2022/08/02

🇮🇸爪メラノーマ

メラニンを作り出す爪部のメラニン細胞から発生するがん

爪(つめ)メラノーマとは、メラニンを作り出す爪部(そうぶ)のメラニン細胞(メラノサイト、皮膚細胞)から発生するがん。爪部悪性黒色腫(しゅ)、爪下悪性黒色腫とも呼ばれます。

メラニン細胞は、色素を作り、皮膚の色を決める色素細胞です。日光(紫外線)がメラニン細胞を刺激すると、メラニンという皮膚の色を濃くする色素がたくさん作られて、メラノーマ(悪性黒色腫)を発生するリスクが高まります。

メラノーマは最初、正常な皮膚に新しくできた小さな濃い色の皮膚の増殖性変化として現れます。多くの場合、日光にさらされる皮膚にできますが、もともとあったほくろに発生する場合もあります。体のほかの部位に非常に転移しやすく、転移した部位でも増殖を続けて組織を破壊します。また、メラノーマは遺伝することがあります。

日本でのメラノーマの発症数は、人口10万人当たり1・5~2人くらいといわれ、年間1500~2000人くらい発症しています。白色人種の多い欧米では人口10万人当たり10数人以上で、オーストラリアは20数人以上の発症と世界一です。日本でも外国でも年々、発症数の増加傾向が認められています。

日本でのメラノーマによる死亡者は、年間約450人。40歳以上になると発症が多くなり、60~70歳代が最も多くなっています。男女差はありません。

メラノーマの外観は、さまざまです。平らで不規則な形の茶色の皮疹(ひしん)の中に黒い小さな点がある場合もあれば、盛り上がった茶色の皮疹の中に赤、白、黒、青などさまざまな色の点があるものもあります。黒か灰色の硬い塊ができることもあります。

その外観や色などによって、いくつかのタイプに分類されています。悪性黒子型は高齢者の顔などの露出部に色素斑が発生するタイプ、表在拡大型はやや盛り上がった不整型の色素斑が発生するタイプ、結節型は盛り上がるタイプ、末端黒子型は手や足から発生するタイプ、粘膜型は口腔(こうくう)や陰部などの粘膜に発生するタイプ、またメラニン欠乏性は色素を持たないので発見されにくいタイプです。

末端黒子型の一つに、爪メラノーマのほとんどは含まれます。爪メラノーマのほとんどは、手足の爪の主に爪母部(爪の基部)上皮のメラニン細胞のがん化によって、爪甲色素線条、すなわち黒褐色で縦の線状の染みとしてみられます。

時には、爪床上皮や爪郭(そうかく)部表皮のメラニン細胞ががん化することもあり、表在拡大型や結節型に含まれます。

爪甲色素線条がみられる爪メラノーマは、全メラノーマの10パーセント近くを占め、手の親指の爪、足の親指の爪、手の人差し指の爪、手の中指の爪に好発します。しかし、爪メラノーマによく似た良性腫瘍(しゅよう)が、はるかに多く存在しています。

悪性か良性かを一応判別する目安として、染みの横幅が6センチ以上、黒褐色の色調に不規則な濃淡がみられるか真黒色、20歳以後、特に中高齢者になって発生した色素線条、色素線条が爪の表面を越えて皮膚の部分にまで及んでいる状態であれば、爪メラノーマかもしれません。

がん化したメラニン細胞が増えるにつれて、黒褐色の線状の染みが増えるだけでなく太くなっていき、長さも伸びていきます。やがて、爪全体が黒くなります。進行すると、爪が変形したり破壊されてしまいます。

爪メラノーマは、がんの中でも繁殖しやすいタイプです。そのため、爪から全身に転移していくというデメリットもあります。短期間で転移してしまうため、爪の症状の変化に気付いたら、すぐに皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診することが勧められます。

爪メラノーマの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、問診、視診、触診を行い、続いてダーモスコピー検査を行います。ダーモスコピー検査は、病変部に超音波検査用のジェルを塗布してから、ダーモスコープという特殊な拡大鏡を皮膚面に当て、皮膚に分布するメラニンや毛細血管の状態を調べ、デジタルカメラで記録するだけの簡単なもので、痛みは全くありません。

そして、爪メラノーマが疑われる場合に生検を行います。通常は色の濃い増殖部分全体を切除し、顕微鏡で病理学的に調べます。もし爪メラノーマだった場合、がんが完全に切除されたかどうかを確認します。

一方、メラノーマの周囲組織を切り取ると、がん細胞が刺激されて転移を起こすことが考えられるため、生検をせずに視診と触診などで診断する医師もいます。

確定診断に至ったら、ほかの部位への転移の有無を調べるためのCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、PET(陽電子放射断層撮影)検査、X線(レントゲン)検査、超音波(エコー)検査などの画像検査や、心機能、肺機能、腎機能などを調べる検査を行います。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療は原則的に、爪メラノーマの部位を外科手術によって円形に切除します。手術が成功するかどうかは、皮膚のどの程度の深さにまで爪メラノーマが侵入しているかによって決まります。初期段階で最も浅い爪メラノーマであれば、ほぼ100パーセントは手術で治りますので、周囲の皮膚を腫瘍の縁から最低でも約1センチメートルは一緒に切除します。

皮膚の中に約0・8ミリメートル以上侵入している爪メラノーマの場合、リンパ管と血管を通じて転移する可能性が非常に高くなります。転移したメラノーマは致死的なものになることがしばしばあり、抗がん剤による化学療法を行いますが、治療の効果はあまりなく余命が9カ月を切る場合もあります。

とはいえ、このがんの進行の仕方には幅がありますし、発症者の体の免疫防御能によっても差がありますので、化学療法、インターフェロンによる免疫療法、および放射線療法などいろいろな手段を組み合わせた集学的治療を行い、たとえ爪メラノーマが転移しても健康を保って何年も生存する人もいます。

一度、爪メラノーマを発症した人は、再発するリスクが高くなります。そのため、発症者は毎年皮膚科、皮膚泌尿器科で検査を受けるべきです。

🇺🇦直腸炎(潰瘍性大腸炎直腸炎型)

 

直腸の粘膜に炎症が起こって、ただれる疾患

直腸炎とは、大腸の最終部に当たる直腸の粘膜に炎症が起こり、ただれる疾患。潰瘍(かいよう)性大腸炎のうちで、直腸に限って発生する型であり、潰瘍性大腸炎直腸炎型とも呼ばれます。

この直腸炎など潰瘍性大腸炎の原因については、まだよくわかっていません。 細菌やウイルスの感染、ある種の酵素の不足、ストレス、体質が関係しているといわれ、近年では自己免疫異常説がかなり有力です。

私たちの体には、細菌などの有害なものを排除する免疫の仕組みがあります。この免疫の仕組みは腸の中でも働いていて、食べ物が腸を通過する際には、栄養分のように体に必要なものだけを腸の粘膜から吸収し、不要なものや有害なものは吸収せずに、そのまま腸から通過させて便として排出します。 ところが、免疫機構の異常が大腸に生じると、不要なものまで腸の粘膜から吸収されるようになる結果、大腸の粘膜に炎症が起こって潰瘍ができると考えられています。

また、直腸炎など潰瘍性大腸炎が増加している背景には、大腸がんと同じように、食生活の欧米化、特に脂肪の多い食事の取りすぎがあると推測されます。

潰瘍性大腸炎は最初、病変が直腸に限ってできる直腸炎、すなわち潰瘍性大腸炎直腸炎型として起こります。放置すると、直腸からS状結腸に渡って病変が広がって直腸S状結腸炎型となります。さらに、下行結腸へと広がる左側大腸炎型となり、横行結腸から上行結腸へと進んでいき、全大腸炎型になります。

直腸炎、すなわち潰瘍性大腸炎直腸炎型は最も軽く、全大腸炎型が最も重症です。

直腸炎の主な症状は、血便、粘血便、粘血膿便(のうべん)。直腸の一部のみに病変が限られている時は、排便の際に少量の出血がみられる程度のため、内痔核(ないじかく)からの出血とはっきり区別が付けにくいこともあります。直腸に強い病変が起こると、渋り腹という絶えず便意があるのに通じのよくない下痢状態になり、排便した後もすっきりせず、何回でもトイレに行きます。

時に体重の減少、食欲不振、貧血などの全身症状を伴うことがあります。

直腸炎の検査と診断と治療

血便、粘血便、下痢が認められた場合は、消化器科、消化器外科、肛門(こうもん)科を受診します。胃腸科では、十分な診断ができない場合があります。

潰瘍性大腸炎のうちで、直腸に限って発生する直腸炎、すなわち潰瘍性大腸炎直腸炎型では、直腸鏡によるS状結腸までの検査でおおよその診断がつきます。さらに原因を確定するには、全大腸内視鏡検査、糞便(ふんべん)の検査、腹部のX線検査、バリウムを肛門から注入してX線撮影をする注腸検査、直腸の組織の一部を採取して調べる生検が必要になります。

一般療法としては、まず精神的、肉体的な安静を保ち、消化吸収がよく、栄養価の高い食事をとります。豆腐や白身の魚、鶏(にわとり)のささ身などは最適です。乳製品や高脂肪食は避けます。

薬物療法としては、軽症ではサラゾスルファピリジンというサルファ剤を内服薬、または座薬として用います。粘膜の潰瘍に有効なサルファ剤は、特効的に効果を発揮することがあります。中等症では副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の内服薬、座薬が用いられます。重症では抗生物質、輸液、輸血が必要なこともあります。中等症、重症では、入院治療を要します。

 日常生活での注意としては、規則正しい生活を心掛け、アルコールを控え、普段から食事療法を心掛けることが必要です。

🇲🇬直腸カルチノイド

がんに似た性質を持つ悪性腫瘍が直腸粘膜下に発生した疾患

直腸カルチノイドとは、カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍(しゅよう)が直腸粘膜下に発生した疾患。

カルチノイドは、がんの意味であるカルチと、類を意味するノイドが組み合わさった英語で、日本語で「がんもどき」とも呼ばれます。消化管内分泌細胞腫瘍、神経内分泌腫瘍、消化管ホルモン産生腫瘍と呼ばれることもあります。

がんと同様、カルチノイドはいろいろな臓器に発生します。胃、十二指腸、小腸、虫垂、直腸などの消化管内壁のホルモン産生細胞に発生し、膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺、気管支、胸腺(きょうせん)のホルモン産生細胞でも発生します。

このカルチノイドは、一般的には悪性度が低いと考えられています。実際、症状の進行もゆっくりで長期生存が期待できるものも多く、これらは定型カルチノイドと呼ばれています。一方、比較的早く症状が進行し治療が困難なものがあり、これらは非定型カルチノイドと呼ばれています。定型カルチノイドは非がん性、非定型カルチノイドはがん性と見なされます。頻度的には、定型カルチノイドのほうが多くみられます。

盲腸から始まる大腸は、時計回りに上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、そして直腸に区別できますが、大腸カルチノイドは特に直腸に多く、盲腸の先端にある虫垂、結腸にも発生します。直腸カルチノイドは、胃、十二指腸、小腸を含めた消化管カルチノイドの約4分の1を占め、全直腸がんの1パーセント未満を占めます。

直腸など大腸に発生したカルチノイドは、小型核を持つ形状をしていて、卵円形から円形をした細胞で構成されており、表面は大腸粘膜で覆われています。

胃や小腸にできたカルチノイド、あるいは虫垂や結腸にできた大腸カルチノイドでは、その腫瘍がセロトニンを始め、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジン、カテコールアミンなどのホルモン様の生理活性物質を分泌し、顔面紅潮、下痢、喘息(ぜんそく)などカルチノイド症候群と呼ばれる症状が出ることがあります。

顔や首に出る不快な紅潮は最も典型的で、最初に現れることが多い症状。この血管拡張による紅潮は、感情の高揚や、食事、酒類、熱い飲み物の摂取によって起こります。紅潮に続いて、皮膚が青ざめることもあります。

セロトニンに起因して腸の収縮が過剰になると、腹部けいれんと下痢を生じます。腸は栄養を適切に吸収できないため栄養不足になり、脂肪性の悪臭を放つ脂肪便が出ます。心臓も傷害を受けて、下肢がはれます。肺への空気の供給も妨げられて、気管支喘息に似た発作や息切れが現れます。セックスへの興味を失ったり、男性では勃起(ぼっき)機能不全になることもあります。

ただし、直腸カルチノイドでは、このようなカルチノイド症候群の症状が起こることはめったにないとされています。直腸の腫瘍が大きくなって表面に潰瘍(かいよう)が生じると、血便を起こすようになります。疼痛(とうつう)、便秘を起こすこともあります。

無症状の直腸カルチノイドは、他の症状で直腸検査または大腸内視鏡検査を受けて、偶然発見されることがあります。

直腸カルチノイドを放置しておくと、転移して直腸がんのような経過をたどることがあります。最悪の場合は命を落とすこともあるので、血便などが現れた場合は、消化器科、消化器外科、外科、あるいは肛門科の医師を受診します。

直腸カルチノイドの検査と診断と治療

消化器科などの医師による診断では、症状から直腸カルチノイドが疑われる場合は、尿を24時間採取して、尿中のセロトニンの副産物の1つである5ーヒドロキシインドール酢酸(5ーHIAA)の量を測定し、その結果から判断します。

この検査を行う前の少なくとも3日間は、バナナ、トマト、プラム、アボカド、パイナップル、ナス、クルミといったセロトニンを豊富に含む食べ物を避けます。ある特定の薬、せき止めシロップによく使われるグアイフェネシン、筋弛緩(しかん)薬のメトカルバモール、抗精神病薬のフェノチアジンなども検査結果の妨げになります。

腫瘍の位置を突き止めるには、放射性核種走査(放射性核種スキャン)が有効な検査です。カルチノイドの多くはホルモンのソマトスタチン受容体がありますので、放射性ソマトスタチンを注射する放射性核種走査によって、腫瘍の位置や転移の有無が確認できます。この方法で約90パーセントの腫瘍の位置がわかります。

CT(コンピューター断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、動脈造影も、腫瘍の位置を突き止めたり、腫瘍が肝臓に転移していないかを確認するのに役立ちます。

腫瘍が直腸など一定部分に限定していれば、外科的切除で治癒することがあります。詳しく調べるには、硬性直腸鏡、S状結腸内視鏡検査、または全大腸内視鏡検査が必要です。必要に応じて粘膜の一部を採取して調べる生検が行われます。非がん性か、がん性かの区別が重要です。

直腸カルチノイドの腫瘍径が1cm以下の良性である場合は、内視鏡切除が行われます。腫瘍径が1cm以上2cm以下である場合は、大腸壁の筋層まで入っていることが少なくないので、外科手術で局所切除をすべきだと考えられています。腫瘍径が2cm以上であり、表面が結節状になっていて、びらん、潰瘍を伴う悪性である場合は、原則として外科手術が必要となります。

ただし、腫瘍径が1cmに満たないものでも、切った断面にカルチノイド細胞が残ることがあります。そのため、切除をした後に再発の有無について調べる病理検査を定期的に受けなくてはなりません。

腫瘍径が2cmを上回る場合は、リンパ節に転移する可能性が高くなってくるため、直腸がんと同様に腸を切除する根治手術が原則として行われます。放置すると腫瘍が増殖を続け、直腸がんと同じ経過をたどります。

直腸カルチノイドの治療では、経肛門(けいこうもん)的内視鏡下マイクロサージェリー(TEM)という手術法も有効だとされています。これは、腹部を切開しなくても、肛門から直腸の奥深くまで届き、顕微鏡を見ながら正確な手術ができるという手術法です。筋肉も含めてカルチノイド細胞を完全に切除し、縫合もきれいにできるとされています。

腫瘍が肝臓に転移している場合、手術で治すのは困難ですが、症状が緩和されることがあります。腫瘍の増殖は遅いので、腫瘍が転移している人でさえ、10〜15年生存することがしばしばあります。

進行した場合、一般のがんと同様に放射線療法や、抗がん剤による化学療法を含めた集学的治療を行います。ストレプトゾシンにフルオロウラシル、時にはドキソルビシンなどの抗がん剤の併用によって、症状を緩和できることがあります。オクトレオチドもホルモン産生や腸の収縮を抑制して症状を緩和し、タモキシフェン(ホルモン剤)、インターフェロンアルファ(生物学的応答調節剤)、エフロルニチンは腫瘍の増殖を抑制します。

カルチノイド症候群による紅潮を抑えるためには、フェノチアジン、シメチジン、フェントラミンが使用されます。

🇱🇹直腸性便秘

主に、排便を我慢する習慣が便意を感じにくくさせるために起こる便秘

直腸性便秘とは、主に排便を我慢する習慣が便意を感じにくくさせるために起こる便秘。習慣性便秘、単純性便秘とも呼ばれます。

便秘は通常、排便回数が少なくて、3日に1回未満、週2回未満しか、便の出ない状態です。

便が硬くなって出にくかったり、息まないと便が出なかったり、残便感があったり、便意を感じなかったり、便が少なかったりなど多様な症状も含みます。便の水分が異常に少なかったり、うさぎの糞(ふん)のように固い塊状なら便秘です。

直腸性便秘は、生活習慣が主な原因となって起こる慢性の便秘で、現代人に多くみられます。朝はぎりぎりまで寝ていて朝食抜き、トイレに行く時間もなく家を飛び出すような生活をしている人に多く、便意が起こっても、時間がないからと排便を我慢し続けた結果、便意を催さなくなるものです。あるいは、排便痛を伴うような肛門(こうもん)の疾患である痔(じ)のために、排便を我慢し続けた結果、便意を催さなくなるものです。

便が大腸の中で肛門に最も近い直腸の中に進入すると、直腸の壁が伸びる刺激で便意は起きますが、この便意は排尿感覚と違って、15分ぐらい我慢していると消えてしまうのが特徴。

排便を我慢することが度重なると、刺激に対する直腸の神経の感受性が低下して、直腸内に便が入っても便意が起こらなくなってしまい、大腸の蠕動(ぜんどう)運動も始まらないことから、直腸性便秘となります。そして、便が長いこと直腸にたまっていると、水分がどんどん吸収されて硬くなり、ますます出にくくなって、直腸性便秘が慢性化します。

便は太くて硬い、分割便となりやすいのが特徴で、その便が排出されると、その奥からむしろ軟らかい便が一挙に排出されることもあります。

直腸性便秘になると、便通不良で直腸の壁や肛門を傷付けたり、痔を悪化させるばかりでなく、腸内容物の腐敗などが進行して有害物質が生成され、下腹部不快感、膨満感、腹痛などの障害を来すこともあります。肌のトラブルや大腸がん発生の引き金になることもあります。

排便を我慢する習慣が直腸の神経の感受性を低下させて起こるほか、骨盤の底にあって下腹部の臓器を支えている骨盤底筋の機能の悪化で、直腸性便秘が起こることもあります。

骨盤底筋は排便時に緩むことで、直腸と肛門を真っすぐつなげる役割を持ち、その作用で便をスムーズに送り出すことが可能になっています。この骨盤底筋の機能が悪化して、排便時に緩まずに緊張した状態が続くと、便の通り道ができなくなり、便の排出が困難な状態になります。

しかも、便秘を治すために食物繊維や水分をいくら補給しても、通り道がなくては便は腸内にたまる一方で、便秘を逆に悪化させることになります。

さらに、女性だけにみられる症状で、度重なる出産や加齢などで直腸と膣(ちつ)の間にある直腸膣隔壁が弱って、排便しようと息んだ時に直腸の一部が膣側に膨らむ直腸瘤(りゅう)ができることで、便が直腸瘤に入り込んでうまく排出できずに、直腸性便秘が起こることもあります。直腸瘤に入り込んだ便は、どんどん水分を奪われて硬くなり、ますます排出しにくい状態になります。

それ以外に、手術で腸管を切除した場合や、下剤や浣腸(かんちょう)を多用した場合に、直腸の神経の感受性が低下して直腸性便秘が起こることもあります。

直腸性便秘に当てはまる症状が出ている場合は、肛門科、消化器科、婦人科を受診することが勧められます。

直腸性便秘の検査と診断と治療

肛門科、消化器科、婦人科の医師による診断では、問診による病歴の聞き取り、腹部の触診、直腸の指診が重要です。

腹部の触診では、腹部腫瘍(しゅよう)の有無、腹筋の筋力をチェックします。直腸の指診では、肛門部病変、肛門と直腸の狭窄(きゅうさく)あるいは腫瘍、直腸内の便の有無、便の潜血反応を調べます。

通常の検査として、検便、検血、腹部X線(レントゲン)検査を行い、便秘が持続していたり腹痛がある場合には、肛門から腸の中に軟らかい造影剤を注入してX線撮影をする注腸造影、あるいは大腸内視鏡検査を行います。

腹部腫瘤、イレウス(腸閉塞〔へいそく〕)などが疑われる場合には、腹部超音波(エコー)検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。

肛門科、消化器科、婦人科の医師による治療は、原因によって対処方法が変わります。

直腸の神経の感受性が低下したために起こる直腸性便秘の場合、生活習慣を改善することで治療の効果を期待できます。便意があれば我慢しないですぐにトイレに行くこと、そしてトイレに行く時間を生活リズムの中に組み込んで習慣化することで、便意を促すことができるからです。

また、便が硬いままだと便意が感じにくくなりますので、食生活も見直して、牛乳とバナナなどの果物だけの朝食でもよいので摂取を心掛け、水分補給と食物繊維を多く含む食品の摂取も心掛けます。腸を活動させるために、適度で定期的な運動をして血液の循環をよくするのも効果的。まず便秘を治せば、便意も正常に感じるように感覚が戻ってきます。あまりにもひどい場合には、座薬を適切に使うことでも症状の緩和がみられます。

骨盤底筋の機能が悪化したために起こる直腸性便秘の場合、排便時の姿勢や息み方を正して骨盤底筋を矯正する指導をしたり、座薬などを用いて治療します。

骨盤底筋を矯正する手順は、1)排便時には上体を前傾させて両ひじを太ももの上に置く(前傾姿勢になると直腸肛門角が開いて便がスムーズに直腸へ送られるため)、2)かかとをおよそ20度上げる(腹筋の力を腸にかけやすくなるため)、3)息む時は、腰に手を当ててせきをした時に動く筋肉である腹筋だけに力を入れる(肩や背中に力を入れて全身で踏ん張らないようにするため)。トイレに行った時に、この手順を繰り返すようにすることで、骨盤底筋を回復させることができます。

直腸瘤ができて排便が困難になる直腸性便秘の場合、軽度のケースでは、下剤や座薬で便通をコントロールする方法を取ります。指で会陰(えいん)や膣を押さえないと排便できなかったり、薬を飲んでも指でかき出さないと出ないほどひどい重度のケースでは、手術を考慮します。骨盤底筋の一部を縫い合わせて直腸瘤の前に堅い壁を作ることで、強く息んでも直腸が膣側に飛び出さないようにする手術です。

🇵🇦直腸脱

高齢の女性に多くみられ、直腸が肛門から飛び出す疾患

直腸脱とは、大腸の最終部に当たる直腸が肛門(こうもん)から飛び出す疾患。小児や若い成人でもみられますが、ほとんどが高齢で出産経験のある女性に起こります。

直腸を骨盤に固定している筋肉や靭帯(じんたい)が生まれ付き弱かったり、年を取って緩んできたため、直腸の粘膜や筋層が肛門の外に飛び出すために起こります。そのほか、肛門括約筋が弱い、腹腔(ふくくう)内の直腸子宮間のポケットが深い、直腸が短いなども原因となり得ます。直腸のポリープや内痔核(ないじかく)脱肛など、肛門から脱出する疾患を放置することも原因の一つです。

初期には肛門から3センチ程度の直腸粘膜のみの脱出が起こり、ひどい場合には10~20センチもの長さの直腸全層がひっくり返って飛び出すこともあります。初期には排便時の脱出のみにとどまりまるものの、進行すると歩行時にも脱出が認められ、肛門括約筋の障害、女性では子宮脱を伴うこともあります。直腸を手で押し込まないといつまでも肛門のはれや痛みが続き、下着に触れて出血するようになります。便秘や排便障害も起こります。

小児にみられる直腸脱の場合は、成長するにつれて自然と治ることが多いので、息まないようにします。原因は、便秘による硬い便です。

直腸脱の検査と診断と治療

直腸脱に気付いた場合、またはその疑いがある場合は、直腸脱の程度の判定がしにくいため、肛門科の専門医を受診します。

医師による診断は、脱出している直腸粘膜を確認することで行われ、脱出していない場合は腹圧をかけて脱出させます。詳しくは、原因になる脆弱(ぜいじゃく)な骨盤底と直腸の固定の異常の有無を調べるために、肛門内圧検査や排便造影検査が必要になります。それにより治療法が決定されます。鑑別診断としては、直腸がんの有無が重要で、内視鏡検査が必要になります。

小児の直腸脱は、なるべく手術せずに治療されます。緩下剤を用いて便秘を予防し、排便の時に息むことをやめさせることにより、症状は自然と治ってきます。

青壮年の直腸脱では、仕事やスポーツで腹部に力が入ることが多いので、外科的治療法が最もよいとされています。開腹手術によって、直腸をおなかの中に引き上げて、しっかり固定します。いろいろな方法がありますが、どれも約90パーセントは有効です。

高齢者、または軽い直腸脱では、肛門から直腸をナイロン糸で縫い縮めるか、薬を注入固定する方法が行われています。縫い縮める手術は比較的容易で、麻酔法の工夫で日帰りや一泊入院での対応も可能です。ただし、手術後の安静と排便のコントロールは重要です。

🇸🇬直腸ポリープ

直腸の粘膜の一部が隆起したもので、がん化する可能性も

直腸ポリープとは、大腸の最終部に当たる直腸の粘膜の一部が隆起したもの。大腸ポリープ全体の7割が、直腸に近い部位にできます。

ポリープの形は、茎のある有茎性できのこ状のものと、無茎性でいぼ状のもの、平らに隆起したものなどあります。また、発生の仕組みから、大きく腫瘍(しゅよう)性のものと非腫瘍性のものに分類されています。腫瘍性のポリープには、良性の腺腫(せんしゅ)と、がん化した悪性の腺がんがあります。一方、非腫瘍性のポリープには、若年性ポリープ、過形成ポリープ、炎症性ポリープがあり、がん化する可能性はありません。

大腸がん、直腸がんの発生と同じく、動物性脂肪や蛋白(たんぱく)質の消費と関係があるといわれていますが、原因についてはわかっていません。

ポリープが小さい場合は、ほとんどが無症状です。ポリープが大きくなってきたり、がん化すると、便に血液や粘液が付着し、排便後に残便感が生じる場合もあります。また、肛門(こうもん)に近い部位にあるポリープは、排便の際に肛門から脱出する場合もあります。

ほとんどが無症状であるため、人間ドッグの大腸肛門内視鏡検査などで偶然に確認されることがほとんどです。

直腸ポリープの検査と診断と治療

直腸ポリープに気付いた場合、またはその疑いがある場合は、肛門科、大腸肛門科の専門医を受診します。

肛門に近い場所では、大腸肛門外来での診察で多く発見されます。詳しく調べるには、硬性直腸鏡、S状結腸内視鏡検査、または全大腸内視鏡検査が必要です。必要に応じて粘膜の一部を採取して調べる生検が行われます。良性か悪性かの区別が重要です。

ポリープの数が1個か2個で、小さな場合は、そのまま放置して経過をみることがあります。まれに、ポリープが壊死(えし)して自然に治癒することもあります。

一般にポリープのサイズが1センチを超える場合、複数の個所にポリープがあるポリポージスの場合には、診断と治療を兼ねて、すべてのポリープを内視鏡により切除します。近年では拡大内視鏡を用いることにより、または熟練した内視鏡医であれば、ポリープを切除する前にある程度の悪性度の判断がつくため、すべてのポリープを切除する必要はありません。治療後に、良性か悪性かを詳しく調査します。

内視鏡で切除できない大きさのポリープの場合は、肛門側から器具を使って切除手術を行います。近年では、より肛門から遠い直腸でもポリープが確実に切除できるような器具が開発されています。がん化しているものは、開腹手術が必要となります。

治療後も、追跡検査が大切です。ポリープでは新たな腺腫、およびがんの発生頻度が高いため、医療機関によっては1〜3年後に全大腸内視鏡検査を行っていますが、その間隔はそれぞれの危険因子により決定されています。

🇸🇬胆道閉鎖症

新生児や乳児の肝臓と腸をつなぐ胆道の内腔が詰まり、胆汁を腸に出すことができない疾患

胆道閉鎖症とは、肝臓と腸をつなぐ胆道(胆管)という管の内腔(ないくう)が炎症のために狭くなったり、詰まったりして、肝臓で作られた胆汁を腸に出すことができない疾患。

新生児期から乳児期早期に発症する疾患で、先天的発生異常説、ウイルス感染説、免疫異常説などいろいろの説があるものの、現在のところ、まだ明らかな原因は解明されていません。

母親の胎内で一度作られた胆道が、原因不明の炎症のために狭くなったり、詰まったりするものが多いのではないかとされています。出生1万人から1万5000人に約1人の頻度で発症し、男の子の約2倍と女の子に多く発症しています。

肝臓で作られた黄色い胆汁は本来ならば、肝臓の外にある肝外胆道(胆管)である胆道、胆嚢(たんのう)、総胆管を通って十二指腸から腸管の中に流れ出ていき、食物中の脂肪の吸収を助けるのですが、胆道閉鎖症では胆汁が腸管に流れなくなります。

胆汁の流れが停滞しても肝臓は胆汁を作り続けるので、行き場のなくなった胆汁成分は肝臓にたまることになります。そして、肝臓から血液の中にあふれ出て、血液中のビリルビン(胆汁色素)が過剰に増えて、皮膚や白目の部分が黄色く見える黄疸(おうだん)を起こします。

また、胆汁が腸管に流れないので便は黄色みが薄くなって灰白色となる一方、胆汁の分解産物が流れる尿は黄色みが濃くなって濃褐色になります。

さらに、肝臓にたまった胆汁は肝臓の組織を破壊し、進行すると肝臓は線維化して硬くなり、胆汁性肝硬変といわれる状態に至ります。

肝臓は本来ならば、再生能力の非常に高い臓器なのですが、いったん肝硬変になると線維化の産物である結合組織に再生を遮られるため、元の健康な肝臓に戻ることが困難になります。

肝硬変へ進むと門脈圧高進症が起こり、これに伴って食道静脈瘤(りゅう)、胃静脈瘤、脾腫(ひしゅ)、腹水など、二次的な症状が現れます。腹水がたまると横隔膜を圧迫したり、肺内の血行障害が起こって呼吸障害が生じることもあります。

胆汁の排出障害が強いと食物中の脂肪吸収が障害され、脂溶性ビタミンの吸収も悪くなってビタミンK欠乏症を起こすほか、肝機能障害から血液凝固因子が作れなくなり、出血傾向が強くなって消化管出血や脳出血などを起こすこともあります。

新生児や乳児の黄疸と灰白色便が長引く場合は、すぐに小児科を受診することが勧められます。胆道閉鎖症は、出生後8週間以内に手術することが大切で、8週間を過ぎると肝臓の線維化が進み、手術後の胆汁排出効果が悪くなります。

胆道閉鎖症の検査と診断と治療

小児科、消化器外科の医師による診断では、血液検査、尿検査、便検査、十二指腸液検査、肝胆道シンチグラム、腹部超音波検査などを必要に応じて組み合わせて行います。

十二指腸液検査は、十二指腸にチューブを入れて十二指腸内の液を採取し、胆汁の有無を調べるものです。肝胆道シンチグラムは、胆汁中に排出される放射性活性物質を用いて、胆汁の流出状況を調べるものです。

小児科、消化器外科の医師による治療では、まずは肝臓で作られた胆汁が腸管に流れるようにするため、肝臓からの胆汁の出口付近と腸管を縫い合せる手術を行います。肝臓の線維化が進まないうちであれば、手術を行うことで約7割から8割で黄疸が消え、改善が認められます。

手術後は、胆汁の流出をよくする利胆剤、細菌感染を予防する抗生剤などを服用します。退院後も、利胆剤に加えてビタミン剤を服用します。

手術後も胆汁排出が認められない場合、黄疸が消失しない場合、手術後に黄疸が再発した場合、胆管炎や門脈圧高進症などを合併した場合には、最終的に肝移植を行います。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...