2022/08/11

🕎潰瘍

潰瘍(かいよう)とは、皮膚や粘膜の上皮組織が何らかの原因で傷付き、深くえぐられた状態のことです。通常、より深層の組織も、症例ごとにさまざまな深さで損傷を起こしています。上皮組織を失ったことで受ける外部刺激、特に感染に対する防御反応や、損傷した組織の修復と再生のために、炎症を伴うのが常です。

潰瘍より軽度の上皮組織の損傷、すなわち肉眼的には上皮が欠損していても、顕微鏡で見ると不連続的に上皮細胞が残っているものは、びらんと呼びます。より深層の組織の傷害も、軽微で限定的です。

代表的な潰瘍で、頻度が高く健康への影響が大きいのは、胃潰瘍と十二指腸潰瘍。いずれも、本来は食物を消化するために分泌されている胃液によって、胃や十二指腸の粘膜そのものまで消化されて傷付いた結果、発生する病気です。総称して消化性潰瘍と呼び、皮膚にできる潰瘍と違って、粘膜が常に強酸にさらされているため、なかなか治りません。ほかに、口の中、大腸などにできる潰瘍もあります。

なお、潰瘍を形成する特徴を持った炎症を潰瘍性炎と呼び、組織の損傷がさらに深層に及んで消化管などの壁を貫くものを穿孔(せんこう)性潰瘍と呼びます。

✡潰瘍性大腸炎

大腸の粘膜に多数の潰瘍ができ、再発しやすい難病

潰瘍(かいよう)性大腸炎とは、大腸の粘膜に多数の浅い潰瘍ができ、出血する疾患。厚生労働省から特定疾患(難病)の一つに指定されています。

最近、日本でもだんだん増えてきた大腸の慢性の炎症で、20歳代、30歳代で発症する人が多く、子供や50歳以上の人でも起こり、男女差はありません。日本では、人口10万人当たり2〜3人くらいで、毎年おおよそ5000人増加していますが、欧米では日本の2〜3倍多いとされています。

原因については、まだよくわかっていません。 細菌やウイルスの感染、ある種の酵素の不足、ストレス、体質が関係しているといわれ、近年では自己免疫異常説がかなり有力です。

私たちの体には、細菌などの有害なものを排除する免疫の仕組みがあります。この免疫の仕組みは腸の中でも働いていて、食べ物が腸を通過する際には、栄養分のように体に必要なものだけを腸の粘膜から吸収し、不要なものや有害なものは吸収せずに、そのまま腸から通過させて便として排出します。 ところが、免疫機構の異常が大腸に生じると、不要なものまで腸の粘膜から吸収されるようになる結果、大腸の粘膜に炎症が起こって潰瘍ができると考えられています。

また、潰瘍性大腸炎が増加している背景には、大腸がんと同じように、食生活の欧米化、特に脂肪の多い食事の取りすぎがあると推測されます。

最初、病変が直腸にできる直腸炎型として起こり、直腸からS状結腸に渡って病変が広がって直腸S状結腸炎型となります。さらに、下行結腸へと広がる左側大腸炎型となり、横行結腸から上行結腸へと進んでいき、全大腸炎型になります。

直腸炎型は最も軽く、全大腸炎型が最も重症です。

潰瘍性大腸炎の主な症状は、腹痛と血便。最初は腹痛と下痢で始まり、次第に下痢便に血液が混じって血性下痢になります。直腸の一部のみに病変が限られている時は、排便の際に少量の出血がみられる程度のため、内痔核(ないじかく)からの出血とはっきり区別が付けにくいこともあります。

直腸やS状結腸に強い病変が起こると、渋り腹という状態になり、排便した後もすっきりせず、何回でもトイレに行きます。

腹痛は、左下腹部に起こることが多く、特に排便の前に強くて、排便後は軽くなって消失します。そのほか、腹部のはれぼったい感じ、食欲不振、吐き気、嘔吐(おうと)などが起こってくることもあります。体温の変化は、最初は特にないものの、炎症が進んでくると、発熱するようになります。

さらに重症になってくると、1日のうち、何回も血性下痢が起こり、食欲不振と体重減少が生じます。

この潰瘍性大腸炎は、大腸の炎症のほかにも、いろいろな合併症を引き起こしやすい疾患で、腸の局所的な合併症と、全身的な合併症とがあります。

局所的な合併症として、痔核、痔瘻(じろう)、肛門(こうもん)周囲膿瘍(のうよう)などの直腸と肛門の疾患や、炎症の結果として、大腸の内腔(ないくう)が狭くなる大腸狭窄(きょうさく)、潰瘍が深くえぐれる大腸穿孔(せんこう)を起こしたりします。

大出血や、大腸が急にまひして拡張する中毒性大腸拡張症などを合併することもあります。そのほか、血液中の蛋白(たんぱく)質が胃腸から漏れ出る蛋白漏出性胃腸症などを起こして、栄養障害の引き金になることもあります。

全身的な合併症としては、出血に伴う貧血、結膜炎や虹彩(こうさい)炎などの目の疾患、口内炎や重い皮膚炎、関節炎などがあります。重症の潰瘍性大腸炎では、肝炎や肝硬変、膵炎(すいえん)といった内臓の疾患を合併することもあります。

症状の経過によって、潰瘍性大腸炎は再発寛解(かんかい)型、慢性持続型、急性電撃型、初回発作型に分けられます。

再発寛解型は、一時的によくなったり、再発したりを繰り返すタイプ。慢性持続型は、病状がずっと慢性的に続くタイプ。急性電撃型は、最も重症で突然に病状が悪化するタイプ。初回発作型は、1回しか起こらず、直腸だけに限局して軽く、進行しないタイプ。

一般に、病変に侵された大腸の範囲が広いほど予後が悪く、合併症も多くなります。

潰瘍性大腸炎の検査と診断と治療

血便や下痢を起こす疾患は、潰瘍性大腸炎のほかにも、急性腸炎やがんなどいろいろあります。自分の判断で安易に下痢止めや止血剤を使うと、かえって症状をひどくする危険があります。消化器科の専門医を受診して、内視鏡検査などをした上で適切な治療を受けるようにします。潰瘍性大腸炎の合併症も早期に発見できれば、長引かせずに治療することが可能になります。

医師による診断のための検査では、大腸のX線検査が重要です。腸管を下剤で完全に空にした状態で、肛門から造影剤と空気を入れてX線撮影するもので、大腸の粘膜の凹凸、びらん、潰瘍などが描写され、病変の範囲や、程度を知ることができます。次いで、大腸内視鏡検査によって、より詳細な所見を捕らえ、診断を確実にします。

潰瘍性大腸炎は原因がはっきりしないため、決定的な治療や予防はまだできないのが現状です。対症療法としては、まず精神的、肉体的な安静を保ち、消化吸収がよく、栄養価の高い食事をとります。豆腐や白身の魚、鶏のささ身などは最適です。

炎症がひどい時には、脂質の多い食品や、繊維質の多い食品は避ける必要があります。脂質の多い食品は胃腸の負担を増大させますし、繊維質が多い食品は便の量が増えて、大腸の粘膜の傷が刺激されやすくなるからです。また、出血を伴う場合は、わさび、からし、こしょうなどの刺激物や、アルコール類のように血管を拡張させるものも控えるようにします。

薬物療法としては、軽症ではサラゾスルファピリジンというサルファ剤を内服薬、または座薬として用います。サルファ剤は、特効的に効果を発揮することがあります。中等症では副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の内服薬、座薬が用いられます。重症では抗生物質、輸液、輸血が必要なこともあります。中等症、重症では、入院治療を要します。

急性電撃型の場合、内科的な治療だけでは無理なため、手術が必要です。全大腸炎型で生命に危険があると判断された場合も、手術が行われます。全身に及ぶ合併症の場合には、消化器科の専門医に加えて、眼科、皮膚科、整形外科などの多くの専門医が協力して、治療に当たることになります。

この潰瘍性大腸炎は、一時的に快方へ向かっても、しばしば悪化します。精神的なストレスや不安感が引き金になることが多く、しばしば試験勉強などで悪化したり、暴飲暴食で悪化することも少なくありません。

従って、十分に睡眠をとることと、食事を規則正しくして、過労を避け、精神の安定に努めます。いずれにしても長い経過をとる疾患なので、療養にもそれだけの時間がかかります。

🕍潰瘍性大腸炎直腸炎型(直腸炎)

直腸の粘膜に炎症が起こって、ただれる疾患

潰瘍(かいよう)性大腸炎直腸炎型とは、大腸の最終部に当たる直腸の粘膜に炎症が起こり、ただれる疾患。潰瘍性大腸炎のうちで、直腸に限って発生する型であり、直腸炎とも呼ばれます。

この直腸炎型など潰瘍性大腸炎の原因については、まだよくわかっていません。 細菌やウイルスの感染、ある種の酵素の不足、ストレス、体質が関係していると見なされ、近年では自己免疫異常説がかなり有力です。

私たちの体には、細菌などの有害なものを排除する免疫の仕組みがあります。この免疫の仕組みは腸の中でも働いていて、食べ物が腸を通過する際には、栄養分のように体に必要なものだけを腸の粘膜から吸収し、不要なものや有害なものは吸収せずに、そのまま腸から通過させて便として排出します。 ところが、免疫機構の異常が大腸に生じると、不要なものまで腸の粘膜から吸収されるようになる結果、大腸の粘膜に炎症が起こって潰瘍ができると考えられています。

また、直腸炎型など潰瘍性大腸炎が増加している背景には、大腸がんと同じように、食生活の欧米化、特に脂肪の多い食事の取りすぎがあると推測されます。

潰瘍性大腸炎は最初、病変が直腸に限ってできる潰瘍性大腸炎直腸炎型、すなわち直腸炎として起こります。放置すると、直腸からS状結腸に渡って病変が広がって直腸S状結腸炎型となります。さらに、下行結腸へと広がる左側大腸炎型となり、横行結腸から上行結腸へと進んでいき、全大腸炎型になります。

潰瘍性大腸炎直腸炎型、すなわち直腸炎は最も軽く、全大腸炎型が最も重症です。

潰瘍性大腸炎直腸炎型の主な症状は、血便、粘血便、粘血膿便(のうべん)。直腸の一部のみに病変が限られている時は、排便の際に少量の出血がみられる程度のため、内痔核(ないじかく)からの出血とはっきり区別が付けにくいこともあります。直腸に強い病変が起こると、渋り腹という絶えず便意があるのに通じのよくない下痢状態になり、排便した後もすっきりせず、何回でもトイレに行きます。

時に体重の減少、食欲不振、貧血などの全身症状を伴うことがあります。

潰瘍性大腸炎直腸炎型の検査と診断と治療

血便、粘血便、下痢が認められた場合は、消化器科、消化器外科、肛門(こうもん)科を受診します。胃腸科では、十分な診断ができない場合があります。

潰瘍性大腸炎のうちで、直腸に限って発生する潰瘍性大腸炎直腸炎型、すなわち直腸炎では、直腸鏡によるS状結腸までの検査でおおよその診断がつきます。さらに原因を確定するには、全大腸内視鏡検査、糞便(ふんべん)の検査、腹部のX線検査、バリウムを肛門から注入してX線撮影をする注腸検査、直腸の組織の一部を採取して調べる生検が必要になります。

一般療法としては、まず精神的、肉体的な安静を保ち、消化吸収がよく、栄養価の高い食事をとります。豆腐や白身の魚、鶏(にわとり)のささ身などは最適です。乳製品や高脂肪食は避けます。

薬物療法としては、軽症ではサラゾスルファピリジンというサルファ剤を内服薬、または座薬として用います。粘膜の潰瘍に有効なサルファ剤は、特効的に効果を発揮することがあります。中等症では副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の内服薬、座薬が用いられます。重症では抗生物質、輸液、輸血が必要なこともあります。中等症、重症では、入院治療を要します。

日常生活での注意としては、規則正しい生活を心掛け、アルコールを控え、普段から食事療法を心掛けることが必要です。

🛕解離性健忘

心的外傷など原因で、過去の一時期の記憶、あるいは全生涯にわたる記憶を失う疾患

解離性健忘とは、心的外傷やストレスが原因で、過去の一時期の記憶、あるいは全生涯にわたる記憶を失う疾患。解離性障害の一種です。

高齢者より若年の成人に多く、男性より女性に起こりやすいと見なされていますが、どの年代の男女にも起こり得ます。心的外傷やストレスによるダメージを避けるため、精神が緊急避難的に機能の一部を停止させることが、解離性健忘につながると考えられています。

そのため、特に戦争、事故、自然災害、性的虐待などの心的外傷を体験した人によくみられます。家庭内の不和、貧困、借金、失業、自殺企図、進学の問題、失恋、離婚、病気、けが、近親者の死亡なども関係します。また、性的衝動や攻撃的衝動によって引き起こされたり、実際に暴力や非難されるような性的行為を行った後でみられることもあります。

解離性健忘は、健忘の程度と内容により、限局性健忘(局所性健忘)、選択性健忘、全生活史健忘(全般性健忘)、持続性健忘、系統的健忘の5つに分類されます。

限局性健忘は、数時間から数日という短時間に生じた出来事の記憶を失う健忘。選択性健忘は、数時間から数日という短時間に生じた出来事の一部を思い出すことができるものの、すべてを思い出すことができない健忘。全生活史健忘は、全生涯にわたる記憶を喪失する健忘。持続性健忘は、ある出来事が生じた後から今までの記憶を喪失する健忘。そして、系統的健忘は、あるカテゴリーに属する記憶、例えば、ある特定の人物にかかわる記憶を喪失する健忘に相当します。

解離性健忘の最も一般的な症状は、記憶の喪失です。普通は意識的に自覚している日常にかかわる情報や、自分自身についての記憶、例えば、自分が誰(だれ)なのか、何をしたのか、どこへ行ったのか、誰と話したのか、何を話したのかなどの記憶が失われます。情報自体は忘れていても、その人の行動には引き続き影響を与えていることもあります。

健忘はしばしば、突然起こります。大半の人は、記憶を失ったことを認識しています。中には、記憶にはないものの確かに自分が何らかの行為をしたことを認識していたり、その証拠を示されて初めて、記憶の欠落に気付く人もいます。

記憶の喪失に混乱した様子になる人もいますし、軽度の抑うつ状態になったり、苦痛に悩まされる人もいます。一方で、心配しない人や、無関心な人もいます。

記憶の空白期間は数分間から数時間、あるいは数年間にまで及び、その空白期間が1つだけの場合もあれば、複数の場合もあります。ある特定の期間の記憶をすべて喪失するのではなく、島状に飛び飛びの記憶の痕跡(こんせき)を残す場合が多くみられます。時には、それまでの人生のすべての記憶が欠落してしまう場合もあります。また、起きたことを次々に忘れてしまう場合もあります。

慢性の解離性健忘の人では、状況に適応するために偽りの情報を作り、それを実際の経験として話したり、知っているふりをしたりします。そして、自らはその偽りを意識しません。

解離性健忘の発症者が合併しやすい疾患としては、転換性障害、神経性過食症、アルコール依存症、うつ病などが挙げられます。

心のトラブルによって記憶が飛んでしまい、仕事や家事などができなくなった時は、精神科、神経科、心療内科を受診することが勧められます。

解離性健忘の検査と診断と治療

精神科、神経科、心療内科の医師による診断では、症状を注意深く観察し、体を診察して健忘に身体的な原因がないかどうかを調べます。身体的な原因を除外するために、脳波検査と毒素や薬物を調べる血液検査を行うこともあります。また、解離性同一性障害や特定不能の解離性障害の可能性も考えながら、解離性健忘を診断します。解離性同一性障害は、解離性健忘の症状を含んでいるからです。

その人の記憶喪失の体験の特徴をとらえて理解し、治療計画を立てるために、しばしば特殊な心理検査も行われます。

精神科、神経科、心療内科の医師による治療は、まず発症者が安心できる環境にすること、発症者と信頼関係を築くことから始めます。欠落した記憶が自然には回復しない場合や、緊急に記憶を取り戻す必要がある場合は、記憶想起法がしばしば効果を発揮します。催眠、またはアモバルビタール、チオペンタールラボナールなどの短時間作用型バルビツール酸を静脈内に注射して気持ちを落ち着かせ、鎮静状態にした上で行う面接により、医師が過去のことについて質問します。

催眠や薬物を利用した面接は、記憶の欠落に伴う不安を軽減するとともに、苦痛に満ちた心的外傷(トラウマ)や葛藤(かっとう)を思い出さないようにするために本人が心の中に築いた防御を突破し、あるいはう回するのに役立ち、記憶を取り戻す助けとなります。

また、発症者を催眠状態に置くことにより、精神的抑制が消えて欠落した記憶が意識の中に現れることがあります。薬剤は覚醒(かくせい)のコントロールが難しく、しかも、呼吸抑制など危険な副作用が起こる可能性があります。それに対して、催眠は副作用の危険性は少ないものの、治療する側が催眠の技術を持っていなければなりません。

医師は、どのようなことを思い出すべきか示唆したり、極度の不安を引き起こしたりしないように注意しなければなりません。この方法で再生された記憶は正確でないこともあるため、別の人による裏付けも必要となります。

そのため、この方法で再生された記憶が正確でない場合もあることを前もって発症者に告げ、本人の同意を得てから、催眠または薬物を利用した面接を行います。

記憶の空白期間をできるだけ埋めることにより、発症者の自己同一性(アイデンティティ)や自己認識に連続性を取り戻すことができます。健忘がなくなった後も心理療法を継続することは、原因となった心的外傷や葛藤を発症者が理解し、解決方法を見いだしていく上で役立ちます。

また、発症者の精神的な健康を回復させるために、抗うつ剤や精神安定剤が有効なこともあります。

大半の人は、欠落した記憶と思われるものを取り戻し、健忘の原因となった心のトラブルの解決に至ります。しかし、中には心のバリアを突き破ることができず、失った過去を再構築できない人もいます。

☸解離性混迷

突然、意識がはっきりせず、もうろうとした状態になる体の機能障害

解離性混迷とは、突然、意識がはっきりせず、もうろうとした状態になる体の機能障害。解離性障害の一種で、ヒステリー性混迷と呼ばれることもあります。

過去に虐待にあったり、心がひどく傷付けられたなどの心的外傷(トラウマ)があると、自分では意識していないような心理的ストレスが積み重なっており、過去の心的外傷の記憶が突然、かつ非常に鮮明に思い出されるフラッシュバックを契機として、心が無意識のうちに逃れようとします。

すると、体の機能には全く異常がないにもかかわらず、意識はあるがはっきりとせず、もうろうとした状態となって、長時間にわたってほとんど動かず、横たわったり、座ったりしている状態となります。外部からの接触や光、音などの刺激に対して、反応が鈍くなります。

症状が重くなると、外部から話し掛けたり、体を揺すったりと刺激を加えたとしても、反応しなくなってしまう場合があります。

この状態となっても筋緊張は正常なため、静止姿勢や呼吸機能は保持されたままとなっていますが、自分の意思によって体が動かせなくなります。症状が現れている間は、発語したり、眠ったり、食事を取ったりといった行動もできなくなります。

解離性混迷の発症により、意識が回復した後に精神的なダメージを受けてしまい、苦痛を味わうことになります。そして、解離性混迷を頻繁に発症してしまうことを気にしすぎてしまうことにより、うつ状態となってしまう恐れもあります。

解離性混迷を自分自身で解決することは、非常に困難です。周りの人の協力が必要となってきます。また、症状に気が付いたり、周りの人から指摘されたりした際には、直ちに精神科、神経科、心療内科を受診する必要があります。

解離性混迷の検査と診断と治療

精神科、神経科、心療内科の医師による診断では、症状を注意深く観察し、体を診察して、一般的な体の疾患を除外するための検査を行います。

精神科、神経科、心療内科の医師による治療では、症状が出現する背景となった心理的なストレスに焦点を当てた心理療法やカウンセリングを行います。

心理療法では、本人が無意識のうちに抑圧している心理的なストレスを明らかにする記憶想起法や、催眠療法、認知行動療法などを行い、発症者がストレス対処法を自ら身に着けていくことを目指します。

また、発症者の精神的な健康を回復させるために、抗うつ剤や精神安定剤が有効なこともあります。時には、家族などの協力も得ながら、生活上の問題の解決を支援し、現実生活への適応を促します。

解離性混迷の克服には、場合によっては非常に長い時間を要してしまうこともあります。しかし、正常な日常生活を送るためには、確実に努力して克服することが必要です。

🕌解離性障害

心的外傷やストレスへの自己防衛として、自己同一性を失う不安障害の一種

解離性障害とは、心的外傷やストレスへの自己防衛として、自己同一性(アイデンティティ)を失う不安障害の一種。不安障害とは、神経症やノイローゼといわれている症状の比較的新しい呼び方です。

人間の記憶や意識、知覚や自己同一性(アイデンティティ)は、本来1つにまとまっています。解離とは、これらの感覚をまとめる能力が一時的に失われた状態です。例えば、過去の記憶の一部が抜け落ちたり、知覚の一部を感じなくなったり、感情がまひするといったことが起こります。

ただ、解離状態においては、通常は体験されない行動や知覚が新たに出現することもあります。遁走(とんそう)などの異常行動や、新たな人格の形成は、代表的な例です。これらの解離現象は、軽くて一時的なものであれば健康な人に現れることもあります。こうした症状が深刻で、日常の生活に支障を来すような状態を解離性障害といいます。

原因としては、心的外傷やストレスが関係しているといわれます。心的外傷にはさまざまな種類があり、災害、事故、暴行を受けるなど一過性のものもあれば、性的虐待、長期にわたる監禁状態や戦闘体験など慢性的に何度も繰り返されるものもあります。

そのようなつらい体験によるダメージを避けるため、精神が緊急避難的に機能の一部を停止させることが、解離性障害につながると考えられています。

解離性障害には、解離性健忘、解離性遁走、解離性同一性障害、離人症性障害など、さまざまな症状があり、また身体症状に転換されて表現されることもあります。

解離性健忘は、ある心的ストレスを切っ掛けに出来事の記憶をなくすもので、通常の物忘れよりもその範囲は広範です。多くは数日のうちに記憶がよみがえりますが、時には長期に及ぶ場合もあります。

解離性遁走は、家庭や職場、学校において極度のストレスにさらされ、しかもそれを誰(だれ)にも打ち明けることができない状態で突然始まり、日常的な場所を離れて放浪し、本人にその間の記憶がないものをいいます。飲酒や身体疾患による意識障害、認知症などでは説明できないものを指します。放浪は時に数百キロを越えることもあり、遁走の間は自分が誰であるかわからず、遁走の以前はもとより、その最中に起こった出来事の記憶も失われていることもあります。放浪先で、新たな生活を始めることもあります。

解離性同一性障害は、いわゆる多重人格と呼ばれる状態です。2つ以上のはっきりと区別される人格が一人の中に存在し、それらの人格が交代で現れて独立した行動をします。人格同士はしばしば、別の人格が出現している間はその記憶がない場合が多く、生活上の支障を来すことが多くなります。

離人症性障害は、自分の意識が自分自身から離れ、遠ざかっていると感じる状態が慢性的に続くものです。自分がまるで夢の中にいるように思い、現実の出来事に現実感がなく、映画の画面を見ているように感じられます。自分が今、ここにいるという意識がなくなり、自分の体も自分のものではないかのように感じられ、あたかも自分を外から眺めているように感じられます。

ほかにも、体が硬く動かなくなるカタレプシー、体を動かしたり言葉を交わしたりできなくなる解離性混迷、昏睡(こんすい)状態になり体が思うように動かせなくなる解離性てんかん、ヒステリー性運動失調症、ヒステリー性失声症、解離性運動障害、失立、心因性失声、心因性振戦、解離性けいれん、憤怒(ふんぬ)けいれん、解離性感覚障害、心因性難聴、神経性眼精疲労、ガンサー症候群、亜急性錯乱状態、急性精神錯乱、心因性もうろう状態、心因性錯乱、反応性錯乱、非アルコール性亜急性錯乱状態なども、解離性障害の一種です。

解離性障害の検査と診断と治療

精神科、神経科、心療内科の医師による診断は、主に症状に基づいて行われます。

精神科、神経科、心療内科の医師による治療では、発症者が安心できる環境にすること、家族や周囲の人が疾患について理解すること、医師との信頼関係を築くことが大切です。

大半の解離性障害の発症者は、まずその病態を信用してもらえない、演技と思われてしまうという問題を抱え、そのことが解離性障害の症状をさらに悪化させることもあります。本人が自分に起きていることを理解していない場合も少なくありません。まず、本人や家族が障害を理解し症状を受け入れることが、治療環境の調整の第一歩ともいえます。

また、解離性障害の主な原因は心的なストレスによりほかの人に自分を表現することができないことですので、医師との安心できる関係性の中でしか、解離されている心の部分は表現できません。

解離性障害の症状の多くは、ある程度の時間を経れば自然に解消されるか、別の症状へ移行するのが一般的です。早い段階で、催眠や暗示によって解離性の健忘や、ストレスが原因で一時的に立つことができなくなる失立、声を発することができなくなる失声、まひなどを解消することは効果が期待できないだけでなく、症状を悪化させることもあります。安心できる環境や自己表現の機会を提供しながら、それらの症状の自然経過を見守るという態度も重要です。

また、発症者の精神的な健康を回復させるために、抗うつ剤や精神安定剤が有効なこともあります。

☦解離性大動脈瘤

大動脈壁に裂け目ができて血管が膨らんだ状態

解離性大動脈瘤(りゅう)とは、大動脈の壁に縦の裂け目ができて、血管が膨らんだ疾患。50歳以降の男性に多くみられます。

大動脈壁は、内膜、中膜、外膜の3層からできています。このうちの中膜の一部に縦の裂け目ができて、内膜と外膜が外れるのを解離といいます。解離した血管は一部が外膜だけになるために薄くなり、内圧のために膨らんで動脈瘤になります。中膜の裂け目は、高血圧が長く続いたために、大動脈壁がもろくなってできます。まれに、生まれ付き中膜が弱い疾患によってもできます。

大動脈壁が裂ける範囲は、胸部大動脈の一部から、大動脈の全長に及ぶものまでいろいろ。そのできた場所によって、A型とB型とに分けられます。A型は解離腔(くう)が心臓に近い上行大動脈に存在するもの、B型は解離腔が胸部の下行大動脈から腹部にかけて存在するものです。

>解離は突然起こり、症状も突然出現します。解離による痛みは激烈な場合がほとんどで、血管の解離の場所により前胸部痛から肩、背部にかけての痛みまであり、呼吸困難やショック状態になります。まれに、痛みがほとんどなく無症状のこともあります。血管の機能が障害されて、例えば頭の血流が悪くなった場合、失神、けいれん、意識障害を起こすこともあります。心筋梗塞(こうそく)を起こしたり、腹の血管が詰まって腹痛を起こしたり、足の血管が詰まって足の痛みを来すこともあります。

通常は外膜によって血管外へ血液が流出するのは避けられますが、大動脈瘤が破裂して血液が血管外へ流出した場合は、ショックによる失神を起こすことから、突然倒れ、命を失うほどの激烈な症状を来すこともあります。

解離性大動脈瘤の検査と診断と治療

内膜が裂けた場所、大動脈瘤の破裂出血の有無などによって、重症度、治療方法が変わってきます。

解離性大動脈瘤が心臓に近い上行大動脈に存在するA型では、破裂により心臓を圧迫し救命できない場合が多く、ほとんどが緊急ないし早期手術の適応となります。放置すれば、大動脈閉鎖不全、心タンポナーデなどを引き起こす可能性があり、総頚動脈などに解離が及べば脳循環不全などにもなります。

A型の手術では、血管が裂けて破裂している血管、あるいは破裂しそうな血管を人工血管に置き換えます。ほとんどが大掛かりな手術となり、人工心肺装置を用いた体外循環を行って、心臓を停止させたり、脳への血流を一時的に遮断して、人工血管に置き換えます。

解離性大動脈瘤が胸部の下行大動脈から腹部にかけて存在するB型では、解離の部分が少なくて破裂する確率が少ない場合は、血圧を下げる薬を使って安静にすることにより、血管壁の裂け目が進行するのを抑えて動脈瘤の破裂を防ぎます。通常は手術をしませんが、A型へ移行することもあるので厳重な管理が必要です。

薬の効果がない場合、大動脈瘤が破裂する危険性がある場合、血流の低下があって腹痛や足の痛みがある場合は、手術となります。背中にある胸部下行大動脈に瘤があれば、開胸して人工血管に置き換えます。吻合(ふんごう)する血管壁も解離している場合があり、たとえ解離部分を修復しても血管の壁は弱くなっているため、手術後の出血が最も心配されます。

術後の出血のほか、心機能の低下、脳梗塞が、解離性大動脈瘤の重大な合併症とみなされます。B型では、さらに脊髄(せきずい)まひ、虚血性腸炎、腎不全、下肢の血流障害の合併症を起こすことがあり、何らかの治療をする必要があります。いずれにせよ、このような合併症が起こった場合、命に関わってきます。

解離性大動脈瘤にかかり、手術あるいは安静治療で退院した人は、以後も引き続き経過観察が必要。手術を行っても、解離した血管すべてを人工血管に置換することはできません。また、安静治療で破裂の危険がなくなっても、解離そのものが消失したわけではありません。少なくとも血管が膨れて破裂することはなくなったのですが、徐々に拡大して再破裂する可能性もあります。半年あるいは年に1回、CTなどによって、解離の悪化がないか検査します。

>解離は突然起こるものですが、原因はほとんどが動脈硬化です。よって、解離性大動脈瘤の予防は、動脈硬化の予防ということになります。高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満の是正を行い、激しい運動を控え、急激な寒冷にさらされたりしないようして、血圧を急に上げないようにすることが大事です。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...