2022/08/13

🇷🇸脛骨疲労性骨膜炎

すねに沿った筋肉に損傷が生じて痛む状態

脛骨(けいこつ)疲労性骨膜炎とは、すねに沿った筋肉に損傷が生じて痛む状態。シンスプリント(Shin splints)、過労性脛部痛とも呼ばれます。

通常、足のすねの部分に、長期に渡って繰り返し負荷がかかるために起こります。起こりやすいすねの筋肉には2つのグループがあり、すねの前側と外側の筋肉に起こる前外側の脛骨疲労性骨膜炎と、すねの後ろ側と内側の筋肉に起こる後内側の脛骨疲労性骨膜炎とがあります。損傷がどちらの筋肉に生じたかによって、痛みを感じる部位が異なります。

前外側の脛骨疲労性骨膜炎は、すねの前面と外側の筋肉が侵された状態です。このタイプは、張り合う関係にある筋肉の大きさがもともと不均衡であるために起こります。すねの筋肉は足を引き上げ、より強く大きいふくらはぎの筋肉は歩行中やランニング中の着地時に、足を地面まで引き下げる働きをしています。ふくらはぎの筋肉の力が強すぎると、すねの筋肉に損傷が生じることがあります。

主な症状は、すねの前面や外側の痛み。最初はランニング、ウオーキング、陸上競技、スキー、バスケットボール、エアロビクスなどの運動中、かかとが地面に打ちつけられた直後にだけ、不快感や軽い鈍痛が生じます。これは散発的なものであるため、本人が大したものではないと思うことがほとんどです。

さらに運動を続けると、痛みは運動中ずっと持続するようになり、やがて常に痛みがある状態になります。医師を受診するころには、押すと痛む圧痛がすねにみられます。

一方、後内側の脛骨疲労性骨膜炎は、すねの後面と内側の筋肉が侵された状態です。これらの筋肉は、つま先をけり出す前にかかとを持ち上げる役割を果たしています。このタイプは、傾斜のあるトラックや中央が高くなった道路を走ると起こりやすく、足の小指側に体重がかかりすぎたり、このような回転を十分に防げない靴を使用していると悪化の原因となります。

痛みはまず、すねの内側から始まることが多く、足首の関節から約2・5〜20センチ上に痛みが現れます。つま先立ちしたり、足首を内側にひねると痛みが強まります。さらに走ることを続けていると、痛みはすねの前面に広がり、足首の関節内を侵し、上方にも広がって膝の付近にまで及ぶことがあります。

脛骨疲労性骨膜炎の進行とともに痛みは強まり、最初は筋肉の腱(けん)だけが炎症を起こして痛みますが、なお走り続けていると筋肉自体にも炎症が広がることがあります。やがて、炎症を起こした腱が緊張して引っぱる力が生じ、骨との付着部である骨膜からはがれたり、出血やさらなる炎症を起こすことがあります。こうなると、ベッドから起きる時や日常生活の他の動作の最中にも痛みが伴うようになります。

脛骨疲労性骨膜炎を発生する年齢は10歳代から40歳代、特に16~17歳くらいに多く、女性は男性の約1・5倍の発生頻度です。高校や大学の運動部の新入部員や、合宿などで練習量が増加した部員に多くみられるので、これらの時期には特に注意が必要になります。

脛骨疲労性骨膜炎の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、症状や問診で脛骨疲労性骨膜炎と確定できますが、疲労骨折や骨腫瘍(しゅよう)との鑑別が必要です。末期ではレントゲン検査で骨膜炎の所見を認め、骨腫瘍、骨肉腫との鑑別が必要なこともあります。

整形外科の医師による治療では、痛みの強い急性期にはランニングなどを休止して局所の安静を図り、アイシングやアイスマッサージを行ったり、消炎鎮痛剤を用います。O脚、偏平足、回内足など下肢や足の形態に起因しているケースでは、足の土踏まずを支える靴の中敷きなどの足底装具を用いて、形態を補正します。

急性期にはランニングなどの休止を徹底しますが、局所の安静期からでも下肢の荷重運動を避け、水泳、エアロバイク、股(こ)関節や足関節、アキレス腱を中心とした下肢のストレッチングを行います。

自発痛や歩行時痛が消失したら、足指でのタオルギャザー、足関節の軽いチューブトレーニングを行います。明らかな圧痛が消失したら、ウオーキングから始め、次に両脚踏み切りジャンプで痛みが出なければ、アスファルトなどの硬い路面を避けて軽いランニングを再開します。ただし、練習量を急激に増やすと、再び痛みが出やすいので注意します。

軽症の脛骨疲労性骨膜炎の場合、完全に運動を休止する必要はないと考えられていますが、練習量と内容の見直しが大切です。ランニング、特にダッシュ系のランニングとジャンプ動作を減らし、練習前のストレッチ、練習後のクールダウンのストレッチと15分くらいの氷冷をすることで、1~2週間で軽快します。慢性のものは、数カ月かかることもあります。

予防には、下肢の筋力強化とストレッチが重要です。バケツを使った運動、つま先立ちなどでの下肢の筋力強化により、脛骨に加わるストレスを軽減させることができます。ストレッチにより筋肉、腱、腱膜の柔軟性を高めれば、脛骨に対する張力を弱めることができます。

シューズはクッションのよいものを選び、硬い路面の走行をなるべく避けるなどの練習環境の整備も必要です。 脛骨疲労性骨膜炎は土踏まずのアーチ部分が下がってきていることも原因の一つなので、土踏まずを上げるためのテーピングも効果的で、足が過度に回転するのを防ぐことができます。

🇷🇴形質細胞性口唇炎

良性の慢性炎症性疾患が口唇にできたもの

形質細胞性口唇炎とは、開口部形質細胞症と呼ばれる良性の慢性炎症性疾患が口唇にできたもの。

開口部形質細胞症は、口唇、頬(ほお)粘膜、歯肉、男性外陰部、女性性器など人体の開口部に、浮腫(ふしゅ)性変化や暗紅色のびらん、痂皮(かひ)などの症状が認められる珍しい疾患です。そして、この開口部形質細胞症の中でも特に口唇に発生するものは、形質細胞性口唇炎と呼ばれています

珍しい疾患で、症状の現れ方は他の一般的な口唇炎と異なる特徴を持ちます。慢性的な炎症により、口唇がむくんだり、はれたり、出血を繰り返したりします。このため、口唇には1ミリ大ほどの境界明瞭(めいりょう)で出血と痂皮、すなわち、かさぶたを伴う暗紅色のびらんが混在するようになります。

びらんに触っても痛みはありませんが、かゆみを認めます。また、かさぶたを除去した際には、除去部より出血を認めます。

形質細胞性口唇炎の発生する部位は下唇が圧倒的に多く、上唇のみに発生するケース、上下唇に併発するケースはまれです。男女の性差はほとんどなく、年齢は50歳代以降に好発し平均は62歳であったという報告もあります。

繰り返される外的な刺激、加齢による口唇粘膜の弾性線維の変性、内分泌による影響、あるいは高血圧症、糖尿病などの全身疾患が原因として挙げられていますが、明確な発症メカニズムは解明されていません。

良性の慢性炎症性疾患が口唇にできたもの

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、口唇の一部を採取して顕微鏡で調べる生検を行うことで、粘膜固有層や皮膚真皮層に形質細胞の浸潤が認められれば、形質細胞性口唇炎と確定します。

口の中にいる一般的なカビであるカンジダや細菌、ウイルスなどの感染を伴うことが疑われる場合には、口唇の表皮や拭(ぬぐ)い液を培養し、病原体を特定する検査を行うこともあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、形質細胞性口唇炎の治療法が確立していないため、一般的にステロイド軟こうの塗布やステロイドの局所注射を行います。/p>

タクロリムス軟こうなどの非ステロイド軟こうの塗布、グリセオフルビンなどの抗真菌薬軟こうの塗布、インターフェロンなどの抗ウイルス薬の局所注射、放射線療法、電気焼灼(しょうしゃく)、外科的療法としての全切除を行うこともあります。

さらに、口唇に感染症を伴っている場合には、抗生物質(抗菌剤)、抗ウイルス薬、抗真菌薬など、それぞれの病原体に適した塗り薬や内服薬を使用します。

🇷🇴形成性陰茎硬化症

陰茎の皮膚の下に硬いしこりができる疾患

形成性陰茎硬化症とは、男性の陰茎の皮膚の下に硬いしこりができる疾患。陰茎形成性硬結症、陰茎硬化症、線維性海綿体炎、ペロニー病、パイロニー病、ペイロニー病、ヴァン・ビューレン病などとも呼ばれます。

30~70歳代の男性にみられ、陰茎海綿体を包む白膜(はくまく)という結合組織に、線維性のしこり(硬結)ができます。白膜は伸び縮みする弾性線維と硬い膠原(こうげん)線維の組み合せでできていて、ある程度伸びると止まる構造になっていますが、膠原線維が増えてしこりになります。しこりは陰茎の陰嚢(いんのう)と反対側の面にできることが多く、すじ状のものから板状で骨のようなものまで、さまざまな形があります。

勃起(ぼっき)すると陰茎がしこりのある方向に曲がり、疼痛(とうつう)が起こることもあります。曲がり具合にもよりますが、十分な勃起が得られず、性交に支障を来すこともあります。

平常時は痛くもかゆくもなく、しこりそのものは無害と考えられ、自然によくなることもあります。逆に、徐々に進行することもあります。

詳細な原因は、まだよくわかっていません。慢性陰茎海綿体炎、糖尿病、痛風、外傷などとの関連が疑われています。手の小指や薬指の内側の腱(けん)が引きつって内側に曲がったり、手のひらや足の裏が短縮したりするデュプイトラン拘縮という疾患と一緒に現れることもあります。デュプイトラン拘縮は中年以降の男性に多くみられ、長期に渡るアルコール摂取が危険因子の一つと見なされ、糖尿病に合併することもあります。

形成性陰茎硬化症らしいと思い当たり、性生活に支障を来すようであったり、ほかの疾患、例えば陰茎がんなどとの見極めが困難な場合は、泌尿器科などの医師に相談することが勧められます。

形成性陰茎硬化症の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、特徴的なしこり(硬結)の症状の視診、触診で確定できます。以前に打撲などによる外傷や炎症があったかどうかが、参考になります。超音波検査やMRI検査を行うと、しこりの厚さや大きさを観察でき、しばしば石灰化が確認できます。陰茎知覚異常がある場合には、振動覚測定を行います。

この形成性陰茎硬化症ががんになることはありませんが、しこりや痛みが同じように現れる陰茎がんとの見極めは難しく、正確に診断するためにしこりの一部を切除して組織検査を行うこともあります。

形成性陰茎硬化症に特に有効な根本的な治療法は、現在のところありません。勃起障害の原因となったり、痛みが起こる場合には、超音波治療(体外衝撃波治療)、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射ないし内服、コラーゲン分解酵素の局所注射、ビタミンEの内服、ヘパリン類似物質や非ステロイド系消炎鎮痛薬の軟こうの塗布などが試みられますが、あまり有効ではないようです。痛みが起こる場合には、放射線照射が有効とされています。

性交渉に障害が出るような場合、本人が希望すれば手術を行うこともあります。手術には、しこりがある反対側の白膜を切り詰めて湾曲を矯正する縫縮法(プリケーション法)と、白膜のしこり自体を切除し、欠損部に皮膚や静脈を移植する移植法の2つがあります。

通常、軽い場合は縫縮法、症状が進んでいれば移植法が行われます。縫縮法は湾曲の改善のみを目的とした方法で、移植法に比べて簡単ですが、しこりや痛みの改善はできないことと陰茎の短縮が問題となります。移植法も、手術後の瘢痕(はんこん)組織が硬化して手術前より悪化したり、切除しても再発することがあるのが問題となります。

いずれも2時間ぐらいの手術で、3日間程度のの入院が必要です。糖尿病のある人の場合は、血糖コントロールが必要のため入院期間が少し長くなります。縫縮法を局所麻酔で行う場合は、日帰り手術も可能です。

症状が進んで陰茎海綿体にまで影響するなど重い勃起障害がある場合は、陰茎の中に支柱材を埋め込むプロステーシス手術も検討されます。デュプイトラン拘縮が一緒に現れている場合は、 基本的に薬物療法や注射は治療効果がなく、手術による治療になります。

🇭🇷頸椎後縦靭帯骨化症

頸椎の後ろを走っている靱帯が骨に変わり、肥厚してくる疾患

頸椎後縦靭帯(けいついこうじゅうじんたい)骨化症とは、頸椎の後ろを走っている靱帯が骨に変わり、肥厚してくる疾患。

骨に変わった靭帯は、頸椎の可動性を減少させながら脊柱管(せきちゅうかん)内で脊髄や、脊髄から分枝する神経根を徐々に圧迫し、まひ症状を引き起こします。日本人に多い疾患であり、研究と治療法も主に日本で発達してきました。

現在のところ靭帯骨化の原因は不明ですが、単一の要因で生じるのではなく、複数の要因が関与して発症すると考えられています。関与するものとして、遺伝的素因、性ホルモンの異常、カルシウム・ビタミンDの代謝異常、糖尿病、肥満傾向、老化現象、全身的な骨化傾向、骨化部位における局所ストレスなどいろいろな要因が考えられています。特に家族内発症が多いことから、遺伝子の関連が有力視されています。

主な症状は、脊髄圧迫症状です。すなわち、手足のしびれや痛みを発症することが多く、はしを使うなど手指の細かい動作がやりにくくなる巧緻(こうち)運動障害、足が突っ張って歩行がしにくくなる痙性(けいせい)歩行などの運動障害も出現します。さらに、頻尿や失禁、便秘などの膀胱(ぼうこう)直腸障害もみられます。

首の動き、特に前に曲げたり後ろに反らしたりする動きの範囲が狭くなります。

頸椎後縦靭帯の骨化があっても無症状の人、大きくない骨化なのに急速にまひの出る人、5~10年かけてゆっくりまひが進行する人など、脊髄症状の起こり方や進み具合は、人によってさまざまです。

その一方で、転倒などの軽い外傷を契機に、まひ症状は急激に悪化しますので、転倒などには十分注意する必要があります。脊髄症状による歩行障害が転倒を招き、その結果、脊髄症状が悪化するという悪循環にもつながります。いったん症状が重度になると、日常生活に障害が出て、介助を要することもあります。

手足のしびれがある場合はもちろんですが、ほかの目的で撮影したX線写真などで骨化を指摘されたら、整形外科を受診して下さい。経験を積んだ医師による正確な診断の元に、治療方針を決定して脊髄まひを予防することが重要です。

頸椎後縦靭帯骨化症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線検査を行うと骨化の有無が比較的簡単にはっきりします。CT検査を行うと、骨化の大きさや形状がさらにはっきりし、MRI検査を行うとで、脊髄の圧迫されている状況が観察できます。

整形外科の医師による治療は、保存的治療と手術治療とがあります。保存療法では、骨化によって圧迫されている神経を保護することが治療の主目的になります。頸椎における保存的療法では、まず頸椎の安静保持を保つため、外固定装具を装着します。この時頸椎を快適な位置にあることが必要で、高さの調節可能な装具が適しています。また、首を後ろに反らせる姿勢は避ける必要があります。

そのほか、薬物療法として消炎鎮痛剤、筋弛緩(きんしかん)剤などを内服して、自覚症状の軽減が得られることがあります。

明らかな脊髄症状があり、保存的治療を行っているにもかかわらず疾患が進行し、仕事や日常生活に支障を来す場合には、手術治療します。手術方法は、骨化の状態や部位に応じてさまざまな方法があります。神経の圧迫を取るため骨化部位を摘出して、その部位を自分の骨で固定する前方法と、骨化部位はそのままにして神経の入った脊柱管を広げる後方法があり、後方法が選択されることが一般的です。

手術方法の開発や改良が行われ続け、最近では、比較的安定した手術成績が得られています。しかし、手術後に骨化が進んで、まひが再び悪化することもあるので、手術後も長期に渡って経過を観察する必要があります。

🇭🇷頸椎症

首の椎間板と椎骨の変性により、脊髄や神経根が圧迫される疾患

頸椎(けいつい)症とは、首の椎間板と椎骨の変性により、脊髄(せきずい)や神経根が圧迫される疾患。頸椎椎間板変性症、変形性頸椎症、頸椎椎間板症、頸部脊椎症、頸椎骨軟骨症などは、多少の違いはありますが、頸椎症とほぼ同じ意味で使われています。

背骨のうちで首の部分を構成する骨が頸椎であり、7つの椎骨からなります。上から第1頸椎、第2頸椎と呼び、一番下が第7頸椎。第2〜7頸椎までは、それぞれの間に椎間板が挟まっていて、椎骨と椎骨の間でクッションのような役割を果たしています。この椎間板は円板状の軟骨組織で、中心部に髄核と呼ばれるゼラチン状の軟らかい組織があり、それを線維輪と呼ばれる丈夫な組織が取り囲んでいます。

頸椎症は通常、中年や高齢者に発症します。中年を過ぎると、骨や軟骨の老化のため、椎間板がつぶれ、骨の丸みがなくなり、椎骨の円柱状の部分である椎体の間の透き間が狭くなり、神経根の通路である椎間孔、あるいは脊髄を入れる脊柱管が狭くなってきます。

その結果、腕のほうへいく神経根が圧迫されて、肩や腕の痛みやしびれが起こったり、脊髄が圧迫されて、下肢のしびれ、知覚鈍麻、痙性(れんせい)まひが起こることがあります。

頸部の症状としては、肩や首の筋肉が緊張して肩凝りなどがみられたり、圧痛がみられます。また、頸部を前屈したり後屈した時に、後頸部から肩、上肢に放散する痛みが現れます。

上肢の症状としては、片側または両側の上肢の痛みとともに脱力感、疲労感、手指の感覚異常、冷感、こわばりを感じることがあります。また、手先の仕事、字を書く、物をつまむなどの動作ができにくくなり、時間がかかるようになります。

手指の感覚異常は圧迫部位の高さに一致しており、例えば第5頸椎椎間板による圧迫時は親指、第6頸椎椎間板の圧迫時は中指、第7頸椎椎間板の圧迫時は小指にそれぞれ感覚異常を来します。症状が進行すると、手の筋肉が委縮したり、皮膚温の低下、発汗異常、手指の変形などがみられます。

脊髄に圧迫が起こると下肢の症状が現れ、脚が震えるようになり歩行が不安定になる歩行障害、便秘、排尿障害などの症状が現れます。

また、椎骨の変形により頭蓋(ずがい)内に行く椎骨動脈が圧迫されると、首を曲げた時などに血行障害が起こり、めまいを引き起こすこともあります。頭痛、耳鳴りなどを引き起こすこともあります。

頸椎症の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、首を横に曲げ、頭部を圧迫した時に上腕に痛みが走ったり、首を軽く後方へ曲げ、頭部を圧迫した時に上腕に痛みが走れば、この頸椎症が疑われます。 頸椎の単純X線写真で、椎体骨の偏平化、硬化、とげ状の突起である骨棘(こっきょく)形成、椎体間腔(かんくう)の狭小化の所見がみられれば、診断はほぼ確実です。

脊髄や神経根の圧迫の状態をみるには頸部MRI検査が有用で、脊柱管のどこが狭くなっているか、どのように脊髄が圧迫されているか、どの神経根が圧迫されているかなどがわかります。

整形外科、神経内科の医師による治療では、神経根の圧迫症状に対しては、頸部周囲の筋肉の緊張を和らげる治療を行います。就寝時の姿勢も大切で、枕の高さを調節して軽度の前屈位をとるようにします。

薬物療法としては、非ステロイド性消炎剤や筋弛緩(きんしかん)剤が有効です。痛みが強い時は、局所の安静のために頸椎固定用のカラー(えり巻き式補装具)を首に装着します。

そのほかの理学療法としては、血行を促進し筋肉の凝りや痛みを軽減するホットパックなどの温熱療法、頸椎牽引(けんいん)療法、低周波治療、レーザー治療などがあります。頸椎牽引療法では、首の牽引と休止を繰り返すことにより、痛み、しびれを緩和します。

早期に牽引やカラーを用いた装具療法を行えば、症状の進行をかなり食い止めることができます。症状が進行している時や、MRI検査によって重度の椎骨圧迫や脱臼(だっきゅう)がみられる時は、手術による治療が行われます。基本的には手術によっても、すでに起きてしまった障害は元には戻せません。

🇭🇷頸椎椎間板ヘルニア

頸椎の椎間板の一部がずれて、神経を圧迫する疾患

頸椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニアとは、背骨の最上部にある頸椎の椎間板の一部が後方へずれ、神経を圧迫する疾患。胸椎、腰椎など、どこにでも発生する椎間板ヘルニアの1つです。

背骨のうちで首の部分を構成する骨が頸椎であり、7つの椎骨からなります。上から第1頸椎、第2頸椎と呼び、一番下が第7頸椎。第2〜7頸椎までは、それぞれの間に椎間板が挟まっていて、椎骨と椎骨の間でクッションのような役割を果たしています。この椎間板は円板状の軟骨組織で、中心部に髄核と呼ばれるゼラチン状の軟らかい組織があり、それを線維輪と呼ばれる丈夫な組織が取り囲んでいます。

頸椎椎間板ヘルニアになると、椎間板の線維輪に亀裂(きれつ)が入り、中にある髄核が飛び出して脊髄(せきずい)や神経根を圧迫し、さまざまな神経症状が現れます。頸椎の中でも首の根元に位置し、頭蓋(とうがい)骨を支えるのに最も負担が強いられる下位の頚椎である第5、第6頸椎間に、最も多くヘルニアが認められます。

椎間板の年齢的な変性が基盤となり、頸椎への運動負荷が加わることが原因となって発生します。このために、頸椎椎間板の変性がある程度進み、頸椎への運動負荷の多い年代である30〜50歳代が好発年齢になります。

椎間板ヘルニアによって神経が圧迫されると、手足の痛みやしびれなどのさまざまな症状が出てきます。代表的な症状は首の痛みや凝りで、午前中は比較的症状が軽くても、午後から夕方になるにつれて症状が強くなります。

脊髄が圧迫されている場合、手のしびれが現れます。手のしびれは片側だけの時もあり、次第に反対側にも現れることもあります。最初から両側にしびれが現れていることもあります。手指の細かな運動もしづらく、字を書いたり、はしで豆をつまんだり、魚肉をほぐすことができにくくなったり、衣服のボタン、特に目で見ることのできない首回りのボタンの止め外しが難しくなります。

脚にも症状が出て、腱(けん)反射が高進し、脚がこわばって歩きにくくなる痙性(けいせい)歩行が現れます。階段の昇降に手すりが必要になり、特に階段を降りにくくなることが多くみられます。

神経根が圧迫されている場合、主に後頸部から肩、手指にかけてズキズキする痛みが現れます。この痛みは、首を後ろに反らすと強まるのが特徴で、神経根の圧迫がますます増強されるためです。そして、上肢、手指の筋力低下も現れます。

また、頸椎椎間板ヘルニアの存在する高さによって、手足に発生するしびれや痛みの部位、触覚や痛覚などの知覚障害が起こる部位に違いがみられます。排尿、排便の障害を起こすこともあります。

頸椎椎間板ヘルニアの検査と診断と治療

頸椎椎間板ヘルニアの症状に気付いたら、整形外科を受診します。無理に頸椎部に外力を加えると、まひ症状が増悪することがあるので、安静を心掛けます。

医師による診断では、問診を重視し、腱反射異常、知覚障害、筋力低下などを検査して、どの神経が壊れているかを検討します。レントゲン検査で、頚椎のずれたり、ぐらぐらする状態や、椎間板の軟骨が磨り減り、つぶれた状態、脊髄を取り囲んでいる骨の状態などを検討します。

レントゲン検査では主に骨の情報しか得られないので、詳細な検討にはMRI検査が必要となります。症例によっては、脊椎・脊髄腫瘍との見極めが必要となる場合もあります。

治療では、頭蓋の牽引(けんいん)療法が効果的です。首の牽引と休止を繰り返すことにより、痛み、しびれを緩和します。局所の安静のためには、頸部のカラー(えり巻き式補装具)なども効果的です。

薬物療法としては、非ステロイド性消炎鎮痛剤、筋弛緩(しかん)剤、神経賦活剤、ビタミンB製剤などが投与されます。痛みが長期に渡って慢性化した場合や、心的因子やストレスが関与していると思われる場合は、不安や緊張の緩和と筋弛緩作用を期待して抗不安剤を投与されることもあります。速効性を要する時には、脊髄の硬膜外ブロック療法といって、脊髄の硬膜外腔(がいくう)に麻酔薬を注射し、痛みをとる方法が用いられます。

血行を促進し筋肉の凝りや痛みを軽減するために温熱療法、体操療法、頚部のストレッチング、筋力強化訓練などで改善が得られることもあります。

以上のような手術をしないで治す保存的療法で効果がない時には、脱出して神経を圧迫している髄核を摘出する手術や、その後の再発予防のために、骨を移植して2つの脊椎を癒着させて動かないようにする、脊椎固定手術などが行われます。移植する骨は、骨盤の骨でベルトのかかる部分に当たる腸骨から採取します。

🇷🇴頸動脈狭窄

脳へ血液を流す頸部頸動脈が狭まり、脳梗塞を生じる危険性が高まる状態

頸動脈狭窄(けいどうみゃくきょうさく)とは、一般的に頸部頸動脈が動脈硬化を起こし、血液が流れる道が狭窄した状態。

頸動脈は頸部頸動脈と頭蓋(ずがい)内頸動脈に分かれますが、心臓から脳に向かう血液の流れ道である頸部頸動脈が狭いため、狭い個所で流れの悪くなった血液が小さな血の塊である血栓を作り、これが頭蓋内の血管を詰まらせる結果、脳の血流不足が起こり、脳梗塞(こうそく)を生じる危険性が高くなってきます。

頸動脈狭窄だけでは全く症状は出ませんが、頸部頸動脈にできた血栓が脳の血管の一部を詰まらせた場合には、突然、言葉が出にくい、手足のしびれやまひ、手足が動きにくいなどの症状が出ます。ほぼ40 パーセントの人は、こういった症状が短時間、多くは1時間以内で完全に改善します。これは一過性脳虚血発作と呼ばれ、脳梗塞の発作を起こす以前の前触れ症状として重要な発作です。短時間のうちに、血栓が溶けるか、副血行路が形成されるために、発作は一過性ですみます。

また、15~20パーセントの人は、数分、数時間、数日以内の短時間の間にどんどん症状が悪化していく進行卒中と呼ばれる経過をたどります。

頭蓋内頸動脈が最初に枝分かれする血管は、目を栄養する血管です。この目の血管を頸部頸動脈にできた血栓が詰まらせると、片側の目の上半分や下半分が暗くなる、幕が上がるまたは下がるように視野が暗くなる、視力が急に低下し、物が見えなくなる、時に眼の奥の痛みを訴えることがあります。一時的な症状で回復することがほとんどなので、一過性黒内障と呼ばれていますが、頸部頸動脈狭窄症に多い症状です。

そのほか、頸動脈狭窄により脳に送られる血流量が減少した場合、脳梗塞と同様の症状以外に、立ちくらみ、揺れるようなめまいなどを覚えることもあります。

頸動脈狭窄の検査と診断と治療

神経内科、ないし脳神経外科の医師による診断では、首に超音波を当てて診断する頸部血管ドップラー検査、CTやMRIによる血管の検査で容易に確定されます。近年では、狭くなった個所の診断やその程度のほか、動脈硬化の性質、血流の早さなどの質的診断も行え、よい治療方法が選択できるようになりました。

治療上必要な場合は、頸動脈を直接レントゲンで撮影する血管撮影が行われます。また、血液が到達する脳の状態を調べるため、脳のMRIや核医学による脳血流検査なども行われます。さらに、心臓などほかの血管に、同じような疾患がないか調べることも重要です。

神経内科、ないし脳神経外科の医師による治療では、禁煙、運動療法、食事療法などに加え、高脂血症、糖尿病、高血圧に対する薬による内科的治療が基本となります。これに加えて、脳卒中を予防するために血液の流れをよくする抗血小板療法の薬が追加されます。

頸動脈の狭さが強くなった場合には、その程度により手術か血管内治療が追加されます。頸動脈狭窄のみが発見されて、脳の症状がなく頸動脈の狭さが60パーセント以上の場合は、脳神経外科医により手術で頸動脈の病変を摘出することが脳卒中を予防するためによいとされています。一方、脳の症状がある場合の手術の基準は70パーセントの狭さに上昇し、手術により脳卒中が拡大することを防止します。この脳神経外科医による手術法は、長年に渡って世界中で行われ、多くの結果が蓄積された結果、現在の基準が確立されました。

血管内治療は新しい治療法で、太ももの付け根から血管の中にカテーテルと呼ばれる管を入れ、これを頸動脈の狭窄した場所に誘導します。ここでカテーテルの先についたバルーンと呼ばれる風船を広げ、網目状に血管の中で拡張し、頸動脈の内側を適切な太さに保つステントと呼ばれる形状記憶合金で作られた機器を留置してきます。この治療法は歴史が浅いため、病変を直接取り除く手術のリスクが高いと思われる場合や高齢者の場合などに行われています。

🟥「H3」型インフルエンザの新たな変異ウイルス、国内でも確認

 海外で拡大している「H3」型インフルエンザの新たな変異ウイルスが国内でも確認されたことが、国立健康危機管理研究機構の解析でわかった。専門家は「免疫を持っている人が少なく、感染が広がりやすい可能性がある」として注意を呼び掛けている。  季節性インフルエンザとして流行する「H3」...