2022/08/11

🇹🇭下垂体性小人症

成長ホルモンの不足によって、身長が著しく低くなる疾患

下垂体性小人症とは、身長が著しく低くなる疾患。成長ホルモン分泌不全性低身長症、低身長症、あるいは侏儒(しゅじゅ)症とも呼ばれています。

身長が著しく低くなる原因はいろいろあり、中にはターナー症候群という性染色体の異常によって起こる疾患や、軟骨異栄養症という生まれ付き骨に異常があって低身長、短指症になる疾患など、ホルモンと直接関係のないものもあります。

ホルモンの不足によって起こる場合にも、成長ホルモンの不足によって起こる場合と、甲状腺(こうじょうせん)ホルモンの不足によって起こる場合とがあります。このうち、成長ホルモンの不足による場合を下垂体性小人症といいます。 成長ホルモンは、主として脳の中にある下垂体という器官から分泌されます。

低身長は身長SDスコアがマイナス2SD以下という統計の基準で定義され、同性・同年齢の100人に2~3人が低身長という定義に当てはまりますが、この低身長の中で下垂体性小人症は5パーセント以下です。

原因はいろいろありますが、最も多いのは分娩(ぶんべん)時の異常です。骨盤位分娩(逆子)で、しかも仮死を伴って生まれた男児に多い傾向がみられます。ほかに、少し大きくなってから、脳に腫瘍(しゅよう)ができ、成長ホルモンの分泌が低下するために低身長になることもあります。非常にまれには、成長ホルモンや成長ホルモン放出因子の遺伝子の異常や、下垂体の発生に関係する遺伝子(転写因子)の異常によって、低身長になることもあります。

生まれた時には、身長、体重とも健康な赤子と変わりがないのが普通です。しかし、3歳ごろになると、ほかの子供と比べて体が小さいことに家族が気付くようになります。知能の発育は、正常です。

身体的特徴は、体全体の均整がよくとれていて、成人しても顔が丸くて子供っぽく、性器は幼児型のままのことが多いようです。声変わりもなく、陰毛やわき毛もないのが普通。これは性腺刺激ホルモンの分泌も同時に障害されることが多いためです。

このほか、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンや副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモンも低下していることがあります。

現在、低身長でなくても、成長率の低下がみられる時、学校での背の順が前になってくるような時は、下垂体性小人症以外のホルモンの疾患が隠れている時がありますので、内科、内分泌代謝内科、小児科の専門医を受診します。

下垂体性小人症の検査と診断と治療

医師による診断は、血液中の成長ホルモンの量や、ほかの下垂体ホルモンの量を測定し、総合的に診断します。病因を調べるために、下垂体とその周辺のMRI検査、CT検査を行うこともあります。鑑別すべきものに、思春期遅発症、甲状腺機能低下症による低身長などがあります。

医師による治療は、ヒト成長ホルモンを注射することが最もよい方法です。このホルモンは、以前はヒト下垂体から抽出していたので、その生産量に限りがありました。現在では、遺伝子工学技術を応用して大量に産出されるようになり、十分な治療が行われています。

本剤は注射液ですが、毎日少量ずつ投与するのが効果的で、自己注射が認められているため、小さい時は両親が、大きくなると本人が注射の打ち方を習い、毎日寝る前に皮下注射します。

1年目は平均8センチぐらいの身長の伸びが認められますが、2年目、3年目と伸びは落ちていきます。すぐに正常身長になるというような治療ではありません。長期治療した例の最終身長の平均は、男性で160センチ、女性で148センチ前後とされています。

🇹🇭下垂体性尿崩症

下垂体後葉からの抗利尿ホルモンの分泌低下により、体内の水分が過剰に尿として排出される疾患

下垂体性尿崩症とは、体内の水分が過剰に尿として排出される疾患。中枢性尿崩症、バソプレシン感受性尿崩症とも呼ばれます。

抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌量の低下で、体内への水分の再吸収が低下するために、多尿を呈します。抗利尿ホルモンは大脳の下部に位置する視床下部で合成され、神経連絡路を通って下垂体(脳下垂体)後葉に運ばれて貯蔵され、血液中に放出されます。この抗利尿ホルモンの分泌低下による尿崩症が、下垂体性尿崩症です。

一方、抗利尿ホルモンの分泌は正常でも、抗利尿ホルモンの腎(じん)尿細管における作用障害に由来して、腎臓が反応しなくなる尿崩症は、腎性尿崩症です。

下垂体性尿崩症のうち、抗利尿ホルモンを産生する視床下部や下垂体後葉の機能が腫瘍(しゅよう)や炎症、外傷などで障害されたものが続発性尿崩症、このような原因のはっきりしないものを特発性尿崩症といいます。また、遺伝子異常が報告されている家族性尿崩症もあります。

続発性尿崩症の病因では、頭蓋咽頭(ずがいいんとう)腫などの腫瘍が多くみられます。下垂体後葉などに非特異性慢性炎症がみられる下垂体後葉炎が病因となっているものもあります。

症状はいずれの年代でも、徐々にあるいは突然、発症します。発症すると、脱水状態になるため、のどが渇いて過剰に飲水するといった症状が現れ、多尿を呈します。1日に排出される尿量は3~15リットルと、通常の2倍~10倍にもなります。ひどい時には、1日30リットル〜40リットルになることもあります。

薄い尿の大量排出は、特に夜間に著しくなります。水をたくさん飲むために、食べ物があまり取れず、体重は減少します。

続発性尿崩症では、口渇、多飲、多尿に加えて、原因となる疾患の症状を示します。腫瘍が原因の場合、腫瘍が拡大すれば頭痛、視野障害、視床下部・下垂体前葉機能低下症状などを示します。

下垂体前葉機能低下の程度が強く、高度の副腎皮質刺激ホルモンの分泌不全を伴うと、尿量は減少し、尿崩症の症状ははっきりしなくなります。この場合、副腎皮質ホルモンを補充すると多尿がはっきりしてきます。

一般に、口渇中枢は正常であるため、多尿に見合った飲水をしていれば脱水状態になることはありませんが、続発性尿崩症で口渇中枢も障害されている場合は、重症の脱水を来すことがあります。

1日3リットル以上の著しい多尿や口渇、多飲などの症状がみられた際には、糖尿病や腎疾患、心因性多飲症とともに尿崩症である可能性があります。内科か内分泌科、頭部外傷や脳手術の既往歴がある人は脳外科か脳神経外科の専門医と相談して下さい。

下垂体性尿崩症の検査と診断と治療

内科、内分泌科、脳外科、脳神経外科の医師による診断では、まず多飲、多尿を示す糖尿病、腎疾患を除外する必要があります。これらが除外された後、心因性多飲症などとの鑑別が必要になります。

心因性多飲症は、精神的原因で強迫的または習慣的に多飲してしまう疾患です。血漿(けっしょう)浸透圧と血中の抗利尿ホルモンを測定して、鑑別診断に用います。鑑別が難しい場合、水制限試験を行います。水分摂取の制限を行っても、下垂体性尿崩症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えることはありませんが、心因性多飲症では尿浸透圧が血漿浸透圧を超えて濃縮がみられます。

下垂体性尿崩症では、下垂体後葉に抗利尿ホルモンの枯渇を反映する変化がみられます。また、続発性尿崩症の原因となる脳腫瘍などの疾患の検索にも有用です。

下垂体性尿崩症と腎性尿崩症の区別は、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤の投与によって、尿が濃縮されるかどうかで調べます。尿が濃縮されるのが下垂体性であり、反応しないのが腎性です。

内科、内分泌科、脳外科、脳神経外科の医師による治療では、下垂体性尿崩症には補充療法として、バソプレシン剤や、デスモプレシン剤を点鼻液、あるいはスプレーとして用います。1日2〜3回使用すると尿が濃縮され、尿量は普通並みに減少します。そのほか、注射製剤も使用できます。

意識がなくなったり、胃腸障害で水が飲めなくなった時には、速やかに点滴静脈注射をして水分を補給します。腫瘍が原因で続発性尿崩症が起こった時には、手術をして腫瘍を取り除きます。

🇱🇦下垂体腺腫

脳の下垂体前葉にできる腫瘍で、ほとんどは良性

下垂体腺腫(せんしゅ)とは、いろいろなホルモンを分泌している下垂体(脳下垂体)前葉の腺細胞が増える腫瘍。腫瘍のほとんどは、良性と見なされています。

脳腫瘍全体の16〜18パーセントを占め、頻度の高いもので、成人に発生し、小児での発生はまれです。その発生原因は不明。大きく、ホルモン産生性の下垂体腺腫と、ホルモン非産生性の下垂体腺腫に分けられます。

ホルモン産生性の下垂体腺腫では、その細胞がもともと産生していたホルモンが過剰に分泌されるため、分泌されるホルモンによっておのおの異なる特有の症状を呈します。 従って、腫瘍がまだ小さいうちにホルモン過剰の症状で発見されることが多いのですが、ホルモン非産生性の下垂体腺腫では、腫瘍が大きくなって上方で視神経交叉(こうさ)を圧迫し、視野の障害や視力低下の症状が出て、初めて発見されることが多くなります。

ホルモン産生性の下垂体腺腫では、プロラクチン産生腺腫、成長ホルモン産生腺腫、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン産生腺腫、甲状腺刺激ホルモン産生腺腫の順に頻度が高くなっています。

プロラクチン産生腺腫ができると、プロラクチンというホルモンが過剰に分泌され、月経異常、無月経、出産もしていないのに母乳が漏出する乳汁分泌、性欲減退、インポテンツなどが現れます。成長ホルモン産生腺腫ができると、成長ホルモンが過剰に分泌され、末端肥大症を来して手足が大きくなったり、指が太くなる、唇が厚くなる、あごが前に突き出るなどの症状が現れるほか、高血圧、糖尿病なども現れます。

副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫ができると、副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌され、肥満、色素沈着、多毛、高血圧などが現れます。甲状腺刺激ホルモン産生腺腫ができると、甲状腺刺激ホルモンが過剰に分泌され、甲状腺機能高進症の症状を来します。

ホルモン非産生性の下垂体腺腫では、腫瘍が大きくなると目の奥や額に重い感じや鈍い痛みを感じることがあります。腫瘍がさらに大きくなると、下垂体の上にある視神経と呼ばれる目からの情報を脳に伝える神経が下から圧迫され、目で見える範囲が狭くなります。

見えない範囲は、外側の上のほうから徐々に拡大してきます。「最近、斜め前から来る人にぶつかりやすくなった」、「赤信号で停止していたら後ろからクラクションを鳴らされ、信号を見上げると青になっていた」などの症状が出現します。

そのほか、下垂体腺腫の種類によっては、下垂体からのホルモンの生成が抑えられる症状が現れることもあります。

下垂体腺腫の検査と診断と治療

内科、眼科、脳神経外科の医師による診断では、頭部MRI検査が有効です。下垂体の中でどこに腫瘍ができたか、周囲の神経を圧迫しているかどうかなどがわかります。さらに、下垂体の近くにできた腫瘍と下垂体との関係を診断することも可能で、下垂体腺腫以外の腫瘍も確定診断できます。

また、採血によって血中の下垂体ホルモンを測定する内分泌検査も重要です。場合により入院して、早朝に下垂体ホルモンを刺激したり、抑えるような薬物を投与して、その後連続して採血が行われることがあります。

プロラクチン産生腺腫の治療には、薬物療法と手術の選択肢があります。手術で腫瘍をきれいに摘出できれば、それで治癒することができますが、プロラクチン産生腫瘍には、ブロモクリプチン、テルグリド(テルロン)、カベルゴリン(カバサール)などの有効な薬があるため、薬で治療することもできます。これらの薬は服用を中止すると腫瘍が大きくなるので、かなり長期間の継続した内服が必要です。

薬の効果がない場合、あるいは薬の副作用のために内服が困難な場合などは、手術による治療が必要になります。ガンマ・ナイフによる放射線療法も、選択肢の一つになりますが、プロラクチン産生腫瘍に対して用いられるケースは少ないと思われます。

成長ホルモン産生腺腫の治療は、手術により腫瘍を摘出する方法が第一選択です。ほとんどの場合は、経蝶形骨手術と呼ばれる、鼻のほうから腫瘍に到達し、顕微鏡や内視鏡で見ながら摘出する方法が選択されます。補助的に行われる薬物療法では、オクトレオチドの皮下注射、またはブロモクリプチンの内服があります。そのほか、放射線治療が追加される場合があります。

その他のホルモン産生腺腫やホルモン非産生性の下垂体腺腫の治療でも、手術が第一選択です。経蝶形骨手術により腫瘍の摘出が可能ですが、腫瘍が大きい場合には手術を2回に分けたり、開頭による手術を追加する必要があります。

🇱🇦下垂体前葉機能低下症

下垂体の前葉で作られるホルモンの分泌が損なわれて起こる疾患

下垂体前葉機能低下症とは、下垂体(脳下垂体)の前葉で作られるさまざまなホルモンの分泌が損なわれて起こる疾患。1914年にドイツの医師シモンズが最初に発見し、シモンズ病とも呼ばれます。

脳の下にある小さな分泌腺(せん)に相当し、ホルモンの倉庫である下垂体は前葉と後葉とに分けられ、前葉で作られる下垂体前葉ホルモンには、成長ホルモン、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモンなどがあります。

下垂体前葉ホルモンの分泌の低下は、下垂体前葉自身の障害により起こるものと、下垂体を調節する働きを持つ視床下部の障害によって起こるものとがあります。また、単一のホルモンの分泌が損なわれる場合だけでなく、いくつかのホルモンの分泌が損なわれる場合、すべてのホルモンの分泌が損なわれる場合など、いろいろなタイプがあります。

この下垂体前葉機能低下症は、さまざまな原因によって起こります。分娩(ぶんべん)時の大出血で、下垂体への血流が一時的に途絶え、視床下部と下垂体をつないでいる下垂体門脈という血管の梗塞(こうそく)によって、下垂体前葉細胞が死んでしまうこともあります。これはシーハン症候群とも呼ばれます。

男性で最も多い原因は、下垂体腫瘍(しゅよう)です。ほかに、結核などの炎症性疾患、自己免疫性の下垂体炎、頭部外傷や手術、放射線治療後の障害などで起こります。まれに、下垂体の発生・形成異常、遺伝子異常によって起こることもあります。

基本的に、それぞれのホルモンの分泌低下を反映する症状が出現します。成長ホルモンの分泌低下が発育期に起こると、下垂体性小人(しょうじん)症(成長ホルモン分泌不全性低身長症)になります。成人では、体脂肪の増加、筋肉量や骨塩量の低下、気力、活動性の低下がみられます。

副腎皮質刺激ホルモンの分泌低下では、副腎皮質ホルモンの分泌が損なわれて、倦怠(けんたい)感や疲れやすさが増し、筋力の低下や血圧の低下を招きます。低血糖、食欲不振の原因になることもあります。感染症やけがを切っ掛けに、ショック状態に陥ることもあります。

甲状腺刺激ホルモンの分泌低下では、寒けがして皮膚が乾燥し、むくみ、脱毛、集中力と記憶力低下などが出ます。小児期に性腺刺激ホルモンの分泌が損なわれると、二次性徴の発現が起こりません。成人では性欲の低下を来し、男性では勃起(ぼっき)不能、体形の女性化、女性では無月経になります。

大きな下垂体腫瘍が原因の場合では、視力が損なわれます。視床下部が損なわれると、尿崩症、食欲異常、体温異常を生じます。

下垂体前葉機能低下症の症状に気付いたら、原因の精密検査とホルモン分泌の障害に応じた補充療法が必要です。適切な治療を行わないと、低血糖などにより、けいれん、意識障害に陥ることがあります。内科、内分泌科、内分泌代謝内科、脳神経外科の専門医の診察を受けて下さい。

下垂体前葉機能低下症の検査と診断と治療

内科、内分泌科、内分泌代謝内科、脳神経外科の専門医による検査では、どのホルモンが損なわれているか、血液中の下垂体前葉ホルモンの値を調べます。また、ホルモンの分泌を刺激する検査を行うことで、障害の程度とその部位を推測します。頭部MRI、頭部CTなどの画像検査で、視床下部や下垂体の病変を発見できます。

医師による治療では、下垂体前葉機能低下症を引き起こした原因の治療と、損なわれたホルモンの補充を行います。腫瘍がある場合は、脳の手術を行って下垂体の腫瘍を摘出します。また、放射線を照射して腫瘍細胞を消滅させる放射線療法が有効なこともあります。結核などでは、原疾患の治療を行います。

成長ホルモンが不足している場合、小児では成長の遅れが生じますので、その補充療法を行います。成人では身長には影響しませんが、成長ホルモンの補充を行うことが身体組成の改善、骨密度の増加に有益であることがわかり、最近補充療法が行われています。

副腎皮質刺激ホルモンの障害にはステロイドホルモン、甲状腺刺激ホルモンの障害には甲状腺ホルモンを経口投与します。性腺刺激ホルモンの障害では、必要に応じて性ホルモンの補充を行い、妊娠を希望する女性の場合や男性不妊の場合、排卵誘発療法や、精子形成を進める治療を行います。

原因となっている疾患が治療されている場合、不足しているホルモンを補充している限り、健常な人と同様の生活を送ることができます。ホルモンの必要量は、体の状況に応じて変動しますので、それに合わせて調整することが重要です。

特に、副腎皮質刺激ホルモンが不足している場合、ステロイドホルモンの補充が必要となりますが、発熱や感染時には通常より多く服用するなど、自分で服用量を調整する必要があります。これらのことができている限り、日常生活に特に制限はありません。

🇱🇦下垂体卒中

下垂体腫瘍の出血によって、頭痛、視覚障害が引き起こされる疾患

下垂体卒中とは、脳の下部にある下垂体(脳下垂体)腫瘍(しゅよう)の出血や梗塞(こうそく)よって、引き起こされる疾患。卒中とは、臓器内の出血、梗塞などが原因で、症状が急激に出ることです。

下垂体卒中は、下垂体腫瘍の合併症であり、主に問題になるのは出血のほうになります。突然の出血による急性症状として、激しい頭痛、頸部(けいぶ)硬直、視覚障害、発熱などが出現します。

出血で急激に腫瘍容積が増大し、近くに位置する視神経交叉(こうさ)が押し上げられれば、両耳側半盲や両眼の視力低下が起きます。ほかに、眼球を動かす動眼神経のまひによる眼球運動障害が出て、目が急に動かなくなることもあります。

また、下垂体はホルモンの分泌基地なので、成長ホルモンや副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモンなどの分泌不足のため、さまざまな程度の下垂体機能低下症が突然生じ、発症者は血管虚脱症状を呈することもあり、生命の危険にさらされます。

下垂体卒中の検査と診断と治療

脳神経外科、あるいは眼科の医師による診断では、脳脊髄(せきずい)液が出血性のことが多く、頭部MRI検査で出血が証明できれば、下垂体卒中と確定できます。

急激に視力、視野障害が悪化する場合は、緊急手術が行われます。経蝶経骨洞接近法という鼻の穴からの手術で、腫瘍と血腫を取ります。腫瘍から血があふれることによって、周囲の視神経や動眼神経が圧迫されて症状が起きているので、その圧迫を解消して減圧すれば、症状は急速に改善します。

少し前までは鼻の穴にハーディ鏡という道具を入れて顕微鏡で手術をしていましたが、最近では両側の鼻の穴の中から内視鏡と器具を入れて手術を行っています。手術による減圧によって、視力、視野の障害や眼球運動の障害はいずれも9割近い確率でよくなります。

ただし、下垂体腫瘍とその出血によって下垂体自体が傷付いてしまうのは、どうしようもありません。発症後、ホルモン分泌低下による症状は高率で合併してしまいます。

🇰🇭下垂乳房

出産、授乳、加齢などが原因となって乳房が垂れた状態

下垂乳房とは、出産や授乳、加齢などが原因となって、女性の乳房が垂れ下がった状態を指す症状。乳房下垂症、垂れ乳とも呼ばれます。

女性の乳房の理想は、両鎖骨間のくぼみである鎖骨上窩(じょうか)と左右の乳房にある乳頭の3点をそれぞれ結んだ三角形が正三角形であることとされていますが、左右の乳頭の位置が垂れ下がると縦長の二等辺三角形となります。このような状態を指す症状が、下垂乳房です。

女性の乳房の膨らみを形作っているのは、乳腺(にゅうせん)組織、脂肪組織、クーパー靭帯(じんたい)と呼ばれる繊維の束の3種類です。クーパー靭帯は、乳房内に網の目のように張り巡らされており、乳腺組織、脂肪組織を大胸筋とつなぎ、乳房の膨らみを形作る役割を果たしています。

下垂乳房は、乳腺組織、脂肪組織を支えているクーパー靭帯が伸び切ってしまうことと、乳房を覆っている皮膚の衰えが主な原因となって、乳房の形が保てなくなることで起こります。

そのクーパー靭帯の伸び切り、乳房の皮膚の衰えは、加齢などによるホルモンバランスの変化、妊娠出産授乳時の乳房の大きさの急激な変化、乳房自体の重さ、物理的な刺激、姿勢の悪さなどが要因となって、起こります。

乳腺を発達させ、乳房の張りを保つのは、エストロゲンという女性ホルモンの役割です。加齢や不規則な生活によりホルモンのバランスが変化すると、エストロゲンの分泌が少なくなり、下垂乳房の原因となります。

また、妊娠出産授乳時に乳房の大きさの急激な変化を経験すると、クーパー靭帯と乳房の皮膚が伸びます。出産授乳時には、母乳を作るためのホルモンが働いて乳腺が発達して大きくなり、併せて乳房が大きくなり、それに合わせて皮膚も張って伸びてきます。やがて授乳の必要がなくなると、乳腺は委縮し、線維化し、脂肪化します。しかし、クーパー靭帯と皮膚のほうは、それと同じように委縮しません。中身が減ったのに伸びているので、乳房の形が保てなくなり下垂するわけです。妊娠や出産、授乳を重ねることにより、次第に形状の変化が明らかになります。

同じ意味で、体重の急激な増減に伴う乳房の大きさの変化も、下垂乳房の原因となります。

元々乳房が大きく、乳房自体の重さがあることも、クーパー靭帯と乳房の皮膚の伸びにつながり、下垂乳房の原因となります。乳房が大きすぎて下垂している場合には、重さで肩が凝ったり、猫背になったり、ブラジャーのストラップが肩に食い込んだり、乳房の下縁部に皮膚炎ができたりすることもあります。

ノーブラでランニング、ジョギングなど胸が上下に動くような激しい運動を頻繁にしたり、過度の乳房マッサージをしたりなどの物理的刺激によっても、乳腺組織やクーパー靭帯が痛められることがあり、下垂乳房につながることがあります。

日ごろから背中が丸まった猫背など悪い姿勢をとっていると、大胸筋などの胸付近の血流が滞って悪くなる結果、乳房が冷えて栄養がゆき届かなくなり、張りを失って、下垂乳房を招くこともあります。

下垂乳房は主にごく自然な生理現象として起こるので、加齢に伴う経年変化として受け入れられるのであれば、特に治療の必要はなく、放置してかまいません。

美容的な問題により、改善したいと望むのであれば、乳腺(にゅうせん)外科、形成外科、あるいは美容整形外科を受診し、下垂乳房を治療する形成外科手術によって整えることを考えてみてもよいのではないかと思われます。

下垂乳房の検査と診断と治療

乳腺外科、形成外科、美容整形外科の医師による診断では、視診、触診で判断します。超音波(エコー)検査、マンモグラフィー(乳腺X線検査)で脂肪化した乳腺を確認すれば、診断は確定します。

乳腺外科、形成外科、美容整形外科の医師による治療では、乳頭の高さによって軽度、中等度、重度の段階があり、それぞれで方法が違ってきます。

軽度の下垂乳房に対する手術は、乳輪の周囲の皮膚を切除し引き締める乳輪移動術が一般的で、乳輪から上部に渡って皮膚を切り取り、上にずらして縫合します。

中等度の下垂乳房に対する手術は、乳房固定術が一般的で、乳輪の上部の皮膚を丸く切り取り、乳輪をそこへ移動させ、乳腺組織と脂肪組織を上部に縫合し、固定します。手術の後、どうしても重力の影響で乳輪の形が微妙に縦型になったり、おむすび型になったりすることがあります。これに対しては、手術部が十分落ち着いてから必要に応じて乳輪の形の修正を行います。

重度の下垂乳房に対する手術は、乳房縮小術が一般的で、乳輪を上部に移動させるだけでなく、乳房の下方をピラミッド型に切除して上に持ち上げて縫合します。

また、乳房の大きい人の場合、中身も大きく垂れていることが多いため、乳腺組織や脂肪組織を同時に除去する乳房縮小術を併用する場合もあります。

逆に、乳房が小さかったり、張りがなくなったために下垂している場合には、脂肪注入やフィラー注入、あるいは人工乳腺(豊胸バッグ)挿入による乳房形成手術(豊胸手術)を行うことで、よい結果が得られることがあります。

左右非対称の下垂乳房の治療の場合も、同じように小さいほうの乳房を乳房形成手術(豊胸手術)で大きくする方法、もしくは大きいほうの乳房を乳房縮小術で小さくする方法で、大きさをそろえる治療をします。

ほとんどのケースは、局所麻酔下の手術が可能で日帰り手術です。入浴に関しては、手術部がぬれない半身浴なら翌日から可能です。

手術後数時間程度で麻酔が切れると、徐々に痛みが出てくる場合がありますが、処方された薬を服用することにより軽減できます。また、一時的に乳頭の感覚が鈍くなる場合がありますが、時間の経過により徐々に通常の感覚に戻ります。傷が目立たなくなり希望の状態になるまで、約半年ほどかかります。

🇰🇭ガストリノーマ

主に膵臓や十二指腸に発生する細胞の腫瘍で、胃液の分泌を促すガストリンを分泌

ガストリノーマとは、主に膵臓(すいぞう)や十二指腸に発生する細胞の腫瘍(しゅよう)。

ガストリノーマができやすいのは、膵臓の中でも右側の膵頭部という部分と、そこに接した十二指腸の壁の中です。

ガストリノーマができると、ガストリンという胃液の分泌を促すホルモンの分泌が多くなりすぎて、胃液が過剰に分泌されます。胃液の過剰分泌によって、胃や食道の粘膜や細胞が刺激されて腹痛や胸焼けという過酸症状を起こし、さらには胃や十二指腸に消化性潰瘍(かいよう)がたくさんできるために下痢などの症状が出ます。

また、ガストリノーマは膵臓や、十二指腸などの膵臓周囲に多発していることも多く、この場合の約50パーセントはがん性で、ゾリンジャー・エリソン症候群を引き起こすことがあります。

ゾリンジャー・エリソン症候群では、非ベータ細胞と呼ばれる細胞が膵臓にガストリノーマを発生させるほか、胃、十二指腸、胆管にもガストリノーマを発生させ、ガストリンを分泌します。

症状としては、胃酸過多のほか、高ガストリン血症、難治性の胃潰瘍や十二指腸潰瘍がみられるのが特徴です。潰瘍はしばしば、普通はみられない十二指腸球部や小腸上部に発生し、また穿孔(せんこう)を起こす頻度が高くなります。

そのために腹痛、腰痛、下痢、吐き気、嘔吐(おうと)、吐血、下血などの症状を生じます。水溶性あるいは脂溶性の下痢は、消化酵素活性が阻害されることに起因するといわれており、これは下部腸管へ多量の胃液が流れ込むことに由来します。

悪性例、多発例が多く、腫瘍であるガストリノーマはがんに変化し、医師の診断時にすでに肝・リンパ節転移を認めることがほとんどです。 多発性内分泌腫瘍症1型という遺伝性症候群を合併することもあります。

ガストリノーマの受診科は、内分泌代謝科、内科、外科です。

ガストリノーマの検査と診断と治療

内分泌代謝科、内科、外科の医師による診断では、早朝の空腹時に採血して血液中のガストリンを測定し、ガストリン値が高いことが指標となります。血液検査によって、胃酸の産生過剰もわかります。

腫瘍であるガストリノーマの位置を確認するためには、CT(コンピュータ断層撮影)検査、超音波内視鏡検査、放射線核種を用いた画像検査などの検査を行います。

内分泌代謝科、内科、外科の医師による治療では、腫瘍であるガストリノーマの外科的切除が第一選択になります。手術による腫瘍の切除により、完全に治癒することもあります。

治癒しない場合でも、切除で腫瘍を小さくできるので胃酸の産生量が低下し、小腸の閉塞(へいそく)など局所の合併症を予防することができます。

腫瘍を切除しても効果がみられなければ、ケースによって胃全体を摘出することもあります。ガストリンは胃粘膜を増殖させる働きを持つため、胃の一部を切除しても残った胃の細胞で壁(へき)細胞数を増やし、これによって再度過剰な胃酸の産生が促進され、潰瘍の再発を招くためです。

胃を切除して胃酸が作られなくなると、鉄分、カルシウム、ビタミンB12などの栄養素の吸収が悪くなるため、これらを絶えずサプリメントなどで補給し、ビタミンB12は月1回注射しなければいけません。

ゾリンジャー・エリソン症候群を引き起こし、悪性腫瘍となってがんが他の部位に転移した場合、過剰な胃酸分泌を薬物によって抑えます。内科的には、胃粘膜からの胃酸分泌を強力に抑えるH2受容体拮抗(きっこう)剤、プロトンポンプ阻害剤(PPI)などの胃酸分泌抑制剤を使用します。化学療法では、悪性腫瘍でかつ肝臓に転移している場合に、抗がん剤のストレプトゾトシンの投与を適用します。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...