2022/08/02

🇲🇹肩峰下滑液包炎

肩関節の周辺にある肩峰下滑液包に炎症が起こり、動きの中で肩に痛みを覚える状態

肩峰下(けんぽうか)滑液包炎とは、肩峰という肩甲骨の最も上の部分と、上腕骨の間にある肩峰下滑液包に炎症が起こり、動きの中で肩に痛みを覚える状態。肩峰下インピンジメント(衝突)症候群とも呼ばれます。

肩甲骨の周囲には、肩峰、烏口(うこう)突起、烏口肩峰靭帯(じんたい)で構成される烏口肩峰アーチが作られており、その中にアーチのクッションの役割を果たす肩峰下滑液包と、上腕骨の骨頭の一部分に付着している腱板(けんばん)があります。

滑液包は関節の周囲にあるもので、滑液という液体を含んでいます。この滑液は、関節の動きを滑らかにするための潤滑油のようなものであり、滑液包はそれを包んでいる袋で、肩峰下滑液包は人体最大の滑液包です。

肩の使い過ぎなどによって、肩峰下滑液包や腱板が炎症を起こすと、これらが肥厚、変性し、正常であれば接触しない烏口肩峰アーチと衝突して、肩の痛みや運動障害を引き起こします。

先天的な原因のものもありますが、肩峰下滑液包炎は年齢を問わず発生する疾患といえます。若年者では、野球の投球、テニスのサーブ、水泳のバタフライなど肩を挙げたり、回したりする動作を繰り返すスポーツ活動を切っ掛けに、発症するケースをよく見掛けます。けがや事故などによる損傷で、発症するケースもあります。

特別に肩の使い過ぎ、けがなどがなくても、肩峰下滑液包は腕を上げる動作で圧迫や摩擦を受け、挟み込まれるため、発症するケースもあります。姿勢的に肩関節の位置がおかしくなっている人、烏口肩峰アーチの湾曲が強い人、肩峰先端に未癒合の骨化核(肩峰骨)がある人では、腕を上げる動作での肩峰下滑液包への圧迫や摩擦が強くなる傾向があり、発症しやすいとされています。

肩峰下滑液包炎の症状としては、上肢を肩の高さより上で動かした時に痛みが生じるのが特徴で、上肢を上げ下げする動作で60度から120度の間で強い痛みが生じることもあります。ほかに、引っ掛かり感、筋力低下、こわばり感を生じます。

ひどい状態では、痛みで肩を動かすことが困難となり、夜間に強い痛みを伴い眠れないこともあります。慢性的な経過をたどることが多く、徐々に症状が出て肩を使うほど悪くなります。

肩峰下滑液包炎の症状は、四十肩、五十肩と通称される肩関節周囲炎とよく似ています。原則として上肢が一通りに動くので、運動制限がある肩関節周囲炎とは区別されますが、進行すると肩関節周囲炎になることもあります。

また、肩峰下滑液包炎は、肩腱板炎や石灰沈着性腱板炎、腱板断裂などを併発していることがよくあります。

肩峰下滑液包炎の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、烏口肩峰アーチに圧痛を認め、上肢を挙げる角度や位置によって、圧迫や摩擦を受けている個所を特定することができます。上肢を上げ下げする際、ほぼ60度から120度の間で特に強い痛みを感じることがあり、有痛弧兆候(ペインフルアーク・サイン)といわれます。

また、治療も兼ねて肩峰下滑液包に麻酔薬を打つことで、痛みが取れて運動制限がなくなれば、そこが痛みの原因と特定できます。

整形外科の医師による治療では、痛みを感じる動作を避け、安静を保つことが治療の基本になります。痛みを我慢してスポーツ活動を続けると、慢性化することもあるため、痛みの出る動作を行わないことが大切となります。

痛みに対しては、非ステロイド性の消炎鎮痛剤や外用剤を処方します。それで治らない場合は、水溶性の副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)に局所麻酔薬を混合させた液を1~2週に1回注射します。速効性がありますが、効果は3日くらいしか持続しません。しかし、定期的に注射していると、徐々に肩峰下滑液包の炎症が沈静化していきます。

リハビリとしては、温熱療法や腱板のストレッチ、筋肉がやせるのを防ぐ筋力強化訓練などを行います。また。硬くなった筋肉をほぐし、関節の可動域を広げるために、手技療法(マニュプレーション)も効果的です。

これらの保存的治療を6カ月間程度行っても改善がみられない場合は、手術を選択します。また、X線検査で骨が変形して棘(とげ)のような肩峰骨棘(こつきょく)を認める症例でも、炎症はさらに悪化し、そのまま放置しておくと、肩峰下滑液包が破けたり、腱板断裂を引き起こして肩が上がらなくなるため、手術を選択することになります。

手術では関節鏡を用いて、肩峰下滑液包での衝突を回避するため、肩峰下を削ることで間隙を広げ、同時に衝突に関与する烏口肩峰靭帯も切離し、烏口肩峰アーチの圧力を減らします。

🇲🇱肩峰三角筋部褐青色母斑

生まれ付きか乳児期に発症し、褐青色のあざが肩や腕に発生する皮膚の疾患

肩峰(けんぽう)三角筋部褐青色母斑(ぼはん)とは、生まれ付きか乳児期に発症し、褐青色の母斑が肩や腕に認められる皮膚疾患。伊藤母斑、三角筋肩峰部褐青色母斑とも呼ばれます。

皮膚の一部分に色調や形状の異常として現れるものが母斑で、あざとも呼ばれています。ほくろも母斑の一種で、その一番小さい型に相当します。

肩峰三角筋部褐青色母斑は、胎児期から多くは生後1カ月以内の乳幼児期に症状が現れ、男子より3倍多く女子に認められます。

原因は、メラノサイト(メラニン細胞、メラニン形成細胞、色素細胞)にあります。通常は表皮にあって、メラニンという皮膚の色を濃くする色素を作り出すメラノサイトが、深い部分の真皮に存在し増殖しているために、皮膚が褐青色に見えてしまいます。

母斑は、後鎖骨上神経および外上腕皮神経の支配領域にみられ、肩峰という肩甲骨の最も上の部分を中心に、肩関節を前後および外側から覆っている三角筋がある鎖骨上部、上腕外側に、淡褐色の皮膚の上に濃青色から青みを帯びた小さな斑点がたくさん集まった状態で現れます。皮膚の表面は滑らかで、盛り上がったりしません。片側だけの肩や腕に出現することが多いものの、まれに両側の肩や腕にも出現することがあります。

通常、母斑は大きさや状態が変化せず持続して存在し、自然に消えることはありませんが、悪性化を心配することもありません。

本人が特に気にしなければ、治療の必要はありません。気にするようなら、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診することが勧められます。

肩峰三角筋部褐青色母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、部位や母斑の様子から視診で判断します。皮膚をほんの少し切り取って病理組織検査を行うと、真皮上層に色素含有メラノサイトが認められます。

また、異所性蒙古(もうこ)斑、青色母斑などの皮膚疾患と鑑別します。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、悪性化の心配はないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザー治療により、母斑を除去します。

Qスイッチレーザー治療は、レーザー光線を皮膚に当てるもので、皮膚の表面にはダメージを与えず、その下の真皮上層にあるメラノサイトを選択的に焼灼(しょうしゃく)することができます。ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ヤグレーザーなどがあり、レーザーの種類により多少の効果や経過の違いがみられます。

いずれのQスイッチレーザー治療も痛みを伴うため、麻酔シール、注射などを使用して痛みの緩和を行い、およそ3カ月の間隔で、少なくとも5~6回の照射を行います。まれに軽い色素沈着を残したり色素脱出を来すこともありますが、治療はほぼ100パーセントうまくいきます。

治療時期は何歳からでも可能ですが、小児の場合は乳幼児期からの早期治療が有効です。成人の場合でも、完全に母斑を除去することが可能です。

🇲🇱クルーゾン症候群

遺伝が原因として考えられる先天性の異常疾患

クルーゾン症候群とは、遺伝が原因として考えられている先天性の異常疾患。生まれ付き、頭や顔、あご、手足の異常を起こします。

クルーゾン症候群の主な症状としては、頭蓋(とうがい)骨縫合早期癒合症が挙げられます。

乳児の頭蓋骨は何枚かの骨に分かれており、そのつなぎを頭蓋骨縫合と呼びますが、乳児期には脳が急速に拡大しますので、頭蓋骨もこの縫合部分が広がることで脳の成長に合わせて拡大します。成人になるにつれて縫合部分が癒合し、強固な頭蓋骨が作られるわけです。

頭蓋骨縫合早期癒合症は狭頭症とも呼ばれ、染色体や遺伝子の異常が原因となって、頭蓋骨縫合が通常よりも早い時期に癒合してしまう疾患。その結果、頭蓋骨や顔面骨に形成不全がみられて、頭、顔、あごに変形が生じます。頭蓋骨の変形は、早期癒合が起こった縫合線と関係があり、長頭、三角頭、短頭、斜頭などと呼ばれる変形が生じます。

眼球突出、両目の離間、気道狭窄(きょうさく)、歯列のかみ合わせ異常、高口蓋や口蓋裂など、さまざまな症状もみられます。また、頭蓋骨の変形によって脳が圧迫されるなどの障害が発生し、水頭症の合併、頭蓋内圧の上昇を認めることも少なくありません。

乳児の頭蓋骨は、子宮内での圧迫、産道を通る際の圧迫、また寝癖などの外力で容易に変形します。こうした外力による変形は自然に改善することが多いので心配ありませんが、クルーゾン症候群における頭蓋骨縫合早期癒合症との鑑別が大切です。

クルーゾン症候群の検査と診断と治療

乳幼児の頭の形がおかしいと心配な場合は、形成外科や小児脳神経外科の専門医を受診します。

クルーゾン症候群の症状には、軽度なものから重度なものまであり、形成外科や脳神経外科の領域のほか、呼吸、循環、感覚器、心理精神、内分泌、遺伝など多くの領域に渡る全身管理を要します。乳幼児の成長、発達を加味して適切な時期に、適切な方法で治療を行うことが望ましいと考えられ、関連各科が密接な連携をとって 集学的治療が行われます。

頭蓋骨縫合早期癒合症の治療は、放置すると頭の変形が残ってしまうばかりでなく、脳組織の正常な発達が抑制される可能性があるため、外科手術になります。

手術法としては従来から、変形している頭蓋骨を切り出して、骨の変形を矯正することで正常に近い形に組み直す頭蓋形成術が行われています。乳幼児の骨の固定には、できるだけ異物として残らない吸収糸や吸収性のプレートが用いられます。

近年では、この頭蓋形成術に延長器を用いた骨延長術も行われています。具体的には、頭蓋骨に刻みだけ入れて延長器を装着し、術後に徐々に刻みを入れた部分を延長させ、変形を治癒させるという方法。

骨延長術のメリットとして、出血が少なく手術時間の短縮が図れる、骨を外さないため血行が保たれるので委縮や変形が少ない、骨欠損が比較的早期に穴埋めされる、皮膚も同時に延長可能である、術後に望むところまで拡大可能であるなど挙げられます。一方、デメリットとして、頭蓋形成術より治療期間が長く1カ月程度は入院しなければならない、延長器を抜去する手術が必要となるなどが挙げられます。

さらに、内視鏡下で骨切りを行い、ヘルメットで頭の形を矯正するなどの手術方法も開発されています。

頭蓋骨の手術だけでなく、顔面骨を骨切りして気道を拡大し、眼球突出や不正咬合(こうごう)を適切な位置へ移動させる手術も行われます。

単純な頭蓋骨縫合早期癒合であれば、適切な時期に適切な手術が行われれば、一度の手術で治療は完結することが期待できることがあります。クルーゾン症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症では、複数回の手術が必要になることもまれではありません。頭蓋骨、顔面骨の形態は年齢により変化しますので、長期に渡る経過観察が必要です。

🇲🇼グルカゴノーマ

膵臓のランゲルハンス島の腫瘍で、グルカゴンを過剰に分泌

グルカゴノーマとは、グルカゴンを過剰に分泌する膵臓(すいぞう)のランゲルハンス島の腫瘍(しゅよう)。グルカゴン産生腫瘍とも呼ばれ、血糖値が上昇し特有の発疹(はっしん)が現れます。

グルカゴンは、エネルギー代謝に必要なグリコーゲンを分解して、血糖値を上昇させる作用を持つホルモンの一つ。29個のアミノ酸よりなるペプチドホルモンであり、炭化水素の代謝に重要な機能を持ちます。膵臓の組織内に島状に散在すランゲルハルス島にあるA細胞(α細胞)で生合成、分泌されて血液中に放出されます。

同じランゲルハンス島にあるB細胞(β細胞)から分泌され、糖尿病の特効薬として知られるインシュリンとともに、血糖値を一定に保つ作用をするホルモンですが、インシュリンとは逆に、血糖値が下がって糖を必要とするようになった際、肝臓の細胞に作用してグリコーゲンの分解を促進します。つまり、グルカゴンの分泌は低血糖により促進され、高血糖により抑制されます。

このグルカゴンを分泌するグルカゴノーマが発生すると、グルカゴンを過剰を分泌して血糖値が高くなるために、糖尿病症状が出て、体重も減ります。ほとんどの発症者に、慢性的な赤茶色の発疹(はっしん)の症状も出て、発疹は水疱(すいほう)を作って破れ、かさぶたとなり、鼠径(そけい)部から始まって臀(でん)部、脚、上腕へと広がります。

また、口内炎、口角炎もでき、貧血、低アミノ酸血症を示すようになります。

グルカゴノーマは70パーセントから80パーセントが悪性で、単発性が多く認められます。直径は1センチから35センチで、通常3センチ以上になります。腫瘍の大きさと症状の強さは相関せず、小さいものでも肝臓やリンパ節に転移することがあります。

腫瘍の成長が遅いので、ほとんどの人が発症後15年以上生存しています。症状が出始める平均年齢は50歳で、患者の約80パーセントは女性。閉経期あるいは閉経後の女性に多くみられます。

グルカゴノーマの検査と診断と治療

消化器科、内科の医師による診断は、血中グルカゴン値が高いことから判断します。続いて、グルカゴノーマの位置を確認するために、CT検査、超音波検査、動脈に造影剤を注入してX線撮影を行う動脈造影検査を実施します。試験開腹手術が必要となる場合もあります。

医師による治療は、腫瘍を手術で切除して症状をなくすことが理想的ですが、根治的な切除が行えるのは30パーセント前後とされています。切除可能な腫瘍に対しては、膵頭十二指腸切除術または膵体尾部切除術が行われます。

根治的な切除が行えない場合にも、グルカゴンの分泌量の減少を目的に可能な限りの切除が行われます。肝臓への転移に対しては、可能な限り評価可能な転移巣の切除が行われます。

癒着が著しく切除が行えない場合や転移している場合は、化学療法で抗がん剤のストレプトゾシンとドキソルビシンの組み合わせを投与し、グルカゴン値を下げて症状の軽減を図ります。しかし、化学療法では延命は期待できません。

ホルモン産生を抑制する薬剤のオクトレオチドを投与してグルカゴン値を下げると、発疹が消えて食欲が増し体重も増えてきます。ただし、オクトレオチドの投与によるインシュリン分泌の影響で、体内のブドウ糖代謝能力である耐糖能が低下して、逆に血糖値が上がってしまうこともあります。

発疹に対しては、亜鉛軟こうを塗ったり、アミノ酸や脂肪酸の静脈投与で治ることもあります。

🇲🇼グルカゴン産生腫瘍

膵臓のランゲルハンス島の腫瘍で、グルカゴンを過剰に分泌

グルカゴン産生腫瘍(しゅよう)とは、グルカゴンを過剰に分泌する膵臓(すいぞう)のランゲルハンス島の腫瘍。グルカゴノーマとも呼ばれ、血糖値が上昇し特有の発疹(はっしん)が現れます。

グルカゴンは、エネルギー代謝に必要なグリコーゲンを分解して、血糖値を上昇させる作用を持つホルモンの一つ。29個のアミノ酸よりなるペプチドホルモンであり、炭化水素の代謝に重要な機能を持ちます。膵臓の組織内に島状に散在すランゲルハルス島にあるA細胞(α細胞)で生合成、分泌されて血液中に放出されます。

同じランゲルハンス島にあるB細胞(β細胞)から分泌され、糖尿病の特効薬として知られるインシュリンとともに、血糖値を一定に保つ作用をするホルモンですが、インシュリンとは逆に、血糖値が下がって糖を必要とするようになった際、肝臓の細胞に作用してグリコーゲンの分解を促進します。つまり、グルカゴンの分泌は低血糖により促進され、高血糖により抑制されます。

このグルカゴンを分泌するグルカゴン産生腫瘍が発生すると、グルカゴンを過剰を分泌して血糖値が高くなるために、糖尿病症状が出て、体重も減ります。ほとんどの発症者に、慢性的な赤茶色の発疹(はっしん)の症状も出て、発疹は水疱(すいほう)を作って破れ、かさぶたとなり、鼠径(そけい)部から始まって臀(でん)部、脚、上腕へと広がります。

また、口内炎、口角炎もでき、貧血、低アミノ酸血症を示すようになります。

グルカゴン産生腫瘍は70パーセントから80パーセントが悪性で、単発性が多く認められます。直径は1センチから35センチで、通常3センチ以上になります。腫瘍の大きさと症状の強さは相関せず、小さいものでも肝臓やリンパ節に転移することがあります。

腫瘍の成長が遅いので、ほとんどの人が発症後15年以上生存しています。症状が出始める平均年齢は50歳で、患者の約80パーセントは女性。閉経期あるいは閉経後の女性に多くみられます。

グルカゴン産生腫瘍の検査と診断と治療

消化器科、内科の医師による診断は、血中グルカゴン値が高いことから判断します。続いて、グルカゴン産生腫瘍の位置を確認するために、CT検査、超音波検査、動脈に造影剤を注入してX線撮影を行う動脈造影検査を実施します。試験開腹手術が必要となる場合もあります。

医師による治療は、腫瘍を手術で切除して症状をなくすことが理想的ですが、根治的な切除が行えるのは30パーセント前後とされています。切除可能な腫瘍に対しては、膵頭十二指腸切除術または膵体尾部切除術が行われます。

根治的な切除が行えない場合にも、グルカゴンの分泌量の減少を目的に可能な限りの切除が行われます。肝臓への転移に対しては、可能な限り評価可能な転移巣の切除が行われます。

癒着が著しく切除が行えない場合や転移している場合は、化学療法で抗がん剤のストレプトゾシンとドキソルビシンの組み合わせを投与し、グルカゴン値を下げて症状の軽減を図ります。しかし、化学療法では延命は期待できません。

ホルモン産生を抑制する薬剤のオクトレオチドを投与してグルカゴン値を下げると、発疹が消えて食欲が増し体重も増えてきます。ただし、オクトレオチドの投与によるインシュリン分泌の影響で、体内のブドウ糖代謝能力である耐糖能が低下して、逆に血糖値が上がってしまうこともあります。

発疹に対しては、亜鉛軟こうを塗ったり、アミノ酸や脂肪酸の静脈投与で治ることもあります。

🇲🇬グルテン腸症

小麦に含まれる蛋白質のグルテンが小腸粘膜に障害を起こし、栄養素の吸収が減少する疾患

グルテン腸症とは、小麦に含まれる蛋白(たんぱく)質のグルテンが小腸粘膜に障害を起こし、栄養素の吸収不良が現れる疾患。グルテン過敏性腸炎、グルテン腸症候群、グルテン不耐症、スプルー、セリアック病、セリアックスプルーなどとも呼ばれます。

グルテンは主に小麦に含まれ、大麦、ライ麦、オート麦など他の麦類では含有量が比較的少量です。このグルテンに対する遺伝性の不耐症がグルテン腸症であり、発症した人がグルテンを含んだ食品を摂取すると、グルテンの分解ができず、腸管免疫システムがそれを異物と認識して過剰に働くことで、産生された抗体が小腸の絨毛(じゅうもう)を攻撃し、慢性的な炎症が起こります。

この炎症によって、上皮細胞が変性したり、絨毛が委縮して、その突起が平坦(へいたん)になったりします。その結果、平坦になった小腸粘膜は糖、カルシウム、ビタミンB群などの栄養素の吸収不良を起こし、小腸がしっかり機能しなくなることで、さまざまな症状が出てきます。

しかし、グルテンを含んだ食品の摂取をやめると、正常な小腸粘膜のブラシ状の表面とその機能は回復します。

グルテン腸症は、小児のころに発症する場合と、成人になるまで発症しない場合とがあります。症状の程度は、炎症によって小腸がどれだけ影響を被ったかで決まります。

成人で発症する場合は通常、下痢や栄養失調、体重減少が起こります。中には、消化器症状が何も現れない人もいます。グルテン腸症の発症者全体のおよそ10パーセントに、小さな水疱(すいほう)を伴い痛みとかゆみのある湿疹(しっしん)がみられ、疱疹性皮膚炎と呼ばれます。

小児のころに発症する場合は、グルテンを含む食品を食べるまでは症状が現れません。通常、パンやビスケット、うどんなどによってグルテンを摂取するようになる2歳から3歳の時に発症します。

子供によって、軽い胃の不調を経験する程度から、痛みを伴って腹部が膨張し、便の色が薄くなり、異臭がして量が多くなる脂肪便を起こすこともあります。

グルテン腸症による吸収不良から起こる栄養素の欠乏は、全身の栄養状態の悪化を招いて栄養失調を起こし、さらに別の症状を起こします。別の症状は、特に小児で現れやすい傾向にあります。

一部の小児は、成長障害を起こし身長が低くなります。鉄欠乏による貧血では、疲労と脱力が起こります。血液中の蛋白質濃度が低下すると、体液の貯留と組織の浮腫(ふしゅ)が起こります。

ビタミンB12の吸収不良では、神経障害が起こり、腕と脚にチクチクする感覚を生じます。カルシウムの吸収不良では、骨の成長異常を来し、骨折のリスクが高くなり、骨と関節が痛みます。

また、カルシウムの欠乏では、歯のエナメル質の欠陥と永久歯の障害を起こします。グルテン腸症の女児では、エストロゲンなどのホルモン産生が低下し、初潮がありません。

下痢、脂肪便、体重減少、貧血などのグルテン腸症を疑わせる症状に気付いたら、消化器内科を受診します。

グルテン腸症の検査と診断と治療

消化器内科の医師による診断では、小腸のX線検査と小腸の内視鏡検査を行います。小腸の繊毛が委縮、平坦化している状態が認められることと、グルテンを含む食品の摂取をやめた後に小腸粘膜の状態が改善していることにより確定します。また、グルテンを含む食品を摂取した時に産生される特異抗体の濃度を測定する検査を行うこともあります。

消化器内科の医師による治療としては、グルテンを含まない食事を摂取し、各種の栄養剤、ビタミンを補給します。

少量のグルテンでも症状を起こすので、グルテンを含む食品をすべて避けなければなりません。グルテンを含まない食事への反応は迅速に起こり、小腸のブラシ状の表面とその吸収機能は正常に戻ります。

ただし、グルテンはさまざまな食品中に広く含まれているので、避けるべき食品の詳細なリストと栄養士の助言が必要です。

グルテンを含む食品の摂取を避けても症状が継続する場合は、難治性グルテン腸症と呼ばれる状態に進んだ可能性があり、プレドニゾロンなどのステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)で治療します。

まれに、グルテンを含む食品の摂取を避け、薬物療法を行っても改善しなければ、静脈栄養が必要となります。小児では初診時に非常に重篤な状態になっている場合もあり、グルテン除去食を開始する前にしばらく静脈栄養の期間が必要になります。

グルテンを避ければ、グルテン腸症のほとんどの発症者はよい状態を保てますが、長期間にわたってグルテン腸症が継続すると、まれに腸にリンパ腫(しゅ)を形成し、死に至ることもあります。グルテン除去食を厳格に守ることで、腸のリンパ腫やがんなどの長期間にわたる合併症のリスクを減少させられるかどうかは、不明です。

グルテン腸症の人は、グルテンを含まない穀物である米やトウモロコシを中心に、卵、肉、魚、牛乳、乳製品、果物類、野菜類、豆類を中心に摂取することになります。加工食品の場合、グルテンを含まないと表示されている物以外は注意が必要。

摂取できない食品としては、パン、うどん、ラーメン、ヌードル、パスタ(スパゲッティ、マカロニ)、ビスケット・クッキー・クラッカーなどの菓子、ケーキ、ビール、大麦水などが挙げられます。

グルテンを含んでいる可能性がある食物としては、豚肉(ソーセージ、ボローニャソーセージ)、缶詰のパテや肉、ミートボール、ハンバーガー、ホットドッグ、ソース、トマトソース、調味料、コーヒー代用品、チョコレート、ココア、アイスクリーム、キャンディー、食品色素などが挙げられます。

🇲🇬くる病(骨軟化症)

カルシウム不足から骨が軟らかくなって、変形

くる病とは、骨が軟らかくなり、変形を起こしてくる疾患。骨成長期にある小児の骨のカルシウム不足から起こる病的状態で、成人型のくる病は骨軟化症と呼びます。

カルシウム不足による骨の代謝の病的状態というのは、骨基質という蛋白(たんぱく)質や糖質からなる有機質でできた骨のもとになるものは普通に作られているのに、それに沈着して骨を硬くする骨塩(リン酸カルシウム)が欠乏している状態です。このような状態では、骨が軟らかく弱くなります。

子供では、骨が曲がって変形したり、骨幹端部の骨が膨れてくることがあります。成人でも、骨が曲がったり、骨粗鬆(そしょう)症と同様に、ちょっとした外部の力で骨折が起こるようになります。

くる病の原因は、いろいろあります。ビタミンD欠乏による栄養障害、腎(じん)臓の疾患、下痢や肝臓病などの消化器の疾患、甲状腺(せん)や副腎などのホルモンの異常に由来するものや、妊娠、授乳などによるカルシウム欠乏に由来するものがあります。

骨粗鬆症と同時に存在することも多く、その場合には骨粗鬆軟化症と呼んでいます。

くる病の検査と診断と治療

確定診断のためには、X線写真で確かめるほか、血液検査や尿検査、血清生化学検査などにより、ビタミン、ホルモン、カルシウム、リン、血清アルカリホスファターゼなどの数値を測定します。

治療では、原因に応じて対処することになります。一般には、ビタミンDなどの薬剤投与を行い、小魚や牛乳などのようにカルシウムの多い食べ物を摂取し、日光浴をします。ビタミンDには、カルシウムやリンが腸から吸収されるのを助け、骨や歯の発育を促す働きがあります。このビタミンDは食べ物の中にあるほか、皮膚にあるプロビタミンDという物質が、紫外線を受けるとビタミンDになります。

骨が軟らかくなるのが治っても、骨の湾曲、変形などが強く残ったものは、骨を切って変形を矯正する骨切り術を行うこともあります。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...