2022/08/11

✝解離性同一性障害

2つ以上の人格が一人の中に存在し、それらの人格が交代で現れる疾患

解離性同一性障害とは、2つ以上のはっきりと区別される人格が一人の中に存在し、それらの人格が交代で現れて独立した行動をする疾患。解離性障害の一つで、いわゆる多重人格障害とも呼ばれる疾患です。

解離性障害は本人にとって耐えられない状況を、離人症性障害のようにそれは自分のことではないと感じたり、解離性健忘のようにその時期の記憶や意識、知覚を切り離し、思い出せなくして心のダメージを回避しようとすることから引き起こされる障害ですが、その中で解離性同一性障害は最も重く、切り離した記憶や意識、知覚が成長して、別の人格となって表面に現れるものです。

発症するのは12歳以前、多くは3〜9歳の幼児期であると考えられていますが、症状が明らかになるのは多くの場合、思春期以降、10歳代後半から20歳代で、特に20歳代の女性に現れやすく、成人女性が成人男性の3〜9倍多く、一人の中に存在する人格の数も女性で15 名、男性で8名と性差があります。

原因ははっきりとわかっていませんが、幼児期に受けた心的外傷(トラウマ)やストレスが関係しているといわれます。心的外傷にはさまざまな種類があり、災害、事故、親や周りの親しかった人との死別、暴行を受けるなど一過性のものもあれば、肉体的虐待、性的虐待、長期にわたる監禁状態など慢性的に何度も繰り返されるものもあります。そのようなつらくて苦しい体験によるダメージを回避するため、精神が緊急避難的に機能の一部を停止させることが、解離性同一性障害につながると考えられています。

解離性同一性障害の症状は、強くなったり、弱くなったりを繰り返しながら、一般には慢性に経過します。そして、過去の心的外傷の記憶が突然、かつ非常に鮮明に思い出されるフラッシュバックを契機として、症状が悪化し明らかになります。

表面に現れるそれぞれの人格は、記憶や意識、知覚や自己同一性(アイデンティティ)の統合の失敗を反映しています。通常、その人本来の人格で、より受身的で情緒的にも控えめな人格と、より支配的、自己主張的、保護的、または敵対的で、時には性的にもより積極的、開放的な人格という、対照的な2つの主要な人格を持ちます。

そのほかに小児や児童、思春期の人格を持つのが普通で、数名から数十名の人格を示します。数十名、あるいは百名以上の断片化した人格を持つ発症者は、長期にわたる肉体的虐待、性的虐待を幼児期に受けている可能性が高いと考えられます。二次的人格は、年齢だけでなく、性別、人種、好み、利き手、筆跡、使用言語、癖、家族などがそれぞれ異なることもあります。

通常、出生して最初に持つ本来の人格である基本人格(オリジナル人格)と、ある時期において大部分の時間、心身を管理的に支配している人格である主人格(ホスト人格)とを区別します。基本人格が主人格である場合が最も多いものの、発症者によっては、基本人格が長期間にわたって休眠状態だったり、たまに短時間出現するだけだったりする場合もあるからです。その場合には、時間的にも、相互関係的にも、成長後に分離した人格である二次的人格が支配的であるという期間が、長期間、時には数年間以上続き、二次的人格が主人格であるということになります。

それぞれの人格は、それぞれの機能を持っています。例えば、孤独な基本人格を保護し、慰める友人役であったり、基本人格の代わりに痛みや悲しみを引き受けたり、基本人格には許されないような積極さや活動性や奔放な性格を持っていたり、基本人格が戻りたい幼児期であったり、基本人格が持つには危険すぎる攻撃性や自殺衝動を持っていたりします。

基本人格は二次的人格の言動についての記憶がないのが通例ですが、二次的人格はそれぞれの人格の間で、ある程度の共通記憶を持っていたり、主要な二次的人格は基本人格が優勢な時にも、ある種の共通意識を持っていたりします。

人格の交代は、突然に始まり、時には極めて微妙、時には極めて顕著に交代します。人格の交代は、何らかの情緒的ストレスが引き金になって、あるいは他人の希望、要求や暗示によって誘発され、時には意識的に、時には自然発生的に起こります。

二次的人格へ人格が交代している期間は、基本人格にとっては空白期間、つまり記憶喪失として体験されます。解離性同一性障害では、このような記憶障害は必発で、多くの場合は記憶喪失の期間は数分から数時間ですが、時には数日から数年におよびます。また、より長期の、心的外傷に関連した小児期の生活史に関する記憶喪失がみられることもあります。

話し方や声が突然に代わったり、全く違う人格に変わるので、真っ先に家族が気付くと思われます。こうした兆候が何度もあり、日常の生活に支障を来すような場合は、精神科、神経科、心療内科の受診を考慮します。

解離性同一性障害の検査と診断と治療

精神科、神経科、心療内科の医師による診断は、主に症状に基づいて行われます。

症状が明らかになるのは多くの場合、思春期以降、10歳代後半から20歳代ですが、発症者本人や家族の情報から、あるいは医療記録から、12歳以前の幼児期の発症が確かめられることも少なくありません。見逃されたり、統合失調症(精神分裂病)などと誤診されたりしやすいために、解離性同一性障害が幼児期に診断されることはまれなものの、幼児期に診断された発症者では、治療期間が成人の場合に比べて短いと見なされます。

精神科、神経科、心療内科の医師による治療は、通常の薬物療法を主体とした保険診療では対応が難しく、精神療法を主にして治療することになります。

解離性同一性障害の発症者の多くが、うつ気分、自傷行為、自殺行為、攻撃的行動、気分障害、アルコール・薬物依存症、摂食障害、睡眠障害、性障害、境界型人格障害など多彩な精神症状、身体症状を合併し、極めて不安定な状態です。ほとんどの発症者が幼児期に肉体的虐待、性的虐待を受けていますから、他人を信頼する能力に欠けています。

従って、治療では、安全な場所を確保し、多彩な精神症状や身体症状に対処しながら、基本人格だけでなく二次的人格とのコミュニケーションをとり、それぞれの機能や役割を整理し、複数の人格を一人にまとめることを目指します。

その中で、医師との信頼関係を築き、必要に応じて個人精神療法、集団療法、家族療法、教育的治療、社会機能訓練、認知行動療法、自助グループ、抗不安剤・抗精神病剤・抗うつ剤による薬物療法などを組み合わせて行います。

心的外傷で傷付いた体験をいやすには、相当な時間がかかります。主人格が怒りや自殺衝動、性的衝動などへの対処を学習し、人格が離れている理由がなくなり、人格を一人にまとめるにも、たくさんの困難があります。多くの場合、5〜6年を要する長期治療になります。

⛪解離性遁走

突然、家庭や職場から離れて放浪し、その間の記憶がない障害

解離性遁走(とんそう)とは、家庭や職場など日常的な場所から突然、離れて放浪し、本人にその間の記憶がない解離性障害。人口1000人当たり2人程度が、解離性遁走を発症していると推定されています。

飲酒や身体疾患による意識障害、認知症、詐病などによる放浪では説明できないものが、解離性遁走に相当します。この解離性遁走と、経済的または社会的な利益の享受などを目的として病気であるかのように偽る詐病による遁走は、いずれも本人が明らかに逃げ出したいと思うような状況で発生する点では似ていますが、解離性遁走は本人の意思とは無関係に起こる障害であり、意識的に放浪する詐病とは異なります。

解離性遁走は、家庭や職場、学校などにおいて極度のストレスにさらされ、しかもそれを誰(だれ)にも打ち明けることができない状態で、周囲の人には予期できない形で突然、始まります。事故や戦争、自然災害などとも関連し、その経験が心的外傷(トラウマ)となって発症するケースも多くみられます。

心的外傷や極度のストレスから逃れるために、記憶や知覚などが失われ、遁走が引き起こされます。遁走状態での放浪の間は、普通は意識的に自覚している日常にかかわる情報や、自分自身についての記憶、例えば、自分が誰(だれ)なのか、何をしたのか、どこへ行ったのか、誰と話したのか、何を話したのかなどの記憶が失われます。情報自体は忘れていても、その人の行動には引き続き影響を与えていることもあります。

放浪は時に数百キロを越えることもあり、目的のない彷徨(ほうこう)の形をとることもありますが、大抵は目的があるようにみえます。普段の本人からしてみるとあり得ない様な行動をとっていたとしても、受け答えは正常にできます。偶然見掛けた人には、その行動は全く正常にみえ、精神的な疾患を持つ人のようにはみえません。

食事や洗面などの身辺管理は正常で、公共の交通手段を利用することもでき、社会的行動はまとまってみえます。静かで、活気がなく、世捨て人のような存在であり、しばしば単純な仕事について、慎み深く暮らしています。

遁走状態での放浪の期間は、数時間から数カ月、場合によっては数年間に及ぶこともあります。放浪期間が長い場合は、過去の一部または全部を思い出すことができず、放浪先で別の人物として新しい人生を始めることもあります。

ほとんどの解離性遁走では、短期間で家庭や職場など日常的な場所に戻ってきますが、放浪前の過去の出来事は思い出せても放浪中の出来事を全く覚えていない人がいるほか、放浪中の出来事を飛び飛びの記憶の痕跡(こんせき)としてしか覚えていない人、放浪前の一定期間の自己の生活史の記憶も喪失している人、放浪前のすべての自己の生活史の記憶をも喪失している人もいます。

短期間で戻って来た場合、放浪中に問題のある行動を起こしていなければ障害は軽く、短期間で自ら回復するとされます。

しかし、長期間放浪した場合や、抑うつ・不快感・羞恥(しゅうち)・葛藤(かっとう)・自殺願望や攻撃的衝動などの後遺症がある場合は、自分自身で解決することは非常に困難です。周りの人の協力や、精神科、神経科、心療内科などの医師による心理療法やカウンセリングが必要となってきます。

解離性遁走の検査と診断と治療

精神科、神経科、心療内科の医師による診断では、症状を注意深く観察し、体を診察して解離性遁走に飲酒や身体疾患による意識障害、認知症、詐病などが原因がなっていないかどうかを調べます。身体的な原因を除外するために、脳波検査と毒素や薬物を調べる血液検査を行うこともあります。

また、解離性同一性障害や特定不能の解離性障害の可能性も考えながら、解離性遁走を診断します。解離性同一性障害は、解離性健忘や解離性遁走の症状を含んでいるからです。

その人の記憶喪失の体験の特徴をとらえて理解し、治療計画を立てるために、しばしば特殊な心理検査も行われます。

精神科、神経科、心療内科の医師による治療は、まず発症者が安心できる環境にすること、発症者と信頼関係を築くことから始めます。欠落した記憶が自然には回復しない場合や、緊急に記憶を取り戻す必要がある場合は、記憶想起法がしばしば効果を発揮します。催眠、またはアモバルビタール、チオペンタールラボナールなどの短時間作用型バルビツール酸を静脈内に注射して気持ちを落ち着かせ、鎮静状態にした上で行う面接により、医師が過去のことについて質問します。

催眠や薬物を利用した面接は、記憶の欠落に伴う不安を軽減するとともに、苦痛に満ちた心的外傷(トラウマ)や葛藤を思い出さないようにするために本人が心の中に築いた防御を突破し、あるいはう回するのに役立ち、記憶を取り戻す助けとなります。

また、発症者を催眠状態に置くことにより、精神的抑制が消えて欠落した記憶が意識の中に現れることがあります。薬剤は覚醒(かくせい)のコントロールが難しく、しかも、呼吸抑制など危険な副作用が起こる可能性があります。それに対して、催眠は副作用の危険性は少ないものの、治療する側が催眠の技術を持っていなければなりません。

医師は、どのようなことを思い出すべきか示唆したり、極度の不安を引き起こしたりしないように注意しなければなりません。この方法で再生された記憶は正確でないこともあるため、別の人による裏付けも必要となります。

そのため、この方法で再生された記憶が正確でない場合もあることを前もって発症者に告げ、本人の同意を得てから、催眠または薬物を利用した面接を行います。

記憶の空白期間をできるだけ埋めることにより、発症者の自己同一性(アイデンティティ)や自己認識に連続性を取り戻すことができます。健忘がなくなった後も心理療法を継続することは、原因となった心的外傷や葛藤を発症者が理解し、解決方法を見いだしていく上で役立ちます。

また、発症者の精神的な健康を回復させるために、抗うつ剤や精神安定剤が有効なこともあります。

解離性遁走の克服には、場合によっては非常に長い時間を要することもあります。しかし、正常な日常生活を送るためには、欠落した記憶を取り戻し、健忘の原因となった心のトラブルの解決することが必要となってきます。症状が重くなる前に早期の治療を行うことで、解離性遁走を何度も繰り返し、やがて長期間に渡って遁走する危険性を排除することができます。

⛪カイロミクロン停滞病

遺伝子の異常により、体内でカイロミクロンを合成できなくなる疾患

カイロミクロン停滞病とは、小腸でカイロミクロンを合成することができないために、脂肪吸収不良が生じる遺伝性疾患。アンダーソン病とも呼ばれます。

SARA2遺伝子の異常による非常にまれな疾患であり、常染色体劣性遺伝形式をとると考えられています。

小腸粘膜細胞内の細胞小器官である小胞体では、中性脂肪を分解する酵素のリポ蛋白(たんぱく)であるカイロミクロンの分泌は正常に行われるものの、SARA2遺伝子の異常により、カイロミクロンの合成を行う細胞小器官であるゴルジ体へと、カイロミクロンを輸送することができないために、カイロミクロンが合成できず小腸粘膜細胞内で停滞します。

一方、肝臓における、中性脂肪を分解する酵素のリポ蛋白であるVLDL(超低比重リポ蛋白)の分泌、合成は損なわれません。

小腸でカイロミクロンが合成できない結果、食事由来の脂肪と脂溶性ビタミンの小腸における吸収が大きく損なわれます。動物性蛋白の摂取不足に伴って、低LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール血症を生じることもあります。

カイロミクロン停滞病の症状はまず乳児期に現れ、発育不全がみられます。便に過度の脂肪が含まれる脂肪便という状態になり、便は脂っぽく、悪臭があり、水に浮かびやすくなります。

中枢神経系が損傷し、運動失調症と精神遅滞が起きる可能性もあります。未治療の多くのケースでは、30歳前後までに中枢神経系の障害により、通常の日常生活に必要な基本的な活動が著しく障害されます。

カイロミクロン停滞病の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液に含まれるコレステロール濃度が低く、食後カイロミクロンの欠損する場合に、腸の粘膜を一部採って特殊な染色を行った上で顕微鏡で調べる腸生検を実施します。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、脂肪と脂溶性ビタミン(A、D、E、K)のサプリメントを使用し、補充します。

カイロミクロン停滞病は遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するために治癒しませんが、脂肪と脂溶性ビタミンを補充することにより、中枢神経系に対する損傷の発生と進行を遅らせることができます。

🇷🇼下咽頭がん

食道の入り口付近の下咽頭の組織に、がん細胞を認める疾患

下咽頭(かいんとう)がんとは、食道の入り口付近の下咽頭の組織に、がん細胞を認める疾患。上咽頭がん、中咽頭がんとともに咽頭がんの一つです。

咽頭は鼻の奥から食道に至るまでの食物や空気の通り道で、上咽頭、中咽頭と、この下咽頭の3部位に分けられます。食道との移行部に当たる下咽頭のすぐ前には、のど仏の軟骨に囲まれた声帯を含む喉頭(こうとう)があり、表裏一体の関係となっています。すぐ後ろには頸椎(けいつい)骨があり、喉頭と頸椎骨に挟まれた格好になっています。

下咽頭の悪性腫瘍のほとんどは、その下咽頭の粘膜の扁平(へんぺい)上皮細胞から発生しています。 そのほかに、腺(せん)がん、腺様嚢胞(のうほう)がん、粘表皮がん、未分化がん、小細胞がんなどがありますが、非常にまれ。

原因はわかっていません。喫煙や飲酒と関係があるといわれていて、ヘビースモーカーや大酒飲みほどかかりやすく、男性は女性の4〜5倍の頻度で発生しています。長年の慢性刺激が関係していることから、好発年齢は50歳以降であり、60~70歳ころにピークがあります。近年では平均寿命の延びに伴って、80歳以上にもしばしばみられるようになっています。

また、下咽頭がんが発見された人の1〜3割には、食道にもがんを認めます。これは転移ではなく、全く別に2カ所以上にがんが発生する重複がんといわれるものです。食道がんの発生も下咽頭がんと同様に、喫煙や飲酒と深い関係があることが原因と考えられています。

下咽頭がんの初期には、軽度の咽頭の痛み、嚥下(えんげ)に際しての痛みや咽頭異物感を自覚する程度です。進行すると、咽頭痛、嚥下痛が強くなり、食べ物が飲み込みにくくなります。咽頭と耳は痛みの神経がつながっているため、耳の奥への鋭い痛みとして感じることもあります。

喉頭までがんが広がると、声がかすれるようになります。 息の通り道が狭くなり、息苦しくなることもあります。

頸部(けいぶ)のリンパ節に転移しやすいのも、下咽頭がんの特徴です。転移によるリンパ節のはれのみが、自覚症状であることもあります。初めは痛みもなく徐々に大きくなり、急激に大きくなることもあります。複数個のリンパ節がはれたり、両頸部のリンパ節がはれたりすることも珍しくありません。

下咽頭がんの検査と診断と治療

下咽頭がんはかなり大きくならないと症状が出ない部位に発生するため、60パーセント以上は初診時に、すでに進行がんの状態です。のどの違和感や異物感、持続性の咽頭痛、食べ物がつかえる感じ、声のかすれなどといった症状が現れた場合には、早めに医療機関を受診します。治療をしなければ、症状の消失をみないのが一般的です。

医師による診断では、間接喉頭鏡や喉頭内視鏡(ファイバースコープ)を使ってのどの奥を観察したり、頸部を丹念に触り、リンパ節転移の有無やがんの周囲の組織への浸潤の程度を判断します。正常ではない組織を認めた場合には、その組織のごく一部を採取し、顕微鏡下でがんの細胞か否かを観察する生検を行います。

がんの広がりの程度を調べるために、CT、MRI、バリウムなどの画像の検査や、食道方向へのがんの広がりや重複がんの有無を調べるために上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行ったり、他の臓器への遠隔転移を調べるため、胸部レントゲンやCTなどの検査を行います。また、治療の方法を選択する上で心電図や呼吸機能などの全身状態の検査も行います。

治療においては、放射線治療のみで完治する可能性は極めて低いため、手術を主体とした治療法が一般に行われています。手術を行う場合は、がんに隣接している喉頭も多くは犠牲にしなければなりませんので、手術後、声を失うことが多くなります。腫瘍(しゅよう)が小さければ、喉頭を残す手術も可能。

切除した下咽頭部分は、皮膚や胃、腸の一部を用いて再建形成します。通常、小腸の一部の空腸を移植して、新しい食道を作ります。

食生活は手術前と同じですが、声が失われます。喉頭がんの手術よりも、切除される範囲が広いため、食道に飲み込んだ空気を吐き出すことで、手術時に縫合した食道部を振動させる食道音声の習得は、やや難しい面があります。

外科療法を中心に治療を受けた発症者の5年生存率は、全体で40パーセント弱です。

🇨🇦楓糖尿症

一部のアミノ酸を分解できないために、新生児期から神経系の異常を生じる疾患

楓(かえで)糖尿症とは、一部のアミノ酸を分解できないために、新生児期から神経系の異常を生じる疾患。先天性代謝異常症の一種で、メープルシロップ尿症とも呼ばれます。

人間が成長、発育していくには、蛋白(たんぱく)質、糖質、脂肪、ビタミン、ミネラルなどの栄養分が必要であり、これらの栄養分は胃、腸で分解され、小腸より吸収されて、肝臓などの内臓や脳、筋肉に運ばれます。内臓ではさらに、それぞれの臓器を構成するのに必要な成分に分解、合成されます。

このように栄養分を分解、合成する代謝には酵素の働きが必要ですが、この酵素が生まれ付きできないために、その酵素が関係する成分の蓄積が起こって、いろいろな症状が現れるのが、先天性代謝異常症です。

先天性代謝異常症の種類はたくさんありますが、その中で楓糖尿症は比較的頻度が高く、早期発見により正常な発育を期待できるため、新生児の集団スクリーニングの実施対象疾患となっています。新生児の約40万人から50万人に1人の割合で、楓糖尿症を発症するとされています。

口から摂取した蛋白質は胃でアミノ酸に分解され、腸より吸収されます。そのアミノ酸のうち、分岐鎖アミノ酸と呼ばれるロイシン、イソロイシン、バリンの3種類の必須アミノ酸を分解するα(アルファ)−ケト酸脱水素酵素の活性が、先天的な遺伝子の異常によって低下するために、楓糖尿症は起こります。

3種類のアミノ酸を分解、合成する代謝ができず、これらのアミノ酸とα−ケト酸からなる代謝産物が蓄積し、血液中の量が増えます。

このため神経系に変化が起こり、けいれんや精神遅滞なども起こります。こうした代謝産物によって、尿や汗などに楓シロップ(メープルシロップ)とよく似た特有の甘いにおいがします。

楓糖尿症にはさまざまな病型があり、最も重症な古典型から、症状の軽い間欠型、中間型、ビタミン反応型(サイアミン反応型)などがあります。

最も重症な古典型では、生後1週目で授乳不良、活気不良、嘔吐(おうと)、けいれん、多呼吸、意識障害、昏睡(こんすい)、低血糖などの神経系の異常を起こし、治療をしなければ数日から数週間以内に死亡します。

これより軽症の型の場合、初期には正常のようにみえますが、乳幼児期以降に感染症や手術などで身体的なストレス状態になると、嘔吐、よろめき歩行、錯乱、昏睡、尿の楓シロップに似たにおい、徐々に発達が遅れるなどの症状が現れます。

楓糖尿症の検査と診断と治療

楓糖尿症は、新生児の集団スクリーニングという集団検診の対象疾患になっています。具体的なスクリーニングの流れは、まず産科医療機関で生後4~7日目の新生児のかかとからごく少量の血液をろ紙に採り、スクリーニングセンターに郵送します。センターでスクリーニング検査を行い、血液中のロイシンの量が4ミリグラムを超えていたら、精度の高いアミノ酸分析計を用いて、血液や尿中の分枝鎖アミノ酸の増加を調べます。

結果に異常のある場合、小児科の医師による精密検査を受け、楓糖尿症と診断されると、ロイシン、イソロイシン、バリンの3種類の分枝鎖アミノ酸を制限した特別なミルクと、蛋白制限食による食事療法を行います。

重症の場合には、血液透析や交換輸血を行って体内に蓄積した分枝鎖アミノ酸とα−ケト酸を排除すれば、神経系の異常なども改善されてきます。軽症の場合には、ビタミンB1(チアミン)の注射が効果的な場合もあります。薬物により疾患を抑えることができた後も、特別なミルクと蛋白制限食を常に摂取しなければなりません。

乳児期では、蛋白質を除去した上で、3種類の制限対象以外のアミノ酸の混合物を加えた各種の治療用除去ミルクを与え、血液中のロイシンの量を2~4ミリグラムに保つように調節します。制限対象のアミノ酸はいずれも必須アミノ酸であるため、全く摂取しないわけにはいきません。残された酵素機能の程度に応じて、母乳や通常の粉ミルクを併用することになります。

離乳期では、自然の食品から3種類のアミノ酸だけを取り除くことはできないため、各食品中の3種類の制限対象のアミノ酸含有量を測定した資料を参考にして、摂取量を計算しながら献立を作ることになります。このような献立で、蛋白質やエネルギーの必要摂取量を確保することが難しい場合は、幼児期以降も治療用除去ミルクで補う必要があります。

一部のビタミン反応型に限られますが、特定のビタミンを服用することで食事制限の緩和が可能となる場合があります。ビタミン投与前後の症状や、検査値によって有効性を評価します。

新生児期に発見、診断して治療することにより、嘔吐や意識障害などの急性症状の出現を防ぎ、良好な発達につなげていくことができます。 感染症などで状態が悪化するので、慎重な育児は必要です。

🇰🇷化学物質過敏症

身の回りにある微量な化学物質に反応し、頭痛やせきなどの症状が起きる疾患

化学物質過敏症とは、身の回りにある微量な化学物質に過敏反応を起こし、頭痛やせきなどの症状が起きる疾患。本態性環境不耐症とも呼ばれます。

過去に大量の化学物質に曝露(ばくろ)されて体の耐性の限界を越えた後、または長期間に渡って慢性的に低濃度の化学物質に曝露されて体の耐性の限界を越えた後、極めて微量の化学物質に再接触した際に過敏反応し、頭痛やせきを始め、アレルギーに似た症状、情緒不安、神経症などさまざまな症状を示します。

化学物質過敏症の発症原因の半数以上は、室内空気汚染です。この室内空気汚染による健康影響は、シックハウス症候群、あるいはシックビル症候群とも呼ばれています。自宅や職場、学校などの新築、改修、改装で使われる建材、塗料、接着剤から放散されるホルムアルデヒド、揮発性有機化合物などが、室内空気を汚染するのです。建築物自体だけでなく、室内で使われる家具、カーテンに含まれる防炎・可塑剤、殺虫剤、防虫剤や、喫煙なども室内空気汚染を引き起こし、化学物質過敏症の発症原因になります。

また、大気汚染物質、排気ガス、除草剤、食品の残留農薬、食品添加物(保存料、着色料、甘味料、香料など)、医薬品、石鹸、シャンプー、化粧品、洗剤、芳香剤なども化学物質過敏症の発症原因になります。

化学物質過敏症で起きる症状は、アレルギー疾患の特徴と中毒の要素を併せ持つとされ、その症状は多岐に渡ります。粘膜刺激症状(結膜炎、鼻炎、咽頭〔いんとう〕炎、口渇)、皮膚炎、気管支炎、喘息(ぜんそく)、循環器症状(動悸〔どうき〕、不整脈) 、消化器症状(下痢、便秘、悪心)、自律神経障害 (異常発汗、手足の冷え、易疲労性)、精神症状 (不眠、不安、うつ状態、記憶困難、集中困難、価値観や認識の変化)、中枢神経障害 (けいれん)、頭痛、発熱、疲労感、末梢(まっしょう)神経障害、運動障害、四肢末端の知覚障害などがあります。

化学物質の摂取量と症状との関係などは未解明で、化学物質に対する耐性は個人差が大きいとされ、その症状や度合い、進行速度、回復速度なども多種多様であるといわれます。

化学物質過敏症の定義、診断方法などの検証が十分とはいえない部分もあり、世界的には化学物質過敏症を特定の疾患と認めることに否定的な意見が大勢を占め、心身症と考える意見が強いとされます。日本でも多数の医師は化学物質過敏症に関心を持っておらず、診療できる医師は限られているため、疲れや軽い風邪、精神疾患、心身症、更年期障害など別の疾患として診断されたり、原因不明として放置されているケースもあるものと見なされます。

化学物質過敏症の検査と診断と治療

日本では現在、化学物質過敏症を専門に扱う化学物質過敏症外来などを設けている医療機関もあります。

室内空気汚染による化学物質過敏症の一種であるシックハウス症候群について述べると、医師による診断のポイントは、第1に自覚症状が出現した経過です。原因となった住居への入居前後での体調の変化を詳細に問診します。つまり、自覚症状の発症経過と居住環境の変化が1つの線で結び付けられるかどうかが、重要となります。

初診時に症状が出現する場所の空気測定結果を持参することは、大きな診断の助けとなります。この室内空気の測定は、新築、改修などを行った施工業者が有料で、最寄りの保健所が簡易測定を無料で行ってくれます。

シックハウス症候群の大半のケースでは、何らかの中枢神経系あるいは自律神経系の機能障害が認められるため、診断のための検査では神経眼科検査が有用。神経眼科検査では、目の動きが滑らかかどうかを評価する眼球電位図(EOG)、目の感度を評価する視覚コントラスト感度検査(視覚空間周波数特性検査)、光に対する瞳(ひとみ)の反応を評価する電子瞳孔(どうこう)計による瞳孔検査などがあり、シックハウス症候群では異常値を示すケースが多いことがわかっています。

例えば、目の動きを調べる眼球電位図(EOG)検査では、程度に差はあるもののシックハウス症候群発症者の85パーセント以上に滑動性追従運動異常が認められます。また、開眼時、閉眼時重心動揺検査でも、高い頻度で異常値を認めます。ただ、これらの検査は、シックハウス症候群発症者にみられる一般的特徴を調べるもので、確定診断法としてのツールにはなりません。

確定診断法として唯一の方法は、ブーステストあるいはチャレンジテストと呼ばれ、実際に揮発性化学物質を発症者に曝露し、何らかの症状が誘発されるかどうかを結果の再現性も含めて確認する検査方法しかありません。しかし、この検査を行うためには、化学物質を低減化したクリーンルームが設備として必要で、今のところこの設備を有する特殊専門病院は国内でも数カ所程度しかなく、現在の医療水準では確定診断は難しいといわざるを得ない状況です。

化学物質過敏症の半数以上を占めるシックハウス症候群の治療は、原因となった居住環境の改善という建築工学的アプローチと、身体状況の改善という医学的アプローチの二本立てで行います。

居住環境の改善としては、自覚症状の原因が室内空気汚染ですから、空気汚染の原因はどこにあるのか、何をどのように改善すればよいのか、汚染された建材や建材関連品の交換、新しい家具などの吟味、十分な換気量の確保を含めて、施工業者と十分に相談して善後策を立てることです。化学物質以外のカビやダニなど微生物による空気汚染が広い意味でのシックハウス症候群の原因となることも考えられるため、これらの発生防止や除去なども必要です。

身体状況の改善としては、ゆっくり歩いて30分などの軽い運動療法、少しぬるいと感じる39度前後の半身浴、60度前後の低温サウナなどの温熱療法が自覚症状の改善に有効で、居住環境が整えば数カ月~6カ月程度で、多くの症状は軽快します。また、解毒剤、水溶性ビタミン剤も身体状況の改善に有効であり、タチオン、タウリン散、ノイロビタン、アスコルビン酸末などの服薬治療も併せて行うことが一般的です。

また、一般的な意味での体調管理も重要です。暴飲暴食を避け、バランスの取れた規則的な食事や、十分な休養と睡眠、定期的な軽い運動を心掛けて体調がよければ、同じ環境負荷に対しても反応は軽くてすみます。

発症者によっては、シックハウス症候群を契機に、通常では気にならないほんのわずかな芳香剤、たばこ、香水などのにおいが気になったり、極めて微量の化学物質にさらされるだけでも多彩な症状が出現するようになったりするケースもまれにみられます。このようなケースでは、多くの場合、社会生活が制限されるため、心療内科医によるケアを併せて行う必要があります。

🇵🇰過活動膀胱(OAB)

膀胱の活動性が過剰になり、尿意切迫感を伴う状態

過活動膀胱(ぼうこう)とは、膀胱の不随意の収縮による尿意切迫感を主症状とし、頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁を伴うこともある排尿障害。OAB(overactive bladder)とも呼ばれます。

普通、膀胱が正常であれば400~500mlの尿をためること可能で、尿が250~300mlくらいになると尿意を感じて排尿が始まりますが、過活動膀胱では100ml前後の尿がたまると膀胱が収縮するために、突然の尿意を催して、我慢できなくなるのが特徴です。膀胱が正常であれば、尿意を感じ始めて10~15分ぐらいは我慢できることもありますが、過活動膀胱ではそれも難しいとされています。

尿意切迫感のほか、トイレが近くなる頻尿、夜中に何度もトイレに起きる夜間頻尿、トイレまで我慢できずに漏れてしまう切迫性尿失禁があることもあります。

近年の調査によると、日本における過活動膀胱の潜在患者は推定830万人。40歳以上では、8人に1人の12パーセントという高率を示しており、この中の約半分では切迫性尿失禁があります。年齢とともに、過活動膀胱の有病率は高くなっています。

病因に基づき、脳と膀胱(尿道)を結ぶ神経のトラブルで起こる神経因性過活動膀胱と、それ以外の原因で起こる非神経因性過活動膀胱に区別されます。

神経因性過活動膀胱は、脳卒中や脳梗塞(こうそく)などの脳血管障害、パーキンソン病などの脳の障害、脊髄(せきずい)損傷や多発性硬化症などの脊髄の障害で起こります。非神経因性過活動膀胱は、老化、男性では前立腺(せん)肥大症、女性では出産や加齢による骨盤底筋の障害などで起こります。

過活動膀胱の検査と診断と治療

排尿に関係した症状などで日常生活に支障がある場合は、不安がらずにまず泌尿器科などを受診します。

一般的に、初診時に行われるのは問診です。どんな症状で困っているのかを、医師に具体的に伝えます。過活動膀胱かどうかを調べるための過活動膀胱スクリーニング質問票(リンク)や、過活動膀胱の症状の程度を調べるための過活動膀胱症状質問票(OABSS)という簡単な質問票が、診断のために使われることもあります。

問診以外には、膀胱の状態を調べるための検査を行うこともあります。排尿に関係した症状があるからといって、必ずしも過活動膀胱とは限りませんので、ほかの疾患の可能性も含めて確認するための検査です。初診で行う検査は、主に腹部エコー検査(残尿量の測定)、血液検査、尿検査など比較的簡単な検査で、過活動膀胱の検査には尿流測定、パッドテスト、ストレステストなどもあります。

過活動膀胱の治療では、膀胱の収縮を阻止し、神経に働く抗コリン剤(ポラキス、BUP−4)、または排尿筋を弛緩(しかん)させるカルシウム拮抗(きっこう)剤(アダラート、ヘルベッサー、ペルジピン)を用います。抗コリン剤を1~2カ月内服すると、80パーセントの発症者で改善されます。

次の治療では、できるだけ尿意を我慢して、膀胱を拡大するための訓練をします。毎日訓練すると、膀胱が少しずつ大きくなって尿がためられるようになりますので、200~400mlくらいまでためられるように訓練します。排尿間隔を少しずつ延長させ、2時間くらいは我慢できるようになれば成功です。尿道を締める筋肉の訓練も必要です。

難産を経験した女性、40歳を過ぎた女性では、時に腹圧性失禁を経験することがあります。腹圧性失禁とは、腹にちょっと力が加わっただけで尿が漏れる状態で、もともと男性に比べて女性のほうが排尿に関連する筋肉が弱いことと、泌尿器の構造上の問題が加わって起こります。

あまりにひどい場合には、手術を検討されることもありますが、骨盤底筋群を鍛える体操によって、症状を和らげことができます。さまざまな体操が考案されていますので、そのうちの1つを紹介します。

床に肘(ひじ)と膝(ひざ)をついて、横になります。そのまま、腰を浮かせて四つんばいになります。肘をついたまま、手であごを支えます。この体勢で、尿道と肛門(こうもん)を締めるように、10秒間力を入れます。次に、力を緩めて楽にします。これを繰り返します。

50回を1セットとして、1日に2~3セットくらい行うと、より効果的です。簡単な体操ですので、3か月程度続けてみて下さい。3カ月以上たっても効果のない場合には、手術が必要となる可能性が高くなります。

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