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2022/08/24

🇲🇨食道静脈瘤

食道粘膜の下にある静脈が拡張し、食道にこぶ状の隆起が発生

食道静脈瘤(りゅう)とは、食道粘膜の下にある細い食道静脈に血液が流れ込んで拡張し、食道にこぶ状の隆起ができる疾患。静脈瘤が破裂した場合には、吐血や下血などが起こります 。

腹部臓器の血液は、門脈〜肝臓〜肝静脈〜上大静脈〜心臓という経路で流れていますが、門脈、肝臓、肝静脈の血流路に異常があって流れが停滞すると、血液は別の道を通って心臓に戻ろうとします。その別の道となるのが食道静脈です。

食道静脈瘤は、突然に起こる疾患ではありません。肝硬変や慢性肝炎、腹部臓器の血液を肝臓に運ぶ門脈の疾患が基礎にあって、起こります。肝硬変によるものが最も多く、そのほかでは、門脈血栓症、特発性門脈高圧症、肝静脈閉塞(へいそく)などが基礎の疾患に挙げられます。

食道静脈瘤があっても全く自覚症状はありませんが、原因となる肝硬変の症状である、手のひらが赤くなる、胸の辺りに血管が浮き出る、疲労感、倦怠(けんたい)感、黄疸(おうだん)などが出ます。

食道静脈瘤はいくら大きくても、飲食物を飲み下すのに支障はありません。肝硬変や肝炎になっても、気が付かずに経過している人も多数います。しかし、大きく膨らんだ血管のこぶは表面が薄く、刺激も受けやすく、その部分の血液の流れが悪くなることもあって、静脈瘤が高度になるとついには破れて出血し、突然の吐血で初めて気付くことになります。時には、下血によるタール便が続いて、出血に気付くこともあります。大量の血を吐くと、ショック状態に陥り、きわめて危険な状態になります。

食道静脈瘤の検査と診断と治療

血液検査など肝機能異常やウイルス性肝炎の既往が発見されたら、内視鏡検査を受ける必要があります。出血の危険性が高ければ、内視鏡的治療を受けることが勧められます。

医師は、内視鏡検査とX線検査を主に、超音波検査(エコー検査)、CT検査、超音波内視鏡検査、血液検査などで診断します。内視鏡検査は、危険もなく出血の予測もできるので、欠かせない検査です。内視鏡検査の結果、出血する恐れがなければ、基礎になっている疾患の治療だけを行います。

出血をしたことがあるか、あるいは出血が予測される時は、急いで治療する必要があります。

出血時には、バルーンという袋つきのゴム管による圧迫止血をしたり、静脈瘤を作っている血管のもとをふさいだり、内視鏡で見ながら静脈瘤内、および周囲に血液凝固物質や硬化剤を注入したり、静脈瘤を輪ゴムで結紮(けっさつ)して止血を図ります。これらの方法で多くは止血可能ですが、出血が続く場合は手術も行われます。

内視鏡を用いての治療は、出血が予測される場合に予防的処置としても広く行われています。また、門脈の圧を低下させる薬の内服もあります。

肝硬変の発症者の90パーセント以上は、程度の差こそあれ、食道静脈瘤を抱えています。吐血するまでは全く自覚症状がないので、食道静脈瘤は見逃されがちです。従って、定期的に食道内視鏡検査を受けて、出血の可能性を判定することが大切です。基礎になっている肝臓病の治療と養生に努めることは当然です。

🇫🇷食道バレット上皮

食道炎が慢性に経過して、障害された食道粘膜がなくなり、胃の粘膜に似た別の粘膜で覆われる状態

食道バレット上皮とは、胃と接している食道の部分に炎症が起こり、食道の粘膜が胃や腸の粘膜に似た別の粘膜に変質した状態。バレット食道とも呼ばれます。

食道は、体表の皮膚に似た扁平上皮(へんぺいじょうひ)という粘膜で覆われています。一方、胃や腸は、円柱上皮(えんちゅうじょうひ)という別の粘膜で覆われています。その食道本来の扁平上皮の粘膜が、胃や腸の粘膜に似た円柱上皮の粘膜に置き換わった状態です。

さらに、置き換わった粘膜の80パーセントは、食道がんの発生に関係する腸上化生(ちょうじょうかせい)上皮を含んでいて、がんに対するリスクが高くなります。

欧米では、食道がんの約半数は食道バレット上皮から発生する腺(せん)がんであり、食道本来の扁平上皮から発生する扁平上皮がんと同程度となっています。日本では、食道がんの90パーセント以上は扁平上皮から発生するがんで、食道バレット上皮から発生する腺がんはまれです。しかし、ライフスタイルの欧米化、肥満の増加、高齢者の増加などとともに、将来的に食道バレット上皮から発生する腺がんの増加が危ぶまれています。

食道バレット上皮の原因については明らかではないものの、後天的なもので、食道への胃酸の逆流が関係するといわれています。例えば、食道へ胃液が逆流して胸焼けなどの症状が現れる逆流性食道炎、あるいは胃食道逆流症が長期的に続くことで、障害された食道の扁平上皮がなくなり、円柱上皮で覆われると考えられています。

この食道バレット上皮は、本来の食道壁と胃壁の境界部である食道胃接合部から食道側への円柱上皮のはい上がりが3センチ未満のショート食道バレット上皮と、円柱上皮のはい上がりが3セント以上のロング食道バレット上皮とに大きく分けられます。

欧米ではロング食道バレット上皮が多くなっていますが、日本ではほとんどがショート食道バレット上皮で、ロング食道バレット上皮まで進行するケースは少数です。その理由は、現在のところ明らかではないものの、一因としてヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の胃内での感染率の差が関係するといわれています。

つまり、日本ではヘリコバクター・ピロリの感染率が高いことが影響して、委縮性胃炎の頻度が高く、胃酸分泌領域が減少し食後の胃酸分泌量の絶対量も少なくなります。一方、欧米ではヘリコバクター・ピロリの感染率が低いことが影響して、委縮性胃炎のケースは少ない傾向にあります。

しかし、ヘリコバクター・ピロリを薬で除菌すると、胃酸分泌量が増えるために、逆流性食道炎を含む胃食道逆流症になりやすくなり、逆流性食道炎が長期的に続くと食道バレット上皮になリやすくなります。

食道バレット上皮の主な自覚症状は、胸がチリチリ焼けるように感じる胸焼けや、胸の痛み、口が酸っぱくなるように感じる呑酸(どんさん)感。全く無症状の場合も少なからずあり、胃の内視鏡検査でたまたま発見されるのが一般的です。

食道バレット上皮が出現した場合には、内科、あるいは気管食道科を年1〜2回、定期的に受診して内視鏡検査を受けることが勧められます。食道バレット上皮にも段階があり、定期的な検査を受けることで早期の治療が可能になります。

食道バレット上皮の検査と診断と治療

内科、気管食道科の医師による診断では、内視鏡検査で、食道と胃の接合部から口の方向へ向かって観察します。食道の扁平上皮に比べて、赤っぽい円柱上皮が発見されたら、組織を採取して腸上化生上皮を含んでいるかどうかを調べる必要があります。また、染色液を使って扁平上皮と円柱上皮の区別をして、病巣範囲を把握したり、食道がんに関連する腸上化生上皮の有無を調べることができます。

内科、気管食道科に医師による治療では、日本における腺がん発生の頻度が少ないことから、無治療、あるいは胃酸の逆流による食道粘膜の障害を減らすために、胃酸の分泌を抑える薬を使うだけで、経過をみます。

しかし、食道バレット上皮がなくなることはありません。欧米では、食道バレット上皮自体の治療として、変質した粘膜を内視鏡を使って焼き、食道本来の粘膜の再生を誘導するいくつかの方法が行われていますが、日本ではほとんど行われていません。

粘膜が変質した範囲が3センチ以上になるロング食道バレット上皮の場合、腺がんが発生するリスクが通常より高率に上昇するため、年1〜2回、定期的な内視鏡検査が必要です。一方、粘膜が変質した範囲が3センチ未満のショート食道バレット上皮の場合、リスクは低くなりますので、定期的な内視鏡検査の間隔を長めにできると考えられています。

食道バレット上皮に腺がんが発生した場合には、現在のところ食道の扁平上皮がんに対する対応と同じです。内視鏡治療、手術、放射線治療、化学療法を主に、レーザー療法、電気凝固療法、温熱療法、免疫療法など、いくつかの治療法を適切に組み合わせて行われます。

🇫🇷食道裂孔ヘルニア

食道が通る横隔膜の貫通部を通って、胃の一部が胸腔へ脱出

食道裂孔ヘルニアとは、食道が通る穴である食道裂孔を通って、腹腔(ふくくう)内にあるべき胃の一部が胸腔側へ脱出している状態。

胸部と腹部は、横隔膜という筋肉層の丈夫なドーム状の膜によって隔てられています。この隔壁を貫いて、大動脈、大静脈、食道はそれぞれ横隔膜にある裂孔を通っています。食道が通る穴が食道裂孔で、この貫通部は横隔膜にとっての弱点となり、胃の一部が肺や心臓の収まっている胸腔側へ脱出します。

本来、食道と胃の接合する位置は、横隔膜の下になっています。食道裂孔ヘルニアの場合は、食道と胃の接合部を含めて胃の上部が一緒に胸腔へ脱出する滑脱型と、食道と胃の接合部は横隔膜の下にあって胃の一部だけが脱出する傍食道型、および両者が混じった形で脱出する混合型があります。

大部分は滑脱型であり、あまり大きな症状が出ることは少ないのですが、この状態では胃の中のものが食道へと逆流するのを防ぎようがありません。そのため、食道炎を併発することになります。全体の1割程度と数は少ない傍食道型は、胃の一部が食道のわきを通った状態で横隔膜に挟まれるため出血したり、逆に血が巡らなくなったりするなど、滑脱型より重い症状を起こしやすくなります。混合型は、まれにしかみられません。

先天性のものもありますが、大部分は老化、脊椎(せきつい)変形、肥満、便秘、多産などが、食道裂孔ヘルニアの誘因となります。特に、コルセットをしている変形性脊椎症の高齢者に、よく起こります。いずれも、腹腔内の圧である腹圧が上昇し、横隔膜の筋力が低下するのが原因となっています。どちらかというと女性に多く、特に老化によるものであればさらに女性の割合が増えます。

胸焼け、胸骨下の痛み、みぞおちの痛み、吐き気、食べ物のつかえ、貧血などの症状が、数カ月から数年に渡って、よくなったり悪くなったりする状態が続きます。

これらの症状の多くは、同時に併発しやすい逆流性食道炎や、ヘルニア内に生じるびらん性胃炎、胃潰瘍(かいよう)によるもの。そのほか合併しやすい疾患には、瘢痕(はんこん)性食道狭窄(きょうさく)、出血性貧血などがあります。

食道裂孔ヘルニアがあっても、自分では気付かず、胃の検査で偶然発見されることも少なくありません。

食道裂孔ヘルニアの検査と診断と治療

 胸焼け、胸痛、食べ物のつかえがあったら、消化器科を受診します。

医師による診断では、バリウムを飲んでのX線造影検査、内視鏡の検査が一般に行われます。特殊なものとして、食道内圧測定があります。X線造影検査を行うに当たっては、仰向けとするだけでなく、頭を下げたり、息ごらえをして腹圧をかけたりするとはっきり造影されます。

また、食道裂孔ヘルニアの診断だけでは不十分なため、胃液の逆流、食道炎の有無を正しく判断することが必要とされます。

食道裂孔ヘルニアが軽ければ、特に薬による治療の必要はありません。腹部を圧迫しないように帯、ベルトを緩くし、便秘や肥満を治し、脂肪食を制限すれば十分です。逆流性食道炎があれば、H2受容体拮抗(きっこう)薬やプロトンポンプ阻害薬を服用します。

内科的治療でよくならない食道炎や、炎症の跡が引きつれたようになって食道の内腔が狭まる瘢痕性食道狭窄などは、手術が必要となります。

傍食道型食道裂孔ヘルニアの場合も、形態的変化であるため、原則的に手術を行う必要があります。傍食道型では横隔膜が胃を締め付けてしまうため、締め付けられた胃が出血したり、逆に血の巡りが悪くなったりして、滑脱型より危険度が高く、自然治癒が難しい点や合併症を未然に防ぐなどの理由で、手術で治すケースが多くみられます。

脱出している胃を腹腔内に引き戻し、開大している食道裂孔を縫縮し、逆流防止手術を追加します。手術後の治癒率は、良好です。

2022/08/21

🇸🇬先天性巨大結腸症

腸管が細くなって慢性の便秘になり、大腸が拡張する先天性疾患

先天性巨大結腸症とは、腸管が細くなって慢性の便秘になり、大腸が拡張する先天性疾患。ヒルシュスプルング病とも呼ばれます。

大腸や小腸など消化管の壁の中には、神経節細胞があります。その細胞の刺激により、蠕動(ぜんどう)運動と呼ばれる消化管環状筋(輪状筋)の伸び縮みが起こり、口から摂取した食物は腸管を経由して消化され、便となって肛門(こうもん)から排出されます。

先天性巨大結腸症は、この神経節細胞が先天的に欠損しているため腸管が細くなり、蠕動運動が起こらないために慢性の便秘となり、大腸の大部分を占める結腸が拡張します。

消化管の蠕動運動には、食べ物を後戻りさせない機能があり、周期的に環状の伸び縮みを次々と下部に伝え、食物塊を肛門側へ移動させる役割を果たしています。この蠕動運動は自律神経の働きによって行われているので、人間が意識的に調整したり、活発にさせることはできません。

先天性巨大結腸症は1886年に、デンマークの内科医ハラルド・ヒルシュスプルングによって初めて報告されました。

日本では出生5000人に1人の頻度でみられ、男児が女児の3倍多いとされています。原因については、いくつかの遺伝子情報の異常が深くかかわっていることが明らかにされつつありますが、十分には解明されてはいません。

生まれてすぐの新生児では、胎便の排出が遅れることが最初の症状です。排便、排ガス(おなら)ができず、腹部は風船のように膨満してきます。ほ乳力が低下し、濃緑色の胆汁の色に染まったものを嘔吐(おうと)したり、症状が進むと体重増加不良や栄養不良が現れてくることもあります。

また、嘔吐で塩分が失われるため、体内の塩分(電解質)バランスも崩れます。嘔吐物を肺に吸い込んでしまうと、重い肺炎になります。重い腸炎や腸に壊死(えし)や穿孔(せんこう)が起こって、危険な状態になることもあります。腹部が張るために呼吸がうまくできなくなり、死に至ることもあります。

約9割は生まれてすぐに先天性巨大結腸症の症状が出てきますが、少数は1歳以降に症状が出てくることがあります。乳幼児では、慢性的な便秘などの排便障害がみられます。

症状の程度は、神経節細胞のない腸管の長さでおおよそ決まります。全体の約80パーセントは、直腸から比較的近いS状結腸までの部分に神経節細胞の欠損がみられます。12パーセントは直腸からS状結腸を越えて結腸までの部分に、5パーセントは全結腸と小腸の一部までの部分に、3・5パーセントは小腸の口側までの部分に神経節細胞の欠損がみられます。

新生児や乳幼児に頑固な便秘が続く場合は、小児科、ないし消化器科を受診することが勧められます。

先天性巨大結腸症の検査と診断と治療

小児科、消化器科の医師による診断では、新生児では胎便が排出された時期、乳幼児では排ガスが出ているか、何をどのくらい食べているか、便の性状と排便の頻度などを確認します。その後、腹部膨満の有無を確認し、肛門から指を入れる直腸指診でガスの噴出や便の有無を確認します。

腹部X線検査を行い、拡張した腸管ガス像が腹部全体に認められ、小骨盤内の腸管ガス像が欠如していれば、先天性巨大結腸症を疑います。

精密検査としては、肛門から腸の中に軟らかい造影剤を注入してX線撮影をする注腸造影検査を行い、大腸の肛門側の狭窄(きょうさく)と大腸の口側の拡張を確認し、肛門側と口側の口径差を確認します。

さらに、通常鎮静剤を用いて眠った状態で、直腸で風船(バルーン)を膨らませる肛門内圧検査を行い、直腸肛門反射と呼ばれる直腸が拡張した際に認められる肛門管圧の下降の欠如を確認します。また、直腸の粘膜を一部採って、特殊な染色を行った上で顕微鏡で調べる生検を行い、腸管壁内の神経節細胞の欠損に伴う外来神経の増加を組織学的に確認することもあります。

先天性巨大結腸症と区別する疾患には、生まれながらに肛門や腸が閉鎖している鎖肛や先天性腸管閉鎖症、上方の腸管が下方の腸管の中に入り込む腸重積(じゅうせき)症などがあります。

小児科、消化器科の医師による治療では、腸管壁内の神経節細胞が欠損した領域が非常に狭い場合は、浣腸(かんちょう)などでコントロールできることもあります。

ほとんどの場合は、腸管壁内の神経節細胞が欠損した領域を切除し、端々をつなぎ合わせる手術が必要です。手術は、小児外科という特殊な診療科で行います。

神経節細胞が欠損した領域の広さにより、根治手術を行う場合や、人工肛門を造設する場合もあります。根治手術には複数の方法がありますが、その基本は正常な腸管を肛門部に下ろして肛門から排便ができるようにすることです。近年は、腹腔鏡(ふくくうきょう)補助下手術や、開腹しない経肛門手術が導入されています。

また、根治手術はある程度の発育を待って行うため、それまでの間は、点滴栄養、肛門拡張、浣腸などで状態を保つことになります。生後3カ月以降、体重が5〜6キログラム以上で根治手術を行うのが一般的ですが、最近では早めに生後1カ月以降、体重4キログラム以上で行う傾向にあります。

🇶🇦大腸カタル

細菌が原因で大腸に起こる炎症

大腸カタルとは、急性胃腸炎の中で、主として赤痢菌、大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクターなどの細菌が原因となって、嘔吐(おうと)を伴わずに、炎症が大腸に限局しているような疾患を指します。急性大腸炎と呼ぶこともあります。

実際には、急性胃腸炎と大腸カタルの区別は、臨床症状だけでは付きにくいものです。

大腸カタルの症状としては、急性胃腸炎と同じように腹痛、下痢、発熱を伴います。特に下腹痛があり、しばしば渋り腹で、便意を催したりもします。下痢の便には、粘液、うみ、時には血液が混じります。

血便が出る腸炎について、かつては「血便すなわち赤痢」という考えが強かったのですが、近年では赤痢菌による血便はほとんどみられなくなりました。

現在、血便を出す下痢症で頻度の高いのは、サルモネラ菌とカンピロバクターによるもの。食中毒の原因菌として有名なサルモネラ菌とカンピロバクターは、腸炎の原因菌となることも多いのです。ほかに、病原大腸菌による血便もあります。

細菌に有効な抗生物質で治療し、食事制限

サルモネラ菌は抗生物質を使っても使わなくても、全身状態の管理さえしっかり行えば、その効果はほとんど変わらないと見なされています。

カンピロバクターには、抗生物質のエリスロマイシンが効果的。そのほかの原因菌による場合も、その細菌に有効な抗生物質が用いられます。

全身状態の管理は、胃腸炎と同じで、食事制限を行い、水分を十分に摂取します。下痢が少し治まったら、流動食から普通食へと移行していきます。なお、口から食べ物が取れない場合は、輸液を行う必要があります。

🇾🇪大腸ポリープ

大腸の粘膜の一部が隆起したもので、がん化する可能性も

大腸ポリープとは、大腸の粘膜の一部が盛り上がった組織。盲腸、結腸、直腸の3部からなる大腸のうち、大腸ポリープ全体の7割が直腸に近い部位にできます 。

大腸ポリープの大きさは、数ミリから3センチ程度まであります。大腸ポリープの形は、茎のある有茎性できのこ状のものと、無茎性でいぼ状のもの、平らに隆起したものなどがあります。

また、発生の仕組みから、一部の細胞が異常増殖する腫瘍(しゅよう)性ポリープと、細胞が異常増殖しない非腫瘍性ポリープに、大きく分けられます。

腫瘍性ポリープの大部分は、良性であり、腺腫(せんしゅ)と呼ばれます。大きさが増すに従って、部分的に小さながんを伴っていることが多くなり、それは腺腫内がんと呼ばれます。すなわち、腺腫の一部は放っておくと、がんになることがあります。このために、腺腫は前がん病変とも呼ばれます。

非腫瘍性ポリープには、小児に多い若年性ポリープ、高齢者に多い過形成性ポリープ(化生性ポリープ)、腸炎後にみられる炎症性ポリープ、ポイツ・イェガース型ポリープなどが含まれます。いずれも良性で、がんとは無関係です。

腫瘍性ポリープの大部分を占める腺腫は、がんと同様に、生活習慣などの環境要因と遺伝要因が絡み合って生じると考えられています。環境要因では食事が最も重要であり、高脂肪食と低繊維食が危険因子とされています。すなわち、高脂肪食によって腸内の発がん物質が増加する一方で、繊維成分を抑えた低繊維食は糞便(ふんべん)の排出を遅らせる結果、発がん物質が腸内に長時間たまり、腺腫やがんが発生しやすくなると考えられています。

小さな大腸ポリープは無症状のものがほとんどですが、大きくなってきたり、がん化すると、血便が起こります。大腸ポリープの大きさや存在部位によって、便に赤い血液が付着する場合と、肉眼的には異常を認めず、便潜血テスト陽性で初めて血便に気付く場合があります。

特に、非腫瘍性の若年性ポリープは、自然脱落して出血しやすいのが特徴で、大きなポリープでは上方の腸管が下方の腸管の中に入り込む腸重積(じゅうせき)を起こしたり、肛門(こうもん)外に出てしまうこともあります。

血便に気付いたり、企業や地域の集団検診、人間ドックなどで便潜血テスト陽性を指摘されたら、できるだけ早く消化器科、消化器内科、消化器外科、外科、あるいは肛門科を受診し、大腸の検査を受ける必要があります。

大腸ポリープの検査と診断と治療

消化器科などの医師による診断では、下剤で大腸を洗浄し肛門から内視鏡を挿入して直接大腸の内腔(ないくう)を観察する大腸内視鏡検査、または食事制限と下剤により大腸を空っぽにして、肛門から造影剤を入れてX線写真を撮る注腸検査を行います。

どちらの方法でも診断は可能ですが、最近は、ポリープ発見時に直ちに採取して組織検査を行えるため、大腸内視鏡検査のほうが優先される傾向にあります。

ポリープが良性か悪性かを区別する性状診断は、顕微鏡を使った組織検査で確定します。最近では、組織検査を待つまでもなく、70倍の拡大機能を持つ内視鏡(拡大内視鏡検査)や、特定波長の光で観察する内視鏡(NBI内視鏡検査)によって、ポリープの表面の細かい模様を観察するだけで、即座に性状診断が行えるようになってきました。

消化器科などの医師による治療では、腫瘍性ポリープである腺腫は、前がん病変と考えられるため、内視鏡を使って切除します。

有茎性できのこ状のものあれば、内視鏡下で切除する内視鏡的ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)を行います。内視鏡を挿入した後、スネアとよばれる金属でできた輪でポリープの根元を引っ掛けて絞扼(こうやく)し、高周波電流を流して焼き切る方法(スネアリング)が一般的で、開腹など外科的手術に比べて患者の負担が少ないというメリットがあります。

無茎性でいぼ状のものと平らに隆起したものであれば、内視鏡的粘膜切除術(EMR)を行います、

これらの方法によって、ポリープ全体を組織検査することが可能になり、診断と治療の両方を兼ねることができます。

また、腺腫の中でも、大小の結節が群がり集まっている大きな無茎性の隆起である結節集簇様(けっせつしゅうぞくよう)病変に対しては、分割切除による内視鏡的粘膜切除術を行います。このような大きな病変を一括して切除するために、内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術(ESD)や、腹腔鏡を用いた手術が行われることもあります。

非腫瘍性ポリープはいずれも良性で、通常がん化することはないため、積極的に切除する必要はありません。しかし、有茎性で大きなポリープは、出血や腸重積を起こす可能性があるため、内視鏡的ポリペクトミーを行って切除します。

2022/08/19

🇵🇰肥厚性胃炎

胃の粘膜表面が正常より厚くなった状態

肥厚性胃炎とは、胃の粘膜の筋肉が緊張して、胃の粘膜表面が正常より厚く、硬くなった状態。慢性肥厚性胃炎とも呼ばれます。

肥厚性胃炎は慢性胃炎の一種で、慢性胃炎は胃の粘膜が持続的に炎症を起こして、粘膜の性状が変質し、胃が重いとか軽い痛みなどの症状を伴うこともある疾患です。

肥厚性胃炎では、胃液やその中の胃酸の分泌が増加し、過酸症がみられることがあります。原因の多くはピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染と考えられていますが、病態は完全には解明されていません。

症状としては、みぞおちから胸にかけて焼けるような不快感がある胸焼け、げっぷ、胃の酸っぱい液体が口まで逆流してくる呑酸(どんさん)、空腹時の胃の痛み、胃もたれなどの症状が現れます。大きな自覚症状が出ない場合もあります。

肥厚性胃炎に過酸症を伴う場合は、酸度の高い胃酸が食後に大量に分泌されることが一般的なため、食後1~2時間で胸焼け、げっぷ、呑酸の症状が現れます。また、食べ物が胃に入っていない空腹時に胃液が大量分泌し、とりわけ夜間に分泌量が増える傾向がある過酸症を伴う場合は、空腹時の胃の痛み、胃もたれ、食欲減退などの症状が現れます。

これらの症状は肥厚性胃炎だけではなく、十二指腸潰瘍(かいよう)、食道がん、胃がんなどでもみられる症状なので、検診などで肥厚性胃炎が発見された際には、消化器科、消化器内科、内科を受診することがお勧めです。

肥厚性胃炎の検査と診断と治療

消化器科、消化器内科、内科などの医師による診断では、胃内視鏡検査を行うと、胃粘膜の筋肉の緊張による粘膜表面の肥厚が観察されます。

また、胃内視鏡検査の時に胃粘膜の一部を採取し、顕微鏡で調べる生検を行うと、原因となるピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)がいるかどうかを診断することもできます。

消化器科などの医師による治療では、胃の粘膜の状態に応じて、胃の中に放出された胃酸を中和する制酸剤や、胃酸の分泌を減少させる抗コリン剤(自律神経遮断薬)、ヒスタミンH2受容体拮抗(きっこう)薬(H2ブロッカー)、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などを使用します。

食後に胃のもたれが起こるようであれば、消化剤を使用することも有効で、症状に合わせて、傷みを和らげる鎮痛剤も使用します。

ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)が胃に感染している場合には、根本的な治療の見地から、抗生物質(抗菌剤)の投与によるピロリ菌の除去が選択肢の一つになります。

ピロリ菌に対しては、2~3種類の抗生物質を、同時に1~2週間服用し続けることで、胃の中に生息しているピロリ菌を除菌します。

肥厚性胃炎、過酸症において日常で注意することは、脂肪食、香辛料、コーヒー、炭酸飲料、漬物、アルコール、たばこなどの胃酸の分泌を促進するものと、精神的疲労によるストレスを避けることです。ストレスがあると、血流が悪化し胃粘膜の防御機能が低下します。

🇨🇳ヒステリー球(食道神経症)

食道には病変がないのに、食道の違和感などを覚える疾患

ヒステリー球とは、食道そのものに病変がなく正常にもかかわらず、食道の違和感や胸痛など覚える疾患。食道神経症とも呼ばれます。

症状は、食道にヒステリー球と呼ばれる異物が存在している感じ、食べ物が食道につかえる感じ、胸焼け、吐き気、胸部圧迫感、胸痛など多彩です。

発症者の多くは女性で、ストレス、自律神経失調症、情緒不安定、貧血などが背景にあります。いたずらに精神的なもの、気のせいと判断することは禁物で、発症者が不安を持つ食道由来の胸痛の原因としては、胃食道逆流によるものが多くみられます。そのほかに、食道運動機能異常、食道知覚過敏、精神疾患との関連があり、これらが相互に関係して発症することが多いようです。

中年女性では、食道通過障害の症状のほかに、鉄欠乏性貧血、舌炎を合併するプランマー・ビンソン症候群という疾患もあります。食道上部にある慢性食道炎が通過障害の原因とも考えられていますが、こちらも食道そのものに病変は認められず、心因性要素も関係しているようです。

ヒステリー球の検査と診断と治療

胸が何となくおかしいなど、食道由来の胸部違和感や胸痛を訴える症例の多くは、胃液が食道に逆流して起こる胃食道逆流症が主な原因です。この診断のためには、まず心電図や心臓エコー検査を行って心臓疾患を否定します。次に内視鏡検査やバリウム造影で食道を調べます。

ここで胃食道逆流症による食道粘膜の病変の存在が確認されれば、そのまま治療に入ります。通常は、酸分泌抑制薬の内服が選択されます。

前記の検査で胃食道逆流症が証明されない際には、食道内酸逆流の程度を食道内腔(ないくう)に設置したpHセンサーで証明する方法が最も確実です。近年では鼻から挿入する有線型のセンサーではなく、食道内に固定する無線式のセンサーが使用できるようになっています。

以上の食道の内視鏡検査や食道内のpHのモニタリングで病変が観察されない場合は、心臓の精密検査となります。この目的は、虚血性心疾患の診断です。心臓の冠動脈造影で異常がみられる場合には、心疾患の治療を行います。冠動脈造影で異常が認められず、胃食道逆流症も否定される場合には、骨格筋由来の胸痛の検査に入ります。

最近では、心臓に異常を認めない非心臓性胸痛(NCCP)という概念が普及しています。非心臓性胸痛の約半数は、胃食道逆流症によるものと考えられています。従って、最も専門的な治療経験が要求される食道神経症をいたずらに精神的なもの、気のせいと判断することは禁物で、順序を追った検査体制で診断を進めていくことが大切となります。

精密検査を進めても、食道などに病変がなければ、過敏になっている神経を沈めるための鎮静薬や精神安定薬が投与されます。また、抱えている問題やストレスになっている原因を突き止め、その問題についてのカウンセリングを行うことで、自然とヒステリー球など食道の違和感、胸部の違和感が消えていくこともあります。

日常生活では、運動や趣味に励み、精神的、身体的機能を高めることが望まれます。

2022/08/18

🇮🇸排便障害

何らかの原因により排便が困難になったり、意図しない排便が起こる障害

排便障害とは、何らかの原因により排便が困難になったり、意図しない排便が起こる障害。便秘と便失禁に大きく分けられます。

便秘は通常、排便回数が少なく、3日に1回未満、週2回未満しか、便の出ない状態。便が硬くなって出にくかったり、息まないと便が出なかったり、残便感があったり、便意を感じなかったり、便が少なかったりなど多様な症状も含みます。便の水分が異常に少なかったり、うさぎの糞(ふん)のように固い塊状なら便秘です。

便秘の症状の現れる時期は、さまざまです。一般には、加齢とともに増加する傾向にありますが、女性のほうが男性より多いと見なされ、若い女性の便秘は思春期のころに始まることも少なくありません。

この便秘は、大きく分けると機能性便秘と器質性便秘に分類され、機能性便秘はさらに弛緩(しかん)性便秘、痙攣(けいれん)性便秘、直腸性便秘、食事性便秘の4種類に分類されます。

機能性便秘というのは、大腸の働きの異常が原因で便秘が起こるもので、ほとんどの便秘が機能性便秘に相当します。

機能性便秘のうちの弛緩性便秘は、一定のリズムと緊張を持って運動して便を送り出している腸管の蠕動(ぜんどう)運動の低下により、腸の中の内容物の通過が遅れ、水分の吸収が増加するために便秘が起こるものです。排便時に腹圧をかけるのに必要な、腹筋などの筋力が弱まることも原因になります。弛緩性便秘では、排便回数や便の量が少ないタイプの便秘になります。

痙攣性便秘は、ストレスや感情の高まりに伴う自律神経のアンバランス、特に副交感神経が緊張しすぎることによって便秘が起こるものです。下行結腸に痙攣を起こした部位が生じ、その部位が狭くなって、便の正常な通過が妨げられます。痙攣を起こした部位の上部は腸の圧力が高くなるため、腹が張った感じがして、不快感や痛みを感じます。排便があっても、便の量が少なく、うさぎの糞のように固い塊状となります。

排便後には少しは気持ちがよくなりますが、十分に出切った感じがなく、すっきりしないなど、残便感を生じる人が多いようです。便秘の後に、腸の狭くなった部位より上のほうで水分の量が増えるため、水様の下痢を伴うこともあり、便秘と下痢を交互に繰り返す場合もあります。大腸の緊張や痙攣により、便が滞りやすいために起こる便秘もあります。

直腸性便秘は、習慣性便秘とも呼ばれ、排便を我慢する習慣が便意を感じにくくさせるために便秘が起こるものです。便が直腸の中に進入すると、直腸の壁が伸びる刺激で便意は起きますが、この便意をこらえて、排便を怠たったり、排便を我慢することが度重なると、刺激に対する直腸の感受性が低下して、直腸内に便が入っても便意が起こらなくなってしまい便秘となります。

食事性便秘は、食物繊維の少ない食物を偏って食べていることが原因で、腸壁に適当な刺激がなくなって便秘が起こるものです。また、食事の量が極端に少ない場合も便秘になります。

一方、器質性便秘というのは、腸や肛門(こうもん)の腫瘍(しゅよう)や炎症、閉塞(へいそく)などの疾患、あるいは巨大結腸症のような腸の長さや大きさの先天的異常などが原因で便秘が起こるものです。器質的便秘の原因となる疾患としては、大腸がん、大腸ポリープ、クローン病、腸閉塞(イレウス)、虫垂炎など腹の手術の後の腸の癒着、潰瘍(かいよう)性大腸炎、後腹膜腫瘍、子宮筋腫、直腸がん、直腸ポリープ、直腸脱、直腸重積(じゅうせき)、直腸瘤(りゅう)などがあります。

また、便秘には、旅行や生活の変化に伴う数日間だけの一過性の便秘と、症状が1〜3カ月以上続く慢性便秘があります。便秘が続くと、腸内細菌のバランスが崩れ、腐敗便がたまると、肌のトラブルや大腸がん発生の引き金になります。

それまで規則的であった排便が便秘に変化した場合や、便に血が混じる場合、腹痛を伴うような場合は、器質的便秘が疑われるので、早めに肛門科、あるいは消化器科、婦人科を受診し検査を受ける必要があります。

便失禁は、排便や排ガスを十分にコントロールできない状態

便失禁とは、排便や排ガスを十分にコントロールできない状態。

便意を催してからトイレに行くまで我慢できずに失禁するタイプの切迫性便失禁と、便意を感じないままに無意識のうちに便が漏れるタイプの漏出性便失禁があり、両方を併せ持つタイプもみられます。

便失禁の原因には、いろいろなものがあります。原因のうち最も多いものとして、出産時の肛門周辺の筋肉の損傷があります。排便には内肛門括約筋、外肛門括約筋、肛門挙筋、恥骨直腸筋という4種類の筋肉が関与していますが、出産の際に肛門括約筋などが傷付き、その伸縮自在の筋肉の強さが低下することで便失禁、ガス失禁、下着が汚れる、肛門がただれてかゆくなる、便の偏位などの症状が起きます。また、出産の際に肛門括約筋を支配する神経が傷付くこともあります。

この障害は出産後すぐに気付くこともありますが、年を取るまで明らかにならないこともあり、この場合には出産と便失禁との因果関係がはっきりしないことがあります。

肛門や肛門周囲の組織の手術を受けたり、しりもちをつくなどのけがをすることで、内外肛門括約筋を傷付けた場合も、便失禁が起こります。肛門周囲の組織に感染症が起こった場合にも、肛門括約筋が傷付くことがあり、便失禁が起こることがあります。高齢になるにつれ肛門括約筋が弱くなったり、脊髄(せきずい)から肛門周辺の筋肉に入っている神経線維が委縮してくる結果、便失禁が起こることもあります。

腸の炎症や、直腸腫瘍、直腸が肛門から飛び出す直腸脱といった疾患により、便失禁が起こることもあります。多発性硬化症や糖尿病といった疾患により、肛門括約筋を支配する神経が障害されるために、便失禁を来すこともあります。脳卒中、脊髄損傷、脳神経疾患、痴呆(ちほう)により、神経の刺激が肛門へ届かなくなるために、便失禁を来すこともあります。

さらに、下剤の乱用が、便失禁の原因となることもあります。直腸に固まった便が詰まっている時に下剤を飲むと、固まった便の回りを下痢便が伝って失禁することがあります。

我慢できずに失禁するタイプの切迫性便失禁は、意識的に力を入れた時の肛門の締まりが弱くなっており、出産時に肛門周辺の筋肉を損傷した人、肛門や肛門周囲の組織の手術を受けた人に多くみられます。無意識のうちに便が漏れるタイプの漏出性便失禁は、無意識での肛門の締まりが弱くなっており、高齢者や直腸脱の発症者などに多くみられます。

便失禁は起こる頻度の高いもので、特に加齢とともに起こる頻度が高くなってきますが、羞恥(しゅうち)心のために、どんなに不快な症状があっても医療機関へ行かず、自己療法で我慢している人が少なくありません。医師に気軽に相談することが重要です。

排便障害の検査と診断と治療

肛門科、あるいは消化器科、婦人科の医師による便秘の診断では、器質的便秘が疑われる場合は、まず大腸の検査を行います。これには注腸X線検査と大腸内視鏡検査があり、ポリープやがん、炎症性腸疾患などを診断します。

機能的な慢性便秘を詳しく調べる検査として、X線マーカーを服用して大腸の通過時間を調べる検査や、バリウムによる模擬便を用いて、排便時の直腸の形や動きを調べる排便造影検査があります。

肛門科、あるいは消化器科、婦人科の医師による便秘の治療では、食事指導、生活指導、運動、緩下剤といった保存的治療法が主体となり、これらをうまく取り入れて便通をコントロールするようにします。日常の食生活で不足しがちな食物繊維を補うためには、市販の食物繊維サプリメントであるオオバコ、小麦ふすまなどを活用するのもよい方法です。

緩下剤は、腸への刺激がなく、水分を保持して便を軟らかくする酸化マグネシウムなどの塩類下剤を主体として使用します。センナ系、漢方などの速効性の刺激性下剤は、できるだけ常用しないように心掛けます。刺激性下剤を常用すると、次第に腸が下剤の刺激に慣れて効果が鈍くなり、ますます便秘が悪化することがあるためです。

直腸瘤が便秘の原因となっている場合は、その症状と大きさから判断して手術で治療することもあります。

肛門科、あるいは消化器科、婦人科の医師による便失禁の診断では、まず問診により、便失禁の程度とそれが生活に及ぼす影響について明らかにします。便失禁の原因の多くは、詳しく病歴を聴取することにより明らかになります。

例えば、女性の場合、過去の出産歴は重要です。出産の回数が多かったり、新生児の体重が大きかったり、鉗子分娩(かんしぶんべん)の既往があったり、会陰(えいん)切開の既往があったりすると。肛門括約筋が損傷されていることがあります。時には、全身疾患や薬剤が原因となって便失禁を来すこともあります。

次いで、肛門部の診察を行います。これにより肛門括約筋の損傷が容易に明らかになることがあります。肛門領域をもっと詳しく調べるために、他の検査が必要となることがあります。例えば、肛門内圧検査では、小さなカテーテルを肛門内に挿入し、肛門括約筋を緩めた時と締めた時の圧力を測定します。この検査によって、肛門内圧がどの程度弱いか、または強いかが明らかになります。

肛門括約筋を支配する神経が正常に機能しているかどうかを調べるために、他の検査が必要になる場合もあります。さらに、肛門領域に対して超音波検査を行い、肛門括約筋が損傷している領域を明らかにすることもあります。

肛門科、消化器科、婦人科の医師による治療では、症状が軽度ならば、食事習慣の改善指導および整腸剤での処置を行います。時には、現在処方されている薬剤を変更することで、症状が改善することもあります。

大腸炎など直腸領域の炎症性疾患が便失禁の原因になっている場合には、原因疾患を治療することによって、症状が改善することもあります。

肛門括約筋を強くするために、簡単な体操(ケーゲル体操)が勧められることもあります。バイオフィードバックという治療法があり、特殊な機械を用いて正しく肛門括約筋を締めるコツを体得することによって、排便時の肛門領域の知覚を改善し、肛門括約筋を強くすることもできます。

肛門括約筋が損傷している場合には、手術を行うこともあります。手術には、肛門の皮下に紐(ひも)を入れて、肛門を小さくするチールシュ法、肛門括約筋縫合術、代替筋利用手術法などがあります。

肛門括約筋縫合術は、外肛門括約筋を折り畳むように縫い縮めることで肛門に力を入れやすくし、同時に肛門後方で恥骨直腸筋を縫縮することにより、直腸を前方に折り曲げて、直腸肛門角を強くすることで便が直腸から肛門に下りてきにくくするものです。しかし、手術直後から完全に便の漏れがなくなるわけではありません。手術で筋肉の緩みを取って、筋肉が効率よく働けるようにすることはできても、筋力が強化されるわけではありません。その後に、筋力増強のためのリハビリテーションが必要となります。

肛門の手術や出産時の外傷による肛門括約筋の損傷が原因のものは、手術的に肛門括約筋を修復することで、元通りに治すことができます。加齢による便失禁には、完全に治す治療法はありませんが、近年行われている低周波電気刺激治療器の使用は特に筋肉の老化によるものに対して効果があります。

脳卒中、脊髄損傷、脳神経疾患による便失禁は、治すことができません。近年、末梢(まっしょう)神経の障害が原因と思われるものに対しては、神経の移植や人工肛門括約筋なども試みられていますが、まだはっきりした結論は出ていません。

予防対策は、まず便失禁が減るように排便をコントロールすることです。特定の食べ物や飲料で下痢や水様便、軟便になりがちな人は、それらを控えるように注意します。水様便や軟便はどうしても漏れやすいですし、硬い便は肛門に無理がかかります。肛門に負担のかからない質のよい便が直腸に下りてくるように、運動や食事、場合によっては薬を使用して、根気強く便秘や下痢をコントロールすることも必要です。

また、便秘で刺激性下剤を服用している場合は、塩類下剤(酸化マグネシウムなど)に変更して下痢や軟便にならないようにコントロールします。普段から下痢や軟便が多い人は、便を固める作用のある止痢薬で有形便にコントロールすることも有効です。

排便後しばらくして失禁する場合は、排便のたびに座薬や浣腸(かんちょう)を使用し、直腸内の残便をなくすように試みることが有効な場合もあります。突然の便失禁に対しては、一時的に便の排出を抑える肛門用タンポン(アナルプラグ)を使用するのも一つの方法です。

2022/08/17

🇧🇳脱肛

肛門管の上皮や直腸の下部粘膜が、肛門外に脱出する疾患

脱肛(だっこう)とは、肛門管の上皮や直腸の下部粘膜が肛門外に脱出する疾患。肛門粘膜脱ともいいます。

脱肛を生じる原因には、さまざまなものがあります。最も多いのは、直腸の一番下にいぼ状のこぶができる内痔核(ないじかく)の程度が進んで、肛門外に脱出するようになるものです。加齢で肛門括約筋が弱くなり、肛門や直腸粘膜を支えている組織も弱くなって、粘膜が脱出することもあります。また、肛門の手術を受けた後遺症や、出産による肛門括約筋の機能不全で、脱出することもあります。

脱肛の症状としては、粘膜が肛門外に脱出することで粘膜部分が刺激を受け、分泌液が増加します。下着が汚れたり、肛門周囲に粘膜の分泌液が付着することで湿疹(しっしん)が生じ、かゆくなったり、ジメジメとべと付いたりします。また、粘膜部分は弱いので肛門外に脱出すると、こすられて傷付き、そのために出血や痛みがみられます。

内痔核の脱出による脱肛では、時に、脱出部が肛門の括約筋で締められて、静脈に血栓を形成し、はれ上がって元に戻らなくなる嵌頓(かんとん)痔核という状態になります。

嵌頓痔核は激しく強い痛みを伴うことが特徴で、放っておくと、さらにはれが大きくなり、痛みもさらに強まります。嵌頓部分からは、出血したり分泌液が出て下着を汚すようになります。脱出部を押し込もうとして、かえって刺激し症状を悪化させてしまうこともあります。はれがひどくなると、歩行も正座も困難となります。

入浴したり、温湿布で温めると、はれがひきますし、放置しても2週間程度で痛みはひきます。

しかし、血栓が肛門周囲にたまって、はれてくる血栓性外痔核を合併している場合は、肛門の入り口の変形がひどくなり、肛門の出口の伸展が悪くなって裂肛の原因にもなりますので、肛門科の医師を受診し治療を受けたほうがよいでしょう。

痛いからといって便を出さないようにすると、余計に痛みが強くなりますので、可能な限り便は普段と同じように出してしまうのがよいでしょう。

加齢による直腸粘膜の脱肛の場合は、小児や若い成人でもみられますが、ほとんどが高齢で出産経験のある女性に起こります。

直腸を骨盤に固定している筋肉や靭帯(じんたい)が生まれ付き弱かったり、年を取って緩んできたため、直腸の下部粘膜や筋層が肛門の外に脱出するために起こります。そのほか、肛門括約筋が弱い、腹腔(ふくくう)内の直腸子宮間のポケットが深い、直腸が短いなども原因となり得ます。直腸のポリープや内痔核の脱肛など、肛門から脱出する疾患を放置することも原因の一つです。

初期には肛門から3センチ程度の直腸粘膜のみの脱出が起こり、ひどい場合には10~20センチもの長さの直腸全層がひっくり返って飛び出すこともあります。初期には排便時の脱出のみにとどまりまるものの、進行すると歩行時にも脱出が認められ、肛門括約筋の障害、女性では子宮脱を伴うこともあります。直腸を手で押し込まないといつまでも肛門のはれや痛みが続き、下着に触れて出血するようになります。便秘や排便障害も起こります。

小児にみられる直腸粘膜の脱肛の場合は、成長するにつれて自然と治ることが多いので、息まないようにします。原因は、便秘による硬い便です。

脱肛に気付いたら、肛門の周囲の衛生に留意します。入浴時や排便後は、温湯で肛門周囲を十分に洗い、洗った後は乾燥させておくようにして、清潔に保つように努力します。通気性のよい下着を身に着けるようにし、刺激物の摂取、アルコールなどは控えます。意識的に括約筋を締める運動をして肛門の締まりをよくすることも、粘膜の脱出の防止に効果的なことがあります。

以上の注意をしていても粘膜の脱出による湿疹、出血、痛みがひどくなるようならば、座薬、軟こうなどを使い、肛門周囲の粘膜脱による炎症を抑えるようにします。それでもよくならなければ、肛門科の専門医を受診し、外来処置、手術などを受けることが勧められます。

脱肛の検査と診断と治療

肛門科の医師による内痔核の脱肛の診断では、肛門部に指を挿入して触れる直腸肛門指診と、肉眼で観察する視診を行います。内痔核は通常指診では触れることが難しいので、肛門鏡を使用して直接観察することでより正確に診断できます。

肛門科の医師による直腸粘膜の脱肛の診断は、脱出している直腸粘膜を確認することで行われ、脱出していない場合は腹圧をかけて脱出させます。詳しくは、原因になる脆弱(ぜいじゃく)な骨盤底と直腸の固定の異常の有無を調べるために、肛門内圧検査や排便造影検査が必要になります。それにより治療法が決定されます。鑑別診断としては、直腸がんの有無が重要で、内視鏡検査が必要になります。

肛門科の医師による内痔核の脱肛の治療では、まず保存的療法を行い、肛門部を温めたり、きれいにしながら座薬、軟こうを使い、抗炎症薬、消炎酵素薬、消炎鎮痛薬を内服します。普通は保存的療法によって1週間以内に痛みはとれ、嵌頓痔核の嵌頓部も1カ月以内に元に戻ります。

ただし、脱出するようになった痔核は治るわけではないので、嵌頓状態のままで手術をすることもあります。普通は保存的に治療し、嵌頓部を戻るようにさせてから手術を行うかどうかを検討します。

血栓が大きくて痛みが強い場合、薬を使っても治らない場合、何回も同じところがはれる場合、表面が破れて多量の出血が起こっている場合には、痛みを除き皮膚の変形を防止するためにも、局所麻酔で嵌頓痔核の部分を舟型に切開し、血栓を摘出(てきしゅつ)する結紮(けっさつ)切除法という簡単な処置を行います。この血栓切除は、外来で3分くらいでできます。

血栓を切除すれば、すぐに痛みが消失します。切除後1週間くらいは無理せず、運動や旅行などを控える必要があります。血栓を切除した後は1~2週間ほど、傷口から少しずつ出血が続くことがありますが、血栓が吸収されてなくなれば、自然にしぼんで消えてなくなります。

こぶが非常に大きく、痛みが非常に強い時は、手術が必要です。内痔核結紮切除法を組み合わせて、嵌頓痔核を取ります。大きな痔核が吸収されるのは時間がかかりますし、局所麻酔で血栓だけ取る方法では術後に肛門周囲に皮垂(ひすい)ができ、痔核は治っても肛門周囲が不潔になりやすく、余病を招く恐れがあるからです。

治療後も、再発の可能性は残っています。治ったと安心しすぎて無理をしたり、生活習慣が乱れて便通がコントロールできなくなったりすると、再発の可能性は高まります。便秘や下痢をしないような日常生活の習慣や食事に気を付けることが、大切です。

さらに、入浴を十分に行い、温めることが、痛みを取り、早く治すのに大切です。入浴時だけでなく、簡易カイロのようなものを下着の上から当てて温めるのも効果的です。

肛門部をきれいにしておくことも必要で、入浴の際だけでなく、排便後も肛門を紙でふくだけでなく温湯できれいに洗うようにします。 肛門部に負担をかけないよう、力仕事、スポーツ、長時間のドライブは控え、アルコール、刺激物なども控えます。

肛門科の医師による小児の直腸粘膜の脱肛の治療では、なるべく手術せずに処置されます。緩下剤を用いて便秘を予防し、排便の時に息むことをやめさせることにより、症状は自然と治ってきます。

青壮年の直腸粘膜の脱肛では、仕事やスポーツで腹部に力が入ることが多いので、外科的治療法が最もよいとされています。開腹手術によって、直腸をおなかの中に引き上げて、しっかり固定します。いろいろな方法がありますが、どれも約90パーセントは有効です。

高齢者の直腸粘膜の脱肛、または軽い直腸粘膜の脱肛では、肛門から直腸をナイロン糸で縫い縮めるか、薬を注入固定する方法が行われています。縫い縮める手術は比較的容易で、麻酔法の工夫で日帰りや一泊入院での対応も可能です。ただし、手術後の安静と排便のコントロールは重要です。

🇨🇻後天性巨大結腸症

腸管が細くなって慢性の便秘になり、大腸の大部分を占める結腸の一部または全部が著しく拡張する疾患

後天性巨大結腸症とは、腸管が細くなって慢性の便秘になり、大腸の大部分を占める結腸が著しく拡張する疾患。

この後天性巨大結腸症は、ほかの疾患に付随して起こる症候性巨大結腸症と、原因が明らかでない特発性巨大結腸症に分けられます。

成人にみられる後天性巨大結腸症は、先天的に腸の壁にある神経が欠損しているために腸の運動に障害が生じて起こる先天性巨大結腸症が小児期に発見されなかった場合もありますが、症候性巨大結腸症と特発性巨大結腸症の占める割合が小児に比べて高いとされています。

症候性巨大結腸症を合併する疾患としては、全身性エリテマトーデス、アミロイドーシス、全身性硬化症による筋肉の障害、鉛中毒、甲状腺(こうじょうせん)機能低下や低カリウム血症などの代謝異常、パーキンソン病、糖尿病性神経障害、脊髄(せきずい)損傷などの神経系の病気、感染症および炎症性の疾患、中毒性大腸炎、シャーガス病などがあります。

また、直腸や結腸の悪性腫瘍(しゅよう)や、手術後の癒着による便やガスの通過障害、精神的ストレスによる自律神経の働きの乱れ、精神安定剤や下剤などの乱用による薬の副作用が原因になることもあります。

後天性巨大結腸症の症状としては、強い便秘があり、腹部膨満、吐き気、嘔吐(おうと)がみられます。

早急に対処しなければ命にかかわるという重症は少ないようですが、慢性的な便秘が続くと、さまざまな症状が現れてきます。嘔吐を繰り返す場合では、栄養障害が起こる場合もあります。

頑固な便秘が続く場合は、消化器科、ないし内科を受診することが勧められます。

後天性巨大結腸症の検査と診断と治療

消化器科、内科の医師による診断では、腹部X線(レントゲン)検査を行い、大量の便やガスが停滞し著しく拡張した大腸を確認します。より精密な診断を下すには、腸の特殊な運動機能検査や、直腸の粘膜を一部採って特殊な染色を行った上で顕微鏡で調べる生検を行います。また、原因となっている疾患を特定する精密検査を行います。

消化器科、内科の医師による治療では、原因となる疾患が特定された時はその治療を行った上で、便秘を改善する対症療法を行います。排便の習慣をつけるための腹部マッサージ、規則的な浣腸(かんちょう)や洗腸、軟便となり排便回数が増加する緩下剤の投与のほか、副交感神経刺激剤を投与することもあります。

便秘を改善するために、食物繊維の多い食事を取る、規則正しい生活を送る、適度な運動を行うなど日常生活での改善も行います。

精神的ストレスが原因で起こっている場合は、抗不安薬などの向精神薬を用いることもあります。

内科的治療や生活習慣の改善で症状の緩和がみられない場合は、結腸を切除するなどの外科的な手術を行います。これにより多くの場合は完治しますが、将来的に肛門(こうもん)の機能が低下し、人工肛門(消化管ストーマ)を形成することもあります。

2022/08/16

🇨🇻腹壁ヘルニア

腹壁の穴から、腹中の内臓が腹膜に包まれたまま脱出

腹壁ヘルニアとは、腹部の内臓が腹膜に包まれたまま、先天的または後天的にできた腹壁の穴から脱出する状態。

内臓が脱出する穴をヘルニア門、脱出する内臓をヘルニア内容物、脱出した内臓を包む腹膜をヘルニア嚢(のう)といいます。通常、ヘルニア嚢は次第に大きくなり、肥厚してきて、体表面が膨らんでで見えることもありますが、はっきりしない場合もあります。ヘルニア内容物は腹腔(ふくくう)内臓器のすべて、すなわち肝臓、胃、十二指腸、小腸、大腸などの消化器官や腎臓(じんぞう)、尿管、膀胱(ぼうこう)といった泌尿器官、さらに女性では卵巣、子宮といった生殖器官がなり得るのですが、腸が多いのでよく脱腸と呼ばれます。

最も一般的な腹壁ヘルニアは、腹部の手術の傷口の部分にみられるもので、腹壁瘢痕(はんこん)ヘルニアと呼ばれています。ほとんどの場合、ヘルニア嚢は強い腹圧がかかると簡単に脱出し、その脱出は腹の力を抜いたりすることで自然に元に戻ります。時には、突出したまま元に戻らなくなることもあります。

その状態を嵌頓(かんとん)ヘルニアと呼び、腸が嵌頓した場合には腸閉塞(へいそく)となり、突出する腹壁の穴が小さいと腸が締め付けられて、血液の流れが妨げられる絞扼(こうやく)性腸閉塞となり、診断や治療の遅れは命にかかわります。

腹壁ヘルニアの原因は、それぞれの疾患によって異なります。腹壁瘢痕ヘルニアは、手術によって腹壁を支える筋膜と呼ばれる強固な膜に欠損部ができ、ここから腹膜に包まれた内臓が脱出します。ほかの腹壁ヘルニアでは、先天的または外傷などによって後天的にできた腹壁のくぼみに、腸などが入り込んだり滑り込む形で脱出します。

症状としては、腹痛を覚えることがあるものの、鈍痛や違和感程度の不定愁訴であることや無症状のこともあります。また、突然の激しい腹痛や吐き気、嘔吐(おうと)などの腸閉塞症状で明らかになることもあります。

腹壁ヘルニアの検査と診断と治療

激しい腹痛、吐き気、嘔吐などの腸閉塞症状を認めたら、すぐに外科、あるいは消化器科の専門医を受診します。

腹壁瘢痕ヘルニアの場合は、手術の傷口の突出を見れば容易に診断できます。ほかの腹壁ヘルニアの場合は、CT検査などを行っても診断が困難なことが少なくありません。

ヘルニアが嵌頓状態の場合は、緊急に嵌頓を解除しなければ絞扼性腸閉塞になるため、緊急手術で解除します。手術以外の方法で嵌頓が解除された場合も、ヘルニアの原因は修復されていないため、手術で原因となった構造を修復する必要があります。

しかし、腹壁瘢痕ヘルニア以外の腹壁ヘルニアでは、診断がつかずに開腹手術となり、手術で初めて原因がわかることがほとんどです。

手術方法は大きく、2つの方法に分かれます。1つは自分の体の組織を用いて穴をふさぐ方法で、穴が小さい場合や人工物を用いたくない場合などに行われます。穴を縫い合わせた部位に緊張がかかるため、突っ張り感や再発の可能性が高くなります。

もう1つは人工物を用いて修復する方法で、メッシュと呼ばれる体内に埋め込んでも安全な手術用の糸などの素材を用いて作られた布を用います。メッシュを用いる方法には、メッシュ&プラグ法、リヒテンシュタイン法、クーゲル法、PHS(プロリン・ヘルニア・システム)法など各種あります。

🇭🇳マロリー・ワイス症候群

激しい嘔吐により、食道と胃の境界付近の粘膜が裂けて出血する疾患

マロリー・ワイス症候群とは、激しい嘔吐(おうと)によって、食道と胃の境界付近の粘膜が裂けて出血する疾患。出血により吐血、または下血を起こします。

疾患名は、1929年に初めて報告した2人の医師、ジョージ・ケネス・マロリーとソーマ・ワイスに由来します。日本における発症は男性に多く、発症年齢は平均45〜50歳とされています。

一般に酒を飲んだ後に嘔吐して起こることが多いのですが、胃と十二指腸の境界部にある幽門に狭窄(きょうさく)があるために、胃から十二指腸への食べ物の通過が悪くなって嘔吐する時や、食中毒、乗り物酔い(動揺病)、妊娠中のつわりで嘔吐する時、腹部を打撲した時、排便時に力んだ時にも起こります。

むかつきがあるなど強い圧力が胃に加わると、胃の幽門は閉じて、幽門近くから縮まり、胃の中のものを上に押し上げます。これによって、食道と胃の境界付近がアコーディオンのように押し込められて、中の圧力が著しく高くなり、ついには粘膜に縦長の裂傷ができて出血します。

症状は、吐血、下血のほか、鋭い胸の痛み、呼吸困難、立ちくらみなどがあります。吐血は強い嘔吐を何度か繰り返した後にみられますが、1回目の嘔吐で吐血することもあります。鋭い胸の痛みを伴う場合は、特発性食道破裂の可能性があります。

大量出血した場合は、精神的な影響も加わってショック状態となり、意識はもうろうとなります。

マロリー・ワイス症候群の検査と診断と治療

ほとんどのケースで保存的治療が可能ですので、嘔吐した時や出血した場合は、なるべく早く内視鏡検査が行える診療所、病院を受診します。

医師は一般の血液検査で、貧血の状態をみます。裂傷部分の判定には、以前は胃X線検査を行っていたのですが、裂傷部が浅い場合はわからないため、現在は上部内視鏡検査(胃カメラ)を行っています。内視鏡検査では、どこから出血しているか、裂傷の深さ、大きさ、出血がどのような形態か、すなわち動脈性か、じわじわとした出血か、すでに止まっているかなどを観察します。

治療としては、軽症で出血が少ない場合は入院して、安静と絶食をしながら点滴を受け、裂けてしまった粘膜が自然に止血して回復するのを待ちます。出血が多く続く場合や、出血が止まっていても避けている部分が大きくて再出血する可能性が高い場合は、内視鏡下でレーザーを使って粘膜の裂傷部分を閉じ止血処置をします。止血処置には、裂傷の露出している血管にクリップをかける方法、血管を電気焼灼(しょうしゃく)する方法などがあります。

処置後は、安静、絶食、点滴などの治療を行い、裂傷の治療としてH2ブロッカーなどの胃酸分泌抑制剤を服用します。

大量出血した場合は、輸血が必要となることもあります。止血に時間がかかる場合は、内視鏡下で止血し、それでもなお止血が困難であれば手術をすることもあります。なお、食道破裂の場合は、すぐに手術する必要があります。

🇭🇳慢性胃炎

長い年月をかけて進行し、はっきりとした症状がみられない胃炎

慢性胃炎とは、症状がはっきりせず、胃のもたれ、不快感、食欲不振などが何となく起こるといった不定愁訴が、特徴的に認められる疾患。

それらの症状のほとんどは、いつから始まったのか、はっきりしません。また、全く症状がないこともあります。日本人にみられる慢性胃炎のほとんどは、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染が原因であることが、1980年代の初めから解明されています。ピロリ菌に感染し、その後、長い年月をかけて胃炎が進行して、慢性胃炎となるのです。

ピロリ菌は、胃の粘膜に生息している細菌。1980年代の初めに発見され、慢性胃炎や胃潰瘍(かいよう)の発生に関係していることがわかっています。通常、胃の中は、胃酸が分泌されて強い酸性に保たれているため、細菌が生息することはできません。しかし、ピロリ菌は、胃の粘膜が胃酸から胃壁を守るために分泌している、中性の粘液の中に生息し、直接胃酸に触れないように身を守っているのです。

ピロリ菌はウレアーゼという尿素分解酵素を分泌して、胃の中に入ってくる食べ物に含まれる尿素を分解し、アンモニアを作り出します。このアンモニアも胃の粘膜に影響を及ぼし、慢性胃炎の原因の一つになるのだと考えられています。

ただし、ピロリ菌に感染している人すべてに、症状が現れるわけではありません。感染しても、自覚症状がない場合、そのまま普通の生活を送ることができます。

ピロリ菌に感染している人の割合は、年を取るほど高くなる傾向があり、中高年の場合、70~80パーセントにも上ります。このように、年齢によって感染率に違いがあるのは、育った時代の衛生環境に関係していると見なされています。

慢性胃炎の検査と診断と治療

 慢性胃炎では、はっきりとした症状がないことが多いため、以下のような検査で胃に炎症が起きているかどうか調べます。

(1) 内視鏡検査:内視鏡で、胃の粘膜の様子を直接観察します。進行した慢性胃炎である委縮性胃炎では、粘膜が委縮して、薄くなり、血管が透けて見えたり、白っぽく見えます。

(2)組織診:内視鏡の中に器具を通し、胃の粘膜から組織の一部を採取してきて、顕微鏡で炎症があるかどうか調べます。また、慢性胃炎のほとんどの人はピロリ菌に感染していることがわかっていますから、慢性胃炎であるかどうかをより確実に知るためには、ピロリ菌に感染しているかどうかを調べることが必要になります。

ピロリ菌に感染しているかどうか調べる検査には、次のような方法があります。

内視鏡を使う方法

内視鏡によって胃の粘膜の組織を採取し、そこにピロリ菌がいるかどうかを調べる検査です。次の3つの方法があります。

1.ウレアーゼ試験:採取した組織を、尿素とpH指示液(酸性度、アルカリ性度を調べる)の入ったテスト溶液の中に入れて、色の変化を調べます。もし、ピロリ菌がいれば、ピロリ菌の出すウレアーゼによって、アンモニアが発生し、テスト溶液がアルカリ性になり、その結果、色が変わります。

2.組織診:採取した胃の粘膜の組織を顕微鏡で観察し、ピロリ菌の有無を調べます。

3.培養検査:採取した組織をピロリ菌が繁殖しやすい環境で培養し、その後、顕微鏡でピロリ菌の有無を調べます。

内視鏡を使わない方法

 内視鏡で組織を採取する方法に比べて、発症者の肉体的負担が軽い検査です。次の3つの方法があります。

1.血液検査:ピロリ菌に感染すると、それに対する抗体ができます。血液中にこの抗体があるかどうか調べる検査です。

2 .尿検査:血液検査と同様に、尿中にピロリ菌の抗体があるかどうかを調べます。

3.尿素呼気テスト:ピロリ菌はウレアーゼを分泌し、それによって、尿素をアンモニアと炭酸ガスに分解します。この炭酸ガスは、呼気にも出てきます。そこで、特殊な炭素を含んだ尿素(標識尿素)を飲み、15~20分後に呼気を採取して、その成分を調べます。ピロリ菌に感染している場合、標識された炭素を含む炭酸ガスが呼気の中に出てきます。

慢性胃炎の治療法としては、従来は対症療法だけが行われてきましたが、ピロリ菌が原因となることがわかってからは、抗生物質による根本治療も行われるようになっています。

(1)対症療法:急性胃炎と同様に、胃酸分泌抑制薬、胃粘膜保護薬、運動機能改善薬を服用します。

(2) 根本治療:2~3種類の抗生物質を、同時に1~2週間服用し続けることで、胃の中に生息しているピロリ菌を除菌します。2~3種類の抗生物質を用いるのは、1種類だけよりも効果が高いのと、その抗生物質に対する耐性菌(抗生物質が効かない菌)ができてしまうのを防ぐためです。

🇨🇫非熱帯性スプルー

小麦に含まれる蛋白質のグルテンが小腸粘膜に障害を起こし、栄養素の吸収が減少する疾患

非熱帯性スプルーとは、小麦に含まれる蛋白(たんぱく)質のグルテンが小腸粘膜に障害を起こし、栄養素の吸収不良が現れる疾患。グルテン腸症、グルテン過敏性腸炎、グルテン腸症候群、グルテン不耐症、セリアック病、セリアックスプルーなどとも呼ばれます。

グルテンは主に小麦に含まれ、大麦、ライ麦など他の麦類では含有量が比較的少量です。このグルテンに対する遺伝性の不耐症が非熱帯性スプルーであり、発症した人がグルテンを含んだ食品を摂取すると、グルテンの分解ができず、腸管免疫システムがそれを異物と認識して過剰に働くことで、産生された抗体が小腸の絨毛(じゅうもう)を攻撃し、慢性的な炎症が起こります。

この炎症によって、上皮細胞が変性したり、絨毛が委縮して、その突起が平坦(へいたん)になったりします。その結果、平坦になった小腸粘膜は糖、カルシウム、ビタミンB群などの栄養素の吸収不良を起こし、小腸がしっかり機能しなくなることで、さまざまな症状が出てきます。

しかし、グルテンを含んだ食品の摂取をやめると、正常な小腸粘膜のブラシ状の表面とその機能は回復します。

非熱帯性スプルーは、小児のころに発症する場合と、成人になるまで発症しない場合とがあります。症状の程度は、炎症によって小腸がどれだけ影響を被ったかで決まります。

成人で発症する場合は通常、下痢や栄養失調、体重減少が起こります。中には、消化器症状が何も現れない人もいます。非熱帯性スプルーの発症者全体のおよそ10パーセントに、小さな水疱(すいほう)を伴い痛みとかゆみのある湿疹(しっしん)がみられ、疱疹性皮膚炎と呼ばれます。

小児のころに発症する場合は、グルテンを含む食品を食べるまでは症状が現れません。通常、パンやビスケット、うどんなどによってグルテンを摂取するようになる2歳から3歳の時に発症します。

子供によって、軽い胃の不調を経験する程度から、痛みを伴って腹部が膨張し、便の色が薄くなり、異臭がして量が多くなる脂肪便を起こすこともあります。

非熱帯性スプルーによる吸収不良から起こる栄養素の欠乏は、全身の栄養状態の悪化を招いて栄養失調を起こし、さらに別の症状を起こします。別の症状は、特に小児で現れやすい傾向にあります。

一部の小児は、成長障害を起こし身長が低くなります。鉄欠乏による貧血では、疲労と脱力が起こります。血液中の蛋白質濃度が低下すると、体液の貯留と組織の浮腫(ふしゅ)が起こります。

ビタミンB12の吸収不良では、神経障害が起こり、腕と脚にチクチクする感覚を生じます。カルシウムの吸収不良では、骨の成長異常を来し、骨折のリスクが高くなり、骨と関節が痛みます。

また、カルシウムの欠乏では、歯のエナメル質の欠陥と永久歯の障害を起こします。非熱帯性スプルーの女児では、エストロゲンなどのホルモン産生が低下し、初潮がありません。

下痢、脂肪便、体重減少、貧血などの非熱帯性スプルーを疑わせる症状に気付いたら、消化器内科を受診します。

非熱帯性スプルーの検査と診断と治療

消化器内科の医師による診断では、小腸のX線検査と小腸の内視鏡検査を行います。小腸の繊毛が委縮、平坦化している状態が認められることと、グルテンを含む食品の摂取をやめた後に小腸粘膜の状態が改善していることにより確定します。また、グルテンを含む食品を摂取した時に産生される特異抗体の濃度を測定する検査を行うこともあります。

消化器内科の医師による治療としては、グルテンを含まない食事を摂取し、各種の栄養剤、ビタミンを補給します。

少量のグルテンでも症状を起こすので、グルテンを含む食品をすべて避けなければなりません。グルテンを含まない食事への反応は迅速に起こり、小腸のブラシ状の表面とその吸収機能は正常に戻ります。

ただし、グルテンはさまざまな食品中に広く含まれているので、避けるべき食品の詳細なリストと栄養士の助言が必要です。

グルテンを含む食品の摂取を避けても症状が継続する場合は、難治性の非熱帯性スプルーと呼ばれる状態に進んだ可能性があり、プレドニゾロンなどのステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)で治療します。

まれに、グルテンを含む食品の摂取を避け、薬物療法を行っても改善しなければ、静脈栄養が必要となります。小児では初診時に非常に重篤な状態になっている場合もあり、グルテン除去食を開始する前にしばらく静脈栄養の期間が必要になります。

グルテンを避ければ、非熱帯性スプルーのほとんどの発症者はよい状態を保てますが、長期間にわたって非熱帯性スプルーが継続すると、まれに腸にリンパ腫(しゅ)を形成し、死に至ることもあります。グルテン除去食を厳格に守ることで、腸のリンパ腫やがんなどの長期間にわたる合併症のリスクを減少させられるかどうかは、不明です。

非熱帯性スプルーの人は、グルテンを含まない穀物である米やトウモロコシを中心に、卵、肉、魚、牛乳、乳製品、野菜類、豆類、果物類を中心に摂取することになります。加工食品の場合、グルテンを含まないと表示されている物以外は注意が必要。

摂取できない食品としては、パン、うどん、ラーメン、ヌードル、パスタ(スパゲッティ、マカロニ)、ビスケット・クッキー・クラッカーなどの菓子、ケーキ、ビール、大麦水などが挙げられます。

グルテンを含んでいる可能性がある食物としては、豚肉(ソーセージ、ボローニャソーセージ)、缶詰のパテや肉、ミートボール、ハンバーガー、ホットドッグ、ソース、トマトソース、調味料、コーヒー代用品、チョコレート、ココア、アイスクリーム、キャンディー、食品色素などが挙げられます。

2022/08/15

🇳🇷低酸症

胃で分泌される胃液中の胃酸が少ない状態

低酸症とは、食べ物を消化するために胃で分泌される胃液中の塩酸、すなわち胃酸が少ない状態。胃酸減少症、減酸症とも呼ばれます。

胃液の中に、胃酸がほとんどないか、全くない状態は、無酸症(胃酸欠如症)といいます。

胃液は、強酸性で、pHは通常1〜1・5程度。塩酸、すなわち胃酸、および酸性条件下で活性化する蛋白(たんぱく)分解酵素のペプシンが含まれており、これによって蛋白質を分解して、小腸での吸収を助けています。同じく酵素のリパーゼは、主に脂肪を分解しています。

胃液はまた、感染症の原因になる細菌やウイルスを殺菌したり、一部の有害物質を分解したりすることで、生体防御システムとしての役割も担っています。例えば、コレラ菌は胃酸によってほとんどが死滅してしまうため、大量の菌を摂取しない限り感染は起こりませんが、胃酸の分泌量が少ない低酸症の人、胃酸の分泌がほとんどないか、全くない無酸症の人などでは少量のコレラ菌でも発症します。

低酸症は、胃液総酸度が30以下、塩酸含量0・1パーセント以下、pH1・59以上が相当します。

この低酸症を示す疾患の代表的なものは、慢性胃炎の中の委縮性胃炎。これは多くの日本人にみられますが、高齢になるに従い胃粘膜に委縮性変化が生じ、胃酸を分泌する壁細胞という細胞の数が減ってくるために、まず低酸症の状態となり、これが高度になると無酸症になると考えられています。

そのほかに、ビタミンB12や葉酸の欠乏によって生じる悪性貧血や、進行した胃がんなどで、胃粘膜に委縮性変化が生じた場合に、低酸症がみられます。手術によって胃を切除した時にも、低酸症が当然起こります。

胃酸が少ないために、食べ物の消化作用に支障が起き、食後の胃のもたれ、膨満感、胸焼け、食欲不振、軽い下痢など、さまざまな症状が現れます。

胃のもたれ、胸焼けなどの低酸症で現れる症状は、慢性胃炎、十二指腸潰瘍(かいよう)、食道がん、胃がんなどでもみられる症状であるため、異変に気付いたら内科、胃腸科、消化器科を受診して検査を受け、原因を確かめることが先決です。

低酸症の検査と診断と治療

内科、胃腸科、消化器科の医師による診断では、ガストリン、またはヒスタミンを注射し、チューブから胃液を採取する胃液検査で、胃酸分泌能を測ります。また、血中ペプシノーゲン値、特にペプシノーゲンのⅠ/Ⅱ比は、胃粘膜の委縮度と相関しているので、これを測ることによって胃酸分泌能を推測できます。

慢性胃炎や胃がんの診断には、X線検査や内視鏡が必要となります。

内科、胃腸科、消化器科の医師による治療では、検査によって他の疾患が除外され、単に低酸症で塩酸、すなわち胃酸の分泌量が少ないために、食べ物の消化作用に支障が起きている場合は、塩酸リモナーデなどの消化剤を服用します。

慢性胃炎による胃の粘膜の委縮も、胃腺(いせん)の委縮も、元に戻すことはできません。安静を心掛ける、ストレスを避ける、消化のよい食事を取る、コーヒーや香辛料などの刺激物の摂取を避けるなど、日常生活の中で注意をしていきます。

悪性貧血の治療は、基本的に鉄欠乏性貧血と同じで、不足しているビタミンB12か葉酸を補給すれば治ります。

🇵🇬腸管癒着症

腸管に癒着が起こり、便通異常などが生じる疾患

腸管癒着症とは、腸管に炎症が起こって外傷や損傷ができ、その傷が治る過程で腸管が癒着し、腸の通過能力に支障が出てしまう疾患。

腸管と腸管において癒着が起こったり、腸管と腹膜などの隣接組織で癒着が起こったりします。癒着の原因となる外傷や損傷の元となるのは、外科手術によるものが最も多く、虫垂炎、胃潰瘍(かいよう)、十二指腸潰瘍、胃がん、胆石などの手術で発生することがあります。虫垂炎を手術せずに治療した場合、いわゆる散らし場合でも虫垂周囲に癒着が起こることもあります。女性では、帝王切開や子宮筋腫(きんしゅ)などの外科手術によっても、癒着が起こることがあります。

腸管癒着症では、便通異常のほか腹痛、腹鳴、腹部膨満感、食欲不振、吐き気、不眠、倦怠(けんたい)感などの症状が現れます。腹痛の程度は激しい腹痛から鈍痛までさまざまで、最も激しいものは腸閉塞(へいそく)によって生じます。腸が完全に詰まらないまでも、癒着した部分で腸が引っ張られたり、腸の内容物の流れが滞ったり、腸の内容物を肛門(こうもん)側へ送る蠕動(ぜんどう)運動がうまく伝達されなかったりして、腹痛が生じます。

自律神経の問題に影響が出る場合は、癒着が原因ではなく、手術による精神的なストレスが元となっています。

外科手術を行った後は、傷の自然治癒力によって症状が軽減されていきます。通常は特に治療を受ける必要はなく、症状を和らげるために、腸に刺激を与えない消化のよい食事を心掛けたり、便秘をしないように気を付けることで対処します。

しかし、症状が突然悪化した場合は、まず腸閉塞が疑われ、癒着がひどい場合は再手術が必要になることもあります。

腸管癒着症の検査と診断と治療

腹痛、便通異常などの症状のある時は、一度は医療機関を受診し、原因が何かを検査します。とりわけ、腹部の外科手術をしたことがない人に腹痛などが現れた場合は、受診して検査するべきです。

医師による診断は、発症者の自覚症状から行います。CTや超音波検査で、腸管癒着の程度や場所がわかることもあるものの、詳細までは判断できません。腸管癒着症と同様に軽い腹痛や腹部の違和感で発症する疾患として、胃がん、大腸がん、肝臓疾患などの重い疾患もあるため、それらと鑑別する検査が必要なこともあります。

特殊な治療はなく、食事内容を工夫したり、便秘に気を付けたり、適度な運動を心掛けるなど生活習慣上の注意が中心になります。便秘時に症状が強い時には、消化剤や下剤、場合によって漢方薬を処方することもあります。

激しい腹痛など症状がひどい時には、早急な開腹手術が必要になることもあります。しかし、特に癒着性の腸閉塞では、何回も開腹するとかえって癒着が強くなり、再発の原因になりかねませんので、診断を確実にして、手術をするかしないかを慎重に決めます。

2022/08/14

🇬🇩慢性腸炎

腸の粘膜に慢性的な炎症が生じ、便通異常を起こす疾患

慢性腸炎とは、腸の粘膜が長期間に渡って炎症を起こしている疾患。主に大腸が侵されることが多く、小腸炎はまれです。

この慢性腸炎になると、飲食物の栄養分の腸での吸収が十分に行われないで、便に出てしまいます。そのため、腸内での発酵が起こったり、腐敗が起こったりします。

主な症状は、急性腸炎と同様に下痢です。主に朝、または夜に下痢があり、日中には何ら異常が起きない場合もあります。下痢と便秘が交互に起こることもあります。下腹部に軽い腹痛が起こり、腹がよく鳴ったり、おならがよく出ることもあります。

排便には1日数回行くことが多く、軟便もあれば水様便もあるというように、便の状態がいろいろで、粘液や血液が混じることもあります。時には、肉眼で見られるような血液が混じっていることもあります。小腸下部から盲腸に炎症が限局している時は、出始めの便は硬く、終わりになるにつれて軟らかくなることがあります。

また、毎食後必ず便意を催すような人もあります。食後まもなく、へその回りや左下腹部に短時間の痛みが起こり、便が出ると一時的に楽になりますが、排便後に衰弱感、脱力感、倦怠(けんたい)感があります。

こういった症状が長く続くと、不安を抱いたり、神経質となって頭重、めまい、動悸(どうき)、不眠などを起こし、無気力になることもあります。栄養状態は比較的侵されないものの、子供や老人では衰弱してしまうことがあります。

慢性腸炎の原因としては、まず感染症が挙げられ、腸結核、かびの一種の放線菌によって起こる化膿(かのう)性の放線菌症、病原性アメーバの感染によって起こるアメーバ赤痢、胆管や腸内に寄生するランブル鞭毛(べんもう)虫によって起こるランブリア症などがあります。

感染症以外では、急性腸炎にかかった時の治療が不十分で、不摂生や精神的ストレス加わって起こります。時には、胃や肝臓、膵(すい)臓、心臓などの疾患から直接、間接に腸が刺激されて起こることもあります。そのほか、薬剤性腸炎によるもの、化学物質によるもの、放射線障害などによるものもあります。

原因がまだわかっていないものも多く、非特異性炎症性腸炎と呼ばれ、潰瘍(かいよう)性大腸炎やクローン病などがそれに相当します。

そのほか、薬剤性腸炎、化学物質によるもの、放射線障害などによるものもあります。

慢性腸炎の合併症として、しばしばビタミン欠乏症が起きます。生野菜や果物を食べると下痢を起こし、ビタミンの吸収が悪くなります。ことにビタミンB2、ビタミンCの欠乏のために、舌や口の中に変化を起こしたり、口角炎なども起こしやすくなり、重症では体重が急激に減少することがあります。ビタミン以外の栄養障害で、貧血を起こしたり、リウマチ様関節炎を合併することもあります。

慢性腸炎の検査と診断と治療

慢性腸炎の症状が長く続くと、不安を抱いたり、神経質となって頭痛やめまいまで起こす場合もありますので、早いうちに内科の専門医を受診します。

医師による診断では、便の検査が最も重視されます。色調、形、内容物の状態、血液が混じっているかどうかなどを調べ、さらに顕微鏡で、不消化の状態、寄生虫や原虫の有無などを調べます。細菌については培養して確定診断をしますが、培養に日数を要するものもあります。

そのほか、腸のX線検査、大腸内視鏡検査が行われることもあります。

ほかに似たような症状が現れる疾患として、過敏性腸症候群や吸収不良症候群などがあります。

原因によって、治療法が異なります。感染症の場合は、それに適応する抗生物質が用いられます。副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)も用いられます。

慢性腸炎を防ぐには、規則正しい食生活やストレスをためない生活習慣を心掛けることが基本となります。

食事時間を規則正しくし、刺激の少ない、消化のよい食品を選びます。脂肪の多い豚肉や牛肉、それに繊維の多い果物や生野菜は避けるようにします。冷たい物、アルコール、濃い茶、コーヒ ー、刺激物なども避け、食品の調理では熱すぎず、冷たすぎず、味付けも濃すぎず、辛すぎず、酸っぱすぎずを基本とします。

睡眠を十分にとること、タバコをやめること、おなかを温めること、寝冷えを防ぐことも大切で、スポーツやレクリエーション、趣味などによるストレス解消法を考えることも大切です。

ただし、完全に治るまでには長期間を要しますので、あまり神経質にならないようにします。

🇧🇧ボックダレック孔ヘルニア

横隔膜に生まれ付き開いている穴を通して、腹腔の臓器が胸腔へ脱出

ボックダレック孔ヘルニアとは、横隔膜に生まれ付き開いている穴を通して、腹腔(ふくくう)内の臓器が胸腔内に入り込んだ状態。先天性の横隔膜ヘルニアの一つで、胸腹裂孔ヘルニア、後外側ヘルニア、後外側裂孔ヘルニアなどとも呼ばれます。

先天性の横隔膜ヘルニアの中でも、穴の位置や大きさによってはほとんど症状や障害を起こさないものがありますが、ボックダレック孔ヘルニアは横隔膜の後ろ外側に穴があるタイプで、多くは生まれた直後から呼吸困難など生命にかかわる重大な症状を来します。新生児2000〜3000人に1人の割合で、認められています。

横隔膜は、肺の下に位置していて胸腔と腹腔を区切る膜で、上のほうは胸膜、下のほうは腹膜で覆われています。この筋肉層の丈夫なドーム状の膜である横隔膜が上下することによって、呼吸ができます。

胎児が母胎にいる時、次第に横隔膜が形成されてきて、妊娠2カ月半ころにはしっかりと横隔膜が胸腔と腹腔を区切るのですが、何らかの原因で横隔膜の後外側孔(ボックダレック孔:解剖学者の名前)がきっちりと閉じ切らないことがあります。このころは、腹腔の外に一度出ていた腸などの臓器が腹腔の中に戻って来る時期で、穴があると臓器が胸腔に入り込むことになり、横隔膜が閉じようとしても脱出した臓器がじゃまをして閉じられなくなってしまいます。

小腸、大腸、胃、脾(ひ)臓,肝臓などたくさんの臓器が胸腔に入り込むと、穴の開いていない側の肺も圧迫され、肺の発達が両側とも障害され、生まれてからひどい呼吸困難を来すこととなります。横隔膜にできる穴はどちらの側にも発生しますが、左側が75パーセントと多く、時には片側の横隔膜がほとんどできていないこともあります。

症状の程度は、発症の時期により異なります。胎児の場合はへその緒から酸素をもらっているので平気なのですが、出生後は自分で呼吸しなければならないため、多くの場合は重症の呼吸不全、高度のチアノーゼを伴った多呼吸が認められます。胸部は膨らんで盛り上がり、逆に、うまく空気が回らない腹部はへこんでいるのも特徴です。呼吸障害が強く、出生直後から人工呼吸管理が必要になります。

特殊な例としては、出生直後には呼吸器症状は示さず、年長になってから、風邪をひいて強いせきをした時や腹部を打撲した時に発症する場合があります。これを遅発性といい、速やかに手当てを受ければほぼ助かります。

ボックダレック孔ヘルニアの検査と診断と治療

先天性でボックダレック孔ヘルニアを持って生まれてくる場合、大抵は胎児が母胎の中にいるうちに医師が胎児超音波検査で気付き、早期に帝王切開で出産することになります。

成長すればするほど脱出した臓器が胎児の肺を押しつぶし、危険な状態になっていくからで、出生直後から人工呼吸管理を行った上で、体の血液循環を安定させ、できるだけ早期に、手術に耐えられるようになった時点で速やかに、生育時に閉じ切れなかった横隔膜を閉じる手術が行われます。

すべての医療機関で可能な方法ではないものの、人工肺(ECMO)という特殊装置を用いて新生児の血液循環を改善させてから、手術が行われることもあります。横隔膜の欠損が大きい場合は、人工膜を使用して横隔膜の形成手術が行われます。

しかし、最高の環境で早期に手術が行われても、生存率は芳しくないのが実情です。出生後24時間以内の発症例は予後が悪く、救命率は約50パーセント程度と見なされています。出生後1日以上を経過してから呼吸障害などでボックダレック孔ヘルニアが見付かっ場合や、生後たまたま他の疾患の検査時に見付かった場合は、肺の発育が良好なため、治療成績は格段に良好です。

年長になってから発症する遅発性ボックダレック孔ヘルニアでは、100パーセント救命されます。

🇨🇷臍炎

新生児のへそに細菌が感染し、周囲にも炎症が及んだ状態

臍炎(さいえん)とは、新生児の臍帯(へその緒)が取れたくぼみの部分に細菌感染が起こり、へそやへその周囲に炎症が及んだ状態。

出生時に母胎と切り離された新生児の臍帯は、生後1週間〜10日で乾いて自然に脱落し、跡はすぐ皮膚で覆われたくぼみになります。このくぼみにたまった垢(あか)や汗、異物などに細菌が感染すると、臍炎が生じます。

症状としては、へそやその周囲に発赤、はれ、痛みが起こったり、へそから分泌液や、うみが出てジクジクしたりします。出血することもあります。

臍炎の検査と診断と治療

へそやへその周囲が赤くはれている、分泌物が出ている、出血している、新生児が痛がるなどの症状が出ている場合には、早めに小児科を受診します。

医師による治療は、感染した垢や異物を取り除き、うみを十分に排液しながら消毒を行います。さらに、抗生物質を服用したり、軟こうを塗布します。

このような処置で通常は比較的短期間に治癒することが多いのですが、症状が長引く場合や再発を繰り返す場合は、ほかの病状を考える必要があります。

胎生の初期では、臍帯が腸管や膀胱(ぼうこう)とつながっているために、まれに腸管の一部が臍部に残る臍ポリープを生じたり、膀胱とのつながりが臍部に残る尿膜管遺残を生じたりすることがあります。これらは臍炎とは別のもので、治りにくく手術が必要です。

<臍炎の予防としては、へその緒が取れたくぼみの部分がきれいに乾くまで、しっかり消毒します。入浴後に消毒し、滅菌ガーゼを張っておくのがよく、出産した病院でもらえる臍消毒セットを使い切るぐらいまでやっておくと安心です。

🟧1人暮らしの高齢者6万8000人死亡 自宅で年間、警察庁推計

 警察庁は、自宅で亡くなる1人暮らしの高齢者が今年は推計でおよそ6万8000人に上る可能性があることを明らかにしました。  1人暮らしの高齢者が増加する中、政府は、みとられることなく病気などで死亡する「孤独死」や「孤立死」も増えることが懸念されるとしています。  13日の衆議院...