2022/08/12

🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿急性音響性難聴

極めて大きな音により急性に引き起こされる音響性聴力障害

急性音響性難聴とは、極めて大きな音を急に聞くことで引き起こされる聴力障害。音響外傷と呼ばれることもあります。
 音量の大きな音楽を演奏するロックバンドのライブコンサートやショー、イベントなどの数時間の観覧、ヘッドホンやイヤホンを介した大音量での長時間の音楽鑑賞が原因となって、若い人に症状が起こることもあり、ロック難聴やヘッドホン難聴と呼ばれることもあります。
 また、祝賀用の爆竹の破裂音、花火の破裂音、ピストルの発砲音を繰り返し聞く、大音量の爆発音を何度も聞く、工場の機械の瞬間的に生じた大きな作動音を聞くことでも、急性音響性難聴の症状が起こります。
   音は空気の振動によって、外耳道から鼓膜を介して中耳へと伝わります。中耳にある骨が振動すると内耳へと情報が伝わり、内耳の中の蝸牛(かぎゅう)にあるリンパ液が振動を受けます。この振動を有毛細胞と呼ばれる感覚細胞が感知することで、脳へと音の情報が伝わります。
 急性音響性難聴は、一定レベルを超える大音量にさらされることにより、音を感知する有毛細胞が障害を受けることで発症します。
 症状は、音が聞こえにくくなる難聴、耳鳴り、耳が詰まったり、こもったりする感じが生じる耳閉感、耳の痛みです。めまいや吐き気を伴うこともあります。
 音が聞こえにくくなる難聴の場合、音全般が聞こえにくくなったり、低音だけ聞こえが悪くなったりなど症状はさまざまです。
 症状は一時的に起こり、自然に回復する場合もあります。また、音の発生源に近いほうの耳だけに、症状が起こることもあります。
 軽度のものであれば音から離れることで症状が改善しますが、重篤な場合には難聴や耳鳴りが永続化してしまうこともあります。
 大音量にさらされた後、難聴、耳鳴りなどの症状が続く場合は、早めに耳鼻咽喉(いんこう)科を受診してください。

急性音響性難聴の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、大きな音にさらされたという情報が有益になります。
 検査としては、まずは耳の中をのぞくことができる耳鏡を使って、鼓膜に穴が開く鼓膜穿孔(せんこう)がないかを確かめます。次に、耳の聞こえが低下していることを確認するために、純音聴力検査を行います。さまざまな振動数の音がどれくらい聞こえているかを調べる検査で、左右それぞれの耳で行います。状況によっては、めまいに関する検査をすることもあります。
 耳鼻咽喉科の医師による治療では、耳の神経の修復を助けるホルモン剤、ビタミン剤、循環改善剤などを用いることがあります。状況によっては、ステロイド剤を使うこともあります。
 難聴の程度が軽く、早期に治療を始めた場合には、回復する可能性があります。
 難聴の症状が固定すると、症状を完全に回復させることが難しい場合もあるため、音を聞く際には適度に休憩をとるなど予防策を講じることが大切です。
 イヤホンで音楽を聞く際には、音量を大きくしすぎず、長時間にわたって聞かないようにします。また、ライブコンサートなどの観覧に際しては、会場の音が強いと感じるようであればその場から離れたり、耳栓を使用したりするなど耳を保護する対策を講じることが重要です。
 耳の神経は疲れやストレスの影響を受けるため、心身の安静を保つことも必要です。規則正しい生活を送り、ストレスをため込まないことが大切。

🇬🇧急性化膿性限局性外耳道炎

外耳道の入り口に生えている毛穴から細菌が入って炎症を起こし、膿を持つ疾患

急性化膿(かのう)性限局性外耳道(がいじどう)炎とは、外耳道の外側3分の1に位置する軟骨部外耳道に起こる限局性外耳道炎が悪化し、膿瘍(のうよう)ができる疾患。急性限局性外耳道炎、耳せつとも呼ばれます。

外耳道炎は、耳の穴の入り口から鼓膜までの空洞である管腔(かんくう)、つまり外耳道の皮膚に、細菌が感染して炎症が起こる疾患であり、この外側3分の1に位置する軟骨部外耳道に起こる限局性外耳道炎と、内側の3分の2に位置する骨部外耳道に起こるびまん性(広汎〔こうはん〕性)外耳道炎とに分かれます。

急性化膿性限局性外耳道炎に悪化する以前の限局性外耳道炎の症状は、耳がツンとしたり、かゆかったり、熱いような感じがします。耳鳴りを伴うこともあります。この時に耳に触るとチクッとした痛みを感じるのが特徴で、これが耳を触らなくても痛む中耳炎と異なる点です。

口を開けたり、食事をした時にも、痛むことがあります。炎症がひどいと、軽い難聴を伴うこともあるものの、一般的には聴力に影響するようなことはありません。

限局性外耳道炎の症状が進んで、毛穴から化膿菌が入って増殖し、毛を包んでいる毛包とその周囲に膿瘍、すなわち、せつができる急性化膿性限局性外耳道炎になると、耳に触らなくても痛むようになり、痛みも強くなってきます。時には痛くて夜眠れないということもあります。

炎症がピークを過ぎると膿瘍が破れて、膿(うみ)が出てしまい、痛みは自然に治まります。

鼓膜に近付くと毛は生えていないので、耳せつが外耳道全体に広がることは、ほとんどありません。鼓膜や中耳への影響も、ほとんどありません。

びまん性外耳道炎の場合も、かゆかったり、熱いような感じがするのが一般的な自覚症状です。慢性化すると、かゆみがひどくなり、時に耳が詰まる感じがする耳閉感が出てきます。病変が鼓膜方向に進展すると、鼓膜の炎症、肥厚を合併することがあります。

急性化膿性限局性外耳道炎などの外耳道炎の原因は、耳かきや不潔な指先で外耳道をいじって傷を付けたため、そこから細菌、主にブドウ球菌が入り、その細菌に感染して起こるのが一般的です。中耳炎などで耳垂れ(耳漏)があると、その細菌が外耳道に侵入し、感染して起こることもあります。

また、洗髪時や水泳時などに温水や水が耳に入ったままになって、細菌感染を起こすこともあります。白髪染めや化粧品なども、要注意です。さらに、免疫が低下した糖尿病の人にも起こりやすく、複数の膿瘍ができて、何度も症状を繰り返し、治りにくいとされます。

急性化膿性限局性外耳道炎を発症しても、炎症が軽度で元の外耳道が健康であれば、多くの場合は放置しても自然に治ります。1〜2日たっても症状が軽快しない場合は、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。

急性化膿性限局性外耳道炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、耳介の後ろ下や前方の下部がはれていて、触ると痛く、耳垂れに血や膿が混じっていても、ねばねばした粘液が混じっていないことなどから、判断します。

また、X線(レントゲン)検査で骨の部分に異常がなく、聴力検査で異常がないことも、判断の目安となります。細菌検査を行うと、ブドウ球菌が頻繁に認められます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、まず耳垢(みみあか)を取り除きます。鼓膜内視鏡で耳の中を見ながら、耳垢鉗子(じこうかんし)や耳専用の器具で耳垢をつまんだり、細い吸引管で耳垢を吸い取ります。耳垢が硬くて取り除きにくい場合は、薬で耳垢を軟らかくしてから洗浄、吸引する方法を行います。

耳垢を取り除いた後は、外耳道の消毒を行って清潔にした上で、抗生剤やステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)を含んだ軟こうの塗布、抗生剤の内服を行います。

耳の痛みがある場合には、鎮痛剤を内服して痛みを抑えます。耳のかゆみがある場合には、かゆみ止めを内服してかゆみを抑えます。

さらに、潰瘍、すなわち、せつが破れて膿が出るのを早めるために、温湿布、サリチル酸の塗布、また、綿花で作ったタンポン(ゴットスタイン・タンポン)で圧迫します。

膿瘍が明らかに目立つ場合や、激痛を伴う場合は、潰瘍をメスで切開することもあります。

日常の予防法としては、外耳道を常に清潔に保ち、耳かき、手指などで外耳道の奥まで強くいじらないようにすることです。外耳道は耳垢を奥のほうからベルトコンベアー式に出すので、耳掃除は綿棒やタオルで軽くふく程度で十分でしょう。また、洗髪や水泳時には、温水や水を入れて外耳道を刺激しないように注意することです。

🇬🇧急性化膿性乳腺炎

乳房内に細菌が感染することによって起こる急性疾患

急性化膿性乳腺炎(きゅうせいかのうせいにゅうせんえん)とは、女性の乳汁を分泌する乳腺に急性の炎症が起こる疾患。ほとんどは、授乳期、ことに産褥(さんじょく)期にみられます。

出産後2~6週のころに乳腺内に乳汁がたまり、ここに主に黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、時には大腸菌、緑膿菌による細菌感染が起きて、乳房全体にはれが生じます。炎症が進むと、乳房が硬く赤くはれて、激しく痛み、熱感があります。

その後、炎症が1カ所に固まってくると、膿瘍(のうよう)を作り、時には自然に破れて膿(うみ)が外に出ることもあります。わきの下のリンパ節がはれたり、全身に寒けや震えが出て、時に40℃以上にも発熱することもあります。

急性化膿性乳腺炎を予防するためには、乳汁をためないように積極的に授乳をして、乳腺を空にしておくことと、乳頭、乳輪を清潔にして細菌感染を防ぐことが大切。

急性化膿性乳腺炎の検査と診断と治療

乳腺外科、外科、産科、産婦人科の医師による診断では、視診、触診、血液検査、超音波(エコー)検査などを行います。血液検査での白血球数の増加、CRP(C反応たんぱく)値の上昇が参考になります。

膿瘍が確認できれば、膿汁を穿刺(せんし)吸引して培養により起因菌を特定し、抗生物質の感受性検査を行います。極めてまれに炎症性乳がんの場合もあるので、鑑別の目的で穿刺物を顕微鏡で調べる組織生検を行うこともあります。

乳腺外科、外科、産科、産婦人科の医師による治療では、初期には乳房を冷湿布して、乳汁は搾乳器で搾り出します。乳房は安静を保つためブラジャーなどで固定し、マッサージをしてはいけません。

抗生物質の注射か内服と、鎮痛薬、消炎薬の内服をします。抗生物質ではペニシリンやセフェム系の薬がよく使用されますが、耐性菌を生じやすいので注意が必要です。

化膿が進み膿瘍ができたら、注射針を刺して膿を吸引したり、局所麻酔をかけて皮膚を切開して膿を出さなければなりません。これらの治療が功を奏すると、急速に症状は改善します。

膿瘍ができた場合、抗プロラクチン薬で乳汁分泌を抑制します。もちろん、授乳はストップしなければなりません。

🇬🇧急性肝炎

原因はほとんどが肝炎ウイルス

急性肝炎とは、肝臓が炎症を起こす肝炎が発病して、6カ月以内のものを指します。普通の経過を取る定型的な急性肝炎と、非定型的な急性肝炎の2つに分けられます。

定型的な急性肝炎の原因は、ほとんどが肝炎ウイルス。原因ウイルスにより、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎があります。日本ではD型肝炎、E型肝炎の発症はまれですが、E型肝炎については最近、増加傾向にあるため留意が必要です。

肝炎ウイルス以外を原因とする急性肝炎では、薬物によるものや健康食品による肝障害、肝炎ウイルス以外のEBウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルスなどの感染が原因となります。これらの原因によるものを急性肝炎に含めず、それぞれの疾患の範囲に入れることもあります。

日本では、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎の発症が多くみられ、肝臓の病気のうち、比較的頻度の高いものになっています。感染して発病する3つの肝炎ウイルスが、肝臓に取り込まれやすい性質を持っているためです。

感染経路は、A型肝炎やE型肝炎のように、ウイルスに汚染された水や食べ物から経口感染するものと、B型肝炎やC型肝炎のように、既感染者の血液や分泌物を介して非経口的に感染するものがあります。

急性肝炎各型の占める比率は、A型肝炎の発症例が年度により大きく異なるために著しく変動します。日本国内の国立病院、療養所専用情報ネットワークを利用した肝疾患共同研究のデータによれば、急性肝炎各型の比率は、A型肝炎約30パーセント、B型肝炎約35パーセント、C型肝炎約13パーセント、それ以外の肝炎(非A非B非C型肝炎)約22パーセントとなっています。

全身の倦怠感、高熱、黄疸が症状

A型肝炎は、A型肝炎ウイルス(HAV)が原因のウイルス性肝炎の一種。慢性化することはありません。日本では、だいたい60歳以下の戦後生まれの世代で、A型肝炎に対する抗体を持っていない人が多く、これらの人々がA型肝炎の流行地へ旅行することで感染するパターンが主。

A型肝炎ウイルスに汚染された水や野菜、魚介類などを生で食べることにより感染します。食物を介さずに、糞便(ふんべん)に汚染された器具、手指などを経て人から人へ感染することもあります。

感染力が強く、集団発生することがあります。また、患者の発生報告には季節性があり、例年春先になると感染者数が増加しますが、その理由は明らかではありません。

感染してから2~6週間の潜伏期間を経て発病し、症状の特徴は発症が急激であり、全身倦怠(けんたい)感など風邪と似た症状と、食欲不振などの消化器症状で始まり、高熱、寒気、さらに頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢、腹痛、皮膚の発疹(ほっしん)が続くこともあります。腹痛については、肝臓が急にはれるため、上腹部に鈍痛があり、その部分を押すと痛みを感じます。

やがて、尿の色は褐色調が強くなり、黄疸(おうだん)がみられる時期にはさらにその濃さが増します。黄疸の程度は、発病後1~2週間たつと強くなりますが、自覚症状はむしろ軽快してきます。食欲も出てきますが、肝臓の病変はまだ最盛期ですので、絶対安静が必要です。

普通は1カ月以内に症状はなくなります。軽いものは数日で消失し、経過もよいようです。

A型肝炎の流行地へ旅行する際には、あらかじめ医療機関でA型肝炎ワクチンの接種を行うことで、予防することができます。

B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)が原因のウイルス性肝炎の一種。1~2パーセントが慢性化します。血液や体液を介して感染しますが、経路は性交渉、輸血、医療事故、負傷、母子感染などによるものです。

潜伏期間は、1~6カ月と幅があります。症状はA型ほど急激でなく、強くありませんが、A型と同様の倦怠感、消化器症状、黄疸が出現します。

C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)が原因のウイルス性肝炎の一種。かつては非A非B型肝炎と呼ばれていましたが、1989年にアメリカのカイロン社が開発したHCV抗体の検出法により、診断が可能となりました。

主な感染経路は輸血を始めとする医療行為でしたが、献血時の抗体スクリーニングが徹底して、輸血後肝炎としてのC型肝炎は激減。しかし、患者の半数には輸血歴がなく、母子感染や性行為などの経路も想定されます。

一般に発症が緩やかで、症状が軽いのが特徴ですが、慢性肝炎に移行する可能性があります。慢性化すると、かなり高い確率で肝硬変や肝がんになりますので、持続的に感染している場合は、定期的な検査が必要です。薬物常用者、医療従事者などハイリスク群では、特に留意が求められます。

慢性肝炎に移行した場合には、ウイルスを体外へ排除して治癒を図るインターフェロン療法が期待されます。

D型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルス感染者にのみ感染するという変わった感染因子で、B型肝炎ウイルスの助けを借りて、初めて感染が起こるという不完全なウイルスです。

しかし、いったんかかると重症な肝炎になる危険がありますので、要注意です。血液や体液を介して感染し、地中海沿岸で発生しています。日本では、この型の肝炎は極めてまれとされています。

E型肝炎は、E型肝炎ウイルス(HEV)に汚染された水や食べ物から経口感染し、吐き気、食欲不振などの症状が出るウイルス性肝炎の一種。通常、一過性で慢性化しませんが、まれに激症化して死亡することがあり、妊娠末期に感染すると重症化する頻度が高くなります。

約100年前にイギリスから輸入された豚と一緒に、日本国内に入ってきた可能性があるという研究結果がありますが、従来、開発途上国を旅行した人が水などから感染するケースが多い、とされてきました。

2002年以降は、国内での感染が疑われるケースが急増し、02~04年が20件前後、06年は44件という報告があります。その背景には、高度なE型肝炎ウイルス遺伝子の検出法が広まったことがある、と見なされています。鹿(しか)肉や豚レバー、猪(いのしし)肉による感染例、輸血で感染した例も報告されています。

野性の猪の5~10パーセントがE型肝炎ウイルスを保有している可能性があるとされますので、野性動物の肉の生食は避け、しっかり火を通すことと、生肉に触れた、まな板、はしは熱湯消毒することが、感染の防止に必要とされます。

十分な安静を取るのが治療法の基本

急性肝炎の診断は、血液をとって成分を調べる血液検査、超音波やCTを使って調べる画像診断、肝臓の細胞を採取して調べる肝生検により行われ、病気の進行度や治療効果、副作用発現の可能性などが評価されます。

急性肝炎の治療は、入院して十分な安静を取り、完全に治すことが基本となります。8週間以内に急性肝不全症状が出現する劇症肝炎に進行すると、短時日で死亡することもあるからです。食欲がなく栄養を十分に取れない時には、ブドウ糖を中心とした点滴により栄養を補い、体力の維持に努めます。

急性肝炎はほとんどの場合、数カ月で症状は治まります。しかし、B型肝炎やC型肝炎では炎症が治まらずに慢性化し、薬による治療が必要になる場合もあります。

この場合の薬物療法においては、インターフェロン療法でウイルスを体外へ排除し治癒を目指すか、対症療法として肝庇護(ひご)剤を使用して肝臓の炎症を抑える治療を行うかが選択されます。

🇱🇺急性感染性多発性神経炎

筋肉を動かす運動神経の障害で、急に手足が脱力

急性感染性多発性神経炎とは、広範囲に渡って末梢(まっしょう)神経を侵してくる多発性神経炎の一種で、ウイルスなどの感染が関係している自己免疫疾患。ギラン・バレー症候群とも呼ばれています。

筋肉を動かす運動神経の障害のため、急に両手両足に力が入らなくなります。小児まひ(ポリオ)が発生しなくなった先進国においては、脳卒中を除けば、急に手足が動かなくなる原因として最も多い疾患であることが知られています。人口10万人当たり年間1〜2人発症し、日本では少なくとも年間2000人以上発症していることが推定されています。日本では特定疾患に認定された指定難病。

慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど多くの自己免疫疾患は女性のほうが多いのですが、急性感染性多発性神経炎では男性のほうがかかりやすいと見なされています。乳児から高齢者まで、どの年齢層でも発病し得ますが、遺伝はしません。

発症の原因は、ウイルスなどを排除して自分を守るための免疫システムが異常となり、運動神経、感覚神経など自分の末梢神経を攻撃するためと考えられています。最も症状の強いピークの時には、約3分の2の発症者の血液中に、神経に存在する糖脂質という物質に対する抗体が認められ、これが自分の神経を攻撃する自己抗体として働いている可能性があります。そのほかに、リンパ球などの細胞成分やサイトカインなどの液性成分も、関係していると考えられています。

約7割ほどの人が発症の前に、風邪を引いたり、下痢をしたりしています。軽い発熱、頭痛、咽喉(いんこう)痛、下痢が数日続いた後、1週間前後を経て、急に手足の脱力が始まってくるのが普通です。片側の手足が動かなくなる脳卒中と異なり、両手両足が動かなくなります。大部分の人は運動神経だけでなく感覚神経も傷害されて、手足の先のしびれ感もしばしば伴います。

顔面の筋肉や目を動かす筋肉に力が入らなくなって、目を閉じられなくなったり、物が二重に見えたり、ろれつが回らなくなったり、食事を飲み込みにくくなったりすることもあります。手足のまひの程度は発症してから1〜2週以内に最もひどくなり、その後は改善していきます。重症の場合には、寝たきりになったり、呼吸もできなくなります。

急性感染性多発性神経炎の検査と診断と治療

急性感染性多発性神経炎(ギラン・バレー症候群)では、発症してからなるべく早い急性期に免疫グロブリン大量静注療法、あるいは単純血漿(けっしょう)交換療法を行うと、ピークの時の症状の程度が軽くなり、早く回復することがわかっています。単純血漿交換療法では、人工透析のような体外循環の回路に血液を通して、血液を赤血球、白血球などの血球成分と、血球以外の血漿成分に分けます。自己抗体を含む血漿成分を捨てて、ウイルスが混入していない代用血漿と自分の血球を体内に戻します。

重症の場合は、まひが次第に体の上のほうに広がって、呼吸まひを起こすようになるので、呼吸管理に気を付ける必要があります。ピークの時には人工呼吸器を用いたり、血圧の管理を行ったりといった全身管理が重要であり、回復する時期にはリハビリテーションも大切となります。

症状は遅くとも1カ月以内にピークとなり、その後徐々に回復に向かい、6~12カ月で多くの発症者はほぼ完全によくなります。比較的、良性の疾患ながら、何らかの障害を残す人が約2割いて、急性期やその後の経過中に亡くなられる人が約5パーセントと報告されています。再発率は多くても、5パーセント未満と見なされています。

🇱🇺急性気管支炎

左右の気管支粘膜に、急性の炎症が起こる疾患

急性気管支炎とは、太い気道である気管から枝分かれした左右の気管支の粘膜に、急性の炎症が起こる疾患。ほぼ連続的に気管に起こる炎症は、急性気管炎と呼びます。

最も多いのは、風邪や風邪症候群、インフルエンザの原因となるアデノウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルスなどのウイルスの二次的な感染によって起こるもので、はしかや百日ぜきを発症した時に合併するものもあります。また、慢性の呼吸器病が悪化すると、急性気管支炎を併発する可能性があり、それによって動脈血の酸素量が低下することもあります。そのほか、病原菌がブドウ球菌、肺炎球菌などの時は、インフルエンザに合併します。

有毒なガスや刺激性のほこりを吸い込んだことで、気道が侵されて発症する場合もあります。

主な症状は、せきです。炎症の起こり初めは、たんを伴わないものの、抑え切れないほどの空ぜきを繰り返します。激しいせきのために、胸部や腹部の筋肉が痛くなり、時には肋骨(ろっこつ)にひびが入ったり、折れることもあります。胸骨の後ろに、焼け付いてひりひりするような鈍い痛みを感じる場合もあります。

炎症が進むにつれて、少量で水のようなたんが出るようになり、次第に粘り気のあるたんに変わっていきます。無色か白色で粘り気のあるたんはウイルス性の気管支炎によるものですが、黄色または黄緑色のうみが混じったようなたんに変化すると、細菌感染を合併したサインとなります。

時には、ぜんそくのように吐息と一緒に、ゼイゼイ、ヒューヒューという喘鳴(ぜんめい)音が聞こえるようになります。喘鳴音は、反射性喉頭(こうとう)けいれんや、喉頭の急性浮腫(ふしゅ)によっても発生します。

軽いうちは、せきと上胸部の不快感が1〜2日程度あるものの、発熱しません。重症になると発熱し、白血球の増加、呼吸困難、皮膚が青くなるチアノーゼ、全身倦怠(けんたい)感などがみられます。

幼児や高齢者、衰弱した人、慢性気管支炎がある人は、病状が悪化しやすい傾向にあります。中でも、気管支ぜんそくの発症者は発作を誘発しやすく、肺気腫や慢性気管支炎の発症者では、病状が悪化して、呼吸不全を起こすこともあります。

急性気管支炎の検査と診断と治療

急性気管支炎と、ほぼ連続的に起こる急性気管炎の症状がみられる場合には、内科あるいは小児科の専門医を受診します。

急性気管支炎と、ほぼ連続的に起こる急性気管炎の診断は、すべての症状が出てしまうと迷うことはないので、特別な検査を必要としません。

とはいえ、ほかの疾患を合併していないかを調べたり、似ている疾患と区別するために、胸部X線検査、血液の白血球検査、たんの細菌学的検査などをする場合があります。

急性気管支炎は、その症状が肺炎と似ています。さらに、気管支の太い部分に発生する肺がんは、急性気管支炎と紛らわしい症状をみせることがあります。そのため、こうした疾患が疑われる場合には、胸部X線写真の所見によって、慎重に鑑別されます。肺結核の疑いがあれば、結核菌の有無を確かめるために、たんの中の細菌を調べます。

治療としては、症状が軽く、感染が気管に限られている時は、温度差に注意し、対症的にせきを鎮める鎮咳(ちんがい)剤が投与されます。抗生物質は、うみのようなたんが出始めたら、すぐに投与し始めると効果的です。また、慢性心臓疾患がある場合にも投与されます。

なかなか切れない粘り気の強いたんが出る時は、去たん剤やエアゾール吸入器が使われます。気管支の粘膜がはれて、気管支壁が収縮するためにぜんそくが出るような時は、気管支拡張剤が使われます。

大人でも幼児でも一度、快方に向かい始めたら、確実な治療を行えば大 体1週間以内に軽快します。完治までに大切なのは、安静と保湿、保温です。水分はせき、発熱、呼吸などで失われるので、十分に補給して不足に陥らないように心掛けます。たばこは傷付いている局所を刺激するので、本人はもちろん、周囲の人もそばで喫煙しないようにします。

🇱🇺急性偽膜性カンジダ症

カンジダ菌の感染で、口の粘膜が白い苔状物で覆われる疾患

急性偽膜性カンジダ症とは、口腔(こうくう)内に常在するカンジダ菌という真菌によって、主として斑点(はんてん)状の白い苔(こけ)のようなものが生じる疾患。口腔カンジダ症とも呼ばれ、以前は鵞口瘡(がこうそう)とも呼ばれていました。

乳幼児や老人に多い疾患ですが、生後間もない健康な乳児にみられるものは、放置しておいても自然に消えます。成人がかかることもあります。

原因は真菌(かび)の一種のカンジダ菌の感染で、カンジダ・アルビカンスが圧倒的に多い原因菌となり、カンジダ・トロピカーリス、カンジダ・パラプシローシスなどが原因菌となることもあります。誘因としては全身の衰弱、抗生物質の長期連用、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)、免疫抑制剤、抗がん剤などの使用、がんの放射線治療、ビタミン欠乏、全身疾患による免疫機能の低下が挙げられます。

カンジダ菌は酵母菌(イースト)の一種で、元来、人間の口腔粘膜や腸管の中に住んでいます。これが誘因があってたまたま増殖すると、急性偽膜性カンジダ症や皮膚カンジダ症になるのですが、このカンジダ菌は水虫などを起こす白癬菌とは異なって、体の内部に侵入する力があります。そのため、免疫機能の低下がある時には、全身に増殖して、重篤な疾患になることがあります。

急性偽膜性カンジダ症の最初は、口腔粘膜、舌、歯肉が赤くはれ、表面が白い斑点状の苔状物の膜で覆われます。この苔状物の膜は軟らかくて、こするとすぐはがれ、はがれたところは赤くただれます。普通、痛みは軽度ですが、舌のズキズキする痛み、違和感、味覚異常を伴うこともあります。熱などの全身症状は、ほとんどありません。

適切な処置をすれば、比較的早くよくなりますが、まれには進行して咽頭(いんとう)から食道、肺に広がって、カンジダ性肺炎を生じることもあります。

急性偽膜性カンジダ症の検査と診断と治療

急性偽膜性カンジダ症が味覚異常の原因になっていることもありますので、口の中を清潔に保ち、消毒力のあるうがい薬を使ってみます。それで舌などの口腔内の違和感が治らない場合、また全身状態が悪い場合には、食道や肺に広がることがあるので、口腔外科や内科などで治療を受けます。

医師は病状から診断しますが、カンジダ菌が証明されれば確定します。証明のためには、KOH検査(皮膚真菌検査)と培養検査が行われます。KOH検査では、綿棒で皮膚の表面をこすり、それを水酸化カリウム溶液で溶かして、顕微鏡で観察します。5分もあれば結果が出ますが、カンジダ菌の種類の特定までは困難です。培養検査では、クロモアガー・カンジダ培地などで培養します。検査に時間がかかりますが、菌の種類を特定できます。

治療においては、抗真菌剤の外用が主体で、殺菌性消毒剤による口すすぎも有効です。外用剤では、イミダゾール系のものが抗菌域が広く、カンジダ菌に対しても有効性が高く、第一選択薬といえます。ネチコナゾール(アトラント)、ケトコナゾール(ニゾラール)、ラノコナゾール(アスタット)などの新しい薬は、抗菌力が強化されています。基剤としては、軟こう剤、クリーム剤、液剤、ゲル剤があります。急性偽膜性カンジダ症ではただれの症状を示すことが多いので、刺激が少ないクリーム剤か軟こう剤が無難です。

なお、抗真菌剤の外用剤は近年、たくさんの新しい薬剤が開発されかなり有効ですが、中には白癬菌にだけ効き、カンジダ菌には効きにくい薬剤もありますので、注意が必要です。

症状が強い場合には、抗真菌剤の内服を行います。内服剤では、トリアゾール系のイトラコナゾール(イトリゾール)が、抗菌域が幅広く、第一選択薬です。副作用は比較的少ないのですが、血液検査は必要で、併用に注意する薬剤があります。特殊な内服剤として、急性偽膜性カンジダ症・食道カンジダ症用で、ほとんど吸収されないミコナゾール(フロリード)ゲルがあります。1日1〜2本を4回に分けて内服しますが、急性偽膜性カンジダ症では病変部に塗るだけでも有効です。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...