2022/08/12

🇲🇩強直性脊椎肥厚症

脊椎椎体の前面を上下に連結し、脊椎を縦走する前縦靭帯が分厚くなって骨化する疾患

強直性脊椎(せきつい)肥厚症とは、脊椎を構成する椎体と呼ばれる四角いの骨の前面を上下に連結し、脊椎を縦走する前縦靭帯(ぜんじゅうじんたい)が分厚くなって、骨化する疾患。強直性脊椎骨増殖症、前縦靱帯骨化症と呼ばれることもあります。

背骨、すなわち脊椎の骨と骨の間は、靭帯で補強されています。椎体の前面に位置する前縦靱帯は、後縦(こうじゅう)靭帯という椎体の後面に位置し、脊髄の通り道である脊柱管の前面に位置する靭帯と対をなして、骨に適度な動きと安定性をもたらしています。

この前縦靭帯が分厚くなって骨のように硬くなると、食道が圧迫されて物を飲み込みにくくなったり、声がかれたり、背中の張りや腰痛などが現れることがあります。

高齢者、特に60歳以上の男性に多く認められ、男性は女性の2〜3倍ほど発症しています。

前縦靱帯が骨化する原因は不明。何らかの遺伝性があるとする研究もいくつか報告されており、今後明らかにされると思われます。

前縦靱帯の骨化が起こると、脊椎の可動域が低下して運動が障害されることから、体が硬くなって動きが悪くなったと感じることが多いようです。

頸椎(けいつい)に前縦靱帯の骨化が起こると、物を飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)困難、声がかれる嗄声(させい)の症状が出現することがあります。胸椎や腰椎に前縦靱帯の骨化が起こると、背中の張りや腰痛の症状が出現することがあります。

また、骨化が途切れて脊椎が動いている部位で、脊髄や脊髄から分枝する神経根が圧迫されて、手足の痛み、しびれ、まひなどをが出現することもあります。まれに、転倒などのけがにより、脊椎の骨折を生じたり、そのために脊髄のまひを生じることもあります。

強直性脊椎肥厚症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行い、前縦靭帯の骨化を見付けます。X線検査で見付けることが困難な場合は、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などで精査します。CT検査は骨化の範囲や大きさを判断するのに有用で、MRI検査は脊髄の圧迫程度を判断するのに有用です。

嚥下障害を生じた場合は、X線による食道造影検査や咽頭(いんとう)部の内視鏡検査を行います。

整形外科の医師による治療では、背部痛、腰痛などを生じた場合は、鎮痛剤、筋弛緩(しかん)剤などの投与、理学療法、運動療法で対応します。

嚥下障害の改善がみられず誤嚥の恐れがある場合は、前縦靱帯骨化の部位を摘出して、その部位を自分の骨で固定する手術を行います。

脊髄や脊髄から分枝する神経根が進行性に圧迫されている場合も、前縦靱帯骨化の部位を摘出して、脊椎が動いている部位の圧迫を除去する手術を行います。

けがにより脊椎の骨折を生じた場合には、安静、ギプスやコルセットで治療し、骨がつかない、あるいは脊髄のまひが出現した際には金属で固定する手術を行います。

🇲🇩胸椎黄色靭帯骨化症

脊椎椎弓の前面を上下に連結し、脊椎を縦走する黄色靭帯の胸椎部位が骨化し、神経障害が出る疾患

胸椎黄色靱帯骨化症(きょうついおうしょくじんたいこっかしょう)とは、脊椎(せきつい)の後方部分を構成する椎弓と呼ばれる円柱状の骨の前面を上下に連結し、脊椎を縦走する黄色靭帯の胸椎部位が骨化する疾患。

特定疾患(難病)である脊柱靭帯骨化症の一種である黄色靱帯骨化症のうち、胸椎の部位が骨化するのが胸椎黄色靱帯骨化症に相当します。

背骨、すなわち脊椎の骨と骨の間は、靭帯で補強されています。椎弓の前面に位置し、脊髄の通り道である脊柱管の後面に位置し、名前の通りに黄色い色をしている黄色靭帯は、骨に適度な動きと安定性をもたらしています。

この黄色靭帯が分厚くなって骨のように硬くなると、脊髄の通り道である脊柱管が狭くなり、脊髄や脊髄から分枝する神経根が圧迫されて、知覚障害や運動障害が症状として現れます。

黄色靱帯が骨化する脊椎の部位によって、胸椎黄色靭帯骨化症のほか、頸椎(けいつい)黄色靭帯骨化症、腰椎黄色靭帯骨化症に分類することもありますが、ほとんどは胸椎の下部に出現します。

年齢的には20歳以降に出現し、一般的には40歳以上に出現します。男女の性差なく出現します。

胸椎などの黄色靱帯が骨化する原因は、いまだに不明。遺伝的素因、カルシウムやビタミンDの代謝異常、老化現象、全身的な骨化傾向、骨化部位における局所ストレスなど複数の要因が関与して発症すると推測されているものの、原因の特定には至っていません。ほとんどが胸椎の下部に出現する原因は、胸椎と腰椎の連結する部分に相当し負担がかかるためと見なされています。

同じ脊柱靭帯骨化症の一種で、後縦(こうじゅう)靭帯骨化症という、脊椎の前方部分を構成する椎体と呼ばれる四角い骨の後面を上下に連結し、脊椎を縦走する後縦靭帯が骨化する疾患と合併しやすく、この場合は特に家族内発症が多いことから、遺伝子の関連が有力視されています。

胸椎に黄色靭帯骨化が起こった場合に最初に出てくる症状としては、下肢の脱力やこわばり、しびれがあります。腰背部痛や下肢痛が出現してくることもあります。

また、長い距離を歩くと下肢の痛みが起こるようになり、休息しながら歩くようになる間欠性跛行(はこう)を来すこともあります。重症になると、両下肢まひを来して歩行困難となり、日常生活に障害を来す状態になります。

症状の進行は年単位の長い経過をたどり、軽い痛みやしびれで長年経過する場合もある一方で、年単位の経過で足の動作がかなりの程度傷害される場合もあります。また、軽い外傷、例えば転倒などを切っ掛けに、急に足が動かしづらくなったり、今までの症状が強くなったりすることもあります。

胸椎黄色靭帯骨化症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、まずX線(レントゲン)検査を行います。しかし、胸椎に多い黄色靭帯骨化症を見付けることが困難なことが多いため、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などで精査します。CT検査は骨化の範囲や大きさを判断するのに有用で、MRI検査は脊髄の圧迫程度を判断するのに有用です。

整形外科の医師による治療では、原因が不明で経過が予測できないため、消炎鎮痛剤などを投与して経過を観察します。下肢や腰背部の痛みが強い場合には、脊髄の周囲の硬膜外腔(がいくう)に局所麻酔薬を注射して、神経の痛みを和らげる硬膜外ブロックを行うこともあります。

経過観察中に進行がみられる場合や、神経症状が強い場合には、胸椎椎弓の骨化部位を取り除いて、脊髄や神経根の圧迫を解除する手術を行うこともあります。

手術後は原則として、胸椎コルセットを装着し、数日は背部の痛みがあるため歩行器を用いた歩行となり、通常では10〜14日目に退院となります。手術前からかなりの歩行障害などがみられる場合には、胸椎コルセットを3週間ほど装着し、リハビリテーションが数週間から数カ月必要となります。

仕事や学業への復帰は、手術前の症状にもよるものの、通常では手術後1〜2カ月が目安となります。

胸椎黄色靭帯骨化症を完全に予防することはできませんが、仕事や遊び、泥酔などで転倒、転落することで神経症状を出現させたり、悪化させたりしないことが必要です。

🇲🇩狭頭症

頭蓋骨が先天的に小さく、変形を伴う症状

狭頭症とは、頭を形作る骨格である頭蓋骨(とうがいこつ)が先天的に小さく、変形を伴う症状。小頭症、頭蓋骨縫合早期癒合症とも呼ばれます。

乳児の頭蓋骨は何枚かの骨に分かれており、そのつなぎを頭蓋骨縫合と呼びますが、乳児期には脳が急速に拡大するため、頭蓋骨もこの縫合部分が広がることで脳の成長に合わせて拡大します。成人になるにつれて縫合部分が癒合し、強固な頭蓋骨が作られます。

狭頭症では、主に遺伝子の異常が原因となって、頭蓋骨縫合が通常よりも早い時期に癒合したり、一部の縫合が欠損したりする結果、脳の発達に呼応して頭蓋骨が健全に発達することができず、頭部に異常な変形が起こってきます。

頭蓋骨縫合の早期癒合部位、縫合の欠損部位によって、頭の前後径が異常に長い舟状頭、頭の前後径が異常に短くて横幅が広く、額が偏平になる短頭、額の中央が突出して三角形となる三角頭蓋など、頭蓋骨がさまざまに変形します。

そのほか、狭頭症に顔面骨の発達の障害を伴って、顔、顎(あご)も変形するクルーゾン症候群、これに手足の指の癒合を伴うアペール症候群(尖頭〔せんとう〕合指症候群)などが起こることもあります。

頭部や顔面の変形、眼球突出などだけではなく、頭蓋骨が正常に発達できないために脳の圧迫や頭蓋内圧の上昇が起こり、脳や脳神経の発育と機能が障害され、耳の聞こえが悪くなったり、視力を損なうことがあります。

クルーゾン症候群が起こると、気道狭窄(きょうさく)、歯列のかみ合わせ異常、高口蓋や口蓋裂など、さまざまな症状もみられます。

狭頭症は、遺伝子の異常で起こるほか、妊娠中の女性の風疹(ふうしん)ウイルスやサイトメガロウイルス、単細胞の原虫の一種であるトキソプラズマなどへの感染、低栄養、薬物、放射線照射により起きることもあります。

ウイルス感染の多くは、特に生命に必要な臓器が作られる妊娠初期の3カ月の間に、胎盤を通じて胎児、時にはその脳に直接感染し、狭頭症を発症させます。2015年から中南米を中心に流行が拡大しているジカ熱の原因となるジカウイルスと狭頭症の関連も指摘されていますが、科学的にはまだ証明されていません。

乳児の頭蓋骨は、子宮内での圧迫、産道を通る際の圧迫、また寝癖などの外力で容易に変形します。こうした外力による変形は自然に改善することが多いので心配ありませんが、遺伝子の異常やウイルス感染による狭頭症との鑑別が大切です。

乳幼児の頭の形がおかしいと心配な場合は、形成外科や小児脳神経外科の専門医を受診します。

狭頭症の検査と診断と治療

 形成外科や小児脳神経外科の医師による診断では、頭蓋骨のX線(レントゲン)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行い、頭蓋骨縫合の早期癒合部位、縫合の欠損部位を明らかにします。

頭蓋骨の変形はないが、頭が小さく、大泉門(だいせんもん)という前頭部にある頭蓋骨の透き間も触知できない場合は、脳の発育が悪いために脳体積が小さく、頭蓋骨が小さいタイプの狭頭症の可能性が大です。この場合は、頭蓋骨のX線検査、CT検査で頭蓋骨縫合の早期癒合は全くみられません。知能の発達遅滞が顕著で、多くは有効な治療法がありません。

形成外科や小児脳神経外科の医師による治療では、早期癒合による狭頭症の症状には軽度なものから重度なものまであるため、形成外科や脳神経外科の領域のほか、呼吸、循環、感覚器、心理精神、内分泌、遺伝など多くの領域にわたる全身管理を行います。乳幼児の成長、発達を加味して適切な時期に、適切な方法で治療を行うことが望ましいと考えられ、関連各科が密接な連携をとって集学的治療を行います。

狭頭症の治療は、放置すると頭の変形が残ってしまうばかりでなく、脳組織の正常な発達が抑制される可能性があるため、外科手術になります。

手術法としては従来から、変形している頭蓋骨を切り出して、骨の変形を矯正することで正常に近い形に組み直す頭蓋形成術が行われています。乳幼児の骨の固定には、できるだけ異物として残らない吸収糸や吸収性のプレートが用いられます。

近年では、この頭蓋形成術に延長器を用いた骨延長術も行われています。具体的には、頭蓋骨に刻みだけ入れて延長器を装着し、術後に徐々に刻みを入れた部分を延長させ、変形を治癒させるという方法。

骨延長術のメリットとして、出血が少なく手術時間の短縮が図れる、骨を外さないため血行が保たれるので委縮や変形が少ない、骨欠損が比較的早期に穴埋めされる、皮膚も同時に延長可能である、術後に望むところまで拡大可能であるなど挙げられます。一方、デメリットとして、頭蓋形成術より治療期間が長く1カ月程度は入院しなければならない、延長器を抜去する手術が必要となるなどが挙げられます。

さらに、内視鏡下で骨切りを行い、ヘルメットで頭の形を矯正するなどの手術方法も開発されています。

頭蓋骨の手術だけでなく、顔面骨を骨切りして気道を拡大し、眼球突出や不正咬合(こうごう)を適切な位置へ移動させる手術も行われます。

単純な狭頭症であれば、適切な時期に適切な手術が行われれば、一度の手術で治療は完結することが期待できることがあります。クルーゾン症候群性、アペール症候群性の狭頭症では、複数回の手術が必要になることもまれではありません。

頭蓋骨、顔面骨の形態は年齢により変化しますので、長期にわたる経過観察が必要です。

🇧🇾強迫性障害

強迫症状に特徴がある不安障害

強迫性障害とは、強迫症状と呼ばれる症状に特徴付けられる不安障害の一つ。従来、強迫神経症と呼ばれていたものです。

強迫症状は、強迫観念と強迫行為からなります。両方が存在しない場合、強迫性障害とは見なされません。強迫観念は、本人の意思と無関係に、不安感や不快感を生じさせる考えが繰り返し浮かんできて、抑えようとしても抑えられない症状。強迫行為は、不安で不快な強迫観念を打ち消したり、振り払おうとして、無意味な行為を繰り返す症状。

自分でも、そのような考えや行為は不合理である、つまらない、ばかげているとわかっているのですが、やめようとすると不安が募ってくるので、やめられません。例えば、道を歩くのにも電柱を一本一本数えないと歩いて行けない、階段を上り下りするのにも左足からでないと気がすまない、外出の際に家の鍵(かぎ)やガスの元栓を閉めたかが気になって何度も戻ってきて確認する、というような具合です。

強迫性障害は、人種や国籍、性別に関係なく発症する傾向にあります。調査による推測では、日本の全人口の2パーセント前後が相当します。日本では、対人関係、人間関係に関連した強迫症状が多いのが特徴で、他人と違うことを嫌う社会であるため、幼少期から人間関係に気を使うのが大きな原因とみられます。

20歳前後の青年期に発症する場合が多いとされますが、幼少期、壮年期に発症する場合もあるため、青年期特有の疾患とはいい切れません。経過は一般に慢性で、よくなったり悪くなったりしながら、長期間に渡って続くのが普通です。ストレスにより、強迫症状が悪化する傾向にあります。また、うつ病が半数以上に合併してくることも特徴で、より苦痛が大きなものとなり、自殺などへの注意が必要になってきます。

特別なきっかけなしに徐々に発症してくる場合が多く、完全な原因はわかっていません。大脳基底核、辺縁系など脳内の特定部位の障害や、セロトニンやドーパミンを神経伝達物質とする神経系の機能異常、心理的な要因、体質など複数の要因が関係して、発症するのではないかと推定されています。双生児研究から、遺伝的な要因を指摘する説もあります。

発症者の共通点として、もともと几帳面(きちょうめん)であったり、融通が効かずに生真面目(きまじめ)であったりする性格傾向が挙げられています。

一般的な強迫症状と、付随する状態

強迫症状の内容には、個人差があり、人間のありとあらゆる心配事が要因となり得ます。しかし、比較的よく見られる症状があるため、これを下記に記します。

それぞれの症状についても、発症者自身の対処、すなわち強迫行為の内容は異なり、一人の発症者が複数の強迫症状を持つことも、一般的にみられます。

不潔強迫(洗浄強迫)

便、尿、ばい菌などで汚染されたのではないかと気になり、人を近付けない、物に触れないなどの回避行動をとります。物に触った後や、帰宅後には、手を何度も洗わないと気がすまなかったり、シャワーや風呂に何度も入らないと気がすみません。

確認強迫

外出や就寝の際に、家の鍵やガスの元栓、窓を閉めたかが気になり、何度も戻ってきては執拗(しつよう)に確認します。電化製品のスイッチを切ったか、度を越して気にもします。

加害恐怖

自分の不注意などによって、他人に危害を加える事態を異常に恐れます。例えば、車の運転をしていて、気が付かないうちに人をひいてしまったのではないかと不安にさいなまれて、確認に戻るなどです。

被害恐怖

自分自身に危害を加えること、あるいは、自分以外のものによって自分に危害が及ぶことを異常に恐れます。例えば、自分で自分の目を傷付けてしまうのではないかと不安にさいなまれ、鋭利なものを異常に遠ざけるなどです。

計算強迫

物の数や回数が気になって、数えないと気がすみません。

縁起強迫(縁起恐怖)

自分が宗教的、社会的に不道徳な行いをしてしまうのではないか、あるいは、してしまったのではないかと恐れるもの。例えば、信仰の対象に対して冒とく的なことを考えたり、発言てしまうのではないか、赤ん坊の首を絞めるのではないかなどと恐れ、恥や罪悪の意識を持ちます。ある特定の行為を行わないと、病気や不幸などの悪い事柄が起きるという強迫観念にさいなまれる場合もあり、靴を履く時は右足からなど、ジンクスのような行動が極端になっているものもみられます。

不完全強迫(不完全恐怖)

物を順序よく並べたり、対称性を保ったり、きちんとした位置に収めないと気がすまないもの。例えば、机の上にある物や家具が自分の定めた特定の形になっていないと不安になり、常に確認したり直そうとするなど。物事を進めるに当たって、特定の順序を守らないと不安になったりするものもあります。

数唱強迫

不吉な数や、こだわりの数があり、その数を避けたり、その回数を繰り返したりします。例えば、数字の4は死を連想するため、日常生活で4に関連する事柄を避けるなどの行為。

個人差によって、以下のような状態が強迫症状に付随することもあります。

回避

強迫観念や強迫行為は発症者を疲れさせるため、強迫症状を引き起こすような状況を避けようとして、生活の幅を狭めることを回避と呼びます。重症になると、家に引きこもったり、ごく狭い範囲でしか生活しなくなることがあります。回避は強迫行為と同様に、社会生活を阻害し、仕事や学業を続けることを困難にしてしまいます。強迫症状を緩和するために、アルコールを飲み続けてアルコール依存症になる例もあります。

巻き込み(巻き込み型)

強迫行為が自分自身の行為だけで収まらず、自分で処理しきれない不安を振り払うために、家族や友人に手などを洗ったり、誤りがないか確認するなどの行為を懇願したり、強要したりする場合があります。これを巻き込み、または巻き込み型といいます。巻き込みにより、本人のみならず周囲の人も、強迫症状の対応に疲れ切ってしまうことがあります。

強迫性障害の診断と治療

病気に気付いたら、精神科を受診してください。うつ病や統合失調症など他の精神疾患や、脳器質性疾患の可能性もあるので、それらとの区別のための専門的な診断や検査も必要です。

脳炎、脳血管障害、てんかんなど脳器質性疾患でも強迫症状がみられますので、区別のための血液検査、髄液検査、頭部CTやMRIといった画像検査、脳波検査などが必要になります。

治療法には、薬物療法と精神療法があります。薬物療法としては、三環系抗うつ薬であるクロミプラミンが有効であることが確認され、神経伝達物質が病因の一つであることが考えられるようになりました。次いで、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が登場し、第1選択薬の地位を占めることになりました。ベンゾジアゼピン系の抗うつ薬も用いられ、また、不安レベルを下げるという意味で抗不安薬が併用される場合もあります。有効率は50パーセント前後と見なされています。

精神療法では、暴露反応妨害法と呼ばれる認知行動療法の有効性が、確かめられています。認知行動療法とは、認知や行動の問題を合理的に解決するために構造化された治療法で、認知のゆがみの修正、不適応行動を修正して適応行動を再学習するというもの。暴露反応妨害法では、強迫症状が出やすい状況に発症者をあえて直面させ、強迫行為を行わないように指示し、不安感や不快感が自然に消失するまでそこにとどまらせるという方法です。これらを発症者の不安や不快の段階に応じて、実施します。

認知行動療法は単独でも用いることができますが、強迫観念が強い場合、薬物療法導入後に行うほうが成功体験が得られやすくなります。適応する発症者が限られており、専門家が少ないのが難点です。

🇲🇩急迫性尿失禁

急な強い尿意を催し、トイレに間に合わずに尿が漏れる状態

急迫性尿失禁とは、急な強い尿意を催し、トイレにゆく途中やトイレで準備をする間に、尿が漏れる状態。切迫性尿失禁とも呼ばれます。

この急迫性尿失禁は、自分の意思に反して勝手に膀胱(ぼうこう)が収縮する過活動膀胱が主な原因です。過活動膀胱の症状は、我慢できないような強い尿意である尿意切迫感と、昼夜を問わない頻尿です。

普通、膀胱が正常であれば400~500mlの尿をためることが可能で、尿が250~300mlくらいになると尿意を感じて排尿が始まりますが、過活動膀胱では100ml前後の尿がたまると膀胱が収縮するために、突然の尿意を催して、我慢できなくなるのが特徴です。膀胱が正常であれば、尿意を感じ始めて10~15分ぐらいは我慢できることもありますが、過活動膀胱ではそれも難しいとされています。

この過活動膀胱を主な原因として起こる急迫性尿失禁は、せきやくしゃみ、運動時など、腹部に急な圧迫が加わった時に尿が漏れる腹圧性尿失禁と区別されていますが、実際は、切迫と腹圧の2つの要因が重なって失禁に至ることもあり、混合性尿失禁と呼ばれます。

過活動膀胱の人はとても多く、日本では40歳以上の男女のうち8人に1人は過活動膀胱の症状があり、その約半数に急迫性尿失禁の症状があると報告されています。近年40歳以下でも、過活動膀胱の症状に悩まされている人が大変多くなってきています。

女性が過活動膀胱になる最も多い原因は、膀胱と尿道を支えている骨盤底筋群や骨盤底を構成する靱帯(じんたい)が弱まる骨盤底障害です。骨盤底筋群や靱帯が弱まってたるむと、膀胱の底にある副交感神経の末端が膀胱に尿が十分にたまらないうちから活性化して、突然強い尿意が出るようになるのです。

女性は若い時は妊娠や出産で、また、更年期以降は老化と女性ホルモン低下の影響で骨盤底障害になりやすいので、男性よりも多くの発症者がいます。男性の場合も、老化や運動不足で骨盤底筋や尿道括約筋が衰えることによって過活動膀胱になることがあります。

また、男女ともに、脳と膀胱や尿道を結ぶ神経のトラブルで起こる過活動膀胱も増えています。こちらは、脳卒中や脳梗塞(こうそく)などの脳血管障害、パーキンソン病などの脳の障害、脊髄(せきずい)損傷や多発性硬化症などの脊髄の障害が原因となります。

過活動膀胱のほか、急迫性尿失禁は膀胱炎、結石などによって膀胱の刺激性が高まって起こるものもあります。

尿失禁は恥ずかしさのため医療機関への受診がためらわれ、尿パッドなどで対処している人も多いようですが、外出や人との交流を控えることにもつながりかねません。次第に日常生活の質が低下することも懸念されます。症状が続くようであれば、泌尿器科を受診することが勧められます。

急迫性尿失禁の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、一般的に、初診時に問診を行い、尿失禁の状況、出産歴、手術歴、婦人科疾患の有無、便秘の有無などを質問します。急迫性尿失禁の主な原因となる過活動膀胱かどうかを調べるための過活動膀胱スクリーニング質問票(リンク)や、過活動膀胱の症状の程度を調べるための過活動膀胱症状質問票(OABSS)という簡単な質問票を、診断のために使うこともあります。

問診以外には、膀胱の状態を調べるための検査を行うこともあります。急迫性尿失禁の症状があるからといって、必ずしも過活動膀胱とは限りませんので、ほかの疾患の可能性も含めて確認するための検査です。初診で行う検査は、主に腹部エコー検査(残尿量の測定)、血液検査、尿検査など比較的簡単な検査で、過活動膀胱の検査には尿流測定、パッドテスト、ストレステストなどもあります。

泌尿器科の医師による治療では、膀胱の収縮を阻止し、副交感神経に働く抗コリン剤(ポラキス、BUP−4)、または膀胱壁の筋肉である排尿筋を弛緩(しかん)させるカルシウム拮抗(きっこう)剤(アダラート、ヘルベッサー、ペルジピン)を用います。抗コリン剤を1~2カ月内服すると、過活動膀胱の80パーセントの発症者で改善されます。

次の治療では、できるだけ尿意を我慢して、膀胱を拡大するための訓練をします。毎日訓練すると、膀胱が少しずつ大きくなって尿がためられるようになりますので、200~400mlくらいまでためられるように訓練します。排尿間隔を少しずつ延長させ、2時間くらいは我慢できるようになれば成功です。尿道を締める筋肉の訓練も必要です。

難産を経験した女性、40歳を過ぎた女性で、時に急迫性尿失禁と腹圧性尿失禁が重なる混合性尿失禁を起こしている場合、尿道、膣(ちつ)、肛門(こうもん)を締める骨盤底筋体操が割合効果的です。肛門の周囲の筋肉を5秒間強く締め、次に緩める簡単な運動で、仰向けの姿勢、いすに座った姿勢、ひじ・ひざをついた姿勢、机に手をついた姿勢、仰向けになり背筋を伸ばした姿勢という5つの姿勢で、20回ずつ繰り返します。

朝、昼、夕、就寝前の4回に分けて、根気よく毎日続けて行うのが理想的です。3カ月以上続けても効果のない場合には、手術が必要となる可能性が高くなります。

骨盤底筋の強化を目的として、電気刺激によって骨盤底筋や尿道括約筋など必要な筋肉を収縮させる電気刺激療法もあります。また、腟内コーンという器具を腟内に15分程度、1日2回ほど保持し、それを徐々に重たいものに変えていくことで骨盤底筋を強化し、症状を軽減する方法もあります。

重症例や希望の強い場合などには、手術による治療を行います。尿道括約筋の機能が低下している場合には、尿道の周囲にコラーゲンを注入する治療や、尿道括約筋を圧迫するように腹部の組織や人工線維で尿道を支えるスリング手術、日本ではあまり行われていない人工括約筋埋め込み術などがあります。

🇲🇩強皮症(全身性硬化症)

皮膚が硬くなるのを特徴とする膠原病の一つ

強皮症とは、皮膚や内臓が硬くなるのを特徴とする膠原病の一つ。別名を全身性硬化症といいます。

30〜50歳代の女性に多くみられ、男女比は1:9、日本での発症者は推定で6000人。自己抗体の産生など原因は複雑であり、はっきりとはわかっていません。

最初にみられる症状は、冷水などに触れると手指が真っ白から青紫色になるレイノー現象で、その後、徐々に進行していきます。手指がこわばって、はれぼったくなり、皮膚が硬くなってきて、皮膚の色も黒くなります。中には、皮膚硬化がゆっくりとしか進行しないケースも多く、疾患に気が付かなかったり、医療機関を受診しても診断されなかったりすることもしばしばあります。

さらに進行した場合は、指が曲がったまま伸ばせなくなります。そのため、物をつかむことができにくくなります。指先に潰瘍(かいよう)ができたり、つめが変形することもあります。次第に、皮膚の硬化が全身に広がることもあります。

顔面の皮膚が硬くなると、表情が乏しくなる仮面様顔貌となり、口が開けにくくなったり、口の周囲に放射状のしわができます。

食道に硬化が及ぶと、胃酸が食道に逆流して胸焼けや、つかえる感じがします。腸に病変が起こると、下痢や便秘のほか、栄養を吸収しにくくなり、やせます。肺に病変が起こると、せき、息切れを引き起こします。腎(じん)臓に病変が起こると、血管の障害によって高血圧が生じる強皮症腎クリーゼを引き起こし、急激な血圧上昇とともに、頭痛、吐き気が生じます。腎不全を引き起こすこともあります。

強皮症の検査と診断と治療

強皮症では、発症5〜6年以内に皮膚硬化の進行と内臓病変が出現してきます。発症5〜6年を過ぎると、皮膚は徐々に軟らかくなってきて、皮膚硬化は自然によくなります。しかし、内臓病変は元には戻りませんので、できるだけ早期に治療を開始して、内臓病変の合併や進行をできるだけ抑えることが極めて重要となります。

医師による検査では、皮膚硬化のはっきりしない発症間もないケースや、症状の軽いケースでは、皮膚硬化の有無を確認するための皮膚生検が重要となります。この検査は皮膚の一部を切り取って、顕微鏡を用いて判断するもの。局所麻酔をかけて行われるので、痛みはほとんどありません。皮膚硬化がはっきりしているケースでも、どの程度皮膚硬化が進行しているかを判断する上で、皮膚生検は不可欠です。

一般血液検査の中で、最も重要な検査は抗核抗体の検査です。強皮症の発症者では90パーセント以上で抗核抗体が陽性となりますので、診断するためには非常に有用です。内臓の変化を調べるさまざまな検査も、強皮症と診断するために不可欠です。

強皮症自体を根本から治療する方法は、まだ解明されていません。レイノー現象を始め、症状に応じた治療が行われます。ある程度の効果を期待できる治療法としては、皮膚硬化に対してステロイド剤、肺の病変に対してシクロホスファミドないしエンドセリン受容体拮抗剤、食道の病変に対してプロトンポンプ阻害剤、血管の病変に対してプロスタサイクリン、強皮症腎クリーゼに対してACE阻害剤などの薬剤の使用が挙げられます。肺や腎臓に病変が起こった場合は、入院治療が必要です。

🇧🇾胸腹裂孔ヘルニア

横隔膜に生まれ付き開いている穴を通して、腹腔の臓器が胸腔へ脱出

胸腹裂孔ヘルニアとは、横隔膜に生まれ付き開いている穴を通して、腹腔(ふくくう)内の臓器が胸腔内に入り込んだ状態。先天性の横隔膜ヘルニアの一つで、ボックダレック孔ヘルニア、後外側ヘルニア、後外側裂孔ヘルニアなどとも呼ばれます。

先天性の横隔膜ヘルニアの中でも、穴の位置や大きさによってはほとんど症状や障害を起こさないものがありますが、胸腹裂孔ヘルニアは横隔膜の後ろ外側に穴があるタイプで、多くは生まれた直後から呼吸困難など生命にかかわる重大な症状を来します。新生児2000〜3000人に1人の割合で、認められています。

横隔膜は、肺の下に位置していて胸腔と腹腔を区切る膜で、上のほうは胸膜、下のほうは腹膜で覆われています。この筋肉層の丈夫なドーム状の膜である横隔膜が上下することによって、呼吸ができます。

胎児が母胎にいる時、次第に横隔膜が形成されてきて、妊娠2カ月半ころにはしっかりと横隔膜が胸腔と腹腔を区切るのですが、何らかの原因で横隔膜の胸腹裂孔(ボックダレック孔:解剖学者の名前)がきっちりと閉じ切らないことがあります。このころは、腹腔の外に一度出ていた腸などの臓器が腹腔の中に戻って来る時期で、穴があると臓器が胸腔に入り込むことになり、横隔膜が閉じようとしても脱出した臓器がじゃまをして閉じられなくなってしまいます。

小腸、大腸、胃、脾(ひ)臓,肝臓などたくさんの臓器が胸腔に入り込むと、穴の開いていない側の肺も圧迫され、肺の発達が両側とも障害され、生まれてからひどい呼吸困難を来すこととなります。横隔膜にできる穴はどちらの側にも発生しますが、左側が75パーセントと多く、時には片側の横隔膜がほとんどできていないこともあります。

症状の程度は、発症の時期により異なります。胎児の場合はへその緒から酸素をもらっているので平気なのですが、出生後は自分で呼吸しなければならないため、多くの場合は重症の呼吸不全、高度のチアノーゼを伴った多呼吸が認められます。胸部は膨らんで盛り上がり、逆に、うまく空気が回らない腹部はへこんでいるのも特徴です。呼吸障害が強く、出生直後から人工呼吸管理が必要になります。

特殊な例としては、出生直後には呼吸器症状は示さず、年長になってから、風邪をひいて強いせきをした時や腹部を打撲した時に発症する場合があります。これを遅発性胸腹裂孔ヘルニアといい、速やかに手当てを受ければほぼ助かります。

胸腹裂孔ヘルニアの検査と診断と治療

先天性で胸腹裂孔ヘルニアを持って生まれてくる場合、大抵は胎児が母胎の中にいるうちに医師が胎児超音波検査で気付き、早期に帝王切開で出産することになります。

成長すればするほど脱出した臓器が胎児の肺を押しつぶし、危険な状態になっていくからで、出生直後から人工呼吸管理を行った上で、体の血液循環を安定させ、できるだけ早期に、手術に耐えられるようになった時点で速やかに、生育時に閉じ切れなかった横隔膜を閉じる手術が行われます。

すべての医療機関で可能な方法ではないものの、人工肺(ECMO)という特殊装置を用いて新生児の血液循環を改善させてから、手術が行われることもあります。横隔膜の欠損が大きい場合は、人工膜を使用して横隔膜の形成手術が行われます。

しかし、最高の環境で早期に手術が行われても、生存率は芳しくないのが実情です。出生後24時間以内に緊急手術が必要な症例では予後が悪く、救命率は約50パーセント程度と見なされています。出生後1日以上を経過してから呼吸障害などで胸腹裂孔ヘルニアが見付かった場合や、生後たまたま他の疾患の検査時に見付かった場合は、肺の発育が良好なため、治療成績は格段に良好です。

年長になってから発症する遅発性胸腹裂孔ヘルニアでは、100パーセント救命されます。

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