2022/08/02

🇱🇺心房頻拍

心房内の規則的な電気刺激により、心臓の拍動が1分間に140~200回に増える頻拍

心房頻拍とは、心臓内部の上半分である心房内に異常興奮部位が存在することで、心臓の拍動が1分間に140~200回へと突然増える頻拍。AT(atrial tachycardia)とも呼ばれます。

正常な心臓では、右心房付近にある洞結節(どうけっせつ)から1分間に60~80回の電気刺激が発生して、心臓内部の上半分である右心房、左心房、心臓内部の下半分である右心室、左心室を規則正しく収縮させることで拍動を起こし、心臓は絶え間なく全身に血液を送り出しています。

心房頻拍は、洞結節からの電気刺激ではなく、心房内の異常な心筋細胞から極端に速い頻度で電気刺激が発生してしまうことで起こります。

頻拍が発生する起源により、異所性心房頻拍、リエントリー(再侵入)性心房頻拍(心房内リエントリー性頻拍、マクロ・リエントリー性心房頻拍)などに分類されます。

異所性心房頻拍は、比較的狭い異常な心筋細胞が心房内に発生することが原因となるため、起源は多彩です。好発部位は、右心房では分界稜(りょう)、上大静脈、冠静脈洞、左心房では肺静脈入口部周囲。比較的若い人に多くみられます。

一方、リエントリー性心房頻拍は、洞結節の周囲や、心臓の外科手術で切開した跡の周囲などに、電気的刺激が比較的大きく旋回することが原因となります。

心房頻拍のほとんどは一過性で、特に心配はいりませんが、突然に拍動が速くなり、突然に元に戻るのが特徴です。頻脈発作の持続時間は数秒から数時間までとさまざまで、起こる回数もまちまちです。

頻脈発作の持続時間が短い非持続性心房頻拍の場合は、胸がドキドキする感じがするくらいですが、頻脈発作が長く続く持続性心房頻拍の場合や、拍動が1分間に200回くらいになる場合は、強い動悸(どうき)や息切れといった自覚症状を感じることがあります。胸の違和感、不快感を覚えることもあります。

また、一過性の非持続性心房頻拍でない場合は、心不全を合併するもの、脳梗塞(そくせん)を引き起こすものもあり、心房の拍動が1分間に300回以上と速くなったり、拍動のリズムが不規則になったりする心房細動に移行することもあります。

心房頻拍は特に原因となる疾患がなくても起こることもある一方で、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)がある人、肺や食道の手術を受けた人、狭心症や心筋梗塞を起こしたことがある人などは特にリスクが高くなります。

心房頻拍の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、心臓の電気的活動を体表面から波形として記録する心電図検査を中心に行います。心電図における真っすぐの基線である等電位線があり、心房の興奮頻度が1分間に140~200回のものを心房頻拍と見なします。

心臓の拍動数が1分間に100回を超えるような持続性心房頻拍が認められた場合には、胸部X線検査や心臓超音波(エコー)検査を行い、心不全の有無を確認します。発作時の心電図がない場合は、携帯式で小型のホルター心電計を付けたまま帰宅してもらい、長時間の心電図で診断することもあります。

異所性心房頻拍とリエントリー性心房頻拍の鑑別には、アデノシン三リン酸(ATP)の投与が有用で、異所性心房頻拍では頻拍が停止することが多いのに対して、リエントリー性心房頻拍では心室の興奮が通常より遅れたり、欠落する房室ブロックが生じるものの頻拍自体が停止することはありません。

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による治療では、症状が強い場合、β(ベータ)遮断薬やナトリウムチャネル遮断薬などによる薬物治療を行います。

効果がない場合や、薬が使えない場合には、極端に速い頻度で電気刺激を発生させている異常興奮部位を探し出し、足の付け根などからカテーテルと呼ばれる電極を心臓内に挿入し、高周波で焼灼(しょうしゃく)するカテーテルアブレーションという手術を行います。一度焼灼された組織は瘢痕(はんこん)化し電気が流れなくなりますので、頻拍は起こらなくなります。

🇱🇺心膜炎

心臓を包んでいる膜に炎症が発生

心膜炎とは、心臓を包んでいる心膜ないし心外膜と呼ばれる膜に、炎症が起きた疾患。かつては心包炎、心嚢(しんのう)炎などとも呼ばれていた疾患です。

心膜は、二枚に重なった薄い膜でできています。二枚は、折り返るようにようにつながって、袋状になっています。この袋状の心膜腔(くう)には、リンパ液が入っていて、心臓の収縮と拡張の時に二枚の膜がよく滑り合うように、潤滑油の役目を果たしています。

心膜炎になると、この膜面にフィブリン(線維素)が析出したり、心臓液が貯留します。

心膜炎の原因には、さまざまなものが挙げられます。主要なものとしては、ウイルスや細菌の感染、膠原(こうげん)病、心筋梗塞(こうそく)、心手術後の反応、尿毒症、悪性腫瘍(しゅよう)の転移があります。各種の検査によっても原因が不明のものは特発性心膜炎と呼ばれ、これも頻度が高いものの一つです。

ウイルスの感染は心筋炎と合併することが多く、大部分のケースでは安静によって治ります。細菌の感染の中では、結核性のものが最も多く、治っても心膜の癒着、肥厚、石灰化が強く、心臓の弛緩が阻害されることもあり、この状態を収縮性心膜炎と呼びます。また、心膜炎の貯留が異常に多く、心臓を圧迫した状態が起こることもあり、心タンポナーデと呼びます。まれに、化膿(かのう)性の細菌が心膜腔に入り、化膿性心膜炎を起こすこともあります。

膠原病ではリウマチ熱、全身性エリテマトーデス、強皮症などがあり、いずれの場合でも心膜炎を合併することが高頻度にみられます。心筋梗塞や心手術後にも心膜炎が起こることもあり、傷害された心筋による自己免疫作用と考えられています。

尿毒症による心膜炎は、慢性の腎(じん)疾患の末期である尿毒症の状態でみられます。また、肺がん、乳がん、悪性リンパ腫、白血病では、心膜に腫瘍が転移し、心タンポナーデを起こすこともあり、がんの末期症状の一つと考えられます。

心膜炎の初期では、ほとんど無症状で、原因になっている疾患の症状のみみられることが多いのですが、進行すると胸痛や呼吸困難、発熱を自覚するようになります。胸痛は、首筋や両肩に痛みが散ることが多く、その痛み方は鈍痛であったり、刺すような痛みであったりします。これらの痛みには特徴があって、横になっている時や、せきをすると痛みが強く、座ったり、 上半身をいくぶん前に傾けたりすると和らぎます。乳児であれば、横にすると機嫌が悪くなります。

さらに症状が進行して、心膜液が急に増えると心膜腔の圧が高くなって、心臓の運動が障害され、心タンポナーデの状態となり、呼吸困難、静脈の膨れ上がり、むくみ、血圧の低下が出現します。命にかかわる病態ですので、早急に貯留した心膜液を取り除く必要があります。

心膜炎の検査と診断と治療

原因になっている疾患の陰に隠れて、初期には発見しにくいのですが、心エコー(超音波)やCT検査などが、その診断に威力を発揮します。特に心エコーでは、貯留した心膜液の量が治療によって減っていくのを知ることができます。

治療法としては、まず、原因となっている疾患の治療が第一。感染性のものには有効な抗生物質、結核性のものには抗結核剤、膠原病によるものには副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)などが、それぞれ使われます。

そして、原因が何であっても、心膜液が多量にあって心臓の運動を障害する場合には、胸壁から心膜腔に針を入れて液を抜きます。さらに、慢性の心膜炎で心膜が癒着したり肥厚し、心臓の運動に支障が出た場合には、外科手術で心膜の切除を行います。

急性心膜炎の場合は家庭での治療は無理なので、入院加療が必要ですが、一般に心膜炎に対する日常生活上の注意としては、安静と、塩分や水分の制限を守ることです。

🇱🇷サラセミア

正常なヘモグロビンを作ることができず、貧血を起こす疾患

サラセミアとは、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビン(血色素)の合成障害によって、貧血を来す疾患。地中海貧血とも呼ばれます。

血液にはさまざまな細胞が含まれ、骨の中心にある骨髄で作られます。ヘモグロビンは赤血球の主要な構成要素であり、肺から各臓器や組織に酸素を運び、不必要になった二酸化炭素を持ち帰って、肺から外に出すなど重要な働きをしています。合成障害によって正常なヘモグロビンの産生が不足すると、全身に運ばれる酸素の量が減少し、体が酸素不足になって貧血を起こし、めまいや、立ちくらみが現れたりします。

ヘモグロビンは、141個のアミノ酸を持つα鎖グロビンと呼ばれる蛋白(たんぱく)質と、146個のアミノ酸を持つ非α鎖グロビンと呼ばれる蛋白質の各2分子からなる構造をしています。4分子には鉄を含むヘムが1個結合しており、計4個のヘムが酸素と結合し、各臓器や組織に酸素を運んでいます。

サラセミアは、α鎖グロビンや非α鎖グロビンの合成障害によって、正常なヘモグロビンを作ることができず、1つ1つの赤血球が小さい小球性で、その1つの赤血球に含まれるヘモグロビンの量が少ない低色素性という小球性低色素性貧血を示します。α鎖グロビンの異常によるものをαサラセミア、β鎖グロビンの異常によるものをβサラセミアといいます。

サラセミアの発症者は生まれ付き、グロビンを作る設計図に相当する遺伝子に異常があるため、正常なヘモグロビンを作ることができません。常染色体優性遺伝という形式で遺伝する疾患で、両親のいずれかがサラセミアを発症していた場合に、子供に遺伝する可能性が高くなります。自然発生することは、ほとんどありません。

もともと地中海に面した地域に多く、日本人の発症者は少ないと考えられていましたが、最近になって日本人にも決して少なくないことが調査研究で明らかになっており、九州や西日本に多いとされています。

日本人におけるサラセミアの頻度は、αサラセミアで新生児3500人に1人、βサラセミアで新生児1000人に1人程度であると見なされています。αサラセミア、βサラセミアともに軽症型であるため、赤血球の寿命が短くなって壊れ、ヘモグロビンが多量に血球外に出される溶血という現象が発生する溶血性貧血の割合は少なく、特にβサラセミアでは全体の6%にしか溶血性貧血は認められません。

遺伝子の異常により軽症型から重症型まであり、サラセミアの症状はさまざまです。発症者はヘモグロビンが不足するために貧血を起こし、黄疸(おうだん)、皮膚潰瘍(かいよう)、脾腫(ひしゅ)、胆石、肝機能障害などの症状を示しますす。心臓や脳に運ばれる酸素が少なくなることで、心不全や意識消失を引き起こすこともあります。

日本人の場合は軽症型が多く認められ、一般には小球性低色素性貧血の症状が生後2~3カ月から出始めます。自覚症状としては、皮膚が白くなる、成長が遅くなる、気難しくなったりふさぎ込んだりする、お腹が張る感じがするなどがあります。

日本人にまれな重症型のβサラセミアで、父親由来と母親由来の両方の遺伝子に異常があるホモ接合体、父親由来と母親由来のいずれか一方のみの遺伝子に異常が認められる複合ヘテロ接合体では、不均衡なヘモグロビン産生が赤血球膜障害を招いて溶血性貧血を起こし、一生涯、輸血を余儀なくされます。顔面の骨や頭蓋(ずがい)骨が通常よりも肥厚化するサラセミア様顔貌(がんぼう)を示すこともあります。

胎児のうちに重症型のβサラセミアのホモ接合体、複合ヘテロ接合体が診断されれば、子宮内胎児死亡を防ぐための胎児輸血や、研究段階である胎児遺伝子治療への道が開けます。

サラセミアの検査と診断と治療

小児科、ないし血液内科の医師による診断では、血液検査を行い、血液に含まれる細胞の数や形態などを調べます。ヘモグロビンA2やヘモグロビンFという異常なヘモグロビン、形態が崩れたり壊れたりした赤血球が含まれていないかどうか確認します。

次に骨髄検査を行い、腰骨の中の骨髄をほんの一部を針で採取します。採取した骨髄は、病理医が顕微鏡を使って、造血幹細胞の状態を詳細に観察します。さらに超音波検査を行い、腹の中にある脾臓や肝臓が大きくなっていないかどうか調べます。

遺伝子検査では、グロビンを作る設計図に相当する遺伝子を調べて、どのような異常があるか調べます。複数の遺伝子異常が存在し、どの遺伝子異常があるかによって重症度が大きく異なるため、治療の選択が大きく変わります。

小児科、ないし血液内科の医師による治療では、外来への通院により、貧血の改善を図ります。軽症の場合は、定期的に血液検査を行い貧血の有無をチェックします。不必要な鉄製剤の投与などを避け、妊娠や感染症の合併などの要因で一過性に引き起こされる貧血症状の増悪に注意を払います。

重症の場合は、輸血療法を行い、不足しているヘモグロビンを補充します。輸血療法では、点滴と同じ要領で腕の静脈に針を刺し、1回で200~400mlの血液を補充します。血液検査を行って赤血球の値を確認しながら、月に数回、外来への通院により、血液補充を継続します。ヘモグロビンが補充されて運ばれる酸素が多くなるため、心臓や脳にかかる負担が減ることで自覚症状が改善します。

場合によっては、数十年という長期間にわたって輸血療法を継続する必要があります。その際は、頻回な輸血の副作用である鉄過剰症が問題となります。鉄は心臓や肝臓に少しずつ蓄積するため、頻回の輸血により鉄が過剰になると、心臓や肝臓の機能が低下するため、経口除鉄剤の服用により、体内からの鉄の排出を促進する鉄キレート療法を併用します。また、鉄製剤の内服薬は禁止します。

鉄キレート療法の副作用として、吐き気や下痢、嘔吐(おうと)、腹痛などの胃腸症状、腎(じん)障害が出ることがあります。

重症型の一部の症例では、造血幹細胞移植が選択肢の一つとなります。HLA(ヒト白血球抗原)という型が一致する臓器提供者(ドナー)から提供された造血幹細胞を移植することで、血液を作る細胞を入れ替える治療で、サラセミアを完全に治すことのできる唯一の治療法です。

🇱🇮サルコイドーシス

多臓器に肉芽腫を作る、原因不明の疾患

サルコイドーシスとは、結核を始めとする感染症によく似た病巣を、全身のいろいろな臓器に作る疾患。そのような病巣をサルコイド、一般的には類上皮細胞肉芽腫(にくげしゅ)と呼んでいます。類上皮細胞肉芽腫は、類上皮細胞、T細胞、マクロファージなどからなる塊です。

原因は不明で、よく認められるサルコイドーシスの症状は目のかすみ、視力低下、せき、呼吸苦、皮膚の発疹(はっしん)、不整脈などで、小さな肉芽腫が多数発生した臓器の障害として出現します。しかし、一定の病変の拡大が認められる前は無症状のことが多いために、発症者の約40パーセントは自覚症状に乏しく、住民検診や職場検診で発見されています。

無症状のことが多くて日本での発症者数は不明ですが、推定有病率が人口10万人当たり2.2人で、男女別では男性1.7人、女性2.6人と女性に多い疾患。発症年齢でみると、20~30歳代と50~60歳代の二峰性のピークを示し、高年齢層のピークが著明です。地域別に見ると、北部が南部と比較して発症者数が多い傾向にあります。

現在まで原因が明確にされるに至っていませんが、結核を始めとする感染性肉芽腫性疾患と病理組織像が大変似ていることから、何らかの感染症が関与しているのではないかと、以前より考えられてきました。結核では、乾酪壊死(かんらくえし)というチーズに似た壊死部分で、細胞の融解したものが肉芽腫の中央にみられます。サルコイドーシスの肉芽腫では、乾酪壊死はみられません。

現在の日本では、グラム陽性の嫌気性細菌であるアクネ桿菌(かんきん)が原因菌の一部として、研究の対象となっています。一方、どこにでもある種々の環境刺激に対して、免疫反応が起きたとする報告もあります。欧米では、Lー型結核菌、ウイルス、自己免疫などと関係があるとする報告があります。

サルコイドーシスの症状は、罹患(りかん)臓器によって異なります。主に侵される臓器は、目、皮膚、肺、心臓、神経。

目では、ぶどう膜炎を合併し、目のかすみや、まぶしさ、充血に加えて、視力低下、飛蚊(ひぶん)症、眼圧上昇を来すことがあります。皮膚では、ひざ、ひじ、顔面などに瘢痕(はんこん)浸潤、皮膚サルコイドという皮疹ができます。すねに結節性紅斑(こうはん)という皮疹ができることもあります。

肺では、両側肺門リンパ節腫脹 (BHL) がみられるのが特徴的で、ほとんど無症状です。一部の発症者は次第に、肺野病変を合併して、せき、呼吸苦を来し、さらに肺線維症やブラ(肺嚢胞〈のうほう〉)への感染が起こると、呼吸困難が進みます。このような例は全体の5パーセント以下で、10年以上の年月を要します。

心臓では、不整脈が最も多く認められ、心不全、心筋梗塞(こうそく)を引き起こすこともあります。動悸(どうき)や失神発作、呼吸困難、浮腫を来し、致死的となることがあります。神経では、尿崩(にょうほう)症となり、多尿になることがあります。精神症状や、脳梗塞に似た多彩な症状が出ることもあります。

その他の臓器では、ひざや足の関節痛、耳下腺(じかせん)のはれ、わきの下や首のリンパ腺のはれ、乳腺の腫瘤(しゅりゅう)、皮下や筋肉内の腫瘤などがみられます。また、発熱や体重減少などの全身症状が出ることもあります。

サルコイドーシスの検査と診断と治療

サルコイドーシスでは、胸部X線検査やCT検査で、肺門リンパ節腫脹 (BHL)特有の陰影が認められるのが特徴的です。健康診断で胸部X線検査を行った結果、偶然見付かるケースも多く認められます。

また、医師の診断において、ぶどう膜炎や皮膚病変が特徴的であれば、サルコイドーシスを疑うことになります。病変部位の生検で乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が証明されれば、診断が確定します。はれたリンパ節や、皮膚病変、あるいは気管支鏡や手術で採取した肺組織などから生検します。診断の補助検査としては、血液検査でガンマグロブリン、リゾチーム、アンギオテンシン変換酵素(ACE)の上昇がみられ、ガリウムシンチグラフィーで病変部位への集積像がみられると、サルコドーシスと見なされます。ツベリクリン反応が陰性化することも、結核との鑑別に重要です。心臓病変の診断には、心電図やホルター心電図、心エコーなどが必要となります。

このサルコイドーシスの診断は、専門医であれば比較的容易にできます。しかし、治療に関しては原因が不明な現在、真の治療はできません。ただし、発症者の約90パーセントという大多数では予後がよく、無治療で2〜3年以内に自然軽快する人もたくさんいます。無症状で肺門リンパ節腫脹 (BHL)が認められるだけの場合など、類上皮細胞肉芽腫は自然消失することが多いからです。発症者の約10パーセントは、治療中止が困難か、進行性です。

無症状の例では、特に薬物治療はせず、一般には許される限り3~6カ月は細心の注意を払って、経過を観察することがほとんどです。症状が強くなり必要ありと判断されれば、結核などと同様な細胞性免疫が疾患の発生に関係があるものと考えられているため、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド)を第一選択薬とした薬物治療が行われます。罹患臓器の種類と重症度によって、副腎皮質ホルモンの投与方法、量、期間、中止の目安などが異なります。使用に際してはその副作用が問題で、最初に多くの量を使い、徐々に減らしていき、少量で維持します。

 副腎皮質ホルモン無効例、再発症例、難治化症例などでは、各種の免疫抑制剤なども使用されます。心臓病変に対しては、抗不整脈剤などの併用や、ペースメーカー装着が必要な場合もあります。

心臓や中枢神経に病変が及んだ場合や、類上皮細胞肉芽腫が自然消失せずに進展して肺線維症を起こしてしまった場合は、予後が悪いので、定期的な検査による長期に渡る綿密な経過観察が必要です。まれな症例として、心臓病変による突然死、肺線維症で死亡する場合もあります。

🇱🇾サルコペニア

年齢を重ねるとともに筋肉量が減少し、筋力または身体能力が低下した状態

サルコペニアとは、年齢を重ねるとともに筋肉量が減少し、筋力または身体能力が低下した状態。原発性サルコペニア、加齢性筋肉減弱症とも呼ばれます。

サルコペニアは、ギリシャ語のsarco(筋肉)、penia(減少)を合わせた造語で、1980年代後半にアメリカの研究者が提唱しました。

主に高齢者にみられ、運動機能、身体機能に障害が生じたり、転倒、骨折、寝たきりの危険性が増大し、自立した生活を困難にする原因となることがあります。

2010年に欧州の老年医学の研究グループが診断基準を作りましたが、欧米人のデータを基にした基準値は、体格の異なるアジア人には必ずしも適さないと考えられました。そこで、日本、韓国、中国、香港、タイなど、アジアの7つの国・地域の研究者が協力し、2013年にアジア人向けの診断基準をまとめました。

サルコペニアの定義は、(1)筋肉量の減少(2)筋力の低下(3)身体能力の低下のうち、(1)と、(2)か(3)のどちらかがある状態です。

アジア人向けの診断基準では、高齢者がサルコペニアかどうかを診断する際、まず握力と歩行速度を測定します。基準値は、握力が男性26キログラム未満、女性18キログラム未満、歩行速度が秒速0・8メートル以下。どちらか一方でも該当すると、サルコペニアが疑われます。

握力の基準値は、両手で各3回測り、最高値をとります。歩行速度の秒速0・8メートルの目安は、青信号で横断歩道を渡りきれるかどうかです。

確定診断には、X線を用いる特殊な検査法であるDXA法(二重X線吸収法)で筋肉量を測定し、男性7・0(キログラム/平方メートル)、女性5・4(同)の基準値未満なら、サルコペニアとされます。

ただし、サルコペニアは疾患名として確立しておらず、この筋肉量測定法は普及していないので、握力か歩行速度が基準値以下なら注意が必要と考えられます。

70歳以下の高齢者の13〜24パーセント、80歳以上では50パーセント以上に、サルコペニアを認めるという報告があります。仮に筋肉量が基準値を超えているのに、握力や歩行速度が基準値以下なら、パーキンソン病や変形性膝(しつ)関節症など、ほかの病気が影響している可能性もあるとされます。

筋肉の量は20歳代前半をピークに、25~30歳ころから減少の進行が始まり、生涯を通して進行していきます。40歳代以降は年1パーセントの割合で減少し、75歳を超えると減る割合はより大きくなります。筋肉の量の減少は、活動性の低下だけでなく、組織や細胞の変化など多くの因子によって起こります。

また、筋肉の量の減少は広背筋、腹筋、膝伸筋群、臀筋(でんきん)群などの抗重力筋において多くみられるため、立ち上がりや歩行が次第に億劫(おっくう)になり、放置すると歩行が困難になり、高齢者の活動能力の低下の大きな原因となっています。

頻繁につまずいたり、立ち上がる時に手を掛けるようになると、症状がかなり進んでいると考えられます。特に、つまずきは当人や周囲が注意力不足のせいだと思い込んでいることが多いため、筋力の低下が原因と気付かないことが多く、注意が必要です。

サルコペニアの対策と軽減策

筋肉量の減少や筋力の衰えを予防、改善するには、運動と栄養補給の組み合わせが大切です。

運動としては、特に下半身の筋肉を鍛えるスクワットなどが推奨されます。ウオーキングなどの有酸素運動も、取り入れたほうがよいでしょう

栄養補給としては、蛋白質(たんぱくしつ)に含まれる必須アミノ酸の一つで、筋肉を作る役割があるロイシンの摂取が効果的。肉や魚、卵、乳製品、大豆など、ロイシンを多く含む食品を毎日食べたほうがよいでしょう。

🇱🇻サルコペニア肥満

加齢による筋肉減少と、肥満の両方を併せ持つ状態

サルコペニア肥満とは、筋肉の減少と肥満の両方を併せ持つ状態。サルコペニアとは、加齢による筋肉の減少を指し、サルコが筋肉、ペニアが減少という意味です。

サルコペニア肥満では、2つの要因が重なって、通常の肥満よりもさまざまな病気になるリスクが高まります。高血圧などの生活習慣病にかかりやすく、また運動能力、特に歩行能力を低下させるため、転倒、骨折、寝たきりになるリスクが高まります。

しかし、筋肉が減少する一方で脂肪が増加するため、全体として体重や体形が変わらない場合があるために気付きにくく、発見が遅れがちで生活習慣病などが進行しやすくなります。

男女とも60歳代でサルコペニア肥満が増え始め、70歳代以上になると約3割が該当するといわれます。また、女性に多いといわれています。

しかし、サルコペニア肥満は高齢者だけがなるわけではなく、若い世代の間でも予備軍がみられます。筋肉の量は20歳代をピークに、40歳代以降は年1パーセントの割合で減少していくため、40歳代以降ではサルコペニア肥満、もしくはその予備軍が4人に1人ともいわれています。

基本的に、運動不足で必要以上の食事を取る人なら、サルコペニア肥満になる可能性があります。また、過度な食事制限を課す誤ったダイエットによって筋肉が減少する状態も、将来のサルコペニア肥満につながります。

筋肉が加齢や運動不足によって減少していくのに伴って、基礎代謝が減り、体が必要とするカロリーが少なくなります。にもかかわらず、以前と変わらない食事を続けていると、余分なカロリーが脂肪になって体に蓄積するようになり、サルコペニア肥満になる可能性が生じます。

サルコペニア肥満の怖いところは、これに気付きにくいという点にあります。通常の肥満だと、体形に変化があって自覚しやすく、ダイエットや運動をする気になりますが、サルコペニア肥満は見た目の変化があまりないので、これまでと同じような生活や食事を続けがちです。

歩幅が短くなる、1秒間に80センチ以下と歩行速度が遅くなる、駅の階段を上る際に手すりに手を掛ける、つま先立ちで歩くことができない、椅子(いす)に座った状態から片足で立ち上がれない、片足立ちで60秒立っていられない。

以上の足の筋力が衰えた際の症状に、もし当てはまるなら、サルコペニア肥満、あるいは予備軍の可能性があります。

足の筋力の低下に合わせて、測定した体脂肪率も肥満レベルであれば、サルコペニア肥満である可能性がかなり高くなります。

公的に認められた数値の定義ではないものの、筋肉の割合が男性で27・3パーセント未満、女性で22パーセント未満、体重を身長の2乗で割った体格指数のBMIが25以上、の2つの条件を満たした場合、サルコペニア肥満と判定するという定義もあります。

体脂肪率、筋肉の割合、BMIとも、家庭用の電子体重計で測定できます。

サルコペニア肥満の対策と軽減策

サルコペニア肥満の解消は、通常のサルコペニアや通常の肥満より困難です。ただの肥満であれば、食事を減らすことで解消できます。サルコペニアだけなら、筋力トレーニングを行い、高蛋白(たんぱく)な食事を取れば、高齢者であっても筋力は回復します。

しかし、サルコペニア肥満では、食事を制限しながら筋力トレーニングを行うことになり、そのバランスを取るのが難しくなります。つまり、食事を減らすと筋力が低下する場合がありますし、筋力トレーニングの後の食事を取りすぎればさらなる肥満につながります。

また、サルコペニア肥満で寝たきりの患者や虚弱な高齢者は、運動することも難しいので、サルコペニア肥満の解消は非常に難しいものとなります。

サルコペニア肥満は防ぐ運動としては、特に下半身を鍛えるスクワットなどが推奨されます。脂肪を減らすためにウオーキングなどの有酸素運動も、取り入れたほうがよいでしょう。食事に関しては、食べすぎないという対策からもう一歩進んで、油分の多い食材を控え、筋肉の元となる蛋白質やアミノ酸の多い食材を意識して取るようにするのがよいでしょう。

🇱🇹サルモネラ食中毒

鶏卵や鶏、豚、牛の肉が原因食となって発生する食中毒

サルモネラ食中毒とは、サルモネラ菌が原因となって起こる食中毒。重症の食中毒を起こすこともあります。

サルモネラ菌は、もともと自然界に広く分布し、鶏(にわとり)、豚、牛などの家畜や家禽(かきん)、犬や猫などのペットも保有しています。血清型別という方法で約2500種に分けられ、低温や乾燥に強い性質があります。

一般に、1グラム中に1万個以上の菌が増殖した食品を食べると感染し、中毒症状を起こします。幼児や高齢者では、わずかな菌量でも感染します。一般に、人から人へ伝染することはありませんが、乳幼児や高齢者では、二次感染することもあります。

原因となる食品としては、サルモネラ菌を持っている鶏、豚、牛などの肉や、鶏卵などをよく火を通さないで食用にしたもののほか、納豆、氷小豆、乳製品などが挙げられます。特に近年では、鶏卵に含まれるエンテリティディスという血清型の菌によって、生卵を始めとして、卵焼き、オムレツ、手作りケーキやマヨネーズなどからもサルモネラ食中毒が起こっています。

また、ペットから感染したサルモネラ菌が原因となって、食中毒が起こることもあります。

原因食を食べてから、12〜48時間の潜伏期間を経て発症し、発熱、寒け、頭痛、腹痛、下痢、嘔吐(おうと)、全身脱力感などを起こします。下痢は水様便から粘血便で、渋り腹を伴うことが多く、しばしば強い症状が現れます。

これらの症状は2〜3日で改善し、多くは1週間以内で回復します。

ただし、潜伏期間や症状は、摂取した菌の量や発症者の健康状態、年齢によって変化します。乳幼児ではわずかな菌量でも発症し、場合によっては激しい下痢、強い腹痛、血便などの重い症状を示すこともあります。

下痢、嘔吐などの回数が多くなると、特に乳幼児や高齢者では、脱水症状が強くなることがしばしばあります。脱水症状とは、体内の水分が不足するために全身のバランスが崩れ、心臓などの循環器、腎臓(じんぞう)、肝臓の働きが悪くなることで、ひどくなったまま放置すればショック状態となり、死に至ることもあります。

サルモネラ食中毒の検査と診断と治療

食中毒によって乳幼児や高齢者の脱水症状が強くなった場合には、内科、消化器科、胃腸科、小児科の専門医を受診します。

医師は急性の中毒症状から感染を疑いますが、サルモネラ食中毒と確定するには、実際に糞便(ふんべん)などから原因となっている菌を分離することが必要です。食べた食品、季節、年齢も参考になります。

感染初期や軽症の場合は、整腸剤や補液の点滴による対症療法を行います。重症化した場合は、抗菌剤の投与による治療を行います。抗菌剤は原因菌に有効な種類を使用することが原則ですが、原因菌の分離には24〜48時間かかるので、急を要する場合には症状、原因食、季節、年齢などから推定して治療を始めます。

ほとんどの場合は点滴や抗菌剤などで治りますが、サルモネラ菌は下痢の症状が消えても長期間、排菌される傾向があるので、検査を続ける必要があります。

サルモネラ食中毒を予防するためには、以下のことを心掛けます。食肉や卵は、十分に加熱する。まな板、包丁、ふきんなどはよく洗い、熱湯や漂白剤で殺菌する。調理後は、早めに食べる。食品の長期間の保存は、できるかぎり避ける。ペットに触れた後は、よく手を洗う。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...