2022/08/11

🇲🇻肩関節周囲炎

40歳から60歳にかけて発症

肩関節周囲炎とは、肩が痛くなるとともに肩の動きが悪くなるのを特徴とし、40歳から60歳にかけてよく起こる疾患。五十肩と通称しますが、1960年代までは四十肩と通称するのが一般的でした。

原因疾患として、肩の関節を取り巻く袋状の腱(けん)や関節の変性、断裂、癒着、炎症、石灰化が挙げられます。また、関節液を蓄えている滑液包の炎症、石灰化も挙げられます。これらの変化は、中年すぎに起こる一種の老化現象です。

急性期には、何もしなくても痛む自発痛がありますが、そのうち、動かす時に痛む運動痛だけになります。最初は、肩関節付近に鈍痛が起こり、腕の可動範囲の制限が起こります。次第に痛みは鋭いものになり、急に腕を動かす場合などに激痛が走るようになります。痛みのために、手を前方に上げたり、側方に上げたり、上腕を回旋したりすることが制限されます。

重症化すると、髪を洗う、歯を磨く、炊事をする、洗濯物を干す、電車のつり革につかまる、洋服を着る、寝返りを打つなどが不自由となり、日常生活にも支障を来す場合もあります。

痛みは片方の肩だけの場合と、一方の肩が発症してしばらく経つともう片方の肩にも発症してしまう場合とがあります。また、痛みのピーク時には肩や首筋の痛みに加えて、腕全体にだるさやしびれがある場合もあります。

発症してから治癒するまでは、半年から1年半くらいを要します。初期の症状が始まってから、数カ月を要して痛みのピークを迎え、ピークが数週間続いた後、次第に和らいでいきます。腕の可動範囲を発症前の状態までに戻せるかどうかは、痛みが緩和した後のリハビリ次第です。

肩関節周囲炎の検査と診断と治療

発症後、日の浅い急性期には、安静にして局所を固定し、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射をします。また、ヒアルロン酸の注射も有効です。

急性期をすぎると、運動療法が進められます。上体を前屈させて、悪い肩のほうの手でアイロンを持ち、前後左右に振るコッドマン体操が基本になります。棒やタオルを両腕に持って、健康なほうの腕で五十肩のほうの腕をリードしながら、頭の上、首の後ろ、背中などに持っていったり、壁に指をはわせて、次第に腕を上げていく体操なども効果があります。

これらの運動療法の前に、ホットパックなどの温熱療法を行うと、筋肉の緊張がとれるので、後の運動療法の効果がよりいっそう有効になります。

肩関節周囲炎、いわゆる五十肩は治るまでに長い期間が必要ですが、焦らず、のんびりと対処することが大切です。ことに初期のうちは、治療をしても、ある時期までは疾患は上り坂で悪くなるため心配しがちですが、いらいらせず、根気よく運動を続けます。運動を怠ると、腕の可動範囲が狭まったままとなる可能性があります。

急性期をすぎたら、針治療、指圧などを試みてみると効果がある場合もあります。肩関節周囲炎は、腰痛、外傷性頸部(けいぶ)症候群などとともに、健康保険で針治療が受けられる疾患の一つとなっています。

🇲🇻肩関節脱臼

肩の関節が外れ、肩関節を構成する骨同士の関節面が正しい位置関係を失った状態

肩関節脱臼(だっきゅう)とは、肩の関節を構成する骨同士の関節面が正しい位置関係を失った状態。いわゆる肩の関節が外れた状態のことです。

肩関節は一般的に、肩甲上腕関節(第一肩関節)のことを指します。この肩関節は肩甲骨と上腕骨との間の関節で、受け皿である肩甲骨の浅い関節窩(か)の上に、大きなボールである上腕骨頭が乗っているような構造をしており、人間の体の中で最も関節可動域が広く、ある程度の緩みがあるため、スポーツなどによって強い外力が加わると簡単に脱臼します。

肩関節脱臼の時の主な症状は、急激に発生する痛み、はれ、変形、上腕のバネ様固定による運動制限です。若い人では、関節を包む袋である関節包が肩甲骨側からはがれたり、破れたりします。年輩の人では、関節を包む筋肉が上腕骨頭に付いている部位である腱板(けんばん)で切れたりします。

脱臼に伴い、肩や腕、手に行く神経が損なわれることもあり、その損なわれる率は加齢とともに高くなります。また、上腕骨頭の外側や前方にある骨の突起である結節の骨折をしばしば伴います。

外傷による肩関節脱臼は、ラグビー、アメリカンフットボール、柔道、相撲、レスリング、ハンドボールなどのコンタクトスポーツ時の激しい接触や、スキーやスノーボードによる転倒で多く発生しています。

上腕骨頭のずれる方向によって、前方脱臼、後方脱臼、下方脱臼(垂直脱臼)に分けられ、上腕骨頭が体の前面にずれる前方脱臼が全体の95パーセント以上を占め、後方脱臼と下方脱臼はまれです。

なお、関節が完全に外れてしまう脱臼(完全脱臼)以外にも、一度外れても簡単に戻る亜脱臼(不完全脱臼)や、数分間にわたって腕全体がしびれたようになるデッドアーム症候群がありますが、本質的には脱臼と同じ損傷です。肩を強打して肩関節の上にある鎖骨と肩甲骨がずれる肩鎖関節脱臼と混同しやすいですが、肩関節脱臼とは別の損傷です。

前方脱臼は、転んだ際に体を支えようとした上腕が横後ろの方向や上に無理に動かされた時に、不安定な状態となった上腕骨頭が関節面を滑って生じます。あるいは、スポーツ中に転んで肩の外側を強く打った時、上腕を横後ろに持っていかれた時などにも生じます。

後方脱臼は、転んだ際に体の前方に腕を突っ張った時や、肩の前方を強く打った時に生じます。下方脱臼は、上腕を横方向から上に無理に動かされると生じます。

けがの直後に激しい肩の痛みがあり、脱臼の方向によって上腕は特徴的な位置にバネ様固定され、動かなくなります。前方脱臼では、肘(ひじ)が体の前方向、横方向に離れます。後方脱臼では、肘は体についたままですが、腕全体は内側にひねられています。下方脱臼では、腕を横に挙げた状態で下には下がりません。

亜脱臼では、初めは腕が固定されるものの、体を動かした時に肩がグリッと動いて急に痛みが楽になって、自然に脱臼が戻り、肩が動くようになります。 デッドアーム症候群では、数分間は痛みで腕が動かないものの、その後は徐々に動くようになります。いずれの場合も、肩を動かした時の痛みが数日〜1週間程度続きます。

 肩関節脱臼が起こって時間がたつと、はれのために整復が難しくなるので、急いで整形外科を受診します。腕は最も痛みの少ない位置で、自身が支えるのがよいでしょう。

肩関節脱臼の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、 特徴的な上腕のバネ様固定された位置と、脱臼した上腕骨頭を触ることで、肩関節脱臼と確定できます。神経が損なわれているかどうかの検査も行います。

受診する前に自然に戻った亜脱臼やデッドアーム症候群の診断は、主に問診から推察できますので、医師にけがの状況や症状を詳しく話すことが必要です。

基本的検査は、異なった2方向からのX線(レントゲン)撮影で、脱臼や骨折を確認することができます。必要に応じて、他のX線撮影や関節造影検査(アルトログラフィー)、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査を追加し、関節包や靱帯(じんたい)、筋肉、骨軟部組織の損傷程度を調べることもあります。

整形外科の医師による治療では、脱臼した骨を素手で元の位置に戻す徒手整復を行います。ベッドの上に腹ばいになった発症者の手首に重りを付けて引っ張る方法や、床の上に仰向けになった発症者の腕を引っ張りながら徐々に上に上げていく方法が代表的です。下方脱臼だけは整復方法が異なり、腕を最大に上げた位置で上に引っ張ります。

しかし、一部の発症者はこれらの方法では整復できず、全身麻酔や手術が必要になることもあります。整復後は再びX線撮影し、伴っている骨折部分が大きくずれたままであれば手術を行います。

その他の場合は、腕を三角巾(きん)などで3週間以上固定しますが、固定する腕の位置は脱臼の方向によって異なります。

その後、徐々に肩の動きを回復させますが、脱臼を起こさせる方向の運動は6〜8週間禁止されます。脱臼に伴い損なわれた関節包、靱帯などが十分に修復されない場合は、スポーツ活動あるいは日常生活において、初回よりも弱い外力で容易に脱臼を繰り返す状態である反復性肩関節脱臼になり、手術以外に対処法がなくなります。

また、脱臼してから2〜3週間までは徒手整復で治療できますが、それ以上時間がたつと整復には手術が必要になります。脱臼してから整復までの時間が長くなればなるほど、治療の結果も悪くなります。

なお、後方脱臼は整形外科を訪れても、最初は約60パーセントが見逃されます。従って、最初に訪れた整形外科で肩の痛みの原因に対する十分な説明がされず痛みが持続する場合は、セカンド・オピニオンを求めることが勧められます。

手術には、関節鏡視下手術と通常の直視下手術があります。関節鏡視下手術のほうが体に負担がかからず、手術後の痛みが少ないために普及してきています。いずれの手術でも、はがれたり切れたりした関節包などの軟部組織を元の位置に縫い付ける方法や、骨や腱で補強する方法などがあります。

手術後は、関節や筋肉の運動などの運動療法(リハビリテーション)が大切ですが、手術後約3カ月までは、再脱臼を来すような動作は日常生活でも避けることが必要で、肩甲骨の線よりも後ろで手を使わないことです。物を取る際は、体を回して体の前で取るようにします。後ろに手をついて起き上がったり、ブラジャーのホックを後ろでかけたりしないようにします。

ラグビー、柔道などのコンタクトスポーツへの復帰までには、約6カ月が必要です。

🇲🇳肩関節不安定症

明らかな外傷歴はないのに、肩の動作時の不安定性が生じ、肩の痛みや脱力感を自覚する疾患

肩関節不安定症とは、明らかな外傷歴はないのに、肩の動作時の不安定性が生じ、肩の痛みや脱力感を自覚する疾患。非外傷性肩関節不安定症とも呼ばれます。

外傷を契機とした肩関節不安定症には、反復性肩関節脱臼(だっきゅう)があり、外傷性肩関節不安定症とも呼ばれます。

肩関節不安定症は、10〜20歳代の女性に多い疾患です。もともと女性は全身の関節部分で安定感がなく、弛緩(しかん)性がある人が多いのですが、肩関節の弛緩性や不適合性があると、筋力の弱いことにより不安定性を来します。

肩甲骨周囲の筋緊張の働きが悪くなったり、肩甲骨の働きが悪くなったり、肩関節を支える関節包や靭帯(じんたい)などの障害により、上腕骨の動きが不安定になるために、肩関節不安定症の症状が出てしまいます。

この疾患があっても、症状が出てこないこともあります。しかし、スポーツ活動や仕事などで肩関節を特に使う機会が多くなったことを切っ掛けに、肩の痛み、肩凝り、脱力感、肩のだるさ、可動域の制限、上肢のしびれ、重い物を持つと肩が抜けるような感じがする、などの症状が出てくることがあります。

肩関節不安定症の人は、両肩とも不安定性が生じる傾向にあるのが一般的です。しかし、多くの場合、症状が出てくるのは片側の肩のみです。

肩関節不安定症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、外見からの不安定性の検査として、肩関節の力を抜いてもらった状態で腕を下に引っ張ると、肩が明らかに下がって見え、関節の不安定性があることが確認できます。おもりを両手首に下げてX線(レントゲン)検査を行うと、肩関節不安定症のある側はない側に比べて、肩甲骨関節窩(か)と上腕骨頭との間の肩関節の間隔が広く映って見えます。

整形外科の医師による治療では、肩関節の安定機構である肩の周囲の筋肉強化や、肩甲骨の位置の調節などを行うことで、かなり改善できます。

肩甲骨の安定を図り、姿勢をよくするバンドを装用して、肩甲骨の角度を変え、上腕骨頭の位置を調節する方法を行うこともあります。肩甲骨をバンドによって引き上げることで、肩甲骨を安定させ、その結果として、上腕骨頭も引き上げることができ、肩関節の不安定性を解消することができます。

肩甲骨の位置異常を改善するための体操を行ったり、体幹をトレーニングすることで、全身の姿勢を改善し、緩和することも可能です。

また、肩関節不安定症はスポーツ活動や仕事などで、肩関節を特に使うことが多くなった時に痛みやだるさが生じますが、原因となる運動や仕事などで肩にかかる負担が少なくなるようすることで、改善する場合がほとんどです。重い物を持たないようにし、肩甲骨を中心とした部位である肩甲帯の下垂を助長しやすいショルダーバックは避けます。

手術はほとんど必要ないのですが、重度の不安定性が残る場合は脱臼の手術と同様、肩関節を包んでいる関節包を縫い縮める手術や、肩甲骨の傾きを正しくするために大胸筋腱(けん)を肩甲骨の下部に移動する手術などを行うこともあります。

🇱🇰肩腱板炎

スポーツ障害や老化で、肩関節の腱板に断裂とはれが起こった状態

肩腱板炎(かたけんばんえん)とは、肩関節で上腕を保持している腱板という筋肉と腱の複合体に、断裂とはれが起こった状態。

水泳肩、テニス肩、野球肩の原因に肩腱板炎が多くを占め、肩インピンジメント症候群などとも呼ばれています。肩峰下滑液包炎も腱板に隣接する部位の炎症で、原因については同様と考えられます。

肩関節は肩甲骨と上腕骨で構成される関節で、人間の体の中で最も可動域が広く、ある程度の緩みがあるため脱臼(だっきゅう)が多いのが特徴です。肩関節の中には、上腕骨頭が肩関節の中でブラブラしないように肩甲骨に押し付ける役割の4つの小さな筋肉、すなわち前方から肩甲下筋、棘上(きょくじょう)筋、棘下筋、小円筋があります。これらの筋肉が上腕骨頭に付く部分の腱は、それぞれ境目がわからないように板状に付着しているために腱板と呼ばれます。

腱板は肩関節のさまざまな運動により圧迫、牽引(けんいん)、摩擦などの刺激を受けており、加齢とともに変性し、40歳ごろから強度の低下による断裂の危険性が高まります。重い物を持ったり、転倒による肩の打撲など軽微な外力が加わって断裂する場合もありますし、若年者ではスポーツ障害としてみられることもあります。

特に、肩峰および上腕骨頭に挟まれた棘上筋の腱は、肩関節の挙上時には肩峰と烏口(うこう)肩峰靭帯(じんたい)によって圧迫を受けています。これらの要因により退行変性を起こしやすく、腱板の中では最も断裂を起こしやすいところです。

スポーツ障害としての肩腱板炎は、野球の投球、ウエートリフティング、ラケットでボールをサーブするテニス、自由形、バタフライ、背泳ぎといった水泳など、腕を頭よりも高く上げる動作を繰り返し行うスポーツが原因で起こります。腕を頭より高く上げる動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩の関節や腱の一部と擦れ合うため、腱の線維に微小な断裂を生じます。痛みがあってもその動作を続ければ、腱が断裂してしまったり、腱の付着部位の骨がはがれてしまうことがあります。

腕を頭より高く上げる動作や背中から回す動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩関節の反対側の骨である肩甲骨と擦れ合い、炎症を起こします。スポーツ選手では、激しい動きの際に肩を安定化させるインナーマッスルの機能が低下していると、肩腱板炎が発生します。加齢により肩甲骨の動きが悪くなることも一因。

肩腱板炎の症状としては、肩が痛む、肩が上がらない、ある角度で痛みがあるなど、自然軽快しにくい特徴があります。肩の痛みは当初、腕を頭よりも高く上げたり、そこから前へ強く振り出す動作の際にだけ生じます。後になると、握手のため腕を前へ動かしただけでも痛むようになります。

通常は、物を前方へ押す動作をすると痛みますが、物を体の方に引き寄せる動作では痛みはありません。炎症を起こした肩は、特に夜間などに痛むことがあり、眠りが妨げられます。また、腕を肩よりも高く上げた状態で肩峰を抑えると、痛みます。

手が後ろに回らなくなる、いわゆる四十肩、五十肩と診断され、長い間治らない人の中に、肩腱板炎が見逃されていることがあります。

肩腱板炎の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、MRI検査が有用です。また、いくつかの方向に腕を動かしてみて、特定の動きや、特に腕を肩よりも高く上げる動作で痛みやピリピリ感を伴うことで、肩腱板炎と診断されます。

スポーツなどによる疲労性のものでは、肩の痛み、特に運動時痛を伴います。広範囲断裂では、布団の上げ下ろしや洗濯物を干すなどの挙上障害などがあります。外傷によるものでは、受傷時に突然肩の挙上が不能となり、同時に肩関節痛を感じます。断裂が小さいと、挙上は除々に可能となる場合もあります。

治療では、損傷を生じた肩腱板を使わずに休め、肩の筋肉を強化します。安静時や夜間の痛みが強い場合には、内服や外用の消炎鎮痛剤、関節内注射により和らげます。物を前方へ押しやる動作や、肘(ひじ)を肩より高く上げる動作を伴う運動はすべて避けます。

肩の筋肉強化では、ゴムチューブによるカフ(腱板)エクササイズを行い、インナーマッスルを鍛え、肩の腱板のバランスを回復させます。カフエクササイズは肩関節の疾患において一般的な訓練となっており、ゴムチューブによる軽い抵抗、もしくは徒手による無抵抗にて、外旋や肩甲骨面上の外転などを行って、腱板の筋活動を向上させます。強すぎる抵抗は大胸筋や三角筋に力が入ってしまい、軽い抵抗に反応する腱板の働きを阻害してしまうので、十分注意する必要があります。

カフエクササイズでは、腕を体側に付けて、前腕を床と平行にしてゴムバンドを持ちます。肘を支点としてゴムバンドを引きながら、この腕を前方向、後ろ方向、横方向(手が体から離れる向きと、腕を胸の前に引き寄せる向き)に動かします。この運動は、肩の腱板のバランスを回復させ、腕を頭よりも高く上げる動きを含む動作中に腱板がぶつからないようにする働きがあります。

損傷が特に重度な場合は手術も行われ、腱板が完全に断裂していたり、1年たっても完治しない場合が対象となります。手術では腱板がぶつからずに動かせるように、肩の骨から余分な部分を切除します。同時に、腱板の修復も行います。

🇱🇰肩腱板断裂

スポーツ障害や老化で、肩関節の腱板に断裂が起こった状態

肩腱板(かたけんばん)断裂とは、肩関節で上腕を保持している腱板という筋肉と腱の複合体に、断裂が起こった状態。断裂型には、完全断裂と不全断裂があります。

肩関節は肩甲骨と上腕骨で構成される関節で、人間の体の中で最も可動域が広く、ある程度の緩みがあるため脱臼(だっきゅう)が多いのが特徴です。肩関節の中には、上腕骨頭が肩関節の中でブラブラしないように肩甲骨に押し付ける役割の4つの小さな筋肉、すなわち前方から肩甲下筋、棘上(きょくじょう)筋、棘下筋、小円筋があります。これらの筋肉が上腕骨頭に付く部分の腱は、それぞれ境目がわからないように板状に付着しているために腱板と呼ばれます。

腱板は肩関節のさまざまな運動により圧迫、牽引(けんいん)、摩擦などの刺激を受けており、加齢とともに変性し、40歳ごろから強度の低下による断裂の危険性が高まります。重い物を持ったり、転倒による肩の打撲など軽微な外力が加わって断裂する場合もありますし、若年者ではスポーツ障害としてみられることもあります。

特に、肩峰(けんぽう)という肩甲骨の最も上の部分と上腕骨頭に挟まれた棘上筋の腱は、肩関節の挙上時には肩峰と烏口(うこう)肩峰靭帯(じんたい)によって圧迫を受けています。これらの要因により退行変性を起こしやすく、腱板の中では最も断裂を起こしやすいところです。

スポーツ障害としての肩腱板断裂は、野球の投球、ウエートリフティング、ラケットでボールをサーブするテニス、自由形、バタフライ、背泳ぎといった水泳など、腕を頭よりも高く上げる動作を繰り返し行うスポーツが原因で起こります。

腕を頭より高く上げる動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩の関節や腱の一部と擦れ合うため、腱の線維に微小な断裂を生じます。痛みがあってもその動作を続ければ、腱が完全断裂してしまったり、腱の付着部位の骨がはがれてしまうことがあります。

腕を頭より高く上げる動作や背中から回す動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩関節の反対側の骨である肩甲骨と擦れ合い、断裂を起こします。スポーツ選手では、激しい動きの際に肩を安定化させるインナーマッスルの機能が低下していると、肩腱板断裂が発生します。

加齢により肩甲骨の動きが悪くなることも一因で、明らかな外傷によるものは半数で、残りははっきりとした原因がなく、日常生活動作の中で断裂が起きます。40歳以上の男性の右肩に多いことから、腱板の老化と肩の使いすぎが原因となっていることが推測されます。

肩腱板断裂の症状としては、肩が痛む、肩が上がらない、肩を上げる際に力が入らない、肩を上げる際に肩の前上面でジョリジョリという軋轢(あつれき)音がする、ある角度で痛みがあるなど、自然軽快しにくい特徴があります。肩の痛みは当初、腕を頭よりも高く上げたり、そこから前へ強く振り出す動作の際にだけ生じます。後になると、握手のため腕を前へ動かしただけでも痛むようになります。

通常は、物を前方へ押す動作をすると痛みますが、物を体の方に引き寄せる動作では痛みはありません。断裂を起こした肩は、特に夜間などに痛むことがあり、眠りが妨げられます。また、腕を肩よりも高く上げた状態で肩峰を抑えると、痛みます。

手が後ろに回らなくなる、いわゆる四十肩、五十肩と診断され、長い間治らない人の中に、肩腱板断裂が見逃されていることがあります。

肩腱板断裂の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、MRI(磁気共鳴画像)検査が有用で、上腕骨頭の上方の腱板部に断裂の所見がみられます。また、いくつかの方向に腕を動かしてみて、特定の動きや、特に腕を肩よりも高く上げる動作で痛みやピリピリ感を伴うことで、肩腱板断裂と確定されます。

スポーツなどによる疲労性のものでは、肩の痛み、特に運動時痛を伴います。広範囲断裂では、布団の上げ下ろしや洗濯物を干す際の挙上障害などがあります。外傷によるものでは、受傷時に突然肩の挙上が不能となり、同時に肩関節痛を感じます。断裂が小さいと、挙上は除々に可能となる場合もあります。

治療では、断裂を生じた肩腱板を使わずに休め、肩の筋肉を強化します。腱板のすべてが断裂することは少ないので、残っている腱板の機能を賦活させる肩の筋肉強化は有効です。

安静時や夜間の痛みが強い場合には、内服や外用の消炎鎮痛剤、関節内注射により和らげます。水溶性副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射も、炎症を抑えるのに用います。物を前方へ押しやる動作や、肘(ひじ)を肩より高く上げる動作を伴う運動はすべて避けます。

肩の筋肉強化では、ゴムチューブによるカフ(腱板)エクササイズを行い、インナーマッスルを鍛え、肩の腱板のバランスを回復させます。カフエクササイズは肩関節の疾患において一般的な訓練となっており、ゴムチューブによる軽い抵抗、もしくは徒手による無抵抗にて、外旋や肩甲骨面上の外転などを行って、腱板の筋活動を向上させます。強すぎる抵抗は大胸筋や三角筋に力が入ってしまい、軽い抵抗に反応する腱板の働きを阻害してしまうので、十分注意する必要があります。

カフエクササイズでは、腕を体側に付けて、前腕を床と平行にしてゴムバンドを持ちます。肘を支点としてゴムバンドを引きながら、この腕を前方向、後ろ方向、横方向(手が体から離れる向きと、腕を胸の前に引き寄せる向き)に動かします。この運動は、肩の腱板のバランスを回復させ、腕を頭よりも高く上げる動きを含む動作中に腱板がぶつからないようにする働きがあります。

断裂が特に重度な場合は手術も行われ、腱板が完全に断裂していたり、1年たっても完治しない場合が対象となります。手術には、関節鏡視下手術と通常の直視下手術があります。

関節鏡視下手術のほうが体に負担がかからず、手術後の痛みが少ないために普及してきていますが、大きな断裂では、縫合が難しいために直視下手術を選択するほうが無難です。

手術では腱板がぶつからずに動かせるように、肩の骨から余分な部分を切除します。同時に、腱板の修復も行います。手術後は、約4週間の固定と2~3カ月の機能訓練が必要です。

🇱🇰過多剤併用

過多剤併用とは、臨床的に正当化される数を超える薬剤使用のこと。最近、医療界で問題になっています。

高齢の患者は複数の疾患に罹患(りかん)している場合が多く、個々の疾患治療のために多剤併用(ポリファーマシー)となりますが、過多剤併用に陥っているケースもみられます。どれくらいが過多剤併用といえるかという絶対的な目安はないものの、明らかにたいへんな量の薬を飲んでいる人がいます。例えば、20種類、30種類の薬を併用しているケースもあります。3つ、4つの診療科にかかると、簡単に何10種類の薬を飲んでいるということが起こります。

高齢者医療における薬物療法は、患者の身体的機能、経済的負担を考慮し、最小の投与量で必要かつ十分な効果を得るための処方構築が必要となります。必要最小量での薬物療法の実現には、患者個々へのきめ細かな薬学的管理が必要といえます。

2009年には、国立保健医療科学院疫学部の今井博久部長らが、65歳以上の高齢者への使用を避けることが望ましい薬剤、投与量を少なめにすべき薬剤のリスト「高齢者に置いて疾患・病態によらず一般に使用を避けることが望ましい薬剤」を作成、公開しました。

疾患や病態に関係なく一般に使用を避けることが望ましい薬剤46種類と、特定の疾患や病態において使用を避けることが望ましい薬剤25種類をリストアップ。高齢の患者の薬物療法に一石を投じたといえます。

これは、米国で用いられている高齢患者の薬剤処方の基準「Beers Criteria」の日本版に相当するもので、リストは「臨床経験が豊富で老年医学や薬物治療などに詳しい」として選出した9人の医師と薬剤師が作成。副作用などの投与時のリスクが効果を上回ると考えられ、ほかに安全と考えられる代替薬がある薬剤を中心に掲載されました。

今井部長は、「リストに記載のある薬剤を高齢者に使っている場合は、できるだけ代替薬に変更してほしい」としています。例えば、長期作用型ベンゾジアゼピン系薬は、高齢者が服用すると半減期が延長しがちで、転倒、骨折の原因になりやすいため、中・短期作用型ベンゾジアゼピン系薬を一定の用量以内で使用するべきとしています。

高齢者に限らず、腎臓(じんぞう)機能障害(慢性腎臓病)、心不全、中等度以上の肝臓機能障害などの疾患のある患者にも、リストに挙げられた薬剤は注意して処方し、過多剤併用に注意する必要があると考えられています。

また、高齢者に限らず、女性、入退院を繰り返している人、うつ病の人も、過多剤併用に注意する必要があると考えられています。女性は割と気軽に、病院にくるたびに違う症状を訴える傾向にあり、病院も医者も違うと、医者がたくさんの薬が出されていることに気付かないということになります。入退院を繰り返している人も、薬が増えていきます。うつ病の人も、いろいろな症状を訴える傾向にあり、「何とかしてください。薬をいくら使ってもいいので何とかしてください」といって、薬が増えていくことになります。

過多剤併用を防ぐためには、複数の医師による薬剤提供をチェックする掛り付け医を持つことや、多数の専門医に掛かる患者の薬を一元管理をしてくれる掛り付け薬局を持つことも必要とされます。

🇮🇳肩石灰沈着性腱炎

石灰化したカルシウムが肩腱板内に沈着することで炎症が生じ、肩の痛みが起こる疾患

肩石灰沈着性腱炎(けんえん)とは、石灰化したカルシウムが肩腱板内に沈着することにより炎症が生じ、肩の痛みが起こる疾患。石灰沈着性腱板炎とも呼ばれます。

肩腱板は肩関節で上腕を保持している筋肉と腱の複合体であり、肩関節は肩甲骨と上腕骨で構成される関節です。

肩石灰沈着性腱炎は、40歳代から60歳代の女性に多く発症します。肩を強く打つなどの思い当たる切っ掛けもなく、片側の肩の激しい痛みを突然、夜間などに覚えます。急激に痛みが増してきて、睡眠が妨げられるほどになります。また、肩の痛みのため可動域の制限がみられ、肩の挙上ができなくなります。

強い症状が発症後1~4週みられる急性型、中等度の症状が1~6カ月続く亜急性型、運動時痛などが6カ月以上続く慢性型があります。慢性型では、急性期の激痛が消失した後にも肩関節の硬さが残って、関節の可動域の低下を起こし、肩関節周囲炎(五十肩)と同じような状態になります。

石灰化したカルシウムはリン酸カルシウムの結晶で、その肩腱板内への沈着は、肩腱板の加齢による変性と、女性ホルモンの分泌減少の影響によって起こると考えられています。

体内のカルシウムは腸で吸収されて、骨を丈夫にするために使われ、不要な分のカルシウムは尿とともに排出されて、常に一定量が体内に残るようにバランスがとられています。しかし、女性では30歳代をピークに、徐々に骨量が落ちてきます。女性ホルモンの分泌減少に伴って、破骨細胞の働きが増し、骨の代謝のバランスが崩れて、骨からたくさんのカルシウムが血中に放出される結果です。 

その放出されたカルシウムの多くは尿とともに体外に放出されますが、一部は腱や靭帯(じんたい)、血管壁に沈着していくことになります。腱の中に沈着する石灰化したカルシウムに対して、体は異物と認識して反応するために炎症が生じ、痛みが起こることになります。

石灰化したカルシウムは当初、濃厚なミルク状で、時がたつにつれ、練り歯磨き状、石膏(せっこう)状へと硬く変化していきます。石灰化したカルシウムがどんどんたまって、膨らんでくると、痛みが増してきます。そして、肩腱板から関節の周囲にある滑液包内に、石灰化したカルシウムが漏れ出す時に激痛となります。

肩石灰沈着性腱炎の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、肩の圧痛の部位や肩関節の動きの状態などを調べ、肩関節周囲炎(五十肩)の症状とよく似ているため、X線(レントゲン)撮影によって肩腱板部分に石灰化したカルシウムの沈着を確認することによって、肩石灰沈着性腱炎と確定します。

石灰沈着の位置や大きさを調べるために、CT(コンピューター断層撮影)検査や超音波検査なども行います。肩腱板断裂の合併を調べるために、MRI(磁気共鳴画像)検査も行います。

整形外科の医師による治療では、急性例では、激痛を早く取るために、肩腱板に注射針を刺して沈着した石灰化部分を破り、ミルク状の石灰を吸引する方法がよく行われています。三角巾、アームスリング(腕つり)などで安静を図り、消炎鎮痛剤の内服、水溶性副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)と局所麻酔剤の滑液包内注射などが有効です。

一般に行われている治療法ではありませんが、胃潰瘍(かいよう)治療薬のシメチジンに、石灰を吸収し痛みを軽減する作用があるともされています。

ほとんどの場合、保存療法で軽快します。時間がたつとともに、滑液包内に漏れ出た石灰を自然に修復しようとする体の反応により、石灰化部分が小さくなってきます。このころには肩も動かせるようになり、日常でも支障のない程度まで回復します。しかし、完全に石灰化部分が修復されるまでには、2~3カ月かかります。

亜急性型、慢性型では、石灰沈着が石膏状に固くなり、時々強い痛みが再発することもあります。硬く膨らんだ石灰化部分が肩の運動時に周囲と接触し、炎症が消失せず痛みが続くこともあります。痛みが強く、肩の運動に支障がある場合、関節鏡視下による手術で石灰化部分を摘出することもあります。確実に摘出されると治療効果は速やかに認められ、ほとんどの場合1〜2週間以内に肩の挙上が可能となります。

肩の痛みが取れたら、ホットパック、入浴などによる温熱療法や、拘縮を予防したり筋肉を強化する運動療法などのリハビリを行います。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...