頭蓋骨が先天的に小さく、変形を伴う症状
小頭(しょうとう)症とは、頭蓋骨(とうがいこつ)が先天的に小さく、変形を伴う症状。狭頭症、頭蓋骨縫合早期癒合症とも呼ばれます。
乳児の頭蓋骨は何枚かの骨に分かれており、そのつなぎを頭蓋骨縫合と呼びますが、乳児期には脳が急速に拡大するため、頭蓋骨もこの縫合部分が広がることで脳の成長に合わせて拡大します。成人になるにつれて縫合部分が癒合し、強固な頭蓋骨が作られます。
小頭症では、主に遺伝子の異常が原因となって、頭蓋骨縫合が通常よりも早い時期に癒合したり、一部の縫合が欠損したりする結果、脳の発達に呼応して頭蓋骨が健全に発達することができず、頭部に異常な変形が起こってきます。
頭蓋骨縫合の早期癒合部位、縫合の欠損部位によって、頭の前後径が異常に長い舟状頭、頭の前後径が異常に短くて横幅が広く、額が偏平になる短頭、額の中央が突出して三角形となる三角頭蓋など、頭蓋骨がさまざまに変形します。
そのほか、小頭症に顔面骨の発達の障害を伴って、顔、顎(あご)も変形するクルーゾン症候群、これに手足の指の癒合を伴うアペール症候群(尖頭〔せんとう〕合指症候群)などが起こることもあります。
頭部や顔面の変形、眼球突出などだけではなく、頭蓋骨が正常に発達できないために脳の圧迫や頭蓋内圧の上昇が起こり、脳や脳神経の発育と機能が障害され、耳の聞こえが悪くなったり、視力を損なうことがあります。
クルーゾン症候群が起こると、気道狭窄(きょうさく)、歯列のかみ合わせ異常、高口蓋や口蓋裂など、さまざまな症状もみられます。
小頭症は、遺伝子の異常で起こるほか、妊娠中の女性の風疹(ふうしん)ウイルスやサイトメガロウイルス、単細胞の原虫の一種であるトキソプラズマなどへの感染、低栄養、薬物、放射線照射により起きることもあります。
ウイルス感染の多くは、特に生命に必要な臓器が作られる妊娠初期の3カ月の間に、胎盤を通じて胎児、時にはその脳に直接感染し、小頭症を発症させます。2015年から中南米を中心に流行が拡大しているジカ熱の原因となるジカウイルスと小頭症の関連も指摘されていますが、科学的にはまだ証明されていません。
乳児の頭蓋骨は、子宮内での圧迫、産道を通る際の圧迫、また寝癖などの外力で容易に変形します。こうした外力による変形は自然に改善することが多いので心配ありませんが、遺伝子の異常やウイルス感染による小頭症との鑑別が大切です。
乳幼児の頭の形がおかしいと心配な場合は、形成外科や小児脳神経外科の専門医を受診します。
小頭症の検査と診断と治療
形成外科や小児脳神経外科の医師による診断では、頭蓋骨のX線(レントゲン)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行い、頭蓋骨縫合の早期癒合部位、縫合の欠損部位を明らかにします。
頭蓋骨の変形はないが、頭が小さく、大泉門(だいせんもん)という前頭部にある頭蓋骨の透き間も触知できない場合は、脳の発育が悪いために脳体積が小さく、頭蓋骨が小さいタイプの小頭症の可能性が大です。この場合は、頭蓋骨のX線検査、CT検査で頭蓋骨縫合の早期癒合は全くみられません。知能の発達遅滞が顕著で、多くは有効な治療法がありません。
形成外科や小児脳神経外科の医師による治療では、早期癒合による小頭症の症状には、軽度なものから重度なものまであり、形成外科や脳神経外科の領域のほか、呼吸、循環、感覚器、心理精神、内分泌、遺伝など多くの領域にわたる全身管理を行います。乳幼児の成長、発達を加味して適切な時期に、適切な方法で治療を行うことが望ましいと考えられ、関連各科が密接な連携をとって集学的治療を行います。
小頭症の治療は、放置すると頭の変形が残ってしまうばかりでなく、脳組織の正常な発達が抑制される可能性があるため、外科手術になります。
手術法としては従来から、変形している頭蓋骨を切り出して、骨の変形を矯正することで正常に近い形に組み直す頭蓋形成術が行われています。乳幼児の骨の固定には、できるだけ異物として残らない吸収糸や吸収性のプレートが用いられます。
近年では、この頭蓋形成術に延長器を用いた骨延長術も行われています。具体的には、頭蓋骨に刻みだけ入れて延長器を装着し、術後に徐々に刻みを入れた部分を延長させ、変形を治癒させるという方法。
骨延長術のメリットとして、出血が少なく手術時間の短縮が図れる、骨を外さないため血行が保たれるので委縮や変形が少ない、骨欠損が比較的早期に穴埋めされる、皮膚も同時に延長可能である、術後に望むところまで拡大可能であるなど挙げられます。一方、デメリットとして、頭蓋形成術より治療期間が長く1カ月程度は入院しなければならない、延長器を抜去する手術が必要となるなどが挙げられます。
さらに、内視鏡下で骨切りを行い、ヘルメットで頭の形を矯正するなどの手術方法も開発されています。
頭蓋骨の手術だけでなく、顔面骨を骨切りして気道を拡大し、眼球突出や不正咬合(こうごう)を適切な位置へ移動させる手術も行われます。
単純な小頭症であれば、適切な時期に適切な手術が行われれば、一度の手術で治療は完結することが期待できることがあります。クルーゾン症候群性、アペール症候群性の小頭症では、複数回の手術が必要になることもまれではありません。頭蓋骨、顔面骨の形態は年齢により変化しますので、長期にわたる経過観察が必要です。
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