ラベル 腎臓、泌尿器の病気 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 腎臓、泌尿器の病気 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2022/08/23

🇧🇾神経性頻尿

泌尿器の異常が認められないのに、頻尿などを起こす疾患

神経性頻尿とは、腎臓(じんぞう)や膀胱(ぼうこう)などの泌尿器に異常が認められないにもかかわらず、頻尿や尿意切迫感を起こす疾患。膀胱神経症、過敏性膀胱とも呼びます。

一般に、女性に多くみられる傾向があります。神経質で几帳面(きちょうめん)、強迫的傾向にある人に多いようです。

神経性頻尿を発症する原因は、精神的な要因やストレス、恐怖心などです。膀胱は精神的な影響を受けやすい器官で、排尿には精神的、心理的な要因が関係してくることが少なくありません。例えば、試験や試合、デートや会食、発表会や演奏会、大事な面接や会議、プレゼンテーションなど、人それぞれの勝負時や本番など緊張する場面でトイレが近くなる状態は、誰でも経験することです。

この状態が一過性の現象として終わらず、その後も排尿回数が日常生活に支障を来すほど頻繁になる場合があります。また同じことが起きるのではないかという不安や恐怖心が先立ち、殊更に尿意が意識されてしまう結果、実際に度々尿意を感じるようになり、意識すればするほど我慢できなくなって頻尿のパターンに陥ります。

精神的負担やストレスを感じる場面で精神が高ぶり、何度もトイレに行きたくなった経験や、電車や車の中でトイレを我慢したエピソードなどを切っ掛けに、神経性頻尿は発症します。職場や学校、家庭でのストレスを始め、いじめや暴行、事故や災害などによる重大な精神障害を機に発症することもあります。

通常、排尿痛や発熱は見られず、尿意を意識せずに何かに熱中している時や、夜眠っている時には症状はありません。逆に、尿意を気にしたり、意識すれば意識するほど、膀胱に少量の尿がたまっただけで強い尿意を感じ、我慢できなくなります。

男性では、職場や仕事上のストレスなどで無菌性の前立腺(せん)炎を起こす場合があり、神経性頻尿の症状と複合して長引くケースも少なくありません。

女性では、軽い膀胱炎を実際に患い、それを切っ掛けに神経性頻尿を発症するケースも多く認められます。この場合、頻尿や尿意切迫感のほかに、排尿痛、残尿感、下腹部の不快感など、膀胱炎と同じ症状を認めることがあります。

神経性頻尿の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、まず尿検査を行うと膀胱炎などのように膿(うみ)や血尿などは出ないので、すぐに神経性頻尿と判断できます。就寝中に排尿がみられないことも、診断の手掛かりになります。

さらに、問診によって、他の自覚症状の有無や頻尿に至った心理的要因を把握していく過程で、残尿感などを訴える発症者には、超音波検査による残尿測定などを行うこともあります。頻尿に伴い、切迫性の尿失禁などの症状を訴える発症者には、膀胱内圧測定や、婦人科的な検査を行うこともあります。

検査の結果、器質的疾患がないことがわかれば、膀胱容量が正常であることを確認するために、一日の排尿回数と排尿量を記録してもらいます。朝一番の排尿量が300ミリリットルあれば、膀胱容量が正常であることがわかります。

泌尿器科の医師による治療では、膀胱の過敏性を和らげ、余分な収縮を抑える抗コリン薬を処方したり、心因的な要素が強い時には抗不安薬や自律神経調整薬などを処方することもあります。

抗コリン薬の服用期間中には、排尿記録を基に目標を決めて、排尿間隔を開け、一回量を増やすような生活を心掛けます。服薬を中止することによる頻尿の再発を心配することはありません。 精神面が大きく作用する神経性頻尿の場合、数週間の服用で頻尿の習慣が消え、服薬を中止しても大丈夫な人が多いものです。 改善したら、予防法など考えず、排尿回数に無関心になることが最大の予防法といえるでしょう。

🇺🇦腎(じん)結石、尿管結石

尿路に石ができた結果、いろいろな障害が発生

腎(じん)結石、尿管結石とは、腎臓、尿管に石ができた結果、いろいろな障害が起こる疾患。20〜40歳代の男性に多くみられます。

尿路に石ができる疾患をまとめて尿路結石といい、石がある尿路に部位により、腎結石、尿管結石、膀胱(ぼうこう)結石、尿道結石といいますが、このうち膀胱より上位にある腎結石と尿管結石は、上部尿路結石といわれます。膀胱より下位にある膀胱結石と尿道結石は、下部尿路結石といわれます。

結石の大小は、小さい砂のようなものから、腎盂(じんう)全体を占める大きな石で、形からサンゴ状結石と呼ぶものまでいろいろあります。結石の数は、1個のことも多数のこともあります。

これらの結石は、尿に溶けていた塩類が腎臓の中で固まってできたもの。主な成分は、尿酸、蓚(しゅう)酸、炭酸などにカルシウムが付いたものです。尿中の塩類が結石を作る理由は、まだよくわかっていません。尿の停滞と細菌感染、手術時の縫合糸など尿路の異物、副甲状腺(せん)機能高進症、代謝異常などが、結石を作りやすい誘因になると考えられています。

腎結石、尿管結石の主な症状は、腎臓部の痛み、血尿、結石の排出です。

腎臓部の痛みには、腎臓や尿管の強い痛みの疝痛(せんつう)と、腎臓部や腰部の鈍い痛みの鈍痛の2種類があります。疝痛というのは、結石が尿管に詰まって、尿が下に流れないで急に腎盂の内圧が高くなり、腎臓が大きく張るために痛みが起こるもの。時には、背中や肩、あるいは下腹部から外陰部へ痛みが走ります。また、尿管のけいれん性の収縮によっても、痛みが起こるといわれています。

疝痛の発作時は、吐き気や嘔吐(おうと)、脈が速くなる頻脈、腹部膨満感なども起こります。疝痛が治まると、鈍痛が腎臓部に感じられます。大きな結石では、鈍痛のことが多く、X線によって偶然発見されることもあります。

血尿は、疝痛時にみられます。これは結石が尿路の粘膜を傷付けるためで、見た目で血尿とわかるものばかりではありません。結石の排出は、疝痛の後の排尿時にみられることがあります。

尿とともに体外されるのは、小さい結石です。結石がある大きさになると、尿管に長い間とどまったままとなり、水腎症になります。また、細菌感染が起こった場合、急性腎盂腎炎になって高熱が出ます。

このような時は、強い抗生物質を用いないと、進行して膿腎(のうじん)症になることもあるので、注意が必要です。

腎結石、尿管結石の検査と診断と治療

5ミリ以下の小さい結石では、多くのケースで自然排出が期待できます。それ以上の大きさになると、短期間での排出は期待できません。

かつては切開手術を主体として治療が行われていましたが、今日では、体外衝撃波砕石術(ESWL)が腎結石、尿管結石の治療の第1選択となっています。衝撃波発生装置から出た衝撃波を皮膚を通して、結石に収束させて、破砕するものです。さまざまなタイプの優れた機種が広く普及して、ごく一般的に使用されています。

しかし、衝撃波砕石も万能ではありません。衝撃波をあまり当てすぎると、腎臓に障害を生じます。衝撃波で割れない結石もあります。また、衝撃波では割るだけで、大きな結石では割れた結石を自然排出するのが大変です。

今日では、体外衝撃波砕石術と併行して、内視鏡による腎結石、尿管結石の治療も行われています。

一方、一部の結石は、内服薬によってある程度、治療できます。例えば、近年になって増加している尿酸結石は、重曹などによって尿をアルカリ化することで、かなり改善されます。一部の結石では、結石を作りやすい疾患が合併しているものもあり、もとになる疾患の治療も大切。

尿路結石では一般に、尿の濃縮と運動不足が結石の増大を促します。水分をよく摂取し、縄跳びやジョギングなど適度の運動を続けることが大切です。

🇷🇺腎(じん)硬化症

■高血圧の影響で、腎臓全体が硬くなり機能が低下

 腎(じん)硬化症とは、腎臓への血流量が減るために、次第に腎臓全体が硬くなって機能が衰える疾患。高血圧が長く続くと、腎臓の血管の動脈硬化が進み、血管の中が狭くなることが、発症の原因となります。

 この病変がさらに進み、腎臓が硬く小さくなったものを委縮腎といいます。健康な人の腎臓は普通、片方だけで150グラム程度なのに対して、委縮腎になると40グラム程度になることも、決して珍しくありません。

 腎硬化症には、良性腎硬化症と悪性腎硬化症があります。良性腎硬化症は、疾患の進行がゆっくりした経過をとります。悪性腎硬化症は、高血圧が著しく、そのために現れる症状も激しく、急激に進行して腎不全に陥ります。

 良性腎硬化症は、本態性高血圧症のある40歳以上の人に多くみられます。初めは、わずかの蛋白(たんぱく)尿か血尿がみられるだけで、腎臓機能も正常です。やがて、尿を濃縮する力が衰えてきて、やむなく老廃物や塩類などを排出するために薄い尿を作るようになり、排尿の回数が増えてきます。適切な治療を行わないと、腎不全に陥ることもあります。

■高血圧の影響で、腎臓全体が硬くなり機能が低下

 腎(じん)硬化症とは、腎臓への血流量が減るために、次第に腎臓全体が硬くなって機能が衰える疾患。高血圧が長く続くと、腎臓の血管の動脈硬化が進み、血管の中が狭くなることが、発症の原因となります。

 この病変がさらに進み、腎臓が硬く小さくなったものを委縮腎といいます。健康な人の腎臓は普通、片方だけで150グラム程度なのに対して、委縮腎になると40グラム程度になることも、決して珍しくありません。

 腎硬化症には、良性腎硬化症と悪性腎硬化症があります。良性腎硬化症は、疾患の進行がゆっくりした経過をとります。悪性腎硬化症は、高血圧が著しく、そのために現れる症状も激しく、急激に進行して腎不全に陥ります。

 良性腎硬化症は、本態性高血圧症のある40歳以上の人に多くみられます。初めは、わずかの蛋白(たんぱく)尿か血尿がみられるだけで、腎臓機能も正常です。やがて、尿を濃縮する力が衰えてきて、やむなく老廃物や塩類などを排出するために薄い尿を作るようになり、排尿の回数が増えてきます。適切な治療を行わないと、腎不全に陥ることもあります。

🇦🇲腎細胞がん

腎臓の細胞にできるがんで、血尿が主な症状

腎(じん)細胞がんとは、腎臓の細胞にできるがん。腎臓に発生するがんの約90パーセントを占めることから、単に腎がんとも呼ばれます。

がんは、腎臓の実質で、尿を作る腎尿細管上皮細胞から発生します。年間発生者数は1万〜1万2000人と推定され、発症年齢は50〜60歳代が最も多く、男女比はほぼ2〜3対1の割合です。

原因は不明ですが、発症の危険因子として、たばこや鎮痛解熱剤の大量摂取、ホルモン薬の常用、肥満、高血圧、糖尿病、心筋梗塞(こうそく)の既往がいわれています。また、腎不全により長期間血液透析を受けている人における腎細胞がんの発生頻度は、一般の人に比べて100倍ぐらい高いといわれています。これは血液中の尿毒症物質が原因と考えられています。

初期は、無症状です。近年は画像診断の普及により、人間ドックや他の疾患で医療機関を受診した際に偶然、無症状の小さな腎細胞がんが発見されることが多くなりました。

サイズの大きい腫瘍(しゅよう)においては、出たり止まったりの肉眼でわかる血尿、腎臓の疼痛(とうつう)、側腹部の腫瘤(しゅりゅう)が認められます。また、全身的症状として倦怠(けんたい)感、発熱、体重減少、食欲不振、貧血などを来す場合は、進行が速いといわれています。

腫瘍が静脈内に進展した場合は、下大静脈という腹部で一番大きな静脈が閉塞(へいそく)し、血液が他の静脈を通って心臓に戻るため、腹部体表の静脈が目立ったり、男性の陰嚢(いんのう)内の静脈が目立つ現象が起こることもあります。

腎細胞がんの転移しやすい臓器は肺と骨で、肺転移の多くは自覚症状に乏しく、骨に転移すると痛みを伴います。

まれに、腎細胞がんが産生するサイトカインという物質によって、赤血球増多症や高血圧、高カルシウム血症などが引き起こされることがあります。

腎細胞がんの検査と診断と治療

肉眼的血尿に気付いたら、泌尿器科、腎臓内科の専門医を受診します。人間ドックや検診などで腎細胞がんが疑われた場合は、すぐに泌尿器科の専門医を受診します。

医師による診断では、まず尿検査と腎臓の画像診断を行います。尿の検査では、血液の出血の有無、がん細胞の有無を調べます。画像診断では、超音波検査、CT検査(コンピューター断層撮影)、静脈性腎盂(じんう)造影や腎動脈造影で、腎臓の形の変化や動脈の分布状態を調べます。これらの検査で腎静脈や下大静脈の腫瘍による閉塞が疑われる場合には、MRI検査により進展範囲を診断します。

肺転移の有無は、胸部X線写真や肺CTによって検索します。骨転移の有無は、骨シンチグラフィを行って確認します。

医師による治療では、腎臓を摘出する手術が最善の方法です。薬物療法、放射線療法もありますが、これらはあくまでも手術の補助療法です。

手術は従来、開腹手術による腎臓の摘出だけでしたが、近年は開腹手術よりも術後が楽な腹腔(ふくくう)鏡下の手術が開発され、この方法で周囲脂肪組織も含めた腎臓の摘出も行われています。リンパ節切除も腹腔鏡下で行われます。

各種画像診断の普及から発見される機会が増加している、腫瘍サイズが3〜4センチと小さい腎細胞がんに対しては、腎臓を全部摘出せず、腫瘍とともに腎臓の一部のみを摘出する手術が行われています。このような手術を受けた場合でも、腎臓を全部摘出する手術を受けた場合でも、再発率、生存率については大差がないといわれています。

腎臓が摘出ができない症例に対しては、動脈塞栓(そくせん)術や凍結術が有効なこともあります。動脈塞栓術は、腎動脈を人工的に閉塞させ、がんに血液が流れ込まないようにする方法で、大きな腫瘍を摘出する手術に先立って行われることもあります。

薬物療法については、抗がん剤はほとんど無効ですが、インターフェロンやインターロイキンが有効なこともあります。

肺や骨などへの転移に対しては、自己の免疫力を高める免疫療法や分子標的治療を行うことが一般的です。転移巣が少数で、腫瘍の大きさや数が変わらない場合、経過観察後あるいは免疫療法後に、手術による転移部位の摘出が行われることがあります。肺の転移巣に対する外科療法では、長期生存も期待されます。さらに骨転移、脳転移などに対しても、外科療法や放射線療法が行われることがあります。

腫瘍サイズが3〜4センチと小さい腎細胞がんは、90パーセント以上が治癒しています。5〜6センチの腫瘍では20〜30パーセント、7〜8センチの腫瘍では、30〜40パーセントで再発を認めるといわれています。10センチ以上の大きな腫瘍や、転移のある腫瘍では、治癒率はより劣ります。発熱、体重減少、貧血などの症状のある腎細胞がんの予後は、無症状のがんより明らかに不良です。

🇲🇴正常血糖性糖尿

血液中の高血糖を伴わずに、尿中に多くのブドウ糖が認められる疾患

正常血糖性糖尿とは、血液中のブドウ糖(グルコース)濃度が過剰である高血糖を伴わず、血糖値は正常な範囲内にあるにもかかわらず、腎臓(じんぞう)からブドウ糖が継続して尿中に漏れる疾患。腎性糖尿とも呼ばれます。

腎臓では、糸球体という部位で、体の老廃物とともに、糖分(ブドウ糖、フルクトース、ガラクトースなど)やミネラル(ナトリウム、カリウムなど)などの血液中の小さな物質はいったん、すべて尿の原液である原尿の中に、ろ過されます。その後、原尿が尿細管という細い管を流れる間に、ブドウ糖やミネラルなど体に必要な物質は再び血液中に再吸収され、血液中に残った老廃物はさらに尿中へ排出されます。その結果、最終的な尿が作られることで、必要な物質は体に保ち、老廃物のみを効率よく体外に排出することができます。

ブドウ糖は体に必要な栄養源ですから、尿細管でナトリウム・グルコース共役輸送体(SGLT)というポンプにより、すぐに血液中へ再吸収されます。しかし、このポンプの力には限度があり、年齢や個人差もあるのですが、通常は血液中のブドウ糖濃度である血糖値が170mg/dlを超えると限界となって再吸収されずに、ブドウ糖が最終的な尿中に排出されます。この尿中に認められるブドウ糖を尿糖と呼びます。

糖尿病でなければ、通常は血糖値が食後でも140mg/dlを超えることはないので、尿糖は出ないことになります。ところが、体質によりポンプの力が弱いと、尿細管におけるブドウ糖再吸入の機能不全が起こるため、血糖値が正常な範囲内にあってもブドウ糖が最終的な尿中に排出されます。これを正常血糖性糖尿と呼んで、糖尿病による尿糖と区別しています。

ポンプの力が弱い体質は、親から子へと遺伝することが確認されています。ポンプの力が普通より弱く、その後どれだけ血糖値を上昇させてもそれ以上にはブドウ糖を再吸収できないA型と、尿糖を示しながらも最大再吸収は普通にできるB型があります。通常、常染色体優性の形質として遺伝しますが、時として劣性遺伝します。

50〜60gのブドウ糖が尿中に排出されますが、多くの場合、生まれ付きで腎臓の機能がやや弱っているだけで、ほかに腎臓に問題がなければ、治療の必要はありません。腎臓以外の部分でも大きな問題が出るケースはほとんどなく、将来の糖尿病のリスクも健康人と変わりありません。

ただし、尿中に排出されるブドウ糖が多い場合、尿の量が増え、脱水によるのどの渇きや倦怠(けんたい)感などの症状がみられることがあります。

なお、まれに尿細管を主に障害する尿細管障害や間質性腎炎などの腎臓病が、尿糖の原因になることもあります。特に、むくみや倦怠感などの症状があるのであれば、その可能性は否定できませんので、腎臓内科で一度相談してみてください。

また、甲状腺(こうじょうせん)機能高進症などのホルモン異常、クッシング症候群、眼脳腎症候群(ロー症候群)、ファンコニ症候群、ウィルソン病、ガラクトース血症など種々の全身性障害に併発することがあり、妊娠中にも女性ホルモンなどの影響でポンプの力が弱まり、血糖値がそんなに高くなくても、尿糖が出ることが知られています。

健康診断の尿検査で尿糖が確認された場合、医療機関で血液検査を受けて血糖値を調べ、糖尿病でないか確認するのが安全です。また、尿から糖が出るのが当たり前なので、糖尿病の発見を見逃す原因ともなる可能性がありますので、年に一度は検査を受けておくと安心です。生活習慣病対策として2008年4月から導入された特定健康診査(特定健診、メタボ健診)でも、尿糖の測定は必須となっています。

正常血糖性糖尿の検査と診断と治療

内科、内分泌科、腎臓内科、泌尿器科などの医師による診断では、血糖と尿糖の程度を同時に比較することで、糖尿病と正常血糖性糖尿(腎性糖尿)を鑑別します。

また、血糖値140mg/dl未満で高血糖が存在しない場合の24時間採尿における500mg超のブドウ糖(グルコース)所見に基づき、排出された糖がブドウ糖(グルコース)であることを確認し、ペントース尿、フルクトース尿、スクロース尿、マルトース尿、ガラクトース尿、ラクトース尿を除外するために、グルコースオキシダーゼ法という検査を行うことがあります。

内科、内分泌科、腎臓内科、泌尿器科などの医師による治療では、単独の正常血糖性糖尿は良性であり、処置を施すことはありません。当然、運動療法や食事療法の必要はありません。

🇨🇳成人夜尿症

睡眠時に無意識のうちに排尿する夜尿症を成人まで持続している状態

成人夜尿症とは、睡眠時に無意識のうちに排尿してしまう夜尿症を成人まで持続している状態。成人になってから初めて、夜尿症を出現した状態も含みます。

小児の夜尿症は5歳では約20パーセント弱の頻度でみられますが、10歳では約5パーセントまで減少し、成人まで持続する人は1パーセンと程度と考えられています。

乳児のころからずっと続いている夜尿症は、神経系の発達が未熟であることにより、膀胱(ぼうこう)が尿でいっぱいになっても目が覚めないことが原因の場合や、膀胱が尿でいっぱいになる前に勝手に縮んでしまう過活動膀胱が原因の場合があります。また、尿を濃縮し、尿量を減らすホルモンである抗利尿ホルモンは通常、昼間よりも夜間に多く分泌されますが、夜尿症児では夜間の抗利尿ホルモンの分泌の増加が不十分であることが認められています。

夜尿症には3タイプあり、多量の尿を漏らしてしまう多量遺尿型、少しだけ尿を漏らす排尿機能未熟型、そして、両者の混合型があります。成人の夜尿症では排尿機能未熟型が多くみられ、過活動膀胱が代表的な原因で、膀胱炎や前立腺(ぜんりつせん)肥大症などの病気、冷え性、常習性便秘によっても起こります。多量遺尿型は、抗利尿ホルモンの分泌不足、水分の取りすぎ、生活リズムの乱れ、精神的な問題が原因で起こります。

また、乳児のころからずっと夜尿症が続いている場合を一次性夜尿症、少なくとも半年間は夜尿症がなかった時期があり、再度出現した場合を二次性夜尿症と分類します。大人になってから初めて夜尿症が出現した場合も、二次性夜尿症に分類されます。

小児の場合では、二次性夜尿症は下の子供の誕生など精神的なものが原因となっていることがあります。しかし、成人の場合にはそのようなことは考えにくく、何らかの隠れた病気の存在を疑う必要があります。

成人夜尿症の原因の一つは、睡眠障害です。アルコールや睡眠薬が、その睡眠障害の原因になっていることもあります。睡眠障害のうちでも頻度の高い睡眠時無呼吸症候群では、夜間の尿量が増えるため、夜中に何回もトイレに起きるようになり、夜尿症の原因となることもあります。また、睡眠時遊行症、いわゆる夢遊病も、夜尿症を合併することが多いと考えられています。

尿を蓄えたり排出したりする働きを持つ膀胱は、手や足と同じように神経によって動きが調節されています。従って、神経の病気が夜尿症の原因となることがあります。脳血管障害や脳腫瘍(しゅよう)、免疫異常により神経系が障害される多発性硬化症などの重大な神経の病気が、夜尿症によって判明する場合もあります。

ただし、これら神経の病気では、昼間にも頻尿や尿失禁、排尿困難感などの症状を伴うことが多いようです。ほかにも、糖尿病や尿崩症のように極端に尿の量が増えるような病気でも、夜尿症が引き起こされることがあります。

このように、とりわけ成人になってから始まる夜尿症では、多様な原因を考える必要があり、重大な病気が隠れている場合もあるので、夜尿症が継続するようでしたら、一度泌尿器科の専門医を受診することが勧められます。

成人夜尿症の検査と診断と治療

成人夜尿症の原因は多種多様で、その原因に応じて治療法や治療薬などの対処法も異なります。膀胱炎や前立腺肥大症、睡眠障害、脳血管障害、脳腫瘍、多発性硬化症、糖尿病、尿崩症などの基礎疾患がある場合には、その治療を優先的に行います。

基礎疾患がないことが認められた場合は、泌尿器科の医師はまず、睡眠時におむつをして夜尿の量を測定する検査を行い、夜尿症のタイプを判別します。その後、診断結果を基にタイプ別の原因を調べて、その原因に応じた治療薬の投与が行います。

抗利尿ホルモンの量が少ないために夜尿の量が多くなる多量遺尿型の夜尿症では、イミプラミン(トフラニール)、クロミプラミン(アナフラニール)、アミトリプチン(トリプタノール)三環系抗うつ剤が使用されます。この治療薬が使用される目的は、精神の安定、膀胱括約筋の緊張を促すなどです。

膀胱に尿を多くためることができない排尿機能未熟型の夜尿症では、パップフォー、ポラキスなどの尿失禁治療薬が使用されます。成人がこれらの治療薬を用いた場合、副作用として、のどが渇く、目が乾く、排尿困難などが起こる可能性があります。 排尿機能未熟型のタイプの場合、尿意を感じた時にすぐにトイレにゆくのではなく、なるべく我慢する排尿抑制訓練も必要です。また、1日3回、肛門(こうもん)を締める運動を一緒に行うと効果的です。

尿が少し漏れるとアラームが鳴る装置を用い、排尿抑制を繰り返す夜尿アラーム療法という治療法も有効です。睡眠中の膀胱容量が増えてきますので、排尿の時間帯が遅くなってゆき、最終的には朝起きるまで排尿せずにすむようになります。

いずれのタイプの夜尿症も、基本になるのは日常生活でのケアです。例えば、夕食後は水分をあまり取らないようにし、就寝前には一切飲まないようにします。夜尿症は温度が低いことで悪化しやすいので、夏場にクーラーをつけすぎないようにします。冬は就寝前に入浴するようにし、できるだけ体を温めた状態で床に就くようにし、寝具は前もって温めておきます。また、抗利尿ホルモンという尿量を減らすホルモンは睡眠中に起こされると減ってしまうので、睡眠中には起こされないようにします。

2022/08/22

🇧🇹赤血球尿

腎臓や尿路などからの出血のために、尿中に赤血球が混入している状態

赤血球尿とは、腎臓(じんぞう)や尿路などからの出血のために、尿中に赤血球が混入している状態。血尿とも呼ばれます。

赤血球尿の中には、目で見て明らかに赤い尿が出る肉眼的赤血球尿と、目で見てもわからないけれども顕微鏡で見ると尿の中に赤血球が存在する顕微鏡的赤血球尿との2つがあります。正常の人では尿中に赤血球が混入することはなく、尿を遠心分離器にかけた際に、尿中に含まれる固形物が沈殿して底にたまる尿沈渣(ちんさ)を顕微鏡で調べ、一視野に4個以上の赤血球を認めた場合が、顕微鏡的赤血球尿に相当します。

女性生殖器からの出血のために、尿中に血液が混入しているものは、赤血球尿とは呼びません。

尿は腎臓で作られ、尿管を通って膀胱(ぼうこう)に至り、一度貯留された後、尿道から排出されます。従って、この経路のどこかに腫瘍(しゅよう)、結石、炎症などが存在し出血していると、赤血球尿を生じます。男性の場合は、生殖器である前立腺(ぜんりつせん)や精巣(睾丸〔こうがん〕)と泌尿器がつながっているため、前立腺からの出血でも赤血球尿を生じることがあります。

高齢者で赤血球尿をみた時に、最も注意しなければいけない疾患は、悪性腫瘍、すなわちがんです。赤血球尿を来すがんは、腎臓がん、腎盂(じんう)がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がんなどです。そのほか、尿路系臓器の周囲の臓器からのがんが浸潤し、赤血球尿を生ずることもあります。例えば、大腸がん、子宮がんの転移が、それに当たります。

がんによる赤血球尿は通常、肉眼的赤血球尿なので、気付いたらすぐに検査を受ける必要があります。顕微鏡的赤血球尿でも、まれにがんによって起こされることがあります。腎臓がんでは背部痛を生じることもありますが、無症状のことも多く、肉眼的赤血球尿があった時には他の症状がなくても検査を受ける必要があります。

赤血球尿を生ずる疾患としては、結石もあります。腎臓で作られた尿の最初の通路である腎盂の中で形成された結石が、尿管の細い部分に詰まると、痛みと赤血球尿を生じます。尿管には、腎盂と尿管の移行部、総腸骨動脈圧迫部、尿管と膀胱の移行部という3つの狭窄(きょうさく)部があり、そこに結石が詰まりやすくなっています。狭窄部に詰まっていない状態では、痛みもなく赤血球尿もほとんど認めません。

尿管、膀胱でも結石ができることがあり、特に感染、異物の存在などが結石の核となるとされています。

膀胱炎もしばしば赤血球尿の原因となり、急性膀胱炎の場合は通常、排尿時痛、頻尿、白血球が混入した膿尿(のうにょう)を伴います。慢性膀胱炎の場合には、赤血球尿と膿尿だけで、痛みや頻尿の症状は比較的軽く、ほとんど自覚しないこともあります。

尿路系臓器の炎症では、細菌がついて起こる前立腺炎、腎盂腎炎、尿道炎も、赤血球尿の原因となります。高齢者になってから発症することは少ない疾患で赤血球尿を生じるものに、慢性糸球体腎炎(特にIgA腎症)、急性糸球体腎炎、多発性嚢胞(のうほう)腎、腎結核などが挙げられます。青年期からの無症候性赤血球尿としては、遊走腎、薬剤性赤血球尿などがあります。

赤血球尿の発症者の約10人に1人は原因を特定できないことがあり、特発性赤血球尿といいます。また、健常者でも激しい運動後、一時的に赤血球尿を認めることがあります。いずれにおいても赤血球尿が認められた時は、泌尿器科、ないし腎臓内科の医師の診断を受け、定期的に経過観察することが必要です。

赤血球尿の検査と診断と治療

泌尿器科、腎臓内科の医師による診断では、症状および各種検査を総合し、赤血球尿の原因を確定します。

赤血球尿に排尿時痛を伴う時は、膀胱炎、膀胱結石を疑います。赤血球尿に腹痛、背部痛を伴う時は、腎結石、尿路結石を疑います。赤血球尿に浮腫(ふしゅ)、高血圧などを伴う時は、腎糸球体病変を疑います。

肉眼的赤血球尿の場合、ある期間持続すると貧血が進行する恐れがあり、早急に精密検査を行います。尿の通過経路である腎臓、尿管、膀胱などに赤血球尿の原因となり得る腫瘍、結石などの病変はないかを調べます。腹部超音波、腎盂尿管膀胱撮影、静脈性尿路造影などを行い、異常所見を検索します。特に中高年の場合は悪性疾患を疑い、尿中に混入している異常細胞を調べる尿細胞診を繰り返し行うことがあります。

無症候性の顕微鏡的赤血球尿を各種の健康診断で指摘されている場合、尿沈渣を行い、赤血球円柱、赤血球の変形などがあれば、腎糸球体疾患を疑います。IgA腎症、急性糸球体腎炎などが考えられ、診断のため血液検査を行います。尿沈渣に異常がみられない場合、尿管、膀胱などの下部尿路系の病変を考え、肉眼的赤血球尿の時と同様に腹部超音波、腎盂尿管膀胱撮影、静脈性尿路造影などを行います。

そのほかの尿所見で、白血球の混入が認められれば膀胱炎、腎盂腎炎などの感染症、異型細胞が認められればがんを疑います。

泌尿器科、腎臓内科の医師による治療では、赤血球尿そのものより、赤血球尿の原因となる疾患の治療、経過観察を重視します。

がんの治療では、三大治療と呼ばれる外科療法、放射線療法、化学療法の3つを駆使し、状況に合わせて組み合わせた集学的治療を行います。腎臓がん、膀胱がんの早期には手術を行いますが、転移がひどい場合や年齢的に手術不可能の場合は、インターフェロン療法などの化学療法を行います。

尿路結石では、痛みや繰り返す膀胱炎、腎盂腎炎などの症状がなければ、尿とともに自然に出てくるまで経過観察で様子をみることもあります。症状がある場合や大きな結石の場合は、結石に超音波などの物理的エネルギーを加え、そのエネルギーで結石を粉砕し、体外に出す破砕療法や、手術によって除去します。

膀胱炎、腎盂腎炎などの感染症では、感染している細菌に有効な抗生物質、抗菌剤を投与します。効果は比較的早い段階で現れます。どこで炎症を起こしているかにもよりますが、水分の摂取を多くして尿量を増やし、細菌を洗い流すほか、尿の刺激性を低下させて症状を和らげます。症状の強い際は、十分な休息、睡眠を確保するようにします。

2022/08/19

🇲🇲フェニルアラニン水酸化酵素欠損症

アミノ酸のフェニルアラニンを代謝する酵素の異常で、フェニルケトンが尿中に排出される疾患

フェニルアラニン水酸化酵素欠損症とは、アミノ酸の一つのフェニルアラニンを代謝する際に必要なフェニルアラニン水酸化酵素に異常があるために、フェニルケトンという物質を発生し尿中に排出される疾患。フェニルケトン尿症、高フェニルアラニン血症とも呼ばれ、先天性代謝異常症の一種です。

人間が成長、発育していくには、蛋白(たんぱく)質、糖質、脂肪、ビタミン、ミネラルなどの栄養分が必要であり、これらの栄養分は胃、腸で分解され、小腸より吸収されて、肝臓などの内臓や脳、筋肉に運ばれます。内臓ではさらに、それぞれの臓器を構成するのに必要な成分に分解、合成されます。

このように栄養分を分解、合成する代謝には酵素の働きが必要ですが、その酵素が生まれ付きできないために、関係する成分の蓄積が起こって、いろいろな症状が現れるのが、先天性代謝異常症です。

たくさんの種類がある先天性代謝異常症の中で、フェニルアラニン水酸化酵素欠損症は比較的頻度が高く、早期発見により正常な発育を期待できるため、新生児の集団スクリーニングの実施対象疾患となっています。新生児の約8万人に1人の割合で、フェニルアラニン水酸化酵素欠損症を発症するとされています。

口から摂取した蛋白質は、胃でアミノ酸に分解され、腸より吸収されます。そのアミノ酸の一つであるフェニルアラニンは、体内で合成することができず、肉類を始めとして魚貝類、卵、チーズ、脱脂粉乳、大豆などの食品中に多く含まれるものを摂取して補わなければならない必須(ひっす)アミノ酸の一つでもあり、フェニルアラニン水酸化酵素の働きによって、大部分が別のアミノ酸であるチロシンに変換されます。

このフェニルアラニン水酸化酵素が生まれ付き欠けていると、フェニルアラニンが体内に過剰に蓄積し、血液中ではフェニルアラニンが高値となり、尿中では多量のフェニルケトンが排出されるようになるのが、フェニルアラニン水酸化酵素欠損症です。

新生児にすぐに症状が出ることはほとんどありませんが、時には活気がなかったり、授乳不良がみられることがあります。一般的には、授乳を開始することにより新生児の体内にフェニルアラニンが蓄積し、生後3〜4カ月ころから症状が現れます。

フェニルアラニンの過剰な蓄積によって、脳に障害が起こり、精神遅滞、知能障害、脳波異常、けいれんがみられます。血液中のフェニルアラニン濃度は、正常なら1mg/dL(ミリグラムパーデシリットル)前後なのに、20mg/dL以上になっています。

また、体臭や尿がネズミ臭くなります。汗や尿に、フェニルアラニンの代謝産物のフェニル酢酸が含まれるためです。メラニン欠乏による色白や赤毛、吐き気や嘔吐(おうと)、湿疹(しっしん)様の発疹も現れます。

ただし、新生児の集団スクリーニングで早期発見、早期治療が可能となった現在では、このような症状をみることはほとんどなくなりました。

フェニルアラニン水酸化酵素欠損症の検査と診断と治療

フェニルアラニン水酸化酵素欠損症は、新生児の集団スクリーニングという集団検診の対象疾患になっています。具体的なスクリーニングの流れは、まず産科医療機関で生後4~7日目の新生児のかかとからごく少量の血液をろ紙に採り、スクリーニングセンターに郵送します。センターでスクリーニング検査を行い、血液中のフェニルアラニン濃度を測ることによりフェニルアラニン水酸化酵素欠損症を発見しています。

結果に異常のある場合、小児科の医師による精密検査を受け、フェニルアラニン水酸化酵素欠損症と診断されると、フェニルアラニンの過剰な蓄積を改善するために、できるだけ早期にフェニルアラニン制限食を開始します。

治療には、フェニルアラニンを含まないか、含む量を減らした特殊ミルクを用います。フェニルアラニンは食事中の蛋白質に含まれているので、食事は基本的に低蛋白食になります。

フェニルアラニンは体内で合成できないため、食べ物から摂取する必要がある必須アミノ酸であるため、発育に必要な最小限のフェニルアラニンを母乳や普通ミルク、もしくは低蛋白食によって与え、不足する栄養素を特殊ミルクで補います。

乳児期は、血液中のフェニルアラニン濃度を2〜4mg/dLになるようにコントロールします。成長するに従い、フェニルアラニンの摂取制限の緩和も可能ですが、脳の発達が終わった後も、ある程度のフェニルアラニン制限食は生涯続けることが望ましいとされます。味のよい低フェニルアラニン食品も開発されており、バラエティに富んだ料理を作ることができるようになってきました。

血液中のフェニルアラニン濃度の管理に注意しなければならないものの、早期発見、早期治療によって精神遅滞などは防ぐことができ、健常者と同様な生活を送ることができます。

ビオプテリン代謝異常症とも呼ばれる、一部のビオプテリン反応性フェニルアラニン水酸化酵素欠損症では、食事療法以外にも、酵素の働きを助ける補酵素であるテトラヒドロビオプテリン(BH4)の投与で、血液中のフェニルアラニン値が低下します。その投与を併用することで、食事制限の緩和が可能であり、食事療法を中止し、その単独投与での治療も可能となっています。

しかし、ビオプテリン代謝異常症は、フェニルアラニン制限食だけでは精神遅滞やけいれんは改善できないのが特徴で、脳内で信号や情報を伝える役割を持つ神経伝達物質であるカテコールアミンやセロトニンが欠乏しているので、テトラヒドロビオプテリンの投与とともに、神経伝達物質の前駆体であるL−ドーパや5−ヒドロキシトリプトファンの補充療法が行われています。

また、テトラヒドロビオプテリンの投与の長期安全性は不明ですので、使用に際しては医師の十分な説明と保護者の同意が求められています。

🇱🇦フェニルケトン尿症

アミノ酸のフェニルアラニンを代謝する酵素の異常で、フェニルケトン体が尿中に排出される疾患

フェニルケトン尿症とは、アミノ酸の一つのフェニルアラニンを代謝する際に必要な酵素に異常があるために、フェニルケトン体という物質を発生し尿中に排出される疾患。先天性代謝異常症の一種です。

人間が成長、発育していくには、蛋白(たんぱく)質、糖質、脂肪、ビタミン、ミネラルなどの栄養分が必要であり、これらの栄養分は胃、腸で分解され、小腸より吸収されて、肝臓などの内臓や脳、筋肉に運ばれます。内臓ではさらに、それぞれの臓器を構成するのに必要な成分に分解、合成されます。

このように栄養分を分解、合成する代謝には酵素の働きが必要ですが、その酵素が生まれ付きできないために、関係する成分の蓄積が起こって、いろいろな症状が現れるのが、先天性代謝異常症です。

先天性代謝異常症の種類はたくさんありますが、フェニルケトン尿症は比較的頻度が高く、早期発見により正常な発育を期待できるため、新生児の集団スクリーニングの実施対象疾患となっています。新生児の約8万人に1人の割合で、フェニルケトン尿症を発症するとされています。

口から摂取した蛋白質は胃でアミノ酸に分解され、腸より吸収されます。そのアミノ酸の一つであるフェニルアラニンは、体内で合成することができず、肉類を始めとして魚貝類、卵、チーズ、脱脂粉乳、大豆などの食品中に多く含まれるものを摂取して補わなければならない必須(ひっす)アミノ酸の一つでもあり、フェニルアラニン水酸化酵素の働きによって、大部分が別のアミノ酸であるチロシンに変換されます。

このフェニルアラニン水酸化酵素が生まれ付き欠けていると、フェニルアラニンが体内に過剰に蓄積し、多量のフェニルケトン体が尿中に排出されるようになります。これがフェニルケトン尿症です。

新生児にすぐに症状が出ることはほとんどありませんが、時には活気がなかったり、授乳不良がみられることがあります。一般的には、授乳を開始することにより新生児の体内にフェニルアラニンが蓄積し、生後3〜4カ月ころから症状が現れます。

フェニルアラニンの過剰蓄積によって、脳に障害が起こり、精神遅滞、知能障害、脳波異常、けいれんがみられます。血液中のフェニルアラニン濃度は、正常なら1mg/dL(ミリグラムパーデシリットル)前後なのに、20mg/dL以上になっています。

また、体臭や尿がネズミ臭くなります。汗や尿に、フェニルアラニンの代謝産物のフェニル酢酸が含まれるためです。メラニン欠乏による色白や赤毛、吐き気や嘔吐(おうと)、湿疹(しっしん)様の発疹も現れます。

ただし、新生児の集団スクリーニングで早期発見、早期治療が可能となった現在では、このような症状をみることはほとんどなくなりました。

フェニルケトン尿症の検査と診断と治療

フェニルケトン尿症は、新生児の集団スクリーニングという集団検診の対象疾患になっています。具体的なスクリーニングの流れは、まず産科医療機関で生後4~7日目の新生児のかかとからごく少量の血液をろ紙に採り、スクリーニングセンターに郵送します。センターでスクリーニング検査を行い、血液中のフェニルアラニン濃度を測ることによりフェニルケトン尿症を発見しています。

結果に異常のある場合、小児科の医師による精密検査を受け、フェニルケトン尿症と診断されると、フェニルアラニンの過剰な蓄積を改善するために、できるだけ早期にフェニルアラニン制限食を開始します。

治療には、フェニルアラニンを含まないか、含む量を減らした特殊ミルクを用います。フェニルアラニンは食事中の蛋白質に含まれているので、食事は基本的に低蛋白食になります。

フェニルアラニンは必須アミノ酸であるため、発育に必要な最小限のフェニルアラニンを母乳や普通ミルク、もしくは低蛋白食によって与えることにし、不足する栄養素を特殊ミルクで補います。

乳児期は、血液中のフェニルアラニン濃度を2〜4mg/dLになるようにコントロールします。 成長するに従い、フェニルアラニンの摂取制限の緩和も可能ですが、脳の発達が終わった後も、ある程度のフェニルアラニン制限食は生涯続けることが望ましいとされます。味のよい低フェニルアラニン食品も開発されており、バラエティに富んだ料理を作ることができるようになってきました。

血液中のフェニルアラニン濃度の管理に注意しなければならないものの、早期発見、早期治療によって精神遅滞などは防ぐことができ、健常者と同様な生活を送ることができます。

ビオプテリン代謝異常症とも呼ばれる、一部の軽症なフェニルケトン尿症では、食事療法以外にも、酵素の働きを助ける補酵素であるテトラヒドロビオプテリン(BH4)の投与で、血液中のフェニルアラニン値が低下します。その投与を併用することで、食事制限の緩和が可能であり、食事療法を中止し、その単独投与での治療も可能となっています。

しかし、テトラヒドロビオプテリンの投与の長期安全性は不明ですので、使用に際しては保護者への十分な説明と同意が求められています。

🇻🇳腹圧性尿失禁

せきをした際など腹部に急な圧迫が加わった時に、尿が一時的に漏れる状態

腹圧性尿失禁とは、せきやくしゃみ、運動時など、腹部に急な圧迫が加わった時に尿が漏れる状態。尿意とは無関係に、膀胱(ぼうこう)にたまった尿が一時的に漏れるもので、その程度はさまざまです。

尿失禁のうち、一時的な漏れではなく、一日中、常に漏れ続ける失禁は、真性尿失禁または全尿失禁と呼びます。真性尿失禁、全尿失禁の代表例として挙げられるのは、尿管開口異常などの先天性尿路奇形によって常に尿が漏れているもの、または手術などの際に尿道括約筋を完全に損傷したものです。

一時的な漏れを示す尿失禁の一つである腹圧性尿失禁は、中年以降の出産回数の多い女性に、しばしば認められます。

起こる原因は、膀胱を支え、尿道を締めている骨盤底筋群が加齢や出産、肥満などで緩んで、弱くなったためです。骨盤底筋群の緩みが進むと、子宮脱、膀胱瘤(りゅう)、直腸脱などを合併することもあります。

まれに、放射線治療やがんの手術によって、尿道を締める神経が傷付くことが原因となることもあります。

腹部に急な圧迫が加わるような動作をした時、例えばせきやくしゃみをした時、笑った時、階段や坂道を上り下りした時、重い荷物を持ち上げた時、急に立ち上がった時、走り出した時、テニスやゴルフなどの運動をした時などに、一時的に尿が漏れます。通常、睡眠中にはみられません。

この骨盤底筋の衰えによる腹圧性尿失禁と、急に強い尿意を感じてトイレに間に合わず尿を漏らしてしまう切迫(急迫)性尿失禁の両方の症状がみられる場合もあります。切迫(急迫)性尿失禁は、脳、脊髄(せきずい)など中枢神経系に障害があるものと、膀胱炎、結石などによって膀胱の刺激性が高まって起こるものとがあります。

腹圧性尿失禁は頻度が高く、比較的若い女性にもみられる状態です。症状が続き社会生活、日常生活に支障を来すようであれば、泌尿器科を受診することが勧められます。

腹圧性尿失禁の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、症状および各種検査を総合し、腹圧性尿失禁の原因を確定します。一般的には問診、尿検査、超音波検査、血液検査、パッドテスト、尿流動態(ウロダイナミクス)検査(膀胱内圧、腹圧、排尿筋圧、外尿道括約筋活動、尿流量測定、残尿測定)、尿路造影検査、内視鏡検査などを行って、腹圧性尿失禁の原因を探ります。

問診では、出産歴、手術歴、婦人科疾患の有無、便秘の有無、尿失禁の状況などを質問します。パッドテストでは、パッドをつけた状態で水分を取ってもらい、せき、くしゃみ、 手洗い、足踏みなど腹部に圧迫が加わりやすい動作を行ってもらい、1時間後のパッドの重量増加で尿失禁の程度を確認します。

泌尿器科の医師による治療では、腹圧性尿失禁の程度が軽い場合、尿道、膣(ちつ)、肛門(こうもん)を締める骨盤底筋体操が割合効果的です。肛門の周囲の筋肉を5秒間強く締め、次に緩める簡単な運動で、 仰向けの姿勢、いすに座った姿勢、 ひじ・ひざをついた姿勢、机に手をついた姿勢、 仰向けになり背筋を伸ばした姿勢という5つの姿勢で、20回ずつ繰り返します。

朝、昼、夕、就寝前の4回に分けて、根気よく毎日続けて行うのが理想的です。3カ月以上続けても効果のない場合には、手術が必要となる可能性が高くなります。

骨盤底筋の強化を目的として、電気刺激によって必要な筋肉を収縮させる電気刺激療法もあります。また、腟内コーンという器具を腟内に15分程度、1日2回ほど保持し、それを徐々に重たいものに変えていくことで骨盤底筋を強化し、腹圧性尿失禁の症状を軽減する方法もあります。

薬物による治療としては、尿道括約筋を緊張させる作用のある交感神経刺激剤や、閉経後の女性に対しては女性ホルモン剤などがあります。

重症例や希望の強い場合などには、手術による治療を行います。尿道括約筋の機能が低下している場合には、尿道の周囲にコラーゲンを注入する治療や、尿道括約筋を圧迫するように腹部の組織や人工線維で尿道を支えるスリング手術、日本ではあまり行われていない人工括約筋埋め込み術などがあります。

2022/08/18

🇹🇲左腎静脈捕捉症候群

左側の腎臓の静脈が動脈に圧迫されることが原因となって、目で見て赤い尿が出る疾患

左腎静脈捕捉(ひだりじんじょうみゃくほそく)症候群とは、左側の腎臓からの出血のために、目で見て明らかに赤い尿が出る疾患。ナットクラッカー症候群、ナッツクラッカー症候群、くるみ割り症候群、腎臓くるみ割り症候群、左翼腎静脈わな症候群などとも呼ばれます。

まれな疾患で、その多くは小児期から思春期前後に発症します。成人では、やせた人によくみられるともいわれています。

右側の腎臓の静脈は下大静脈にすぐに合流しますが、左側の腎臓の静脈は下大静脈に合流する途中で、上腸間膜動脈と腹部大動脈の間を通り、くるみ割りの器具(ナットクラッカー)に挟まったような状態になっています。この静脈が2つの動脈に挟まった部位で、動脈圧が高く静脈圧が低いために静脈が押しつぶされると、静脈内圧が上がって静脈の血液の流れが悪くなるために、左側の腎臓の毛細血管がうっ血や出血を来し、排尿時に赤い尿が出ます。

身体的には無症状で、目で見て赤い肉眼的血尿のみが認められる場合が多く、一定の時を置いて起こる間欠的な血尿が認められます。血尿は、ピンク色から鮮紅色で、コーラのように色の濃いこともあります。

尿の中に混ざる赤血球の程度によって、多ければ目で見て明らかに赤い肉眼的血尿となり、少なければ見た目は正常な尿の色でも赤血球が混ざっている、いわゆる尿潜血、または顕微鏡的血尿の状態になります。左腎静脈捕捉症候群でも、検診などによって尿潜血を認めることによって発見されるケースが多くみられます。

症状が重いケースでは、血尿のほかに、片腹部痛、腰痛、貧血、精巣静脈瘤(りゅう)、卵巣静脈瘤、起立性蛋白(たんぱく)尿がみられることもあります。精巣静脈瘤、卵巣静脈瘤があると、不妊の原因になることもあります。

こうした一部のケースを除き、左腎静脈捕捉症候群の予後は良好で、多くは時間の経過とともに、他の静脈への側副血行路といわれる血液の別ルートが発達しますので、自然に治ることがほとんどです。

左腎静脈捕捉症候群の検査と診断と治療

泌尿器科、腎臓内科の医師による診断では、出血の部位が左側の腎臓であることを膀胱(ぼうこう)鏡で確認後、造影剤を静脈注射して撮影する造影CT(コンピューター断層撮影)検査、腹部超音波(エコー)検査などを行います。

腹部超音波検査の際には、左側の腎臓静脈、卵巣静脈、副腎をよく観察し、それぞれの拡張や、腎臓静脈の周囲の循環系による圧迫、狭窄(きょうさく)がないかどうかに注意します。超音波検査法の一種である超音波ドップラー法という検査を行い、腎臓静脈を観察し、狭窄部位から下大静脈への血流速度の計測をすることもあります。

泌尿器科、腎臓内科の医師による治療は、基本的には不要で、側副血行路が発達し自然に治ることが多いものの、薬物療法として、抗プラスミン薬などの止血薬を使用して、血尿を止めます。

貧血が進行するほどの肉眼的血尿が持続する場合には、尿管カテーテルを用いて、1~3パーセントの硝酸銀を腎盂(じんう)内へ注入して、出血している静脈を凝固させる治療を行うこともあります。

それでもうまく出血のコントロールができない場合には、左側の腎臓静脈の狭窄部位に、血管の中で拡張して適切な太さに保つステントと呼ばれる機器を挿入する手術を行うこともあります。あるいは、左側の腎臓静脈が下大静脈に合流する部位を切り離し、上腸間膜動脈と腹部大動脈の間の距離が広い下側につなぎ直す、左腎静脈転位術という手術を行うこともあります。

🇵🇱排尿困難

円滑な尿排出が障害され、排尿開始まで時間がかかったり、排尿終了に時間がかかったりする状態

排尿困難とは、円滑な尿の排出が障害され、尿が出にくい状態。尿意があるのにトイレにいってもなかなか尿が出ず、排尿開始まで時間がかかり、あるいは尿の出が悪くて排尿終了まで時間がかかるといった状態です。

力まないと尿が出なかったり、排尿が終わるのに50秒以上かかったり、排尿が途中で止まったり、排尿しても膀胱(ぼうこう)が完全に空にならず、尿がいつも残っている残尿感を覚えることもあります。

この排尿困難は、前立腺(せん)肥大症、尿道狭窄(きょうさく)、神経因性膀胱、前立腺炎、前立腺がん、膀胱結石、尿道結石、加齢による膀胱の収縮性機能の低下、膀胱平滑筋の筋肉量の減少、疾患やけがなどによる脳や脊髄(せきずい)神経の損傷、糖尿病性の神経障害、自律神経の機能低下、排尿括約筋協調不全、薬剤の副作用など、さまざまな原因で起こります。

高齢の男性では、前立腺肥大症や、膀胱を支配している神経に異常がある神経因性膀胱で、排尿困難が起こりやすくなります。何らかの原因で尿道が狭くなっている尿道狭窄、あるいは膀胱や尿道に結石が存在することでも、排尿困難が起こります。

高齢の女性では、過去に子宮がん、直腸がんなどでの骨盤内の手術などを受け、膀胱を支配する神経が損傷されたために起こる神経因性膀胱で、排尿困難が起こりやすくなります。膀胱が弛緩(しかん)し、排尿筋の収縮が不十分になるため尿の排出が悪くなり、排尿後でも膀胱内に残尿が多く、しばしば膀胱炎を繰り返す状態になります。まれに、子宮筋腫(きんしゅ)による膀胱の出口の圧迫、尿道狭窄、膀胱結石が原因になって、排尿困難が起こることもあります。

とりわけ男性の場合は、中年以降に前立腺肥大症や前立腺がんが原因となって、排尿困難を起こしていることが多いので注意が必要です。前立腺は精液の一部を作る器官のことですが、この前立腺は年齢により少しずつ肥大していきます。30歳代から肥大が始まり、40歳代で4割、50歳代で5割、60歳代で6割、70歳代で10割の割合で増えるといわれています。

前立腺が肥大することで膀胱を圧迫し、排尿困難などの障害を引き起こし、尿を出すまでに時間がかかる、排尿に時間がかかる、尿の勢いが悪い、尿が途切れる、残尿感がある、何回もトイレにゆくなどの症状が現れます。

排尿困難が進行すると、尿閉といって、膀胱に尿がたまっているにもかかわらず一滴も尿が出なくなる場合もあります。激しい尿意とともに膀胱が張ってくると、非常な苦しみが生じます。前立腺肥大症を持つ人は、飲酒中に突然尿閉になることもあります。

尿閉になると、膀胱にたまった尿の中で細菌が増殖して膀胱炎になったり、腎臓(じんぞう)に尿がたまって水腎症や腎不全を合併する恐れがあります。

薬剤の服用で排尿困難を引き起こす場合もありますので、特に前立腺肥大症のある人は服用には注意が必要です。排尿困難を引き起こす薬剤には、総合感冒薬、抗ヒスタミン剤、鎮痙(ちんけい)剤、精神安定剤、抗不整脈剤などがあります。

尿が多少出にくい程度であれば、水分を多めに取るよう心掛ければ症状は改善しますが、疲れやすくなった、むくみがある、血尿が出るなどの症状がある時は、早めに泌尿器科の医師の診察を受けて下さい。

排尿困難の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、問診、直腸診、尿検査、超音波検査、血液検査、尿流動態(ウロダイナミクス)検査(膀胱内圧、腹圧、排尿筋圧、外尿道括約筋活動、尿流量測定)、尿路造影検査、内視鏡検査などを行って、排尿困難の原因を探ります。

泌尿器科の医師による治療は、排尿困難の原因になる疾患の種類によって異なり、基礎疾患があればその治療が第一です。

前立腺肥大症が排尿困難の原因の場合は、症状が軽い場合は薬物療法から始め、症状がひどい場合や合併症を引き起こしている場合は手術療法が行われます。

前立腺肥大症の薬物療法は、近年では薬の開発もかなり進んでおり、効果があることが確認されています。治療に使用される薬には、α1受容遮断薬(α1ブロッカー)、抗男性ホルモン薬(抗アンドロゲン剤)、生薬・漢方薬の3種類があります。

α1受容遮断薬は、交感神経の指令を届けにくくし、筋肉の収縮を抑えて尿道を開き排尿をしやすくする薬で、ミニプレスが代表です。副作用としては、起立性低血圧、めまい、下痢、脱力感、鼻詰まりなどの症状が伴います。

抗男性ホルモン薬は、男性ホルモンの働きを抑制する薬で、プロスタール、パーセリンなどが一般的です。その効果は服用してから3カ月程かかり、前立腺を20~30パーセントぐらい縮小させることができます。副作用としては、性欲が減退することがあります。

生薬・漢方薬は、植物の有効成分のエキスを抽出したもので、むくみを取ったり、抗炎症作用などの効果があります。副作用はほとんどありませんが、まれに食欲不振、胃腸障害が伴う場合があります。

前立腺肥大症の手術療法には、経尿道的前立腺切除術(TURP)、レーザー治療、温熱療法などがあります。

経尿道的前立腺切除術は、先端に電気メスを装着した内視鏡を尿道から挿入し、患部をみながら肥大した前立腺を尿道内から削り取ります。手術で前立腺の傷口を洗い流す灌流(かんりゅう)液が体内に入って、電解質のバランスを崩し、吐き気や血圧の低下などを起こすTURP反応と呼ばれる副作用が起こることがあります。

レーザー治療は、尿道に内視鏡を挿入し、内視鏡からレーザー光線を照射します。そして、肥大結節を焼いて壊死を起こさせ、縮小させます。組織を焼いてしまうため、がんの有無を調べられません。また、組織が壊死し脱落が起こるまで、症状の改善はみられません。

温熱療法は、尿道や直腸からカテーテルを入れ、RF波やマイクロ波を前立腺に当てて加熱し、肥大を小さくして尿道を開かせます。根治的な治療ではないため、半年から1年で症状はもとに戻ってしまいます。

神経因性膀胱が排尿困難の原因の場合は、基礎疾患に対する治療が可能ならばまずそれを行いますが、神経の疾患はなかなか治療の難しいことが多く、薬物療法、排尿誘発、自己導尿法などで排尿効率を高めることになります。

薬物療法は、膀胱の収縮力を高める目的で、副交感神経刺激用薬のウブレチド、ベサコリンのいずれかまたは両方を処方します。尿道括約部を緩める目的で、α1受容遮断薬(α1ブロッカー)のエブランチルを処方することもあります。

排尿誘発は、手や腹圧による膀胱訓練で、恥骨上部を押したり、下腹部の最も適当な部位をたたいたりすると膀胱の収縮反射を誘発できることがあります。

自己導尿法は、尿が出にくく残尿が多い場合に、1日に1〜2回、清潔なカテーテルを自分で膀胱内に挿入し、尿を排出させるものです。

このような治療だけでは不十分な場合、神経ブロックや手術などの方法もあります。

🇵🇱排尿痛

尿路の炎症や結石、腫瘍が原因となって、排尿の際に痛みを感じる状態

排尿痛とは、排尿の際に痛みを感じる状態。腎臓(じんぞう)、膀胱(ぼうこう)、尿道などの尿路の細菌感染による炎症、結石、腫瘍(しゅよう)が主な原因となります。

排尿の際のどの段階で痛みを感じるかによって、初期排尿痛、終末時排尿痛、全排尿痛に分けられます。

初期排尿痛は、尿の出始めに痛みを感じるもので、尿道炎の際に多く認められます。前立腺(ぜんりつせん)炎、淋菌(りんきん)感染症、性器クラミジア感染症などの疾患も疑われます。

終末時排尿痛は、排尿が終わる間際から終了後にかけて痛みを感じるもので、急性膀胱炎や前立腺炎、腎盂腎炎(じんうじんえん)、尿道結石などの疾患が考えられます。

全排尿痛は、尿の出始めから終わりまで持続する痛みを感じるもので、尿道狭窄(きょうさく)や尿道結石などのために排尿が障害され、尿道内圧が上昇することに起因することが多い症状です。膀胱炎が再発して慢性化していたり、腎盂腎炎などの疾患の際にもみられます。

痛みの性質により、焼け付くような痛みや、刺すような痛み、鈍く重苦しい鈍痛、ずきずき痛む疼痛(とうつう)などに分けられますが、痛みの感じ方は個人差がかなり大きく、男女の性差、年齢、基礎疾患の有無などによっても大きく異なります。また、痛みがごく軽い場合には、排尿時または排尿後の不快感として感じる場合もあります。

排尿痛を引き起こす尿道炎は、約20センチと長い尿道を持つ男性に多くみられる疾患です。原因のほとんどは、性行為による淋菌やクラミジア菌などの感染で、尿道に急性の炎症を起こします。淋菌の感染では、尿の出始めに焼け付くような強い痛みとともに、黄色いうみが混じります。クラミジア菌の感染では、尿の出始めの軽い痛みや染みる感じとともに、淡黄色や白色のうみが少量排出され、尿が濁ります。尿道炎を放置しておくと、全く排尿できなくなる尿道狭窄の原因にもなります。

前立腺炎は、20〜30歳代の若年層の男性に多い疾患です。主な原因は、尿道から侵入した大腸菌やブドウ球菌の感染で、男性の尿道後部を囲む前立腺に炎症を起こします。初期には尿の出始めに軽い痛みを感じ、それとともに頻尿や残尿感などが現れます。進行して炎症が強くなると排尿時の痛みが増し、前立腺肥大症に移行することもあります。

淋菌感染症は、淋菌による性感染症です。男性の場合、尿道が感染することで尿の出始めに焼け付くような強い痛みとともに、うみが尿に混じります。女性は顕著な症状が現れることが少なく、感染から数日後に外陰部のかゆみや下り物の増加が起こる程度なので、感染に気付かず慢性化することがあります。見過ごすと炎症が尿道や膀胱に広がり、排尿時に痛みを感じるようになります。また、妊婦が感染すると、新生児の結膜炎を招き、最悪は失明の危険もあります。

性器クラミジア感染症は、クラミジア菌による性感染症です。男性が感染すると、尿の出始めの軽い痛みや染みる感じとともに、淡黄色や白色のうみが少量尿に混じります。女性の場合、下り物が多少増える程度の軽い症状のため、感染に気が付かない場合も多くあります。進行すると不妊の原因となったり、妊婦の場合は胎児が産道の通過で感染し、重篤な肺炎や結膜炎を起こすこともあるので、注意が必要です。

急性膀胱炎は、膀胱内に細菌が侵入して急性の炎症を起こす疾患です。膀胱炎になるとトイレが近くなり、排尿が終わるころに痛みを感じたり、尿の濁りや血尿などの症状が現れます。圧倒的に尿道が約4センチと短い女性に多く、再発しやすくて慢性化すると尿がたまるだけで痛みが生じたり、排尿の間中ずっと痛みを感じるようになります。性交渉による感染が原因になることもあります。

腎盂腎炎は、腎臓からの尿が集まる腎盂や、腎臓そのもの(腎実質)が細菌に感染して起こる疾患です。排尿が終わるころや、排尿の間ずっと痛みを感じるようになり、尿中の白血球が増えるために尿の濁りが生じます。また、悪寒を伴う高熱、血尿、背中から腰にかけての響くような痛みや吐き気、嘔吐などが現れます。主な原因は下半身の冷えによるもので、この悩みを抱える女性に多くみられる疾患です。

尿道結石は、腎臓や膀胱でシュウ酸や尿酸などの塩類が石のように固まって作られた結石が、尿の最終的な通路である尿道の途中にとどまる疾患です。尿の流れに乗って移動した結石が尿の通り道を傷付けるために、尿が出終わるころに刺すような強い痛みを感じます。時には、突然の激痛や冷や汗、吐き気、嘔吐(おうと)を伴うこともあります。排尿に時間がかかるとともに残尿感があり、トイレに行く回数も増え尿が濁ることもあります。

尿道狭窄は、尿道の内側が狭くなるために尿が出にくくなる疾患です。かつては淋病や結核菌による慢性的な炎症が原因になるケースが多くみられましたが、近年は手術や検査などで尿道にカテーテルや内視鏡を挿入することで、尿道を傷付けてしまうために起こるケースも多くみられます。排尿の間、ずっと痛みを感じるようになり、尿が細くなります。さらに進行すると、全く排尿できなくなることもあります。

なお、生理痛と関連して周期的に排尿痛、排尿違和感を感じる女性の場合、子宮内膜症などの婦人科疾患が関係していることもあります。また、更年期症状の一部として、頻尿や尿漏れなどの排尿症状の中に排尿痛を感じることもあります。

排尿時の痛みが強い時や長期間続く時には、泌尿器科で診察を受けましょう。性感染症の疑いがある時は、泌尿器科または婦人科を受診しましょう。万が一性的パートナーが感染していた時は、自覚症状がなくても感染している可能性がありますので、必ず自分も診察を受けましょう。

排尿痛の検査と診断と治療

泌尿器科、ないし婦人科の医師による診断では、症状および各種検査を総合し、排尿痛の原因を確定します。一般的には問診、尿検査、超音波検査、血液検査、尿流動態(ウロダイナミクス)検査(膀胱内圧、腹圧、排尿筋圧、外尿道括約筋活動、尿流量測定)、尿路造影検査、内視鏡検査などを行って、排尿痛の原因を探ります。

泌尿器科の医師による治療は、排尿痛の原因になる疾患の種類によって異なり、基礎疾患があればその治療が第一です。

細菌性の尿道炎の治療では、抗生物質が有効ですが、短期間で治らず、しばしば慢性化します。慢性化しても、それほど強い症状は続きません。強い症状はなくても、ぐずぐずして治りにくいのが、慢性尿道炎の特徴です。

強い痛みや不快症状がある急性(細菌性)前立腺炎は、入院して鎮痛剤で痛みや不快症状を抑え、同時に感染菌に効く強力な抗生物質による治療を行います。前立腺は薬物移行が悪いため、治療効果が得られるまでに時間がかかることも多く、敗血症に移行することもあるので注意が必要です。また、再発を繰り返すと慢性化してしまうので、医師の指示通り、服薬や治療を継続しなければなりません。

 逆に、慢性前立腺炎は大事に至ることはありません。慢性(細菌性)前立腺炎では、抗菌剤を4~12週間程度服用します。また、前立腺のマッサージで、分泌腺内にたまっている膿性分泌物を排出させます。

慢性(非細菌性)前立腺炎でも、細菌感染の可能性もある場合には、抗菌剤を4〜8週間程度服用します。細菌の可能性がない場合や、前立腺痛では、筋弛緩(しかん)剤、温座浴などの温熱治療、漢方薬が用いられます。さらに、精神科医との連携も必要な場合があります。

淋菌感染症の治療では、抗生物質(抗生剤)のスペクチノマイシンの筋肉注射、セフォジジムの静脈注射、セフトリアキソンの静脈注射などを症状に応じて実施します。1日から7日間の抗生物質の注射を行い、3日以上たってから淋菌がいないか再検査を行います。

性器クラミジア感染症の治療では、キノロン系、テトラサイクリン系の抗生物質が非常に有効です。通常は、7~14日間服用します。また、性的パートナーへの治療も大切です。

急性膀胱炎の治療では、原因菌に有効な抗生物質、抗菌剤が投与されます。一般に女性では、合併症が起こっていなければ、2~3日で症状は軽快します。感染が長引く際には、抗生物質を7~10日間服用します。男性では投与期間が短いと再発を繰り返すため、一般に抗生物質を10~14日間服用します。

男女とも、水分の摂取を多くして尿量を増やし、細菌を洗い流すほか、尿の刺激性を低下させて症状を和らげます。症状の強い際は、十分な休息、睡眠を確保するようにします。

慢性膀胱炎の場合には、症状は比較的軽く、ほとんど自覚しないこともあります。尿検査で偶然に発見されることが、普通です。膀胱に腫瘍、結石があったり、結核、前立腺、腎臓の病気などが膀胱炎の陰に隠れている際に、慢性化しやすいものです。

慢性膀胱炎の治療では、抗生物質や抗菌剤が2~4週間、使用されます。原因疾患がある際には、そちらを治療しない限り、完治しません。特に原因疾患もなく、症状のほとんどない際は、経過観察となることもあります。

腎盂腎炎の治療では、感染している細菌に有効な抗生物質、抗菌剤を投与します。若い女性によくみられる急性の腎盂腎炎では、治療薬の進歩により、特殊なケースを除いては速やかに改善します。慢性の腎盂腎炎は、10〜20年といった長い期間をかけて、腎臓機能が悪くなる場合もあり、完全に治癒させるためには長期間、抗生物質やサルファ剤を投与します。生活上の注意として、症状が著しい急性期には、水分を多量にとって、尿量を多くすることが大切になります。

尿道狭窄の治療では、内視鏡を用いて、狭いところを切開する場合が多いのですが、切開手術を要することもあります。いずれにしても、処置後も比較的長期間、ある程度の拡張処置を外来で続ける必要があります。

尿道結石の治療では、痛みや繰り返す膀胱炎、腎盂腎炎などの症状がなければ、尿とともに自然に出てくるまで経過観察で様子をみることもあります。症状がある場合や大きな結石の場合は、結石に超音波などの物理的エネルギーを加え、そのエネルギーで結石を粉砕し、体外に出す破砕療法や、手術によって除去します。

🇵🇬バソプレシン感受性尿崩症

バソプレシンの分泌低下により、体内の水分が過剰に尿として排出される疾患

バソプレシン感受性尿崩症とは、体内の水分が過剰に尿として排出される疾患。中枢性尿崩症、下垂体性尿崩症とも呼ばれます。

利尿を妨げる働きをするバソプレシン(抗利尿ホルモン)の分泌量の低下で、体内への水分の再吸収が低下するために、多尿を呈します。バソプレシン(抗利尿ホルモン)は大脳の下部に位置する視床下部で合成され、神経連絡路を通って下垂体(脳下垂体)後葉に運ばれて貯蔵され、血液中に放出されます。このバソプレシン(抗利尿ホルモン)の分泌低下による尿崩症が、バソプレシン感受性尿崩症です。

一方、バソプレシン(抗利尿ホルモン)の分泌は正常でも、その腎(じん)尿細管における作用障害に由来して、腎臓が反応しなくなる尿崩症は、腎性尿崩症です。

バソプレシン感受性尿崩症のうち、バソプレシン(抗利尿ホルモン)を産生する視床下部や下垂体後葉の機能が腫瘍(しゅよう)や炎症、外傷などで障害されたものが続発性尿崩症、このような原因のはっきりしないものを特発性尿崩症といいます。また、遺伝子異常が報告されている家族性尿崩症もあります。

続発性尿崩症の病因では、頭蓋咽頭(ずがいいんとう)腫などの腫瘍が多くみられます。下垂体後葉などに非特異性慢性炎症がみられる下垂体後葉炎が病因となっているものもあります。

症状はいずれの年代でも、徐々にあるいは突然、発症します。発症すると、脱水状態になるため、のどが渇いて過剰に飲水するといった症状が現れ、多尿を呈します。1日に排出される尿量は3~15リットルと、通常の2倍~10倍にもなります。ひどい時には、1日30リットル〜40リットルになることもあります。

薄い尿の大量排出は、特に夜間に著しくなります。水をたくさん飲むために、食べ物があまり取れず、体重は減少します。

続発性尿崩症では、口渇、多飲、多尿に加えて、原因となる疾患の症状を示します。腫瘍が原因の場合、腫瘍が拡大すれば頭痛、視野障害、視床下部・下垂体前葉機能低下症状などを示します。

下垂体前葉機能低下の程度が強く、高度の副腎皮質刺激ホルモンの分泌不全を伴うと、尿量は減少し、尿崩症の症状ははっきりしなくなります。この場合、副腎皮質ホルモンを補充すると多尿がはっきりしてきます。

一般に、口渇中枢は正常であるため、多尿に見合った飲水をしていれば脱水状態になることはありませんが、続発性尿崩症で口渇中枢も障害されている場合は、重症の脱水を来すことがあります。

1日3リットル以上の著しい多尿や口渇、多飲などの症状がみられた際には、糖尿病や腎疾患、心因性多飲症とともに尿崩症である可能性があります。内科か内分泌科、頭部外傷や脳手術の既往歴がある人は脳外科か脳神経外科の専門医と相談して下さい。

バソプレシン感受性尿崩症の検査と診断と治療

内科、内分泌科、脳外科、脳神経外科の医師による診断では、まず多飲、多尿を示す糖尿病、腎疾患を除外する必要があります。これらが除外された後、心因性多飲症などとの鑑別が必要になります。

心因性多飲症は、精神的原因で強迫的または習慣的に多飲してしまう疾患です。血漿(けっしょう)浸透圧と血中のバソプレシン(抗利尿ホルモン)を測定して、鑑別診断に用います。鑑別が難しい場合、水制限試験を行います。水分摂取の制限を行っても、バソプレシン感受性尿崩症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えることはありませんが、心因性多飲症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えて濃縮がみられます。

バソプレシン感受性尿崩症では、下垂体後葉にバソプレシン(抗利尿ホルモン)の枯渇を反映する変化がみられます。また、続発性尿崩症の原因となる脳腫瘍などの疾患の検索にも有用です。

バソプレシン感受性尿崩症と腎性尿崩症の区別は、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤の投与によって、尿が濃縮されるかどうかで調べます。尿が濃縮されるのがバソプレシン感受性であり、反応しないのが腎性です。

内科、内分泌科、脳外科、脳神経外科の医師による治療では、バソプレシン感受性尿崩症には補充療法として、バソプレシン剤や、デスモプレシン剤を点鼻液、あるいはスプレーとして用います。1日2〜3回使用すると尿が濃縮され、尿量は普通並みに減少します。そのほか、注射製剤も使用できます。

意識がなくなったり、胃腸障害で水が飲めなくなった時には、速やかに点滴静脈注射をして水分を補給します。腫瘍が原因で続発性尿崩症が起こった時には、手術をして腫瘍を取り除きます。

2022/08/17

🇳🇷中枢性尿崩症

抗利尿ホルモンの分泌低下により、体内の水分が過剰に尿として排出される疾患

中枢性尿崩症とは、体内の水分が過剰に尿として排出される疾患。バソプレシン感受性尿崩症とも呼ばれます。

抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌量の低下で、体内への水分の再吸収が低下するために、多尿を呈します。抗利尿ホルモンは大脳の下部に位置する視床下部で合成され、神経連絡路を通って脳下垂体後葉に運ばれて貯蔵され、血液中に放出されます。この抗利尿ホルモンの分泌低下による尿崩症が、中枢性尿崩症です。

一方、抗利尿ホルモンの腎尿細管における作用障害に由来し、抗利尿ホルモンに腎臓が反応しなくなる尿崩症は、腎性(じんせい)尿崩症です。

中枢性尿崩症のうち、抗利尿ホルモンを産生する視床下部や脳下垂体後葉の機能が腫瘍(しゅよう)や炎症、外傷などで障害されたものが続発性尿崩症、このような原因のはっきりしないものを特発性尿崩症といいます。また、遺伝子異常が報告されている家族性尿崩症もあります。

続発性尿崩症の病因では、頭蓋咽頭(ずがいいんとう)腫などの腫瘍が多くみられます。下垂体後葉などに非特異性慢性炎症がみられる下垂体後葉炎が病因となっているものもあります。

症状はいずれの年代でも、徐々にあるいは突然、発症します。発症すると、脱水状態になるため、のどが渇いて過剰に飲水するといった症状が現れ、多尿を呈します。1日に排出される尿量は3~15リットルと、通常の2倍~10倍にもなります。ひどい時には、1日30リットル〜40リットルになることもあります。

薄い尿の大量排出は、特に夜間に著しくなります。水をたくさん飲むために、食べ物があまり取れず、体重は減少します。

続発性尿崩症では、口渇、多飲、多尿に加えて、原因となる疾患の症状を示します。腫瘍が原因の場合、腫瘍が拡大すれば頭痛、視野障害、視床下部・脳下垂体前葉機能低下症状などを示します。

脳下垂体前葉機能低下の程度が強く、高度の副腎皮質刺激ホルモンの分泌不全を伴うと、尿量は減少し、尿崩症の症状ははっきりしなくなります。この場合、副腎皮質ホルモンを補充すると多尿がはっきりしてきます。

一般に、口渇中枢は正常であるため、多尿に見合った飲水をしていれば脱水状態になることはありませんが、続発性尿崩症で口渇中枢も障害されている場合は重症の脱水を来すことがあります。

1日3リットル以上の著しい多尿や口渇、多飲などの症状がみられた際には、糖尿病や腎疾患、心因性多飲症とともに尿崩症である可能性があります。内科か内分泌科、頭部外傷や脳手術の既往歴がある人は脳外科か脳神経外科の専門医と相談して下さい。

中枢性尿崩症の検査と診断と治療

内科、内分泌科、脳外科、脳神経外科の医師による診断では、まず多飲、多尿を示す糖尿病、腎疾患を除外する必要があります。これらが除外された後、心因性多飲症などとの鑑別が必要になります。

心因性多飲症は、精神的原因で強迫的に多飲してしまう疾患です。血漿(けっしょう)浸透圧と血中の抗利尿ホルモンを測定して、鑑別診断に用います。鑑別が難しい場合、水制限試験を行います。水分摂取の制限を行っても、中枢性尿崩症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えることはありませんが、心因性多飲症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えて濃縮がみられます。

中枢性尿崩症では、下垂体後葉に抗利尿ホルモンの枯渇を反映する変化がみられます。また、続発性尿崩症の原因となる脳腫瘍などの疾患の検索にも有用です。

中枢性尿崩症と腎性尿崩症の区別は、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤の投与によって、尿が濃縮されるかで調べます。尿が濃縮されるのが中枢性であり、反応しないのが腎性です。

内科、内分泌科、脳外科、脳神経外科の医師による治療では、中枢性尿崩症には補充療法として、バソプレシン剤や、デスモプレシン剤を点鼻液、あるいはスプレーとして用います。1日2〜3回使用すると尿が濃縮され、尿量は普通並みに減少します。そのほか、注射製剤も使用できます。

意識がなくなったり、胃腸障害で水が飲めなくなった時には、速やかに点滴静脈注射をして水分を補給します。腫瘍が原因で続発性尿崩症が起こった時には、手術をして腫瘍を取り除きます。

🇱🇰多尿

1日の排尿量が3リットル以上と、多量にある状態

多尿とは、1日の排尿量が3リットル以上と、多量にある状態。1日の排尿量が多量になくても、日中または夜間に頻回な排尿を必要とする頻尿とは、少し異なります。

多尿は、単に水分の摂取量が多くて尿が多量に出るケースと、多尿を来す疾患があって尿が多量に出るケースとに分けられます。また、排尿中に水分そのものが多い水利尿と、排尿中に溶質が多い浸透圧利尿(溶質利尿)とに大きく分けられます。

尿を作る人間の腎臓(じんぞう)は非常に精密にできており、水分の摂取量によって排尿の量を変化させ、体の中の水分の量を一定にしています。従って、水分を大量に摂取すれば排尿の量も増えることになります。通常、1日の排尿量は1〜2リットルであり、昼間に排尿をする回数は7回程度ですが、水分をたくさん摂取して2リットル以上の尿を出す正常な人もいて、昼間に排尿をする回数も増えます。

多尿を来す代表的な疾患は、糖尿病、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、急性腎不全、慢性腎不全、慢性腎盂(じんう)腎炎です。また、水利尿を来す代表的疾患が中枢性尿崩症、腎性尿崩症で、浸透圧利尿を来す代表的疾患が糖尿病です。

異常にのどが渇くために水分を大量に摂取し、その結果として多尿となるのは、糖尿病の症状です。糖尿病では、血液中の糖分が増加して尿に漏れ出し、尿の浸透圧が上昇して尿の量が増えます。また、糖分が尿に漏れ出すと腎臓で尿を濃くする尿濃縮力が悪くなるのも、尿の量が増える原因となります。この場合には、糖分が含まれた濃く、比重の高い尿が多量に出ます。

腎臓で尿濃縮を行って、排尿量を適量に抑えているホルモンは抗利尿ホルモンと呼ばれ、大脳の下部に位置する視床下部で合成され、神経連絡路を通って脳下垂体後葉に運ばれて貯蔵され、血液中に放出されます。抗利尿ホルモンが分泌されると尿は濃くなり排尿量は減少しますが、逆に抗利尿ホルモンが分泌されないと尿は薄くなり排尿量は増加します。従って、脳下垂体が外傷、腫瘍(しゅよう)、脳出血、脳炎などによって障害を受けると、抗利尿ホルモンが分泌されずに、多尿になります。これを中枢性尿崩症(下垂体性尿崩症)といいます。

次に、この抗利尿ホルモンが正常に分泌されても、作用部位である腎臓の尿細管の障害があると抗利尿ホルモンに反応しないため、老廃物や塩類を排出するために排尿量を多くする必要が出てきます。この時も、のどが渇くために水分を大量に摂取し、その結果として多尿になります。この場合には、薄く、比重の低い尿が多量に出ます。これを腎性尿崩症といいます。

この腎性尿崩症には、遺伝によるものと、他の疾患などから尿細管の障害が引き起こされた続発性の2つがあります。

続発性腎性尿崩症の原因としては、慢性腎不全、慢性腎盂(じんう)腎炎、間質性腎炎、閉塞(へいそく)性尿路疾患などの腎疾患、シェーグレン症候群、多発性骨髄腫、高カルシウム血症、リチウムやデメクロサイクリンなどの薬剤の副作用があります。

尿崩症の症状はいずれの年代でも、徐々にあるいは突然、発症します。発症すると、脱水状態になるため、のどが渇いて過剰に水分を摂取するといった症状が現れ、多尿になります。1日に排出される尿量は3~15リットルにもなります。ひどい時には、1日30リットル〜40リットルになることもあります。薄い尿の大量排出は、特に夜間に著しくなります。水をたくさん飲むために、食べ物があまり取れず、体重は減少します。

続発性尿崩症では、口渇、多飲、多尿に加えて、原因となる疾患の症状を示します。腫瘍が原因の場合、腫瘍が拡大すれば頭痛、視野障害、視床下部・脳下垂体前葉機能低下症状などを示します。脳下垂体前葉機能低下の程度が強く、高度の副腎皮質刺激ホルモンの分泌不全を伴うと尿量は減少し、尿崩症の症状ははっきりしなくなります。この場合、副腎皮質ホルモンを補充すると多尿がはっきりしてきます。

一般に、口渇中枢は正常であるため、多尿に見合った飲水をしていれば脱水状態になることはありませんが、続発性尿崩症で口渇中枢も障害されている場合は重症の脱水を来すことがあります。

水分の多飲による多尿は、精神的な障害でも起こります。精神的原因で強迫的に多飲する心因性多飲症や、脳腫瘍などで起こる症候性多飲症に分けられます。心因性多飲症は、更年期障害で起こる症状の1つとして中年女性に多くみられます。症候性多飲症は、脳下垂体の障害で起こる抗利尿ホルモン分泌低下とは異なり、脳での飲水中枢障害によるものです。

1日3リットル以上の著しい多尿や口渇、多飲などの症状がみられた際には、糖尿病や腎疾患、心因性多飲症とともに尿崩症である可能性があります。泌尿器科、腎臓内科、内分泌内科、頭部外傷や脳手術の既往歴がある人は脳外科か脳神経外科の専門医と相談して下さい。

多尿の検査と診断と治療

泌尿器科、腎臓内科、内分泌内科の医師による診断では、多尿を来す疾患が中枢性尿崩症か腎性尿崩症と見なした場合には、まず多飲、多尿を示す糖尿病、腎疾患を除外する必要があります。これらが除外された後、心因性多飲症などとの鑑別が必要になります。

血漿(けっしょう)浸透圧と血中の抗利尿ホルモンを測定して、鑑別診断に用います。鑑別が難しい場合、水制限試験を行います。水分摂取の制限を行っても、中枢性尿崩症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えることはありませんが、心因性多飲症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えて濃縮がみられます。腎性尿崩症では、抗利尿ホルモンは高値になります。

中枢性尿崩症では、下垂体後葉に抗利尿ホルモンの枯渇を反映する変化がみられます。また、続発性尿崩症の原因となる脳腫瘍などの疾患の検索にも有用です。

中枢性尿崩症と腎性尿崩症の区別は、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤の投与によって、尿が濃縮されるかで調べます。尿が濃縮されるのが中枢性であり、反応しないのが腎性です。

泌尿器科、腎臓内科、内分泌内科の医師による治療では、中枢性尿崩症には補充療法としてバソプレシン剤や、デスモプレシン剤を点鼻液、あるいはスプレーとして用います。1日2〜3回使用すると、尿量は普通並みに減少します。その他、注射製剤も使用できます。

意識がなくなったり、胃腸障害で水が飲めなくなった時には、速やかに点滴静脈注射をして水分を補給します。腫瘍が原因で続発性尿崩症が起こった時には、手術をして腫瘍を取り除きます。

腎性尿崩症には、有効な薬剤は今のところありません。多くの場合、バソプレシン剤や、デスモプレシン剤を用いた治療を行います。 尿量を減らす目的で、抗利尿ホルモンの産生を刺激するサイアザイド系利尿薬を使用することもあります。

なお、糖尿病で異常にのどが渇くために水分を大量に摂取し、その結果として多尿となる人が水分補給に関して注意しておくべきは、のどが渇いても糖分が多い飲み物をなるべく飲まないということです。乳飲料、果実系飲料、炭酸飲料などの糖分が多い飲み物は血液中の糖分濃度を上げるので、再びのどが渇くという悪循環を繰り返すようになりますので、水や白湯(さゆ)、あるいはお茶などを飲むようにしましょう。

🇲🇺先天性腎性尿崩症

先天的な原因により、抗利尿ホルモンに腎臓が反応しないために多尿を示す疾患

先天性腎性(じんせい)尿崩症とは、先天的な遺伝が原因で、抗利尿ホルモン(バソプレシン)に腎臓が反応しなくなることで、薄い尿が大量に排出される疾患。遺伝性腎性尿崩症とも呼ばれます。

利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンは、大脳の下部に位置する視床下部で合成され、神経連絡路を通って下垂体(脳下垂体)後葉に運ばれて貯蔵された後、血液中に放出されて腎臓に作用し尿の量を調節します。先天性腎性尿崩症では、利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンの分泌は正常でも、腎尿細管における作用障害に由来して腎臓が反応しなくなり、体内への水分の再吸収が低下するために、尿の濃縮障害が引き起こされ、水分が過剰に尿として排出されます。

一方、利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンの分泌量の低下で、体内への水分の再吸収が低下するために、水分が過剰に尿として排出される疾患は、先天性ないし後天性の中枢性尿崩症です。

腎性尿崩症にも先天性と後天性があり、先天性腎性尿崩症が先天的な遺伝が原因で、出生直後から症状が出現することが多いのに対して、後天性腎性尿崩症は薬剤の副作用や腎臓障害などが原因となって、あらゆる年代において徐々にあるいは突然、症状が出現します。

先天性腎性尿崩症は、腎臓の腎尿細管の抗利尿ホルモン2型受容体の遺伝子異常で90パーセント以上が出現するとされ、性染色体であるX染色体の劣性遺伝のため、男性にのみに発症します。X染色体を2本持つ女性は、発症しないものの保因者になるため、妊娠した場合、先天性腎性尿崩症を受け継ぐ男子が生まれる可能性があります。

また、まれに尿細管の抗利尿ホルモン感受性アクアポリン(水チャンネル)の遺伝子異常によっても出現します。この遺伝子異常は、常染色体の劣性遺伝によって約9パーセントで発症し、常染色体の優性遺伝によって1パーセントで発症します。

先天性腎性尿崩症を胎児期に発症した場合は、母胎の中で大量に尿を排出するため羊水が多くなります。

生後数日からの新生児期に発症した場合は、1日2・5リットルから3リットル以上の著しい多尿、のどの渇きによる多飲を示し、夜間尿の増加などが起こります。

大多数の新生児は生後1年以内に診断されますが、未治療の新生児では、のどの渇きを訴えることができないため、保護者が水の補給を控えた場合や高温環境にさらされた場合には、激しい脱水による発熱と嘔吐(おうと)、けいれんを起こし、血液中のナトリウム値が上昇します。この高ナトリウム血症が起こると、脳が障害され、発達障害や精神遅滞を起こしてしまう可能性があります。

通常、低身長がみられ、慢性的で過大な多尿に伴い、水腎症や水尿管症、巨大膀胱(ぼうこう)など尿路系の拡張が発生し、その結果、逆流性腎症さらに腎不全に至る例もあります。

しかし、一部の軽症型(部分型)の先天性腎性尿崩症の新生児では、これらの症状は気付かれない程度か、軽度です。明らかな脱水の症状を示さずに、嘔吐、吐き気、授乳力低下、便秘もしくは下痢、発育不全、原因不明の発熱、不活発、興奮性といった症状を現します。低身長や発達障害はみられず、小児期の後期に診断される傾向があります。

常染色体優性遺伝によって先天性腎性尿崩症を発症した新生児では、症状の出現は遅く、成人初期まで現れない場合もあります。

早期に診断された場合も、先天性腎性尿崩症を根治できる治療法がないため、長期にわたって飲水とトイレの使用が自由にできる状況を用意することが必要になります。乳児では自分ののどの渇きに従って水を求めることができないので、通常の食事のほかに水を摂取させることが必要です。

自分で水を求めることができる小児期になっても、こまめな水分補給を常に行いながらの生活となります。そのぶん尿量も増えますので、トイレに行く回数もほかの人よりも圧倒的に増え、生活は大きく影響を受け、幼稚園生活、学校生活や、成人後の社会活動、グループ活動も障害されます。

先天性腎性尿崩症の検査と診断と治療

内科、内分泌科の医師による診断では、下垂体(脳下垂体)に由来する抗利尿ホルモンが存在するにもかかわらず、血漿(けっしょう)抗利尿ホルモン濃度が高く、かつ利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤やデスモプレシン剤を投与しても尿の濃縮ができないことによって、先天性腎性尿崩症と確定します。

内科、内分泌科の医師による治療では、先天性腎性尿崩症を根治できる治療法がないため、経験的に対症療法として、尿量を減らす目的で、抗利尿ホルモンの産生を刺激するサイアザイド系(チアジド系)利尿薬、それに加えてインドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症薬を使用しますが、十分な効果は得られていません。

サイアザイド系(チアジド系)利尿薬を使用すると、カリウム喪失を招くため、血清カリウム濃度を測定し、必要に応じて食事や薬剤の形で補充します。水腎症、水尿管症、巨大膀胱に対しては、尿量を減らす治療を行い、残尿が多量の場合には周期的もしくは持続的な膀胱カテーテル留置を行います。

また、長期の療養が必要なため、腎臓障害、高度脱水、高ナトリウム血症を起こさないように長期的な経過観察を続けます。

軽症型(部分型)の先天性腎性尿崩症では、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤や、デスモプレシン剤を使用した治療によって、ある程度尿量を減少させることが可能です。

🇨🇻後天性腎性尿崩症

後天的な理由により、抗利尿ホルモンに腎臓が反応しないために多尿を示す疾患

後天性腎性(じんせい)尿崩症とは、後天的な理由により、抗利尿ホルモン(バソプレシン)に腎臓が反応しなくなることで、薄い尿が大量に排出される疾患。

利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンは、大脳の下部に位置する視床下部で合成され、神経連絡路を通って下垂体(脳下垂体)後葉に運ばれて貯蔵された後、血液中に放出されて腎臓に作用し尿の量を調節します。後天性腎性(じんせい)尿崩症では、利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンの分泌は正常でも、腎尿細管における作用障害に由来して腎臓が反応しなくなり、体内への水分の再吸収が低下するために、尿の濃縮障害が引き起こされ、水分が過剰に尿として排出されます。

一方、利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンの分泌量の低下で、体内への水分の再吸収が低下するために、水分が過剰に尿として排出される疾患は、先天性ないし後天性の中枢性尿崩症です。

後天性腎性尿崩症の症状は、薬剤の副作用で出現することがあります。原因となる薬剤は、双極性障害(躁〈そう〉うつ病)の躁状態治療薬、抗リウマチ薬、抗HIV薬、抗菌薬、抗ウイルス薬など広範囲にわたります。薬剤を服用後、数日から1年くらいで発症することが多く、数年以上たって発症することもあります。

また、何らかの理由で血液中のカリウム値が低くなった場合や、カルシウム値が高くなった場合にも、発症することがあります。そのほか、慢性腎盂(じんう)腎炎、シェーグレン症候群、骨髄腫(しゅ)、多嚢胞(たのうほう)性疾患、鎌(かま)状赤血球貧血などの疾患によって腎臓が障害された時にも、発症することがあります。

後天性腎性尿崩症は、いずれの年代でも、徐々にあるいは突然、発症します。発症すると、のどが渇いて過剰に飲水するといった症状が現れ、多尿を呈します。1日に排出される尿量は3リットルから15リットルと、通常の2倍から10倍にもなります。ひどい時には、1日30リットルから40リットルになることもあります。

薄い尿の大量排出は、特に夜間に著しくなります。飲水は冷水を好む傾向があり、たくさん飲むために、食べ物があまり取れず、体重は減少します。

一般に、口渇中枢は正常であるため、多尿に見合った飲水をしていれば脱水状態になることはありません。進行すると、体液が減少し、発汗の減少、皮膚や粘膜の乾燥、微熱などの症状がみられることがあります。

1日3リットル以上の著しい多尿や口渇、多飲などの症状がみられた際には、糖尿病や心因性多飲症とともに後天性腎性尿崩症である可能性があります。内科か内分泌科の専門医と相談して下さい。

後天性腎性尿崩症の検査と診断と治療

内科、内分泌科の医師による診断では、早急に採尿検査、採血検査などを行い、多尿、多飲を示す糖尿病を除外します。これが除外された後、心因性多飲症などとの鑑別が必要になります。

心因性多飲症は、精神的原因で強迫的に多飲してしまう疾患です。血漿(けっしょう)浸透圧と血中の抗利尿ホルモンを測定して、鑑別診断に用います。鑑別が難しい場合、水制限試験を行います。水分摂取の制限を行うと、心因性多飲症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えて濃縮がみられますが、中枢性尿崩症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えることはありません。腎性尿崩症では、抗利尿ホルモンは高値になります。

腎性尿崩症と中枢性尿崩症の区別は、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤の投与によって、尿が濃縮されるか否かで調べます。反応せず尿が濃縮されないのが腎性尿崩症であり、尿が濃縮されるのが中枢性尿崩症です。

内科、内分泌科の医師による治療では、薬剤が原因の場合は、早期発見で障害が軽度なら、原因薬剤の中止のみでよく、1カ月ほどで症状が改善されることが多いので、経過観察を行います。

原因薬剤の中止でも回復が遅れる場合は、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤や、デスモプレシン剤を用いた治療を行います。尿量を減らす目的で、抗利尿ホルモンの産生を刺激するサイアザイド系(チアジド系)利尿薬を使用することもあります。

そのほかの疾患が原因とされる場合は、原因疾患の治療と、腎臓障害、脱水、高ナトリウム血症の有無の経過観察を続けます。

🇲🇹後天性膀胱憩室

膀胱の壁の弱い部分が、尿が通過する際の圧力により膨らんで袋状の憩室ができ、外側に突出する疾患

後天性膀胱憩室(ぼうこうけいしつ)とは、膀胱の内腔(ないくう)の壁の一部の弱い部分が排尿の圧力によって膨らみ、袋状の憩室ができて外側に突出する疾患。

膀胱から尿道口までに、何らかの通過障害があって、排尿に際して膀胱内の圧力が高まった時に、後天性膀胱憩室の状態になります。通常、膀胱粘膜が筋層を貫いています。

膀胱憩室は、その成因から先天性膀胱憩室と後天性膀胱憩室に分けられます。先天性は男児に多く、後天性は中高齢の男性に多くみられます。

先天性膀胱憩室は、先天的な発育障害で膀胱壁に弱い部分があるために生じ、尿管が膀胱壁を通過する部分や、膀胱頸部(けいぶ)に憩室が好発し、尿路感染の素因を作り、膀胱尿管逆流を伴いやすくなります。通常は幼児期に、繰り返す尿路感染症の検査の際に発見されます。

後天性膀胱憩室は、前立腺(ぜんりつせん)肥大症、神経因性膀胱、尿道狭窄(きょううさく)などによる下部尿路の通過障害の影響が最も多く、そのほか膀胱損傷の後遺症、膀胱手術の合併症などで発症します。

憩室の内部には尿がたまるため、尿路感染が発生しやすく、繰り返す膀胱炎、憩室炎、結石、腫瘍(しゅよう)などの原因となり、頻尿、排尿時の痛み、尿の混濁、残尿感、下腹部違和感などの症状が出ることもあります。

憩室は長い時間をかけて次第に大きくなるため、排尿後、時間がたっていないのにもう一度ある程度の量の排尿がある二段排尿がみられたり、尿道を圧迫して排尿困難を来すこともあります。

膀胱炎の症状が長く続く時や、膀胱炎を繰り返す時には、泌尿器科を受診することが勧められます。

後天性膀胱憩室の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、超音波検査、排せつ性尿路造影、膀胱造影などを行います。

排せつ性尿路造影では、膀胱頸部以下の尿道通過障害や、憩室の拡大の程度などを知ることができます。膀胱造影では、前後方向に加えて斜め方向から撮影することで、憩室の位置と大きさをより正確に知ることができます。

膀胱憩室が認められた場合には、膀胱鏡検査で憩室の入り口や、可能であればその内部を観察し、結石、腫瘍が発生していないか確認します。

泌尿器科の医師による治療では、憩室が小さくて自覚症状もなく、膀胱炎、憩室炎、内部の結石などの合併症がなければ、経過観察します。

憩室がある程度大きい時や、強い自覚症状、合併症のある時には、内視鏡を尿道から入れて憩室を電気凝固します。憩室が大きい時や、悪性腫瘍を合併している時には、開腹して憩室を切除する手術を行うことになります。

2022/08/16

🇸🇷慢性腎炎

血液を、ろ過する糸球体に起こる炎症

腎炎(じんえん)とは、尿を作るために血液を、ろ過する糸球体(しきゅうたい)に、出血性の炎症が起きる疾患です。正確には、糸球体腎炎といいます。

免疫の異常が関係して起こると考えられており、左右の腎臓とも平等に侵されます。病気が進行すると、毛細血管の塊である糸球体だけではなく、尿細管まで障害が広がります。腎臓病のうちで最も多い病気で、一般に1年以内のものを急性(糸球体)腎炎といい、それ以上長く続くものを慢性(糸球体)腎炎といいます。

慢性腎炎の症状と早期発見法

慢性(糸球体)腎炎は、腎臓病の中で最も多い疾患。糸球体を中心にした慢性の炎症がみられるもので、さまざまな原因で起こる腎炎が含まれているために、近年では、疾患群(症候群)として考えられるようになっています。

いずれにしても、蛋白尿や血尿とそれに伴う症状が1年以上に渡って、持続する状態を、慢性腎炎と呼びます。ただし、糸球体腎炎以外で、異常尿所見や高血圧を呈する病気は除きます。

この慢性腎炎では、何ら前兆や誘因もなく発症してくることが多く、また進行して腎不全となるまでは、自覚症状のないことが多いのです。そのため、定期健診の時などに検尿で見付かることがほとんどです。

まぶたが腫(は)れぽったくなるほか、疲れやすい、食欲不振、動悸(どうき)、手足のしびれ、目がチカチカする、吐き気、嘔吐(おうと)といった症状が出る場合もあります。

この慢性腎炎は、腎臓の組織の一部を採取し、顕微鏡で調べる腎生検によって、4種類に分けることができます。蛋白尿と血尿が出るという症状は共通しているので、あくまで腎生検を行わないと区別できません。

腎炎の約4割を占め、日本人の腎臓病で最も多いのがIgA腎症です。このほか、巣状糸球体腎炎、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎があります。

IgA腎症では、発病初期から肉眼的血尿に気付くことが多いのが特徴的です。発症は10代後半から30代前半に多く、やや男性優位です。顕微鏡で見ると、IgA(免疫グロブリンA)という抗体が、抗原と結合して免疫複合体となり、糸球体のメサンギウムという部位に沈着しています。

巣状糸球体腎炎では、糸球体の基底膜という部位に、微小な変化が生じています。膜性腎症では、糸球体の基底膜が肥厚しています。膜性増殖性糸球体腎炎では、糸球体の基底膜の肥厚に加えて、細胞の数が増える変化が生じています。

慢性腎炎の治療と療養上の注意

慢性(糸球体)腎炎で最大の問題となるのは、病態が進行するにつれて、次第に腎機能が低下して腎不全となり、人工透析が必要となる例があることです。そのため、病態の進行を阻止することが、治療の最大の目標になります。

現在のところ、進行を確実に止めるという方法は確立していませんが、病態に合わせて、次のような薬物が用いられています。

ネフローゼ症候群の場合と同様、尿蛋白量の多い場合、抗炎症作用がある副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)が用いられることがあります。腎炎の始まりが免疫反応によると考えられているので、免疫抑制剤が用いられることもあります。

2つの薬を併用して治療に当たることもありますが、この2剤は副作用も強いので、医師の指導のもと、血液検査など定期的なチェックを受けながらの服用となります。「症状が軽くなった」と勝手に判断して、服用を止めることは危険です。

糸球体内で血液が凝固することが腎炎の進行を速めると考えられているため、血液凝固の主役である血小板の働きを弱める薬も、よく用いられています。

高血圧も腎炎の進行を速めることが知られていて、高血圧を合併している場合には、降圧剤による治療が行われます。最近、降圧薬の中には、蛋白尿を減少させ、さらに腎機能の低下を抑制するものの存在が確認され、そのために高血圧がなくても治療に用いられるようになってきました。また、むくみのあるような場合には、利尿剤も用いられます。

食事療法も、腎機能の程度、症状の有無に応じて行われます。基本的には、食塩と蛋白質の摂取量に注意することです。蛋白質は1日、体重1kg当たり1g以下に抑えられます。塩分は軽症の場合、多少控える程度で大丈夫ですが、病気が進行している状態では、1日に5~8g程度にされます。ほかに、水分量とエネルギー摂取量が過不足にならないようにされます。

慢性腎炎は経過が長引く疾患で、一部のものは進行性に悪化しますので、生活上の注意は重要です。まずは、風邪や下痢などを起こすと、数日後に肉眼でわかる血尿や蛋白尿が出たり、体がむくんだりすることがあるので、こうした病気にかからないように注意しましょう。

体力と集中力を必要とする仕事や勉強などは、避けましょう。根を詰めてこなさなくてはならぬことは、腎臓に負担をかけます。なるべくリラックスして過ごせるようにして、夕方から夜にかけても、安静に過ごすことが大切です。

病状にもよりますが、一般に体操や散歩など軽い運動は大丈夫です。ただし、激しいスポーツや、体を冷やす恐れのある運動は避けましょう。

🟧緊急避妊薬の試験販売、薬局数増加へ 利用者の8割以上が今後も処方箋なし服用を希望

 厚生労働省は10日、望まない妊娠を防ぐ緊急避妊薬を医師の処方箋(せん)なしで試験販売する研究事業の結果報告書を公表しました。緊急避妊薬の販売実績は、事業開始後の2023年11月下旬からの2カ月間で2181件。利用者への事後アンケートでは、82%の人が今後も処方箋なしで服用した...