2022/08/03

🇹🇲熱中症

暑さによって体温調節がうまくいかず、体内に熱がこもることで起こる急性の障害の総称

熱中症とは、暑さによって体温調節がうまくいかず、体内に熱がこもることで起こる急性の障害の総称。

専門的には、「暑熱環境下にさらされる、あるいは運動などによって体の中でたくさんの熱を作るような条件下にあった者が発症し、体温を維持するための生理的な反応より生じた失調状態から、全身の臓器の機能不全に至るまでの、連続的な病態」されています。熱中症という漢字は、読んで字のとおり、熱に中(あた)るという意味を持っています。

この熱中症には、いくつかの種類があります。熱波により主として高齢者に起こるもの、高温環境で幼児に起こるもの、暑熱環境での労働で起こるもの、スポーツ活動中に起こるもの、夜間熱中症とも呼ばれ夕方5時以降の夜間に起こるものなどです。

いずれのケースも、体内に熱がたまったために温熱中枢が障害され、体温調節機能が破綻(はたん)して、体温が異常に上昇した結果、肝臓、腎臓(じんぞう)、中枢神経などに障害を起こします。日射病、熱けいれん、熱疲労(熱ひはい)、熱射病、熱失神などさまざまな病態が、熱中症には含まれます。

日本における熱中症の発生は、かつては軍隊や労働現場で発生するとされていましたが、近年では日常生活時やスポーツ活動中に発生しています。

熱中症というと「暑い環境で起こるもの」という概念があるかと思われますが、労働やスポーツ活動中に起こる熱中症では、体内の筋肉からの大量の熱の発生と脱水などの影響により、寒いとされる環境でも発生し得るものです。実際、11月などの冬季でも、死亡事故が起きています。活動開始から比較的短時間の30分程度からでも、発症する例もみられます。

また、熱中症というと日中の炎天下や蒸し暑い時の外出中、労働中、スポーツ中に発症するものが多数を占めますが、近年では熱中症による死亡者の約40パーセントは夜間に亡くなっています。

そもそも真夏日や猛暑日、熱帯夜が多い年は、熱中症で亡くなる人も増えます。一般的には、最高気温が25度を超えると熱中症の発症者が現れ、30度を超えると熱中症で死亡する人の数が増え始めるといわれています。

気温が低くても、湿度が高ければ、汗が蒸発しにくくなって体内の熱がうまく放熱できなくなるため、熱中症の危険が高くなります。例えば、気温が25度以下でも、湿度が80パーセント以上ある時は、注意が必要となります。また、風が弱い時は、汗をかいても体にまとわりついて蒸発しにくくなって、体温を下げる効果を弱めてしまうため、体に熱がこもりやすくなるので危険です。

熱中症の症状

熱中症の症状は、大量発汗、強い口の乾き、倦怠(けんたい)感、興奮、高体温、発汗停止、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、脱力感、反射の低下、筋けいれん、強い頭痛、めまい、失神、精神錯乱、昏睡(こんすい)、意識不明などがみられます。最終的に呼吸停止、心停止に至ることもあります。

熱中症を暑熱障害、熱症として、重症度で分類すると、以下のようになります。

●1度(軽症度)、熱けいれん: 四肢や腹筋の痛み、時には腹痛を伴ったけいれんがみられます。多量の発汗で、塩分などの電解質が入っていない水のみを補給した場合に起こります。呼吸数が増加し、顔色が悪くなり、めまいなどもみられます。

●2度 (中等度)、熱疲労: めまい、疲労感、虚脱感、頭痛、失神、吐き気、嘔吐、血圧の低下、頻脈、顔面の蒼白、多量の発汗などで、ショック症状がみられます。脱水と塩分などの電解質が失われて、極度の脱力状態となります。

●3度 (重傷度)、熱射病:2度の症状に加えて、意識障害、奇怪な言動や行動、過呼吸、ショック状態になります。温度調節機能の破錠による多臓器障害が起こり、脳、肺、肝臓、腎臓などに障害が生じます。

熱中症の初期症状はめまいや、頭痛、吐き気などで、特有の症状ではないので気付きにくいとされます。

夜間熱中症の場合は、室内にいても発症します。特に都会では、ヒートアイランド現象により夜間になっても気温が下がりにくく、日中の熱が建物の壁などに吸収されて室内にこもりやすくなります。そのため、気密性が高い最近の住宅では、室内はサウナのような状態となり、就寝している間に知らず知らずに発症することになり、命を落とす高齢者が続出しています。

高齢者は体温調節機能が低く、体に熱がこもりやすい上、暑さやのどの渇きを感じにくいため、熱中症や夜間熱中症になりやすくなります。

高齢者の中には、エアコンは体に悪いと誤解して全く使わなかったり、トイレが近くなるからと水分を取らない人もいます。また、防犯の観点から、窓を閉め切って眠ってしまう人もいます。そのような状態での睡眠中は、水分を取ることができないので、脱水状態となり、朝起きた途端に意識障害や心疾患などが起こってしまう危険もあります。

熱中症の手当と治療

熱中症は、いくつかの症状が重なり合い、互いに関連し合って起こります。また、軽い症状から重い症状へと症状が進行することもありますが、きわめて短時間で急速に重症となることもあります。しかも、熱中症は大変に身近なところで起きていますので、十分にその危険性を認識しておくことが必要です。

もし周りの人が熱中症にかかった場合には、すべての症状に対して次の三つが手当の基本となります。

●休息:安静にさせる。そのための安静を保てる環境へと運ぶことともなる。衣服を緩める、また、必要に応じて脱がせ、体を冷却しやすい状態とする。

●冷却:涼しい場所、例えばクーラーの入っているところ、風通しの良い日陰などで休ませる。症状に応じて、必要な冷却を行う。

●水分補給:意識がはっきりしている場合に限り、水分補給を行う。意識障害がある、吐き気がある場合には、医療機関での輸液が必要となるので、直ちに救急車を呼ぶこと。

以上の三つをベースとして手当を行い、症状やその程度によって追加して望まれる手当も派生します。

医療機関での治療においては、氷水浴、アルコール冷却などを行い、ラクテック、生理食塩水、デキストラン製剤などの輸液を行います。

熱中症の予後と予防

熱中症にかかった人が、暑い環境での活動や運動を再開するには、相当の日数を置く必要があります。

どんなに症状が軽かったとしても、1週間程度。症状が重くなるにつれ、日数は増えていきます。詳しくは医師と相談の上、当人の調子を照らし合わせながら、再開を決めることになります。

その間は、暑い環境での活動や激しい運動は、厳禁となります。十分に回復するまでの休息の日数を置いた上、涼しいところでの軽めの運動から開始し、徐々に運動負荷を上げていくのがよいでしょう。また、一度かかった者は再度かかりやすいとも見なされていますので、十分に注意をしつつ、活動や運動を行うようにしなければなりません。

熱中症を予防するための注意事項について述べれば、酷夏の運動場、体育館、海水浴場、市街地などにいて、通風性がよくない場合には熱中症を起こしやすいので、スポーツドリンクなどで塩分を含む水分補給を積極的に行うことが必要です。休息を多く取り入れ、激しい運動は中止すべきです。

夜間熱中症を防ぐためには、まず、こまめに水分を取ること。のどが渇いた時にはすでに脱水に近い状態になっているといわれ、補給した水分が体全体に運ばれるまでには時間差があるので、早め早めに水分補給をすることが大切です。のどの渇きを感じた時だけガブガブ飲むのではなく、のどが渇く前に少量の水を取るようにするとよいでしょう。

特に、夜眠る前と朝起きた時の水分補給は忘れずに。風呂に入る時も水分が失われやすいので、入浴前後に水分を取り、40度以下のぬるめの湯で、あまり長湯にならないようにしましょう。寝ている間にもかなりの水分が失われますので、枕元に飲料を置いて水分の補給に努めましょう。

また、汗と一緒に体のミネラルが不足してしまうので、塩分や糖分も適度に補給するとよいでしょう。真水(軟水)だけではなく、ミネラルウォーター(硬水)、麦茶、梅干入りの水、スポーツドリンクを時々飲むようにすると、手軽にミネラルが補給できます。

ただし、冷たい水やビール、コーヒーなどの飲みすぎには注意を。冷水は胃の調子を悪くしたり、体の冷えの原因になることがあり、ビールやコーヒーなどは利尿作用が強く、脱水を進めてしまうことがあるからです。

水分補給に加えて、気を付けたいのが室温の調整です。冷やしすぎはよくありませんが、気温30度を超えるような時は、何らかの方法で室温調整が必要です。湿度計付き温度計を置き、室温28度、湿度60パーセントになったらエアコンを使うなど、目で確認できる温度の管理がお勧め。

エアコンが苦手な人は、送風が直接体に当たらない工夫をしたり、隣の部屋のエアコンをつけるようにしたりすると、冷やしすぎを防ぐことができます。どうしてもエアコンが苦手という人には、扇風機や冷却マットなどの使用をお勧めします。

さらに、部屋の中でじっとしていると、室温に対して鈍くなってしまうので、時々体を動かしましょう。汗をかくのが嫌だと感じる人もいるようですが、汗には体の熱を下げ、余分な水分を排出する働きがあるので、適度に汗をかくことは必要です。水分を補給しても、ただため込むだけでは脱水を防ぐことはできず、体がむくむ原因になります。血液循環をよくして水分を体全体にゆき渡らせ、古い水分を老廃物と一緒に汗や尿として排出し、水を循環させることが大切。

ふだん運動不足の人や代謝がよくない人は、汗をかきにくく、その結果、熱が体にこもったり、余分な水分がたまって体調を崩してしまうこともあるので、日頃から汗をかける体に整えておくことも必要。

暑さにより体は疲労し、体の代謝が弱って脱水症状が進みますので、夜の睡眠に影響しない程度の軽い昼寝をし、夜は十分に睡眠を取って体を休めましょう。そうすれば、熱中症や夜間熱中症、夏バテから体を守ることができます。

🇹🇯ネフローゼ症候群

腎臓や全身の病気に伴って発症

ネフローゼ症候群とは、腎臓(じんぞう)の働きが損なわれて、多量の蛋白(たんぱく)尿が糸球体から尿中に常時排出され、血液中の蛋白質が極度に不足する病的状態です。症候群とは、同じ病状を示す腎臓病が多数あるということを意味します。

主な症状は、浮腫(ふしゅ)や多量の蛋白尿、低蛋白血症と、コレステロールや中性脂肪などが増えて現れる高脂血症(高コレステロール血症)です。

原因となる病的状態は、大きく二つに分けられます。一つは、腎臓の糸球体、特に糸球体基底膜に病変があって起こるもので、原発性(一次性)ネフローゼ症候群と呼ばれます。もう一つは、全身性疾患が糸球体に障害を及ぼして起こるもので、続発性(二次性)ネフローゼ症候群と呼ばれます。

原発性(一次性)ネフローゼ症候群には、腎臓組織を顕微鏡で調べた病理組織型でみて、微小変化型ネフローゼ症候群、巣状糸球体硬化症、膜性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎などがあります。

いずれも入院治療の対象となりますが、小児では微小変化型ネフローゼ症候群が多くみられます。糸球体の基本構造にほとんど変化はみられませんが、急性発症することが多く、ほかの原因によるものに比べて尿中に出る蛋白量も多いため、脱水症状やショック症状を示すこともあります。しかし、この型は治療によく反応し、80パーセント以上は副腎皮質ステロイド薬が有効です。

副腎皮質ステロイド薬に反応しないステロイド抵抗性のものや、血尿を伴うもの、高血圧を伴うものは、ほかの病型が多く、腎生検による病型診断を行って治療法が決められます。

続発性(二次性)ネフローゼ症候群では、その原因となる病気の種類は多くありますが、糖尿病からくるものが増加中で、膠原(こうげん)病の一つである全身性エリテマトーデスからくるもの、アミロイドーシスからくるものも、しばしば認められます。

病気の症状と早期発見法

ネフローゼ症候群の症状としては、まず、皮下組織に水がたまる浮腫、すなわち、むくみが起こります。尿中に多量の蛋白が排出されてしまうと、血液中の蛋白量が少なくなり、低蛋白血症となります。血液中の蛋白濃度が低下すると、浸透圧の作用で、血液中の水分や塩分などが、血管の外の組織間に移動してしまうために起こる現象です。

このむくみは、原因となる病気や、蛋白尿の程度、年齢などにより、急に出現したり徐々に出てきたり、強かったり弱かったりとさまざまです。呼吸が困難になるほど重いもの、全身性のむくみを示すものから、押せばへこむ程度の軽いものまでみられます。

むくみが軽いからといって、腎障害が進行するような病気が原因になっている場合には、放置しておいてはいけません。腎不全となってから、気付くようでは困ります。むくみの発見の仕方は、向う脛(ずね)を押した時に跡が残るかどうかです。

症状や経過により異なる薬物療法

むくみを解消するのに、利尿薬がよく用いられます。利尿薬は腎尿細管に働いて、水とナトリウムを尿中に排出するのを促進させ、むくみを軽減します。ただし、病気そのものを根本的に治す薬ではなく、対症薬と呼ばれるものの一つです。

副腎皮質ステロイド薬は、原発性ネフローゼ症候群や、免疫異常が関与していると思われる腎症ではよく用いられ、時に特効薬となっています。続発性ネフローゼ症候群でも、膠原病からくるものなど免疫関連の病気にはよく用いられます。

免疫抑制薬は、免疫の異常が関与していると思われる場合に、しばしば用いられます。しかし、副作用を考慮して、副腎皮質ステロイド薬の効果がない場合や使用できない場合、減量したい場合、しばしば再発する例などで用いられます。

その他、蛋白尿を減らしたり、腎機能を保持することを目的に、抗凝固薬、抗血小板薬、消炎薬、漢方薬なども、併用されることがあります。

食事療法については、ごく最近まで、血液中の蛋白が大量に失われているので、食事により蛋白質を補うことが必要と考えられてきました。今では、高蛋白食は腎機能をさらに悪くすると考えられ、高蛋白食にしない方針で治療するようになりました。すでに腎機能が中等度以下になっている場合には、さらに低蛋白食にするようになっています。

食塩や水分の取り方が多いことも、むくみの原因や悪化させる因子となります。多くの場合には、むくみの程度によって、食塩や水の摂取を制限します。

🇹🇯捻挫

関節に無理な力がかかり、周囲の靭帯などが傷付き、部分的に切れる外傷

捻挫(ねんざ)とは、関節に無理な力がかかり、関節の生理的な可動範囲を超えてひねった結果、関節周囲の靭帯(じんたい)などが傷付き、部分的に切れてしまうこと。関節を構成する骨と骨の間にずれがなく、骨折もしていない場合を指します。

多少なりとも骨と骨の間にずれが生じた場合は、脱臼(だっきゅう)あるいは亜脱臼といいます。捻挫は骨の位置関係に異常がなく、関節面が完全に接触を保っている、亜脱臼は関節面が一部接触を保っている、脱臼は関節面の接触が全く失われている、という違いがあります。

捻挫が最も起こりやすい関節は足(そく)関節ですが、人の体の中には多数の関節があります。四肢の関節の中にも肩、肘(ひじ)、手首、指、膝(ひざ)、足首など、誰もが関節と認識する関節のほかに、動きが小さいために目立たない関節が多数ありますし、背骨を構成する一つひとつの椎骨(ついこつ)の間にもすべて関節があります。これらの関節がずれないように骨と骨とをつなぎ止め、さらに関節の動きをコントロールする非常に重要な組織が靭帯で、大半の関節は複数の靭帯でいろいろな方向から支えられいますす。

捻挫の症状は、受傷した関節の種類や、靭帯損傷の程度によってさまざまです。一般的な症状は関節の痛みや、はれ、熱感、内出血などで、動かさなくても痛む場合や、はれや内出血がひどい場合は靭帯が断裂している場合もあります。

ただし、このような重傷例は靭帯が断裂する際に必ず関節のずれを伴うので、厳密には捻挫とはいえず、右膝前十字靭帯損傷などという具体的な外傷名が付けられるのが一般的です。

断裂した靭帯が修復されないまま経過すると、関節に緩みが残り、それによる続発症が出ることもあるので注意が必要で、自己診断はせずに整形外科を受診することが望まれます。

医師による捻挫の診断では、単純X線検査を行って関節のずれや骨折の有無を確かめます。関節の不安定性の程度を検査するために、ストレス(負荷)を加えてX線写真を撮ることもあります。

単純X線写真には靭帯そのものは映し出されないため、MRI検査も行います。近年、MRI検査は多くの外傷や障害の補助診断に用いられていますが、特に膝関節の靭帯損傷に対しては必須ともいえます。

医師による捻挫の治療としては、受傷直後は局所の安静、冷却、圧迫、患肢の高挙(こうきょ)が基本的な処置になり、はれや内出血がより以上に高度になることを止めます。

その後の治療は重傷度によっても違いますが、弾力包帯、テーピング、装具などにより関節の動きを制御するのが基本。ギプスによる固定が行われることもありますが、長期に渡る関節の固定は、正常な靭帯の修復過程をむしろ妨げるとの説もあり、関節軟骨にも悪影響を及ぼすことから、その適応は限られています。

治療後しばらくの間は、過負荷を抑えて保温するため、サポーターや矯正具などを用いて再発抑止に努めるのがよいとされます。避けたいのは、日常使う関節で捻挫が起きるために痛みが軽快した途端治療を中止してしまうこと。そんな時に起こる後遺症として、関節を構成する靱帯や軟部組織が弛緩(しかん)した状態で、関節を補強すべき筋肉が弱体化している場合には、何度も同じ部分の捻挫を引き起こす捻挫癖につながることもあります。

なお、捻挫より重い靭帯の完全断裂に対する治療法は、受傷した関節、患者の年齢や職業、スポーツをするかどうかなど、いろいろな因子によって違ってきます。特にスポーツ選手など活動性の高い人では、損傷した靭帯の縫合術や再建術のような手術的治療が必要になることもまれではありません。受傷した関節によっても手術的治療の適応は異なり、膝や足首など荷重がかかる関節は手術の適応となることが多く、指や肘はならないことが多くなっています。

🇹🇯尿閉

膀胱に尿がたまり、尿意があるにもかかわらず、排出できない状態

尿閉とは、膀胱(ぼうこう)に尿がたまり、尿意があるにもかかわらず、排出できない状態。

腎臓(じんぞう)における尿の生成が少なくなり、1日の尿量が400ミリリットル以下になる乏尿、さらに尿の生成が極端に少なくなり、1日の尿量が100ミリリットル以下になる無尿とは異なります。

尿閉は、突然起こる急性尿閉と、残尿量が徐々に増加して起こる慢性尿閉とに分けられます。また、全く排尿できない完全尿閉と、残尿が多いものの一部を排尿できる不完全尿閉とに分けることもあります。

 急性尿閉は、膀胱内に尿が充満しているにもかかわらず、急に排尿が全く不可能になる状態。膀胱排尿筋は正常な場合が多く、膀胱容量の増大とともに恥骨上部の疼痛(とうつう)、強度の不安感が生じ、冷汗をみます。

前立腺(ぜんりつせん)肥大症を持つ人が多量に飲酒した場合や、抗ヒスタミン薬を含む総合感冒薬を服用した場合にみられることがあります。

慢性尿閉は、徐々に下部尿路の閉塞(へいそく)が進行し、それに伴って残尿量が多くなって膀胱は尿が充満した状態になる一方で、尿意を感じなくなって尿が少しずつ漏れる状態。この失禁は、奇異性尿失禁または溢流(いつりゅう)性尿失禁と呼ばれます。放置すると、上部尿路の内圧が上昇し腎不全に陥る場合があります。

また、円滑な尿の排出が障害され、尿が出にくくなる排尿困難を生じるような薬剤の多剤併用により、徐々に残尿量が多くなって、慢性尿閉や腎不全になることもあります。慢性尿閉では、排尿困難に気付かず、尿失禁のみ気に掛けることもあるので、注意が必要です。

尿閉の状態では通常、発症者は500ミリリットル以上の尿が膀胱内にあると尿意を覚え、下腹部が半球状に盛り上がる膨隆や、はち切れそうなくらい張る緊満を認め、膀胱壁の過伸展により下腹部の激しい痛みを生じます。多くの場合、膨隆した下腹部を手で圧迫すると痛みが一段と強くなります。

尿意があるのに排尿できないことによる苦痛、不安、緊張などにより、頻脈、血圧上昇などもみられます。また、尿の膀胱内停留により腎盂(じんう)腎炎を併発している場合は、発熱や腰痛が認められます。

尿閉になると、膀胱に停留した尿の中で細菌が増殖して膀胱炎になったり、腎臓に尿がたまって水腎症や腎不全を合併する恐れもあります。

尿閉を起こしやすい疾患としては、前立腺肥大症のほか、尿道狭窄(きょうさく)、尿道結石、膀胱頸部(けいぶ)狭窄、糖尿病や脊髄(せきずい)損傷などに起因する神経因性膀胱などが挙げられます。

服用した場合に排尿困難、さらに尿閉を来すことがある薬剤には、総合感冒薬、抗ヒスタミン薬、胃腸薬、下痢止め薬、鎮痙(ちんけい)剤、精神安定剤、抗不整脈剤、頻尿尿失禁治療薬、過活動膀胱治療薬などがあります。特に前立腺肥大症のある高齢の男性は、これらの薬剤の服用には注意が必要です。

尿閉の検査と診断と治療

泌尿器科の医師の診断では、膀胱内に尿が充満していることを確認する超音波検査と、強い尿意あるいは下腹部痛を伴い、下腹部は充満した膀胱のため膨隆している症状から、容易に尿閉と確定できます。

泌尿器科の医師の治療では、全く排尿できない完全尿閉の救急処置として、尿道カテーテルという細い管を尿道から膀胱に挿入し、膀胱にたまった尿を排出させる導尿を行います。

一度の導尿で尿閉が改善しない場合は、尿道カテーテルをしばらく膀胱に挿入したままにしておく留置カテーテルを行います。尿道狭窄などで導尿が不可能な場合は、膀胱を直接穿刺(せんし)して排尿します。

前立腺肥大症が尿閉の原因の場合は、症状が軽い場合は薬物療法から始め、症状がひどい場合や合併症を引き起こしている場合は手術療法を行います。

前立腺肥大症の薬物療法は、近年では薬の開発もかなり進んでおり、効果があることが確認されています。治療に使用される薬には、α1受容遮断薬(α1ブロッカー)、抗男性ホルモン薬(抗アンドロゲン剤)、生薬・漢方薬の3種類があります。

α1受容遮断薬は、交感神経の指令を届けにくくし、筋肉の収縮を抑えて尿道を開き排尿をしやすくする薬で、ミニプレスが代表です。抗男性ホルモン薬は、男性ホルモンの働きを抑制する薬で、プロスタール、パーセリンなどが一般的です。その効果は服用してから3カ月程かかり、前立腺を20~30パーセントぐらい縮小させることができます。生薬・漢方薬は、植物の有効成分のエキスを抽出したもので、むくみを取ったり、抗炎症作用などの効果があります。

前立腺肥大症の手術療法には、経尿道的前立腺切除術(TURP)、レーザー治療、温熱療法などがあります。

経尿道的前立腺切除術は、先端に電気メスを装着した内視鏡を尿道から挿入し、患部をみながら肥大した前立腺を尿道内から削り取ります。レーザー治療は、尿道に内視鏡を挿入し、内視鏡からレーザー光線を照射します。そして、肥大結節を焼いて壊死を起こさせ、縮小させます。温熱療法は、尿道や直腸からカテーテルを入れ、RF波やマイクロ波を前立腺に当てて加熱し、肥大を小さくして尿道を開かせます。

尿道狭窄が尿閉の原因の場合は、内視鏡を用いて、狭いところを切開することが多いのですが、切開手術を要することもあります。

尿道結石が尿閉の原因の場合は、結石により尿道狭窄が起きている時には、ブジーと呼ばれる棒状の医療器具を挿入して結石を膀胱へ押し込み、内視鏡を使って超音波やレーザーなどで結石を破砕します。結石が前部尿道にあった場合には、異物鉗子(かんし)と呼ばれる器具を入れて石をつかみ、摘出するという処置が試みられます。

ブジーにより尿道が広げられると、自然に石が出てくることもあります。 開腹手術などを行うこともあります。

糖尿病や脊髄損傷などに起因する神経因性膀胱が尿閉の原因の場合は、基礎疾患に対する治療が可能ならばまずそれを行いますが、神経の疾患はなかなか治療の難しいことが多く、薬物療法、排尿誘発、自己導尿法などで排尿効率を高めることになります。

薬物療法は、膀胱の収縮力を高める目的で、副交感神経刺激用薬のウブレチド、ベサコリンのいずれかまたは両方を処方します。尿道括約部を緩める目的で、α1受容遮断薬(α1ブロッカー)のエブランチルを処方することもあります。

排尿誘発は、手や腹圧による膀胱訓練で、恥骨上部を押したり、下腹部の最も適当な部位をたたいたりすると膀胱の収縮反射を誘発できることがあります。

自己導尿法は、尿が出にくく残尿が多い場合に、1日に1〜2回、清潔なカテーテルを自分で膀胱内に挿入し、尿を排出させるものです。

このような治療だけでは不十分な場合、神経ブロックや手術などの方法もあります。

🇺🇿尿崩症

抗利尿ホルモンの分泌低下などにより、体内の水分が過剰に尿として排出される疾患

尿崩症とは、体内の水分が過剰に尿として排出される疾患。中枢性尿崩症と腎(じん)性尿崩症に大別されます。

抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌量の低下、または抗利尿ホルモンの腎臓における作用障害で、体内への水分の再吸収が低下するために、多尿を呈します。抗利尿ホルモンは大脳の下部に位置する視床下部で合成され、神経連絡路を通って脳下垂体後葉に運ばれて貯蔵され、血液中に放出されます。

この抗利尿ホルモンの分泌低下による尿崩症が中枢性尿崩症で、抗利尿ホルモンの腎尿細管における作用障害に由来し、抗利尿ホルモンに腎臓が反応しなくなる尿崩症が腎性尿崩症です。

中枢性尿崩症のうち、抗利尿ホルモンを産生する視床下部や脳下垂体後葉の機能が腫瘍(しゅよう)や炎症、外傷などで障害されたものが続発性尿崩症、このような原因のはっきりしないものを特発性尿崩症といいます。また、遺伝子異常が報告されている家族性尿崩症もあります。

続発性尿崩症の病因では、頭蓋咽頭(ずがいいんとう)腫などの腫瘍が多くみられます。下垂体後葉などに非特異性慢性炎症がみられる下垂体後葉炎が病因となっているものもあります。

一方、腎性尿崩症はまれな疾患で先天的遺伝疾患であり、出生直後から症状が出現します。このほか、薬剤の副作用で腎性尿崩症を示すことがあります。

症状はいずれの年代でも、徐々にあるいは突然、発症します。発症すると、脱水状態になるため、のどが渇いて過剰に飲水するといった症状が現れ、多尿を呈します。1日に排出される尿量は3~15リットルと、通常の2倍~10倍にもなります。ひどい時には、1日30リットル〜40リットルになることもあります。薄い尿の大量排出は、特に夜間に著しくなります。水をたくさん飲むために、食べ物があまり取れず、体重は減少します。

続発性尿崩症では、口渇、多飲、多尿に加えて、原因となる疾患の症状を示します。腫瘍が原因の場合、腫瘍が拡大すれば頭痛、視野障害、視床下部・脳下垂体前葉機能低下症状などを示します。脳下垂体前葉機能低下の程度が強く、高度の副腎皮質刺激ホルモンの分泌不全を伴うと尿量は減少し、尿崩症の症状ははっきりしなくなります。この場合、副腎皮質ホルモンを補充すると多尿がはっきりしてきます。

一般に、口渇中枢は正常であるため、多尿に見合った飲水をしていれば脱水状態になることはありませんが、続発性尿崩症で口渇中枢も障害されている場合は重症の脱水を来すことがあります。

1日3リットル以上の著しい多尿や口渇、多飲などの症状がみられた際には、糖尿病や腎疾患、心因性多飲症とともに尿崩症である可能性があります。内科か内分泌科、頭部外傷や脳手術の既往歴がある人は脳外科か脳神経外科の専門医と相談して下さい。

尿崩症の検査と診断と治療

医師による診断では、まず多飲、多尿を示す糖尿病、腎疾患を除外する必要があります。これらが除外された後、心因性多飲症などとの鑑別が必要になります。

心因性多飲症は、精神的原因で強迫的に多飲してしまう疾患です。血漿(けっしょう)浸透圧と血中の抗利尿ホルモンを測定して、鑑別診断に用います。鑑別が難しい場合、水制限試験を行います。水分摂取の制限を行っても、中枢性尿崩症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えることはありませんが、心因性多飲症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えて濃縮がみられます。腎性尿崩症では、抗利尿ホルモンは高値になります。

中枢性尿崩症では、下垂体後葉に抗利尿ホルモンの枯渇を反映する変化がみられます。また、続発性尿崩症の原因となる脳腫瘍などの疾患の検索にも有用です。

中枢性尿崩症と腎性尿崩症の区別は、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤の投与によって、尿が濃縮されるかで調べます。尿が濃縮されるのが中枢性であり、反応しないのが腎性です。

医師による治療では、中枢性尿崩症には補充療法としてバソプレシン剤や、デスモプレシン剤を点鼻液、あるいはスプレーとして用います。1日2〜3回使用すると、尿量は普通並みに減少します。その他、注射製剤も使用できます。

意識がなくなったり、胃腸障害で水が飲めなくなった時には、速やかに点滴静脈注射をして水分を補給します。腫瘍が原因で続発性尿崩症が起こった時には、手術をして腫瘍を取り除きます。

腎性尿崩症には、有効な薬剤は今のところありません。多くの場合、バソプレシン剤や、デスモプレシン剤を用いた治療を行います。 尿量を減らす目的で、抗利尿ホルモンの産生を刺激するサイアザイド系利尿薬を使用することもあります。

🇺🇿尿膜管遺残

胎生期の尿膜管の退化が不完全で、出生後も存在する状態

尿膜管遺残とは、何らかの原因で胎生期の尿膜管が出生後も、へそと膀胱(ぼうこう)の間に管腔(かんくう)として存在する状態。

尿膜管は、胎児の時期に臍帯(さいたい)、すなわちへその緒と膀胱をつないでいる管であり、出生後は臍帯もなくなるので体の中で退化していきます。この退化が不完全で遺残してしまうと、長く伸びた管腔から尿が染み出したり、管腔に垢(あか)がたまったりして細菌感染を起こし、炎症が起きます。

また、感染が一度起こると、分泌液や、うみが外部に排出されず、炎症が治りにくい状態となります。排出されないうみは腹腔(ふくくう)内にたまり、うみの塊である膿瘍(のうよう)となります。たとえ尿膜管遺残部の感染が治ったとしても、再発を繰り返すことが多くなります。

自覚症状としては、へそのかゆみや発赤、はれ、痛み、悪臭のある分泌液やうみ、微熱が認められます。膀胱との交通がある場合には汚れた尿が出たり、腹部のこぶが認められることもあります。痛みが激しい時は、腹腔内に尿がたまる尿膜管嚢胞(のうほう)などの可能性も出てきます。

尿膜管遺残は小児に多い疾患ですが、成人でも発症します。尿膜管遺残部はがんの母地にもなりやすいため、注意が必要です。

尿膜管遺残の検査と診断と治療

尿膜管遺残は除去しない限り治らないので、へそから分泌液や、うみが出ていたり、腹痛がする場合は、小児外科、消化器外科、泌尿器科の専門医を受診します。

医師による診断に際しては、急性虫垂炎、臍腸管遺残、腹腔内膿瘍、骨盤内膿瘍などの疾患と鑑別するために、腹部超音波検査やCT検査などが行われます。へそから、ゾンデと呼ばれる細長い金属の棒を差し込んで、管腔の長さや方向を確認することもあります。

治療としては、まず局所の炎症を抑えるために、分泌液や、うみを体外に排液する処置が行われます。管腔が細長く排液が効率的でない場合は、局所麻酔をして真上の皮膚を切開し、排液します。さらに、うみなどを培養して、炎症を起こしている細菌を特定し、感受性のある抗生物質の投与が行われます。

適切な排液処置を行わずにいると、膿瘍が腹腔内で破裂して腹膜炎になったり、腸管との間にトンネルができたりすることもあります。

排液切開だけでは再発することも多く、残った尿膜管が悪性化する危険性もありますので、原則的には炎症を抑えた後、手術によって尿膜管を全摘出することが推奨されます。この全摘出手術は局所麻酔下では困難で、腰椎(ようつい)麻酔か硬膜外麻酔をして行われるため、2〜3日以上の入院が必要となります。

🇲🇳尿漏れ

無意識に尿が漏れて、日常生活に支障を来す状態

尿漏れとは、膀胱(ぼうこう)や尿道、その筋肉や神経に問題がある場合に、自分の意思と関係なく尿が一時的に漏れる状態。尿失禁とも呼ばれます。

尿漏れのうち、一時的な漏れではなく、一日中、常に漏れ続ける尿漏れを真性尿漏れ、または全尿尿漏れと呼びます。真性尿漏れ、全尿尿漏れの代表例として挙げられるのは、尿管開口異常などの先天性尿路奇形によって常に尿が漏れているもの、または手術などの際、尿道括約筋を完全に損傷したものです。

一時的な漏れを示す尿漏れのほうは、腹圧性尿漏れ(緊張性尿漏れ)、切迫性尿漏れ(急迫性尿漏れ)、溢流(いつりゅう)性尿漏れ(奇異尿漏れ)、反射性尿漏れの4タイプに大別されます。

腹圧性尿漏れ

腹圧性尿漏れは、せきやくしゃみ、運動時など、腹部に急な圧迫が加わった時に尿が漏れます。尿意とは無関係に、膀胱にたまった尿が一時的に漏れるもので、その程度はさまざまで、軽度の時は少量の一方で、重度になると多量に尿が漏れることもあります。

腹圧性尿漏れは頻度が高く、中年以降の出産回数の多い女性にしばしば認められるほか、比較的若い女性にもみられます。起こる原因は、膀胱を支え、尿道を締めている骨盤底筋群が加齢や出産、肥満などで緩んで、弱くなったためです。骨盤底筋群の緩みが進むと、子宮脱、膀胱瘤(りゅう)、直腸脱などを合併することもあります。

まれに、放射線治療やがんの手術によって、尿道を締める神経が傷付くことが原因となることもあります。

腹部に急な圧迫が加わるような動作をした時、例えばせきやくしゃみをした時、笑った時、階段や坂道を上り下りした時、重い荷物を持ち上げた時、急に立ち上がった時、走り出した時、テニスやゴルフなどの運動をした時、性交時などに、一時的に尿が漏れます。通常、睡眠中にはみられません。

この骨盤底筋の衰えによる腹圧性尿漏れと、急に強い尿意を感じてトイレに間に合わず尿を漏らしてしまう切迫性尿漏れの両方の症状がみられる場合もあり、混合性尿漏れ(混合型尿漏れ)と呼ばれます。混合性漏れは骨盤底筋群の緩みがベースにあり、膀胱と尿道の両方の機能低下が加わることで起こりやすくなります。そうした症状は加齢により増えてくるので、閉経期から後の高齢の女性に次第に生じる率が高くなります。

切迫性尿漏れ

切迫性尿漏れは、急な強い尿意を催し、トイレにゆく途中やトイレで準備をする間に、尿が漏れます。トイレが近くなる頻尿、夜中に何度もトイレに起きる夜間頻尿が、同時に生じることもあります。

この切迫性尿漏れは、自分の意思に反して勝手に膀胱が収縮する過活動膀胱が主な原因です。普通、膀胱が正常であれば400~500mlの尿をためることが可能で、尿が250~300mlくらいになると尿意を感じて排尿が始まりますが、過活動膀胱では100ml前後の尿がたまると膀胱が収縮するために、突然の尿意を催して、我慢できなくなるのが特徴です。膀胱が正常であれば、尿意を感じ始めて10~15分ぐらいは我慢できることもありますが、過活動膀胱ではそれも難しいとされています。

過活動膀胱の人はとても多く、日本では40歳以上の男女のうち8人に1人は過活動膀胱の症状があり、その約半数に切迫性尿漏れの症状があると報告されています。近年40歳以下でも、過活動膀胱の症状に悩まされている人が大変多くなってきています。

女性が過活動膀胱になる最も多い原因は、膀胱を支え、尿道を締めている骨盤底筋群や骨盤底を構成する靱帯(じんたい)が弱まる骨盤底障害です。骨盤底筋群や靱帯が弱まってたるむと、膀胱の底にある副交感神経の末端が膀胱に尿が十分にたまらないうちから活性化して、突然強い尿意が出るようになるのです。

女性は若い時は妊娠や出産で、また、更年期以降は老化と女性ホルモン低下の影響で骨盤底障害になりやすいので、男性よりも多くの発症者がいます。男性の場合も、老化や運動不足で骨盤底筋や尿道括約筋が衰えることによって過活動膀胱になることがあります。

また、男女ともに、脳と膀胱や尿道を結ぶ神経のトラブルで起こる過活動膀胱も増えています。こちらは、脳卒中や脳梗塞(こうそく)などの脳血管障害、パーキンソン病などの脳の障害、脊髄(せきずい)損傷や多発性硬化症などの脊髄の障害が原因となります。

過活動膀胱のほか、切迫性尿漏れは膀胱炎、結石などによって膀胱の刺激性が高まって起こるものもあります。

溢流性尿漏れ

溢流性尿漏れは、排尿障害があって十分に排尿できず、常に膀胱が伸展しているために、一時的な少量の漏れを示す尿漏れ。

排尿障害があって尿が出にくい状態になっていても、新しい尿は腎臓(じんぞう)から次々に膀胱に送られてくるのでたまっていき、膀胱がいっぱいになると尿がチョロチョロと少量ずつあふれて出てきます。

この症状は、前立腺(ぜんりつせん)肥大症による下部尿路閉塞(へいそく)が原因となることが多いので、中高年男性に多くみられます。

前立腺肥大症による排尿トラブルは、膀胱への刺激による頻尿から始まります。前立腺は膀胱から出てすぐの尿道を取り巻いているので、前立腺肥大によって膀胱の出口や尿道への刺激が強くなり、夜中に何度も排尿のために起きるというような頻尿が始まります。同時に、会陰(えいん)部の不快感や圧迫感、尿が出にくいといった症状も現れます。

次に、排尿に際して尿が出切らずに、膀胱にたまる残尿が発生するようになります。この段階では排尿障害が次第に強くなり、息んで腹圧をかけないと出ないようになってきます。さらに、肥大した前立腺によって尿道が狭くなっていくと、慢性尿閉となります。残尿が多くなって膀胱は尿が充満した状態になり、尿意を感じなくなって気付かないうちに尿が少量ずつあふれて漏れる溢流性漏れの状態になります。

ほかには、女性が子宮がんを手術した後、糖尿病や脳血管障害で膀胱が収縮しなくなった場合に、溢流性尿漏れがみられます。

女性の場合は尿が出やすい体の構造なので、男性に比べて溢流性尿漏れの状態になるケースはまれですが、子宮がんや直腸がんの手術の後で一時的に膀胱が収縮しなくなった場合、大きな子宮筋腫(きんしゅ)で膀胱の出口が圧迫され尿閉になった場合、子宮脱や子宮下垂などで尿道が開きづらくなった場合に、溢流性尿漏れがみられます。

また、糖尿病や脊髄(せきずい)損傷、脳血管障害などによって、膀胱を中心とする末梢(まっしょう)神経系が器質的に傷害されると、膀胱が収縮しなくなる神経因性膀胱となり、たまった尿があふれて漏れる溢流性尿漏れがみられます。糖尿病では知覚がまひするために、尿意を感じないまま膀胱が膨らんで、1000ミリリットルもたまることがあります。

溢流性尿漏れがみられると、下着がぬれる、臭いが気になるなど、しばしば不快感を覚えることになります。また、溢流性尿漏れを放置していると、膀胱にたまっている尿に細菌が繁殖して尿路感染症や腎機能障害などを起こしたり、腎不全になることもあります。

反射性尿漏れ

反射性尿漏れは、尿意を感じることができないまま、膀胱に尿が一定量たまると反射的に排尿が起こる状態。

尿意を感じることができないため排尿の抑制ができず、腎臓から尿が膀胱に送られた時に刺激が加わると、膀胱壁の筋肉である排尿筋が反射的に収縮して、自分の意思とは無関係に、不意に尿漏れが起こります。

脳、脊髄など中枢神経系の障害や、交通事故などによる脊髄の損傷などによる後遺症の一つとして、脳の排尿中枢による抑制路が遮断されてしまうことによって起こります。膀胱には物理的に十分な量の尿がたまっているにもかかわらず、尿意が大脳まで伝わらないので尿意を催すことがなく、排尿を自分でコントロールすることができません。

膀胱からの感覚は、脊髄反射により直接的に膀胱括約筋を刺激して、反射的に膀胱収縮を起こして排尿を起こします。漏れ出る尿量は多いことが、特徴です。

逆に、排尿筋が反射的に収縮して膀胱が収縮する時に、外尿道括約筋が弛緩(しかん)せず尿道が閉鎖したままになると、膀胱内の圧力が異常に高くなり、腎臓に尿が逆流する膀胱尿管逆流症を起こします。尿の逆流を放置して進行すると、腎機能障害が起こりやすくなります。

尿漏れは恥ずかしさのため医療機関への受診がためらわれ、尿パッドなどで対処している人も多いようですが、外出や人との交流を控えることにもつながりかねません。次第に日常生活の質が低下することも懸念されます。尿漏れの4タイプによる自分の意思と関係なく尿が一時的に漏れる症状が続くようであれば、泌尿器科を受診することが勧められます。

尿漏れの検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、症状および各種検査を総合し、尿漏れの原因を確定します。

一般的には問診、尿検査、超音波検査、血液検査、尿失禁定量テスト(パッドテスト)、尿失禁負荷テスト(ストレステスト)、尿流動態(ウロダイナミクス)検査(膀胱内圧、腹圧、排尿筋圧、外尿道括約筋活動、尿流量測定、残尿測定)、尿路造影検査、内視鏡検査などを行って、尿漏れの原因を探ります。

問診では、出産歴、手術歴、婦人科疾患の有無、便秘の有無、尿漏れの状況などを質問します。切迫性尿漏れの主な原因となる過活動膀胱かどうかを調べるための過活動膀胱スクリーニング質問票(リンク)や、過活動膀胱の症状の程度を調べるための過活動膀胱症状質問票(OABSS)という簡単な質問票を、問診のために使うこともあります。

尿失禁定量テスト(パッドテスト)では、パッドをつけた状態で水分を取ってもらい、せき、くしゃみ、手洗い、足踏みなど腹部に圧迫が加わりやすい動作を行ってもらい、1時間後のパッドの重量増加で尿漏れの程度を確認します。

泌尿器科の医師による治療では、難産を経験した女性、40歳を過ぎた女性で腹圧性尿漏れ、切迫性尿漏れ、その2つが重なる混合性尿漏れを起こしている場合には、尿道、膣(ちつ)、肛門(こうもん)を締める骨盤底筋体操が割合効果的です。肛門の周囲の筋肉を5秒間強く締め、次に緩める簡単な運動で、仰向けの姿勢、いすに座った姿勢、ひじ・ひざをついた姿勢、机に手をついた姿勢、仰向けになり背筋を伸ばした姿勢という5つの姿勢で、20回ずつ繰り返します。

朝、昼、夕、就寝前の4回に分けて、根気よく毎日続けて行うのが理想的です。3カ月以上続けても効果のない場合には、手術が必要となる可能性が高くなります。

骨盤底筋の強化を目的として、電気刺激によって骨盤底筋や尿道括約筋など必要な筋肉を収縮させる電気刺激療法もあります。また、腟内コーンという器具を腟内に15分程度、1日2回ほど保持し、それを徐々に重たいものに変えていくことで骨盤底筋を強化し、症状を軽減する方法もあります。

切迫性尿漏れの主な原因となる過活動膀胱の場合には、できるだけ尿意を我慢して、膀胱を拡大するための訓練をします。毎日訓練すると、膀胱が少しずつ大きくなって尿がためられるようになりますので、200~400mlくらいまでためられるように訓練します。排尿間隔を少しずつ延長させ、2時間くらいは我慢できるようになれば成功です。尿道を締める筋肉の訓練も必要です。

薬物による治療としては、交感神経に働いて膀胱壁の筋肉である排尿筋の収縮を阻止し、尿道括約筋を収縮させる作用のある抗コリン剤(ポラキス、BUP−4)、または排尿筋を弛緩(しかん)させるカルシウム拮抗(きっこう)剤(アダラート、ヘルベッサー、ペルジピン)を用います。抗コリン剤を1~2カ月内服すると、過活動膀胱の80パーセントの発症者で改善されます。状況に応じて、抗うつ薬を用いることもあります。閉経後の女性に対しては、女性ホルモン剤を用いることもあります。

重症例や希望の強い場合などには、手術による治療を行います。尿道括約筋の機能が低下している場合には、尿道の周囲にコラーゲンを注入する治療や、尿道括約筋を圧迫するように腹部の組織や人工線維で尿道を支えるスリング手術、日本ではあまり行われていない人工括約筋埋め込み術などがあります。

溢流性尿漏れの場合は、原因になる疾患の種類によって異なり、基礎疾患があればその治療が第一です。前立腺肥大症や子宮脱、子宮下垂と診断すれば、その治療を行います。また、必要に応じて膀胱を収縮させる薬を用いることもあります。

前立腺肥大症が溢流性尿漏れの原因の場合は、症状が軽い場合は薬物療法から始め、症状がひどい場合や合併症を引き起こしている場合は手術療法を行います。

神経因性膀胱が溢流性尿漏れの原因の場合は、治療が可能ならばまず基礎疾患に対して行いますが、神経の疾患はなかなか治療の難しいことが多く、薬物療法、排尿誘発、自己導尿法などで排尿効率を高めることになります。

自己導尿法は、尿が出にくく残尿が多い場合に、1日に1〜2回、清潔なカテーテルを自分で膀胱内に挿入し、尿を排出させるものです。 これで、とりあえず症状は改善し、外出も容易になります。

反射性尿漏れの場合は、原因となる脊髄損傷がある時に機能を回復させる手術を行うことで、失禁を起こさないようにします。神経の疾患はなかなか治療の難しいことが多く、尿道括約筋の機能が低下している場合には、内視鏡によるコラーゲンなどの注入療法、各種の尿漏れ防止手術を行うこともあります。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...