2022/08/02

🇷🇺深部静脈血栓症

飛行機内などの座席で長時間、同じ姿勢を取り続けて発症する血栓症

深部静脈血栓症とは、飛行機内などで長時間、同じ座席で同じ姿勢を取り続けることにより、静脈内に血栓を生ずる疾患。エコノミークラス症候群、ロングフライト血栓症、ロングフライト症候群、旅行者血栓症、静脈血栓塞栓(そくせん)症とも呼ばれます。

飛行機のエコノミークラス以外の座席、飛行機以外の列車、バス、自動車などの交通機関や施設の座席でも、発症することがあります。

飛行中の機内では乾燥した環境のため、長時間のフライトでは体の水分が失われ、血液が濃縮して固まりやすい状態にあります。さらに、狭い座席に同じ姿勢でずっと座り続けていることで、下肢や腰が圧迫され静脈血の心臓への巡りが徐々に悪くなり、体の深い組織内にある下腿(かたい)静脈や、大腿(だいたい)静脈、あるいは骨盤内の深部静脈内に、血の固まりである血栓ができやすくなります。

そして、およそ6時間を超える長時間のフライトを経験した時には、血栓ができる傾向があります。

血栓が左右両側の下肢の深部静脈内に同時にできることは極めてまれで、左右どちらかの膨らはぎなどの内部に不快感、鈍い痛み、はれなどを起こします。一般的には4対1の割合で、左側の下肢に発生します。

軽症の血栓が、さらに血液の流れに沿って心臓側に徐々に延び、成長していって、大腿部あるいは骨盤内の深部静脈までふさいでしまい、片方の下肢に強い痛みやむくみが出たり、チアノーゼを起こして青紫色に変色したりします。

中等症の血栓が、座席から立ち上がった際などに血管壁からはがれ、血流に乗って大静脈を上行していったん心臓に入り、次いで、酸素を取り入れる器官でもあり、血液のフィルターでもある肺動脈に詰まると、肺塞栓症となります。

肺動脈が詰まると、その先の肺胞には血液が流れずガス交換ができなくなる結果、換気血流に不均衡が生じ、動脈血中の酸素分圧が急激に低下し、呼吸困難を起こします。また、肺の血管抵抗が上昇して、全身の血液循環に支障を来し、脈の増加、失神などを起こします。

軽度であれば胸焼けや発熱程度で治まりますが、最悪の場合は死亡に至ることもあります。

血栓が心臓を経て肺動脈に詰まる重症例は、10時間以上の長時間のフライトで発症する傾向にあります。男性よりも女性にやや多く、40歳代後半から50歳代に発症しやすいと見なされています。

とりわけ、下肢に静脈瘤(りゅう)のある人、下肢の手術をした人、血液の凝固能に異常のある人、経口避妊薬を服用している人、妊娠中や出産後の人などは、発症しやすいので注意が必要とされます。

この深部静脈血栓症は、急性期に適切な治療がなされないと、慢性期に静脈血栓後症候群に悩まされることとなります。静脈高血圧のために、皮膚の浅い部分にある皮(ひ)静脈(表在性静脈)に静脈瘤ができたり、下肢の倦怠(けんたい)感、むくみが生じたり、栄養不足のために色素が沈着したり、皮膚炎や湿疹(しっしん)を起こしやすくなったり、治りにくい潰瘍(かいよう)ができたりすることもあります。

深部静脈血栓症の検査と診断と治療

循環器科、呼吸器科などの医師による診断では、皮膚の浅い部分にある皮静脈(表在性静脈)に起こる血栓性静脈炎などの紛らわしい疾患と区別するため、静脈造影、超音波ドプラー法、造影CT、MRA(核磁気共鳴検査)、血流シンチなどを行います。また、原因となる血液凝固異常の有無や、血栓を生じたことを確認するために、血液検査も行われます。

循環器科、呼吸器科などの医師による治療では、急性期においては、血栓の遊離による肺塞栓を予防するため、下肢のむくみや痛みが軽減するまで安静を保ち、下肢を高く上げておくことが必要です。

痛みに対しては非ステロイド抗炎症薬を使い、血栓の治療と予防には抗凝固剤や血栓溶解剤を使います。下肢のチアノーゼがひどい場合や、症状が重く急を要する場合には、カテーテル治療や血栓摘除術によって直接血栓を除去します。将来、肺塞栓などの重症な疾患に発展したり、静脈血栓後症候群が生じる危険もあり、治療には十分な注意が必要とされます。

なお、深部静脈血栓症の予防には、血液が固まりにくいようにミネラルウオーターやお茶などで水分を補給したり、長時間に渡って同じ姿勢を取らないようにし、2~3時間ごとに通路を歩いたり、下肢の屈伸運動などをしたり、着席中にも足を少しでも動かしたり、ふくらはぎを軽くもむなどして、下肢の血液循環をよくすることが有効です。

🇷🇺心不全

心臓の機能が低下して、十分に働かなくなった末期的な状態

心不全とは、心臓の機能が低下して、体に十分な血液を送り出せなくなった末期的な状態。心不全は、疾患名ではありません。

心臓に静脈血は十分に戻ってくるのに、動脈血を送り出せないという状態で、疾患そのものとは少し異なります。

心臓弁膜症のために心不全が起こることもあり、心筋梗塞(こうそく)のために心不全になることもあります。心不全の原因は、ポンプの役割を果たすはずの心臓が衰えたことにあり、あらゆる心臓病の最期の状態といえます。

安定した状態から急激に悪化する急性心不全か、状態が安定している慢性心不全かによって経過は多少異なりますが、最後はどちらも心臓の機能が低下して、十分に働かない状態になります。急激な心臓停止も、結局は心不全の状態といえます。

心不全を起こす原因になっている疾患により、現れる症状もそれぞれ異なるものの、心不全そのものの症状としては、疲れやすい、少しの運動で動悸(どうき)や息切れがする、夜間多尿などです。中には、身の置きどころがないだるさを感じる人もいます。

静脈から心臓へ戻ってきた血流が前方に進みにくくなると、心臓の働きが悪い部分にうっ血が起こります。左心室の働きが悪い時はうっ血は肺に起こり、右心室の働きが悪い時はうっ血が肺以外の静脈に起こります。 大動脈弁や僧帽(そうぼう)弁の弁膜症、左心室の心筋梗塞では、いずれも肺うっ血のために呼吸困難が起こります。

肺うっ血の症状は、軽ければ運動時の呼吸困難程度で、少し重くなると夜中に突然、呼吸困難の発作が起こったり、心臓ぜんそくと呼ばれるヒューヒュー、ゼーゼーという息苦しい状態の発作が起こります。

より悪化した場合や急性左心不全の時は、もっと激しい症状が出て、突然呼吸困難になり、唇や爪(つめ)にチアノーゼが現れたり、横になって寝ることができず、上体を起こして前ががみの姿勢で呼吸をするようになります。これらは左心不全の末期症状で、肺水腫(すいしゅ)を合併した場合は、ピンク色の泡状のたんを吐き続けるようになります。

左心不全で肺にうっ血が起こると、右心に負担がかかり、ついには右心不全になって、両方の症状が出ることもあります。

右心不全の場合は、大静脈にうっ血が起こるため、肝臓や胃腸障害の症状が出ます。腹が張った感じや、食欲不振を感じる場合が多く、むくみが出ることもあります。時には腹が膨れますが、これは腹水がたまったり、肝臓がはれるためです。

このように心不全は、原因によって多彩な症状が出て、経過もまちまち。急性心不全や大動脈弁膜症では、急速に進行して死亡するケースも少なくありません。心臓には代償機能があるので、徐々に軽快する場合もあります。

心不全の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、心臓のどこに異常が起きているのか、その原因になっている疾患は何かをまず突き止めてから、心不全の状態や程度を調べます。一般の診察で心不全の有無を診断し、場合によっては心臓超音波検査(心エコー)で心臓の働き具合をみる検査をします。

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による治療では、心臓の働きを鈍らせている原因を取り除ける場合は、まずその治療をします。

例えば、高血圧に対する降圧療法、狭心症や心筋梗塞に対する風船治療や冠動脈バイパス術、心臓弁膜症に対する弁形成術や弁置換術などを行います。不整脈が原因の場合には、ペースメーカーを植え込むということもあります。甲状腺機能高進症や甲状腺機能低下症など心臓以外に原因がある場合には、それに対する薬物療法などを行います。

急性心不全の時は、一般に入院を必要とすることが多く、安静が必要で、酸素吸入を行ったり、一時的に心臓の働きを高める薬を使ったりします。また、運動制限が必要ですが、安定期には、逆に負担にならない程度の適当な運動も必要です。

一方、慢性心不全の時は、心臓に対してはむしろ過度な刺激から守る薬を用います。体内の余分な水分を取り除く利尿剤、心臓の働きを手助けするジギタリス剤、心臓にかかる負担を軽くするアンギオテンシン変換酵素阻害剤などの血管拡張剤、長期的には心臓に障害を与えやすい神経やホルモンの作用を抑制するベータ遮断剤などがあります。

心不全に対する日常生活における注意

心不全は、安静にして日常生活を正すだけで、心臓の負担が軽くなり、症状が鎮まることが多いものです。

また、塩分をとりすぎると、体内に水分をとどめることになり、うっ血やむくみを強くするので、塩分を控えた食事にします。そのほか、胃腸の負担を減らし、肝臓にもよい食事として、高蛋白(たんぱく)で消化のよい食事をとるように心掛けます。

一方、心配事や不安、怒りなどから起こるストレスを防ぐ注意も必要。体とともに精神の安静にも気を付け、心臓に負担をかけないようにします。

毎日の運動量や食塩の量を医師に決めてもらい、それに基づいた日常生活を送ることが、再発や悪化を防ぐ上で大事なことです。

🇱🇧腎(じん)不全

腎臓の機能が極端に低下した状態

腎(じん)不全とは、腎臓の機能が極端に低下して、正常な体の調節機能が働かなくなった状態をいいます。この腎不全がさらに進行して、消化器系や心臓血管系、あるいは神経系にいろいろな症状が出てくる状態を尿毒症といいます。

腎不全には、急激に尿毒症の症状を起こす急性腎不全と、何カ月、あるいは何年かの経過を経て、次第に腎不全となる慢性腎不全とがあります。

急性腎不全の原因は、腎前性、腎性、腎後性の3つに分けられます。

腎前性は、ショックや出血などで血圧が下がり、腎臓へ血液が流れなくなることから起こるものです。例えば、心臓や消化器、産婦人科の手術の後や、大きな外傷、やけどによる脱水などが原因となります。

腎性は、急性腎炎や急性腎盂(じんう)腎炎、あるいは腎毒性物質や薬物などで、腎臓の働き自体が一時的になくなることから起こるものです。近年では、病原性大腸菌による溶血性尿毒症症候群(HUS)が注目されています。

腎後性は、結石や腫瘍(しゅよう)、前立腺(せん)肥大など、尿路の通過障害から起こるものですが、今日では著しく減少しています。

急性腎不全の症状は、乏尿期と利尿期に分けられます。

乏尿期では、尿量が急激に減少して、1日の尿量が400ミリ以下となり、血液の中の尿素窒素、クレアチニン、尿酸などが蓄積して、尿毒症の症状が現れます。すなわち、食欲不振、吐き気などの消化器症状、心臓肥大、高血圧、呼吸困難などの心臓血管症状、頭痛、不安感などの神経症状などです。また、口臭がアンモニア臭を帯び、皮膚は乾燥して黒みがかってきます。そして、意識がもうろうとなって、昏睡(こんすい)状態に陥ります。

利尿期は、乏尿期が数日から数週間続いた後、幸いに尿が出るようになった時期をいいます。

慢性腎不全の原因として最も多いのは、慢性腎炎からくるものです。そのほか、慢性腎盂(じんう)腎炎、腎硬化症、嚢胞(のうほう)腎、腎結核、糖尿病など代謝障害による腎臓障害、全身性エリテマトーデスなど膠原(こうげん)病によるものもあります。これらの疾患では、長い期間をかけて悪化が進み、末期になると、腎不全を起こしてきます。

症状として、初めは薄い尿がたくさん出る傾向があります。悪化して末期になると、1日400ミリ以下となり、尿毒症の症状が現れます。尿毒症になると、心不全のような心臓血管系の合併症で死亡する場合もあります。

腎不全の検査と診断と治療

急性腎不全の治療法は、乏尿期と利尿期では多少違いますが、いずれの場合も入院治療が必要です。

乏尿期では、まず水分の管理が大切です。血液中のカリウムが増加しているので、この管理も重要です。乏尿期が長引くようであれば、早めに透析療法を行うほうが安全です。利尿期に入ると急激に尿量が増えますので、脱水にならないように注意が必要です。カリウムなどの電解質のバランスを保つことも重要です。

以前は重篤な症状を呈して死亡するケースもみられましたが、今日では人工透析療法が広く普及したため、著しい効果を上げています。急性腎不全そのものだけでは、死亡例はほとんどみられません。

慢性腎不全でも、血液中の尿素窒素の値が比較的低く、特に高血圧がなければ、対症療法だけで自覚症状なしに生活できます。

しかし、尿素窒素の量が増え、食事療法や薬物療法でも尿毒症の症状が解消されない時には、早めに透析療法を行うほうが安全です。透析を嫌がってタイミングを逃がすと、まれに死亡することもあります。

食事療法では、蛋白(たんぱく)質を厳重に制限し、糖質と脂肪で十分なエネルギーを摂取します。蛋白質を制限するのは、蛋白質の代謝産物である尿素窒素やクレアチニンなどが体内に蓄積されないようにするためです。具体的には、体重1キログラム当たり1日0・5グラムの蛋白質の量とします。1日の総エネルギーは、2000キロカロリーを目安とします。

食塩は1日8グラムぐらいとし、高血圧やむくみの程度が強ければ、3グラム以下とします。また、カリウムを多く含んだ果物、野菜、生ジュースなどは、控えるようにします。

人工透析療法で主流を占めるのが血液透析で、人工腎臓といわれる透析装置を用いて、血液を浄化する方法です。まず発症者の動脈から血液を体の外に導き出し、透析装置の中に送って、ここできれいにされた血液を静脈に戻します。

透析装置の原理は、小さな穴の開いている薄いセロハン膜を境として、一方から血液、他方から透析液が流されて、血液からは尿素窒素やクレアチニンなどの代謝物質やそのほかの有害物質が透析液に入り、逆に透析液からはブドウ糖や栄養物が血液に入って、発症者の血液が浄化されます。

血液透析を行うには、安定した体外循環を確保する必要があります。動脈と静脈を吻合(ふんごう)して、内シャントと呼ばれる処置を行う必要があります。普通は左手前腕にこれを作り、この部位に2本の穿刺(せんし)針を刺して透析を行います。人工血管を体外に留置する外シャントと呼ばれる処置を行う方法もあります。

血液透析は一般的に、1回3~5時間、週2~3回の透析時間を必要とします。透析を始めて間もなくは、吐き気、嘔吐(おうと)、頭痛、血圧変動などの不均衡症候群で悩まされることもあります。食事や水分の摂取の制限など、厳しい自己管理も要求されます。

通常は中心的なセンター病院と、入院設備を持たない地域透析施設のサテライトとで協力し合って、治療を行っています。安定した状態の時は、日常生活に便利なサテライトで治療が行えるシステムになっています。

近年は、連続携行式腹膜透析法(CAPD)も行われています。あらかじめ腹腔(ふくくう)内に腹膜透析用の管を入れて固定し、プラスチックバッグに入った透析液を、この管で腹腔内に注入して血液を浄化します。体外の装置ではなく、自身の腹膜を透析膜として利用する手法のため自宅でできますが、一般的には、1日3〜4回、透析液の注入、交換が必要です。

頻繁な通院から解放されるという利点がありますが、腹腔に異物を留置することから腹膜炎の原因になることがあります。このため、若年者が長期に渡って腹膜透析を用いることは、奨励されていません。また、腎不全のために人工透析を長期に渡って受けている人は、腎臓がんになるリスクが上がることが知られています。腎臓がんの定期検査を受けることが、推奨されています。

腎臓移植は、肉親などから2つある腎臓の1つをもらったり、死亡した人の腎臓をもらって、これを発症者に移植し、血管や尿管をつないで腎臓の代用にするものです。移植には、死後間もない腎臓ほど移植成績がよいことから、脳死を巡る論争や、脳死と臓器提供を巡る訴訟問題などが起こり、近年は移植例が減少してきています。

しかし、長期間に渡る透析を必要とする若い人の腎不全では、人工透析よりも腎臓移植が勧められます。

🇱🇧心房期外収縮

心房内に電気刺激が発生して早期に心臓が収縮する不整脈

心房期外収縮とは、心臓内部の上半分である心房内および房室接合部付近に電気刺激が発生し、右心房付近にある洞結節(どうけっせつ)から発生する本来の電気刺激によるよりも早い時点で、心臓が収縮する不整脈。APC(atrial premature contraction)とも、PAC (premature atrial contraction)とも呼ばれます。

通常は発生しない電気刺激が房室接合部より上位で発生した場合は心房性期外収縮、房室接合部付近で発生した場合は房室接合部性期外収縮(PJC:premature junctional contraction)と区別されますが、両者の判別が容易でない場合は、上室性期外収縮(PSVC:premature supraventricular contraction)と呼ばれます。

心房期外収縮は健康な人にも高頻度でみられる有り触れた不整脈で、年齢を重ねていくにつれてみられる頻度も一段と高くなっていきます。

健康な人における発生誘因として、疲労、緊張、ストレス、運動、睡眠不足、喫煙、カフェイン、飲酒、栄養ドリンク、季節の変わり目などが挙げられます。心疾患や肺疾患のある人では発生頻度が高く、カフェインを含むコーヒーの摂取や、飲酒で引き起こされ、悪化することがあります。

心房期外収縮が起きても無症状であることがほとんどなのですが、軽い一過性の動悸(どうき)を自覚して、心臓がドキンとしたり、心臓が一時止まったように感じたりすることもあります。

あるいは、脈が不規則になり、「トン、トン、トン」と規則正しく打っている脈の中に時々「トトン」と早く打つ脈が現れたり、急に心臓の1拍動が欠け、1秒飛んで2秒後に拍動するといったリズムの乱れを自覚することもあります。のどや胸に不快感を感じたり、きわめて短い胸痛を感じる人もいます。

まれに心房期外収縮が連続して起こった時は、耐えがたい動悸を感じたり、一時的に血圧が下がるために、めまいや失神といった症状が現れることもあります。この場合は、心房細動などの危険な不整脈へと移行することがあるので注意が必要です。

心房細動では、1分間当たり400~600回も心房が不規則に動きます。心房内の血液の流れは悪くなり、意識の消失や心機能の低下、血栓を生じて脳梗塞(こうそく)を招くこともあります。

健康診断などの検査で心房期外収縮を指摘されたり、自分で脈をとった時に脈が飛ぶなどして心房期外収縮だと感じたりした場合は、1日に起こる回数や頻度などを確認してみるといいでしょう。頻繁に起こるような場合は、医療機関で検査を受けて確認してみるといいでしょう。

心房期外収縮の検査と診断と治療

内科、循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、心電図検査が基本となります。一般的に通常の検査は限られた時間の中で情報を集めますが、詳しく検査する場合はホルター心電計を利用します。これは胸に電極をつけて24時間にわたる心電図を記録する携帯式の小型の装置で、運動中や食事中、就寝中などでの心房期外収縮の出現頻度と出現形態を確認できます。

また、基礎心疾患の有無や運動前後での心房期外収縮の出現頻度をみる目的で、心臓超音波検査や運動負荷心電図を行います。

正常な心臓における心電図の波形はP波という小さな波から始まり、とがって大きな波のQRS波、なだらかな波のT波、最後に小さい波のU波が見られ、これが繰り返されていきますが、心房期外収縮の心電図上では、正常と異なる波形のP波が早期に出現し、そのP波は異所性のP波です。P波に続くQRS波は、正常な波形で出現します。

また、異所性のP波の波形により、電気刺激の発生部位が1つの単源性か、発生部位が複数ある多源性かを区別します。

内科、循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による治療では、症状がなく心房期外収縮が単発で発生する場合は、特に処置を行わず経過を観察します。

しかし、症状がなくても原因となる疾患がある場合や、検査の結果で心房細動などの危険な不整脈に移行する可能性がある場合、ナトリウムチャネル遮断薬などの抗不整脈薬の投与による治療を行うことになります。

症状が強く期外収縮が連続して発生する場合は、まず抗不安薬を投与します。それでも症状がある場合には、β(ベータ)遮断薬などの抗不整脈薬を使うことになります。薬物治療を行う場合には、副作用のリスクを考慮して、十分に検討した上で慎重に行います。

運動をすると心房期外収縮が頻発する場合には、期外収縮の連続による頻脈(頻拍)や持続性の頻脈が生じる可能性があるので、運動を控えるよう制限を設けます。逆に、運動によって心房期外収縮がなくなる場合には、運動制限を設ける必要はありません。

一般的な心房期外収縮の予防には、規則正しい生活とバランスのとれた食事を心掛け、ストレスの低減、睡眠不足を避けることなどが大切です。喫煙や過度の飲酒も控えます。

🇷🇼心房細動

心房の拍動が速くなったり、不規則になったりする不整脈

心房細動とは、安静時の正常な心臓が1分間で60回~80回と規則的に拍動するのに対して、心臓内部の上半分である心房の拍動が1分間で300回以上と速くなったり、拍動のリズムが不規則になったりする不整脈。

心房の収縮が通常より速くなって、心房の壁が不規則に細かく震える(不整)ために、心房の中の血液の流れるスピードが低下して血液がうっ滞し、血液を効率よく全身へ送り出せなくなります。

心房細動は、年齢が上がるにつれて発症率が高くなり、60歳を超えると発症の可能性が高まります。また、女性よりも男性に多く発症します。日本では70万人以上が心房細動を持っていると推定されています。

心房細動は健康な人でも発症しますが、高血圧、糖尿病、心筋梗塞(こうそく)・心臓弁膜症などの心臓病、慢性の肺疾患のある人は発症しやすく、また、アルコールやカフェインの過剰摂取、睡眠不足、精神的ストレス時に発症しやすくなる人もいます。

 心房細動自体による頻脈や拍動リズムの不正は、命にかかわるような重症な不整脈ではありません。しかし、動悸(どうき)、息切れ、疲れやすい、胸痛、めまいなどの症状が現れ、また、心房の中でうっ滞した血液が固まって血栓を形成し、血液とともに流れて脳の血管に詰まってしまうと、脳梗塞を引き起こします。

心臓部位に手を当てたり、手首や頸(けい)部(首)で脈を計ると、通常よりも速かったり、速い・遅いを不規則に繰り返したりします。心臓のリズムが常に一定ではなく、不規則に乱れていることがわかるため、さらに症状を悪化させる場合もあります。慢性化すると、全身の倦怠(けんたい)感や胸部の不快感など自覚症状が感じにくくなるため注意が必要です。

一方、全く自覚症状がなく、長い間にわたって気付かない人もいます。心房細動が隠れている人では、別の疾患で医療機関を受診した際に偶然発見されることが多いようです。

動悸や息切れなどの症状がみられたり、心臓のリズムが一定でないと感じた場合は早めに受診し、検査を受けることが重要です。

心房細動の検査と診断と治療

内科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、動悸や胸部症状、脈の乱れなどの症状がある場合、普通の心電図検査を中心に、胸部X線、血液検査、さらにホルター心電計、携帯型心電計、運動負荷検査、心臓超音波検査などを行います。いずれの検査も、痛みは伴いません。

ホルター心電計は、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査。長時間の記録ができ、不整脈の数がどれくらいあるか、危険な不整脈はないか、症状との関係はどうか、心臓病は出ていないかなどがわかります。

携帯型心電計は、おおよそ1カ月間にわたり携帯し、症状が生じた時に手首もしくは胸部に圧着して自分で心電図を記録し、後から医師が記録を分析します。

運動負荷検査は、階段を上り下りしたり、ベルトの上を歩いたり、自転車をこいでもらったりする検査。運動によって不整脈がどのように変わるか、心臓病が出るかどうかをチェックします。

心臓超音波検査は、心臓の形態や動きをみるもので、心臓に疾患があるかどうかが診断できます。

内科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による治療では、薬物による除細動、電気ショックによる除細動のほか、心房細動が原因で起こる血液凝固を予防する薬などを使用します。

心房細動の予防のためには、規則正しい生活を行い、喫煙や飲酒、お茶やコーヒーの摂取などの習慣がある人は、本数や頻度の見直しが予防の一つにつながります。心臓病のある人は、心臓に負担をかけないように、日常生活を見直し、加齢により発症率も上がることから、年齢を意識し、年齢に見合った生活を送ることも大切です。

🇷🇼心房粗動

心房の電気刺激が1分間に240回以上起こり、心臓の拍動に乱れが生じる不整脈

心房粗動とは、心臓内部の上半分である心房の電気刺激が1分間に240回から450回の速さで起こり、心臓の拍動に乱れが生じる不整脈。

正常な心臓では、右心房付近にある洞結節(どうけっせつ)から発生した電気刺激は一方通行で、心臓の端々まで伝わって拍動を起こし、消えます。次の拍動は、新たに洞結節から発生した電気刺激によって生じます。1分間では、洞結節から60~80回の電気刺激が発生して、右心房、左心房、右心室、左心室を規則正しく収縮させることで拍動を起こし、心臓は絶え間なく全身に血液を送り出しています。

心房粗動では多くの場合、右心房の中で三尖弁輪(さんせんべんりん)という右心房と右心室の連結部分の周りを電気刺激が大きく旋回(空回り、リエントリー)している状態となっています。それ以外のところを電気刺激が大きく旋回する場合もありますが、あまり多くはみられません。

前者を通常型心房粗動、後者を非通常型心房粗動、あるいは希有(けう)型心房粗動と呼びます。両者とも、電気刺激が反時計方向に旋回する場合と、時計方向に旋回する場合とがあります。

心房粗動の症状は、心房から心室に伝わる電気刺激の数によって異なります。心房の電気刺激が1分間に240回の速さで起こり、4回に1回心室に電気刺激が伝わるとすると、心臓の拍動は1分間に60回前後となります。心房の電気刺激が1分間に300回の速さで起こり、4回に1回心室に電気刺激が伝わるとすると、心臓の拍動は1分間に75回前後となります。よって動悸(どうき)はあまり感じません。

心房の電気刺激が1分間に240回の速さで起こり、2回に1回心室に電気刺激が伝わるような場合には、心臓の拍動は1分間に120回前後となります。心房の電気刺激が1分間に300回の速さで起こり、2回に1回心室に電気刺激が伝わるとすると、心臓の拍動は1分間に150回前後となります。

このような心臓の拍動が速くなる頻脈を来す場合では、動悸として自覚されることが増えます。息切れを自覚したり、胸部に違和感があったり、胸が躍るように感じたり、胸が痛むこともあります。漠然と、体が重いと感じたり、疲れやすいと感じたりすることもあります。

いったん心房粗動が始まると、なかなか自然には止まりません。心房粗動は、一般的には突然始まり長時間続くことが多いようです。夜間は心臓の拍動がゆっくりになる徐脈であっても、日中は軽く体を動かしただけで心臓の拍動が速くなる頻脈を来す場合も、ままあります。

心臓弁膜症や心筋症といった心房に負荷がかかるような心臓病がある場合や、高血圧のため心肥大がある場合などに、心房粗動は始まりやすく、自然には止まらないと過重な負担となり、肺に水がたまる心不全を発症することもあります。

また、心房粗動のために心房の中に血栓ができて、それがはがれて流れてゆき、脳梗塞(こうそく)を発症することもあります。

ただし、心房粗動の症状は多様で、特定の症状が出ないことも多いために、健康診断などの際に偶然、発見されることもあります。

心房粗動が疑われる症状に気が付いた時には、自然に止まることは少ないので、循環器科、循環器内科などを受診することが勧められます。

心房粗動の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、心臓の電気的活動を体表面から波形として記録する心電図をとります。

正常な心臓における心電図の波形はP波という小さな波から始まり、とがって大きな波のQRS波、なだらかな波のT波、最後に小さい波のU波が見られ、これが繰り返されていきますが、心房粗動の心電図の波形ではP波は認められず、代わりに「のこぎり状」の規則的な心房の波である粗動波(F波)が見られます。

心房から心室に伝わる電気刺激の数が多い状態で、粗動波(F波)の確認がむずかしい場合には、薬を使って心室に伝わる電気刺激の数を減らして心房の波形を見やすくすることもあります。よい条件で心電図が記録できれば、多くの場合三尖弁輪を回る通常型心房粗動か、それ以外の非通常型心房粗動かの診断ができます。

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による治療では、心房から心室に伝わる電気刺激の数が多く、頻脈となっている場合には、β(ベータ)遮断薬やカルシウム拮抗(きっこう)薬といった少し心臓の力を弱める作用があり、心室に伝わる電気刺激の数を減らす薬を使います。心室に伝わる電気刺激の数が減ると、心房は心房粗動のままでも動悸の症状は軽くなります。

点滴の薬を使って心房粗動を停止させるのはむずかしいことが多く、また、抗不整脈薬を使っての心房粗動停止、その後の洞調律維持(リズムコントロール)の効果は限定的で、抗不整脈薬を使ことでかえって症状が重くなることもあります。

症状が強く、特に肺に水がたまって呼吸困難を伴っているような場合には、直流通電による電気ショック治療で心房粗動を停止します。

三尖弁輪の周りを電気刺激が大きく旋回している通常型心房粗動の場合には、電極カテーテルを使って三尖弁輪から下大静脈にかけて数センチの距離を横断するように焼灼(しょうしゃく)する、カテーテルアブレーションという手術を行います。成功率が高く、危険性も少ないため現在最も勧められている治療法で、約95%程度で効果があり、症状の再発は多くても10%程度までです。

三尖弁輪以外のところを電気刺激が大きく旋回する非通常型心房粗動の場合には、あらかじめコンピュータを用いた特別な装置を用いて診断をする必要があり、正確な診断が付けば多くの場合はカテーテルアブレーションによる治療が有効です。

心房粗動が長い間続いているような場合には、心房の中にできた血栓がはがれて流れてゆき、脳梗塞を発症することを予防するために、ワルファリンなどの血栓の予防薬を服用します。

現在、心房粗動の予防効果が高い薬は残念ながらありません。まずは日ごろから健康管理に気を配り、酒の飲みすぎ、疲労、睡眠不足、ストレスを避けることが大切になります。

🇷🇴心房中隔欠損症

右心房と左心房の間の壁に欠損口がある先天性心臓病

心房中隔欠損症とは、右心房と左心房の間の壁である心房中隔に欠損口がある疾患。先天性心臓病の約7パーセントに相当し、成人において最も多くみられるものです。

胎児からの発生途中で心房中隔が完成せず、穴が開いているために、左心房内の動脈血が右心房内に流れ込んでしまう状態となります。右心房内の血液は肺静脈、肺動脈をへて左心房に入るので、この間、血液の一部が空回りする結果、右心室の拡大肥大、肺動脈の血流増加と圧上昇が引き起こされます。

欠損口の大きさは、小さいものから心房中隔の大部分を占めるものまであります。その程度により、重症度が異なります。また、心臓の刺激伝導系が障害されるケースも多く、いろいろの不整脈が生じます。

この心房中隔欠損症は、よほど欠損口が大きくない限り小児期には症状がなく、一般検査でも異常がないケースがあります。そのために、成人になって初めて発見されたり、症状が出現するケースが少なくありません。

疾患が進行すると、欠損口を通じて動脈血が静脈血のほうに流れ込むことにより、右心房、右心室、肺動脈、肺に負担がかかってしまい、肺高血圧や右心室の拡大肥大が生じ、運動時の息切れ、動悸(どうき)が起こるようになります。また、心房細動の合併によって症状が強まります。

男女比は1対3と女性に多くみられ、女性では妊娠、出産によって悪化することがあるため、注意が必要です。

心房中隔欠損症の検査と診断と治療

通常、大動脈から全身に送られるべき血液の50パーセント以上が漏れている場合、手術が適応と診断されています。開心術といい、心臓内の血流を止め、心臓を切開して内部を直接見ながら行う方法によって右心房を切開し、欠損部を直接縫合するか、心膜やパッチ(合成繊維の布)を縫い付けて閉鎖します。開心術の中では安全性が高く、手術成績も良好です。

しかし、肺高血圧症が生じると、手術ができなくなることもあります。できるだけ早期に発見し、手術をすることが大切になります。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...