2022/08/11

🇲🇾家族性大腸腺腫症

10歳代の半ばごろから、大腸にポリープが多発する疾患

家族性大腸腺腫(せんしゅ)症とは、遺伝子の変異が原因で、10歳代の半ばごろから、大量のポリープが大腸にできる疾患。家族性大腸ポリポーシスとも呼ばれます。

ポリープと呼ばれるいぼのようなものの中でも、良性のものは腺腫と呼ばれますが、大腸に数百個から数千個という多数のポリープができるのが特徴です。

2分の1の確率で親から子に常染色体優性遺伝し、5番目の染色体にあるAPC遺伝子の異常が原因で起こります。しかし、一部はAPC遺伝子以外のMUTYH遺伝子の異常によって起こり、常染色体劣性遺伝を示します。

ポリープの発生は多くの場合学童期に始まりますが、ポリープの数が数十個と少ない人や、成人以後にポリープが多発する人もいます。

ポリープが大きくなり、1センチ以上になると、3、4個に1個はがん化します。

この家族性大腸腺腫症では、20歳代ごろから大腸がんになる人が出始め、40歳までに半数、60歳までには90パーセントが大腸がんになるとされます。

症状としては、ポリープが多発するために、血便が出たり、貧血になったりすることがあります。また、下痢や便秘などの便通異常になることもあります。大腸以外にも、胃、十二指腸、小腸、骨、軟部組織、目など全身の臓器に、ポリープあるいは腫瘍(しゅよう)状病変ができることがあり、それぞれの症状を現すことがあります。

大腸にポリープが一般に100個以上ある人は、家族性大腸腺腫症が疑われます。ポリープの数が100個以下でも、近親者に大腸ポリープが多発している人がいる場合、家族性大腸腺腫症が疑われます。

大腸切除を行わなければ、将来ほぼ100パーセント大腸がんができます。血便などが現れた場合は、消化器科、消化器外科、外科、あるいは肛門(こうもん)科の医師を受診します。

家族性大腸腺腫症の検査と診断と治療

消化器科などの医師による診断では、食事制限と下剤により大腸を空っぽにして、肛門から造影剤を入れてX線写真を撮る注腸検査と、下剤で大腸を洗浄し肛門から内視鏡を挿入して直接大腸の内腔を観察する大腸検査を行います。大腸内視鏡検査は、挿入技術の進歩と器械技術の進歩により、苦痛も少なくかつ安全にできるようになっています。

内視鏡検査で直接大腸の内側を観察し、ポリープを採取して組織検査を行い、多数の腺腫が確認されれば、家族性大腸腺腫症と確定できます。できれば遺伝子検査まで行って、APC遺伝子の異常を確認しておくと、治療法の選択や近親者の早期診断に役立ちます。

また、胃・十二指腸のX線および内視鏡検査、骨X線検査、眼底検査などを行い、大腸以外の病変をチェックしておく必要があります。

消化器科などの医師による治療では、大腸がん合併の有無を問わず、大腸を切除し、小腸を肛門につなげる手術を基本とします。

近親者の調査によって無症状で発見された場合、大腸の予防的手術は遅くても20歳代前半までに行うべきとされています。

一方、大腸以外の腫瘍状病変に対しては、がん化の危険性は極めて低いので、予防的手術の必要はありません。

🇲🇾家族性低βリポ蛋白血症

低LDLコレステロール血症を示す遺伝性疾患

家族性低βリポ蛋白(たんぱく)血症とは、低LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール血症を示す常染色体優性遺伝疾患。低βリポ蛋白血症とも呼ばれます。

その原因遺伝子として、アポBとPCSK9(プロ蛋白質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)が知られています。アポB変異の大部分は、短縮アポBを生成し、VLDL(超低比重リポ蛋白)の分泌障害と異化促進の結果、血液中のアポB濃度が低下します。

人間の遺伝子は、父親由来と母親由来の2つが一組となってできています。LDL(低比重リポ蛋白)受容体やこれを働かせる遺伝子の両方に異常がある場合をホモ接合体と呼び、いずれか一方のみに異常が認められる場合をヘテロ接合体と呼びます。ホモ接合体のみならずヘテロ接合体も、低LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール血症を示します。

家族性低βリポ蛋白血症ヘテロ接合体の発症者では、短縮アポBを生成して、血液中の脂質であるコレステロールの濃度が軽度に低下し、一般に、総コレステロール120mg/dl未満、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール80mg/dl未満を示します。同じ血液中の脂質である中性脂肪(トリグリセライド)の濃度は、正常の値を示します。

低コレステロール血症を示すことを除いて、自覚症状がないことが多いものの、肝臓からのVLDL(超低比重リポ蛋白)の分泌不全のために、脂肪肝や胆石症の合併が増加することもあります。なお、自覚症状がないケースでは、発育も正常であり、かつ心血管病にかかるリスクが低いため、通常人より長生きするという報告もあります。

家族性低βリポ蛋白血症ホモ接合体の発症者では、より短い短縮アポBを生成して、血液中の脂質であるコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)の濃度が低下し、一般に、総コレステロール80mg/dl未満、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール20mg/dl未満を示すか、非常に短い短縮アポBを生成してアポB合成が欠損し、家族性無βリポ蛋白血症と類似した症状を示します。

アポB合成が欠損した場合の症状は、まず乳児期に現れ、発育不全がみられます。脂肪吸収の障害により、授乳開始とともに便に過度の脂肪が含まれる脂肪便という状態になり、便は脂っぽく、悪臭があり、水に浮かびやすくなります。慢性下痢、嘔吐(おうと)も生じます。

また、ビタミンEを始めとした脂溶性ビタミンの吸収障害により、思春期までに網膜色素変性による夜盲、視野狭窄(きょうさく)、視力低下などの目の症状が生じ、失明する可能性もあります。中枢神経系の損傷による運動失調症や精神遅滞、末梢(まっしょう)神経系の損傷による知覚低下や腱(けん)反射消失などが起きる可能性もあります。

また、末梢細胞へのコレステロール供給が低下するために、赤血球は有棘(ゆうきょく)赤血球となります。肝臓からのVLDL(超低比重リポ蛋白)の分泌不全のため、脂肪肝を示すこともあります。

未治療のケースでは、30歳前後までに中枢神経系の損傷により、歩行など通常の日常生活に必要な基本的な活動が著しく障害されることもあります。

アポB合成が欠損した場合は通常、小児期に発見されますが、まれに成人期になって偶然発見されるケースもあります。

家族性低βリポ蛋白血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のLDL(低比重リポ蛋白)コレステロールの低値を確認し、リポ蛋白の電気泳動で短縮アポBを検出することで、家族性低βリポ蛋白血症と確定します。

家族性低βリポ蛋白血症ホモ接合体の発症者で、アポB合成が欠損している場合は、血中の総コレステロール値は25〜45 mg/dlで、そのほとんどはHDL(高比重リポ蛋白)コレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)10 mg/dl未満であることが多く、アポBは検出感度以下、脂溶性ビタミンA・E・Kも低値を示します。

家族性低βリポ蛋白血症と家族性無βリポ蛋白血症は、家族歴によって鑑別します。家族性低βリポ蛋白血症が常染色体優性遺伝であるのに対し、家族性無βリポ蛋白血症は常染色体劣性遺伝疾患であるので、家族調査で家族性無βリポ蛋白血症との鑑別が可能となります。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、家族性低βリポ蛋白血症ヘテロ接合体の発症者、および低値であるが検出可能なLDL(低比重リポ蛋白)を有する家族性低βリポ蛋白血症ホモ接合体の発症者の場合、一般的に何も行ないません。

LDL(低比重リポ蛋白)の欠損する家族性低βリポ蛋白血症ホモ接合体の発症者の場合、家族性無βリポ蛋白血症に対する治療と同様、脂溶性ビタミン、特にビタミンEのサプリメントを使用し、多量に補充します。

幼児には1日1000〜2000mg、成人には5000〜10000mgの脂溶性ビタミンを長期にわたって大量に補充することによって、中枢神経系の損傷の発生と進行を遅らせることができます。

消化器症状に対しては、脂肪の摂取、特に長鎖脂肪酸の摂取を制限します。栄養障害に対しては、カイロミクロンを経ずに吸収される中鎖脂肪酸を補充することもあります。

🇸🇬家族性突然死症候群

致死性不整脈によって家族性に突然死が起こる疾患の総称

家族性突然死症候群とは、先天的な遺伝が原因で、若年者や壮年者に致死性不整脈による突然死が起こる疾患の総称。

先天性QT延長症候群、ブルガダ症候群、進行性心臓伝導障害などが、家族性突然死症候群に含まれます。ここでは、先天性QT延長症候群について解説します。

先天性QT延長症候群は、心臓の細胞に生まれ付き機能障害があるために、突然、脈が乱れる不整脈発作や失神発作を起こしたり、時には突然死に至ることもある先天性の疾患。

医療機関において、心臓の動きをコントロールしている電気刺激の変化を記録する心電計で検査すると、心電図に現れるQTと呼ばれる波形の部分の間隔(QT時間)が、正常な心臓に比べて長くなることから、この疾患名が付けられています。

常染色体優性遺伝を示す遺伝性の疾患で、性別に関係なく50%の確率で親から子供に遺伝しますが、症状には個人差が大きく、遺伝子に異常があっても必ずしも不整脈発作の症状が現れるとは限りません。まれですが、先天性聾(ろう)と呼ばれる生まれ付きで両耳の聴力障害を伴うものは、常染色体劣性遺伝を示します。

心臓は収縮と弛緩(しかん)を絶えず繰り返していますが、この先天性QT延長症候群では、心臓の筋肉である心筋細胞が収縮して全身に血液を送り出した後、収縮前の状態に戻る時間が延長するために、心筋細胞が過敏になって不整脈発作を起こしやすくなります。

 QT延長症候群には先天性と後天性とがありますが、学童期などの若年から指摘される先天性QT延長症候群は、心筋細胞の収縮と弛緩に関係する遺伝子に異常があるために起こります。一方、比較的年齢が高くなり、薬剤使用や徐脈に伴って起こる後天性QT延長症候群も、遺伝子の異常がかかわっています。

先天性QT延長症候群の原因は現在、2つが考えられています。1つは、心筋細胞にあるイオンチャネルと呼ばれる経路の異常です。心臓が規則正しく収縮と弛緩を繰り返すには、心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分が1分間に60~80回発生させている電気刺激が正しく伝えられることが重要です。電気刺激を正しく伝えるため、心筋細胞はイオンチャネルという経路を使ってナトリウムやカリウムなどのイオンを出し入れしていますが、このイオンチャネルが正常に働かなくなり、電気刺激が正しく伝えられなくなると、脈が乱れる不整脈発作が起きやすくなります。

イオンチャネルの異常は、イオンチャネルを作る際に使った設計図の誤り、すなわち遺伝子の異常で起こります。現在では4種類のイオンチャネルに遺伝子の異常が見付かっていますが、この4種類のイオンチャネルの遺伝子に異常が見付からない場合も多く、ほかの種類のイオンチャネルにも異常があるのではないかと考えられます。

もう1つの原因は、心臓に指令を出す交感神経の異常です。交感神経は、背骨の横に左右1本ずつあり、正常では左右の交感神経から収縮と弛緩を繰り返すように心臓に送られる指令は、バランスが保たれています。先天性QT延長症候群では、左側の交感神経の働きが右側より勝っており、バランスが崩れています。交感神経のアンバランスがなぜ起こるかは、わかっていません。

その実数は不明ですが、先天性QT延長症候群は2500〜5000人に1人程度の発症者が存在すると推定されています。

先天性QT延長症候群は原因遺伝子により、不整脈発作の切っ掛けや治療薬の効き方が変わってきます。重症度には個人差が大きく、遺伝子に異常があっても症状が現れない場合があることも知られています。

症状としては、不整脈発作による動悸(どうき)、立ちくらみ、気分不快や、失神発作、けいれん発作などがあります。発作の多くは、短時間で自然に回復しますが、心室期外収縮や、トルサード・ド・ポアンツと呼ばれる多形性心室頻拍から、心室細動といわれる不整脈にまで進行して回復しない場合は、突然死に至ります。

また、失神発作、けいれん発作は、てんかんと間違えられることもよくあります。先天性聾、四肢の脱力、身体奇形などを伴うものもあります。

抗不整脈薬と、日常生活における発作誘因の回避で、突然死に至るような致死性不整脈発作はかなり予防できます。正しい診断がとても大切ですので、小児循環器科、循環器科などの不整脈の専門医を受診することが勧められます。

家族性突然死症候群(先天性QT延長症候群)の検査と診断と治療

小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、発作の既往歴、家族歴などから先天性QT延長症候群が疑われた場合は、心電図でQT時間の延長とT波と呼ばれる波の形の変化を確認します。検査の際に、運動や薬剤による負荷をかけることで、QT時間の延長がよりはっきりすることがあります。

遺伝子診断は、治療薬の選択や適切な生活指導のために有効です。近年では、原因遺伝子の型のみではなく、各原因遺伝子の変異部位によって重症度が異なることがわかってきており、QT時間や遺伝子型、あるいは変異部位に基づいて、リスク評価を行い、治療法を決定します。

小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による治療では、不整脈発作の予防のために、β(ベータ)遮断薬、ナトリウムチャネル遮断薬、カルシウム拮抗(きっこう)薬などの抗不整脈薬を内服します。

内服薬の効果がない場合は、植え込み型除細動器(ICD)、交感神経切除術などによる治療を考慮します。

植え込み型除細動器(ICD)は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置で、通常、左の胸部に植え込みます。鎖骨下の静脈に沿ってリード線を入れ、心臓の内壁に固定します。

交感神経切除術は、心臓に指令を送る左側の交感神経を首から胸にかけて切断します。

日常生活においては、不整脈発作の誘因となる激しい運動や精神的興奮、驚愕を避けるなどの注意が必要です。

🇸🇬家族性ドルーゼン

常染色体優性遺伝性を示し、網膜にある黄斑に進行性の変性がみられる目の疾患

家族性ドルーゼンとは、常染色体優性遺伝性を示し、眼球内部の網膜にある黄斑(おうはん)に進行性の変性がみられる目の疾患。優性遺伝性ドルーゼン、網膜ジストロフィーとも呼ばれます。

まれな疾患で、その発症原因はEFEMP1遺伝子のミスセンス変異(R345W)です。しかし、同じ家系内であっても症状の程度には個人差があり、軽症から重症まで一定しない傾向があることから、遺伝子変異と病態の関連性については、さらなる検討が必要と考えられています。

20~30歳代で、両眼の眼底にドルーゼンといわれる小さく境界鮮明な白点が認められ、このドルーゼンが徐々に融合したり、増加していきます。加えて、黄斑の網膜色素上皮に変性がみられて、色素異常によるむらや色素沈着が認められます。

進行状況により、さまざまな程度の視力低下を示しますが、まれにドルーゼンから異常な血管である新生血管が生じると、著しい視力障害を示すことがあります。

新生血管は正常な血管ではないため、血液の成分が漏れやすく、破れて出血を起こしてしまいます。初期では、物がゆがんで見える変視症や、左右の目で物の大きさが違って見えるなどの症状を自覚するケースが多くみられます。新生血管が破れて黄斑に出血を起こすと、見たい物がはっきり見えない急激な視力低下や、見ようとする物の中心部分が丸く黒い影になって見えなくなる中心暗点という症状が出現します。

病巣が黄斑に限られていれば、見えない部分は中心部だけですが、大きな出血が起これば、さらに見えにくい範囲が広がります。病状が進行すると、視力が失われる可能性があります。

家族性ドルーゼンの検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、両眼対称性であること、進行性であること、家族にかかった人がいること、薬物や感染症など外因がないことなどが重要な手掛かりになります。眼底検査、フルオレセイン蛍光眼底検査、網膜電図などの電気生理学的検査も、診断を確実にするには必須です。異常を起こす遺伝子が突き止められている家族性ドルーゼンでは、遺伝子の検索も決め手になります。

ドルーゼンには、老人性ドルーゼン、続発性ドルーゼンもありますが、網膜の神経線維が集まっている視神経乳頭の鼻側に、眼底検査でドルーゼンが認められた時には、家族性ドルーゼンと診断する大きな根拠になるとされています。

今まではあまり有効な治療法はありませんでしたが、近年、家族性ドルーゼンは加齢黄斑変性症に近い病態であることが判明し、新しい方法が試みられるようになり、早期発見、早期治療によって視力低下を最小限に抑えられる可能性が期待できるようになってきました。

家族性ドルーゼンの治療では、レーザーによるレーザー光凝固術や、場合によっては手術が行われます。近年、経瞳孔(けいどうこう)温熱療法(TTT)や光線力学療法(PDT)などといった新しい治療法が一部の医療施設で試みられ始めており、この疾患の予後の向上が期待されるようになってきています。

レーザー光凝固術は、新生血管をレーザー光で焼き固める治療法です。正常な周囲の組織にもダメージを与えてしまいますので、新生血管が黄斑の中心窩(か)にある場合はほとんど実施されません。

手術には、新生血管抜去術と黄斑移動術があります。新生血管抜去術は、新生血管を外科的に取り去る治療法です。新生血管が中心窩にある場合も実施されますが、中心窩を傷付けてしまう可能性もあります。

黄斑移動術は、中心窩の網膜を新生血管から離れた場所に移動させることにより、中心窩の働きを改善する治療法です。新生血管が中心窩にある場合に実施されますが、物が二つに見えるなどの副作用が起こる場合もあります。

新しい治療法の経瞳孔温熱療法は、弱いレーザーを新生血管に照射し、軽度の温度上昇によって、新生血管の活動性を低下させる治療法です。

光線力学療法のほうは、光に反応するビスダイン(一般名:ベルテポルフィン)という薬剤を体内に注射し、それが新生血管に到達した時にレーザーを照射する治療法です。弱いレーザーによって薬剤が活性化され、新生血管を閉塞(へいそく)します。使用するレーザーは通常のレーザーとは異なり、新生血管周囲の組織にはほとんど影響を及ぼしません。継続的に行う治療法であり、3カ月ごとに検査を行い、その結果により必要に応じて再度実施されます。

薬物療法として、ステロイド剤や、アバスチン(一般名:ベバシズマブ)という血管新生阻害剤などの硝子体への注入が試みられています。効果を得るには繰り返しの注入が必要で、経瞳孔温熱療法との併用も考えられています。

治療後の視力は、病状の進行度によってさまざまです。一般に早期に治療を開始すると、良好な視力が保たれる傾向にあります。黄斑の中でも特に重要な中心窩に病態が現れている場合は、視力の低下は著明です。

🇸🇬家族性複合型高脂血症

体質の遺伝により、思春期以降に高脂血症が出現しやすい疾患

家族性複合型高脂血症とは、血液中の総コレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)の両方が高値となる疾患。家族性複合型脂質異常症とも呼ばれます。

体質の遺伝による高脂血症(脂質異常症)で、いわゆる生まれ付きのものです。常染色体優性遺伝の形式を示すとされているものの、疾患を起こす遺伝子は特定されておらず、リポ蛋白(たんぱく)リパーゼ(LPL)やアポ蛋白など複数の遺伝子異常がかかわっていると見なされています。

その頻度は高く、人口1000人に10人の割合で、つまり人口の約1パーセントにみられます。血液中の脂質を増やす遺伝性疾患の中では、最も多くみられる疾患に相当します。

若年で心筋梗塞(こうそく)を発症することがあり、65歳以下の心筋梗塞患者の基礎疾患として約30パーセントを占めるとされます。

思春期以降に高脂血症が出現することが多く、過栄養、運動不足などの後天的要因によっても、高脂血症が誘発されます。LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の上昇は、同じ遺伝性疾患である家族性高コレステロール血症に比べると、比較的軽度。

VLDL(超低比重リポ蛋白)コレステロールとLDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値が上昇するⅡb型高脂血症を基盤としますが、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値が上昇するⅡa型高脂血症や、VLDL(超低比重リポ蛋白)コレステロールの値が上昇するⅠⅤ型高脂血症を示す時があります。

同一家系内に高コレステロール血症、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)および両者合併型の高脂血症が混在し、さらに同一者が高コレステロール血症を示したり、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)を示したりするという特徴があります。

通常、小児期には症状はありません。LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の上昇が、家族性高コレステロール血症に比べると、比較的軽度のためです。

高脂血症はそれ自身自覚症状はありませんが、将来、心筋梗塞などの動脈硬化症を引き起こす疾患であることを十分認識し、もし検診などで指摘されたら、放置せずに内科、内分泌・代謝科を受診し、適切な治療を受けることが勧められます。

家族性複合型高脂血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、まず身体診察を行い、家族歴について質問します。次に血液検査を行ない、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)、またHDL(高比重リポ蛋白)コレステロール(善玉コレステロール)の値を測定するとともに、中性脂肪(トリグリセライド)、小型LDLコレステロール(超悪玉コレステロール)、アポ蛋白Bの測定を行ないます。食後9時間から12時間の空腹時に採血します。

大抵の場合、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)と中性脂肪(トリグリセライド)の値が上昇しており、HDL(高比重リポ蛋白)コレステロール(善玉コレステロール)の値は平均値よりも低下しています。また、小型LDLコレステロール(超悪玉コレステロール)の存在により、アポ蛋白Bの値が上昇しています。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法、運動療法、薬物療法を行ないます。家族性複合型高脂血症は遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するため、治療の目的は疾患を完治させることではなく、心臓疾患のリスクを軽減させることです。

食餌療法では、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。

運動療法では、積極的にウォーキングや水中歩行などの適度な有酸素運動を行ないます。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、ストレス、過労、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の見直しも、改善法として効果的です。

薬物療法では、一般にスタチン系薬剤と呼ばれているHMG‐CoA還元酵素阻害薬を使います。この種類の薬は、コレステロールの合成を抑制するもので、LDL(高比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値を低下させます。

症状に応じて、フィブラート系薬剤のベザフィブラートやフェノフィブラートを使います。この種類の薬は、中性脂肪の合成を阻害するものです。オメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)製剤やドコサヘキサンエン酸(DHA)製剤を使うこともあります。

そのほか、ニコチン酸、胆汁酸陰イオン交換樹脂を使うこともあります。胆汁酸陰イオン交換樹脂は、特に食事療法と併用した場合に、LDL(高比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値を効果的に低下させます。

血液中の脂質レベルが高すぎるため、医療的な治療を施しても心臓発作の可能性を大幅に低めることはできない場合があります。こういった場合、治療を行ってもリスクは高いままです。

🇧🇩家族性無βリポ蛋白血症

深刻な結果を招くほど脂質濃度が低下する遺伝性疾患

家族性無βリポ蛋白(たんぱく)血症とは、血液に含まれる脂質濃度が低下して著しい低脂血症を示す、まれな常染色体劣性遺伝疾患。バッセン・コルンツヴァイク症候群、MTP(ミクロソームトリグリセライド〔中性脂肪〕転送蛋白)欠損症とも呼ばれます。

アポB含有リポ蛋白であるカイロミクロン、VLDL(超低比重リポ蛋白)、LDL(低比重リポ蛋白)が血液中に欠損しており、乳児期から著しい低コレステロール血症、および低トリグリセライド(中性脂肪)血症を来します。

原因は、MTP(ミクロソームトリグリセライド〔中性脂肪〕転送蛋白)遺伝子の変異です。

MTPは、肝臓と小腸で合成されたアポ B 蛋白にトリグリセライド(中性脂肪)が転送され、VLDL(超低比重リポ蛋白)とカイロミクロン粒子が形成される過程に不可欠。肝臓での VLDL(超低比重リポ蛋白)の産生により末梢(まっしょう)組織に必要なコレステロールの輸送がなされ、小腸でのカイロミクロンの形成により脂肪が吸収されます。MTPの欠損により、トリグリセライド(中性脂肪)と結合しないアポ B蛋白は速やかに分解されて、血液中に分泌されません。

本来なら、トリグリセライド(中性脂肪)と結合したアポB蛋白は、LDL(低比重リポ蛋白)と略されるβリポ蛋白、VLDL(超低比重リポ蛋白)と略されるプレβリポ蛋白として血液中に分泌され、脂溶性の物質を吸収したり、運搬したりします。従って、血液中にβリポ蛋白、プレβリポ蛋白がないと、脂肪やビタミンEを始めとした脂溶性ビタミンなど多くの栄養素が臓器や組織に運ばれず、さまざまな症状が起こってきます。

家族性無βリポ蛋白血症の症状はまず乳児期に現れ、発育不全がみられます。脂肪吸収の障害により、授乳開始とともに便に過度の脂肪が含まれる脂肪便という状態になり、便は脂っぽく、悪臭があり、水に浮かびやすくなります。慢性下痢、嘔吐(おうと)も生じます。

また、ビタミンEを始めとした脂溶性ビタミンの吸収障害により、思春期までに網膜色素変性による夜盲、視野狭窄(きょうさく)、視力低下などの目の症状が生じ、失明する可能性もあります。中枢神経系の損傷による運動失調症や精神遅滞、末梢神経系の損傷による知覚低下や腱(けん)反射消失などが起きる可能性もあります。

また、末梢細胞へのコレステロール供給が低下するために、赤血球は有棘(ゆうきょく)赤血球となります。肝臓からのVLDL(超低比重リポ蛋白)の分泌不全のため、脂肪肝を示すこともあります。

未治療のケースでは、30歳前後までに中枢神経系の損傷により、歩行など通常の日常生活に必要な基本的な活動が著しく障害されることもあります。

家族性無βリポ蛋白血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)の値を測定します。朝食前の空腹時に採血します。

血中の総コレステロールの値が50mg/dl未満、血中のトリグリセライド(中性脂肪)の値が15mg/dl 未満で、特徴的な脂肪便、神経症状、目の症状が認められる場合に、家族性無βリポ蛋白血症と確定します。

鑑別する疾患には、家族性低βリポ蛋白血症、カイロミクロン停滞病(アンダーソン病)、甲状腺(せん)機能高進症があります。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、脂溶性ビタミン、特にビタミンEのサプリメントを使用し、多量に補充します。

家族性無βリポ蛋白血症は遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するために治癒しませんが、幼児には1日1000〜2000mg、成人には5000〜10000mgの脂溶性ビタミンを長期にわたって大量に補充することによって、中枢神経系の損傷の発生と進行を遅らせることができます。

消化器症状に対しては、脂肪の摂取、特に長鎖脂肪酸の摂取を制限します。栄養障害に対しては、カイロミクロンを経ずに吸収される中鎖脂肪酸を補充することもあります。

🇧🇩片親疎外症候群

片親によって、もう一方の親との仲を遠くさせられて、子供に悪影響が生じる疾患

片親疎外症候群とは、片親によって、もう一方の親との仲を遠くさせられることで、子供に情緒不安定や対人関係の困難さが生じる疾患。片親引き離し症候群とも呼ばれ、通称でPAS(Parental Alienation Syndrome )と呼ばれます。

この片親疎外症候群は日本ではまだあまり知られていませんが、欧米を中心に児童心理学者を始めとして、家族法を専門とする法律関係者などにも広く認識され、子供にさまざまな情緒的問題、対人関係上の問題などを生じさせ、長期間に渡って悪影響を及ぼすと見なされ、もう一方の親との引き離しを企てている片親の行為は子供の情緒面に対する虐待であると指摘されています。

両親の離婚や別居により、片親と暮らすことになった子供に対して、もう一方の非同居親の悪口や中傷を吹き込むことが、片親疎外症候群の始まりとなります。日々、日常的に片親の悪いイメージを伝えることで、子供を一種の洗脳状態にしてしまいます。例えば「お父さんはあなたを捨てて出て行ったの」などといって意図的に洗脳する結果、子供は非同居親を拒否したり、敵対心や恐怖心を抱いたりして、精神的な交流を阻まれることになります。

離婚調停中など、両親が親権を争っている際に、片親疎外症候群が多く発症しているといわれています。親権とは、子供の財産管理や生活、教育などに関する権利義務を持つことです。親権の一部である監護権(監護教育権)は別にすることができるため、親権で争った場合は父親と母親で親権と監護権を分けて持つこともできます。監護権とは手元に置いて子供を実際に養育する権利義務のことで、親権を父親、監護権を母親が持つというケースが多くみられます。

このケースでは、親権を持つ父親が子供との面会を申し出た際に、離婚する以前は父親と子供の間に何らかのトラブルや原因がなかったのに、監護権を持つ母親から「子供が会いたくないといっている」、「子供が風邪で会わせられない」などと拒否されるケースがあります。この時に考えられるのが、片親疎外症候群です。

子供自身への虐待や暴力ではなく、片親の不貞行為や両親の間のトラブルが原因で離婚をする場合、子供は離婚調停という闘争に巻き込まれて双方の中傷を聞かされ、心に大きな傷を負うことになります。両親は離婚でお互い他人になっても、子供にとって両親は永遠に両親であることに変わりはありません。

子供がいる夫婦が離婚調停にもつれた場合、離婚が円満に解決することはほとんどありません。相手に対する怒りや恨み、不満などは離婚が成立した後もそう簡単には消えるものではなく、仮に母親が監護権を持った場合には、子供から父親を引き離すべく悪口を吹き込んだり、子供に父親との面会を自ら拒否させたりします。母親が父親を嫌えば嫌うほど、子供も母親に捨てられることを恐れて、徐々に母親に同調するようになります。

子供は片親からの引き離しによって、戸惑い、混乱し、激しく悩みます。場合によっては、うつ病や円形脱毛症を発症したり、長期に渡って情緒不安定な状態が続き、将来を台無しにしてしまう可能性もあります。

離婚や別居が子供の思春期以後に起きた場合には、子供から片親が引き離されると、子供は同居親からも精神的に離れてゆくケースが多くみられます。同居親とあまり話さなくなったり、自室に引きこもったりすることが多くなり、同居親に新しい相手ができて性的活動が行われるようになると、この傾向は一段と顕著になります。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...