2022/08/10

🇧🇭過労性脛部痛

すねに沿った筋肉に損傷が生じて痛む状態

過労性脛部痛(けいぶつう)とは、すねに沿った筋肉に損傷が生じて痛む状態。脛骨疲労性骨膜炎、シンスプリント(Shin splints)とも呼ばれます。

通常、足のすねの部分に、長期に渡って繰り返し負荷がかかるために起こります。起こりやすいすねの筋肉には2つのグループがあり、すねの前側と外側の筋肉に起こる前外側の過労性脛部痛と、すねの後ろ側と内側の筋肉に起こる後内側の過労性脛部痛とがあります。損傷がどちらの筋肉に生じたかによって、痛みを感じる部位が異なります。

前外側の過労性脛部痛は、すねの前面と外側の筋肉が侵された状態です。このタイプは、張り合う関係にある筋肉の大きさがもともと不均衡であるために起こります。すねの筋肉は足を引き上げ、より強く大きいふくらはぎの筋肉は歩行中やランニング中の着地時に、足を地面まで引き下げる働きをしています。ふくらはぎの筋肉の力が強すぎると、すねの筋肉に損傷が生じることがあります。

主な症状は、すねの前面や外側の痛み。最初はランニング、ウオーキング、陸上競技、スキー、バスケットボール、エアロビクスなどの運動中、かかとが地面に打ちつけられた直後にだけ、不快感や軽い鈍痛が生じます。これは散発的なものであるため、本人が大したものではないと思うことがほとんどです。

さらに運動を続けると、痛みは運動中ずっと持続するようになり、やがて常に痛みがある状態になります。医師を受診するころには、押すと痛む圧痛がすねにみられます。

一方、後内側の過労性脛部痛は、すねの後面と内側の筋肉が侵された状態です。これらの筋肉は、つま先をけり出す前にかかとを持ち上げる役割を果たしています。このタイプは、傾斜のあるトラックや中央が高くなった道路を走ると起こりやすく、足の小指側に体重がかかりすぎたり、このような回転を十分に防げない靴を使用していると悪化の原因となります。

痛みはまず、すねの内側から始まることが多く、足首の関節から約2・5〜20センチ上に痛みが現れます。つま先立ちしたり、足首を内側にひねると痛みが強まります。さらに走ることを続けていると、痛みはすねの前面に広がり、足首の関節内を侵し、上方にも広がって膝の付近にまで及ぶことがあります。

過労性脛部痛の進行とともに痛みは強まり、最初は筋肉の腱(けん)だけが炎症を起こして痛みますが、なお走り続けていると筋肉自体にも炎症が広がることがあります。やがて、炎症を起こした腱が緊張して引っぱる力が生じ、骨との付着部である骨膜からはがれたり、出血やさらなる炎症を起こすことがあります。こうなると、ベッドから起きる時や日常生活の他の動作の最中にも痛みが伴うようになります。

過労性脛部痛を発生する年齢は10歳代から40歳代、特に16~17歳くらいに多く、女性は男性の約1・5倍の発生頻度です。高校や大学の運動部の新入部員や、合宿などで練習量が増加した部員に多くみられるので、これらの時期には特に注意が必要になります。

過労性脛部痛の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、症状や問診で過労性脛部痛と確定できますが、疲労骨折や骨腫瘍(しゅよう)との鑑別が必要です。末期ではレントゲン検査で骨膜炎の所見を認め、骨腫瘍、骨肉腫との鑑別が必要なこともあります。

整形外科の医師による治療では、痛みの強い急性期にはランニングなどを休止して局所の安静を図り、アイシングやアイスマッサージを行ったり、消炎鎮痛剤を用います。O脚、偏平足、回内足など下肢や足の形態に起因しているケースでは、足の土踏まずを支える靴の中敷きなどの足底装具を用いて、形態を補正します。

急性期にはランニングなどの休止を徹底しますが、局所の安静期からでも下肢の荷重運動を避け、水泳、エアロバイク、股(こ)関節や足関節、アキレス腱を中心とした下肢のストレッチングを行います。

自発痛や歩行時痛が消失したら、足指でのタオルギャザー、足関節の軽いチューブトレーニングを行います。明らかな圧痛が消失したら、ウオーキングから始め、次に両脚踏み切りジャンプで痛みが出なければ、アスファルトなどの硬い路面を避けて軽いランニングを再開します。ただし、練習量を急激に増やすと、再び痛みが出やすいので注意します。

軽症の過労性脛部痛の場合、完全に運動を休止する必要はないと考えられていますが、練習量と内容の見直しが大切です。ランニング、特にダッシュ系のランニングとジャンプ動作を減らし、練習前のストレッチ、練習後のクールダウンのストレッチと15分くらいの氷冷をすることで、1~2週間で軽快します。慢性のものは、数カ月かかることもあります。

予防には、下肢の筋力強化とストレッチが重要です。バケツを使った運動、つま先立ちなどでの下肢の筋力強化により、脛骨に加わるストレスを軽減させることができます。ストレッチにより筋肉、腱、腱膜の柔軟性を高めれば、脛骨に対する張力を弱めることができます。

シューズはクッションのよいものを選び、硬い路面の走行をなるべく避けるなどの練習環境の整備も必要です。過労性脛部痛は土踏まずのアーチ部分が下がってきていることも原因の一つなので、土踏まずを上げるためのテーピングも効果的で、足が過度に回転するのを防ぐことができます。

🇧🇭川崎病

全身の中小動脈の炎症性疾患で、乳幼児に発症

川崎病とは、乳幼児に発症する全身の中小動脈の炎症性疾患。1967年、小児科医の川崎富作(とみさく)博士によって初めて報告された疾患で、急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群とも呼ばれます。

時には、冠(状)動脈の炎症によって心筋梗塞(こうそく)や突然死を起こしてしまうことがあるため、注目を集めるようになりました。主に4歳以下の乳幼児がかかり、特に0歳と1歳の乳幼児で約50パーセントを占めています。男女別では男子が女子の約1.4倍とやや多い傾向があり、兄弟姉妹で発病する子供が約1パーセントみられます。

1979年、1982年、1986年には、全国的な大流行がありましたが、それ以外は1年間に約8000人前後の子供が発症しており、人口10万人当たりの発症者数は増える傾向にあります。

原因は不明ですが、何らかの感染がきっかけになって、血液中にサイトカインと呼ばれる化学物質が増え、いろいろな症状が起こると見なされています。きっかけとなる感染源については、細菌、ウイルス、真菌など今までにいろいろな説が出ています。

抗生剤に反応しない発熱で始まり、いろいろな症状が出てきますが、主に以下の6つの症状にまとめられます。

(1)38℃以上の高熱が5日以上続く、(2)手足が硬くはれたり、手のひらや足の裏が赤くなったりする。熱が下がってから、手足の指先から皮膚がむける、(3)両側の眼球結膜が充血し赤くなる、(4)口唇が赤くなり、舌が苺(イチゴ)の表面のようにぶつぶつが大きく目立った状態になる、(5)体全体に赤い発疹(ほっしん)が出る、(6)首のリンパ節がはれ、痛みを伴う。

ほかの症状として、下痢や嘔吐(おうと)、腹痛などの症状や、時には黄疸(おうだん)がみられることがあります。また、BCGを接種した子供では、その部位が赤くなり一部はかさぶたになります。

こうした急性期の炎症症状はやがてなくなりますが、川崎病の合併症として約15パーセントに、心臓血管系の重い後遺症を残すことがあります。心筋に酸素を送る血管である冠動脈が広がる冠動脈拡張、こぶができたりする冠動脈瘤(りゅう)、弁膜症、心筋炎などです。こうした病変の生じた部分では、血流が渦を巻き、結果として血管が狭くなったり、詰まってしまい、時には心筋梗塞や突然死を起こしてしまうのです。

心臓血管系の異常は、1歳未満の乳幼児で発熱が10日以上も続く場合に発生しやすいといわれています。この異常が現れるのは発熱後3カ月以内で、その時期を過ぎても異常が現れなければ、さほど心配はいりません。

川崎病の検査と診断と治療

疾患に気付いたら、循環器を診ることのできる小児科を受診してください。急性期を過ぎても、動脈瘤は遅れて現れることが多く、定期的に心臓血管系のフォローアップが重要となります。

一般検査ではあまり特徴的所見はありませんが、血液検査では白血球と血小板が増え、赤血球沈降速度が高進し、CRP(C反応性タンパク)が強陽性となることが診断の手掛かりとなります。また、胆嚢(たんのう)がはれたり、血清トランスアミナーゼの値が上昇したりすることもあります。聴診、胸部レントゲン、心電図、断層心エコー(超音波)は、心臓血管系の合併症を見付けるために行われ、診断のために欠くことのできない検査です。

厚生労働省川崎病研究班が診断の手引きを作成していて、この手引きを基に診断が決まります。6つの主な症状のうち、5つ以上がみられた場合と、4つの症状しかなくても冠動脈瘤がみられた場合は川崎病、すなわち定型の川崎病と診断されます。

4つの症状で冠動脈瘤がみられないもの、3つ以下の症状しかないのに冠動脈病変があるものは、不全型の川崎病とされます。最近は、この不全型の川崎病がかなりみられますが、不全型の中にも冠動脈病変が残るものがあり、軽視することはできないと考えられています。

治療の最終目標は、起こっている強い炎症をできるだけ早く終わらせて、結果として冠動脈瘤ができないようにすることです。遅くとも、発病から1週間以内には治療を始めることが大切です。標準治療として、ガンマグロブリン大量投与とアスピリン内服療法が確立されています。

大量のガンマグロブリンは、心臓の血管異常の発生を予防し、全身の炎症を抑える目的で、点滴静注(静脈注射)します。点滴静注の方法についてはさまざまな方法が試みられてきましたが、できるだけ多い量を短期間に入れたほうが冠動脈の異常が起こりにくいことがわかっています。体重当たり2グラムを1回、あるいは体重当たり1グラムを2日間点滴静注する方法が、多く用いられています。

大量のガンマグロブリン点滴静注が効かない場合には、再度の大量ガンマグロブリン点滴静注、ステロイドによる治療、好中球エラスターゼ阻害剤であるウリナスタチンの点滴静注、血漿(けっしょう)交換療法などが行われます。

また、炎症を抑え、血を固まりにくくして冠動脈が詰まらないようにするという目的で、中等量のアスピリンを併用して内服するのが一般的です。アスピリンには血を固まりにくくする作用があり、急性期には体重当たり30~50ミリグラムを1日3回飲み、熱が下がった後も2〜3カ月間、体重当たり5~10ミリグラムを1日1回飲み続けます。

予後は冠動脈瘤が現れるかどうかで左右されますが、冠動脈瘤を合併した場合には、抗血小板薬や抗凝固薬を長期間に渡って併用することが望ましいとされています。

冠動脈瘤があっても、発病後1カ月の時点で冠動脈瘤の内径が4ミリ以下のものについては、運動の制限は必要ありません。4ミリ以上の動脈瘤が残ったものは、クラブ活動以上の運動は制限されることが大部分ですが、学校での体育については冠動脈病変の程度によって判断されます。いつまで経過観察をするかは、主治医とよく相談し、勝手に通院をやめないことが大切です。

🇧🇭過湾曲爪

爪の甲が高度に弓なりに曲がり、両側縁に食い込んだ状態

過湾曲爪(かわんきょくそう)とは、爪(つめ)の甲が両側縁に向かって深く湾曲して、側爪廓(そくそうかく)に巻き込み、爪の甲の周りを囲んでいる爪廓部を損傷する状態。巻き爪、オーバーカーブドネイル、ピンサーネイルとも呼ばれます。

側爪廓に食い込んでいるものは陥入爪、またはイングローンネイルといい、側爪廓に巻き込んでいて爪の両端が丸まっている過湾曲爪は、陥入爪の変形です。過湾曲爪と陥入爪は、合併して起きることもあります。

過湾曲爪は足の爪に起こることがほとんどで、まれには手の爪にもみられます。統計的に欧米人に多く、また3対1の割合で男性に多いとされていましたが、近年では、日本人の間にも老若男女を問わず急速に増加し、ことに若い女性での発生が目立ちます。

主な原因は、先天的な爪の異常、爪の外傷、爪の下がうむ疾患であるひょうそ後の変形です。これに、窮屈な先の細い靴による爪の圧迫、不適当な爪切り、立ち仕事や肥満による過度の体重負荷ないし下肢の血流障害、あるいは、爪の水虫による爪の甲の変形などが加わって、悪化します。

爪の甲の端が爪廓部に巻き込むと、圧迫によって痛みを生じます。また、巻き込んだ爪の甲が爪廓部の皮膚を突き刺すようになると、指の回りがはれたり、その部分を傷めて痛みが増強します。

爪の甲の端が変形して起こるため、肉眼で確認しづらい状態で進行していくことが多く、気付いた時には皮膚に深く巻き込んでしまっていることもあります。場合によっては、出血を起こすほどに爪が深く突き刺さってしまうこともあります。

この傷に、ばい菌が入ると、より赤くはれ上がってくるとともに、赤い出来物を生じるようになります。これを化膿性肉芽腫(かのうせいにくげしゅ)と呼びます。

ひょうそなどの感染は、過湾曲爪や陥入爪を誘発したり、悪化させたりするため、早期に適切な治療を必要とします。過湾曲爪や陥入爪の再発を繰り返す場合や、側爪廓の盛り上りが強すぎて歩行に支障を来すような場合には、皮膚科専門医による外科的治療を行わないと完治しません。

過湾曲爪の検査と診断と治療

皮膚科の医師による治療の基本となるのは、爪の端を皮膚に刺さらないように浮かせて伸ばし、とげ状の部分をカットする方法と、手術で爪の端を取り除く方法です。爪の変形が強くなるため、原則的に抜爪は行われません。

過湾曲爪の矯正にはさまざまな方法があり、プラスチック製のチューブを爪の端に装着するガター法も行われています。爪を切開して、爪の端をチューブで包むことで指の組織を保護するのが目的で、傷口が化膿している場合などに、ガーター法は行われます。

形状記憶合金のワイヤーやプレートを使用する方法もあります。ワイヤー法は、爪の先端に2カ所穴を開け、太さ0・5ミリ程度の特殊なワイヤーを通して矯正する方法です。早ければワイヤーを装着した直後に痛みが治まり、ほとんどが数日中には痛みなどの症状が軽くなります。2~3カ月に1度、ワイヤーを入れ替えて爪を平らな状態に近付けていきます。ワイヤーの装着後も通常、運動の制限や入浴の制限などはありません。

プレート法は、主に過湾曲爪と陥入爪を併発して症状がひどく、痛みもひどい場合や、ワイヤーの穴を開ける余裕がない場合などに行われます。爪の表面に、形状記憶合金製のプレートを医療用の接着剤を使用して接着します。後は自宅で、ドライヤーなどの熱を利用して1日に2〜3回、過湾曲爪の部分に熱を加えてプレートを伸ばすだけです。

また、深爪した爪、巻き込んでいる爪の先端にアクリル樹脂の人工爪を装着して、人工的に爪が伸びた状態を作り、周囲の皮膚への巻き込みを緩和し、過湾曲爪を矯正する人工爪法もあります。

矯正や人工爪による治療は時間がかかりますが、手術と違ってメスを使わないので痛みもほとんどなく、見た目も正常にになるという利点があります。

過湾曲爪を治療するためではなく、化膿した組織を治すためには、硝酸銀が使われます。硝酸銀を過湾曲爪でできた傷口に滴下し、傷口を溶かし正常な組織への再生を促します。硝酸銀が滴下された皮膚は、しばらくの間、黒く染色されます。

過湾曲爪がひどい場合、激しい痛みがある場合には、爪の元となる組織である爪母を除去する外科手術を行って、改善を図ることがあります。爪母を外科手術で除去する鬼塚法と、薬品で爪母を焼き取るフェノール法がありますが、どちらも再発する可能性があるというデメリットがあります。近年では、レーザーメスを使って爪母を切除する方法も開発されています。いずれにしろ、外科手術は最後の手段となる場合がほとんどです。

生活上の注意としては、まず足指を清潔に保つことが大切なので、多少ジクジクしていても入浴し、シャワーでばい菌を洗い流します。ばんそうこうなどで傷口を覆うと、かえって蒸れてばい菌が増殖します。消毒した後、できれば傷を覆わないか、風通しのよい薄いガーゼ1枚で覆います。

窮屈な靴、特にハイヒールや先のとがった革靴などは、爪を過度に圧迫するので避けます。爪切りの際には、かえって過湾曲爪を増強させる深爪にしないように気を付けます。

🇶🇦感音難聴

内耳から聴覚中枢路の異常による難聴

感音難聴とは、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけての異常による難聴。近年、増加の傾向にあります。

原因不明が約50パーセント。その多くは両耳が同時に障害され、遺伝が関係しているのではないかと考えられています。

原因の明らかな難聴の場合も、その原因はさまざま。ストレプトマイシン、カナマイシン、アスピリン、キニーネなどの薬剤中毒、ダイナマイト、鉄砲、花火などの強く衝撃的な音響、工場、鉱山、ボイラー、電話交換室などでの持続的な機械の騒音、打撲、骨折、むち打ちなどでの頭部外傷、家族性、先天聾(ろう)などの遺伝、老化が原因として挙げられます。

そのほか、内耳炎、おたふく風邪(流行性耳下腺〔せん〕炎)、ヘルペス、はしか(麻疹〔ましん〕)、糖尿病、妊娠、出産なども原因となります。突発性難聴やメニエール病による難聴も、感音難聴に入ります。

感音難聴で困るのは、そのほとんどに適切な治療法がないことです。難聴の程度も強く、補聴器もあまり役立ちません。たとえ音は聞こえても、言葉がはっきり聞こえないので、日常生活に不自由します。しばしば、頑固な耳鳴りに悩まされます。

感音難聴の検査と診断と治療

感音難聴では、早く発見して、難聴の進行を食い止めることが大切です。しかしながら、そのための適切な治療法も薬物も、現在ではありません。

早く原因を避けるのが、唯一の対策です。難聴を起こしやすい薬は、できるだけ避けます。使用しなければならない際は、できるだけ少量を聴力検査をしながら用います。抗生物質の1つであるストレプトマイシンのうちでも、ダイハイドロストレプトマイシンは難聴を起こすため、現在は硫酸ストレプトマイシンが用いられますが、めまいの副作用があります。

騒音の強い職場で働く人の場合は、予防用の耳栓をつけます。ポータブルオーディオプレーヤーなどにより、大きい音を長時間、聞くことも危険です。遺伝性素因のある人同士の結婚は控えます。

🇶🇦肝外門脈閉塞症

腸などから肝臓につながる門脈が肝臓の入り口付近で詰まり、門脈圧高進症を起こす疾患

肝外門脈閉塞(かんがいもんみゃくへいそく)症とは、腸などから肝臓につながる静脈である門脈が肝臓の入り口付近で詰まる疾患。この位置で門脈が詰まると、門脈の血圧が上昇して門脈圧高進症という病態になり、さまざまな症状が起こります。

原因となる疾患の有無により、一次性と二次性に分けられます。原因が明らかでない一次性は小児に多く、二次性は成人に多いといわれています。

一次性の考えられる原因としては、門脈の先天性の奇形、新生児期や乳児期の臍(さい)炎、敗血症、腹膜炎などの炎症に伴う門脈系の凝固異常などが推測されています。二次性の原因としては、肝硬変、特発性門脈圧高進症、腫瘍(しゅよう)、血液疾患、肝外胆管炎、膵(すい)炎、開腹手術などがあります。

男性、女性を問わずに、肝外門脈閉塞症は起こり、特に男女差はありません。発症年齢では、10歳代以下と40歳代以降に好発します。一次性の年間発生者数が40~60人、二次性の年間発生者数が300~400人と推定されています。

大静脈である門脈には、腸全体を始め、脾(ひ)臓、膵臓、胆嚢(たんのう)から流れ出る血液が集まります。門脈は肝臓に入ると左右に分かれ、さらに細かく枝分かれして肝臓全体に広がります。血液は肝細胞との物質の交換を行った後は、末梢(まっしょう)の肝静脈に流れ出して、大きな3本の肝静脈に集められ、さらに下大静脈を介して体循環に戻り心臓へと向かいます。

門脈が肝臓の入り口付近で詰まり、門脈の血圧が上昇して門脈圧高進症になると、門脈から体循環に直接つながる静脈の発達が促され、肝臓を迂回(うかい)するルートが形成されます。この側副血行路と呼ばれる海綿状血管のバイパスによって、正常な体では肝臓で血液から取り除かれるはずの物質が、体循環に入り込むようになります。

側副血行路は特定の部位で発達しますが、食道の下端にできた場合は特に注意が必要で、血管が拡張し曲がりくねって、食道静脈瘤(りゅう)を形成します。拡張した血管はもろくなって出血しやすく、時に大出血を起こし、吐血や下血などの症状が現れます。

側副血行路はへその周辺部や直腸で発達することもあり、胃の上部にできた静脈瘤も出血しやすく、時には大出血となりますし、直腸にできた静脈瘤もまれに出血することがあります。

脾臓は脾静脈を通じて門脈に血液を供給しているため、門脈圧の高進はしばしば脾臓のはれを引き起こします。脾機能高進による血球破壊のために、貧血を生じることもあります。

蛋白(たんぱく)質を含む体液である腹水が肝臓と腸の表面から漏れ出して、腹腔(ふくくう)が膨張することもあります。

肝外門脈閉塞症では門脈圧が高い傾向にあり、食道静脈瘤、胃静脈瘤からの出血頻度が高いのが特徴となっています。

肝外門脈閉塞症の検査と診断と治療

内科、消化器科の医師による診断では、超音波検査、血管造影で側副血行路の海綿状血管の増生を証明することが重要で、ほかには門脈圧高進症に伴う検査を行います。

内科、消化器科の医師による治療は、門脈圧高進症に伴う食道静脈瘤、胃静脈瘤、脾腫、腹水などに対する対症療法が主体となります。中心になるのは食道静脈瘤、胃静脈瘤に対する治療で、予防的治療、待機的治療、緊急的治療があります。

予防的治療は、内視鏡検査により、出血しそうと判断した静脈瘤に対して行います。待機的治療は、静脈瘤の出血後、時期をおいて行うものです。緊急的治療は、出血している症例に止血を目的に行う治療です。緊急的治療では、出血している静脈を収縮させる薬を静脈注射で投与し、失われた血液を補うために輸血をします。大出血に際しては、内視鏡的に静脈瘤を治療します。

静脈瘤の治療は、1980年ころまでは外科医による手術治療が中心でしたが、最近では内視鏡を用いた内視鏡的硬化療法、静脈瘤結紮(けっさつ)療法が第一選択として行われています。

内視鏡的硬化療法には、直接、静脈瘤内に硬化剤を注入する方法と、静脈瘤の周囲に硬化剤を注入し、周囲から静脈瘤を固める方法があります。どちらも静脈瘤に血栓形成を十分に起こさせることにより、食道への側副血行路と呼ばれるバイパスを遮断するのが目的です。静脈瘤結紮療法は、特殊なゴムバンドで縛って静脈瘤を壊死(えし)に陥らせ、組織を荒廃させ、結果的に静脈瘤に血栓ができることが目的となります。

胃静脈瘤に対しては、血管造影を用いた塞栓(そくせん)療法も用いられます。また、門脈圧を下げるような薬剤を用いた治療、手術が必要な症例もあり、手術では側副血行路の遮断や血管の吻合(ふんごう)術が行われます。

出血が続いたり再発を繰り返す場合は、外科処置を行って、門脈系と体循環の静脈系の間にシャントと呼ばれるバイパスを形成し、肝臓を迂回(うかい)する血液ルートを作ることがあります。静脈系の血圧のほうがはるかに低いため、門脈の血圧は下がります。

脾腫を伴う場合は脾臓摘出術あるいは脾動脈塞栓術、腹水を伴う場合には利尿剤の投与などが行われます。

多くの症例では、肝機能がほぼ正常に保たれています。食道静脈瘤、胃静脈瘤からの出血が十分にコントロールされれば、経過は良好です。

🇶🇦感覚異常性大腿神経痛

大腿の感覚をつかさどる神経が傷害されて、痛みなどが生じる神経痛の一つ

感覚異常性大腿(だいたい)神経痛とは、大腿の前面と外側の感覚をつかさどる外側大腿皮(がいそくだいたいひ)神経が傷害されて、痛みなどが生じる神経痛の一つ。知覚異常性大腿痛、外側大腿皮神経痛、大腿外側皮神経痛などとも呼ばれます。

外側大腿皮神経とは第2、第3腰椎(ようつい)から出て前方へ向かい、腰の部位で急激に曲がって鼠径(そけい)部の辺りから皮膚の下に出て、大腿の前面と外側の皮膚に分布します。そのため、腰椎部で神経が圧迫された時に、大腿の周辺に痛みや知覚異常が生じることがあるほか、外側大腿皮神経が鼠径靭帯(じんたい)を貫通する骨盤の前上腸骨棘(こっきょく)部で筋肉や靭帯により圧迫された時にも、大腿の周辺に痛みや感覚異常が生じることがあります。

前上腸骨棘部で外側大腿皮神経が圧迫された時には、股(こ)関節の位置や格好で症状が生じたり、治まったりすることもあります。コルセットの着用、窮屈な下着やズボンの着用、べルトの締めすぎ、自動車のシートベルトの締めすぎなどにより、前上腸骨棘部で外側大腿皮神経が圧迫された時にも、痛みや感覚異常が生じます。

また、肥満、妊娠により骨盤周囲の筋肉の緊張が強くなることで、外側大腿皮神経が障害されることもあります。妊婦においては胎児が正常な位置にいない場合に、感覚異常性大腿神経痛としてしびれが出ることもあります。鼠径ヘルニアの手術や股関節の手術の後に、一時的な外側大腿皮神経の圧迫により障害されることもあります。

症状は、大腿の前面から外側にかけて、ヒリヒリと痛んだり、しびれが出たり、知覚が鈍くなったりします。服が皮膚にこすれるのが苦痛になることもあります。しかし、外側大腿皮神経は感覚だけをつかさどる神経で運動をつかさどらないため、足がまひして上がらなくなったり、歩行に支障を来すことはありません。大腿の内側や膝(ひざ)より下に、症状が出ることもありません。

感覚異常性大腿神経痛の多くは、姿勢や動作によって症状に変化がみられます。

骨盤の前面を走る前上腸骨棘部で外側大腿皮神経を直接圧迫することによって、痛みが憎します。起立や歩行時は、外側大腿皮神経が牽引(けんいん)気味になり痛みが増します。

股関節の伸展は、外側大腿皮神経を牽引し痛みが増します。反対に、股関節を深く屈曲することでも、外側大腿皮神経自体を圧迫し痛みが増します。うつぶせに寝ている時は、外側大腿皮神経が軽く圧迫され、股関節が伸展されるので痛みが増強する傾向があります。仰向けに寝て軽く膝(ひざ)を曲げている時は、痛みが軽減します。

案外多い病態ですが、正確な診断を受けていないことが多いようです。もし、感覚異常性大腿神経痛の症状に思い当たることがあれば、整形外科、神経内科の医師を受診することが勧められます。

感覚異常性大腿神経痛の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断は、特徴的な症状と、前上腸骨棘部の周囲で軽く皮膚の上をたたくと大腿の前面と外側に響くようなしびれと痛みが出るチネルサインで判断します。念のために、腰椎や骨盤のX線写真、MRI検査などで、変形性腰椎症や腰椎椎間板ヘルニアなどの疾患がないかどうかをチェックします。

坐骨(ざこつ)神経痛との鑑別が必要ですが、しびれなどの場所が坐骨神経痛と感覚異常性大腿神経痛では違いますので、鑑別は簡単です。坐骨神経痛では、尻(しり)から大腿の裏側、下腿などにしびれや痛みが出ます。

整形外科、神経内科の医師による治療は、外側大腿皮神経を圧追する原因を取り除くことが第一です。体重を減らすことや、骨盤部の矯正、窮屈な下着やズボンの着用の禁止などが、効果を発揮します。

また、消炎鎮痛剤の内服、外用を行い、痛みが強い場合は局所麻酔薬を注射して痛みを和らげる神経ブロックを行います。この場合、1 回の注射では一時的に症状が緩和しても、数時間から1日で元の症状に戻ったりしますので、何回か注射を繰り返すこともあります。局所麻酔薬と一緒に、ステロイドホルモン剤という炎症を抑える薬を注射することもあります。

腰椎部で神経が圧迫された時には、脊髄(せきずい)の周囲の硬膜外腔(がいくう)に局所麻酔薬を注射して、神経の痛みを和らげる硬膜外ブロックを行います。

症状が治まらず、日常生活に支障を来す場合は、外側大腿皮神経を剥離(はくり)、または切離する手術を行うこともあります。炎症を起こした神経は周囲の靱帯や筋肉と癒着した状態にありますので、その癒着を手術で解き放つのを剥離、神経そのものを切除して痛みを感じなくするのを切離といいます。

🇾🇪眼窩蜂窩織炎(蜂巣炎)

目のくぼみへ細菌が入り、眼球に起こる急性の炎症

眼窩蜂窩織(がんかほうかしき)炎とは、目のくぼみに入っている眼球に起こる急性の炎症。蜂巣炎、眼窩蜂巣炎とも呼ばれます。

眼球は、筋肉や脂肪組織に包まれて、骨で取り囲まれた目のくぼみである眼窩内に入っています。この眼窩内に病原菌が侵入すると、眼球の周囲や後部が脂肪組織を中心として強い炎症を起こし、化膿(かのう)した状態になります。急性の細菌感染症であり、起炎菌としては黄色ブドウ球菌が多いと見なされています。

最も多い原因は、副鼻腔(びくう)からの蓄膿(ちくのう)症などの炎症の波及です。次いで多いのは、耳や歯の化膿性炎症の波及です。そのほか、ものもらいや涙嚢(るいのう)炎など目の周辺の炎症、外傷によって刺さった眼窩内異物が原因となる場合もあります。

急に目が赤くなり、まぶたもはれて赤くなり、強い痛みを伴います。まぶたを触るとより痛く、時には眼球が後ろから押されるように飛び出し、眼球の動きも障害されます。重い場合には、炎症が眼球の周囲や後部から眼球内に波及し、視力障害が生じたり、 物が二重に見える複視が生じたりすることもあります。

全身的には発熱、全身倦怠(けんたい)感、頭痛、吐き気などの症状がみられます。まれに、髄膜炎、海綿静脈洞血栓症を引き起こすので、油断できません。

眼窩蜂窩織炎の検査と診断と治療

外傷によって細菌が付着した異物が刺さった時はもちろんですが、目やまぶたが赤くなって激痛を伴っている時は、入院も覚悟して早急に眼科を受診します。手遅れになると、生命の危険が生じるケースもあります。

専門の医師は、目を見ただけである程度の診断は可能ですが、まず急性結膜炎と区別します。視力を測定し、次には、眼球内に炎症が波及していないかを観察する細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査を暗室で行います。緊急にCT、MRなどの画像撮影も行い、眼窩内の病状を把握すると同時に、副鼻腔などの状態をチェックして炎症の原因となった細菌がわかれば、薬剤に対する感受性検査を行います。

治療では、点滴などで全身的に大量の広域抗菌剤の投与を行います。黄色ブドウ球菌などの起炎菌が特定された場合は、感受性のある抗菌剤を用います。切開して膿(うみ)を出すこともあります。周囲の副鼻腔、耳、歯などの炎症が原因の時は、それぞれの専門医に治療を依頼し、原因となる疾患の除去を図ります。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...