2022/08/06

💅ピンサーネイル

爪の甲が高度に弓なりに曲がり、両側縁に食い込んだ状態

ピンサーネイルとは、爪(つめ)の甲が両側縁に向かって深く湾曲して、側爪廓(そくそうかく)に巻き込み、爪の甲の周りを囲んでいる爪廓部を損傷する状態。オーバーカーブドネイル、巻き爪、過湾曲爪とも呼ばれます。

側爪廓に食い込んでいるものは陥入爪、またはイングローンネイルといい、側爪廓に巻き込んでいて爪の両端が丸まっているピンサーネイルは、陥入爪の変形です。ピンサーネイルと陥入爪は、合併して起きることもあります。

ピンサーネイルは足の爪に起こることがほとんどで、まれには手の爪にもみられます。統計的に欧米人に多く、また3対1の割合で男性に多いとされていましたが、近年では、日本人の間にも老若男女を問わず急速に増加し、ことに若い女性での発生が目立ちます。

主な原因は、先天的な爪の異常、爪の外傷、爪の下がうむ疾患であるひょうそ後の変形です。これに、窮屈な先の細い靴による爪の圧迫、不適当な爪切り、立ち仕事や肥満による過度の体重負荷ないし下肢の血流障害、あるいは、爪の水虫による爪の甲の変形などが加わって、悪化します。

爪の甲の端が爪廓部に巻き込むと、圧迫によって痛みを生じます。また、巻き込んだ爪の甲が爪廓部の皮膚を突き刺すようになると、指の回りがはれたり、その部分を傷めて痛みが増強します。

爪の甲の端が変形して起こるため、肉眼で確認しづらい状態で進行していくことが多く、気付いた時には皮膚に深く巻き込んでしまっていることもあります。場合によっては、出血を起こすほどに爪が深く突き刺さってしまうこともあります。

この傷に、ばい菌が入ると、より赤くはれ上がってくるとともに、赤い出来物を生じるようになります。これを化膿性肉芽腫(かのうせいにくげしゅ)と呼びます。

ひょうそなどの感染は、ピンサーネイルや陥入爪を誘発したり、悪化させたりするため、早期に適切な治療を必要とします。ピンサーネイルや陥入爪の再発を繰り返す場合や、側爪廓の盛り上りが強すぎて歩行に支障を来すような場合には、皮膚科専門医による外科的治療を行わないと完治しません。

ピンサーネイルの検査と診断と治療

皮膚科の医師による治療の基本となるのは、爪の端を皮膚に刺さらないように浮かせて伸ばし、とげ状の部分をカットする方法と、手術で爪の端を取り除く方法です。爪の変形が強くなるため、原則的に抜爪は行われません。

ピンサーネイルの矯正にはさまざまな方法があり、プラスチック製のチューブを爪の端に装着するガター法も行われています。爪を切開して、爪の端をチューブで包むことで指の組織を保護するのが目的で、傷口が化膿している場合などに、ガーター法は行われます。

形状記憶合金のワイヤーやプレートを使用する方法もあります。ワイヤー法は、爪の先端に2カ所穴を開け、太さ0・5ミリ程度の特殊なワイヤーを通して矯正する方法です。早ければワイヤーを装着した直後に痛みが治まり、ほとんどが数日中には痛みなどの症状が軽くなります。2~3カ月に1度、ワイヤーを入れ替えて爪を平らな状態に近付けていきます。ワイヤーの装着後も通常、運動の制限や入浴の制限などはありません。

プレート法は、主にピンサーネイルと陥入爪を併発して症状がひどく、痛みもひどい場合や、ワイヤーの穴を開ける余裕がない場合などに行われます。爪の表面に、形状記憶合金製のプレートを医療用の接着剤を使用して接着します。後は自宅で、ドライヤーなどの熱を利用して1日に2〜3回、ピンサーネイルの部分に熱を加えてプレートを伸ばすだけです。

また、深爪した爪、巻き込んでいる爪の先端にアクリル樹脂の人工爪を装着して、人工的に爪が伸びた状態を作り、周囲の皮膚への巻き込みを緩和し、ピンサーネイルを矯正する人工爪法もあります。

矯正や人工爪による治療は時間がかかりますが、手術と違ってメスを使わないので痛みもほとんどなく、見た目も正常にになるという利点があります。

ピンサーネイルを治療するためではなく、化膿した組織を治すためには、硝酸銀が使われます。硝酸銀をピンサーネイルでできた傷口に滴下し、傷口を溶かし正常な組織への再生を促します。硝酸銀が滴下された皮膚は、しばらくの間、黒く染色されます。

ピンサーネイルがひどい場合、激しい痛みがある場合には、爪の元となる組織である爪母を除去する外科手術を行って、改善を図ることがあります。爪母を外科手術で除去する鬼塚法と、薬品で爪母を焼き取るフェノール法がありますが、どちらも再発する可能性があるというデメリットがあります。近年では、レーザーメスを使って爪母を切除する方法も開発されています。いずれにしろ、外科手術は最後の手段となる場合がほとんどです。

生活上の注意としては、まず足指を清潔に保つことが大切なので、多少ジクジクしていても入浴し、シャワーでばい菌を洗い流します。ばんそうこうなどで傷口を覆うと、かえって蒸れてばい菌が増殖します。消毒した後、できれば傷を覆わないか、風通しのよい薄いガーゼ1枚で覆います。

窮屈な靴、特にハイヒールや先のとがった革靴などは、爪を過度に圧迫するので避けます。爪切りの際には、かえってピンサーネイルを増強させる深爪にしないように気を付けます。

🇰🇮斑状網膜症候群

20歳以前に発症し、視力障害を起こしたり、失明したりする遺伝性の疾患

斑状(はんじょう)網膜症候群とは、眼球内部の網膜が変性を起こして、視力障害を起こしたり、失明したりする遺伝性の疾患。スタルガルト病、スターガルト病、シュタルガルト病、黄色(おうしょく)斑眼底などとも呼ばれます。

ドイツの眼科医、カール・スタルガルトが1901年に初めて報告した疾患ですが、現時点でも治療法は見付かっていません。

若年性の黄斑変性では最も多いか最も一般的な疾患であり、通常、常染色体劣性の遺伝形式で受け継がれ、20歳以前に発症します。学童期から10歳代に矯正視力の低下を切っ掛けに発見されることが多く、眼鏡でもコンタクトレンズでも補正できない視野の中央の暗点は、最も早い症状です。症状が進むにつれて、黄斑が変性、委縮して、さらに視力が低下します。

その黄斑とは、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。この黄斑に異常が発生すると、視力が低下し、また、黄斑の中心部にある中心窩(か)という部分に異常が発生すると、視力の低下が深刻になります。

斑状網膜症候群では、黄斑部の網膜色素上皮または網膜深層に、円形または類円形のリポフスチンといわれる黄白色の不規則な斑点が蓄積される結果として、黄斑が変性し、さらに委縮性の病変となります。

両方の目の視野の中央に進行性の欠損が起きて暗点ができますが、周辺視野にはほとんど影響が出ません。夜間や暗い場所での視力が著しく衰え、色を感知する機能が衰えることもあります。

進行性の疾患ながら、その進行速度は個人によって異なります。視力が著しく低下して失明に至るケースがある一方で、30歳代になっても良好な視力を維持しているケースもあります。

斑状網膜症候群の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、両眼対称性であること、進行性であること、家族にかかった人がいること、薬物や感染症など外因がないことなどが、重要な手掛かりになります。フルオレセイン蛍光眼底検査、網膜電図などの電気生理学的検査も、診断を確実にするには必須です。黄斑部の網膜色素上皮に異常を起こすABCR遺伝子が突き止められているので、この遺伝子の検索も決め手になります。

斑状網膜症候群には有効な治療法は見いだされていませんので、視力の大幅な低下を避けることはできません。発症者の網膜に漏出点があればレーザー光凝固の処置が行われますが、それは欠けた視野を戻すのではなく、さらなる悪化を避けるだけです。

症状に応じて、遮光眼鏡、弱視眼鏡、拡大読書器、望遠鏡などの補助具を使用することが有用で、周辺視野と残った中心視を活用できます。その他のリハビリテーションも重要です。

いつの日か、先端的医療の進歩が根本的な治療法を可能にすることが期待されていますが、弱視学級や盲学校での勉学、職業訓練など、将来を見通して現実的に対応することが有益でしょう。

🇳🇨伴性遺伝性魚鱗癬

魚の鱗のように皮膚の表面が硬くなる鱗屑を生じる皮膚病

伴性遺伝性魚鱗癬(ぎょりんせん)とは、魚の鱗(うろこ)のように皮膚の表面が硬くなる鱗屑(りんせつ)を生じる皮膚疾患。伴性劣性遺伝で伝わり、ほとんどが男児に発症します。

皮膚の表面は表皮細胞が細胞核を失って死んで作られる角質層で覆われており、この角質層は皮膚のバリア機能に重要な役割を果たしています。角質層には、垢(あか)になって自然にはがれ落ちては作られるターンオーバーという一定のサイクルがあり、その際、皮膚には古い角質層がスルリと落ちる巧みなメカニズムが備わっています。

ところが、伴性遺伝性魚鱗癬においては、その機能がおかしくなって角質層がうまくはがれ落ちないために異常な角質層、すなわち魚の鱗のようにカサカサした鱗屑がみられるようになります。

性染色体上に存在する遺伝子が親から子に伝わることを伴性遺伝といいますが、そのうち伴性劣性遺伝は第二世代以降の子孫に、親と対立する性格が伝わることをいいます。伴性遺伝で伝わるものはすべてX染色体上にあるのですが、伴性劣性遺伝子の数は約30種類ほどあります。

伴性遺伝性魚鱗癬も、X 染色体上にあるステロイドサルファターゼ(ステロイドスルファターゼ)遺伝子の異常により発症します。ステロイドサルファターゼは、角質層にあるコレステロール硫酸から硫酸基を外してコレステロールにする酵素を作る遺伝子であるため、コレステロールに比べてくっつきやすいコレステロール硫酸が角質層の細胞間にたまり、古い角質層が落ちにくくなって発症します。

出生児6000人に1人の頻度で発症し、生まれた時には皮膚症状がありませんが、数カ月から四肢の伸側を中心に、腋(わき)や肘(ひじ)など関節の屈側にも、比較的大きく暗褐色を呈する鱗屑がみられるようになります。体幹では腹部に鱗屑がみられます。毛穴に一致して、角質層が硬くなる角化がみられることもあります。合併症では、角膜の混濁を生じやすくなっています。

皮膚症状は冬の時期に目立ち、夏には軽くなります。頭にも鱗屑を認めることも多いですが、成長とともに少なくなります。四肢の伸側、関節の屈側、腹部の鱗屑は、年齢を重ねても改善傾向を示しません。

出生の際、全身が半透明の薄膜で包まれているケースもあり、これをコロジオン児といいます。

伴性遺伝性魚鱗癬の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師は、皮膚の症状から診断します。伴性遺伝性魚鱗癬の確定診断は、白血球のステロイドサルファターゼの活性を測定して、活性が極めて低値であることからなされます。

遺伝子の研究によって、伴性遺伝性魚鱗癬はステロイドサルファターゼという蛋白に異常があることがわかってきましたので、医師による診断の確定、遺伝相談のためには、遺伝子検査も役立ちます。

また、アトピー性皮膚炎、尋常性魚鱗癬、水疱(すいほう)性魚鱗癬性紅皮症、小児乾燥性湿疹(しっしん)などと区別します。

伴性遺伝性魚鱗癬には特効的な治療法はなく、対症療法が行われます。軽症には、皮膚の表面を滑らかにする尿素含有軟こう、ビタミンA含有軟こう、ビタミンD3軟こう、サリチル酸ワセリンが効きます。重症の場合は、エトレチナート剤(ビタミンA誘導体)を内服します。各々特有の副作用に注意が必要です。

🇳🇨ハンセン病

らい菌によって起こる慢性の感染症

ハンセン病とは、抗酸菌に分類される、らい菌によって起こる慢性の感染症。らい病とも従来は呼ばれ、主に脳・脊髄(せきずい)から出る末梢(まっしょう)神経、皮膚、精巣、目、鼻の粘膜が侵されます。

治療しないと外見が変形することから、ハンセン病の発症者は長い間恐れられ、遠ざけられてきました。感染力が強いわけではなく、死に至ることもなく、抗生物質で治療可能な疾患であるにもかかわらず、今なお一般の人々に根深く恐れられています。そのため、ハンセン病にかかった人は、心理的、社会的問題に苦しむことも多いのです。現在の日本では、ハンセン病は感染症法には含まれず、らい予防法は1996年4月に廃止されました。

ハンセン病は世界中に100万人以上もの発症者がいる疾患で、インドとネパールを始めとするアジア、タンザニアなどのアフリカ、ブラジルなどの中南米、太平洋諸国に多くみられます。20〜30歳代の人に多くみられますが、どの年齢でも発症します。近年の日本では、新たな発症者は年間10名程度で推移し、そのうち半数以上を在日外国人が占めています。

感染経路ははっきりしていませんが、発症者の鼻や口からまき散らされた飛沫(ひまつ)を吸ったり、接触したりすることによる人から人への感染が、1つの経路として考えられています。ところが、空気中にらい菌が存在しても、ほとんどの人はハンセン病にはかかりません。約95パーセントの人では、免疫システムが感染を防御するのです。

発症者の約半数は、おそらく感染者の近くで長期に渡って接触のあった人だと考えられます。たまたま発症者と接触したというような短い接触では感染は起こらず、俗にいわれるような、触っただけで移るなどということはありません。医療従事者は発症者と長いことかかわりますが、ハンセン病にはかかりません。らい菌の感染源としてはほかに、土壌、ほ乳動物のアルマジロ、トコジラミ、蚊などが考えられます。

発症する場合は、類結核型のような軽いものから、らい腫(しゅ)型のような重いものまでさまざまです。類結核型には、感染性はありません。ハンセン病を起こす細菌は非常にゆっくり増殖するので、症状が出るのは感染してから少なくとも1年後、平均で5〜7年後になります。また、症状が出てからの進行も緩やかです。

症状は主に、皮膚と末梢神経に現れます。皮膚には、特徴的な発疹(はっしん)や隆起が現れます。神経が侵されると、その神経によって制御される範囲の皮膚に感覚がなくなり、筋力が低下します。

皮膚の斑(まだら)の数と形状によって、ハンセン病は類結核型、らい腫型、境界型、および未定型に分類されます。これらの病型によって、長期的な経過の見通し(予後)、起こる可能性のある合併症、抗生物質による治療が必要な期間が異なります。

類結核型では、白い平らな部分が1つないし少数ある発疹が現れます。発疹が現れた部位では、皮下の神経が細菌に侵されるため、感覚がなくなります。

らい腫型では、皮膚にたくさんの小さな隆起や、より大きく盛り上がった大小さまざまな形の発疹が現れます。類結核型に比べて、感覚のなくなる範囲が広く、一部の筋肉に脱力感が現れます。

境界型では、類結核型とらい腫型の両方の特徴が出ます。放置した場合、症状が改善すれば類結核型になり、悪化してらい腫型に似た症状になることもあります。

ハンセン病の最も重い症状は、末梢神経の感染により触覚がなくなることで、痛みや熱さ、冷たさを感じることができなくなります。このため、自分自身の体がやけどや切り傷などを負っても、気が付かないことがあります。繰り返し障害が起こると、足や手の指を失うことにもなります。

また、末梢神経の障害は筋力の低下も引き起こし、そのために手の指がかぎ爪のように曲がる、足首が底側に曲がる(尖足〔せんそく〕)など、体の変形が起こることもあります。皮膚感染では、はれやしこりがあちこちにでき、顔にできると特に変形が目立ちます。

さらに、足の裏がただれます。鼻の粘膜が侵されると、慢性的な鼻詰まりが起こり、治療しないで放置しておくと鼻全体が侵されてきます。目に障害が起こると、失明につながります。らい腫型の男性では、勃起(ぼっき)機能不全(インポテンス)が起き、精巣で作られる精子や男性ホルモンの1つであるテストステロンの量が減るため、生殖能力がなくなります。

ハンセン病は経過によっては、治療を受けていても、体の免疫応答による炎症反応を起こすことがあります。発熱、皮膚や末梢神経の炎症が多く、ほかにリンパ節、関節、精巣、腎(じん)臓、肝臓、目の炎症も起こります。

ハンセン病の検査と診断と治療

なかなか消えない特徴的な発疹、触覚の喪失、筋力の低下による体の変形などの症状があれば、ハンセン病が強く疑われます。らい予防法の廃止後、ハンセン病は保険診療の適用になり、診断と治療は一般の医療機関、主に皮膚科外来で行われています。

診察ではまず、出身地・出身国、小児期の居住地、家族歴、気付かずにいるやけどやけがの既往などを問診し、その後、皮膚症状の検査、神経症状の検査、らい菌の検出、病理組織検査などを行います。診断の確定には、らい菌の検出が重要です。らい菌の培養は現在のところ不可能なので、皮膚症状のある部位にメスを刺して組織液を採取する皮膚スメア検査、皮膚の病理組織を抗酸菌染色する検査、らい菌の特異的な遺伝子(DNA)を証明する検査のうち、複数の検査が行われています。

かつて、ハンセン病の発症者は顔や体が変形するために社会から追放され、施設や特定の集落などに隔離されてきました。今でもまだ、こういうことが行われている国はあります。しかし、ハンセン病は隔離の必要はありません。感染力があるのは未治療のらい腫型だけで、それも簡単に感染するものではありませんし、いったん治療を始めれば感染力はなくなります。

さらに、ほとんどの人はハンセン病に対する免疫をもともと持っており、感染のリスクがあるのは、ハンセン病の発症者の近くで長期間一緒に過ごす人に限られています。リスクがある人は定期的に検査を受ける必要がありますが、抗生物質の予防投与は行われません。結核の予防に使われるBCGワクチンがある程度ハンセン病にも予防効果を持ちますが、あまり使われていません。

抗生物質による治療を行えば、ハンセン病の進行は抑えられます。すでに障害を受けた神経や体の変形を元に戻すことは、できません。それだけに、早期発見と早期治療により後遺症を残さないことが、非常に重要です。特定の抗生物質に耐性を示すらい菌もあるので、治療には通常複数の抗生物質を使います。ダプソン(DDS)とリファンピシン(抗結核剤)の併用が標準的に用いられます。

ダプソンは比較的安価で、副作用もアレルギー性の発疹や貧血がたまに出る程度の安全な薬です。リファンピシンはやや高価で、薬効も強いですが、重い副作用として肝障害やインフルエンザ様症状が起こることがあります。重症例の治療では、クロファジミンを追加的に使います。ほかには、エチオナミド、ミノサイクリン、クラリスロマイシン、オフロキサシンなどが使われます。

らい菌は根絶しにくいので、抗生物質による治療を長期間行う必要があります。感染症の重症度や医師の判断によって、6カ月から数年に渡って続けます。らい腫型の場合は、治療を一生続けることを勧める医師もいます。

🇫🇷ハンチントン病

不随意運動、認識力低下、情動障害が現れる遺伝病

ハンチントン病とは、大脳基底核にある線条体尾状核という神経細胞が変性、脱落することによって、不随意運動、認識力低下、情動障害などの症状が現れる疾患。常染色体優性遺伝病であり、一般にハンチントン舞踏病として知られています。

ハンチントン病という病名は、1872年に初めて報告を行ったアメリカのジョー ジ・ハンチントン医師の名前にちなんでいます。当初はハンチントン舞踏病と呼ばれていましたが、この疾患の特徴の一部にすぎない全身の不随意運動のみが着目されてしまうため、1980年代から欧米ではハンチントン病と呼ばれるようになり、日本でも2001年から用いられています。

現在、日本では特定疾患(難病)として認定されており、日本人には100万人に5~6人未満というまれな疾患です。外国では特に白人に多く、10万人に4人から10人の割合で存在しているといわれています。

通常の発症年齢は中年以後で、舞踏運動とも呼ばれて、自分の意思とは無関係に体の一部が動いてしまう不随意運動が徐々に始まります。初期のころは肩をすくめたり、顔をしかめたりする程度ですが、次第に両手、両足、胴体にも不随意運動が広がり、文字どおり踊っているように見えます。睡眠中には止まりますが、目が覚めている時は連続的に起こり、手先が勝手に動く、はしを使ったり字を書くなどの細かい運動がしにくくなる、発音がはっきりせず会話がうまくできなくなる、飲み込みがしにくくなるといったの症状が出てきます。進行すると歩行が不安定になり、次第に起立、歩行も困難となります。

認識力低下、情動障害では、普通の認知症と異なり、物忘れや記憶力の障害は目立ちませんが、計画して実行する能力や全体を把握する能力などが障害される傾向にあります。むしろ,怒りっぽくなったり、異様に同じことを繰り返すなどの性格変化や行動変化が目立ちます。ふさぎ込みなどうつ症状が強いと、自殺企図が見られることもあります。症状は10~20年かけて次第に進んでいき、記憶力の障害、高度の知能低下に陥ります。

また、このハンチントン病は常染色体優性遺伝病なので、遺伝子によって次世代に伝わっていきます。優性遺伝病とは、両親のどちらかから由来した遺伝子に異常があれば、他方の親からの遺伝子が正常であっても発症するものをいいます。片方の親が発症した場合、子供に伝わる確率は50パーセントです。

世代を経るごとにその発症年齢が早くなること、父親から原因遺伝子を受け継いだ時にそれが顕著になる現象も知られています。1993年には、第4染色体に局在している遺伝子(IT15またはHuntintin〔ハンチンチン〕)に正常には見られない変化が生ずることで発症することがわかり、この遺伝子を調べることによってその人が発症するのかどうか、また発症しているのかどうかを確かめられるようになりまし た。

ハンチントン病の検査と診断と治療

初期のハンチントン病では、症状がわずかなために疾患を認識するのは困難です。この疾患の疑いは、症状と家族歴によります。発症がありそうなのに診断が付いていない時には、医師は親族の中に精神的問題や、パーキンソン病のような神経障害、統合失調症のような精神障害を起こした人がいたかどうか質問します。進行した場合は、CT検査やMRI検査などの画像診断で、この疾患に特徴的な大脳基底核の委縮を発見できます。

遺伝子検査によれば、ハンチントン病は簡単に診断できますが、家族歴があっても症状がない人に検査を行うべきかどうかは、医師の側に議論の余地があります。遺伝子検査には、血液サンプルが必要です。遺伝している場合、第4染色体の検査でDNA内の遺伝子コードの特定部分に、特徴的な反復が検出されます。家族歴のある人の側にも、疾患の遺伝子を引き継いでいるかどうかを知るべきかという悩みが生じます。この問題は、遺伝子検査を行う前に、遺伝カウンセリングの専門家に相談すべきでしょう。

ハンチントン病は遺伝病のため、根本的な治療法や進行を防止する治癒法は、現在のところ確立されていません。しかし、鎮静薬のクロルプロマジン、抗精神病薬のハロペリドール、降圧薬のレセルピンなどの薬は、症状を軽減し行動をコントロールするのに役立ちます。

発症者によって症状がかなり異なるので、経過は一概にいうことはできません。同じ家系内でも、症状はさまざまなことが多いようです。典型的には、最初の兆候が現れて数年間は自立生活を維持することができ、社会生活を独力で送ることが困難になるほどに症状が進行するのには10年以上かかるようです。

専門医に相談すれば、それぞれの症状を最小限に抑えるための適切な治療を施してくれます。また、自立生活をできるだけ長く維持し、発症者も家族も共にQOL(生活の質)をできるだけ高く維持するために、多くの職種の人たちが最大限の協力をしてくれます。ハンチントン病の人は、終末期にどんな治療を受けたいかを記した事前指示書を作成しておくとよいでしょう。

🇫🇷ハント症候群

水痘・帯状疱疹ウイルスが顔面神経や、その周辺の聴神経に感染して発症する疾患

ハント症候群とは、水痘(すいとう)・帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルスが顔面神経や、その周辺の聴神経に感染して発症する疾患。初めて報告したアメリカの神経科医にちなんで、ラムゼー・ハント症候群とも呼ばれます。

ヘルペスウイルス属の1つである水痘・帯状疱疹ウイルスに乳幼児期に初感染すると、水ぼうそう(水痘)になります。全身に次々と小さな水膨れが現れ、かゆみ、発熱を伴います。水膨れは胸の辺りや顔に多くみられるほか、頭髪部や外陰部、口の中の粘膜など、全身の至る所にみられます。水膨れの数が少なく軽症な場合には、熱も38~39℃くらいで3~4日で解熱します。重症の場合には、39℃前後の熱が1週間ほど続くこともあります。

また、かゆみを伴うために引っかいてしまうと、細菌の二次感染を起こす危険性があります。水膨れが乾燥し、かさぶたになってから、2週間くらいでかさぶたはとれます。少し跡が残ることがあります。

乳幼児期に一度かかると免疫ができるため、この水ぼうそうに再びかかることはほとんどありません。しかし、水ぼうそうの原因である水痘・帯状疱疹ウイルスは、水ぼうそうが治った後も体のいろいろな神経節に潜伏しています。そして、数十年後に、疲れがたまったり、体の抵抗力が落ちたりするなど、何らかの切っ掛けにより、潜んでいたウイルスが再び暴れ出すと症状が現れます。

この場合、水ぼうそうのように全身に水膨れが現れることはなく、神経に沿って帯状に水膨れが現れる帯状疱疹として発症します。体のどこにでも帯状疱疹の症状は現れますが、胸から背中にかけてが一番多く、顔や手足、腹や尻(しり)の下などに現れることもあり、顔や耳を中心に起こった帯状疱疹がハント症候群に相当します。

このハント症候群は、顔面神経の膝(しつ)神経節という場所に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化し、顔面神経や聴神経に感染して起こります。

発症すると、ある日突然に顔の片側が動かなくなり、顔がゆがんだり、口の一方が曲がるなどの症状が現れます。また、外に張り出している片側の耳介や、耳の穴から鼓膜まで続く外耳道に神経痛のような鈍痛が現れ、数日の内に耳介や外耳道に発赤やかゆみを伴う小さな水膨れが出現し、水膨れが乾燥すると、かさぶたになります。水膨れは、軟口蓋(なんこうがい)や舌など、口の中にも発生することがあります。

初期症状として、耳の後ろに刺すような、うずくような痛みが発作的に出現することや、耳の聞こえが悪くなったり、耳鳴りがしたり、ふらつきやめまいなどの内耳障害が生じることもあります。

これらの症状は同時に、または時間をおいて次々に起こります。顔面神経まひと同じ側の目の涙の分泌低下、食べ物の味がよくわからない味覚障害、水分の少ない食品が飲み込めないなどの嚥下(えんげ)障害、音が割れるように聞こえたり、大きく響くように聞こえたりする聴覚過敏になることもあります。

このような典型的な症状は出現せず、耳の奥の痛みや耳の周辺の痛みしか出現しない場合もあります。

片側の耳に水膨れやかさぶたができ、片側の顔の動きが悪いことに気付いた時には、早期に耳鼻咽喉(いんこう)科の専門医の診察を受けることが勧められます。

ハント症候群の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、耳や口の中などの視診により帯状疱疹の有無を調べます。水膨れ中か唾液(だえき)中の水痘・帯状疱疹ウイルスのDNAを検出するのが最も確実な診断法で、中の抗水痘・帯状疱疹ウイルスIgM抗体価の上昇を確認するのも、診断の助けになります。

顔面神経まひがあれば、筋電図検査、神経興奮性検査を行って、まひの程度、顔面神経の障害部位を診断します。難聴、めまいがあれば、聴力検査、平衡機能検査、脳神経検査など通常の耳科的検査も実施し、他の脳神経に異常がないかどうかを調べます。

顔面神経まひが生じてしばらくしてから小さな水膨れが現れることがあり、初めはベルまひ(特発性顔面神経まひ)と診断されることもよくあります。時には、水痘・帯状疱疹ウイルスにより、小さな水膨れを伴わずに顔面神経まひが生じることもあり、症状からはベルまひと区別できないこともあります。この場合、血液検査によって水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化が生じていることが確認できます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因であることがはっきりすれば、アシクロビル製剤、バラシクロビル製剤などの抗ウイルス薬を注射します。発症から約3~4日以内に投与すれば回復が早いとされています。

これに加え、神経周辺の炎症を抑制する副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の注射か内服、ビタミンB12剤、代謝を活性化するATP剤、鎮痛薬の内服、病変部への軟こうの塗布(とふ)などを行うこともあります。

顔面神経まひには、顔面マッサージが行われます。まひが軽度であれば、1〜2カ月で完全に治ります。まひが高度で顔の片側が全く動かない場合、治癒率は50〜60パーセント程度とベルまひに比べて不良であり、6〜12カ月経過してもまひが残り、まぶたと口が一緒に動く病的共同運動、ひきつれなどの後遺症を残すケースも多くみられます。

顔面神経まひが治らず、発症者が希望した場合は、顔面神経減荷術という手術が行われ、まひが回復することもあります。

めまいは1〜2週間で改善しますが、難聴、耳鳴りなどの聴力の障害は完治しないこともあります。後遺症として、耳介や外耳道の水膨れが治った後も長期間にわたって、痛みが続く帯状疱疹後神経痛が起こることもあります。

なお、水痘・帯状疱疹ウイルスは体内の神経節に潜み、体力や抵抗力が低下した時に増殖し、発症する特徴があるので、再発を防ぐ上でも疲労、ストレス、睡眠不足を避け、免疫力を維持しておくことも大切です。

🇬🇫脳ヘルニア

頭蓋内の浮腫や出血により、脳が押し出された状態

脳ヘルニアとは、外傷など何らかの原因によって頭蓋(とうがい)骨の中に浮腫(ふしゅ)や出血などが起き、その部分に圧迫された脳が押し出された状態。ヘルニアとは、体内の臓器などの組織が本来あるべき部位から押し出されることをいいます。

脳は基本的に硬い頭蓋骨にガードされていますから、簡単には押し出されません。この頭蓋骨にガードされているというのが脳ヘルニアの場合とても厄介な問題で、押し込まれても逃げ場がないので、そのまま脳自体に圧力がかかり続けます。これを頭蓋内圧高進といいます。

脳ヘルニアは頭蓋内圧高進の最終段階ともいえるもので、脳の位置がずれるスペースがないのに、圧力が限界まで高まってしまい、いよいよ他の組織を押し込んでずれた状態です。いうまでもなく脳は生命活動をつかさどる部分なので、こうした圧迫はそのまま生命の危険につながります。

脳の圧力が高まる原因としては、頭の強打による外的損傷と疾患による内的損傷が挙げられます。自動車事故、転倒、暴行、スポーツ活動中の事故などで頭を強打した外的損傷の場合、頭蓋骨の中で脳にもダメージがくることがあり、脳がはれたり、脳回りの血管が出血したりすると、次第に脳の圧力は高まり、そのまま放置すると脳ヘルニアを起こします。

疾患によって脳がはれたり、脳内出血などを起こしたりした内的損傷の場合も、外的損傷と同様、脳の圧力が高まっていくことになります。脳内出血そのものがすでに危険であり、ここから頭蓋内圧高進を経て、脳ヘルニアにまで達すると事態は一刻を争うことになります。

脳はすべての感覚を握っているだけに、出血の位置や大きさ、方向などといった要因によって、実にさまざまな症状をみせます。まず脳がずれる前の脳圧が高まっている状態だけでも、激しい痛み、意識障害、判断力の喪失、めまい、吐き気、嘔吐(おうと)、けいれん、まひ、瞳孔(どうこう)が光を追えなくなるなどの症状が現れます。

さらに悪化して、脳がずれる脳ヘルニアになると、大部分は脊髄(せきずい)部分の大孔といわれる部分にずれることになります。大孔だけは脊髄とつながっているので穴があり、押し出された脳は深部にある生命維持中枢である脳幹を圧迫し、自発呼吸困難や脈拍異常などを起こします。さらに悪化すれば、呼吸困難から呼吸停止にまで至り、次いで脈が乱れ、血圧が下がって死に至ります。

脳ヘルニアの検査と診断と治療

頭をぶつけた場合、小さくても出血が起こり、何時間もかけてゆっくり脳ヘルニアにまで進行していく可能性もありますから、多少ぶつけたくらいと安心せず、脳神経外科の専門医を受診して検査を受けます。また、自覚症状である脳の締め付けられるような痛み、吐き気、めまいなどを感じた場合も、やはり受診します。

医師の側は、意識や瞳孔の臨床症状から診断します。原因の診断のために頭部CTは必須で、脳ヘルニアを示すCTの所見として、正常では左右対称の脳の構造が圧迫のためゆがんで見えたり、頭蓋内圧高進のため脳脊髄液が満たされている脳の透き間である脳室や脳槽が圧迫されたり、あるいは消えてなくなったりしています。

脳ヘルニアは、ほかのヘルニアである鼠径ヘルニア(脱腸)、椎間板(ついかんばん)ヘルニアなどと違って、ほかの症状、疾患の最終段階として起きてくるものなので、瞳孔異常の初期症状がみられたら、緊急に適切な治療と手術が必要となります。ほかのヘルニアと違って保存療法はまずありません。

手術では、開頭して圧迫の原因となる浮腫、出血などを除くことになります。 脳ヘルニアが進行し、脳幹の機能が失われて呼吸停止に至っている場合などは、手術の危険が高く、開頭手術を行えないこともあります。

浮腫、出血がないか少ない場合は、手術の効果が低いため、薬物療法が選択されることが多くなります。頭蓋内圧高進に対して、グリセオールやマンニトールなどの脳圧降下剤の点滴注射が行われます。特殊な治療法として、バルビツレート療法や低体温療法があるものの、副作用も大きいため適応は慎重に判断されます。頭蓋骨を外す外減圧術が行われることもあります。

予後は原因によりますが、一般的には症状の進行程度と、症状出現からの時間経過に比例して悪くなります。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...