2022/08/14

🇨🇦誤嚥性肺炎

誤嚥によって、口の中の細菌が気管や肺に流れ込んで生じる肺炎

誤嚥(ごえん)性肺炎とは、口の中に常在する細菌が唾液などの分泌物とともに気管内に入る誤嚥に引き続いて、発症する肺炎。嚥下(えんげ)性肺炎とも呼ばれます。

飲み物や食べ物を飲み込む動作を嚥下といい、食道を通って胃に運ばれます。食道と気管は隣り合わせで、気管の入り口である喉頭(こうとう)が大きく開いており、このままでは飲み物や食べ物が気管に入ってしまいます。それを防ぐために、フタの役目を持つ喉頭蓋(がい)という軟骨からなる部分が、嚥下の動作とともに気管の入り口をふさぎます。

健常者でも、本来は胃の中に運ばれなければならない飲み物などが誤って気管内に入る誤嚥を起こしますが、むせたり、せき込んだりして気管から吐き出そうとします。たとえ誤嚥により口の中の細菌が唾液などの分泌物とともに気管や気管支、肺に入り込んだとしても、体力や抵抗力、免疫力により細菌を駆除できるので、生活していく上でさほど影響はありません。

高齢や脳の病気などの影響で嚥下機能の低下がある人は、飲み物や食べ物をうまく飲み込めず、喉頭蓋の動きが低下し、さらに誤嚥した際のむせたり、せき込んだりといった動作も鈍くなり、気管への誤嚥を招きやすくなります。誤嚥によって口の中の細菌が気管や気管支、肺に入り込んだ場合、体力や抵抗力、免疫の低下などにより細菌を駆除することができす、誤嚥性肺炎にかかる危険度が増します。

超高齢化社会を迎えて、肺炎の重要性が増しています。抗生物質(抗菌剤)の発達にもかかわらず、肺炎は全死亡原因の第4位、高齢者に限ってみると第1位です。高齢者の肺炎のほとんどは、この誤嚥性肺炎に相当し、再発を繰り返す特徴があります。

再発を繰り返すと、耐性菌が発生して抗生物質による治療に抵抗性を持つため、優れた抗生物質が開発された現在でも、体力や抵抗力、免疫力が全般的に落ちている高齢者が多く死亡する原因になっています。

誤嚥性肺炎の原因となる誤嚥は、胃液などの消化液が食べ物とともに食道を逆流して肺に流れ込むような明らかで大量の誤嚥よりも、不顕性誤嚥といって、口の中の分泌物や胃液が少量ずつ肺内へ吸引される誤嚥のほうが原因として重要です。この不顕性誤嚥に合わせて、口の中の細菌が気管や気管支に吸引され、誤嚥性肺炎が引き起こされます。

不顕性誤嚥は、特別な現象ではありません。元気な高齢者であっても、夜間は嚥下機能が低下するため、容易に誤嚥してしまいます。加齢とともに、のど仏の位置は下がり、嚥下の時に喉頭蓋が気管の入り口をふさぐのに時間がかかるようになるからです。特に、鎮静薬、向精神薬などの薬を服用している場合は、嚥下反射が抑えられ、不顕性誤嚥を起こしやすくなります。

肺炎は一般に、発熱、せき、痰(たん)、呼吸困難、胸痛などを主な症状としますが、これらの訴えが高齢者の場合ははっきりしません。また、肺炎は一般的に38℃以上の高熱を起こしますが、高齢者の場合は体温の上昇をみないか、あっても微熱程度のものが少なくありません。それに対して、呼吸数は増え、皮膚や舌の乾燥、すなわち脱水状態になることが多いといわれています。

誤嚥性肺炎の検査と診断と治療

内科、呼吸器内科、呼吸器科の医師による診断は、胸のX線(レントゲン)検査で行われます。誤嚥性肺炎では低酸素血症に陥っていることが多くあるため、パルスオキシメーターという医療機器によりSpO2(動脈血酸素飽和度)をモニターすることが、診断の参考となります。

原因となった細菌の特定のため、喀痰(かくたん)の培養検査を行います。気管支鏡で気管内採痰ができれば診断がより確実になりますが、発症者の状態があまりよくないことが多いので、細菌の特定は難しいこともしばしばあります。誤嚥性肺炎を引き起こす主な原因となるのは、肺炎球菌です。

内科、呼吸器内科、呼吸器科の医師による治療では、原因となった細菌を殺菌するペニシリン系、セフェム系などの抗生物質を投与します。胃液を肺の中に吸い込んで肺炎になった場合、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)を短期に用いて肺炎を鎮める場合もあります。

さらに、低酸素血症に陥って呼吸不全(酸素欠乏)になった場合は、酸素吸入を行います。重症の呼吸不全では、人工呼吸器などによる治療も併せて行います。

誤嚥性肺炎の多くは抗生物質の投与で治るものの、肺炎の原因である不顕性誤嚥が減らなければ、いったん改善した肺炎が悪化します。そこで、誤嚥を減らす予防策が重要となります。

何より大事なのは口の中を清潔に保ち、口の中でたくさんの細菌を増殖させないようにすることです。歯磨きを毎日して口の中の細菌を減らしたり、たとえ歯がなくともブラッシングをしたり、就寝前にポピヨンヨードでうがいすることも有効な方法です。

寝たきりの高齢者の場合は、仰向けに寝かして放置していると誤嚥が悪化するので、頭部や上半身をベッドで高くしたり、口腔(こうくう)ケアなどを行うと有効です。栄養状態の低下、筋力の低下、意識レベルの低下が誤嚥を増やすため、日ごろよりこれらに対処しておきます。

また、医師による治療で、嚥下機能を改善するアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、抗血小板薬(シロスタゾール)を投与することもあります。アンジオテンシン変換酵素阻害薬は高血圧の薬ですが、嚥下反射物質の濃度を上昇させて肺炎を予防します。抗血小板薬も脳梗塞(こうそく)の予防薬ですが、嚥下反射を高めて肺炎を予防します。

唐辛子(とうがらし)に含まれるカプサイシンにも、同様の作用が認められています。カプサイシンの入った辛い物を食べて、嚥下反射あるいはせき反射を高めておくことは、誤嚥予防、肺炎予防に役立ちます。

🇨🇦コーツ病

網膜の血管の異常により血液から脂肪物質や水分が漏れ、網膜内や網膜下にたまる疾患

コーツ病とは、眼球内の網膜の血管に異常が起きて、血液中の脂肪物質や水分が漏れ、網膜の中や網膜下にたまる疾患。滲出(しんしゅつ)性網膜炎とも呼ばれます。

原因は不明ですが、遺伝性要因はないとされ、全身の合併症はみられません。

2歳以降の小児や10歳以下の就学児に発症することが多く、主に男子の片目だけに発症することが多いのも特徴です。ただし、女子の発症や、両眼性の発症、両眼性の発症、成人になってからの発症がみられることもあります。

網膜の毛細血管が何らかの理由で拡張や蛇行をして、細い動静脈の拡張、毛細血管瘤(りゅう)の形成、血管の閉塞(へいそく)、出血、網膜のはれ、黄白色の滲出斑(はん)がみられます。脂肪物質や水分からなる黄白色の滲出物が網膜下にたまると、網膜裂孔を伴わない滲出性網膜剥離(はくり)になります。

このような変化は通常、片目の眼底の周辺部から始まり、網膜の中心の黄斑部へとゆっくりと進行し、視力が低下したりや視野が狭くなります。変化が黄斑部に及ぶと、視力は極端に低下します。

さらに重症になると、滲出性網膜剥離が網膜全体に広がります。最終的に、網膜剥離が長引く、あるいは緑内障、硝子体(しょうしたい)出血、白内障を起こすなどの慢性の変化によって光覚を失うだけでなく、眼球が委縮することもあります。

片目が正常なことが多いために、小さな子供では視力の低下に気が付かずに、発見が遅れることがあります。片目の視力低下が長引くと斜視を起こすので、斜視によって疾患に気付くこともあります。

また、網膜剥離のために白色瞳孔(どうこう)となり、瞳孔の中にある白い部分が外から見ても光っていてわかることで、疾患に気付くこともあります。この白色瞳孔は、同じく子供の目の疾患である網膜芽細胞腫(しゅ)でも現れるので、区別をする必要があります。

進行したコーツ病のケースは治療が難しく、視力の低下が長期間続くと回復は困難。早めに疾患を見付けることが大切です。

コーツ病の検査と診断と治療

眼科、あるいは小児眼科の医師による診断では、眼底検査や蛍光眼底検査を行い、眼底の特徴ある黄白色の滲出性変化と網膜血管の異常によって確定します。網膜剥離のために白色瞳孔がある場合には、CT(コンピュータ断層撮影)、超音波診断、MRI(磁気共鳴映像法)などを行い、網膜芽細胞腫と鑑別します。

眼科、あるいは小児眼科の医師による治療では、初期で滲出斑や網膜剥離が軽症であれば、レーザー光凝固や冷凍凝固などで異常な血管を凝固して滲出性変化を抑制できる場合があります。あまりに進行してしまうと、レーザー凝固や冷凍凝固は効果がありません。滲出性網膜剥離を起こしている場合は、硝子体手術を行うことがあります。

治療で疾患が落ち着いても、成長とともに再発することがあるため、定期的に眼科などを受診する必要があります。

🇺🇸コーデン病

消化管に大量のポリープができるとともに、皮膚病変が伴う遺伝性の疾患

コーデン病とは、消化管に過誤腫(かごしゅ)性ポリポーシスという過剰に発育した良性腫瘍(しゅよう)が多数できるとともに、皮膚の病変が伴う遺伝性の疾患。コーデン症候群、カウデン病、カウデン症候群、多発性過誤腫症候群とも呼ばれます。

2分の1の確率で親から子に常染色体優性遺伝し、PTEN遺伝子と呼ばれている10番染色体にある遺伝子の異常が原因で起こります。しかし、遺伝性が認められずに起こることもあります。

消化管のポリープは、食道から大腸までのすべての消化管に、大きさ数ミリまでのものが多数できます。皮膚の病変には通常、顔面や首の多発性丘疹(きゅうしん)、四肢末端の角化性小丘疹、口腔(こうくう)粘膜の乳頭腫があり、20歳代後半までに出現します。

消化管のポリープ自体が問題になることはあまりないものの、ほかの臓器の乳房、甲状腺(せん)、子宮内膜、腎臓(じんぞう)、前立腺、肺などに良性腫瘍ないし悪性腫瘍を合併します。とりわけ、乳房、甲状腺、子宮内膜には、悪性腫瘍を高率で合併します。

そのほか、小脳にレルミット・デュクロス病(小脳異形成神経節細胞腫)と呼ばれる腫瘍を合併したり、巨頭症、精神発達遅滞を合併することもあります。

コーデン病の検査と診断と治療

消化器科、消化器外科などの医師による診断では、皮膚の病変に、消化管のポリープを伴えば、ほぼ確定します。遺伝子検査を行うこともあります。

消化器科、消化器外科などの医師による治療では、確立した治療法がないため、対症療法を行います。その後は、全身の臓器にわたってがんが高率に合併することを予測して、乳がんの検診や甲状腺の超音波検査など定期的な検査を行っていきます。

🇺🇸コーレス骨折

転んで手首近くの手のひらを強く突いた際に起こり、手首から先が手の甲の方向にずれる骨折

コーレス骨折とは、転んで手首近くの手のひらを強く突いた際に起こり、手首から先が手の甲の方向にずれる骨折。橈骨遠位端(とうこつえんいたん)伸展型骨折とも呼ばれ、橈骨遠位端骨折の定型的骨折の一つです。

前腕にある橈骨と尺骨(しゃくこつ)の2本の骨のうち、親指側にある骨が橈骨に相当し、この橈骨の手首近くでの骨折を総称して橈骨遠位端骨折といいます。

橈骨遠位端骨折は頻度の高い外傷で、若年者ではスポーツや交通事故、転落事故などでの強い外力が加わる外傷が原因であることが多い一方、高齢者では屋内での転倒などでの軽微な外力が加わる外傷が原因となります。特に、骨粗鬆(こつそしょうしょう)症のある人では多発します。

手首の突き方、骨折線の入り方によって、さまざまな骨折のタイプがあります。子供では、橈骨の手首側の成長軟骨板の部位で骨折が起きます。

橈骨遠位端骨折を起こすと、手首周囲の強い痛み、はれが生じ、手に力が入らない、手が動かしにくい、手首から先がグラグラするといった症状が出ることもあります。骨折した骨が傷口から見えたり、手指の色が変わって冷たくなることもあります。

骨折部のずれ(転位)がある場合には、変形も伴います。手首から先が手の甲の方向にずれるものは、古くからコーレス骨折(橈骨遠位端伸展型骨折)といわれています。一方、手首から先が手のひらの方向にずれるものは、スミス骨折(逆コーレス骨折、橈骨遠位端屈曲型骨折)といわれています。

コーレス骨折では、橈骨の手首側の骨片が手首の関節を含んで手の甲の方向にずれ、食器のフォークを伏せて置いたように変形するタイプが多くみられます。骨折後は手首周囲に痛みを感じ、次第に前腕から手にかけてはれが出ます。手に力が入らず脱力し、もう片方の手による支えが必要になります。

このコーレス骨折は、事故やつまずきなどで手のひらを強く突いて転んだ際に、手首の関節に体重がかかり、無理な背屈を強制されて生じます。多くは橈骨の手首側に走る斜骨折を起こしますが、高齢者ではY字型骨折や粉砕骨折を起こすことが多いとされています。

骨折部のずれ(転移)が大きいと、橈骨と一緒に前腕を構成している尺骨との関節を支えている靭帯(じんたい)が断裂し、高齢者では尺骨が脱臼(だっきゅう)を起こすこともあります。また、尺骨の先端やその手前の部分が、同時に骨折する場合もあります。

まれですが、橈骨の手のひら側を走っている正中(せいちゅう)神経が、折れた骨やはれで圧迫されたり、損傷したりすると、親指から薬指の感覚が障害され、手のひらの感覚がおかしい、しびれるといった症状が出ることもあります。

一方、スミス骨折は、自転車やバイクのハンドルを握ったまま倒れて、手の甲を突いた時などに生じ、コーレス骨折とは反対の変形を起こします。

転倒して手首を突き、手首周囲の痛みを生じた際は、手指を動かすことができても骨折していることがあります。ただの打撲や捻挫(ねんざ)か骨折かが疑わしい時は、患部の固定と挙上、アイシング(冷却)を行いながら、速やかに整形外科などを受診することが勧められます。

コーレス骨折の検査と診断と治療

整形外科、形成外科、ないし手の外科の医師による診断では、まず視診ではれの程度や痛みの部位を調べ、X線(レントゲン)検査で骨折の有無を確認します。

また、骨の折れ方、骨折の程度、骨折部のずれ(転位)の程度により治療法が異なるので、折れた部分が単純で骨折線が1本だけか、いくつもの小さい骨片がある不安定な骨折か、手首側の骨片もいくつかに分かれて骨折線が手首の関節に及んでいるかなどを、X線検査で見極めます。

整形外科、形成外科、ないし手の外科の医師による治療では、骨折した骨が皮膚を突き破って見えている開放骨折の場合は、緊急手術を行います。

骨折部のずれが小さい場合は、手を指先の方向に引っ張って、ずれた骨片を元に戻す整復操作を行います。引っ張る力を緩めても骨片がずれず、安定した整復位が得られた時は、そのままギプスやギプスシーネで固定します。その後、通院で週に1~2回X線検査を行って骨折の状態を確認し、整復位を良好に保つことができれれば、そのまま4~6週間のギプスやギプスシーネでの固定を継続し、その後、リハビリで手首の関節運動を開始していきます。

途中で骨折部がずれてきた時、粉砕骨折や骨片が手首の関節内に入って最初から整復位を保持できない時は、手術治療を行います。

手術には、X線で透視しながら、鋼線を刺し入れて骨折部を固定する経皮鋼線刺入法や、手前の骨片と手首側の骨片に金属のスクリュー(ネジ)や鋼線などを刺し入れてそれに牽引(けんいん)装置を取り付ける創外固定法、骨折部を直接切開して骨片を整復した上で金属プレートとスクリューで固定する方法などがあります。

子供の骨折は、骨片の整復が不完全でも、自家矯正力が旺盛(おうせい)で骨同士がくっ付く骨癒合も早いため、通常手術を必要としません。

整復が十分に行われていない場合や、固定が十分でなく骨折部のずれが再発してしまった場合は、骨が変形したまま骨折部位の癒合が起こります。これを変形治癒といい、変形したままの癒合状態では、手首の関節を返す動きが抑制されるなどの機能障害を起こします。

2022/08/13

🇺🇸五月病

五月病(ごがつびょう)とは、新しく入った環境に適応できないことに起因する精神的な症状の総称で、主に大学の新入生や会社の新入社員などに見られます。4月には新しい環境への期待があり、やる気があるものの、1カ月後の5月ころ、何となく気がめいって勉強や仕事に身が入らない、集中できないなどの症状を起こします。

医学用語ではなく一般的な用語で、決まった概念や定義があるわけではありません。何も5月に限らず、また新入生や新入社員に限らず一般人にも見られる症状で、新しい環境の変化についていけず、知らず知らずのうちに自分の殻の中に閉じこもりがちになる心のスランプです。

元々は、1960年前後にアメリカで最初に注目された「スチューデント・アパシー(無気力)」から、五月病という用語は派生しました。スチューデント・アパシーとは、厳しい受験競争を勝ち抜き大学入学を果たした新入生が、その後目標を失って無気力状態、意欲喪失状態に陥ることを指したものでした。

五月病によく見られる症状は、抑うつ気分、無気力、不安感、焦りなどで、不眠、強い疲労感、やる気が出ないと訴える場合が多いようです。

スポーツを行う、音楽を聞く、読書をするなど、自分に合ったストレスの解消法を見付けたいものです。また、新たな目標や関心を見付けることも大切です。新しいものにチャレンジすることで、心身に刺激を与え、生活の活性化を図りましょう。

🇦🇱5qモノソミー

5番染色体の長腕の一部分が欠損していること、また、それが原因で引き起こされる障害

5q(ごきゅー)モノソミーとは、22対ある常染色体のうち、5番染色体の長腕(5q)の一部分が欠損していること、また、それが原因で引き起こされる障害。5q欠失症候群、5qー(まいなす)症候群とも呼ばれます。

常染色体は性染色体以外の染色体のことであり、人間の体細胞には22対、44本の常染色体があります。それぞれの常染色体はX型をしていて、短腕(p腕)と長腕(q腕)という部分があり、5番染色体の長腕の末端の一部分が欠損している状態が、5qモノソミーに相当します。

5qモノソミーでは、骨髄にある血液細胞の源に当たる造血幹細胞に異常が生じて造血障害を起こすため、赤血球が通常よりも大きくなる大球性貧血を特徴とする骨髄異形成症候群の一種を起こします。まれに急性骨髄性白血病に進行することもあります。

一般に男性に多く、大球性貧血を特徴とする骨髄異形成症候群の中では、5qモノソミーが引き起こす骨髄異形成症候群の一種は珍しく女性に多く、とりわけ中高年女性に多くみられます。

原因は、5番染色体の長腕の一部分が欠損しているために、リボソーム(リボゾーム)タンパク遺伝子を欠失し、細胞質内のタンパク質合成の場となる細胞小器官であるリボソーム合成の機能不全に陥ることにあります。

発症すると、倦怠(けんたい)感や、青白い顔色、息切れ、動悸(どうき)といった一般の貧血と同じ症状が出てきますが、輸血が不可欠になるほどの高度な貧血を示すことが多く認められます。

5qモノソミーの検査と診断と治療

内科の医師による診断では、血液検査により、芽球といわれる未熟細胞の増加を認めず、白血球に形態異常を認め、中でも小型で単核の巨核球の増加により5qモノソミーを疑い、染色体検査により、5番染色体の長腕欠損を検出することにより確定します。

内科の医師による治療は、高度な貧血を示すことが多いため、輸血を中心に行います。輸血で貧血症状の緩和は容易ですが、継続的に輸血が必要となり輸血依存性のさまざまな問題が生じることがあります。

近年、新規に開発されたレナリドミド(レナリドマイド)という薬の服用が極めて有効であることが確認され、貧血が改善し輸血が不要になるという高い有効率を示しています。

しかし、レナリドミドは睡眠鎮静剤のサリドマイドの改良薬で、妊婦が服用することによって胎児に奇形を生じたサリドマイドの催奇形性を軽減したもので、妊婦は絶対に服用できません。

🇦🇱黒尿症

新生児の尿中にホモゲンチジン酸が排出され、放置すると黒変する疾患

黒尿(こくにょう)症とは、生まれ立ての新生児の汗や尿中にホモゲンチジン酸(アルカプトン)が排出され、放置すると酸素と反応して黒変する疾患。アルカプトン尿症とも呼ばれ、先天性代謝異常症の一つです。

ホモゲンチジン酸酸化酵素(ホモゲンチジン酸ジオキシゲナーゼ)の欠損によるまれな疾患で、常染色体劣性遺伝の形をとります。発症頻度は、新生児300万人~500万人に1人。

ホモゲンチジン酸酸化酵素は、必須(ひっす)アミノ酸の一つであるフェニルアラニンや、非必須アミノ酸の一つであるチロシンの中間代謝物であるホモゲンチジン酸を分解して、アセト酢酸やフマル酸を生じます。この肝臓や腎(じん)臓などの臓器にある触媒酵素が欠損すると、ホモゲンチジン酸の重合体がそのまま汗や尿中に排出されます。

放置すると自然酸化によって汗や尿が黒色を示すのが特徴で、新生児のおむつが黒色に変化していることで、黒尿症に気付くこともあります。

また、ホモゲンチジン酸の重合体が長期にわたって、軟骨組織やその他の結合組織に沈着することで、成人以降に組織黒変症や関節症を起こします。

組織黒変症はオクロノーシスとも呼ばれ、30歳以降に現れ始めて、30歳代後半から40歳代に多くみられます。ホモゲンチジン酸の重合体が結合組織に沈着した場合に現れ、初めは目や耳に灰色がかった青い色素の沈着が認められ、年齢が進むと全身の軟骨組織、線維組織に黒色の色素の沈着が及びます。

関節症は、20歳代から現れます。ホモゲンチジン酸の重合体が関節軟骨組織の構成成分である膠原(こうげん)線維に黒く沈着すると、軟骨は正常の弾力を失い、もろい細片となって、関節の退行変性が進行します。関節の滑膜に、この色素を含む軟骨片が沈着して腫瘤(しゅりゅう)を作ることもあります。

30歳代には、脊椎(せきつい)関節の運動制限、時に痛みが現れます。次いで、膝(ひざ)、肩、股関節(こかんせつ)など全身の大きな関節が侵されます。重篤で病期が長い場合には、脊椎が強直化して、寝たきりの生活を余儀なくされる場合もあります。

その他の症状として、大動脈弁や僧帽弁の石灰化や閉鎖不全、大動脈拡張、腎臓結石、前立腺(ぜんりつせん)結石が生じることもあります。

黒尿症の検査と診断と治療

小児科の医師による診断では、尿検査を行い、尿中のホモゲンチジン酸(アルカプトン)が高値であることから確定します。発症者のホモゲンチジン酸の1日排出量は、通常1~8グラムとなります。

整形外科の医師による成人以降に起こる組織黒変症や関節症の診断では、X線(レントゲン)検査を行い、関節軟骨の黒色化、脊椎や腰椎、膝関節などの石灰化が認められれば確定できます。肝臓や腎臓の一部を切り取って、顕微鏡で組織検査をする生検を行い、ホモゲンチジン酸酸化酵素の欠損を証明することもあります。

循環器科、外科、泌尿器科などの医師による心臓の合併症、泌尿器の合併症の診断では、X線(レントゲン)検査、心エコー検査、超音波検査、CT検査、MRI検査などを行い、大動脈弁や僧帽弁の石灰化や閉鎖不全、大動脈拡張、腎臓結石、前立腺結石が認められば確定できます。

小児科の医師による治療は、残念ながら有効な治療法が見付かっていないため、色素の沈着を抑えると考えられているビタミンCを投与します。フェニルアラニン制限食、低チロシン食を摂取する治療法もありますが、長期間厳格に実施することはむしろ危険とされます。

整形外科の医師による治療では、黒尿症の若年患者に対して関節症の重症化を避けるため、脊椎や大きな関節に負担となる重労働や衝撃の大きいスポーツなどを回避することを勧めます。関節症による運動制限に対して、外科的な切除術、人工関節置換術を行うこともあります。

循環器科、外科、泌尿器科などの医師による治療では、外科的処置が行われることもあります。

常染色体劣性遺伝の形をとる黒尿症の唯一の予防策は、血族結婚を避けることです。

🟥「H3」型インフルエンザの新たな変異ウイルス、国内でも確認

 海外で拡大している「H3」型インフルエンザの新たな変異ウイルスが国内でも確認されたことが、国立健康危機管理研究機構の解析でわかった。専門家は「免疫を持っている人が少なく、感染が広がりやすい可能性がある」として注意を呼び掛けている。  季節性インフルエンザとして流行する「H3」...