2022/07/31

🇳🇦炎症性腸疾患

主として消化管に原因不明の炎症を起こす慢性疾患の総称

炎症性腸疾患とは、主として消化管に原因不明の炎症を起こす慢性疾患の総称。通常の食中毒などと異なり数日でよくなりことはなく、長期に渡ってよくなったり悪くなったりしながら症状が続きます。

適切な治療を受ければ通常の生活を送れますが、完全に治ることはなく、生活が大きく犠牲になるのが炎症性腸疾患の特徴です。具体的には、クローン病と潰瘍(かいよう)性大腸炎の2疾患からなります。

クローン病は腹痛と下痢が続く原因不明の慢性疾患

クローン病は、小腸の最後の部分に当たる回腸末端を中心に、小腸のほかの場所、大腸から口腔(こうくう)に至る消化管に炎症を起こし、びらんや潰瘍を生じる慢性の疾患。大腸だけが侵される潰瘍性大腸炎と似ている点も多く、2つをまとめて炎症性腸疾患と呼びます。

遺伝的要因とそれに基づく腸管での異常な免疫反応のためとされていますが、はっきりとした原因は解明されていません。食生活の欧米化によって、日本でも20歳代を中心に発症者数が増えており、食物中の物質や微生物が抗原となって異常反応を引き起こすことが、原因の1つと考えられています。

1932年に、アメリカの内科医ブリル・バーナード・クローンらによって限局性回腸炎として報告され、後に病名は改められましたが、回腸末端から盲腸にかけての回盲部に好発する点は確かです。病変が小腸のみにある小腸型、大腸のみにある大腸型、両方にある小腸大腸型に分類されます。日本では、いわゆる難病として厚生労働省特定疾患に指定されており、申請すると医療費の補助が受けられます。

主な症状は、腹痛、下痢。進行すると、体重減少、発熱、貧血、全身倦怠(けんたい)感がみられます。また、腸管が部分的に非常に狭くなることが多く、そのため腹痛はなかなか軽快しません。

血便はあまりはっきりしないこともあり、下痢や下血が軽度の場合、なかなか診断が付かないことがあります。口腔粘膜にアフタ(有痛性小円形潰瘍)や小潰瘍がみられたり、痔(じ)、特に痔瘻(じろう)や肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)といわれる難治性の肛門疾患を合併したりすることがあります。

また、消化管以外の症状として、関節炎、結節性紅斑や壊疽(えそ)性膿皮症などの皮膚症状、ぶどう膜炎などの眼症状を合併することがあります。

潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に多数の潰瘍ができ、再発しやすい難病

潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜に多数の浅い潰瘍ができ、出血する疾患。クローン病と同じく、厚生労働省から特定疾患の一つに指定されています。

最近、日本でもだんだん増えてきた大腸の慢性の炎症で、20歳代、30歳代で発症する人が多く、子供や50歳以上の人でも起こり、男女差はありません。日本では、人口10万人当たり2〜3人くらいで、毎年おおよそ5000人増加していますが、欧米では日本の2〜3倍多いとされています。

原因については、まだよくわかっていません。 細菌やウイルスの感染、ある種の酵素の不足、ストレス、体質が関係しているといわれ、近年では自己免疫異常説がかなり有力です。

私たちの体には、細菌などの有害なものを排除する免疫の仕組みがあります。この免疫の仕組みは腸の中でも働いていて、食べ物が腸を通過する際には、栄養分のように体に必要なものだけを腸の粘膜から吸収し、不要なものや有害なものは吸収せずに、そのまま腸から通過させて便として排出します。 ところが、免疫機構の異常が大腸に生じると、不要なものまで腸の粘膜から吸収されるようになる結果、大腸の粘膜に炎症が起こって潰瘍ができると考えられています。

また、潰瘍性大腸炎が増加している背景には、大腸がんと同じように、食生活の欧米化、特に脂肪の多い食事の取りすぎがあると推測されます。

最初、病変が直腸にできる直腸炎型として起こり、直腸からS状結腸に渡って病変が広がって直腸S状結腸炎型となります。さらに、下行結腸へと広がる左側大腸炎型となり、横行結腸から上行結腸へと進んでいき、全大腸炎型になります。直腸炎型は最も軽く、全大腸炎型が最も重症です。

潰瘍性大腸炎の主な症状は、腹痛と血便。最初は腹痛と下痢で始まり、次第に下痢便に血液が混じって血性下痢になります。直腸の一部のみに病変が限られている時は、排便の際に少量の出血がみられる程度のため、内痔核からの出血とはっきり区別が付けにくいこともあります。

直腸やS状結腸に強い病変が起こると、渋り腹という状態になり、排便した後もすっきりせず、何回でもトイレに行きます。

腹痛は、左下腹部に起こることが多く、特に排便の前に強くて、排便後は軽くなって消失します。そのほか、腹部のはれぼったい感じ、食欲不振、吐き気、嘔吐(おうと)などが起こってくることもあります。体温の変化は、最初は特にないものの、炎症が進んでくると、発熱するようになります。

さらに重症になってくると、1日のうち、何回も血性下痢が起こり、食欲不振と体重減少が生じます。

この潰瘍性大腸炎は、大腸の炎症のほかにも、いろいろな合併症を引き起こしやすい疾患で、腸の局所的な合併症と、全身的な合併症とがあります。

局所的な合併症として、痔核、痔瘻、肛門周囲膿瘍などの直腸と肛門の疾患や、炎症の結果として、大腸の内腔が狭くなる大腸狭窄(きょうさく)、潰瘍が深くえぐれる大腸穿孔(せんこう)を起こしたりします。

大出血や、大腸が急にまひして拡張する中毒性大腸拡張症などを合併することもあります。そのほか、血液中の蛋白(たんぱく)質が胃腸から漏れ出る蛋白漏出性胃腸症などを起こして、栄養障害の引き金になることもあります。

全身的な合併症としては、出血に伴う貧血、結膜炎や虹彩(こうさい)炎などの目の疾患、口内炎や重い皮膚炎、関節炎などがあります。重症の潰瘍性大腸炎では、肝炎や肝硬変、膵炎(すいえん)といった内臓の疾患を合併することもあります。

症状の経過によって、潰瘍性大腸炎は再発寛解(かんかい)型、慢性持続型、急性電撃型、初回発作型に分けられます。

再発寛解型は、一時的によくなったり、再発したりを繰り返すタイプ。慢性持続型は、病状がずっと慢性的に続くタイプ。急性電撃型は、最も重症で突然に病状が悪化するタイプ。初回発作型は、1回しか起こらず、直腸だけに限局して軽く、進行しないタイプ。

一般に、病変に侵された大腸の範囲が広いほど予後が悪く、合併症も多くなります。

炎症性腸疾患の検査と診断と治療

クローン病の検査と診断と治療

クローン病をいったん発症すれば、急性期は家庭で自分でコントロールできる疾患ではありません。まれな難病ですので、胃腸科専門医の適切な治療を受けることが大切です。

クローン病の病変は、非連続性といわれ、正常粘膜の中に潰瘍やびらんが飛び飛びにみられます。また、縦走潰瘍といわれる消化管の縦方向に沿ってできる細長い潰瘍が特徴的で、組織を顕微鏡で見ると非乾酪性類上皮細胞肉芽腫(にくげしゅ)といわれる特殊な構造がみられます。大腸内視鏡検査、小腸造影検査、上部消化管内視鏡検査などを行い、このような病変が認められれば診断がつきます。血液検査では炎症反応上昇や貧血、低栄養状態がみられます。

根本的治療法はありませんが、薬物療法として、5—アミノサリチル酸製剤(サラゾピリン、ペンタサ)、ステロイド薬を使用します。食べ物が原因の1つとして考えられているため、栄養療法も重要で、最も重症の時には絶食と中心静脈栄養が必要です。少しよくなってきたら、成分栄養剤(エレンタール)という脂肪や蛋白質を含まない流動食を開始します。成分栄養剤は、栄養状態改善のためにも有効です。

炎症が改善し普通食に近い物が食べられるようになっても、脂肪の取りすぎや食物繊維の多い食品は避けます。

腸に狭窄を生じたり、腸管と腸管、腸管と皮膚などがつながって内容物が漏れ出てしまう瘻孔を生じたり、腸閉塞、穿孔、膿瘍などを合併したりした場合、内科的治療の効果が期待できないため手術が必要となることがあります。

最近、抗体療法である抗TNFα(アルファ)抗体製剤(レミケード)が日本でも使用可能となり、高い活動性が続く場合や瘻孔を合併している場合に明らかな効果が認められています。対症療法として、止痢薬、鎮痙(ちんけい)薬などを使用します。免疫抑制薬(アザチオプリンなど)を使用することもあります。

長期に渡って慢性に経過する疾患であり、治療を中断しないことが大切です。治療の一部として日常の食事制限が必要なことが多く、自己管理と周囲の人たちの理解が必要です。症状が安定している時には通常の社会生活が可能です。

潰瘍性大腸炎の検査と診断と治療

血便や下痢を起こす疾患は、潰瘍性大腸炎のほかにも、急性腸炎やがんなどいろいろあります。自分の判断で安易に下痢止めや止血剤を使うと、かえって症状をひどくする危険があります。消化器科の専門医を受診して、内視鏡検査などをした上で適切な治療を受けるようにします。潰瘍性大腸炎の合併症も早期に発見できれば、長引かせずに治療することが可能になります。

医師による診断のための検査では、大腸のX線検査が重要です。腸管を下剤で完全に空にした状態で、肛門から造影剤と空気を入れてX線撮影するもので、大腸の粘膜の凹凸、びらん、潰瘍などが描写され、病変の範囲や、程度を知ることができます。次いで、大腸内視鏡検査によって、より詳細な所見を捕らえ、診断を確実にします。

潰瘍性大腸炎は原因がはっきりしないため、決定的な治療や予防はまだできないのが現状です。対症療法としては、まず精神的、肉体的な安静を保ち、消化吸収がよく、栄養価の高い食事をとります。豆腐や白身の魚、鶏のささ身などは最適です。

炎症がひどい時には、脂質の多い食品や、繊維質の多い食品は避ける必要があります。脂質の多い食品は胃腸の負担を増大させますし、繊維質が多い食品は便の量が増えて、大腸の粘膜の傷が刺激されやすくなるからです。また、出血を伴う場合は、わさび、からし、こしょうなどの刺激物や、アルコール類のように血管を拡張させるものも控えるようにします。

薬物療法としては、軽症ではサラゾスルファピリジンというサルファ剤を内服薬、または座薬として用います。サルファ剤は、特効的に効果を発揮することがあります。中等症では副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の内服薬、座薬が用いられます。重症では抗生物質、輸液、輸血が必要なこともあります。中等症、重症では、入院治療を要します。

急性電撃型の場合、内科的な治療だけでは無理なため、手術が必要です。全大腸炎型で生命に危険があると判断された場合も、手術が行われます。全身に及ぶ合併症の場合には、消化器科の専門医に加えて、眼科、皮膚科、整形外科などの多くの専門医が協力して、治療に当たることになります。

この潰瘍性大腸炎は、一時的に快方へ向かっても、しばしば悪化します。精神的なストレスや不安感が引き金になることが多く、しばしば試験勉強などで悪化したり、暴飲暴食で悪化することも少なくありません。

従って、十分に睡眠をとることと、食事を規則正しくして、過労を避け、精神の安定に努めます。いずれにしても長い経過をとる疾患なので、療養にもそれだけの時間がかかります。

🇳🇷炎症性乳がん

まれに発生する特殊なタイプの乳がんで、非常に治りにくい種類

炎症性乳がんとは、乳房の皮膚が赤くはれて、オレンジの皮のような外観を示すタイプの乳がん。

まれに発生している特殊なタイプの乳がんで、非常に治りにくい種類です。乳がん全体の約1パーセントを占めます。

一般的な乳がんと同様、40~50歳代に最も多く発症しますが、全年齢において発症する可能性があります。

主に乳頭周辺に症状が出現し、はっきりしたしこりはなく、乳房の3分の1以上の皮膚が赤くはれて、あたかも炎症を起こしたかのように見えるのが特徴です。

さらに、乳房の皮膚がザラザラして、でこぼこになり、毛穴が目立つようになります。まるでオレンジや夏みかんの皮のような外観を示すため、オレンジ皮様皮膚、橙皮(とうひ)状皮膚などと呼ばれることもあります。

また、比較的短期間のうちに乳房が大きくなることも特徴の一つです。乳房が熱を持つように感じ、かゆみが出ることもあります。これらの症状はほとんどの場合、片側の乳房だけにみられます。

しかし、実際は皮膚炎などではなく、がん細胞が乳房のリンパ液の流れをブロックすることにより、皮膚に症状が出たものです。

皮膚の下には、網の目のように張り巡らされたリンパ管があります。このリンパ管の中に、乳管で発生したがん細胞が入って増殖し、詰まりを起こすために、リンパ液の流れが停滞し、乳房の炎症やはれを引き起こします。

さらに進行すると、乳房に潰瘍(かいよう)ができることもあります。ここから分泌液が染み出したり、出血することがあります。潰瘍に細菌などが感染すると、臭いを発するようになります。

まれな乳がんではあるものの、乳がんの中では比較的進行が早く、転移も起こしやすいことから、悪性度の高いがんといえます。

診断がついた時には、すでにほかの部位に転移しているケースも多く、その皮膚の症状や急激な進行から、急性乳腺(にゅうせん)炎と誤診されることも珍しくありません。乳房に赤みやはれが認められたら、皮膚科のみならず、乳腺外科を受診してみることが勧められます。

炎症性乳がんの検査と診断と治療

皮膚科、乳腺外科の医師による診断では、しこりがないケースが多いため、一般的な乳がんで有効なマンモグラフィー(乳房X線検査)、超音波(エコー)検査などでわからないことがほとんどです。

乳房の皮膚を一部採取し、顕微鏡で調べる生体検査が、最も確実とされています。生体検査を行い、皮膚やその下にあるリンパ管に、がん細胞が存在しているのが確認されれば、炎症性乳がんと確定します。

皮膚科、乳腺外科の医師による治療では、抗がん剤による化学療法を中心に、症状に応じて乳腺の動脈に直接抗がん剤を注射する方法や、放射線療法、ホルモン療法などが選択されます。

乳房を切除する手術をした場合でも、手術後の化学療法を継続することで、5年生存率は約50パーセントまでに上昇しています。

以前は、乳房を切除する手術のみの治療が主に行われていましたが、その結果は思わしくないもので、患者のほぼ全員に再発がみられ、5年生存率はわずか17パーセントであったとのデータがあります。

🇳🇷遠心性後天性白斑

黒子を中心にして、周囲の皮膚に白いまだらが円形に生じる疾患

遠心性後天性白斑(はくはん)とは、色素性母斑の一番小さい型である黒子(ほくろ)を中心にして、周囲の皮膚に白斑が円形に生じる疾患。サットン後天性遠心性白斑、サットン白斑、サットン母斑とも呼ばれます。

小児や青年の胴体や顔、頸部(けいぶ)などにみられ、中心から外に向けてだんだん大きくなる傾向があります。その半数くらいに、全身どこにでも突然、皮膚の一部の色が抜けて、その部分が白斑、すなわち白いまだらとなる尋常性白斑の合併がみられます。

遠心性後天性白斑は徐々に広がりますが、それに伴って中心にある黒子は縮小するようになり、最終的には消えます。中心の黒子が消失すると、周囲の白斑も消失していく傾向があります。

遠心性後天性白斑は、中心にある色素性母斑である黒子や、皮膚の色素であるメラニンを作るメラノサイト(メラニン細胞、メラニン形成細胞、色素細胞)に対する自己免疫反応が原因といわれています。この正常でない免疫反応が、中心にある黒子に対して生じ、次いで、黒子の周囲の正常な皮膚のメラノサイトに対しても生じると、メラノサイトを変性させたり、消失させるために皮膚の色が抜けて、白いまだらが円形に生じることになります。

なお、中心に黒子がないのに、腫瘍(しゅよう)や母斑の周囲に同じような白斑ができることをサットン現象といいます。最も危険なのは悪性黒色腫(メラノーマ)で、しばしばみられます。血管腫、皮膚線維腫、表皮母斑、青色母斑、老人性疣贅(ゆうぜい)(いぼ)などでも、このサットン現象が起こることがあります。

遠心性後天性白斑の検査と診断と治療

皮膚科、ないし皮膚泌尿器科の医師による診断では、視診で判断します。皮膚をほんの少し切り取って病理組織検査を行うと、黒子の周囲の皮膚のメラノサイトの消失、あるいは変性が見られ、その周りにはマクロファージおよびリンパ球の浸潤が見られます。

皮膚科、ないし皮膚泌尿器科の医師による治療では、中心の黒子が消失すると周囲の白斑も軽快していくため、治療として中央の色素性母斑である黒子だけを切除する場合もあります。初期の段階で切除すると、白斑は自然に消えて治癒します。

また、特に支障がない場合、経過観察になることもあります。基本的には、尋常性白斑と同様の治療方法がとられます。

尋常性白斑と同様の治療としては、外用剤として副腎(ふくじん)皮質ステロイド軟こうやビタミンD3軟こうなどを使用する治療と、紫外線照射療法(PUVA療法)が一般的です。外用剤の皮膚への塗布は、内服薬に比べて全身に及ぼす副作用が少なく、免疫の働きを調節する作用があります。

紫外線照射療法(PUVA療法)は、オクソラレンという薬を10〜30分前に塗布、ないし2時間前に内服し、その後、長波長紫外線を照射する方法です。紫外線の働きで残っている色素細胞が活発になり、色素を作るようになるのを期待します。紫外線に当たった後は、せっけんで薬をよく洗い落とします。近年では、中波長紫外線(UVB)のうち、治療に有効な波長のみを全身に照射するナローバンドUVB療法も行われています。

治療の効果があると、白斑の中に点状の色素斑ができて徐々に拡大し、島状の色素斑になります。続いて、白斑の周囲にも色素が増強すると、徐々に周囲の肌色になじんできます。

🇳🇬円錐角膜

角膜の形が変形して、視力が低下する疾患

円錐(えんすい)角膜とは、角膜のほぼ中央が前方へ突き出して円錐形となり、その中央が非常に薄くなる疾患。角膜の変形によって視力が低下し、疾患が発見されます。

眼球の黒目の表面を覆う薄い膜である角膜は、透明であることによって、光を眼球の内部に導きます。また、角膜の形は、きれいな球面であることによって、水晶体と並んで眼球のレンズとしての役割を果たしています。よって、角膜が混濁すると視力が低下し、角膜の形が変形するとレンズとしての機能が損なわれ、同じく視力が低下します。

円錐角膜の多くは、思春期ごろに発症します。徐々に進行し、一般的には30歳ごろに進行が停止すると見なされています。個人差によって、30歳を超えても進行することがあります。いずれにしろ、風邪のようにすぐ治ってしまう疾患ではなく、近視のように一度生じるとずっとある疾患です。

ほとんどが両目に起こり、左右の目で進行の程度に差があることが一般的です。片方の目は軽くてすむこともあります。最初は近視や乱視が急に進むという症状で始まり、自覚的な症状としては視力障害や、片目で物を見た時に二重に見える片目複視、異物感が主です。視力は、眼鏡で十分に矯正できます。

ある時期から急に進行すると、角膜の中央が前方へ突き出してきます。物がゆがんで見えるようになったり、遠近の距離を問わず視力が低下し、夜間の視力はしばしば極めて低下します。眼鏡では無理で、ハードコンタクトレンズでないと視力の矯正ができなくなってきます。その後、さらに角膜が突出してくると、コンタクトレンズも装用できなくなり、強い視力低下を起こします。 失明することはまずありません。

時には、進行中に急性水腫(すいしゅ)を生じることもあります。角膜の一番奥に亀裂(きれつ)が生じ、そこから角膜内に大量の眼内液が流入するため、角膜が著しくはれます。この急性水腫の際には、肉眼でも角膜の中央が白く濁っているのがわかるようになり、視力はさらに低下します。

円錐角膜はいまだ不明な点の多い疾患で、原因は不明。発見されても全く進行しない場合があるなど、経過もさまざま。遺伝することもあるため遺伝的素因、アトピー性皮膚炎を合併していることも多いためアレルギー性素因が原因の一つと見なされ、目をこするという外力が悪化の要因となっていると見なされています。

円錐角膜の検査と診断と治療

円錐角膜は不明な点が多く、経過もさまざまですが、急に進行すると重篤な症状に至ることもあるため、軽症のうちに眼科の専門医を受診します。

医師による診断では、進行したものは細隙(さいげき)灯顕微鏡検査でわかります。軽症のものは、フォトケラトスコープやビデオケラトスコープという特殊な装置によって、角膜の表面の形を解析する検査が必要です。パキメーターという角膜の厚みを測る検査も、診断に役立ちます。 

軽症の時は、眼鏡なし、あるいは眼鏡かソフトコンタクトレンズで適正な視力が得られます。進行した時は、多くの場合ではハードコンタクトレンズを装用することで、視力を維持することができます。また、軽度の時は、一般に市販されているコンタクトレンズが装用可能ですが、進行した時は、特別に注文して作成するコンタクトレンズでないと装用できなくなります。

近年では、円錐角膜用の特殊なコンタクトレンズも開発されています。ハードコンタクトレンズを装用することによって、円錐角膜の突出の進行が抑制される効果もあります。

コンタクトレンズが良好に装用できれば、運転その他の日常生活を通常通り送れるようになります。年に数回は、コンタクトレンズのチェックと円錐角膜の進行の有無を調べる目的で、定期検査を受ける必要があります。

急性水腫が生じた時は、コンタクトレンズは装用せず経過をみます。非常に強いはれと濁りがあるにもかかわらず、だいたい1〜2カ月で角膜内の眼内液が引き、透明性も回復して軽快します。軽快後、多くの例では再びコンタクトレンズが装用できるようになります。 以前は、急性水腫に対して緊急で角膜移植手術を行っていましたが、その後の研究で、緊急の手術は必要がないことが立証されています。

もしコンタクトレンズが装用できない、あるいは装用しても視力を矯正できない状態まで円錐角膜が進行した場合は、角膜移植手術が行われます。前方へ突き出して薄くなった中央部の角膜を取り除き、死亡後にアイバンクへ提供された人の角膜を、移植するものです。

角膜移植手術の成功率は非常に高いものの、術後に乱視や近視が残ることがあります。この場合には、コンタクトレンズで矯正します。

なお、近年では、軽度の円錐角膜の人が、近視などを手術で治す屈折矯正手術を受けるケースが多くなり、問題となっています。現在の屈折矯正手術は、角膜を削ることによって行われています。この手術を、もともと角膜が突出して薄くなってきている円錐角膜の人が受けると、ますます進行してしまいます。初期の円錐角膜と強い乱視の区別は難しいので、円錐角膜が疑われる場合は屈折矯正手術は見合わせるべきです。

🇳🇬円背

脊椎の胸椎部の後方への湾曲が極端に大きくなっている疾患の総称

円背(えんぱい)とは、背骨、すなわち脊椎(せきつい)のうちの胸椎部の後方への湾曲が極端に大きくなっている疾患の総称。脊椎後湾症、脊柱後湾症、亀背(きはい)、猫背(ねこぜ)とも呼ばれます。

人間の脊椎は、7個の頸椎(けいつい)、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨で成り立っています。正常な脊椎は体の前から見ると真っすぐですが、横から見ると、緩やかなS字の形をしています。すなわち頸椎部は前湾(前に向かって湾曲している)、胸椎部は後湾(後ろに向かって湾曲している)、腰椎部は前湾を示しています。

このように脊椎は本来、後湾している部分があるのですが、円背では、胸椎部の後湾している角度が極端に大きくなったり、腰椎部の前湾が失われて後湾になったりしています。

円背はいわゆる背中が丸くなっている疾患の総称で、背中を丸めた猫背が習慣化するなど姿勢の異常などによる非構築性円背(機能的円背)は日常的に注意すれば治せるもので、問題はありません。しかし、病的な後湾である構築性円背は病的な後湾であり、治療が必要になります。

構築性円背には、青年期後湾症(ショイエルマン病)、先天性脊柱後湾症、老人性後湾症(老人性円背)、脊椎カリエス(結核性脊椎炎) による後湾、脊椎損傷後の後湾などがあります。

青年期後湾症は、成長に伴って複数の円柱状の椎体がくさび状に変形し、脊椎、特に胸椎部が丸く変形するものです。成長期は骨の発育が速いため、特に異常が発生しやすくなりますが、成長が終了すると進行も止まります。

先天性脊柱後湾症は、椎骨の前方にある円柱状の椎体の生まれ付きの変形によるもので、椎体の癒合や、くさび状の椎体がみられます。成長に伴って進行するものがあります。

老人性後湾症は、加齢が原因で多くの椎体間の椎間板が変性したり、骨粗鬆(こつそしょう)症で多くの椎体が押しつぶされることによって起こります。

脊椎カリエスによる後湾は、小児期の脊椎カリエスの後遺症としてよくみられます。

脊椎損傷後の後湾は、事故などで胸椎部と腰椎部の移行部の脊椎が高度に骨折し、さらに後方の靱帯(じんたい)の損傷を伴った場合に起こるものです。進行する場合は、手術を行う必要があります。

そのほか、椎骨の後方にあるアーチ型をした椎弓の切除後や放射線治療の後に、後湾が起こることがあります。また、強直性脊椎炎では、胸椎部に後湾が起こったまま椎体が癒着し、強直に陥るのが特徴です。脊髄髄膜瘤(りゅう)、軟骨無形成症でも、後湾が起こることがあります。

原因によって異なりますが、円背は、軽度では何の症状も現れない場合が多く、持続的な背中の痛みがみられることがある程度です。重度になると、腰が強く傷んだり、神経の障害を生じる場合があります。また、脊椎がねじれを伴って側方に湾曲する脊椎側湾症と合併すると、複雑な湾曲が現れます。

円背の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、円背は痛みなどの症状に乏しいため、脊椎の変形から疑います。次に、X線(レントゲン)検査を行い、画像で椎体の変形が見付かれば、比較的簡単に判断できます。

原因を知るために、さらに詳しい検査が必要な際は、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査が有用です。また、加齢が原因と疑われる際は、骨粗鬆症の検査を行います。

整形外科の医師による治療は、原因や進行度、年齢によって方法が異なります。軽度の場合は、運動療法で姿勢を正すために必要な力をつけて、経過観察します。重度の場合は、サポーターやコルセットで姿勢を固定したり、負荷を軽減する装具療法を行い、進行の防止を図ります。

先天性の後湾症や、筋力低下や感覚障害などの神経の障害が現れた場合、後湾の状態がひどい場合は、手術を行って後湾している脊椎を矯正して固定します。

ほかの疾患が円背の原因である場合には、その疾患の治療を行います。

円背と診断されたら、医師の指示に従って、運動療法や装具療法を正しく根気よく行うことが大切となります。とりわけ青年期後湾症、先天性脊柱後湾症は進行するので、途中で治療をやめたりすると、計画的な治療が受けられなくなります。また、進行するかどうかをみるために、定期的に検査を受ける必要があることもあります。

🇹🇴円板状エリテマトーデス

皮膚限局型エリテマトーデスの一つで、慢性型のサブタイプに属する皮膚疾患

円板状エリテマトーデスとは、日光露出部である頭部、顔面、四肢などに、円板状の紅斑(こうはん)が好発する原因不明の皮膚疾患。慢性円板状エリテマトーデス、円板状紅斑性狼瘡(ろうそう)とも呼ばれます。

膠原(こうげん)病の代表的な疾患で全身性の症状を伴う全身性エリテマトーデスと異なり、皮膚症状のみ出現する皮膚限局型エリテマトーデスの1つであり、慢性型のサブタイプに相当します。皮膚限局型エリテマトーデスには、急性型、亜急性型、中間型のサブタイプもあります。

円板状エリテマトーデスの症状は、類円形ないし不整形で、魚の鱗(うろこ)のようにはがれる鱗屑(りんせつ)を伴う円板状の紅斑が多発することを特徴とします。

円板状の紅斑は境目がはっきりしていて、頬(ほお)、鼻、下唇、頭部など、日光が当たる部位にできます。皮膚面より少し盛り上がり、中心部は硬くなったり委縮していたりして、引きつったようになっています。口唇に症状が出る時はびらん、頭皮に症状が出る時は脱毛を伴うことがあります。また、かいたり刺激を与えたりすると、その部位に新たな円板状の紅斑が広がる傾向にあります。

この皮膚病変は、治癒過程で色素沈着ないし色素脱失、委縮を生じ、瘢痕(はんこん)を残します。ほかの症状として、発熱や倦怠(けんたい)感がみられることもあります。

全身性エリテマトーデスと異なり、全身の臓器障害はみられませんが、一部が全身性エリテマトーデスへ移行することがあります。全身性エリテマトーデスへ移行すると、円板状の紅斑が全身に広がり、内臓の炎症、腎臓(じんぞう)の機能障害が起こります。

円板状エリテマトーデスは、35~45歳の女性が発症しやすいとされています。

現在のところ、円板状エリテマトーデスを発症する原因はわかっていません、しかし、紫外線や寒冷刺激、美容整形、妊娠・出産、タバコ、ウイルス感染、薬物などが関係していると考えられています。

全身性エリテマトーデスは、免疫システムが自己の細胞を攻撃する自己免疫が原因だとされていますが、円板状エリテマトーデスは自己免疫とは無関係と考えられています。皮膚が抗原刺激や物理的刺激を受けることで、白血球のうち、リンパ球と呼ばれる細胞の一種であるT細胞が増殖し、細胞間で情報を伝えるタンパク質であるサイトカインの生成が促進され、症状が現れると推測されています。遺伝との関係は、親族内や双子で発症する例が少ないことから、可能性は低いと考えられています。

円板状の紅斑ができて治りにくい場合、円板状エリテマトーデスの可能性があります。日光を避けて、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診しましょう。治った後でも、まれに皮膚がんである有棘(ゆうきょく)細胞がんの発生母地となることがあるため、症状が軽くてもしっかり治療をすることが大切となります。

円板状エリテマトーデスの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、視診をした上で、皮膚生検といって皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる検査を行い、円板状エリテマトーデスと確定します。

血液検査を行うこともありますが、発症者の多くはほかの臓器に変化を伴わず正常です。しかし、一部の患者では、血液沈降速度(血沈)の高進、抗核抗体陽性、白血球減少がみられ、全身性エリテマトーデスに移行することがあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、瘢痕が残った皮膚病変を治すことはできませんが、新しい円板状の紅斑が広がらずに限られた範囲にできている場合は、ステロイド薬(副腎〔ふくじん〕皮質ステロイド薬)の軟こうを直接塗ることが一般的です。目立つほど顔にできている場合や、頭皮の脱毛がひどい場合は、内服のステロイド薬を使用します。

また、内服薬ではヒドロキシクロロキンなどのマラリア治療薬が皮膚症状に有効であり、欧米では第1選択薬の1つです。以前の日本では副作用のために使用が禁止され保険適応がありませんでしたが、2015年に承認されました。ヒドロキシクロロキンの長期間の効果としては半数弱の人に有効であり、残りの半分強は、内服のステロイド薬などが必要になります。

免疫抑制剤の1つであるレクチゾールやミゾリビンの内服も有効なことがわかっていますが、貧血などの副作用が現れやすいため、慎重に使用する必要があります。

全身性エリテマトーデスを合併する場合には、内臓の炎症に対して内服のステロイド薬が有効で、効果を発揮しています。炎症が強くて症状が重い場合には、大量に投与し、症状が安定すれば徐々に量を減らしていきます。腎臓の障害に対して、免疫抑制剤を用いたり、血漿(けっしょう)交換療法を行うこともあります。

円板状エリテマトーデスの悪化を防ぐためには、紫外線を避ける必要があります。肌の露出を控えるために、日焼け止めや帽子、サングラス、長袖(ながそで)などの対策が大切です。肌に過剰な刺激を与えることも悪影響なので、かゆみがある時でもかいたり刺激を与えないように気を付ける必要があります。薬を塗る時なども、手を洗い清潔な状態で塗るようにします。

寒冷による刺激も極力受けないほうがいいため、しっかりと防寒することが重要で、夏場は清潔な服を着る、通気性のよい天然素材の洋服を着るなどの対策も大切です。加えて、ストレスを避け、適度な運動と休養をとり、バランスのとれた食事をします。

🇹🇷ウィリス動脈輪閉塞症

原因不明で、脳底部にもやもやとした異常血管網が現れる脳血管疾患

ウィリス動脈輪閉塞(へいそく)症とは、日本人に多発する原因不明の脳血管疾患。もやもや病、脳底部異常血管網症ともいいます。

厚生労働省指定の難病の一つで、1950年代の後半に初めてその存在が気付かれました。脳底部のウィリス動脈輪に狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)がみられ、脳虚血症状を示し、体の各部のまひ、知覚異常、不随意運動、頭痛、けいれんなどを起こします。

脳血管撮影をすると、脳底部にもやもやとした異常血管網が認められます。大脳へ血液を送る頸(けい)動脈が頭の中で狭くなったり、詰まったりするために、脳の深い部分の細い動脈が不足する脳の血流を補うための側副血行路として発達して太くなり、異常な血管網の構造を示すことになります。

脳への血液の供給が足りない状態である脳虚血や、脳の血管が破綻(はたん)して出血する脳出血で発症しますが、発症時の年齢分布には2つピークがあり、5歳を中心とする10歳までの子供は脳虚血で発症することが多く、30〜40歳代の大人は脳出血で発症することが多くなっています。もちろん、子供での脳出血、大人での脳虚血もありますが、前者が小児(若年)型、後者が成人型と区別され、その症状とその発症機序が異なっています。

女性と男性の比率は1・8対1とされ、女性の発症者のほうが多くなっています。発症頻度は10万人に対して0・35〜0・5人とされ、日本では年間に約400〜500人の新たな発症者が発生し、常に約4000人の患者がいます。世界中で、ウィリス動脈輪閉塞症の報告はありますが、なぜか東アジアに多く、中でも圧倒的に日本に多く発生しています。アメリカからの報告でも日系人に多いといわれますが、白人、黒人にもみられます。

疾患の原因はいまだ不明で、先天性血管奇形という先天説や、感染症などの生後に何らかの原因があるとする後天説がありました。兄弟や親子間での発生が約10パーセント弱と多いことや、日本人に多く発生することなど遺伝的な要素もあり、現在では遺伝子で規定された要素に、何らかの後天的要素が加わって発症すると考えられています。細菌やウイルスが原因の感染症ではありませんので、周辺の人に移る可能性は全くありません。

小児型ウィリス動脈輪閉塞症では、元気だった子供に突然、脳卒中のような発作、つまり左右半身の脱力や運動障害、ろれつが回らないなどの言語障害、視野の一部が欠けるなどの視力障害、意識障害、感覚異常が一過性に出現し、症状が出てもすぐに元に戻るのが典型的な症状です。その他の症状としては、手足が勝手に前後・上下に動く不随意運動、けいれん、頭痛などがみられます。

脳卒中のような発作は、泣いたり、大声で歌ったり、笛やハーモニカを吹いたり、熱いラーメンやうどんをフーフー吹いて食べたり、全力で走ったりする時の過呼吸により誘発されます。過呼吸状態では、脳血管の拡張に必要な血中の二酸化炭素が低下し、もやもやとした血管網も含めた脳血管が収縮するために、それまで辛うじて維持されていた脳血流が急に低下し、脳の代謝に必要な酸素の不足により脳虚血発作が生じます。

脳虚血発作は一過性に出現し繰り返す場合が多くみられますが、重症な場合には、脳梗塞(こうそく)を来し、運動障害、言語障害、知能障害、視力障害などが固定症状として残ります。

成人型ウィリス動脈輪閉塞症では、脳内出血、脳室内出血、くも膜下出血などの頭蓋(ずがい)内出血による発症が一般的で、症状は出血の部位や程度により異なり、軽度の頭痛から重度の意識障害、運動障害、言語障害、精神症状までさまざまです。代償性に拡張した数多くの細いもやもやとした血管網に、血行力学的なストレスが加わり、薄くなった血管壁が破綻すると考えられています。

出血の場所と大きさにより、後遺症が全く残らない場合から、さまざまな後遺症が残る場合まであります。命にかかわるのは、頭蓋内出血を起こした場合が多く、再度、出血を起こすことも多くなっています。

ウィリス動脈輪閉塞症が疑われた場合は、脳神経外科、神経内科、小児神経(内)科などを受診することが必要です。強い頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)、意識がなくなる、まひ、言葉が出ない、視野の一部が欠けるなどの症状が出た時は、すぐに受診するべきです。

ウィリス動脈輪閉塞症の検査と診断と治療

ウィリス動脈輪閉塞症の医師による診断は、臨床所見と画像診断で行われます。ラーメンを食べる時に時々、手の力が抜ける、大泣きしたら手足がしびれるといった典型的な症状の一過性脳虚血発作であれば、診断はさほど困難ではありません。

しかし、てんかんや不随意運動で発症した場合には、わかりにくい場合もあります。てんかんと診断されて、抗けいれん薬を投与され、その後、脳虚血の症状が出た場合など、ウィリス動脈輪閉塞症の診断まで時間がかかる場合もあります。ほかに、精神的なものとか自閉症と誤診されることもあります。

ウィリス動脈輪閉塞症の画像診断は、主にカテーテルによる脳血管撮影と、核磁気共鳴画像法(MRI)によって行われます。脳血管撮影は、直径1・3ミリほどの細い管であるカテーテルを足の付け根の動脈から入れて行います。このカテーテルを頸部の動脈まで持っていき、造影剤を注入して撮影します。そのため検査自体にわずかながら危険性が伴うため、その適応は慎重であるべきです。大人では、足の付け根への局所麻酔だけで可能な検査ですが、小学生やそれ以下の場合は全身麻酔で行います。

近年は、強い磁場を利用した核磁気共鳴画像法(MRI)による診断法が、主に行われています。この診断法は、入院の必要はありませんし、検査時間は30分ぐらいで寝ている間に可能です。小さな子供の場合は、眠り薬が必要です。X線を使った断層撮影であるX線CTも、緊急時の脳虚血と脳出血の鑑別に有用です。

急性期のウィリス動脈輪閉塞症の治療は、他の原因で起こる脳虚血や脳出血の治療と同じです。脳虚血の場合は、脳細胞保護薬、抗血栓薬、循環改善薬などの点滴が行われます。脳出血で小さな出血の場合は、保存的な治療が行われます。脳室内の出血の場合は、緊急で細い管を脳室に入れて、髄液や血腫(けっしゅ)を抜く手術が行われます。大きな脳内出血の場合は、開頭による血腫除去術を必要とする場合もあります。脳圧を下げ、脳のはれを改善する点滴治療も行われます。けいれん発作があれば、抗けいれん薬が投与されます。

慢性期のウィリス動脈輪閉塞症の脳虚血に対する内科的な治療としては、抗血小板薬、抗凝固薬、血管拡張薬などの投与が行われます。これらの薬剤を積極的に投与する医師と、そうでない医師に分かれます。けいれんのある場合には、抗けいれん薬が投与されます。

虚血発作の再発を抑える目的で、血管吻合(ふんごう)術が有効とされています。この血管吻合術には、耳の前の頭皮内を走行している浅側頭動脈と頭蓋内の中大脳動脈の枝を顕微鏡で見ながら吻合する直接吻合と、脳を包んでいる脳硬膜や側頭部の筋肉やその筋膜を脳の表面に置き、その間に自然に小さな血管の吻合が形成されるのを待つ間接吻合があります。直接吻合を行う場合、大なり小なり間接吻合と組み合わせるのが一般的です。

ウィリス動脈輪閉塞症は、左右に病変があるため、両側の手術が必要なことが多く、普通2回に分けて、症状の強い側の手術を先に行います。手術の効果はすぐに現れるものではなく、虚血発作が徐々に減少し、その後、消失します。その時間経過は、脳循環の状態、手術方法などによりさまざまです。

慢性期のウィリス動脈輪閉塞症の脳出血に対する治療として、血管吻合術が行われる場合があります。側副血行路になっている脳の深部の細い血管に負担がかかり、破綻するのが脳出血の原因と考えられているため、この負担を軽減するために行われますが、この吻合術が再出血を予防するとは必ずしも証明されていません。血圧の高い発症者には、降圧剤を投与します。

脳梗塞や脳出血により、運動障害、言語障害、知能障害、視力障害などが残った場合には、早期に運動療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーションを開始することが重要です。特に小児の場合は、適切なリハビリで大きな障害がかなり軽減するケースもあります。

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