、圧迫を受けている顔面神経の間に、ウレタン樹脂などのクッションを設けて、再び血管が顔面神経を圧迫しないように固定します。

舌咽神経痛の検査と診断と治療

神経内科、内科、脳神経外科の医師による診断では、舌咽神経に炎症や圧迫などがみられるかどうかを調べるため、CT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像)検査など画像検査を行います。舌咽神経の電気的診断のため、筋電図検査も行います。

神経内科、内科、脳神経外科の医師による治療では、発作を予防する働きを持っている抗てんかん剤(抗けいれん剤)のテグレトールの服用や、舌咽神経へのアルコール注射による神経ブロックが有効です。時には、舌咽神経の切断を行わないと、痛みが消えないこともあります。

血管が原因の場合は、圧迫している動脈を移動させ舌咽神経に当たらないようにします。舌咽神経を圧迫している腫瘍が見付かった場合には、直ちに腫瘍に対する処置治療を行います。

頭蓋内血管の圧迫が主要因と考えられる場合には、その圧迫部分を排除して神経を開放する脳外科手術も行われます。頭蓋骨の頸静脈孔のずれが要因と考えられる場合には、頭蓋骨の処置治療を行って調整すると、痛みが引くことがあります。

🇲🇩神経障害性疼痛

末梢神経や中枢神経系の損傷によって起こる激しい痛み

神経障害性疼痛(とうつう)とは、神経の損傷に起因する激しい痛みのこと。損傷した神経の個所によって、末梢(まっしょう)性神経障害性疼痛と中枢性神経障害性疼痛に大別することができます。

末梢性神経障害性疼痛は、神経障害性疼痛のうち、末梢神経が損傷することにより発症する痛みのこと。具体的な疾患には、帯状疱疹後(たいじょうほうしんご)神経痛、糖尿病性神経障害に伴う痛み・しびれ、坐骨(ざこつ)神経痛、三叉(さんさ)神経痛、神経根圧迫による慢性疼痛などがあります。

また、末梢性神経障害性疼痛と、痛みを感じる侵害受容器が刺激されて起こる侵害受容性疼痛の要素を併せ持つような痛みとして、腰痛の症状が長く続く慢性腰痛、首から肩、腕、手指に痛みやしびれなどの症状が現れる頸肩腕(けいけんわん)症候群・手根管(しゅこんかん)症候群、がんに関連する痛みであるがん性疼痛などがあります。

一方、中枢性神経障害性疼痛は、神経障害性疼痛のうち、中枢神経系の脳、脊髄(せきずい)が損傷することによって発症する痛みのこと。脳や脊髄が損傷すると、ストレスや感情の変化、あるいは痛みとは無縁の刺激により、激しい痛みが生じます。

具体的な疾患には、脳卒中や脊髄損傷後に痛みが続く脳卒中後疼痛、脊髄損傷後疼痛などがあります。また、多発性硬化症やパーキンソン病などが原因で発症する痛みもあります。

ここでは、神経障害性疼痛が起こす代表的な疾患である帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害に伴う痛み・しびれ、坐骨神経痛、三叉神経痛、神経根圧迫による慢性疼痛について、簡単に触れておきます。

帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹の発症による水疱(すいほう)などの皮疹(ひしん)が消失し、帯状疱疹が治癒した後も続く痛みのこと。持続的に焼けるような痛みがあり、一定の時間で刺すような痛みを繰り返すといった主症状のほかにも、ヒリヒリする、ズキズキする、締め付けられる、電気が走ると表現されるような痛みを感じることがあります。感覚が鈍くなる状態である感覚鈍麻や、触れるだけで痛みを感じる状態であるアロディニアもしばしば認められます。

帯状疱疹が重症化した人、高齢者、免疫力が低下している人などは、帯状疱疹後神経痛に移行しやすいと見なされています。

糖尿病性神経障害に伴う痛み・しびれは、高血糖状態が続くこと、すなわち血糖コントロール不良により、末梢神経の組織が変性し、異常を生じることで発症します。また、治療により急激に血糖値を低下させたことが引き金となって、痛みが生じる場合もあります。

症状としては、手足の痛みやしびれ、足先の異常な感覚といったものが現れます。 糖尿病性神経障害は糖尿病患者の30~40パーセントにみられ、このうち痛みやしびれを伴うものは糖尿病性神経障害の15パーセント前後とされています。

坐骨神経痛は、疾患の名前ではなく、尻(しり)から足の後ろ側にかけて現れる痛みやしびれ、まひなどの症状を指します。多くの場合、腰痛に引き続いて起こり、下肢痛やしびれが起こるだけでなく、まひや痛みによる歩行障害を伴うこともあります。

坐骨神経痛が起こる原因疾患としては、腰部脊柱管狭窄(きょうさく)、腰部椎間板(ついかんばん)ヘルニアがあります。脊柱管に何らかの原因が加わって狭まったり、椎間板が脊柱管側に飛び出したりして、坐骨神経とつながっている神経根が圧迫を受けることで痛みが生じます。

症状としては、腰から足にかけての鋭い痛みやしびれ、ふくらはぎの張り、冷感や灼熱(しゃくねつ)感、締め付け感などの感覚異常などです。症状を感じる代表的な場所は、尻、太ももの裏、すね、ふくらはぎであり、どこか一部分だけに強く感じるケースもあれば、足に激痛が走るなど、足全体に強く感じるケースもあります。

三叉神経痛は、顔の感覚を脳に伝える神経で、脳から出て頭蓋(ずがい)骨の底を通って顔面まで伸びている三叉神経の経路のどこかで、神経が血管などにより圧迫されることが原因で起こるとされています。

症状としては、顔の片側に、突き刺すような、または電気が走るような激しい痛みが突発的に現れ、数秒続いて終了する発作が繰り返し起こります。発作は長くても数分以内に治まりますが、歯磨きや顔を洗うといった動作が引き金になって発症します。三叉神経痛自体は命にかかわる疾患ではないものの、激しい痛みが原因でうつ状態になったり、体力を消耗させたりすることがあります。

三叉神経痛は通常、40歳以降に発症し、年齢とともに増加し、女性は男性の2倍の頻度で発症する傾向があります。

神経根圧迫による慢性疼痛は、脊髄から枝分かれした神経の根元の部分である神経根が圧迫されたことが原因となって、痛みやしびれが起こります。神経根は圧迫を受ける部位によって症状の出る個所が異なり、頸椎や胸椎で神経根が圧迫されると、首や肩、手、腕を含む上半身に症状が現れ、腰椎で神経根が圧迫されると、足や腰を含む下半身に症状が現れます。

症状が進行すると、痛みやしびれ、まひが強くなり、さらに進行すると、せき、くしゃみ、首を後ろに反らす動作で、肩甲骨や手指に電気が走るような痛みを感じたり、手足や腰が思うように動かせなくなったり、痛みのために起き上がることができなくなったりします。

このような神経障害性疼痛は、長期間にわたって患うことの多い疾患であり、痛みが長期間続くと不眠や身体機能の低下、意欲の低下などから、うつ症状を併発することも多く、QOL(生活の質)が低下します。

神経障害性疼痛の検査と診断と治療

神経内科、内科、脳神経外科などの医師による治療では、神経障害性疼痛による痛みの症状の緩和のために、薬剤を用いる薬物療法、主に病院の麻酔科やペインクリニックで実施する神経ブロックなどを行います。

これらを単独で行ったり、痛みの種類や症状に合わせて組み合わせたりして実施します。同時に、診療初期からリハビリテーションなどの理学療法や、カウンセリングなどの心理療法も取り入れ、痛みの軽減、身体機能の維持と改善、QOL(生活の質)の維持と改善を目指します。

ここでは、神経障害性疼痛が起こす代表的な疾患である帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害に伴う痛み・しびれ、坐骨神経痛の治療法について、簡単に触れておきます。

帯状疱疹後神経痛には、すべての患者に当てはまる絶対的な治療法というものはありません。患者の生活背景、治療に対する反応性などにより、痛みが異なるため、薬物療法や理学療法などを組み合わせて実施します。

難治性の場合は治療が長期にわたることが多いため、「痛みの強さを50パーセント軽減」、「痛みによって妨げられていた睡眠の改善」、「家事や仕事ができる割合の増加」などの具体的な治療目標の設定を行い、これらの目標を達成することによりQOL(生活の質)を改善することを目指します。痛みを完全に取り去ることは難しいため、いかに痛みをコントロールしてうまく付き合うかを考えて、治療を進めることになります。

帯状疱疹後神経痛の治療には、薬物療法と補助的に神経ブロックが用いられています。薬物療法には、末梢性神経障害性疼痛治療薬、ワクシニアウイルス接種家兎(かと)炎症皮膚抽出液が用いられています。前者は、痛みを伝える物質の過剰放出を抑えることで痛みを和らげる薬。後者は、ワクシニアというウイルスをウサギの皮膚に投与した時にできる炎症部分から取り出した成分を分離、精製して、鎮痛作用を持つ活性成分として製剤化したもの。また、保険適応は認められていませんが、鎮痛補助薬として三環系抗うつ薬、抗てんかん薬が用いられることもあります。

糖尿病性神経障害に伴う痛み・しびれは糖尿病の合併症であるため、その治療では、それ以上進行させないためにも、血糖のコントロールが第一とされます。次に、神経障害を起こしている原因に対する治療、痛みやしびれといった陽性症状に対する対症療法を、薬物療法を中心に実施することとされています。しかし、急激に血糖を低下させることが引き金となって痛みが生じる場合もあるため、血糖を徐々に下げるなどの注意が必要です。

糖尿病性神経障害を起こしている原因に対する治療として、ブドウ糖を神経障害の原因物質(ソルビトール)に変換する酵素(アルドース還元酵素)の働きを阻害するアルドース還元酵素阻害薬などの薬剤を用いた薬物療法があります。

糖尿病性神経障害に伴う痛みやしびれに対する治療には、末梢性神経障害性疼痛治療薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、ビタミン剤、血流改善薬、不整脈薬などの薬剤を、症状に応じて適宜併用するなどの薬物療法による対症療法を行います。また、歩行などの運動療法(理学療法)、マッサージ、就寝前の入浴なども症状を和らげる効果があるとされています。

坐骨神経痛の治療は、原因疾患にかかわらず、まずは症状を和らげる対症療法が主体となります。手術以外の保存的療法から治療を開始し、保存的療法を十分に行っても痛みが軽減しない場合や膀胱(ぼうこう)直腸障害を伴う場合に、外科的療法が検討されます。

保存的療法には、薬物療法、神経ブロック、理学療法(物理療法、装具療法、運動療法など)などがあります。薬物療法では、痛み止めとしてのNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性消炎・鎮痛剤)が主に用いられます。また、しびれや電気が走るような激しい痛みなどの神経の痛みに対して末梢性神経障害性疼痛治療薬、筋肉の緊張を和らげ症状を軽くする目的で筋緊張弛緩剤、血流を改善して症状を和らげる目的で血管拡張薬なども用いられます。

🇹🇼正常圧水頭症

頭蓋内の圧力が上がった症状を示さない水頭症

正常圧水頭症とは、脳の中や脊髄(せきずい)の表面を流れる脳脊髄液(髄液)が頭蓋(とうがい)内にたまり、脳の内側で4つに分かれて存在する脳室が正常より大きくなり、周りの脳を圧迫する疾患。

脳脊髄液は、脳全体を覆うように循環して脳保護液として働き、脳を浮かせて頭部が急激に動くことによる衝撃を柔らげたり、部分的な脳の活動によって産生される物質を取り除く働きも併せ持つと考えられています。脳室で血液の成分から産生されて、1日で3回ほど全体が入れ替わる程度のスピードで循環し、最終的には、くも膜という脳の保護膜と脳との間に広がっている静脈洞という部位から吸収され、血液へ戻ってゆきます。

水頭症は、この脳脊髄液の産生、循環、吸収などいずれかが障害されることで、脳内の圧力(脳圧)が高まり、さまざまな症状が出る疾患です。

大きく分けて、胎児期に障害が生じる先天性水頭症と、生後に脳腫瘍(しゅよう)、がん、細菌・ウイルス・寄生虫などの感染で起こる髄膜炎、頭部外傷、脳動脈瘤(りゅう)の破裂や高血圧が原因で起こる脳内出血、脳室内出血、脳室内腫瘍などによって起こる後天性水頭症があります。

後天性水頭症では、脳圧が正常であるにもかかわらず症状が出現する場合もあります。これが正常圧水頭症であり、さらに、くも膜下出血、髄膜炎などといった明らかな原因がある続発性(症候性)正常圧水頭症と、明らかな原因が不明な特発性正常圧水頭症に分けられます。

後者の特発性正常圧水頭症は、高齢者に多く発症し、その症状が認知症と混同されやすいことがあります。物忘れ外来を受診する人の3パーセント程度、認知症と診断されている患者の5〜6パーセントで、特発性正常圧水頭症が疑われるといわれています。早期に適切な治療を受ければ、症状が改善する可能性が高いため、特発性正常圧水頭症は「治る認知症」ともいわれています。

特徴的な症状は、歩行障害、認知障害、尿失禁の3兆候。発症者の約60パーセントに3兆候がみられますが、ほかにも表情が乏しくなったり、声が出にくくなったりすることもあります。

3兆候では、最初に歩行障害が現れることが多いとされます。足を左右に広げ、すり足や小刻みな歩き方になるのが特徴で、転倒しやすくなるほか、次第に第一歩が出なくなり立っている状態を維持できなくなります。

認知障害では、思考や行動が緩慢になり、放置すると物忘れがひどくなって、興味や関心の低下、さらには無反応へと進行します。アルツハイマー病のように、自宅から勝手に出てしまい近所をウロウロするような徘徊(はいかい)は認めません。また、パーキンソン病のように、手の震えは出ません。

尿失禁には、歩行障害や認知障害も影響しており、尿意切迫感や頻尿が出現することもあります。

正常圧水頭症の診断は、神経を専門とする内科や脳外科、脳神経外科が行います。歩行の不自由さに、物忘れとトイレの問題などが加わって疾患が進行してしまうと、治療効果が少なくなりますので、早めの受診が勧められます。

正常圧水頭症の検査と診断と治療

内科、脳外科、脳神経外科の医師による診断では、頭部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査を行います。脳脊髄液のたまりと脳室の拡大が確認できれば正常圧水頭症が疑われますが、アルツハイマー病などとの鑑別が難しい場合もあり、両者が併存することもあります。

そのため、腰椎(ようつい)から髄液を20〜30ミリリットル抜き取って症状の変化を調べるタップテストを行います。タップテストによって、症状が1~2日程度で軽くなれば、手術で改善する可能性が高いと考えられます。

内科、脳外科、脳神経外科の医師による治療では、タップテストで髄液を抜き取って反応があった場合は、シャントと呼ばれる手術を行います。

本来の脳脊髄液の流れの一部分から、シリコンでできたシャントチューブと呼ばれる細い管を用いて、頭以外の腹腔(ふくこう)や心房などへ余分な脳脊髄液を半永久的に流す仕組みを作ります。もしくは、できるだけ脳を傷付けないために、腰椎から腹腔へシャントチューブを通して、余分な髄液を半永久的に流す仕組みを作ります。

シャント手術後の特発性正常圧水頭症で示している症状の改善度は、治療の時期や症状の程度によって異なります。歩行障害で60〜90パーセント、認知障害で30〜80パーセント、尿失禁で20〜80パーセントとされますが、中には劇的に回復する例もあります。一般的には、最も改善しやすいのは歩行障害で、次いで尿失禁、記憶障害の順です。

手術後の合併症として、脳を覆う硬膜下血腫などのリスクはありますが、シャント手術自体はそれほど難しい手術ではありません。

3兆候が軽くなれば、日常生活の質(QOL)が向上して家族の負担も軽減されます。治療を受けた後は、定期的な医師の診察を受けることが必要です。

2022/08/22

🇬🇮脊髄炎

脊髄の炎症で、手足の運動障害や感覚障害を発症

脊髄(せきずい)炎とは、感染や免疫反応が切っ掛けとなって、脊髄に炎症の起こる疾患の総称。手足の運動障害や、感覚障害を引き起こします。

脊髄は頸(けい)髄、胸髄、腰髄、仙髄からなりますが、狭い場所に神経が集中しているため、小さな障害でも重い後遺症を残すことが懸念されます。脊髄炎の原因は、原因が不明な特発性、ウイルス、細菌、寄生虫などの感染による感染性あるいは感染後性、全身性エリテマトーデスなどの膠原(こうげん)病あるいは類縁疾患に合併するもの、多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎などの自己免疫性などに分類されます。

正確な頻度は不明ですが、ウイルス感染に関連して発症するものが多いと見なされています。原因ウイルスとしては、帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルス、単純ヘルペスウイルス、風疹(ふうしん)ウイルス、麻疹(ましん)ウイルス、サイトメガロウイルス、ポリオウイルスなどが知られており、急性脊髄炎を発症します。

一方、成人T細胞白血病ウイルス(HTLV—1)は、慢性の経過を示すHTLV—1関連脊髄症(HAM)を起こします。エイズウイルスなども、徐々に起こってくる脊髄炎を起こします。

原因細菌としては、結核や梅毒を始め化膿(かのう)菌が知られています。

急性脊髄炎では、脊髄は横断性に、すなわち水平面全体に損なわれます。傷害された脊髄の部位に相当する部分に運動障害と感覚障害がみられ、加えて膀胱(ぼうこう)直腸障害を生じます。胸髄が損なわれる頻度が高く、急に両下肢がまひし、主に胸から下にビリビリするしびれ感が起こります。背中や腰に痛みを感じることもしばしばで、排尿、排便の感覚がなくなり、たまりすぎたり、漏らしたりします。頸髄が損なわれると、四肢にまひと感覚異常が生じます。症状は急速に進行し、数日でピークに達します。

障害が横断性でなく、部分的である場合もあります。例えば、運動神経の通っている脊髄の前方部分だけが損なわれると、運動障害だけが現れます。

HTLV—1関連脊髄症では、慢性進行性の両足のまひが特徴で、痛みやしびれ、筋力の低下によって歩行障害を示します。同時に、自律神経症状がみられ、特に排尿困難、頻尿、残尿感、便秘などの膀胱直腸障害は初期より多くみられます。その他、進行例では皮膚乾燥、起立性低血圧、インポテンツなども認められます。

脊髄炎の検査と診断と治療

急性脊髄炎では、まず感覚障害の分布を参考にして脊髄MRIを行い、脊髄の腫脹(しゅちょう)や病変部を確認します。次に、髄液検査によって炎症の存在を確認します。髄液では、蛋白(たんぱく)の量や細胞の数が軽度に増加しています。病因を調べるためには、ウイルス抗体価、髄液細菌培養、膠原病および類縁疾患のチェックなどが必要です。

HTLV—1関連脊髄症(HAM)では、慢性進行性の両足のまひや排尿障害、感覚障害などの症状と、血清および髄液で抗HTLV—1抗体が陽性であり、ほかに原因となる疾患がないことを確認します。髄液検査では、軽度のリンパ球性細胞の増加、軽度から中等度の蛋白増加のほか、核の分葉したリンパ球を認めることがあります。脊髄MRIでは、胸髄を主にした著しい脊髄委縮が認められます。

急性脊髄炎の治療では、安静を守った上、抗ウイルス薬や、アレルギー反応を抑えるために副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を投与したりします。頸髄障害による呼吸不全がみられた時は、呼吸管理も必要になります。排尿障害に対しては、膀胱カテーテルの留置が必要になる時も多く、慢性期になっても自己導尿を行う場合もあります。薬物療法は1カ月程度で終了し、早期から積極的にリハビリテーションを行います。

HTLV—1関連脊髄症の治療では、自己免疫反応の関与が推定されているため、ステロイド療法やインターフェロン療法を行います。

脊髄炎では、寝たきりとなって、床擦れや膀胱炎などの合併症が起こりやすいので、これを予防するためにエアーマットを使用し体位の変換を頻回に行います。関節の曲げ伸ばしができなくなる拘縮を防ぐため、歩行訓練など早期からのリハビリテーションが大切です。

🇬🇮脊髄空洞症

脊髄または延髄の中心部に空洞を生じる疾患

脊髄(せきずい)空洞症とは、先天異常あるいは外傷によって、脊髄または延髄の中心部に空洞を生じる疾患。空洞には脳脊髄液がたまって、脊髄を内側から圧迫するために、いろいろな神経症状、全身症状を呈します。

男女差はなく、20〜30歳代の発症が多くみられますが、あらゆる年齢層に起こります。空洞のできる詳しいメカニズムは、まだよくわかっていません。

脊髄空洞症を原因によって大きく分類すると、小脳の下端が脊椎(せきつい)のほうに垂れ下がったようにめり込んでくるキアリ奇形に伴うもの、脊髄の周囲に炎症が起こり、髄膜に癒着を起こした癒着性くも膜炎に伴うもの、脊髄腫瘍(しゅよう)に伴うもの、外傷などに伴うもの、原因が不明な特発性のものがあります。

症状の現れ方は、空洞の大きさや長さによって異なります。頸髄(けいずい)に発生することが多いため、最初は手の小さい筋肉に委縮が起こり、次第に腕のほうに進行していきます。筋肉の委縮のために、手の指の筋力は低下し、細かい作業ができなくなります。腕に帯状の温度覚と痛覚の消失も起こりますが、触覚、振動覚、位置覚などの深部感覚は正常です。これを解離性知覚障害と呼んでいます。

進行すると、知覚障害の範囲も広がってきます。また、腕ばかりでなく足にも、しびれ、筋肉の委縮、脱力、突っ張りがみられ、歩行障害、排尿や排便の障害が出てきます。これを痙(けい)性まひと呼んでいます。知覚障害のために、やけどをしても熱さを感じない、外傷をしても痛みを感じないことが多くなります。栄養神経という組織の栄養を保っている神経も侵されるために、潰瘍(かいよう)、皮膚の委縮、発汗障害なども示してきます。

空洞が延髄に及ぶと、顔面の感覚障害や嚥下(えんげ)障害が起こります。このため食事の際に飲み込みが悪くなったり、飲み込んだ水分が誤って気管に入ることがあります。脊椎破裂、頭蓋(とうがい)異常、内反足、頸椎(けいつい)癒合、脊椎側弯(そくわん)などを伴っていることも、しばしばみられます。

進行は極めて緩やかで、数十年に渡って慢性に経過し、時に症状が進行した後、停止あるいは改善することもあります。脊髄空洞症を発症しても、天寿を全うする人が多く、晩年まで仕事の可能な人も少なくありません。

脊髄空洞症の検査と診断と治療

頸椎のMRI検査が役に立ち、これでほぼ診断が付きます。MRI検査では、特殊な撮り方をすると脊髄液の流れを画像化することができ、これも診断や治療方法を決める際に有用です。また、脊髄腫瘍に合併するタイプの脊髄空洞症では、造影剤を用いたCT検査が行われます。

しびれなどの知覚障害の症状に対しては、薬剤による対症療法が行われます。頸椎の一部を切除したり、空洞を切開する外科的手術も行われます。

キアリ奇形に伴う脊髄空洞症の場合は、大後頭孔減圧術と呼ばれる外科的手術が行われます。頭から首に移行する大孔部という部分で脊髄周辺の空間を広げて、脊髄液の流れをよくする手術であり、多くのケースでは空洞が縮小して、症状も軽快します。しかし、症状がある程度以上進行してしまった後で手術をしても、有効でないケースが多くなります。

なお、脊髄空洞症では、空洞が延髄などの脳幹部に及んだり、併発するキアリ奇形により脳幹部が圧迫されたり、舌下神経まひにより舌の委縮を来す場合、食事の際に飲み込みが悪くなったり、飲み込んだ水分などが気管に誤って入ることがありますので、水気のあり滑らかな食品、とろみ食など飲み込みやすい食品を選択し、水分、栄養補給に注意をする必要があります。

🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿脊髄脂肪腫

脊髄の通っている部位に脂肪腫が発生して不具合が生じ、脊椎骨が完全に作られない状態

脊髄脂肪腫(せきずいしぼうしゅ)とは、先天的な脊椎(せきつい)骨の形成不全の部位に一致して、脊髄が正常に形成されない場合に、異常部位に脂肪組織が付着し、それが皮膚や筋肉などの周囲組織に連続している状態。

一般的には、腰背部に皮下脂肪腫、母斑(ぼはん)、皮膚陥没、異常毛髪などの皮膚異常が認められます。

成長とともに、付着した脂肪腫によって固定された脊髄が引っ張られて引き伸ばされ、脂肪腫自体の肥満による脊髄の圧迫によって、両下肢運動障害、痛みなどの感覚障害、排尿・排便障害が起こります。

脊髄脂肪腫は幼少期に発生することが多く、小児期にあまり目立った症状がなくても、身長が一気に伸びる成長期のころに脊髄が引き伸ばされる度合が強くなって、障害が目立ってくることもあります。

両下肢の運動障害として、下肢の筋力が低下する、歩きにくくなる、転びやすくなる、足がまひして動かない、足の変形、左右の足が非対称、足が細いなどがみられます。

感覚障害として、靴ずれやその部位の潰瘍(かいよう)、腰を曲げた際などの腰痛、下肢痛、下肢から足のしびれなどがあります。

排尿・排便障害として、膀胱(ぼうこう)や直腸などを動かす筋肉がまひして、尿を漏らしたり、便秘になったりすることもあります。性機能障害が起こることもあります。 症状が一度出現すると、その改善率はあまりよくありません。

しかし、これらの障害が出る前に乳幼児の腰背部の皮膚の異常で疑われて、脊髄脂肪腫と診断されることが多いようです。中には、脊椎骨の形成不全を伴ったりするため、成長とともに脊椎側湾症になることもありますが、水頭症などの脳の異常は伴わないことがほとんどです。

脊髄脂肪腫の検査と診断と治療

脳神経外科、整形外科、形成外科、小児外科の医師による診断では、脊椎部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査を行い、病変を詳しく観察します。

また、自・他動運動検査、肢位、変形、感覚などの検査を行い、どの脊髄レベルまでが正常であるかを調べます。

脳神経外科、整形外科、形成外科、小児外科の医師による治療では、腰背部の皮膚の症状のみで発見され神経症状がない場合、手術をするかしないかは多様な意見があります。予防的手術をしないで経過観察を行った場合に、いったん症状が出ると、手術をしても症状を改善することは難しいという問題もあります。

一般的には、脊髄脂肪腫が発見されたのが生後6カ月までの場合には、少し体が大きくなるのを待って手術を計画します。すでに生後6カ月をすぎていた場合には、体調のよい時を選んで入院と手術の計画を立て、可能なら生後1年までには全身麻酔下で手術を行い、脊髄と付着した脂肪組織を切り離し、不要な脂肪組織を摘出します。生後1年以上になると、組織が硬くなって手術がやりにくくなるからです。

成長期に差し掛かった時期に両下肢運動障害や排尿・排便障害が出てきた場合も、全身麻酔下で手術を行い、脊髄と付着した脂肪組織を切り離し、不要な脂肪組織を摘出し、脊髄の引き伸ばしを緩めます。

脊髄と尾骨とをつなぐ糸のような組織である終糸(しゅうし)に脂肪腫が付着している終糸脂肪腫と呼ばれるものでは、手術の予後がよいといわれています。逆に、癒着が強かったり脊髄を巻き込んでいる脂肪脊髄髄膜瘤(りゅう)と呼ばれるものでは、難しい手術となり、手術の後かえって神経まひがひどくなることもあります。

また、症状が出てから時間が経つと、手術しても改善は難しく、特に排尿障害が改善しにくいといわれています。

🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿脊髄終糸症候群

脊髄の末端から伸びる終糸が硬いことが原因で、腰痛や頻尿などの症状を来たす疾患

脊髄終糸(せきずいしゅうし)症候群とは、脊髄の末端から伸びる脊髄終糸という糸状の組織が硬いことが原因で、腰痛や下肢痛、頻尿などの症状を来たす疾患。

脊髄は、脳と体の各部とを結ぶ太い中枢神経で、脳の延髄から連続して首、背中、腰の部位にあり、頸(けい)髄、胸髄、腰髄、仙髄(尾骨神経を含む)からなります。腰の部位で徐々に細くなり、第1腰椎と第2腰椎の間くらいで終わっています。この脊髄が細くなった末端部分を脊髄円錐(えんすい)と呼びます。さらに、脊髄円錐から脊髄終糸という糸状の組織が伸びており、これが骨盤につながる仙骨まで伸びて、その末端で脊髄を緩やかに固定しています。

脊髄終糸は、長さ25センチ、太さ1ミリほどで、柔らかく弾力性がある組織です。体を前屈すると、脊髄は頭側に少し移動し、それに伴って脊髄終糸も頭側に引っ張られることになりますが、通常の脊髄終糸は柔らかいゴム糸のように緩やかに伸びるので、脊髄が足側に引っ張られることはありません。

しかし、脊髄終糸が生まれ付き硬い場合、体を前屈した時に脊髄終糸が伸びないために、脊髄が足側に引っ張られ、この姿勢を続けたり繰り返したりすると、脊髄の中に血流の乏しい部分が生じ、細胞が酸素不足に陥って腰や足に通じる神経や、膀胱(ぼうこう)や腸に通じる神経が興奮し、腰痛や下肢痛、頻尿などの症状が出ることがあります。

脊髄終糸症候群は、10歳代から30歳代の若い年代に多く、日常生活で前かがみの姿勢をとると、強い痛みが腰から両足にかけて走ります。特に重い物を持ったり、床の物を取り上げたり、疲労が強まると痛みが増します。

また、ほとんどで頻尿を認め、しばしば便秘、下痢も認めます。

立位で前屈をした時、指先と床が20センチ以上離れているなど特に体の硬い人は、脊髄終糸も硬い可能性があり、こうした人が若年で腰痛や下肢の痛み、頻尿などの症状が出たら、脊髄終糸症候群を疑ってみる必要があります。

脊髄終糸症候群は従来、診断方法が確立されていなかったために、しばしば見逃され治療されずに放置されていたのが現状で、単なる腰痛、原因不明の腰痛や下肢痛などとして、治療を受けている可能性があります。症状に思い当たったら、脳神経外科や神経内科、整形外科を受診することが勧められます。

脊髄終糸症候群の検査と診断と治療

脳神経外科、神経内科、整形外科の医師による診断では、脊椎部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などを行っても、画像には脊髄終糸が現れないため、若年者で同様の腰痛や下肢痛の症状を起こすことが多い腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアを始め、脊柱管狭窄(きょうさく)症、腰椎椎間孔部狭窄症などがないことを確かめた上で、体が硬く、膀胱直腸障害を伴うなど主に症状から判断します。

立位と座位で体を前屈すると、どちらも95パーセント以上に痛みがみられます。誘発テストを行うと、最大前屈位で首を下げると腰痛や下肢痛が強くなり、首を上げると痛みが軽減または消失するのが98パーセントで認められます。

脳神経外科、神経内科、整形外科の医師による治療では、コルセットや鎮痛剤などの保存的治療で改善が得られない場合、症状が強い場合に、希望があれば手術をします。

手術では、腰のあたりで脊椎骨と脊髄を包んでいる膜を切開し、脊髄終糸を選び出して切断します。手術は1時間程度で終わり、体への負担も小さいので当日から寝返りが可能で、翌日から座位がとれ、3日ほどで歩行を開始し、2週間ほどで退院可能です。

手術後の回復には個人差がありますが、ほとんどの場合、半年から1年後には症状が改善、ないし完治します。

🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿脊髄腫瘍

脊柱管内に発生し、良性腫瘍と悪性腫瘍の別

脊髄腫瘍(せきずいしゅよう)とは、脊柱管内に発生する腫瘍。神経腫、髄膜腫などの良性腫瘍と、悪性腫瘍の神経膠腫(こうしゅ)(グリオーマ)がみられます。

組織の異常な増殖によるものですが、その原因が何かについては不明です。発生する頻度は10万人当たり1〜2人で、脳腫瘍の1/5~1/10程度と比較的まれです。

脊柱管は、頸(けい)骨から仙骨まで非常に長いので、その発生する部位によって症状はさまざまです。普通、腫瘍が発生した部位より下のほうの神経が、まひします。例えば、頸部に発生すれば手と足、胸部より下なら両側の足に、運動や感覚のまひが現れるのが、脳腫瘍と違った特徴です。

神経腫の場合なら、神経支配領域に一致した痛みがよく起こり、背中と手や足に放散する痛みが起こるのが、普通です。感覚の異常は、足のほうから徐々に上昇していきますが、進行すると失禁するようになります。

脊髄腫瘍の多くを占める良性腫瘍の場合は、数カ月から数年の経過で症状が進行します。悪性腫瘍の場合は、症状が早く進行します。

脊髄腫瘍の検査と診断と治療

症状や神経検査で脊髄腫瘍を疑った場合、MRI検査でほとんど診断することができます。ただし、MRIは通常、薬剤の注射が不要で痛みのない検査方法ですが、腫瘍と区別するために造影剤を少量静脈内に投与することがあります。

腫瘍が周囲の骨を壊したり、腫瘍自体に骨のような硬い組織を含む場合、あるいは脊椎(せきつい)から出た腫瘍を疑う場合には、CTスキャンや脊椎のレントゲン撮影を行います。腫瘍に血管が豊富に含まれている場合、あるいは腫瘍か血管由来の疾患か診断が難しい場合には、血管撮影を行います。

治療においては、良性腫瘍の場合には、手術で全摘出されれば脊髄機能に障害を残すことなく完全に治ります。摘出した腫瘍の病理標本で良性であることが確認されれば、放射線や薬物による治療は必要ありません。また、腫瘍が全摘出されれば、再発はまれです。

悪性腫瘍で脊髄内から出たものは、正常な脊髄構造との境界が不鮮明で、全摘出が困難な例もあります。残った腫瘍に対して、放射線照射や抗がん剤による化学療法を行うことがあります。これらの補助療法を追加しなければ、あるいは追加したとしても、発症者はいまだ短期で生命を奪われるのが実情です。

しかし、脊髄腫瘍の60〜70パーセントは、良性腫瘍です。

🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿脊髄小脳変性症

運動失調を主要な症状とする神経変性疾患の総称

脊髄(せきずい)小脳変性症とは、小脳および脳幹から脊髄にかけての神経細胞が遺伝的な変性や、老化などによって進行性に侵され、歩行や手足の運動ができにくくなる疾患の総称。現在、厚生労働省の特定疾患(難病)の一つで、医療費の公費負担が受けられます。

脊髄小脳変性症は総称であって、多数の病型に分類されていて、孤発性(非遺伝性)のものと遺伝性のものに大別されます。

孤発性のものには、オリーブ橋(きょう)小脳委縮症(OPCA)、皮質性小脳委縮症(LCCA)があります。 遺伝性のものには、脊髄小脳失調症1型(SCA1)、脊髄小脳失調症2型(SCA2)、脊髄小脳失調症3型(SCA3、マシャド・ジョセフ病)、脊髄小脳失調症4型(SCA4)、脊髄小脳失調症5型(SCA5)、脊髄小脳失調症6型(SCA6)、脊髄小脳失調症7型(SCA7)、歯状核赤核淡蒼球〔しじょうせきかくたんそうきゅう〕ルイ体委縮症(DRPLA)、フリードライヒ失調症、遺伝性痙(けい)性まひなどがあります。また、遺伝性のものは、優性遺伝と劣性遺伝、性染色体性に分かれます。

それぞれ遺伝型式、発病年齢、臨床症状に違いがありますが、同一の病型でも発症年齢が早いか遅いかによって症状に差があり、症状のみから病型を決めるのは難しいといえます。

脊髄小脳変性症の厳密な意味での頻度は、知られていません。推定では、10万人に対して5~10人程度と考えられます。人種、性別、職業による発症の差は、認められていません。遺伝性以外の原因は、不明です。主に中年以降に発症するケースが多く見受けられますが、若年期に発症することもあります。

主な症状は、運動失調です。歩行時にふらつく、手がうまく使えない、話す時に舌がもつれるなどの症状が起きます。これらの症状が非常にゆっくりと進行していくのが特徴で、10年、20年単位で進行します。運動失調以外にも、さまざまな症状を来します。主要なものは、自律神経症状としての起立性低血圧、発汗障害、排尿障害などのほか、錐体(すいたい)路症状として下肢の突っ張り、末梢(まっしょう)神経障害、筋の委縮などです。

なお、小脳、脳幹、脊髄にかけての神経細胞は破壊されますが、大脳部分は破壊されません。そのため、アルツハイマー病などとは異なり、発症者は自分の体の運動機能が徐々に衰退していくことを、はっきりと認識できます。

脊髄小脳変性症の検査と診断と治療

特に有効な薬も、治療法も見いだされていません。専ら対症療法ということになります。

運動失調に対しては、甲状腺(せん)刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)および関連の薬が有効です。また、自律神経障害に対しては、多くの対症療法が工夫されており、起立性低血圧に対しては、ジヒドロエルゴタミン、ドプスなどが使用されます。排尿障害に対してはα交感神経遮断剤が使用されます。また、下肢の突っ張りなどに対しては抗痙縮剤が使われます。また、パーキンソン症状に対しては抗パーキンソン剤が使用されます。

いずれの病型も慢性進行性の疾患で、数年ないし数十年に渡って進行し、最後には全く歩行不能となりますが、絶えずリハビリを行って、神経の機能をうまく働かせることが必要です。

🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿脊髄髄膜瘤

先天的に脊椎骨が形成不全となって、脊髄や髄膜の一部が骨の外に露出する疾患

脊髄髄膜瘤(せきずいずいまくりゅう)とは、先天的に脊椎(せきつい)骨(椎骨)が形成不全となって、脊椎骨の背中側の一部が開放し、脊髄や髄膜の一部が骨の外に露出する疾患。

日本国内での発症率は、1万人に5人から6人と見なされています。

母胎内で、脳や脊髄などの中枢神経系のもとになる神経管が作られる妊娠の4~5週ごろに、何らかの理由で神経管の下部に閉鎖障害が発生した場合に、脊椎骨が形成不全を起こします。

人間の脊椎は7個の頸椎(けいつい)、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨で成り立っています。脊椎を構成している一つひとつの骨である脊椎骨は、椎間板の付いている前方部分の椎体と、椎間関節の付いている後方部分の椎弓の2つからなっています。本来、後方部分の椎弓は発育の途中に左右から癒合しますが、脊椎骨が形成不全を起こすと、完全に癒合せず左右に開いて分裂する二分脊椎を生じます。

分裂している椎弓からは、神経組織である脊髄や脊髄膜がはみ出し、腫瘤(しゅりゅう)、あるいは中に脊髄液がたまった嚢胞(のうほう)となって、こぶのように骨の外に露出します。嚢胞が露出した場合は、しばしば皮膚欠損による脊髄液の漏れが生じます。

脊髄髄膜瘤は、仙骨、腰椎に多く発生し、胸椎、頸椎に発生することはまれです。

脊髄髄膜瘤の発生には、複数の病因の関与が推定されます。環境要因としては、胎生早期におけるビタミンB群の一種である葉酸欠乏、ビタミンA過剰摂取、抗てんかん薬の服用、喫煙、放射線被爆(ひばく)、遺伝要因としては、人種、葉酸を代謝する酵素の遺伝子多型が知られています。

出生した新生児に脊髄髄膜瘤が発生している場合、二分脊椎の発生部位から下の神経がまひして、両下肢の歩行障害や運動障害、感覚低下が起こるほか、膀胱(ぼうこう)や直腸などを動かす筋肉がまひして排尿・排便障害、性機能障害が起こることもあります。脊椎骨の奇形の程度が強く位置が高いほど、多彩な神経症状を示し、障害が重くなります。

多くは、脊髄液(脳脊髄液)による脳の圧迫が脳機能に影響を与える水頭症(すいとうしょう)を合併しているほか、脳の奇形の一種で脳全体が下側に落ち込むキアリ奇形、嚥下(えんげ)障害、脊椎側湾、脊椎後湾、脊髄空洞症を合併することもあります。

脊髄髄膜瘤の治療には、脳神経外科、小児外科、小児科、リハビリテーション科、整形外科、泌尿器科を含む包括的診療チームによる生涯にわたる治療が必要ですので、このような体制の整った病院を受診するとよいでしょう。

超音波検査による出生前診断で脊髄髄膜瘤が発見された場合には、産道通過の際に胎児の脊髄髄膜瘤が破れるのを予防する目的で、帝王切開を行う場合もあります。

脊髄髄膜瘤の検査と診断と治療

脳神経外科、小児外科の医師による診断では、脊髄髄膜瘤の場合、妊娠4カ月以降の超音波診断や羊水検査でわかることが多く、遅くとも出生時には腰背部の腫瘤、嚢胞により病変は容易に明らかになります。

脊椎部と頭部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査を行い、腫瘤、嚢胞の中の脊髄神経の有無、水頭症の有無を確認します。また、自・他動運動検査、肢位、変形、感覚などの検査を行い、どの脊髄レベルまでが正常であるかを調べます。

脳神経外科、小児外科の医師による治療では、出生時に脊髄液の漏れがある場合には、生後2、3日以内に腰背部に露出した形になっている脊髄や脊髄膜を感染から守るために、皮膚と脊髄神経を分離し、皮膚を縫合する閉鎖手術を行います。

手術後に水頭症の症状が顕在化、悪化するようならば、脳脊髄液の流れの一部分からシャントチューブと呼ばれる細い管を用いて、頭以外の腹腔(ふくこう)や心房などへ脳脊髄液を流す仕組みを作るシャントと呼ばれる手術を行います。

仙骨、腰椎、胸椎、頸椎などの奇形が発生した部位により、症状には重度から軽度まで個人差はありますが、下肢障害に対しては車いす、補装具などによる装具療法、理学療法、整形外科的手術による対処を行い、排尿・排便障害に対しては導尿、浣腸(かんちょう)、摘便(洗腸)、下剤、機能訓練による対処を行います。重症例では呼吸障害、嚥下障害による栄養障害への対処、知的障害への療育を行います。

🇦🇹舌咽神経痛

舌咽神経の機能不全により、喉の奥や舌の後ろに激痛発作が繰り返し起こる疾患

舌咽(ぜついん)神経痛とは、喉(のど)、扁桃(へんとう)、舌に通っている舌咽神経(第9脳神経)の機能不全により、扁桃に近い喉の奥や舌の後ろに発作的な激しい痛みが繰り返し起こる疾患。

顔面の片側に発作的な激しい痛みが起こる三叉(さんさ)神経痛(顔面神経痛)に比べてまれな疾患であり、通常は40歳を過ぎてから発症し、男性に多く起こります。

舌咽神経痛の症状は、三叉神経痛と同様に、発作の時間は短く間欠的ですが、耐えがたい痛みが起こります。舌咽神経が知覚神経、運動神経のほかに舌の後方の3分の1の味覚を支配しているという特性上、飲食物をかむ、飲み込む、せき、くしゃみ、会話などの特定の動作が切っ掛けになって、発作が誘発されることが多くみられます。

痛みは、喉の奥や舌の後ろから始まって、耳にまで広がることがあります。数秒から数分間、痛みが続き、通常は喉と舌の片側だけに起きて、耳へ放散されます。耳に痛みが起こるのは、外耳や中耳にも舌咽神経の枝が分布しているためで、これを投射性耳痛ともいいます。

三叉神経痛を合併すると、顔面の片側に発作的な激しい痛みが起こります。迷走神経症状を合併すると、脈拍の低下を引き起こす結果、めまい、ふらつき、失神を起こすこともあります。

舌咽神経痛の原因はあまり特定されていないのが実際ですが、特定された中で多いのは血管による舌咽神経の圧迫です。舌咽神経が分布している部位の血管がもろくなったり、はれたりすることで隣にある舌咽神経を圧迫し、圧迫を受けた神経が激痛発作を起こしたり、慢性的な違和感を起こしたりします。血管のはれを起こす要因としては、顎(がく)関節症や歯性病巣感染などが考えられます。

舌咽神経が分布している部位に顎骨腫瘍(がくこつしゅよう)などの腫瘍などができた場合も、激痛発作を起こします。頭蓋(ずがい)骨や頸椎(けいつい)、筋肉に問題がある場合も、激痛発作を起こすことがあります。

例えば、舌咽神経が分布している先の一つに、頭蓋骨の頸静脈孔と呼ばれる関節の透き間があり、その透き間がかみ合わせや外傷によってずれることが要因となって、舌咽神経が圧迫されて激痛発作が起こることもあります。

また、舌咽神経痛には脳梗塞(こうそく)、脳腫瘍、脳動脈瘤(りゅう)、脳血管疾患が潜んでいることもあります。

舌咽神経痛の症状に気付いたら、神経内科、内科、脳神経外科を受診し、神経痛の原因になっている炎症や腫瘍、血管の異常、感染の有無などをよく調べることが必要です。

舌咽神経痛の検査と診断と治療

神経内科、内科、脳神経外科の医師による診断では、舌咽神経に炎症や圧迫などがみられるかどうかを調べるため、CTやMRIなど画像検査を行います。舌咽神経の電気的診断のため、筋電図検査も行います。

神経内科、内科、脳神経外科の医師による治療では、発作を予防する働きを持っている抗てんかん剤のテグレトールの服用や、舌咽神経へのアルコール注射による神経ブロックが有効です。時には、舌咽神経の切断を行わないと、痛みが消えないこともあります。

血管が原因の場合は、圧迫している動脈を移動させ舌咽神経に当たらないようにします。舌咽神経を圧迫している腫瘍が見付かった場合には、直ちに腫瘍に対する処置治療を行います。

頭蓋内血管の圧迫が主要因と考えられる場合には、その圧迫部分を排除して神経を開放する脳外科手術も行われます。頭蓋骨の頸静脈孔のずれが要因と考えられる場合には、頭蓋骨の処置治療を行って調整すると、痛みが引くことがあります。

🇲🇲線維筋痛症

女性に多く、全身が痛む原因不明の疾患

線維筋痛症とは、全身に激しい痛みが起こる慢性の疾患。原因はいまだ未解明です。

多くは全身や広範囲の部位の筋肉、関節に痛みが起こりますが、ある部分だけに痛みが起こることもあります。その痛みは、軽度のものから激痛まであり、多くは耐え難い痛みです。痛みの部位が移動したり、天候によって痛みの強さが変わったりすることもあります。

痛みが強い場合、日常生活に支障を来すことが多く、重症化した場合、つめや髪への接触、温度や湿度の変化、音など軽微の刺激で激痛が走り、立ち上がれない、起き上がれない、以前歩けた距離が歩けなくなるなどの症状がみられます。意識がもうろうとして寝たきりになり、自力での生活が困難になることもあります。

随伴症状として、こわばり感、倦怠(けんたい)感、疲労感、睡眠障害、抑うつ、自律神経失調、頭痛、過敏性腸炎、微熱、ドライアイ、記憶障害、集中力欠如、レストレスレッグス症候群などが伴うこともあり、症状には個人差があります。中には、リウマチや他の膠原(こうげん)病を併発している場合もあります。

痛みによって不眠となり、ストレスがたまり、それがまた痛みを増強させる場合もあると考えられています。死に至る病ではありません。

この線維筋痛症は、男性よりも女性に7倍多く、中高年に多く発症しています。そのため、自律神経失調症や更年期障害、不定愁訴など他の疾患と診断されることも少なくありません。現在、厚生労働省の調査から約200万人が発症していると推定されています。

原因は、いまだ未解明。欧米では100年以上も前から知られていた疾患にもかかわらず、診断方法ができたのは1990年で、アメリカリウマチ学会が分類基準を作成しました。中枢神経系および末梢(まっしょう)神経系の障害や、心身のストレスの要因、性格的因子、ライフスタイルなどの要因が重なって、発症につながっていると推測され、ほかに免疫異常、外傷、手術などが発症原因として推測されています。

アメリカでは、人口の2パーセント、リウマチ科に通う患者のうち15パーセントが線維筋痛症であるという統計があります。日本では、医師の間でも疾患の知名度が低く、患者の9割以上が病名すら知らないともいわれています。

線維筋痛症の検査と診断と治療

線維筋痛症は発症してから1〜3年で適切な治療を受ければ、社会復帰も可能であり、自然治癒する可能性もあります。しかし、検査で異常がないため、長年病院を転々とするケースも多く、医師との信頼関係が築けないことが引き金となって、病状が悪化してしまう場合が多くなっています。

発症から時間が経過するほど治りにくいといわれていますので、整形外科、膠原病専門内科、リウマチ科、心療内科あるいは神経内科の専門医を受診します。

明確な診断基準はなく、現段階では1990年に発表されたアメリカリウマチ学会の分類基準を参考にしています。線維筋痛症と診断されるのは、全身に18個所の圧痛点があり、4kgの力で押すと11個所以上が痛く、また広範囲の痛みが3カ月続いていることが条件。11個所以上でなくても、専門医の判断で線維筋痛症と診断されることもあります。ほかの疾患があっても、診断は妨げられません。

血液、レントゲン、CRPという炎症反応、筋電図、CT、MRIを検査しても異常がなく、線維筋痛症と診断できる検査はありません。

治療法も確立されておらず、だれにでも効くという特効薬もまだありませんが、2012年6月にプレガバリン(リリカ)が線維筋痛症に伴う疼痛(とうつう)に対して、日本で初めて保険適応の承認を取得しました。適切に使用すると、症状を軽減する可能性があります。副作用として眠気、ふらつきが出る場合がありますので、注意が必要です。

リウマチ薬を含む膠原病の薬、向精神薬、神経の薬、消炎鎮痛薬などの組み合わせが効くこともあります。ウォーキング、ストレッチ、エアロビクス、水泳などの軽い運動が効果がある場合もあります。

食道や胃が痛かったり、睡眠がとれなかったり、口や目が乾いたり、手足や指先がしびれたり、たくさんの不定愁訴が出ている場合は、それぞれの症状に合わせて投薬されます。

2022/08/21

🇦🇹潜在性二分頭蓋

頭蓋骨の欠損部から頭蓋内容物の一部が飛び出した状態

潜在性二分頭蓋(にぶんとうがい)とは、頭蓋骨と硬膜の欠損があり、そこから頭蓋内容物の一部が脱出した状態。脳瘤(のうりゅう)とも呼ばれます。

先天性の脳奇形の一つで、新生児1万人に1人程度発生しています。原因は、胎児における遺伝子異常や、妊婦におけるビタミンB群の一種である葉酸欠乏が考えられています。

母胎内で、脳や脊髄(せきずい)などの中枢神経系のもとになる神経管が妊娠の4~5週ごろに作られ、その神経管が閉鎖した後に、脳組織の周囲にあって、頭蓋骨の一部を作る間葉(かんよう)組織の形成不全によって、頭を形作る骨格である頭蓋骨と、脳を取り巻く髄膜の1つである硬膜に欠損が生じ、頭蓋内容物の一部が頭蓋外へ脱出します。

脱出した頭蓋内容物には、脳組織が含まれている髄膜脳瘤や、脳組織が含まれず髄膜や脳脊髄液のみの髄膜瘤、髄膜と脳脊髄液と脳室が含まれる脳嚢(のうのう)瘤などがあります。小さな髄膜脳瘤などは、頭血腫という分娩(ぶんべん)の際に胎児の頭が強く圧迫されるために、頭蓋骨と髄膜との間に生じる血液の塊に類似しているものの、その基部に頭蓋骨の欠損が認められる点で異なります。

潜在性二分頭蓋の約9割は頭蓋円蓋部に発生し、残り約1割は頭蓋底部に発生します。通常、正中部に発生し、後頭部と鼻腔(びこう)を結ぶ線に沿うあらゆる部位から、頭蓋内容物の一部が脱出しますが、後頭部にできるケースがほとんどです。極めてまれに、前頭部または頭頂部に非対称的にみられることもあります。

頭蓋円蓋部や鼻腔前頭部に発生する潜在性二分頭蓋は外表上で認められやすく、鼻腔や副鼻腔内に発生する潜在性二分頭蓋は外表上では認められません。

まれに、後頭と頸椎(けいつい)の移行部に潜在性二分頭蓋が発生して、頸椎椎弓が欠損し、後頭部と背部が癒合して頸部が背側に過伸展する後頭孔脳脱出や、脳幹や小脳が脱出するキアリ奇形Ⅲ型を示すことがあります。

後頭部に発生する髄膜脳瘤では、小脳虫部欠損(ダンディー・ウォーカー症候群)や、ほかの脳形成異常を合併しやすく、脳組織の一部が頭蓋外へ脱出するため、約3割に頭蓋骨が先天的に小さく変形を伴う小頭症を合併します。脳形成異常、脳組織の大きな脱出、小頭症などは、発達や知能面での予後不良の誘因になります。

後頭孔脳脱出やキアリ奇形Ⅲ型の生命予後は、不良です。頭蓋底部に発生した潜在性二分頭蓋では、閉塞(へいそく)性の呼吸障害、脊髄液漏による反復性の髄膜炎などを示します。

潜在性二分頭蓋の位置、大きさよって、現れる症状はさまざまですが、重篤な奇形を合併していることが多く、過半数が自然流産するか、人工妊娠中絶を受けるかしており、仮に出生しても24時間以内に死亡します。

妊婦の超音波(エコー)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査で、胎児の潜在性二分頭蓋の診断がつくことがあり、髄膜脳瘤や髄膜瘤、脳嚢瘤などの位置、大きさによっては、出産後の手術による修復が可能なこともあります。

しかし、脳神経外科、小児外科、小児科、リハビリテーション科、整形外科、泌尿器科を含む包括的診療チームによる治療が必要ですので、このような体制の整った病院を受診するとよいでしょう。

出生前診断で発見された場合には、産道通過の際に胎児の髄膜脳瘤などが破れるのを予防する目的で、帝王切開を行う場合もあります。

潜在性二分頭蓋の検査と診断と治療

産科、産婦人科の医師による診断では、妊婦の超音波(エコー)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査で、胎児の潜在性二分頭蓋の診断がつくことがあります。

胎児が潜在性二分頭蓋と確定した場合、多くはその時点で妊娠を継続するかどうかを選択することになります。その致死性の高さから、人工妊娠中絶を選択する妊婦が多く、出産まで進むケースはまれな状況となっています。

脳神経外科、脳外科の医師による潜在性二分頭蓋の治療では、髄膜脳瘤や髄膜瘤、脳嚢瘤などが破れて細菌感染を来したり、脳出血やくも膜下出血を生じるのを防ぐために、手術で修復します。髄膜脳瘤などを脳血管から切り離すか、髄膜脳瘤などの中にコイルを詰めて大きくなるのを抑えます。

🇦🇹全身こむら返り病

体のあちこちの筋肉が縮んで、けいれんを起こし、激しい痛みを生じる疾患

全身こむら返り病とは、全身の筋肉に、こむら返りが起きてけいれんし、激しい痛みを生じる疾患。里吉(さとよし)病とも呼ばれます。

1963年に、里吉榮二郎という神経内科の医師によって初めて報告された原因不明の疾患で、神経の伝わりが障害される自己免疫疾患の一種、あるいは経口摂取した栄養分の消化吸収が障害される吸収不良症候群の一種と考えられています。

大人になってから発症することもありますが、多くの場合10歳前後から発症し、進行性に症状が悪化します。

筋肉のけいれんのほかに、脱毛が特徴でほぼ全例にみられ、下痢も多くみられます。

これらの3兆候のほかに、骨や関節の変形、発育障害、内分泌機能の低下などもよくみられる症状で、10歳代の女性ではホルモンの異常を伴いやすく無月経がみられます。

筋肉のけいれんは最初、腕、太ももなどの一部にみられるだけですが、次第に全身に及び、頸筋(けいきん)から咬筋(こうきん)、側頭筋、舌筋にまで、けいれんがみられることがあります。

いわゆるこむら返りで、筋肉がつるという状態と同じような現象が数秒から数分にわたって続き、1日に数回から、1日中全身のあちこちの筋肉に起きている状態まで、さまざまな程度に出現します。

予後不良で、10年前後から20〜30年にわたって、緩やかに進行し、呼吸まひ、栄養障害で死亡します。

全身こむら返り病の検査と診断と治療

内科、神経内科、内分泌代謝科、整形外科などの医師による診断では、全身の筋肉のけいれんや、脱毛、下痢、あるいは月経の有無で判断します。

内科、神経内科などの医師による治療では、疾患そのものを治す治療法は確立されていないため、症状を和らげる対症療法を行います 。

筋弛緩(しかん)剤のダントロレンナトリウム(商品名ダントリウム)の内服療法、ステロイド系抗炎剤のプレドニゾロン(商品名プレドニン)の内服療法、免疫抑制剤のタクロリムス(商品名プログラフ、グラセプター)とステロイド剤の併用療法、ステロイド剤を大量に点滴するステロイドパルス療法などで、筋肉のけいれん、下痢、脱毛の症状が多少軽快するのみです。

🟧1人暮らしの高齢者6万8000人死亡 自宅で年間、警察庁推計

 警察庁は、自宅で亡くなる1人暮らしの高齢者が今年は推計でおよそ6万8000人に上る可能性があることを明らかにしました。  1人暮らしの高齢者が増加する中、政府は、みとられることなく病気などで死亡する「孤独死」や「孤立死」も増えることが懸念されるとしています。  13日の衆議院...